プロローグ
どこか、どこかに、メルヘンホラーをコンセプトとした奇妙なお化け屋敷があると言う。
フェスタ・ラ・ジェンマを記念し、特別に無料での入館が可能だと、その扉には書いてあった。
貴方が扉を潜れば、そこには山羊の人形が所狭しと並べられている受付が。
男か女かもわからない受付が言う。ここは、狼と七匹のこやぎの世界。
今から貴方は狼となって子ヤギを捕まえるのだと。
けれど、そこには一つ注意がある。
子ヤギは父を殺された。狼に食い殺された。
狼はとてもとても、恨まれているのだ。
「家の各所に身を顰めた子ヤギに殺されないよう、くれぐれもご注意を」
にやりと、口元だけを覗かせた受付が笑う。
怪しい雰囲気と不穏な語り口にぞくりとしつつも、貴方達はたまたま行動を共にしていた仲間と別々のフロアに分かれ楽しむことにした。
受付を過ぎた先に現れた部屋。背景はまるで子供の落書きのようで、家具ばかりがリアルなアンバランス。
それを一頻り眺めた後、貴方達は受付で貰ったパンフレットを確認する。
開けば、先程受付が語った恨みを持った子ヤギの物語と、子供の落書きのような武器の絵が七つ。
それから、同じく落書きのような大雑把な見取り図と、その上に描かれた七つの星印。
なぞかけのような不思議な台詞群を経て、最後のページには、『隠れた子ヤギを返り討ち』と書かれている。
なるほど、武器を持って隠れた子ヤギを返り討ちにするのが目的か。なかなかえげつない。
まずはどこから。思案する貴方の元へ、A.R.O.A.から突然の連絡が入った。
『ストラノお化け屋敷から通報が入って、近辺にデミ・コボルトが出たそうなんだ!』
なんだと。
『君達がたまたまそこにいるらしいと聞いたんだが、すぐに向かえるか?』
勿論だ、お化け屋敷を楽しむのは後にしよう。そう思って踵を返したが、施錠されたドアは開かない。
『なに? 出られない? ちょっと待て確認する……残念なお知らせだ。君たちのいる場所がマントゥール教団に制圧されている』
なんだと。
『入口は封鎖されてしまったようだな……武器もないのだろう。参ったな……せめてそこから脱出できれば……』
唸る職員だが、電話の向こうで何やら会話した後、再び貴方達に告げる。
『幸い、まだ出口の方は無事なようだ。脱出だけならそちらからでも可能だろう。後、そこの子ヤギが持っている武器は木製だが、無いよりはマシだろう』
丸腰で行くよりはいい、自分の得意な武器を探して持って行け。そこまでを聞いた所で、突然、ノイズが走った。
周囲に電波を妨害する物……濃い瘴気が、満ちたようだ。
トランスはしておいた方が良いだろう。判断した貴方達は、早々にパンフレットを確認する。
出口の位置。そして、自分たちが必要とする武器の、在処を。
絵物語は暖かな夢の中
二振りは静かに時を刻む
魔法使いは炎がお好き
おもちゃたちの『飛んでけ』合唱
花柄クロスを大きく両断
戸棚の奥に飛び切りの一振り
お鍋の下に忍ぶまんまる
絵を見る限り、武器は全部で七種類。
片手剣、両手剣、双剣、片手本、両手杖、手裏剣、弓。
そして星印のある場所は、壁際の大時計、ベッド、暖炉、炊事場、中央のテーブル、おもちゃ箱、クローゼット。
ジョブの適正に合った物を選べれば、木製とはいえこの場を突破するくらいの能力は発揮できるだろう。
「……そう言えば敵の数とか聞いてなかったな」
警戒は、するに越したことはないだろう。
解説
●目的について
マントゥール教団に制圧されたお化け屋敷を取り戻そう
●敵について
デミ・コボルトが、苦戦しない程度にわらわらしてます
一組辺り平均3体くらいと思っててください
物足りないと言う方はダイス転がして出た数字を乗算しても良いですよ
(例→ダイスが5なら3×5で15体)
●武器確保について
後で自分の武器を確保しに行くので、神人の分はお好みでどうぞ
