T.F.C.~織姫に届ける想い~(あご マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「また、T.F.C.ですか」
「はい!」

 俺は自信満々に答えた。
来る七夕に備えて、師に直談判して練った企画だ。絶対に成功させてみせる。
春に行ったT.F.C.以来、俺はすっかりふんどしの魅力の虜になっていた。
より多くの人々に、この魅力を知ってもらいたい!
もっとたくさんのオリジナルふんどしを見てみたい!
そんな思いから企画したのが、このT.F.C.~織姫に届ける想い~だ。

 今回の企画は、前回のT.F.C.と根底は一緒である。
ウィンクルムに、オリジナルふんどしをデザインしてもらい、
そのオリジナルふんどしでファッションショーを行うのだ。
ただし今回はふんどしの形を越中ふんどしに限定してデザインしてもらう。
……なぜなら、七夕が近いからだ。
ウィンクルムたちは片方が彦星、もう一方が織姫となり、
彦星は織姫への思いを、織姫は自身の願いを
それぞれ七夕の短冊に見立てた越中ふんどしの前垂れにしたためてもらうのだ。
ふんどし以外のデザインは、春と同じく自由。
愛の伝道師ウィンクルムと、その愛を熱くしたためたふんどし!
これ以上七夕に相応しい組み合わせがあるだろうか、いやない。

 俺はA.R.O.A.の依頼掲示板の一番よく見えるところにT.F.C.の募集チラシを貼って、A.R.O.A.を後にした。
次は、場所の下見だ。

 借りようと思っている会場は、とある野外会場だ。
橋に見立てた全体的に朱塗りの装飾が施され、そばを流れる川の姿と相まって
七夕にぴったりの会場と言えた。
さらに、タブロス中心地から少し離れているので
街灯の明かりに遮られることなく星空を眺めることもできる。
素晴らしい会場だ。
事務所から会場までのウィンクルムたちの移動にはマイクロバスをつかうことにして
俺は会場の下見を終えた。

あとは、ウィンクルムたちの応募を待つだけだ。

解説

●ふんどし
越中ふんどし限定クエストです。
神人、精霊どちらが織姫でも彦星でも構いません。
・織姫…ふんどしの前垂れを短冊に見立てて、自分の願い事を書いてください。
・彦星…ふんどしの前垂れを短冊に見立てて、織姫への愛を書いてください。
また、どちらも織姫、どちらも彦星も可とします。
下半身がふんどしであれば、上半身は着てても着てなくても構いません。

●会場
朱塗りの橋がモチーフの会場です。
近くを流れる川は水もきれいで泳いでも大丈夫そう。
イベント開催時間は昼~夕方ですが
イベント後、夜には綺麗な夜空を見ることもできます。

●参加費
一律一組500Jrいただきます

ゲームマスターより

お待たせしました。



お待たせしました。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)

  …ノリと勢いって大事だよな

七夕といえば、やっぱり七夕飾り
七夕飾りには意味があって…
投網は「豊漁になりますように」
千羽鶴が「家族が長生きしますように」
そして短冊は「願い事がかない、字が上手になりますように」

密かな願いを込めて千羽鶴が入ったふんどしをデザイン
(フィンが末永く幸せにいられますよう)

お祭りの雰囲気を出す為、法被に鉢巻も

(彦星は織姫への愛を書く…皆に見られる…無理だ!)
俺は織姫にする…

フィンが彦星に?
…皆に見られるんだぞ?
そんな風にきっぱり言われたら何も言えない

願い事『これからも幸せを繋いで行けますように』

フィンの短冊を見て赤面
顔を見れない
嬉しさと恥ずかしさで

ステージでは観客に手を振る


むつば(めるべ)
  近頃の老若男女は褌も嗜むのか。
面白い、今日は良い日になる事を願うぞ。

自分達の出る順番を確認。
単独で出るのか、精霊と共に出るかわからぬが、
せめて、めるべとハイタッチしてから退場したいのぅ。

織姫の髪飾りと髪型、上着を身に着ける。
濃い赤紫の褌には天の川を模した白の飛沫と
同じ色の文字で願い事を記した。
内容は「世の為人の為 この身を尽くせますように」。

舞台の上ではファッションモデルのように歩く。
観客を見回した後、視線を集めようと右の太腿を晒してみる。

「社交辞令じゃ」
褌のお披露目後、めるべにからかわれるように言われてそう呟く。

「じゃが、褌に書いた事は誠。
この命ある限り、出来る限りの事をわらわは成し遂げる」



明智珠樹(千亞)
  ●彦星
ふ、ふふ…!春に引き続き出演できて光栄です。
今回も楽しくなりそうですね…!

