プロローグ
タブロス市郊外に佇むとある店。そこはエマという女性とチャドという男性の2人で経営している。2人は元ウィンクルムで、日の出ている時間帯はカフェとして営業し、夜になるとバーになるというちょっと変わったスタイル。どちらの時間帯にもお客が訪れる、密かに人気のあるお店だ。今日はバーの時間帯も終わり、2人で店の片づけをしている。
「ねえ、チャド。前から思ってたことがあるんだけど」
「なんだいエマ?」
そのなかでエマがチャドに切り出す。
「このお店を知ってもらうために、A.R.O.Aに頼んでウィンクルムたちに来てもらえないかしら。職業体験って名目で」
「職業体験か……悪くないんじゃないかな。具体的にはどうしようか?」
エマの提案にチャドも乗り気だ。2人は片づけを進めながらお互いの案を出し合う。
「カフェとバーだと雰囲気が違うから、その辺は説明したほうがいいかしら」
「そうだね。あとは前からやってみたかったノンアルコールデーも良い機会だし取り入れたいな」
「いいんじゃないかしら。若い子も居るかもしれないしね」
「あとはそうだな……職業体験と銘打つならなにか欲しいな……」
あごに手を当てて考え込むチャド。
「だったらラテアートとシェーカー体験なんてどう?結構興味ある子たち多いかもよ?」
「……なるほど。いいかもしれない。それでいこう」
2人はそれから色々話しあい、申請書として内容をまとめたものをA.R.O.A本部に届け出た。
解説
参加料:300jr
◇カフェについて
客層:10代~20代の男女が中心。特にカップルや女子学生のグループが多い。
雰囲気:賑やか
仕事内容:軽食メニューの提供と接客
職業体験:コーヒー豆の手挽き(淹れ方はペーパードリップのみ)、ラテアート体験。
制服:男性はYシャツ(白)、ズボン(黒)。女性はYシャツ(白)、スカート(紺)、エプロン(アイボリー)
制服は店が貸してくれます。
メニューは一般的な喫茶店で見かけるものをイメージしてください。
サンドイッチ、トースト、ホットケーキ、パフェなど。
『料理』に関わるスキルは無くても大丈夫です。
調理や盛り付けを手伝うも良し、接客メインで頑張るも良し。
ラテアートは複雑なデザインにすると失敗する可能性が高いです。
簡単な例:ハートや植物の葉など
難しい例:人の顔や模様のある動物など
◇バーについて
客層:30代~50代の男女が中心。特に男性の1人客や夫婦が多い。
雰囲気:落ち着いている
仕事内容:ノンアルコール飲料や簡単な料理、つまみの提供と接客
職業体験:シェーカー&カクテル作り体験
制服:男女共通でYシャツ(白)、ベスト(黒)、ズボン(黒)
制服は店が貸してくれます。
メニューはサラダやピザ、カルパッチョ、チーズ盛り合わせなど。
『料理』に関わるスキルは無くても大丈夫です。
調理はエマたちが中心で、盛り付けや接客がメインになります。
今回は全てノンアルコール飲料です。
例:カシスミルク→カシスリキュールの代わりにカシスシロップを使用
カフェ、バーともに分からないところはエマたちがフォローします。
●プランに書いてほしいこと
カフェとバー、どちらに参加するか。また、そこでの行動や感情などをお願いします。
カフェの場合はラテアートのデザインを、バーの場合はカクテルのアイディアをお願いします。
ゲームマスターより
星織遥です。
今回は職業体験をイメージしてもらえると分かりやすいかもしれません。
カフェとバーで雰囲気や内容が異なりますので
その違いを見てどちらに参加するか選んでください。
よろしくお願いします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
田口 伊津美(ナハト)
(変装し、結寿音を名乗っています) 【心情】 久々の休日だからナハトの自由にさせたらカフェの職場体験だと? 正直パスしたいけど、付き合ってやるか… って金居るんかい!! 【行動】 300だすよ…ああクソ、働く側なのになぜ出費が (めっちゃ口悪い) 適当にウェイトレスでもこなすか… 歌は得意ですよー 姉(ホントは自分)がアイドルやっててその流れで歌が旨くなったというか-、姉のほうが旨いんですよー。よかったら新曲配信されるんでー、IZUIZUっていう… っは、つい宣伝してしまった。 これも尊い300を取り戻すためだ、いつでも営業体制でいくよ! たまには理不尽な出費も悪く無いか… これから戦いに復帰してかなきゃだしね |
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
