星渡りの姫君(錘里 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 とある村にて、星渡りという儀式が行われるらしい。
 内容は程々にシンプルだ。村にかかっている長い橋を、巫女が渡っていくだけのもの。
 渡る際には欄干を含めた橋の上にランダムに置かれた燭台に火を灯して行き、橋を渡り切った後に、灯篭に火を移して川へ流すのである。
 夜闇の中で、橋は天の川のように煌めき、灯篭は流れ星のように静かに川を泳ぐ。
 七夕の御伽噺に由来しているようなそれは、恋愛の加護があるとされて人を呼んでおり、当日はそれなりの観光客が集まる。
 橋から少し離れた川沿いに屋台が並んでみたりもしているそう。

 そんな儀式の行われるその場所に、オーガがの襲撃が予期されたのだ。
「ヤックドーラ一体に、ヤックアドガ一体。デミ・ワイルドドッグが三体程確認された」
 発見された場所は、村から程近い森の中。人が集まる場所へ襲撃されれば、大惨事となってしまう。
「村へ入る前に討伐してしまいたいのだが……森の中で戦うよりは、村と森の間に位置するこの広場に誘き寄せる方が、戦いやすいかとは思う」
 細かい迎撃ポイントは任せる。そう告げた上で、職員は少し言いにくそうな顔をした。
「……儀式自体の中止を検討して貰ったが、元々が村の豊作祈願でもあってな、承諾は得られなかったが、妥協案を出された」
 と、言うと?
「屋台の位置などをなるべく森から遠ざけるようにする事と……儀式を、ウィンクルムが行う事」
 ……と、言うと?
「トランスのオーラを纏った巫女って神秘的じゃね?」
 あ、はい。そうですね!
 遠い目をするしかなかった。
「燭台の数が多いから、巫女は毎年複数人になるそうだ。数は調整してくれ。巫女衣装は最大で五着用意されている」
 あれ? これウィンクルムの片割れ一人ずつ出せよってそう言う流れ?
「細かい事は任せた」
 微笑む職員は、ぐっ、と親指立てて送り出してくれやがった。

解説

●目的
オーガを討伐しよう
巫女として儀式を成功させよう

●敵について
ヤックドーラ×1
リーダー的オーガ。他のオーガを率いる
強壮作用のある舌で強化している。人間にはマヒ作用

ヤックアドガ×1
イノシシのようなオーガ
突進は破壊力大。基本的に真っ直ぐしか走れない

デミ・ワイルドドッグ×3
ヤックドーラによって強化済み

●戦闘場所について
基本は迎撃なので、戦闘場所をある程度選ぶことは可能です
村の出口と森の入口の間に広場のような場所があります(推奨場所)
障害物はありませんが、突破されると村が危ない可能性もあります
森の中で戦う事も可能です。道はありませんが、鬱蒼としているほどでもありません

●時間について
夜です。儀式をそろそろ始めようかなという雰囲気の暗さです
村の中には屋台などがありますが、基本的に儀式中は照明は落されています
村の外に灯りはありません。星はとても綺麗で、月明かりも比較的強め

●儀式について
一人一つ、蝋燭を乗せた皿を持って、橋を渡ります
人が通れる隙間を開けつつ、燭台がランダム配置されています
橋の幅はかなり広いです。燭台の数も結構たくさんあります
巫女衣装を纏って厳かな感じで火を灯して行って、最後に灯篭に皿ごと蝋燭を入れて川に流します
2人以上での作業を推奨します

●お察しかと思いますが
儀式中に、オーガを対処することになります
その為トランスしてから別行動して頂く形になります。距離とか時間とかは心配しないでください
儀式に参加する巫女役は神人でも精霊でもどちらでも可
人数配分、役の選出はご相談の上でご随意にどうぞ

ゲームマスターより

七夕っぽい事したかってん

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  ……そのサイズの巫女服があることがまず驚きなんだが
(相方を見やりつつ)
あのな、この年で女装で神事はたぶん罰が当たる(真顔)
それにお前は前に出られないだろ
ほら、そんなに心配するんじゃねえよ、気を付けるから
だから、お前は自分の務めを果たすこと。いいな?

