産声に伴う危機(寿ゆかり マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 ウィンクルム達が緊急要請を受けて駆け付けた時には、もう遅かった。
 そこは、タブロスから遠く離れた山奥の村。交通の便が悪く、バスも一日往復一本しかない。その村が終着点であるため、通りかかる車も、ない。
 そんな隔離されたような村から通報が入ったのはつい先刻だった。
 大急ぎでA.R.O.A.が走らせる車に乗り込み到着したものの、村は焼け野原。形容しがたい臭いが充満し、あたりからは煙が立ち上っていた。ざっとあたりを見回して解ったが、すでにこの村を破壊した首謀者はここから立ち去っているようだ。
 誰か生き残っている人はいないのか。
 縋るような思いでウィンクルム達は村を歩き回った。
 その時、ボロボロの骨組みだけになった牛舎から唸り声が聞こえた。
『ウウウウウゥゥ……』
 デミ・ワイルドドッグだ。
 慌てて声がした方に走り寄る。
「いやぁぁぁぁあ! こっちにこないでぇえ!」
 少女の叫び声が聞こえた。
 もっと、もっと急がなければ。間に合ってくれ。
 祈りながら現場に駆けつけると、デミ・ワイルドドッグ3頭に囲まれた少女が泣きながら木の枝を振り回している。涙を浮かべながらこちらを視認し、彼女は更に大きな声で叫んだ。
「た、助けて!」
 その瞬間、彼女の体が淡い光を放つ。その輝きに、一瞬デミ・ワイルドドッグたちが怯む。……左手の甲に、見慣れた青い紋章が浮かび上がった。正にこの瞬間、少女は顕現したのだ。
 ギラリとデミ・ワイルドドッグたちの目が光る。唾液を垂らしながら、狂犬たちは少女へ今にも襲い掛かりそうだ。
『キュルルルルルルルル……』
 どこかから酷く耳障りな音が聞こえた。ヤグズナルだ。
 ウィンクルム達は、このオーガたちが襲い掛かるより早く少女を保護せねばならない。
 助けを求めるか細い声の主、この村の生き残りを、救わなければ。

解説

目的:少女を保護し、オーガたちを殲滅すること。

フィールド:
焼け焦げて骨組みが申し訳程度に残っている牛舎。野ざらしと考えてください。
ただし、足場はあまりいいものではありませんのでお気をつけて。
動物や他の村人は全てオーガに滅ぼされた後です。

状況:緊急要請を受け、駆け付けた時にはすでにギルティらしき影はありませんでした。村を滅ぼしたのはおそらくギルティでしょうが、
現在は残った村人がいたら食ってやろうと野放しにされたデミ・ワイルドドッグ×3とヤグズナル1体のみが少女を狙っています。

少女(ロレナ 12歳):この村の出身。普段は農作業の手伝いをして生活していた。戦闘能力などは皆無。

*ポイント
・少女はたった今顕現してしまったばかりです。
 オーガは神人を優先的に狙う性質がありますので、一刻も早く少女を保護しましょう。 デミ・ワイルドドッグに囲まれておりますので、気を付けて。
・ヤグズナル…蝙蝠のような頭を持ったオーガ。(飛行はしません)
 手の付け根に自らの骨片を打ち出すカタパルトを持つ。
 動きが早く、攻撃が当てにくいので要注意。
(どこからか超音波で人間がいることを探っています。現場に着いた時にはまだ姿は有りませんが、現れるのは時間の問題でしょう)
・どのオーガもさほど強くはないかもしれませんが、丸腰の幼い神人を庇いながらの戦闘となります。お気をつけて!