急ぎたかったらあえてゲットしないのも手です
武器を持った子ヤギの人形が襲い掛かってきますので、グーパンして武器を落とさせて下さい
人形はふかふかのもふもふでお腹の当たりを押すとぷきゅーと鳴るので怪我の心配はありません
●場所について
5階建てのビル。ワンフロアが丸ごと子ヤギの小屋
一般的なビル内の内装を想定してください。広いのは子ヤギの小屋のみで、
廊下などは戦闘に支障がない程度の幅です
●リザルトについて
武器確保→突破→合流の流れですが、個人活動メインの想定なので、
合流後に関しては『無事に合流して制圧した』という一文で終わる可能性もあります
謎解き要素がありますので、謎解きに失敗したら敵が一体増える程度のペナルティがあります
が、謎解きと戦闘どちらに比重が置かれるかはプラン次第です
合流後の戦闘をメインにすることも可能です
予めどのポイントに重点を置くか、参加者の皆さんとご相談ください
また、上記からお察しいただけるように、制圧に関しては細かい計画がなくても力押しで何とかなります
状況が状況なので設備等が壊れても問題ありませんが、気を付けると喜ばれます
●その他
魔法武器系は拘りの再現率というご都合主義で魔法が打てる仕様になっています
ついでに物理攻撃もプラス補正がかかります
ゲームマスターより
《strano》シリーズ第三弾ですが、こちらはあまりホラー感ないと思います
精々がぷきゅーと鳴った人形がじたばた暴れて色々もげるとか破裂するとかその程度です
謎解きに関しては七種類と七カ所出ているので、判りにくい所は消去法で判断できると思います
回答に関しては会議室内での相談も可ですので、あれこれ考えてみてください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
アイオライト・セプテンバー(白露)
走れ走れー 走ってる間にも子ヤギさんが来るなら、パパに先に行ってもらって、あたしが対処するよ 子ヤギさんの数を数えておいたほうが、無駄に警戒しなくていいかなぁ? パパの使える弓は多分おもちゃ箱にあると思うんだけど、箱が1つとは限らないかも だったら、パパと手分けして探そうっと 出口に向かうときも、子ヤギはあたしが相手するね グーパンじゃ高さがちょっと頼りないから、えいっ(頭突き あたし、武器より子ヤギさん持って帰りたいなー せめてこれだけでも(脱がし脱がし 白露「アイ、ぬいぐるみのぱんつを追い剥ぎするのはやめなさい」 これ、防具にするの(笑顔 パパが戻るんなら、あたしも戻るっ 子ヤギさんにどんっしたこと謝んなきゃだし |
柳 大樹(クラウディオ)
トランス。 俺は片手剣使う。 簡単なのから解いてくと。 『二振りは静かに時を刻む』が二振りで双剣。時を刻むのは『壁際の大時計』 『魔法使いは炎がお好き』は魔法使いで両手杖。炎は『暖炉』 『絵物語は暖かな夢の中』は片手本かな。夢の中だから『ベッド』 それで後は。 「ありがと。助かる」 クロちゃん、どうかした? 『花柄クロスを大きく両断』は大きく両断で両手剣かな。『中央のテーブル』 『戸棚の奥に飛び切りの一振り』が、残った刃物で片手剣。戸棚は『クローゼット』 んで、弓は丸くないから。 そうなるかな。 「いいけど」 凝ってるなあ。(倒した子ヤギを見て 敵の数わかんないし、まずは他と合流かな。 物壊さないように引き付けて攻撃するか。 |
スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