ハイトランスを済ませたら推奨場所の広場で待機
敵が来たら戦闘開始

前方でデミの相手
槍のリーチを活かしつつ隙ができないよう大振りしないように
なるべく攻撃は集中させて数を減らしたい
ヤックドーラの舌の射程、ヤックアドガの突進線上を避けるように
位置を考えて行動
突破されそうな場合は割り込み、最悪身を挺してでも通さない

俺が「一人」に見えたんなら間違いって奴だな?


柊崎 直香(ゼク=ファル)
  トランス後、ゼクと別行動
僕がいなくてもちゃんとお仕事するんだよ

星渡り儀式の巫女役を務める
衣装の中には携帯電話
(着信音切りバイブレーション機能のみON)
無理でも終わり次第ゼクと連絡

順に橋を渡るなら先頭希望
川流しの後抜け出しやすいかなと

とは言え
こちらもお仕事。
蝋燭の炎が消えぬよう注意し燭台に次々灯す
伏目がちに口許だけ僅か撓らせて。
静々と一定の歩調で橋渡り。

ただ携帯に連絡入ったらその歩調も少し速めて
村側へ連絡、避難誘導

連絡無い限りは戦闘場所へ視線も呉れず周囲に覚られぬよう。
逆にさっさと始末つけて迎えに来たまえ
同じオーラを持つものが川にて逢瀬叶ったなら
祈願も加護もきっと有る――と、アピールできるでしょ


鳥飼(鴉)
  巫女服って男物ですか?
いえ、間違えられやすいのに。自分から更に間違えられるような格好をするのは、好きじゃなくて。(苦笑
人助けですから、女物でもちゃんと着ます。

巫女服を着て、別行動する前にトランス。
皆さん、気をつけてくださいね。

お皿を落とさないように、燭台を倒さないようにゆっくり慎重に歩きます。
戦いの方も気になりますけど、儀式に集中です。
数が多いですし、ある程度距離を開けて動いた方がいいでしょうか。
灯し忘れが無いか視線だけ動かして、こっそり確認します。
全部灯せたら、最後に皿ごと蝋燭を灯篭に入れて流します。

鴉さん、怪我は無いですか?(ぱたぱた確認
心配します。当たり前じゃないですか。
鴉さん?(首傾げ



暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
  別行動前にトランス
火力で考えれば、逆の方が良いことは理解しています。
が、その役はお断りします。お断りします(大事なことなのでry)

広場にて基本月明かりで対応
敵が一斉に仕掛けてきた場合、デミをメインに
バラバラに来た場合は近い奴から牽制・攻撃
積極的に前にでることはせず、向こうから間合いに入ってきた時を狙って確実に仕留める