失敗条件:少女の死亡


ゲームマスターより

皆さんが顕現された時、オーガに抵抗して顕現なさった方もいらっしゃるかと思います。
この少女は正にその状況。何もできないのにオーガが群がってくる。
とても怖い思いをすると思います。一刻も早く助けてあげてください。

また、敵自体はさほど強くはないかもしれませんが、油断ならない状況です。皆さんで協力して挑んでくださいね。
攻撃力やレベルが低かったとしても十分に戦えます。会議室を有効活用して役割分担してください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニッカ=コットン(ライト=ヒュージ=ファウンテン)

  一刻もはやく彼女のところへ行かないといけないわね
地面に落ちてる物を避けながら出来る限りのスピードで走るわ

ライトがいつもと違うわ
きっと過去のことを思い出してるのね
必ず、彼女は助けるわ !

◆探索
いつでも攻撃できるように手に弓を持ち走る
周囲、または悲鳴や物音に注意しながら辺りを見回し探す

◇発見
ライトが出した大声でデミ・ワイルドドッグが振り返ったところですかさず鉱弓クリアレインで矢を放ち視界を奪いつつ射抜き、ライトが彼女を庇える位置に入る隙を作る

◆戦闘
弓を放ちながら、ライトの背後へ入れるよう移動する
デミ・ワイルドドッグ、ヤグズナル戦共に盲ましを狙い矢を放つ
ライトに当てないよう注意しながら矢を放つ



豊村 刹那(逆月)
  即座にトランス。
足元に注意し、少女の下に出来る限り急ぐ。
敵の意識を此方に向ける為、声を上げて斬り付ける。

敵が飛び掛ってきたら、位置の入れ替えを試みる。
少女を背に庇えたら、そのまま護衛。
「必ず守る。もう少しでいい、耐えてくれ」(敵から目は逸らさない

出来れば少女を中心に、もう一人反対側に守りが欲しい。
人の命が懸かってるんだ。自分の負傷は気にしない。

奇妙な鳴声の主が何処から来るかもわからない。
背後や左右にも注意を払う。

戦闘後は武器を収納する。
血のついた武器で必要以上に怖がらせたくはない。
膝を着き少女と目を合わせ、「遅れてすまない」と謝罪。
罵倒されたら甘んじて受ける。

※行動に差異があれば味方に合わせる



「打ち払う」
 鼻をつく焦げの臭いが充満する村に着くとすぐに、豊村刹那はインスパイアスペルを唱え逆月の頬に口づけてトランス状態に入った。
(どこだ……! どこにいるんだ、間に合ってくれ!)
 少女の声が聞こえた方向を目指し、二人は懸命に駆ける。
 現場に着いた瞬間、ライト=ヒュージ=ファウンテンは全身に嫌な汗がじわりと滲むのを感じた。
 過去に、同じような状況で前の神人を亡くしている彼にとってこの状況は他人事ではない。少しでも油断すれば当時の事がフラッシュバックしてしまうだろう。少しも怯む暇はない。ライトは軽く首を横に振り、傍らの神人ニッカ=コットンの手を引いた。ニッカがインスパイアスペルを唱え、ライトの頬に口づける。
「太陽の華、大地の盾」
 ふわりとオーラが二人を包むが早いか、ライトはニッカの手を握って走り出した。
「行きますよ……!」
(今度は同じようにはさせない……必ず助ける……!)
 ライトは己の唇を噛み、全速力で焼け果てた村を駆け抜ける。
(ライトがいつもと違うわ……きっと過去のことを思い出してるのね)
 ニッカにはすぐに分かった。以前聞いた、彼の悲しい記憶と後悔。いつもは完璧な彼が取り乱している。必死に冷静を装うも、その握りしめた手がじっとりと汗ばんでいること、ニッカの足取りも気遣わずに走っていることから、余裕などひとかけらもないのだということが伝わってくる。
「必ず、助けるわ!」
 これ以上彼に後悔の気持ちを背負わせるものか。歩幅の差で引きずられるようになりながらも、ライトとつないでいない方の手に弓を携えニッカは懸命に走った。