☆カフェ選択、調理メイン 大丈夫、大丈夫! エミリオさんならできるって! 将来自分達だけのお店をもって、手伝ってくれるんでしょ…(赤い顔でごにょごにょ) 未来の予行練習だと思って頑張って(そっと背中を押す) ☆ラテアート 注文してくださったお客様によって模様を決めようかな 例えばカップルならハートの模様、花柄のお洋服を着ていたら花の模様といったようにお客様の雰囲気や服装によって模様を変えるよ お客様が楽しい時間を過ごせますように(スキル:調理、コーヒー・紅茶、クッキングアート) エミリオさんは頑張ってるかな(精霊の様子を覗き見) よかった~ちゃんと笑えて…絶対あの女の子達、エミリオさんのこと…うう、もやもやするよ |
紫月 彩夢(紫月 咲姫)
バーの方でお手伝い 髪は後ろで括っておきましょ。清潔感大事 家事手伝いくらいの事ならできるし、接客よりは盛り付けとかの手伝いの方が向いてると思う 手が足りなくなったら接客にも勿論向かうわ 噛まずにメニュー言えるよう練習しとこ いずれにしても、落ち着いた雰囲気だし、 あたしも落ち着いた行動心掛けよう… シェーカー振ってる姿って、かっこいいわよね… 体験させて貰える時は、見よう見まねで…こう、かな? カクテル作ってるって感じがする…楽しい ノンアルコールのカクテル… あのね、サンドリヨン作りたいの レモンとオレンジとパインのミックスジュースみたいなのよね 有名なカクテルだし、一回飲んで見たくて ありがとう、いい経験になったわ |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
カフェに参加します。 私、接客は苦手。調理を手伝います。 それと、ラテアートの体験してみたいです。 調理はサンドイッチを作ります。 ホットサンドに挑戦。 実は、ホットサンドプレートを使ってみたかったの。 ハムトチーズのシンプルホットサンド ベーコンエッグのホットサンド などを作ります。 沿えるサラダも作りましょう。 キャベツの千切りはスライサーを使うと簡単な上に楽々作れますね(目が鱗ぽろり。 ラテアートはミルクを入れるのが難しいですね。 ハートの描き方を覚えて帰りたいので頑張ります。 これ、ミルクの入れ方だけで作れるなんて知りませんでした。丸が出来れば、ピッチャーの動きでハートまであと少し。綺麗に出来るまで頑張ります。 |
言堀 すずめ(大佛 駆)
カフェ 主に接客 制服…いつも袴だからこういうの、新鮮で良いね。 「…駆くんは接客は止めておいた方が良いね」 「だって、包帯、顔に傷。それに腕の刀傷……お客さん達が怖がっちゃうよ?」 「笑顔、笑顔…頑張ってくるねっ」 「いらっしゃいませ、ご注文はおきゅ……お決まりでしょうか?」(かんだ) 注文取り終えてオーダーした後、駆くんが目に留まった。 「大丈夫駆くん?」 「…とりあえずどこも大丈夫じゃないんだね」 「ちょっと代わってね?」 少し歪かも知れないがラテアートのうさぎを作ってみる。 「はい、あとは頑張ってお母さん」(そして任せる、というにっこり) 「褒めてるよ駆くん」 「駆くん心配性だね」(ふわっと微笑み) |
タブロス市郊外。朝と昼の間くらいの時間帯。職業体験ということで『ミサ・フルール』と『エミリオ・シュトルツ』、『言堀すずめ』と『大佛駆』、『田口伊津美』と『ナハト』、『瀬谷瑞希』と『フェルン・ミュラー』の4組がA.R.O.A本部から紹介された店にそれぞれ向かっていた。店に着くとエマとチャドと名乗る男女が出迎えた。そしてさっそく制服に着替えるように促す。
●信頼と不安
ミサとエミリオは着替え終えると仕事場へと移動した。ミサが調理、エミリオが接客という割り振りで働くことに。
「ね、ねぇ、本当に俺が接客でいいの?俺達、交代した方がいいんじゃないかな……」
「大丈夫、大丈夫!エミリオさんならできるって!」
接客に自信がないエミリオに対してミサは励ましの言葉をかける。そして、少し顔を赤らめながらさらに言葉を続ける。
「それに……将来自分達だけのお店をもって、手伝ってくれるんでしょ……?」
そう恥ずかしそうに話すミサ。その様子を眩しそうに、どこか寂しそうに目を細めながら見つめるエミリオ。
「……そういえば、そんな夢を語り合った時もあったね。分かったよ、頑張ってみる」
「うん。未来の予行演習だと思って頑張って!」
そういってミサはエミリオの背中をそっと押す。エミリオは気合をいれるとホールへと向かっていった。
ホールは客たちでとても賑わっていた。そこへカランカランという音とともに新しい客が来店した。エミリオはさっそく入り口へと向かう。
「……い、いらっしゃいませ」
笑顔で自然に。それを精一杯意識して接客に臨んだ彼。しかし意識しすぎたのがいけなかったのか、顔がひきつってしまった。それでもなんとか席への案内を済ませる。その後も客が訪れるたびに自然な笑顔を試みるが、どうにも上手く行かない。
(くっ、どうしても顔が引きつる……!)