藍子ちゃん(彼女)と来てたら死んでたかもねー!あはははは! こんな状況でもミストとなら平気だよ! 敵が居ないか気配を探りつつ進むよ 怖いのは平気 子ヤギを敵と勘違いして手が出そう 一振りは片手剣で戸棚はクローゼットかな ってことで子ヤギをそぉい!! 剣はミストに渡すね 鍋の蓋とか盾代わりにならないかな(炊事場漁り …ッ! 守ってくれたの?ありがとう~! 外へ出る前に敵が待伏せしてないか確認しよう 戦闘では後ろからミストの援護をするね 声かけと射撃で彼の死角や隙を補うよ 俺やっぱり弓が好きだな (俺のために頑張る彼の背中を見られるから) …そうだね! せっかくいい気分だったのに せっかくいい気分だったのに せっかくいい気分だったのに |
永倉 玲央(クロウ・銀月)
わわっ、何か大変な事に! でも、僕ホラー系はちょっと苦手だから任務でならあまり怖くないかも・・・。 希望武器・両手剣(精霊)、両手杖(神人) <行動> ・まずは精霊の武器を探しに行く ・花柄クロスを大きく両断→中央のテーブルに移動 ・続いて神人の武器、急ぎめで 「えっと、魔法が使えたらかっこいいかなーって・・・」 ・魔法使いは炎がお好き→暖炉に移動 ・人形にいちいちビビる ・暖炉での子ヤギの対処はレオがグーパンで武器を落とす 「ええい、ごめんね!」 ・武器確保後、デミ・コボルトと戦闘になった場合、両手杖を使用して魔法攻撃で後方援護 「す、すごい。ホントに使えた!」(キラキラ) ・急いでその場から脱出する ※アドリブOK! |
●隠れん坊の七匹
絵物語は暖かな夢の中。お母さんが読んでくれるご本は、おやすみなさいの鎮魂歌。
二振りは静かに時を刻む。短い刃と短い刃。行ったり来たりでばーらばら。
魔法使いは炎がお好き。火加減知らずは焦がすのがお得意。
おもちゃたちの『飛んでけ』合唱。弓矢の的は元気なものが楽しい。
花柄クロスを大きく両断。ぶつ切り得意な大きな刃。食卓は今日もなまのまま。
戸棚の奥に飛び切りの一振り。鋭くても、こわくないよ。痛くなんてしないから。
お鍋の下に忍ぶまんまる。飛び出てくるり、一回り。無色は赤に染まって戻る。
さぁさ、ようこそ。
歓迎しよう。おいでませ。
●恨み、つらみ、返り討ち
淡々とトランスを済ませ、柳 大樹はさてと呟いた。
「俺は片手剣使う。クロちゃんは、手裏剣だよね」
開いたパンフレットの武器を確かめて、大樹はなぞかけの文章に視線を移した。
「簡単なのから解いてくと……」
『二振りは静かに時を刻む』が二振りで双剣。時を刻むのは壁際の大時計。
『魔法使いは炎がお好き』は魔法使いで両手杖。炎は暖炉。
「『絵物語は暖かな夢の中』は片手本かな。夢の中だからベッド。それで後は」
「残りは、武器が両手剣、片手剣、弓、手裏剣。場所は中央のテーブル、クローゼット、炊事場、おもちゃ箱だ」
「ありがと。助かる」
聞こえた助言に、パンフレットに視線を落としたまま返事をした大樹は、思案に戻る前にふと顔を上げた。
そこには、意外そうな顔をしたクラウディオの姿があった。
「クロちゃん、どうかした?」
「……いや」
何でもない。そんな言葉に、そう、とだけ呟いて再び視線を落とす大樹を、クラウディオは不思議な心地で見ていた。
(まともに礼を言われたのは初めてで、一瞬理解出来なかった……)
どうにも、クラウディオの行動は大樹にとって余計なお世話に当たるものが多いらしく。
皮肉や不満じみた台詞ばかりを聞いてきた覚えがある。
特にそれが不快だったわけではないが、ただ、意外だった。理解に及べないほどに。
「えっと、『花柄クロスを大きく両断』は大きく両断で両手剣かな。テーブルっと」
パンフレットの地図を指先でなぞりながら、大樹は続ける。
「それで『戸棚の奥に飛び切りの一振り』が、残った刃物で片手剣。戸棚はクローゼットか。んで、弓は丸くないから……」
「弓が『おもちゃたちの『飛んでけ』合唱』でおもちゃ箱となり。最終的に手裏剣が炊事場か」
「そうなるかな」
あってると思うけど、と肩を竦めた大樹に頷き、クラウディオは手裏剣からの入手を希望する。勿論、護衛する身としての武装のためだ。
「子ヤギの対処は私が行う」
「いいけど」