詠唱に邪魔が入らないよう、可能な限りオーガの動きにも注目
自分で対応できるようなら身を挺してでも、不可能なら仲間に呼びかけ

必要なら懐中電灯やその光を利用してクリアライトで目眩まし
その際味方にも影響が出そうなら注意喚起
もし何度も使うようなら、フェイントも交えて相手の隙を狙う


日下部 千秋(オルト・クロフォード)
  心情:
……いつかこんな依頼(女装)が回ってくると思ってたよ……ああもう(頭抱え
しかもこの格好で初トランスかよ……

……でも本気で人命がかかってんだし、やるしかないよな。

行動:
巫女役として行動。
……厳かな雰囲気でってどんな感じにすればいいんだろうな(緊張している様子

「あの、先輩、トランス完了しましたけど……」(ただでさえキスが恥ずかしいのに凝視されたらもう憤死してもおかしくない状態の日下部少年



●星灯りの袂にて
 箱詰めの状態で用意された巫女服を見て、鳥飼は少し、ほんの少しだけ神妙な顔をした。
「あの、巫女服って男物ですか?」
「え? あ、いえ、申し訳ありませんが、基本的には女性が着る想定で居ます」
「ですよね……」
 困ったような顔をした鳥飼に、鴉は不思議そうに首を傾げていた。
「女物だとして問題でも?」
「いえ、間違えられやすいのに。自分から更に間違えられるような格好をするのは、好きじゃなくて」
 苦笑しながらも、人助けですからちゃんと着ますよ、と笑顔で箱を受け取った鳥飼を見つめながら、鴉はまた、少しだけ首をかしげる。
(その割に性別のわかり辛い服装で)
 普段着からして、いかにも男性というわけではないと思っているのだけれど。
 もっとも、言うと真顔でショックを受けそうな気がするから、口を噤むのだが。
(……いつかこんな依頼が回ってくると思ってたよ……ああもう)
 それが男性側の運命というものだ。諦めてくれたまえ。
 日下部 千秋は、ふわりとした巫女服を纏って、一人頭を抱えていた。
 初トランスが女装状態で、なんて……と途方に暮れた顔をしているが、大丈夫だ。多分君だけじゃない。
(……? 何故日下部はげんなりした表情なのだろう……?)
 一人うごうごとしている千秋を見ながら、オルト・クロフォードは不思議そうに首を傾げている。
 鴉と似た顔ではあるが、オルトはどちらかというと、心から不思議がっている。
(……違和感は、ないと思うのだが)
 似合わないと言うならばフォローすべきかと、やめておいた方が良い発想を浮かべる程度には他意の無い感想を抱いているオルト。
 うごうごを繰り返した千秋がようやく意を決してトランスの口付けを頬に捧げれば、仄かな明かりが場を満たす。
「あの、先輩、トランス完了しましたけど……」
 無言で見つめてくるオルトに耐えかね、ぽそぽそと進言した千秋。
 オルトはと言えば、ふむ。と何かを思案するような顔をして後、何か納得したように一つ頷いて、さっさと戦闘予定場所へと向かうのであった。
「火力で考えれば、逆の方が良いことは理解しています。が、その役はお断りします。お断りします」
 大事な事なので二回言いました。
 きっぱりと告げる暁 千尋に、自前のメイク道具を広げながら、ジルヴェール・シフォンは少し残念そうに肩をすくめた。
「ちゃんと見映えするように整えてあげるのに」
「そう言う問題じゃないです」
 眉を顰める千尋に、冗談よ、と朗らかに笑って着替えを済ませたジルヴェールは、ゆるりと袖を揺らして見せた。
「ふふ、やっぱりそれなりの格好をすると背筋が伸びるわね。本来なら危険な役はワタシがするべきなんだけど……仕方ないわねぇ」
 しずしずと歩み寄り、そっと瞳を伏せてトランスの口付けを求める。
「どうか気をつけて」
 巫女服に身を包んだジルヴェールを覆うトランスの光が、神秘的な空気を醸し出す。
 じ、と見つめてから踵を返した千尋は、巫女服の中に携帯電話を仕込んでいる柊崎 直香の姿を見つけた。
「僕がいなくてもちゃんとお仕事するんだよ」
「お前の目が無いからと手を抜くわけないだろ」
 保護者じみた台詞を吐く直香に、ゼク=ファルは一つ溜息をついて返す。
 手なんか抜けば、後で何を言われる事か。それ以前に、仕事で手を抜くなんて、あり得なかった。
 終わったら、終わらなくても万が一があれば連絡するように、とさらに言いつける直香に頷くゼク。
 少しずつ村の明かりが消えていく。そろそろ、儀式の時間だろうか。
「……そのサイズの巫女服があることがまず驚きなんだが」
 身長187センチ。自分と実に15センチもの差を有するイグニス=アルデバランが寸足らずにならない巫女服の存在に、初瀬=秀は素直に驚いていた。
 基本的には女性が着用することを想定しているが、巫女役はその年の新成人が行うゆえにたまに男女混合になるとかそんな理由があるんだ。
 それは置いといて、イグニスは秀の頼みとして巫女役を引き受けたはいいが、まさかまさか、戦闘に向かう己のパートナーが前線に参加すると言い出すのだから、動揺を隠しきれない様子だ。
「秀様がまさか前線に出るとか言い出すとは……! 今からでも遅くないですから代わりません?」
「あのな、この年で女装で神事はたぶん罰が当たる」
 お心遣い痛み入ります。でも多分こまけぇこたぁいいんだよ。で通る。
 それはそれとして。
「それにお前は前に出られないだろ」
「……うう、それはそうですが……」
「ほら、そんなに心配するんじゃねえよ、気を付けるから。だから、お前は自分の務めを果たすこと。いいな?」
 スキルの発動にも詠唱の為の時間を要するエンドウィザードよりも、身軽に動ける神人の方が都合がいい場合もある。
 特に、秀とイグニスはハイトランスが使えるウィンクルムであるゆえに。
「それでは、私の力を渡しますから……怪我、しないで下さいね」
 トランスの後、そっと秀の頬に口付けを捧げるイグニス。ハイトランスオーバーの発動を確認して、秀は限られた時間を無駄にすまいと、一つ頷いて村の入口へと向かった。