店の片隅で壁に手を置きながらうな垂れるエミリオであった。
その頃、ミサはキッチンでエマからラテアートの方法を教わっていた。彼女自身がクッキングアートに興味があることもあって、飲み込みが早かった。簡単な模様ならもう作れそうだと判断したエマは、ミサをカウンターテーブルへと促した。
「なにかやってみたいことはある?」
「えっと……お客様によって模様を決めようかな……って」
ミサはそう話す。具体的にはカップルならハート、花柄のお洋服を着ている客なら花の模様といったように相手に合わせたものを作りたいと伝えた。そのアイディアにエマは異を唱えなかった。ミサはラテの注文が入るたびに、客の雰囲気を確認して1つ1つ丁寧に仕上げていく。デザインは簡単なものばかりだが、それらが運ばれたテーブルでは好評なようだった。
(どうすれば俺は笑えるんだ……)
一方、エミリオはいまだ壁に手を置いて苦悩していた。ふと、ミサはどうしているだろうか。そう思った彼は視線をカウンターへと移す。そこには真剣に仕事に励むミサの姿があった。
(……ふふ、ミサあんなに真剣な顔で作業してる……可愛い)
ミサの様子に自然と顔がほころぶ。そんな彼のもとにチャドが近づいてくる。
「大丈夫かい?」
どうやらエミリオが店の片隅にいることを心配してくれたようだ。エミリオは接客で笑顔が引きつってしまうと話した。
「なるほど……でも今、君は自然に笑えていたよ?」
そういわれて、どういうことだろうと考えるエミリオ。そして1つの答えに辿り着いた。
「そうか……ありがとうございます。俺もう少し頑張ってみます」
エミリオはそう言い残すとふたたびホールへと赴いた。
(エミリオさんは頑張ってるかな……)
注文をこなしながらミサはエミリオのことを考えていた。彼なら大丈夫だと信じているが、少しだけ不安もあった。自分の仕事の合間をみてホールにいるであろう彼の姿を探す。ミサが見つけたとき、ちょうど女子学生のグループに接客をしているところだった。エミリオは自然な笑顔で彼女たちと話している。
(よかった~ちゃんと笑えて……でも絶対あの女の子達、エミリオさんのこと……うう、もやもやするよ
)
ミサは安心すると同時に複雑な気持ちを抱えた。2人はそうしてカフェの時間帯が終わるまでそれぞれの仕事に取り組んだ。エマとチャドに見送られながら店をあとにする2人。並んで歩くミサとエミリオ。しかしミサの表情がどことなく曇っているようにエミリオは感じた。なにかあっただろうか、と今日の出来事を振り返る。そして、ある可能性に気付く。
「……もしかしてミサ、ヤキモチやいたの?」
エミリオは少し笑いながらミサに問いかけた。それは馬鹿にするような笑いではなく、微笑ましさからくるものだった。しかし彼女としては心中穏やかではなかったようで、質問には頷きでは答えたが視線を合わせようとしない。エミリオはすぐに言葉を続けた。
「笑ってごめん。でもね、俺が笑えていたのは客をミサだと思って接していたからなんだよ」
ミサはその言葉を聞いて驚きの表情とともにエミリオの顔をみた。彼の表情に、瞳に、嘘は無かった。ミサはそれに安心するといつもの微笑みを浮かべた。彼女の様子に同じく安心するエミリオ。2人の帰り道は楽しい思い出を共有する時間となった。
●初体験
「制服……いつも袴だからこういうの、新鮮で良いね」
すずめは自分の姿を確認しながらそう言った。白のYシャツに紺のスカート、アイボリーのエプロンは喫茶店の制服としては珍しくないが、すずめにはそう感じられた。一方、駆は白のYシャツに黒のズボン。こちらも喫茶店で働く人間がよく身につける服装。しかしその姿を見て、すずめが声をかける。
「……駆くん、接客は止めておいた方が良いね」
「ん?俺は別に良いけど……?なぜ?」