徹底してるなあ、と再び肩を竦めて数歩下がった大樹の代わりに炊事場の鍋に近づくクラウディオ。
不意打ちを警戒していた彼が、がばっと飛び出て来た子ヤギに驚く事もなく、素早くボディブローを決めて武器を確保した。
拾い上げた手裏剣の代わりに、足元の子ヤギはくるくる回り、まるで綿あめ精製の逆再生のように、ぱらぱらと崩れていった。
「凝ってるなあ……」
しみじみと呟いた大樹をよそに、クラウディオはさくさくとクローゼットに歩み寄り、躊躇なく扉を開ける。
鋭い(一般人比)一閃が繰り出されるが、手裏剣を手にしたクラウディオには受け止めるのも造作ない程度。
殴って仕留めると、拾い上げた武器を大樹に手渡した。
「出口を出た際の奇襲に対処する為、私が先行する」
「はいはい」
クローゼットから落ちた子ヤギの、殴った場所が綺麗に開いているのをちらとだけ見て、後に続く大樹。
そろりと覗いた廊下には、目に見える限りは三匹のデミ・コボルト。
「敵の数わかんないし、まずは他と合流かな」
そのためにはこの廊下を突破しよう。素早く駆けたクラウディオは敵が気付くより早く接敵すると、そのまま斬り捨てる。
お返しとばかりに振り上げられる武器をいなし、追って駆け付けた大樹が周囲の物品に注意しながらも斬りつけた。
あちらにとっては奇襲となった攻撃で、あっさりと仕留めた二人は、警戒を緩めないまま、仲間と合流すべく、階段へと向かうのであった。
◆
「ああもうめんどくせぇ……ただでさえ出かけるのもダルいのに、さらに厄介事かよ……」
開いたパンフレットを握り潰す勢いで、クロウ・銀月は露骨に不満を呟いた。
永倉 玲央の方は、大変な事になったと動揺していたが、少し苦手意識のあったお化け屋敷が任務の場所となったなら、少しその怖さも薄れる気がした。
「マジふざけんなよな……えっとマングース教団だっけ?」
「マントゥール教団です! さらに悪化してんじゃねえか!」
マングースを崇めている教団だったらどんなに平和なことかとは、思わないでもない。
そんな事はどうでもいいとばかりに、面倒プラス禁煙のダブルパンチで苛々が加速しているクロウは、積極的に探索を開始した。
落書き背景の小屋の中は異様に静かで、玲央は恐る恐る見渡した。
「えっと、まずはクロウさんの武器からですね……多分この、『花柄クロスを大きく両断』ってやつが、両手剣ですよね」
「花柄のクロスは……中央のテーブルか。よし」
ずんずんと向かっていくクロウがテーブルクロスをめくろうと手を伸ばした瞬間。
「めぇー!」
可愛い鳴き声と共に、大きな子ヤギのぬいぐるみが飛び出してくる。
その手に木で出来た両手剣が握られているのを確認するや、クロウは鋭く踏み込んで、ボディに一発、抉るような右ストレートを決めた。
「ぎゃふっ」
可愛くない声と共に、子ヤギは綿を撒き散らかしてフロアに伏す。
「よし、終了!」
(ひでぇ! 容赦ねぇ!)
子ヤギだったものの残骸には見向きもせず武器を拾ったクロウに、唖然とした顔をしていた玲央だったが、お前はどうする、と振られて、はっとしたようにパンフレットを見た。
「えっと、魔法が使えたらかっこいいかなーって……」
ちらっと見やるのは暖炉。恐らくは両手杖を持った子ヤギが隠れているはずだ。
「暖炉だな」
「ぼ、僕がやりますから!」
グーパンするのは変わりないが、容赦なさすぎの無体も酷い。面倒臭いことをさっさと終わらせたいクロウを押しのけて、玲央はそっと暖炉に近づく。
覗き込んだ暖炉の奥で、ちかっ、と何かが光るや、煤をつけた子ヤギが飛び出してくる。
「ひっ……」
予期していたとはいえ突然の出現に肩を震わせた玲央だったが、その子ヤギが間違いなく杖を握り締めているのを見つけて、ぎゅっと拳を握った。
「ええい、ごめんね!」
力一杯パンチすれば、ぷぎゅ、と声を上げた子ヤギの四肢が順にもげて、ごろりと足元に転がる。
(え、えぐい……!)