「いやああぁあ! 来ないで、来ないでぇぇえ!」
 さらなる悲鳴と、派手な打音が聞こえる。ライトはその声を耳にして、まるで声に引き寄せられるかのようにその足のスピードを速めた。ニッカとつないでいた手を離し、右手に剣、左手に盾を携え、ただひたすら走る。
「きゃっ!」
 ライトを追いかけて瓦礫の散らばる地を必死に駆けたものだから、ニッカはバランスを崩して転びかけてしまった。
「お嬢さん!?」
 神人の声にライトは振り返る。
「大丈夫よ、早く行きましょう!」
 気丈な彼女の声にライトはハッとした。冷静さを欠いてはいけない。……守るために。

 刹那も、その先刻の悲鳴で居場所を確信し逆月と共に走る速度を更に上げる。
 足元がかなり悪いことに歯を食いしばりながら、たどり着いたのはすっかり崩れ落ちた牛舎と思しき場所だった。
 まだあどけなさの残る顔の少女にデミ・ワイルドドッグ三頭がじりじりとにじり寄っている。焼け焦げた角材のきれっぱしを振り回し、彼女は必死に抵抗していた。
「ひ、ぅう……」
 刹那の足は、自らが怪我をすることも恐れずデミ・ワイルドドッグに向かった。それは背中を預けられる精霊がいるから。仲間が、いるから。
「ええい!! こっちだ!」
 大きく短剣『コネクトハーツ』を振り上げ、刹那は少女の真正面で牙を剥いていたデミ・ワイルドドッグにそのまま振り下ろす。
「ギャン!」
 ワイルドドッグの背にコネクトハーツを突き刺し、引き抜く。痛みに悶え隙が出来たワイルドドッグと少女の間に滑り込み、刹那は己の背に少女を庇った。続いて、ライトが大声を上げながらワイルドドッグに突進する。
「はああぁっ!」
 彼の声にデミワイルドドッグ二頭が何事かと振り返る。その瞬間を狙い、ニッカは鉱弓『クリアレイン』を放った。光を反射しながら足もとに飛んでくる矢に、ワイルドドッグたちは視界を奪われ怯む。一頭の足に突き刺さり、ワイルドドッグは身じろいだ。
 その隙を狙い、ライトは大きく盾を振り、デミワイルドドッグ二匹を払いのけて少女との間に滑り込む。これで、ライトと刹那により少女に盾が出来た。そのまま、刹那と自分とにフォトンサークルをかける。
「あ、あなた、たちは……」
 少女が震える声で尋ねた。デミワイルドドッグから視線は外さずに刹那が答える。
「必ず守る。もう少しでいい、耐えてくれ」
 大きく手を広げてデミワイルドドッグから少女を庇う刹那の背中に、少女は恐怖と安堵が入り混じったごちゃごちゃの感情を押し込め涙を流す。
「はい……!」
 刹那に刺されてうめき声をあげていたワイルドドッグが立ち上がろうとしていた。
「させぬ」
 逆月が短弓「カラコルム」を引きしぼり、放つ。
「がぁぁっ」
 一頭のワイルドドッグが地に伏せた。が、まだ二頭。隙を見せるわけにはいかない。刹那とライトは頷き合い、背中合わせで少女を挟むように守りの配置に着いた。
 逆月が、少女を守るためにも敵との距離を狭める。
「ぐるるるるる……」
 低く唸るデミ・ワイルドドッグを物ともせず、標的が少しでも少女から逸れるように逆月は狂犬の瞳を見据えた。少女の左手に、青い紋章が美しく浮かび上がっている。神人たる証。そして、……オーガの恰好の餌食であるという証。黙っていればオーガは彼女に向かう。だから……。
 ライトの側にいたデミ・ワイルドドッグが少女を狙って勢いよくライトにとびかかる。
「っ、く」
 その爪と牙は盾をもってして防ぎ、ライトは敵の動きを読もうとした。
 その時、刹那の側のデミ・ワイルドドッグが勢いよく刹那に前足で襲い掛かる。
「くっ……!」
 ざん、と嫌な音を立てて刹那の服と肌の一部が裂ける音がした。神人ならこの際何でもいい。喰いたい、とデミ・ワイルドドッグはその口の端から意地汚く唾液を零す。
「刹那!」
 逆月が声を上げる。
「大丈夫だ! 私ならいいから……!」
 逆月はギリ、と歯を食いしばる。失いたくない存在を傷つけられた。怒りと悔しさが襲ってくる。しかし、私情に左右されている場合ではない。速やかにこの脅威を排除せねば。すっと矢筒から矢を抜き、狙いを定め、味方に当たらないように放った。
「ぐがぁぁぁっ」
 口から唾液を垂らしながら、その場にデミ・ワイルドドッグが沈む。
 これでデミ・ワイルドドッグはあと一頭。しかし、一息つく間もない。
 どこからか、耳障りな音が聞こえるのだ。