●動き
今回も上着着用。
丈の長い白ジャケットを羽織り、優雅にに微笑みを浮かべモデルウォーク

「ふふ。本日は私の愛を織姫に伝えたいと思います」

白いケットを開けば、内側に刺繍入り
『愛羅武勇』『夜路死苦』『千亞生涯最愛』等暴走族チック。

薄紫色の越中褌には謎の模様。
千亞と腰位置を合わせると…ハートマークが出来る

「泣く子も黙る褌大使、明智珠樹!褌一筋、褌普及のためにツッパってくんで夜露死苦!千亞織姫愛死天流!」

川に蹴落とされ
「千亞さんてば照れ屋さん、ふふ…!」

夜空が見れたら流れ星探し。
『ずっと、千亞さんの傍に居られますように』


スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
  ★彦星
ふんどし界隈で話題だったTFC!出演できて光栄だな!
明智や海十たちにアドバイスないか聞いてみようかな?

…ミスト、心が汚れてる…

★褌
全面に施したハイビスカス柄
白×灰×薄青の配色で模様の主張を抑え、爽やかに

綴る愛の言霊は『骨肉之親』
血の繋がりはなくても
俺と君は、最高の友達で家族だよね?
(彼も同じ気持ちなんだ!
最近ぎくしゃくしてたから
すごーく嬉しいし、安心した)

★ショー
カウボーイ帽にトインタ・ポンチョ
手には二丁拳銃!…じゃなくて水鉄砲

イーハー!ふんどしガンマンだぞー
客席を撃つふりしながら歩く
最後は帽子を投げてターン決めるよ

お姉さんのミスト、いつ見ても格好いいなぁ
彦星だけどお嫁になりたい


 「……ノリと勢いって大事だよな」
 見覚えのあるデザイナー事務所の中、応接セットのふかふかのソファに腰掛けた蒼崎 海十は諦観の表情を浮かべた。
隣では、パートナーのフィン・ブラーシュがにこにこと微笑を浮かべている。
「うん、せっかくなんだし楽しもうよ、海十……と、千亞さんも」
 シックな色合いのローテーブルを挟んで向かいにあるソファでは、明智珠樹と千亞が相も変わらず言い争っていた。
「珠樹、ふんどしと世界平和とどう関係があるんだよ!
なんでまたここにいるんだ! 僕に拒否権はないのか!」
「ふ、ふふ……! 今回も楽しくなりそうですね……!」
 言い争っていると言うよりは、千亞が一方的に文句を言っている、と言ったほうがよさそうだ。言われている珠樹は嬉しそうに不気味な笑い声をあげている。
春のT.F.C.でも何度か目にした夫婦漫才のようなやりとりに、海十もフィンもすっかり慣れていた。あれは止めなくても大丈夫なやつだ。
「ほほう、世界平和、とな?」
「そう! 珠樹が七夕の願い事を聞いてきたから、世界平和かな、って答えたら何も言わずにここに連れてこられたんだ」
 左手に座っていたむつばが千亞の願いに反応して声を上げたので、これ幸いとばかりに千亞がむつばにここまでの経緯を話す。
「それは……明智とやら、お主、策士じゃな」 
 めるべがにやにやと嗤いながら感心したような声を上げれば、珠樹はぐっと拳を握って力説する。
「千亞さんのふんどし姿には、この世界中を幸せにする驚くべき魅力があるのですよ!
千亞さんが世界平和を望むならT.F.C.でふんどしになるしかないと私は思うのです!」
「珠樹気持ち悪い!」
「ありがとうございます!」
「褒めてない!」
「私にはご褒美です!」
 そのやり取りを聞いて声を上げて笑っているのは、
むつばとめるべの向かい側のソファに座ったスコット・アラガキだ。
「いやあ、相変わらず珠樹は面白いなあ。ふんどし界隈で話題だったT.F.C.、出演できて光栄だな! な、ミスト!」
 嬉しそうに笑いかけてくるスコットに、ミステリア=ミストはお、おう、と曖昧な返事を返すが
スコットは気にした様子はなく珠樹やフィンにアドバイスはないかと聞いていた。
ミストのなんとなく歯切れの悪い様子に気づいたのは、右隣に座っていた海十だ。
海十はソファから身を乗り出してミストにこっそり耳打ちする。
「ミスト、何かあったのか」
「泥酔してる時に誘われてOKしちゃったんだよ……
酔いが醒めて、断ろうと思ったんだけど、期待に満ちた目で見られたら断れなくて」
 「……まあ、ノリと勢いって大事だよ、な?」
  低い声で呻くように呟くミストに、海十が苦笑しながらもう一度言って肩を叩いた時、
事務所のドアが開いて、スーツの男が入ってきた。
「やあやあウィンクルムの皆さんお待たせいたしました。T.F.C.にご参加いただきありがとうございます!」
 前回とのあまりの変わりように千亞と海十は若干驚いたものの、何かを尋ねる間もなく彼は流れの説明に入ってしまった。
「えー、ウィンクルムの皆様方にしていただくことはですね、
皆様だけのオリジナルふんどしをデザインしていただくこと、それからT.F.C.……タブロス・ふんどし・フェスティバルを盛り上げていただくこと。これだけでございます。
それでは、どうぞよろしくお願い致します」
 男が頭を下げると同時に、横に控えていたスタッフが一人に一冊スケッチブックを配る。
色鉛筆も用意され、一同はさっそくふんどしのデザインに取り掛かった。