●それぞれの儀式
 ジルヴェールの髪が不意の風に揺れ、簪がしゃらりと音を立てる。
 ぽぅ、と燭台に移された灯りが、仄かに場を照らす。
 一つ、二つ、三つ――。五人の手で幾つも広がっていく炎の揺らめきは、静かに、厳かに、彼の美貌を彩る。
(強~い味方と一緒だし、大丈夫だとは思うけど……やっぱり不安ね)
 微かに憂いたような瞳が、緩く細められ、伏せられて。
 ふ、と開いた時には、滲んで見えた憂いは掻き消えていた。
 星灯りに似せた炎が、ジルヴェールノ瞳の中で瞬く。
(どうか無事に――)
 ゆっくりと進める歩。また一つと灯した炎は、祈りと重なる。
 武運あれ。
 誰も彼もの無事を、願う。

 月明かりの下に、トランスのオーラが佇む。
 一つ、二つ、三つ――。五人分の絆の光は、その場を仄かに仄かに照らす。
 彼らは、儀式の為に灯りを最小限に抑えることに決めた。
 夜に強いわけではない人の目には、闇と影が広がるばかりだったけれど、開けた場所であるゆえに、雲一つない空は、天上の灯りを地上に注ぐ。
 無言で空を仰いだオルトは、あぁ、これなら十分に敵を捉えられると確信を抱く。
 懐中電灯の明かりを確かめるようにつけたり消したりしていた千尋は、一度それをしまい、クリアライトの柄を握り直す。
 余程の窮地でなければ、使う必要のない光だ。
 不意に響いたのは、風の揺らすのとは違う、草木の音。
 耳聡く聞きつけたゼクは、すかさず武器を構え、魔法を練り始める。
 その前に立ち、鴉は村を守る上で最も厄介とみるヤックアドガに備えた。
 ざり、と。槍を握り締めた秀が短く息を吐く。
 数の上では五分なのだ。まずは数を減らすことを、念頭に。
「来いよ」
 通す気がない瞳が、挑むように、煽る。
 応じるように、真っ直ぐに飛び出してきたのは、イノシシのようなオーガだった――。

 足取りは緊張そのものだった。
 厳かな、と言われても今一つピンと来ない。だけれど、長めの裾を踏みつけてしまわないように気を付けて歩く千秋の歩みは、ゆっくりと丁寧で。
 周りに合わせる余裕もなかったが、少し間を開けた五つの種火が、トランスのオーラと共にまばらに進む光景は、どこか幻想的でもあった。
 自分の近くの燭台がまだ灯っていない。気が付いて、千秋はそっと火を移す。
 ふと振り返れば、幾つもの炎が後ろに続いている。
 川岸に立つ大勢の人の目には、さらに川に映り込んだ火が見えているのだろうか。
 未だ暗がりの前を見据える。また一つ、千秋は燭台に炎を移した。

 ぱぁん!
 真っ白な梟が、ヤックアドガの鼻先で弾ける。
 文字通り出鼻をくじかれたヤックアドガの勢いが弱まるが、その勢いを損なうまいとしてか、両脇からデミ・ワイルドドッグが駆け抜けてくる。
「一体の方、請け負います」
「頼む」
 リーチの短い千尋のクリアライトは、間合いに踏み込まれた時の為のもの。
 対し秀の持つ槍は、長い間合いを活かすもの。
 居並んだ二人の神人は、敵にとっては格好の獲物で。月明かりに反射する鋭利な牙をむき出しにして、二匹の犬が秀に襲い掛かってくる。
「俺が『一人』に見えたんなら間違いって奴だな?」
 どす、と。一匹の体躯に突き刺さる槍。それはイグニスの力を受け取った、極めて強力な一撃だった。
 デミオーガ程度なら一刀のもとに屠る事すら可能としているその力は、しかし複数を纏めて仕留める事が可能なエンドウィザードそのものでは、無くて。
 だからこそ、隙を突くように飛び掛かってくるもう一匹へと、オルトはただ無言のまま、ひたすらに引き金を引く。
 一方で、請け負うと狙いを定めた三匹目は、真っ直ぐ千尋に迫り、庇うように振るわれた短剣の刀身に、爪を打ち付ける。
(やはり、強化されていますか……ッ)
 ヤックドーラの強壮効果を受けた敵は、神人の力押しでは敵わない。月明かりを上手く反射させ、喰らい付いてくる眼前に閃光をくれてやると、千尋はぱっと距離を取る。
 のそり、攻防の後ろから、長い舌を揺らすヤックドーラが姿を現した。