「キュルルルルルルル……キュルルル……」
 この戦闘音で気付かれているかもしれないということは逆月にとっては想定内の事だった。
 背後から来るかもしれない、と警戒し、あたりを見回す。
 どこから、現れる?
 刹那も同じく、引き裂かれた左腕を抑えながら背後や左右にも神経を張り巡らせた。

 ニッカは、ライトが応戦しているデミ・ワイルドドッグの視界に入るよう、味方に気を付けながらクリアレインを放つ。チカ、と光を放つ矢に、ワイルドドッグに一瞬の隙が生まれた。
「今よ!」
 ニッカの声に、ライトが剣を振り上げる。ワイルドドッグの胴体を叩き斬るように剣を振り下ろせば、その体はすぐに動かなくなった。
 少女が安堵に息を吐く。が、その瞬間。離れてクリアレインを放っていたニッカの背後に蝙蝠の頭を持つ禍々しい姿が現れた。
「!!」
 ライトが声にならない声を上げる。少女が悲鳴を上げた。ニッカは瞬時に振り向く。間に合わない……! ヤグズナルの手の付け根から骨片が打ち出された。足がすくむ。瞬時に、隣に居た逆月がニッカの手を引いた。ひゅん、と勢いよく骨片がニッカの顔の横を過ぎる。
「あ、ありがとう」
「……怪我はないな」
 あちらへ、とライトの方へ向かうよう促し、逆月はヤグズナルを見据える。
 なおも耳障りな超音波を発しながら、ヤグズナルはこちらを伺っている。
 ライト、ニッカ、刹那、そして少女の盾になるようにヤグズナルの前に立ちはだかり、逆月は弓を引いた。
「やらせはせん」
 鋭い眼光がヤグズナルをとらえる。矢を放った瞬間、ヤグズナルは身を捻り丁度のタイミングで避けて見せた。
「くっ……」
 逆月を通り過ぎ、一目散に神人の元へと走るヤグズナル。瞬時にライトが神人達の前へ躍り出る。
 ギィン、と音を立ててヤグズナルが放った骨片を盾ではじき返した。
「キュルルル……」
 口惜しげに鳴きながらヤグズナルは両手のカタパルトを下す。どうやら発射する時に自らも痛みを伴うらしく、あまり連射はできないらしい。
 圧倒的にウィンクルムの優勢だ。それでもヤグズナルが逃げ出さないのは、神人を食らうという本能に忠実であるため。なおも不愉快な超音波を放ちながら、その瞳は少女をじっと見つめている。
「や……やだぁ……っ」
 少女はまた泣き出しそうになりながら、刹那の後ろで震えていた。
 逆月が何度か狙いを定めて射ろうとする。ライトは隙を見て切りかかる。しかし、ヤグズナルの動きは素早くなかなか当たらない。
 ウィンクルム達にわずかに疲れの色が見え始めた。
 少女の瞳にも不安の色が浮かび始める。
 背後からすすり泣く声を感じ、刹那はヤグズナルからは目を離さずに少女に告げる。
「絶対に手出しはさせない」
 刹那は左腕から伝う血液も物ともせず、少女とそう変わらない身長で懸命に少女を隠そうと立ちはだかる。
 その時、ライトの背後からニッカがクリアレインを放った。
「!?」
 まっすぐに飛んで行った矢はヤグズナルの右足に刺さる。忌まわしい蝙蝠頭は狼狽え、身じろいだ。
「……お嬢さん……!」
 ライトは自らのすぐ背後に隠れていたニッカを振り返った。
 仲間に当たらぬようよく狙い澄まし、その小さな体を利点としてライトで自らの身を隠して敵に不意打ちをしかけたのだ。
 いつの間にかこんなにも成長していた神人に、ライトは目を見張る。
「お願い、倒して……!」
 ニッカが精霊二人に懇願する。刹那も大きく頷いた。
 現在の神人二人には、敵をひきつける力や攪乱する力はあったとしても致死的なダメージを与える力はない。絆の力を注いだ精霊でなければできないことを、成し遂げてほしいと見つめる。
 逆月はしっかりと狙いを定め、ヤグズナルの胸部目がけて弓を放った。うめき声を上げるヤグズナルに走り寄り、ライトが剣を振り下ろす。
 鮮やかな連携技と、神人と精霊が心から通じ合っているところを、少女はしっかりとその目に焼き付けた。
「……すごい……」
 どん、と大きな音を立て、ヤグズナルが肉塊と成り果てる。
 キュルルル、と最期に奇怪な声を上げ、ヤグズナルは事切れた。
 その声で仲間を呼んだのではないか。逆月はいまだ警戒を解かず、あたりを見回す。
 周囲を見渡し、応答するような声もない事を確認すると小さく息を吐いた。