ぬいぐるみとはいえ……! とぷるぷるした玲央だが、杖を拾い上げると、クロウと共にすぐさま出口へ向かった。
開いた扉の向こうには、デミ・コボルトがうろついている。
トランスの後、見つからない内に即座に間合いを詰めたクロウは、振り翳した武器に獣の爪を憑依させ、一刀の元に両断する。
「木製は軽いから楽だな♪」
威力はまぁ目を瞑ろう。デミ・コボルト相手だし。
仲間がやられてきぃきぃと喚き始めたコボルトに、玲央は両手で握った杖を掲げる。その先端が赤く光って、魔法弾が飛び出したのを見て、目を輝かせた。
「す、すごい。ホントに使えた!」
玲央が感激している内に、残りの敵も仕留めたクロウが促すように振り返る。
頷いて、二人は真っ直ぐに廊下を駆け抜けて行った。
◆
「走れ走れー」
広い部屋を、アイオライト・セプテンバーはぱたぱたと駆け回る。
(あぁ、早速……)
子ヤギが攻撃してくるとか、デミ・コボルトが居るとか、そんな心配よりもこの状況下でも元気に寄り道をしかねないアイオライトが心配な白露パパ。
そのアイオライトは、ぐるりと部屋を一回りしてから、出口の前でぴたりと止まり、入口に佇んでパンフレットを見る白露を振り返った。
「パパー、子ヤギさんは?」
「この部屋の中に隠れているようですね……武器を持って」
ふぅんそっかぁ、と呟いたアイオライトは、とことこと白露の元に戻ると、背伸びをしてパンフレットを覗き込む。
「パパの使える弓は……おもちゃ箱にあると思うんだけど」
「そうでしょうね。箱は……あちらですか」
壁際に雑多に置かれた玩具たちを見やり、白露は思案気に首を傾げる。
「見た所大きな箱が一つあるようですが……あれ、アイより大きいですね」
幾つも箱があったら、と思った点は杞憂で済んだようだが、あの中を探ると言うのはなかなか骨が折れそうだ。
そっと近寄り、蓋の閉じられた大きな箱に手をかけて、横倒しにしようとする。
途端、その蓋を弾き飛ばす勢いで白い塊が飛び出してきた。
「びっくり箱……いや、子ヤギ……!?」
突然現れた大きな子ヤギのぬいぐるみにぎょっとした白露だが、その子ヤギが弓を構えているのを見て、はっとしたようにアイオライトを振り返る。
「アイ、下がって……」
「とうっ!」
危ないと言うより早く、アイオライトが箱に手をかけ身を乗り出すようにして子ヤギに頭突きをかました。
「ぎゅふっ」
変な声を上げて、子ヤギはおもちゃ箱ごと引っくり返ると、構えていた弓を取り落す。
ぽかんとして見つめていた白露に、柔らかい感触を確かめるように己の頭を撫でていたアイオライトは笑顔で振り返る。
「手は届かなさそうだったから、頭で行っちゃった」
「……上手く当たったようで、何よりです」
怪我をしていないのを確かめるように見てから、白露は足元の弓を拾い上げる。
「アイは、何か……」
「あたし、武器より子ヤギさん持って帰りたいなー。せめてこれだけでも……」
「アイ、ぬいぐるみのぱんつを追い剥ぎするのはやめなさい」
「これ、防具にするの……」
笑顔でぬいぐるみのパンツに手をかけたアイオライトだったが、ぐいと引っ張った瞬間、腰から下と上が半分こになった。
「……」
「……」
「アイ、ぬいぐるみのぱんつを追い剥ぎするのはやめなさい」
「うん、そうだねパパ……」
仕切り直し。
そっと見なかったことにして、二人は出口へ向かう。ここから先はデミ・コボルトがうろついているという話だ。瘴気も蔓延しているらしい。
警戒するように武器を構える白露の頬に口付けて、トランス。
(スキルは、使わないでおきたいですね……)
この廊下を抜けて階段に辿りつければ、他のフロアの仲間と合流することも可能だろう。本格的な戦闘は、それからでも良い。
それよりは、アイオライトがどこへでも駆け出してしまわないよう、ちゃんと見ておかないとと白露は思案するのであった。
◆
職員からの残念なお知らせを受けても、スコット・アラガキは肩を竦めて笑うだけ。
「藍子ちゃんと来てたら死んでたかもねー! あはははは! こんな状況でもミストとなら平気だよ!」
彼女とのデートだったら万事休すだった。なんて笑いながら言う事ではない。
デミ出ちゃったし結果オーライか、と呟いたミステリア=ミストもすぐさまそんなこと言ってる場合ではない事に気が付いて顔をしかめる。
一先ずは、瘴気対策にトランスを。
それからスコットは敵が侵入していないか気配を探りながら、慎重に部屋を調べた。
パンフレットの謎かけと見取り図、部屋の状態を見て、ふむふむと呟きながら。
「一振りは片手剣で戸棚はクローゼットかな」
ミストの適正武器は片手剣だ。とくれば早速手に入れるべしと、スコットは軽快に扉を開け放つ。
突然飛び出てくる子ヤギに、でかい! と一声上げつつも。
「そぉい!」
落ち着いて的確にボディーを拳で打ち抜いた。
「うぉ、腹開いてる!? 頼むから加減しろよ……」
「元々こういう仕様みたいだよ? それより、はい、剣」
特にホラーに何も感じないスコットとホラーは普通にびびるタイプのミストの絶妙な温度差。
その温度差をさらに助長させているのが、よもや勢い余ってスコットが設備破壊しまいかという懸念。
(弁償になる方が段違いにホラーだよ!)