 橋の上は、ひたすら静かだ。
 村の入口なんてそう遠くはない筈なのに、戦いの喧騒なんて聞こえてすら来ない。
「っと……」
 火の灯っていない燭台に体が触れて、鳥飼は慌てて燭台を支えた。
 戦いの方を気に掛けていては、手元が疎かになってしまう。
 集中しないと。言い聞かせ、努めてゆっくりと燭台に火を移した鳥飼は、一度小さく息を吐く。
 そうして、また吸う。周囲を見渡せば、もう半分ばかりの火が灯っただろうか。
 灯し忘れがないかと目を凝らし、一つ、不自然に余って見える空間を見つけては、ぽつぽつと揺れる火の間を、するりと抜けていく。
 ぽぅ――。灯った炎が、何だかとても、力強く見えた。
 ふ、と零れる微笑。顔を上げて、鳥飼は再び火を灯して歩く。

 首尾よく二体。デミ・ワイルドドッグが地に伏して動かなくなったのを見届け、鴉は一度、ちらりと千尋へと視線をやる。
 強化された敵に対して、神人一人では些か不安があろう。しかし、二体を素早く倒す事が出来たお陰で、オルトが対応できていた。
 心配は無用。となれば、己は予定通り、ヤックアドガを重視していよう。
 白梟に足を止められたヤックアドガは、顔を振るって立ち上がり、再び突進しようと地を踏み鳴らしている。
「懲りませんね」
 薄らとした笑みが、月明かりの元で冷たく冴えた。
 黒衣の鴉とは対照的な白梟が再び宙を滑る。
 それを追いぬいて、真っ直ぐ、後方のヤックドーラへ向けて熱線が奔った。
 ゼクの放つ乙女の恋心は、ヤックドーラを貫き、容赦のない熱を与える。
 可能であればそれで仕留めたかった心持ではあるが、そう易々とは屠られてくれないものだ。
 理解している。ゆえにゼクは間をおかず次の詠唱に入った。
 デミ・ワイルドドッグはオルトと千尋が仕留められるだろう。
 ヤックアドガは鴉のパペットに秀の火力が加われば、長引くほどでもない。
 唱えるのは、二度目の『恋心』。
 燻る熱を再び爆ぜさせるような、熱を――。

 先頭を歩いていた直香は、半分伏していた瞳を、不意に開いた。
 それは何かの予感に近かったのかもしれない。事が大きく動くような、そんな予感。
 だけれど、袖の中の携帯電話には何のアクションもない。
 全く気にならないといえば、きっとそれは嘘になるのだろうけれど。
 己が、気にすべきことではないとも、理解していたから。
 直香は再び瞳を伏せる。今は、巫女なのだ。
 豊穣の巫女は、恵みの炎を手に歩む。周りに何を覚らせる必要もない。
(さっさと始末つけて迎えに来たまえ)
 トランスの光を帯びたままの二人が、天の川によく似た橋の袂で逢瀬を果たす。
 それはさぞ、浪漫的で加護を助長しそうな光景ではないか。

 黒い猫が、ヤックアドガの足元に滑り込んで、爆ぜる。
 それによって止まった隙を突いて、鋭く打ち込まれる槍が、その生命を断ち切る。
 それが、どう、と横倒しに倒れたのと、デミ・ワイルドドッグが儚く鳴いて地に伏したのとは、同じタイミングで。
 はぁ、と肩で息をした千尋のクリアライトが、不意に月光を返す。
 光は、ヤックドーラを照らすように閃いて、長い舌が疎ましげに揺れるのが良く見えた。
 強烈なスキルを受けたその身は、武器を振り翳して躍りかかってくるほどの体力も残していないのだろうか。
 逃げると言う選択肢もあったのだろうが、ウィンクルムがそれを許すはずも、無かった。
 無言で両脇に撃たれる銃弾に揺すられるように、ヤックドーラの躰が左右に傾ぐ。
 踏鞴を踏んで、そのまま転げてしまいそうな敵を見据えて、ゼクは詠唱を結んで、乙女の恋心を発動させた。
 儀式の夜に相応しくなどない断末魔さえ、焼き切って。
 敵を仕留めきったのを確かめて、秀は大きく息を吐く。
「戻るか」
 今ならまだ、儀式の光景を見られるかもしれない。