「守れた……」
 ライトが深く息を吐く。
「お怪我はありませんか?」
 すっかりその場にへたり込んでしまった少女に問いかけると、少女は小さく頷いた。
 その手には角材を振り回したときのものだろうか、無数の傷がついている。
 刹那は血みどろになったクリアライトをすぐに鞘に納め、しまいこんだ。
 血の付いた武器を見せて必要以上に怖がらせたくない、と言う思いからだ。
 震えていた少女の視線が、わずかに上がる。
「あ、あり、がと……」
 震える声で礼を告げた少女に、刹那はそっと地に膝をついて頭を下げた。
「?」
 少女は座り込んだまま刹那のそんな様子に目を丸くする。
「あの……?」
「遅れてすまない」
 顔を上げ、少女と視線をしっかりと合わせ刹那は謝罪する。
(もっと早く来ていれば……)
 もっと早くついていれば、きっとこんなに被害を出さなくて済んだのではないか。
 その気持ちが刹那の中で拭えない。
「すまない」
 もう一度、刹那は深く頭を下げる。
 オーガは、少女からすべてを奪ってしまった。
 住むところ、家族、友人……なにもかも。
 もしも罵倒があるならば、すべて受けよう。刹那は覚悟し、ぎゅっと拳を握りしめる。
 ライトも、俯いたまま何も言えなくなった。
 ――残された者としての気持ちは、痛いほどわかるから。
「あ、あの……顔を上げてください」
 少女は真っ赤になった瞳のまま、頬に涙の後をつけたまま、懸命に微笑む。
「あの……ありがとうございます」
 間に合わなかった運命を呪われると思っていた刹那は顔を上げ、少女の顔を覗き込む。
「……礼など……」
「あのままだったら、私、死んでました」
 だから、ありがとう。と。
 そして、少女は頭を下げる。
「怪我、させてしまってごめんなさい」
 私を守るためについてしまった傷ですよね、と刹那の腕を見る。
 刹那はゆるりと首を横に振った。
「いや……あなたに怪我がなくてよかった」
 おびただしい量の出血に、少女は少し狼狽えているようだ。
「刹那。早く本部へ戻って報告しよう」
 逆月の提案に刹那も頷く。
「……そうだな、怪我の手当ても必要だ」
 立てますか? とライトが少女に手を差し伸べる。
 そっとその手を取ると、手の甲の青い紋章が目に飛び込んできた。
「やはり……これは……」
 ライトが息を飲んだ。
 否が応でもあのときの事を思い出してしまう。
「あの……?」
「いえ、お気になさらず」
 ライトは気取らせぬようにっこりと柔和に微笑む。
 心のうちにくすぶる過去の記憶を振り払うように、少女の手を優しく握って立たせた。
「あなたも、顕現したのね……」
 ニッカが小さく声をかけると、少女は頷いた。
「はい」
 神人になるということはオーガに狙われる事。
 この後、彼女は帰る場所も無くしてしまったし、まずはA.R.O.A.の保護を受けることになるだろう。そこで適合する精霊を待つ。そういった流れだ。
 逆月は少し複雑な気持ちで少女を見つめた。
 このように恐ろしい思いをした直後で、戦いを強いられることになるのだろうか。
 怖がってはいないだろうか。
 ライトも、また同じ気持ちで見つめる。
 まさかそんなことを聞けるわけもなく、一同はタブロスまで護衛すべく少女と共に村を後にするが、その道すがら少女が自ら思いを打ち明けた。
「みなさんは、ウィンクルム、ですもんね」
「ん? あぁ」
 刹那が答えると、少女は頷く。