そんな事になっては懐に吹雪が到来する。
お陰様で、さくさく調査を進めるスコットに対し、ミストは恐る恐るといった調子である。
「たぶんおもちゃ箱にアレが…うおおッ」
おもちゃ箱の蓋に手をかけた瞬間に飛び出て来た子ヤギに思わず悲鳴を上げたミストは、大きな蓋を盾にしつつ、グーパンをかまして弓を手にした子ヤギを倒す。
床にからんと落ちた弓の傍で、子ヤギのぬいぐるみが真っ二つになっているのは見ない振りだ。
「急に出てくんなよびっくりするだろもー……!」
音を立てる心臓を抑えながら、手に入れた弓をスコットに渡そうと振り返れば、炊事場を漁っている姿が目に留まる。
「鍋の蓋とか盾代わりにならないかな」
きょろきょろと廻った視線が鍋に目を付けたところで、ん? とミストは首を傾げる。
確か謎かけの一つにあった。そう、お鍋の下に忍ぶまんまる。
「お鍋の下にってこたぁ……」
今、スコットのすぐそばに子ヤギが居る。
「危ない!」
括弧、子ヤギが。
「……ッ!」
鍋に手をかけた瞬間に手裏剣を手に飛び出してくる子ヤギ。そこへ、割り込むようにして身を躍らせたミストは、子ヤギを突き飛ばし、腹目掛けて剣の柄を突き立てた。
ぎゅふっ、と声を上げて四散する子ヤギもこれまた見なかったことにして振り返れば、迎撃態勢を整えるように身構えているスコットが。
瞳を二度ほど瞬かせたスコットは、ぱぁっと笑顔になる。
「守ってくれたの? ありがとう~!」
「はは……いいってことよ……」
子ヤギは壊れる仕様。を胸中で念仏のように繰り返しながら、ミストはスコットに弓を手渡す。
一応適正武器だがスキルは使えるのか。若干の不安を覚えつつも、出口前で敵の待ち伏せが無いかを確かめて。
そぅっと外へ出れば、なるほど、確かにデミ・コボルトの姿が。
試すように放った気合のオーラは敵を引きつけ、思い思いに武器を振り上げてくる。
躱し、いなし、スコットの放つ弓に怯んでいる隙に、足を狙って一閃をお見舞い。
もんどりうって転げた隙に、一気に階段まで駆けていった。
●めでたし、めでたし
無事に合流を果たしたウィンクルム達は、その勢いのままビルの制圧に向かう。
怖い思いをした八つ当たりか。はたまた折角の休日を邪魔された鬱憤晴らしか。
事情も理由も様々だっただろうが、いずれにせよ、制圧は呆気なく完了するのであった。
「みんな無事で何よりだね」
警察やA.R.O.A.の職員たちが救援に駆けつけ、主犯だろうマントゥール教団員をしょっ引いていくのを見届けながら、大樹は肩の力を抜く。
そうして、クラウディオが簡単な報告を済ませるのを待って、今度は普通に遊びに来たいな、なんて呟きながら帰路についた。
クロウもまた、これでもかというくらい盛大な溜息をついてから、早々に踵を返す。
憧れの魔法使いモードだった玲央は、名残惜しそうに杖を返却し、小走りにクロウの後を追う。
「皆さん、お疲れ様でした」
去り際に、ぺこり、会釈を残して。
礼を返して見送った白露は、ひと段落ついた事に小さく息を吐いてから、彼らとは別の方向――フロアの方へと向かう。
「弓を探すときおもちゃ箱を引っ繰り返してしまいましたから、ちゃんと元に戻さないと」
「パパが戻るんなら、あたしも戻るっ」
子ヤギさんにどんっしたこと謝んなきゃだし……というアイオライトの頭を、微笑みと共に撫でながら。
「俺やっぱり弓が好きだな」
(俺のために頑張る彼の背中を見られるから)
ミストに渡された木の弓を眩しいものを見るように見つめていたスコットの言葉に、やれやれと肩を竦めたミストも笑みを返す。
「後ろを守ってもらえると俺も助かるわ」
死角や隙を補ってくれる存在は、実戦においては頼もしい。
だから。
「追加精霊も同じように援護してやれよ。あいつも前衛だから勝手はそう変わらないだろ」
他意なんて、無かった。
「……そうだね!」
神人が朗らかに肯定するから、微妙な間に気付くこともなかった。
――せっかく、いいきぶんだったのに。
薄ら。影のような物が瞬く間にスコットの心の内を覆う。
あぁ、あぁ、台無しだ、台無しだ、台無しだ。