 良い実りになりますように。
 豊穣の儀式と言い聞かせ、一つ一つ、炎を灯す度に願いを込めていたイグニスは、橋を渡り切る頃には、少し足早になっていた。
 灯篭へと火を移し、川に流す。一人ひとり順番に行われたその仕上げに、少しのもどかしさが募る。
 少し、ほんの少しだけ。
 心配なのだ。不安なのだ。
 己のトランスオーラはまだ残っている。ハイトランスを行った彼らだけが、他の者よりトランス状態が短くなっていたけれど。
 それでも、まだ――。
「これでおしまいでしょうか? 大丈夫?」
 最後の一つが流れていくのを見届け、イグニスはそわそわと小声で仲間に尋ねた。
 顔を見合わせ、大丈夫だろうと頷くのを見て、早々に踵を返す。
「私ちょっと様子見て――」
「その必要は、なさそうだよ」
 駆けだそうとしたイグニスを、直香の声が引き留めた。
 へ。と少し間の抜けた声を上げて瞳を瞬かせたイグニスだが、すぐにその表情が明るくなる。
「秀様!」
 戦闘組がこちらへ向かってくる。トランスの光が、人混みの間を縫って、こちらへ。
「秀様ご無事ですか!?」
 既に一人賑やかしくなっているイグニスに、秀は落ち着けを繰り返し、とん、とん、と肩を叩く。
 見ての通り怪我もなく、無事に確実に片付いた。
 心配することは何もないと、笑顔が語る。
 ほぅ、と肩の力を抜いたイグニスは、釣られたように笑顔になる。
「ご無事で、何よりです」
「お疲れ様です、先輩」
 怪我が無いようなのを、さっと見て確かめた千秋に、オルトはこくりと頷いた。
「日下部も、ご苦労だったな」
 綺麗とか可愛いとか似合ってるとかそう言う言葉は、思いつかなくて、伏せたまま。
 労う言葉に、気恥ずかしさと緊張で一杯になっていた千秋は、安堵したように微笑んだ。
「鴉さん、怪我は無いですか?」
 ぱたぱたと歩み寄って確かめた鳥飼に、鴉は胡散臭げな笑みを湛えて、ことりと首をかしげた。
「おや、心配してくださったのですか?」
「心配します。当たり前じゃないですか」
 何を言ってるんですかというような真っ直ぐな瞳と台詞に、思わず真顔になる鴉。
「鴉さん?」
 不思議そうに首を傾げる鳥飼に、鴉はゆるりと首を振る。
「いえ、なんでもありませんよ」
 月明かりよりも、炎よりも、トランスのオーラよりも。
 その瞳の無垢すぎる煌めきが、鴉の瞳には眩しく見えた。
「チヒロちゃん、無事で何よりよ。お疲れ様」
 にこりと微笑んだジルヴェールが、確かめるような視線を向けてくるのを、千尋は気取っていた。
「怪我はしてませんよ、先生。体を張るまでもありませんでしたから」
 突破されれば身を挺してでも。後衛に立つジルヴェールは、千尋の背中がそんな動きをする事を知っている。
 ゆえの、ささやかな心配は、しかし思っていた通り、全くの杞憂だった。
「それなら、後で屋台を見て回れるわね」
 提案は、千尋にとっては思いがけなかったのだろう。一度目を丸くしてジルヴェールを見つめたが、ふ、と表情を緩めて微笑んだ。
「そうですね。ぜひ」
 橋一面に揺れる、炎の灯った燭台。
 川はその煌めきを映し、流れ星のように川を下って行く灯篭を、岸辺の人々は感嘆の声と共に見送る。
 無事に儀式の終わったのを見届けて、ゼクは改まったように直香を見つめた。
「なに?」
「いや……」
 特にかける言葉も無かった。ただ、やっぱり似合うな、と思ったくらいだ。
「そっちも早く終わったようでよかったよ。タイミングとしては最高だったね」
 目論み通り、逢瀬を果たした。今年の儀式は、一層印象的な物になったに違いない。
 もう一度、ゼクは橋を見つめた。
 そうして、ぽん、と直香の頭を撫でた。
「お疲れ」
 堅苦しいのは、ここで、お終い。
 幻想的な炎の煌めきが、ウィンクルム達を労うように、静かに静かに、揺れていた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 通常
リリース日 07月08日
出発日 07月15日 00:00
予定納品日 07月25日