「だって、包帯、顔に傷。それに腕の刀傷……お客さん達が怖がっちゃうよ?」
言われた場所に目を向ける駆。それを見て、ああ、そうかと納得した。そこでホールには出ずに調理の手伝いに専念することにした。その代わりというわけではないが、すずめが接客に出ることに。意気揚々とホールへと赴くすずめに駆が呼び止める。
「あ、笑顔ねー」
「笑顔、笑顔……頑張ってくるねっ」
自分の表情を確認しながら、彼女は再び歩き出した。
いざ開店し、店内が少しずつ賑やかになる。駆は調理の手伝いをしながら、接客をするすずめの様子を見守っていた。
「いらっしゃいませ、ご注文はおきゅ……お決まりでしょうか?」
(あ、かんだ)
ちょうどすずめが噛んだ瞬間を目撃した駆。注文をとり終えて厨房に駆け寄ったすずめの目に駆の姿が留まった。彼の様子からさっきの姿を見られたのを察すると恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「……まあ初めてだし、仕方ないよね」
駆はそんな彼女に微笑みながらフォローの言葉を投げかけた。その言葉に前向きな気持ちを抱きながら彼女は再びホールへと向かっていった。
そして駆は調理の合間にチャドからラテアートを教わる。見本をみせてもらって、それをもとにやってみるがなかなかうまくいかない。
(あれ……意外と難しい……いや、けどここはごり押し……)
神妙な面持ちで作業をしていると、すずめに声をかけられた。
「大丈夫駆くん?」
「……大丈夫、に見えるの?」
「……とりあえずどこも大丈夫じゃないんだね。ちょっと代わってね?」
「……あ、そういえばすずめってこういうの好きだったっけ……」
すずめは駆からミルクのピッチャーを受け取ると、コーヒーの表面にうさぎを描く。少し崩れているが一応うさぎだと分かる。
「はい、あとは頑張ってお母さん」
そういってピッチャーを駆に返す。
「……お母さん、ね。きみのことだし褒めてる、よね」
「褒めてるよ駆くん」
そう言われても駆の心の中は複雑だった。
「お客さんに失礼のないようにするんだよ」
「駆くん心配性だね」
彼女はふわっと微笑むと再びホールへと戻っていった。その後2人はそれぞれの仕事をこなして大きな失敗も無く職業体験を終えた。初めての経験は2人のなかでいい思い出になったことだろう。
●オンとオフ
伊津美は制服に着替えながら、あることを考えていた。
(久々の休日だからナハトの自由にさせたらカフェの職場体験だと?正直パスしたいけど、付き合ってやるかと思ったら金がかかるとは……!!)
倹約家の伊津美は職業体験とはいえ働く側なのに出費を伴うことが不服らしい。先ほどお金を支払ったことを気にしているようだ。
(ああクソ……適当にウェイトレスでもこなすか……)
髪型などを変え「伊津美」ではなく「結寿音」として仕事場に赴く。
(カフェ、懐かしい……1年前にカフェで働いてるイズ楽しそうだったから呼んだが、すごく不機嫌になった)
ナハトも制服に着替えながら考えていた。
(次、冒険や討伐行きたいけど、イズ、いいよっていってくれるだろうか)
そんな心配を胸に仕事場へと向かった。
いざホールに出ると伊津美は元気に接客に励んでいた。自然な笑顔で客と接し、オーダーを取り、料理を運ぶ。ときには客を他愛のない話をして場を盛り上げている。その姿にエマも感心しているようだ。
「歌は得意ですよー。姉がアイドルやっててその流れで歌が上手くなったというかー、姉のほうが上手いんですよー。よかったら新曲配信されるんでー、IZUIZUっていう……」
そこまで言ってから思わず言葉を濁した。
(つい宣伝してしまった……でもこれも尊い300jrを取り戻すためだ!いつでも営業体制でいくよ!)