薄暗いものが溢れるのを、止められないし、止める気にもなれない。
せっかくいい気分だったのに。
せっかくいい気分だったのに。
せっかくいい気分だったのに。
だけれどその人が振り返る時には。
みにくいものは、ふたのなか。
ないしょないしょの、かくれんぼう――。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:スコット・アラガキ 呼び名:スコット、スットコ |
名前:ミステリア=ミスト 呼び名:ミスト |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 冒険 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 08月24日 |
出発日 | 08月31日 00:00 |
予定納品日 | 09月10日 |
参加者
- アイオライト・セプテンバー(白露)
- 柳 大樹(クラウディオ)
- スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
- 永倉 玲央(クロウ・銀月)
会議室
-
2015/08/31-00:05
-
2015/08/30-23:48
アイちゃん、ありがとう!
こっちはなんとかプラン提出です・・・。 -
2015/08/30-22:49
今回は、みんなウィンクルム毎の個人行動ってかんじかな?
何階に行けばいいかは、あたし、結局いい案が思い付かなかったからそのままにしちゃった。
プランに書いたのは、「何処を探すか」「子ヤギの対処をどうするか」「神人の武器はどうするか(なしにしちゃった」「急いで脱出」「あと少しおまけ」このあたりかなぁ? -
2015/08/30-22:07
やばい、ギリギリになりそう・・・。
う~ん、何階に行けばいいか。
どなたか現時点でのまとめをお願いできますか? -
2015/08/30-21:28
あたしもプラン提出したっ
もうちょっと直す予定だけど、一応白紙ではなくなったよってことで
何階かはいい案が思い付かなかったから、結局全然書いてないや -
2015/08/30-20:18
玲央、ひさしぶり~。賑やかになってきっと子ヤギたちも喜ぶね!
>何階がいいか
お店側の都合があるし、空いてるフロアへランダムに通されるシステムな気がするなー。
受付で階数を希望してみるのもいいけど
自分が何階に居るかを意識して脱出とかプランに書く方が効果あるかも?
プランは提出済みだよ。子ヤギもコボルトもレッツ返り討ち!
……そういえば母ヤギは出てくるのかな? -
2015/08/30-20:14
玲央くんとはお初だね。よろしくー。
とりあえずプランはできたんで提出済み。
まあ後で見直すけど。
階の指定は書く隙間なかったから、好みでどうぞ。
俺はどの階でもおっけー。 -
2015/08/30-17:34
わぁい、永倉さんだー
今回もよろしくー
遅れたけど、ミストさんもよろしくでっす
>1階から5階までの各フロアにまったく同じ構造のヤギ小屋があるってことじゃないかな。
あたしもそうかなーと思ってた
だとすると、自分が何階にいるかも決めていいのかな
何階がいいとか、全然思い付かないんだけど -
2015/08/30-02:18
途中からの参加すみません~!
アイちゃん、スコットさんはお久しぶり。
柳さん達は初めまして、永倉玲央とクロさんです。
僕らは両手剣だから、多分「花柄クロスを大きく両断」・・・中央のテーブルって事になるのかな? -
2015/08/29-21:15
●お化け屋敷のつくり
ビル一棟がまるごとお化け屋敷になっていて
1階から5階までの各フロアにまったく同じ構造のヤギ小屋があるってことじゃないかな。
だからウィンクルムは各階(=フロア)に一組ずつ散らばってる、で合ってると思うよ。
●デミ・コボルト
ふたりが言うなら神経質にならなくてもよさそうだね。
一応、辺りの気配を探るくらいはしてみようかな。
出口での待伏せにも気をつけるね!