参加者

会議室

  • [17]日下部 千秋

    2015/07/14-23:10 

    一応こっちもプラン提出してきました。
    ギリギリまでここは様子見てるんで、何かあったら。

    よろしくお願いします。

  • [16]暁 千尋

    2015/07/14-23:02 

    一応プランは提出してきました。
    敵が一斉に来るのか、バラバラで来るのか分からなかったので、
    基本デミをメインにしつつ、近くにいる奴から対応するようにしています。
    先生の方にも万が一、突破された時を考えての行動は加えています。
    そうならないようにしたいところですが。

    ギリギリまで変更は可能ですので、何かあれば書き込み宜しくお願い致します。
    では、成功できるように頑張りましょう。

  • [15]初瀬=秀

    2015/07/14-21:37 

    あー合流は難しそうか、よかった聞いといて。
    そしたら若干変更、ハイトランスオーバーで少しでも火力上げとく。
    集中攻撃で早いうちにデミ3体の内1体でも倒せれば御の字だな。
    無理ない程度に気張るわ。

    まあ間に合えば程度でイグニスの方にも戦闘行動を少し盛り込ませてある。
    つっても火力は俺の数値だからそんなに出なさそうだがな。

  • [14]柊崎 直香

    2015/07/14-21:12 

    反応せんきゅーです。
    灯り必要になったらよろしくね。

    ゼクの魔法は初弾は「乙女の恋心」(単体攻撃)でヤックドーラ狙い。
    その時点で敵残りが1体ならもう一度恋心、
    2体以上なら「カナリアの囀り」(範囲攻撃)でセットしてる。

    あまり、たられば対応はしたくないんだけど敵の耐久読めないので仕方なく。
    鴉さんはお気遣いどうもどうも。発動遅い分削れるよう頑張らせる。
    あとは全般フォローできるよう動くよー。

  • [13]鳥飼

    2015/07/14-07:39 

    鴉:
    まとめについては自分が見易くしただけですので、お気に為さらず。

    千秋殿の抜き出し部分の他に『トランスしてから別行動』ともありますから。
    巫女役は戦闘には参加できないと認識しておりました。

    >戦闘
    ヤックアドガへの対応が現在はいない様子。
    なら、宣言通り中衛に着き、前衛を抜けた敵に対処。
    及び、ゼク殿がヤックドーラへ仕掛けるまで、ヤックアドガの牽制をさせていただきましょう。

    突進の勢いで突破されぬようにしなければいけませんか。
    パペットマペットを突進に合わせてぶつける方向で考えています。

  • [12]日下部 千秋

    2015/07/13-23:56 

    まとめありがとうございます。

    >戦闘
    俺も広場の方に賛成で。

    ……えっと。
    「儀式中に、オーガを対処することになります」ってなってるから基本的に巫女役は戦闘に参加できないもんだと思ってたんですけど俺の認識違いだったりしますかね……?

    こっちは、デミ・ワイルドドッグの対処を考えてます。
    ダブルシューターでの敵の行動範囲の制限・動きの攪乱を狙ってみます。

  • [11]初瀬=秀

    2015/07/13-21:47 

    鴉はまとめありがとうな。

    戦闘場所は広場、明かりは基本月明かりの方針で賛成だ。
    あれ、確認だが儀式を行う橋は村の中だよな?
    つうことは巫女役は後から駆けつける感じになるのか……?
    認識違ってたらすまん。

    *戦闘
    エンドウィザード3人だから火力は十分にありそうだな……
    一応イグニスは補助に回らせようかと思ってる。
    朝霧での攪乱や天の川での侵入阻止だな。
    で、前衛が少々薄いんでハイトランス・ジェミニで俺が前に出る予定だ。
    オーガはきついかもしれんがデミなら何とかなるんじゃないかと期待しつつ。
    補助専門にするならオーバーでかなりの攻撃力が出るっちゃ出るんだが、な。

  • [10]暁 千尋

    2015/07/12-22:31 

    鴉さん、纏めありがとうございます。

    戦闘場所については僕も広場の方が良いと思います。
    基本が迎撃ということですので、あちらの動きが読みづらい森の中よりは
    動きやすい場所の方がやり易いかと思います。