「正直、ウィンクルムとかオーガって、遠い存在だと思ってました」
 こんな辺境の村にオーガがくるだなんて思っていなかった。ましてや自分が顕現するなんて。
「でも、当たり前って……当たり前じゃないんだってわかりました」
 いつ、だれが顕現するかわからない。その可能性がある人物は、いつだって顕現の機会があるのだ。後々聞いてみると、彼女の家系を遡るとかなり前に神人が存在したらしい。
「その、……怖くは、無い?」
 ニッカが恐る恐る尋ねる。
(怖いに、決まってるわよね……あんな目にあったんだもの……)
 親兄弟、故郷、全てを失ってこれから彼女はタブロスへ往く。そのことだけでも不安は募るはずなのに、神人として戦う運命が待ち受けている。近い年頃のニッカならなおさら、その心細さや不安は理解できるだろう。
「……怖くないって言ったらうそになります。でも」
 少女はニッカ、ライト、刹那、逆月の瞳を順番に見つめ、はっきりと告げた。
「……あなたたちの絆を見ていたら、やらなきゃ、って思えたの」
 危険を顧みずナイフを手にデミ・ワイルドドッグへと切りかかった刹那。注意をひき付けながら飛び込んできてくれたライト。そして、そんなパートナーたちをしっかりと援護し、連携を取った逆月、ニッカ。
 それは、「守りたい」と強く願ったからこそ為し得たこと。そして、普段から強い絆を築くために協力し合っているということの顕れ。
 もちろん、全てを失った悲しみはそう簡単には癒えない。
 けれど、四人が教えてくれたことを胸に、少女はもう一度前を向く。
 諦めていなければ大丈夫だ。そう思わせてくれた四人の為にも、少女は誓った。
「あなたたちのおかげでちゃんと前を向けそうです。ありがとう。
 ……きっと、頑張りますから、応援していてくださいね」
 ギュッと握り締めた左手の甲の紋章が、決意を後押しする。
 四人は優しく頷いた。
 
 ――守りたい。共通の願いを胸に、五人はタブロスへと無事帰還するのであった。






依頼結果:成功
MVP
名前:豊村 刹那
呼び名:刹那
  名前:逆月
呼び名:逆月

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル 戦闘
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 07月09日
出発日 07月15日 00:00
予定納品日 07月25日

参加者

会議室

  • [1]豊村 刹那

    2015/07/14-10:12 

    ギリギリの参加ですまない。
    私は豊村刹那だ。
    精霊は逆月。プレストガンナーだ。

    ヤグズナルがいつ来るかわからないけど。
    まずは保護する為にも、デミ・ワイルドドッグを倒すか抜くかして少女の傍に辿り着きたいところだな。

    私は前に出ようと思ってる。
    ヤグズナルに対処する為にも、デミ・ワイルドドッグの脅威は早めに除いておきたい。
    コネクトハーツを持っていくから、逆月には私が仕留め切れなかったのを狙って貰う予定だ。

    少女に近づけたら、そのまま護衛のつもり。
    止めた方が良かったり、なんかおかしいところがあれば遠慮なく言ってくれ。


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