気を取り直してさらに接客に励む伊津美だった。
一方、ナハトは厨房でチャドからラテアートを教わっていた。
「立体のやつ、あれやりたい。熊とか」
ナハトの発言にチャドは困ったような表情を浮かべた。
「立体はなかなか難しくてね……。でも折角だしやってみようか」
そういいながらチャドはミルクを泡立てていく。立体なので通常のものよりも固めに仕上げていく。それとは別に通常どおりに泡立てたミルクをコーヒーに注ぎ、ベースを作る。その上に固めの泡を盛り付けて、細長いマドラーでベースのコーヒーから色を拾って泡の表面に模様を描いていく。そしてカップの上で寛ぐ熊の姿ができあがった。
「こんな感じかな。やってごらん」
マドラーやミルクをナハトに手渡すチャド。先ほど見た作り方を真似ながら挑戦する。時折チャドがアドバイスをしつつ、熊の完成を目指す。しかし立体はやはり難しく、思うような形にならない。すると伊津美が厨房へとやってきた。どうやら休憩時間らしい。
「あとは練習あるのみだから。それじゃ」
そう言い残してチャドはホールへと出ていった。それを確認すると伊津美はイスにどかっと座った。全身から面倒だというオーラが出ている。
「イズ」
ナハトの呼びかけに拳で返す伊津美。
(そういえばユズだったな、今は)
殴られたところをさすりながら思い出す。いま彼女はアイドルという素性を隠して結寿音と名乗っていることを。厨房には伊津美とナハトの2人だけ。そしてナハトの作ったラテアートが台の上に置かれていた。
「……それ何?」
「熊」
「熊……熊!?」
伊津美はカップをまじまじと見つめる。彼女にはどうしても熊には見えないらしい。やはり立体ラテアートはまだまだ彼には難しかったようだ。捨てるわけにもいかないので彼はそれを口に含む。
(……ラテって苦い。砂糖いれたい……)
そんなことを思うナハトだった。
それから2人はカフェの時間帯が終わるまで働き続けた。そしてエマとチャドに見送られ帰路に着く。
「たまには理不尽な出費も悪くないか……体もほどほどに動かせたし。これから戦いに復帰してかなきゃだしね」
その目はなにか強い意志を秘めているように感じられた。
●ホットサンドとハート
「私、接客は苦手。調理を手伝います。それと、ラテアートの体験してみたいです」
瑞希はそういうと気を引き締めるようにエプロンのひもを結び、厨房へと向かう。ミュラーも彼女と一緒に厨房へ入る。
(そう言えば、料理は得意と言える程じゃないって、気にしていたものね。全然下手じゃないのだけれど)
彼は心のなかでそう呟いた。とはいえ、料理を頑張ってみようという瑞希を健気で可愛いと感じているし彼女が頑張っている姿も見たい。そういった思いもあり彼女の調理を手伝うことに抵抗はなかった。
厨房ではエマとチャドが待っていた。瑞希がホットサンドを作ってみたいという希望を伝えると、エマはさっそくホットサンドメーカーの使い方を教えてくれた。挟みたい食材を食パンで挟んでプレートにセットして蓋をし、タイマーをかけるだけ。特殊な道具ではないので瑞希も使い方をすぐに覚えた。ハムとチーズ、ベーコンエッグなどのホットサンドを試作してみる。特に問題なさそうだ。ミュラーはその間にチャドから使う皿の説明などを受ける。それほど数は無いのでこちらもすぐに覚えた。
次にサラダを練習する瑞希とミュラー。まず見本としてエマとチャドが作る。キャベツを千切りにして、レタスを手でちぎり。トマトをサイコロサイズに切ってオリーブオイルや酢、塩コショウをあえる。それらを盛り付けて完成。鮮やかな流れに思わず見惚れる2人。今度は瑞希たちが挑戦することに。瑞希は包丁を片手にキャベツの千切りを試みるが、見本のように幅が揃わないうえに、細くならない。その様子をみてエマがスライサーの使用を提案した。
「キャベツの千切りってスライサーを使うと簡単な上に楽々作れますね……」
まさに目から鱗といった様子でスライサーに感心する瑞希。ミュラーはその横でレタスやトマトを準備する。それらを合わせて盛り付けていく。見本と見比べながら盛り付けたものの、どうも形がおぼつかない。
(これはちゃんと覚えないと……)