    明かりについても月明かりを頼りにする方に賛成です。
    懐中電灯は必要時に一瞬だけ使う方が目眩ましとしても有効かと。
    一応クリアライトと共に持って行くつもりですが・・・あまり多用はできませんね。
    多少なりとも敵の注意を逸らせれば、と考えてます。

  • [9]鳥飼

    2015/07/12-18:51 

    >儀式
    『巫女役に必要なのは最低2人』
    そうですね。そっちの方が意味が通ります。
    僕が読み間違えてました。


    鴉:
    戦い易さを考えると、私も広場を選択しておきましょう。
    此方が戦い易いという事は、敵も戦い易いという事になりますが。

    クリアライトやクリアレイン等を使用する場合は、
    月明かりでは心許無いので懐中電灯は有効かと思います。
    ただ儀式の為に明かりを抑えているのであれば、
    私も月明かりを頼りに戦闘が良いかと考えます。

  • [8]柊崎 直香

    2015/07/12-14:23 

    鴉さん、まとめありがとー。

    >儀式
    「一人一つ、蝋燭を乗せた皿を持って、橋を渡ります」だから
    行動自体はバラバラ、というか順に歩けばいいんじゃない?
    一定の間隔を持って燭台巡り、次に歩く人がまだ火の灯ってない燭台へ、
    の繰り返しなイメージだった。
    巫女役に必要なのは最低2人、の意味で読んだけど……どうなんだろ。

    >戦闘
    ゼクは詠唱時間のかわり火力タイプなので、
    ヤックドーラ辺り狙って燃やそうかなーと考えてるよ。
    作戦によっては範囲攻撃、壁作成など変更可。

    戦闘場所は推奨どおり、広場のような場所、でいいかな?
    灯りは……下手に強い電灯持って行って夜目きかなくなるよりは
    月明かり頼った方がいいかも、とは思うけど皆の意見聞きたいところ。
    必要になったら灯す、もありだけど
    ゼクは両手武器なので他の人に任せる形になっちゃいそうだ。

  • [7]鳥飼

    2015/07/12-12:35 

    鴉:

    ふむ。
    では現状の割り振りとしてはこうですか。

    ---(順不同、敬称略)
    巫女:
    イグニス、ジルヴェール、直香、鳥飼、千秋

    戦闘:
    秀、千尋、ゼク、鴉、オルト
    ---

    そうですね。なら、私は中衛にでも入りましょうか。
    回復手段を持ち、指揮を取るヤックドーラを早々に排除してしまいたいものですね。


    鳥飼:
    あ、儀式の方も2人以上で作業ってありますし。
    どう分けましょうか。
    2人と3人がいいでしょうか。

  • [6]日下部 千秋

    2015/07/12-00:36 

    (PL:記入漏れがあったので再投稿しました。すみません)

    どうも、日下部千秋(くさかべ・せんしゅう)です。
    こっちはプレストガンナーのオルト・クロフォード先輩。
    初瀬さんはお久しぶりです。
    他の人達もよろしくお願いします。

    で、巫女役……俺が、やります。

    ……この状態で初トランス……(ポソ
    オルト「?」

  • [4]柊崎 直香

    2015/07/11-17:26 

    よろしくお願いしまーす。
    クキザキ・タダカと、精霊はエンドウィザードのゼク=ファル。

    うちは僕が巫女役、ゼクに戦闘参加させようかな。

  • [3]暁 千尋

    2015/07/11-16:23 

    こんにちは、暁千尋とエンドウィザードのジル先生です。
    日下部さん達は初めまして。
    皆さん、よろしくお願い致します。

    巫女役は当然先生が務めます。

  • [2]初瀬=秀

    2015/07/11-16:04 

    初瀬と、エンドウィザードのイグニスだ。
    大体顔合わせたことあるかな、よろしく頼む。

    巫女役はイグニスの予定だ……やかましい、俺はやらん!
    (後方で文句言う精霊に向かって)

  • [1]鳥飼

    2015/07/11-11:51 

    こんにちは。
    僕は鳥飼と呼ばれています。皆さんよろしくお願いしますね。
    こちらは鴉さん。トリックスターです。(手で隣を示す

    巫女役をするのは僕になりそうです。


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