●謎解き
プランの書き方は大樹とおんなじ。
ハピエピライクにどっきりを楽しみたいなら
不意打ちについてはあえて書かないのもありかな? -
2015/08/29-18:05
謎解きだからむしろ『どうしてその答えになったか』っていう考えかな?
とりあえず、何でそこにその武器があると思ったかを書くつもり。
子ヤギは隠れてるらしいから、ついでに不意打ちも警戒しとこうと思ってるけど。 -
2015/08/29-08:33
「個人活動メインの想定なので、」ってあるし、別のフロア…っぽいのかな?(自信ない)
謎解きメインだからデミ・コボルトについては考えすぎなくてもいいと思うけど…こっちも自信ない。
謎解きメインだったら、パパだったら例えば「どのおもちゃを調べるか」とかいうふうに、もう少し具体的にしたほうがいいのかなー? -
2015/08/28-21:08
(再投稿)
よく読んだら別の階なのかどうかわかんなくなってきた。
とりあえず、それぞれ別の子ヤギの部屋に居るのは確かだと思う。
うーん。
入口が施錠されてて、出口は無事。つまり通れるってことだよね。
瘴気が満ちたってことは近くにデミ・コボルトがいるんだろうし。
謎解きに時間かかってたら出口から乗り込んで来るのかな、って思ってた。
デミ・コボルトの一部が子ヤギの部屋に侵入してるかも知れないし。
してなくても出口から出た途端襲ってくるかも。なのかなあ。 -
2015/08/28-19:51
フロアについては俺も読み飛ばしというか読み違いしてたよテヘペロ!
武器使い放題ってことは憧れの三刀流もできちゃうね!
確認なんだけど、コボルトの一部はヤギ小屋に侵入してるって解釈でいいのかな?
倒すなり逃げるなりして、他の仲間と合流したらまた戦闘するんだよね? -
2015/08/28-18:46
おー。人増えた。やったね。(棒読み
そうそう武器の件だけどさ。
俺プロローグ一部読み飛ばしちゃってたみたいで。
『貴方達はたまたま行動を共にしていた仲間と別々のフロアに分かれ楽しむことにした』
ってあるんだよね。
つまり、俺ら『別の階の同じ作りの子ヤギの部屋に、各ウィンクルムごとに居る』っていう。
武器被り気にしなくても良かったみたい。
紛らわしくてごめん。
ってことで、余った武器使うのはおっけーだよ。
俺も片手剣持っておこうかな。
謎解きメインで良い感じ? ありがと。
-
2015/08/28-17:29
俺もきたよー。精霊はロイヤルナイトのミスト。
なんだか大変なことになってるけど、ふたりともよろしくねー。
ロイヤルナイトの適正武器は…、戸棚の奥の片手剣だね。
ミストの援護をしたいから、武器が余ったら使わせてもらってもいい?
盾がないのが少し不安なんだ。
ジョブ(武器)被りが起こったら神人が戦うって手もあるよね。
シノビが二組になったら、俺達は片手剣を譲るね。
謎解きメインの流れも了解だよー。 -
2015/08/28-14:21
アイちゃんが来たよ( ´ ▽ ` )ノ
どもー、プレストガンナーのパパも一緒です
あたしは謎解きメインでだいじょうぶだよー
パパが使える弓は、おもちゃ箱かな? -
2015/08/27-22:34
そうだ。
希望は言ったけど、特に拘ってる訳じゃないから戦闘メインにしたかったら言ってね。
後シノビの得意武器に片手剣もあるから、ジョブ被ったらそっち使う予定。
脱出したら自分の武器確保できるみたいだし。 -
2015/08/27-21:57
柳大樹、参戦ー。
精霊はシノビのクラウディオね。
まだ誰もいないみたいだけど、これから来る人よろしく。
とりあえず希望言っとくと。
・謎解きメイン
・設備等に気を付ける
たぶん、クロちゃんの使える手裏剣は子ヤギの謎解きだと。
『お鍋の下に忍ぶまんまる』で『炊事場』かな?
消去法ってのもあるけど文中に『忍ぶ』って字があるのも理由。