2人は忙しくなる前にホットサンドとサラダの作り方を何度も復習した。
いよいよ店が忙しくなってきた。ホールと厨房を行ったり来たりするエマやチャドと連携をとりながらホットサンドの注文をこなしていく。注文が入ると瑞希が食パンに食材を挟んでメーカーへとセットしてタイマーをかける。立て続けに注文が入ると思わず混乱しそうになるが、それを間違えないように確認しながら作っていく。ミュラーはその間に皿を用意して、サラダの準備や盛り付けを進める。タイマーのアラームがなると、瑞希はそこからホットサンドを取り出し、彼が用意した皿へと移す。ミュラーがメニューと見比べて大丈夫なのを確認すると、エマたちに声をかけて客のもとへと運んでもらう。初めはたどたどしかった2人も少しずつ余裕が生まれ、連携もきれいに取れるようになっていった。
(色々と考えながら作っているミズキが可愛いなぁ。こういう姿、見る機会があまりないから嬉しいよ)
ミュラーは忙しいながらもそんなことを思いつつ、瑞希の姿を見ていた。
慌しい時間は終わりを迎え、厨房内は落ち着きを取り戻していた。エマとチャドも厨房に戻り一息つく。そして休憩後、職業体験の目玉ともいえるラテアート体験へと移行した。
「ハートの描き方を覚えて帰りたいので頑張ります」
意気込む瑞希。エマがまず見本を見せる。よく泡立てたミルクを専用のピッチャーにいれて、コーヒーに注ぐ。半分くらいまで注いだら注ぎ口を表面に近づけ、ピッチャーを押し出すようにゆっくりと線を引く。するとカップの上にきれいなハートマークが浮かび上がっていた。感嘆の声を上げる瑞希とミュラー。
「これ、ミルクの入れ方だけで作れるなんて知りませんでした。丸が出来れば、ピッチャーの動きでハートまであと少し。綺麗に出来るまで頑張ります」
エマにコツを教わりながら少しずつ慣れていく瑞希。徐々にハート型に近づいていくが、なかなかまとまらない。そして何度目かの挑戦にしてようやくそれらしい形に仕上がった。ここまで出来ればあとは練習次第だとエマが背中を押す。その言葉に笑顔を浮かべる瑞希。そんな彼女の姿をみて同じく嬉しそうに微笑むミュラーだった。
●2つの色
もうすぐ日が暮れる頃。『紫月彩夢』と『紫月咲姫』の2人はA.R.O.A本部から紹介された店に到着した。そこではエマとチャドと名乗る男女が出迎え、更衣室へと案内した。2人はそれぞれ着替え終わると仕事場へとやってきた。2人とも白のYシャツに、黒のベストとズボンを身に纏っている。
「男装っぽい格好をしれっと着こなしちゃう彩夢ちゃんが格好いい……」
「そう?」
「似合ってて素敵よ。一緒に頑張りましょうね」
「うん。あ、髪は後ろで括っておきましょ。清潔感大事」
そういって彩夢は髪を括る。咲姫も化粧を薄めにして髪をまとめている。バーの時間帯はエマたちが調理を中心に行うので、彩夢たちの主な手伝いは接客と盛り付けになる。2人は手伝い方について話し合う。
「家事手伝いくらいの事ならできるし、接客よりは盛り付けとかの手伝いの方が向いてると思う」
「じゃあ私は主に接客の方に入るわ」
「手が足りなくなったら接客にも勿論向かうわ」
「ありがとう」
店が動き出すまでに彩夢はメニューを噛まないように練習したり、咲姫も接客の基本をエマたちから教わる。そしていよいよバーが開店する。
シックな雰囲気のなか、客が出入りを繰り返す。それほど激しい流れではなく、穏やかな時間の進み方。その空気のなか、咲姫が注文を受けてそれを厨房へ伝え、エマたちが料理を作る。それに彩夢が盛り付けを施したものをホールへ渡し、客のもとへと運んでもらう。ときには彩夢がホールに出て料理を運ぶ。そういった工程を丁寧に確実にこなしていく。
(落ち着いた雰囲気だし、あたしも落ち着いた行動心掛けよう……)
彩夢はそう思いながら仕事を続けた。
客の流れも落ち着き、店は静かな雰囲気に包まれていた。余裕もできたところで、職業体験の1つであるカクテル作りに挑戦することに。
「まずは見本を見せるよ」
そういってチャドがシェーカーに材料を入れて胸の前に構える。それから慣れた手つきで腕を動かし中身を混ぜていく。そして完成したそれをカクテルグラスへと注ぐ。そこには鮮やかな色のカクテルが輝いていた。2人は感心した様子でそのカクテルを見つめている。
「何か作りたいカクテルはあるかい?材料は一通り揃ってるよ。今日はノンアルコール限定で申し訳ないけど」
チャドは棚に置かれた各種シロップなどを見せる。彩夢と咲姫はそれらを見ながら相談する。
「あのね、あたしサンドリヨン作りたいの。レモンとオレンジとパインのミックスジュースみたいなのよね。有名なカクテルだし、一回飲んでみたくて」
「いいんじゃない?私、ちょっとだけ本で齧ってきたのだけど、グレナデンシロップを使う奴が良い。赤いの。私達の象徴の色よ。ラズベリーよりも甘いのが良いし……となるとシャーリーテンプル、かしら」
2人はそれぞれ作りたいカクテルを伝えると、チャドは必要なものを棚から取り出した。そして2人にそれぞれシェーカーを渡す。まずは彩夢が挑戦する。
(シェーカー振ってる姿って、かっこいいわよね……たしかさっきこんな感じで……こう、かな?)
チャドが作っていたのを思い出しながら、見よう見まねで試してみる。
(カクテル作ってるって感じがする……楽しい)
自然と笑みがこぼれる彩夢。その様子を楽しそうに眺める咲姫。シェーカーの中身がほどほどに混ざったところでグラスへと注ぐ。
「次は私の番ね」
咲姫は立ち上がるとシェーカーを手にする。
(シェーカー、一度は挑戦してみたいと思っていたけど……初めてでもできるのかしら)
咲姫も彩夢と同様、見よう見まねで振っていく。そして完成したものをグラスに注ぐ。2人でそれぞれのカクテルを並べて見せ合うと、異なる2色の小さな海が広がっていた。そしてそれを口に含むと、口の中にそれぞれの味が広がる。
カクテルを自分で作るという経験が2人にとって貴重で楽しい思い出になったことだろう。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 星織遥 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 07月25日 |
出発日 | 08月02日 00:00 |
予定納品日 | 08月12日 |
参加者
会議室
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2015/08/01-22:02
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのミュラーさんです。
言堀さんと、結寿音さんは初めまして。
ミサさんと紫月さんは、またお世話になります。
皆さま、よろしくお願いいたします。
私達もカフェ体験させてもらうつもりです。
ラテアート、やってみたかったんです。
皆さまが素敵な時間をすごせますように。
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2015/08/01-08:38
-
2015/08/01-08:38
久しぶりの人は久しぶりー!
初めての人は初めまして!
私はカフェで調理メイン、エミリオさんは接客メインで行動するよ。
一緒の方はどうぞよろしくねっ -
2015/07/31-00:36
紫月彩夢と、姉の咲姫よ。どうぞ宜しくね
何となく、カフェの方に人が集まりそうな気がするし、
あたし達は折角だからバーの方を体験させて貰えたらなって思ってるところ
カクテルって、一回作ってみたかったのよね。ノンアルコールだから色々限られるかもだけど…
楽しんでお仕事体験出来たらいいな。 -
2015/07/30-22:01
超久しぶりの結寿音でーす。
(現役アイドルなので本名等隠してます)
戦いに行く肩慣らしに。と思ったけど働いて金取られるってなんだこのえっと…
げふん、とりあえずバカロボットのゴミが我儘ほざいたからカフェに付き添いだよ。
あたしはウェイトレスこなすつもり、よろしくねー -
2015/07/30-21:39
大仏:
神人の言堀すずめと俺は精霊、大仏駆という者。
すずめのこと、どうぞ宜しくね。
こちらはすずめの要望でカフェにしようと思ってるよ。
…では、改めて宜しくお願い申し上げます。