 「七夕といえば、やっぱり七夕飾りだな
七夕飾りには、それぞれきちんと意味がある」
「そうなの?」
 知らなかった、と呟くフィンに、海十が七夕飾りの意味を教えてやる。
「投網は、豊漁になりますように。千羽鶴が、家族が長生きしますように。
そして、短冊は願い事がかない、字が上手になりますように、だ」
「へえ、いろいろ意味があったんだね。なら……俺は投網をイメージしたデザインにしようかな」
 手にしたペンと色鉛筆を、さらさらとスケッチブックに走らせるフィン。
願いの内容を話すつもりは、今は無いようだった。
それを見て、海十も何も言わずに自分のふんどしのデザインを絵にし始める。
海十は千羽鶴をあしらったデザインにすることにした。
更にお祭りらしい雰囲気を出すために、法被と鉢巻も書き足しておく。
「フィン、できたか?」
 デザインをあらかた決め終え、あとは文字を入れるばかりとなった海十がフィンに声をかける。織姫になるか、彦星になるかで、褌に書く文面は変わってくるのだ。
「うん、だいたいね。で、彦星と織姫、どっちがどうする?」
 にっこりと笑うフィンには、織姫と彦星特にどちらがいいとか嫌だとか、そういった希望はないらしい。
海十はと言えば、パートナーへの愛を綴った短冊ふんどしを見知らぬ他人に見られるのは気恥ずかしいものがあり、できれば避けたいと思っていた。
「俺は、織姫にする……」
「海十が織姫なら、俺は彦星かな」
 楽しげに言ったフィンがすぐさまスケッチブックの端に文面を考え始めるのを見て、
海十は信じられないといった表情でフィンに聞き返した。
「フィンが彦星に?」
「何か問題でもある?」
 フィンは特に気にした様子はない。海十はさらに質問を重ねた。
「皆に見られるんだぞ? いいのか?」
「うん、見られちゃうね。問題ないよ」
 先ほどとなんら変わらない穏やかな笑顔を浮かべながら、フィンは返答した。
本当に、恥ずかしいと思っていないようだ。
そこまで言われてしまっては海十は二の句が継げず、そうか、と引き下がるしかなかった。
「さ、早く書かないと時間ないよ」
 フィンが楽しげに海十を促し、自分も再度スケッチブックに向き直ったのを見て
海十も自分の願いを書くべく、色鉛筆を持ち直すのだった。

「近頃の老若男女はふんどしも嗜むのか。面白い、今日は良い日になることを願うぞ」
 期待に瞳を輝かせながら、むつばは自身が身に着けるふんどしのデザインを考え始めた。
ふんどしのお祭りとは楽しそうだ、と気持ちが沸き立つ。
「ふん、どうしよう」
 お得意のダジャレを口にしながらめるべも自身のふんどしのデザインを考える。
「祭事とはいえ、意外にも賑やかだからのう。
仮につまらぬ舞台だったら、ふんどし一丁で憤怒してしまうところだったわい。ふんどしだけにな」
 からからと笑うめるべに、むつばが問いかける。
役割分担を決めておこうと思ったのだ。
「のう、めるべ。そなたは織姫と彦星、どちらの役を演ずるのじゃ」
「わしは彦星の役をやろうかと思うておる。むつ、お前はどうするのじゃ」
「わらわは織姫を演じようかの。めるべからの愛の言葉、楽しみなものよな」
 にやにやと笑みを浮かべたむつばは、色鉛筆を手にスケッチブックにデザインを書き起こし始めた。
それに倣い、めるべも色鉛筆に手を伸ばす。
二人並んでスケッチブックになにやら書きつけている姿は子どもがお絵かき遊びをしているようにしか見えないが、
その実二人とも実年齢は見た目の数倍になる。自然とふんどしのデザインも落ち着いた色合いのものとなった。
お互いのふんどしデザインを見せ合って、細部を微調整すると、二人はにやりと笑った。

「千亞さん、このふんどしのデザイン、私に任せてはくれませんか」
 きりりと表情を引き締め珠樹が尋ねてきて、一瞬で千亞の脳内で天秤が行ったり来たりした。
珠樹にデザインを任せる危険度と、自分でデザインを描く面倒くささ。
どちらに重きを置くべきか。
「ちなみに、私は彦星をやります。千亞さんには織姫をお願いするつもりでいます」
 きりっ。
 引き締まった表情はふんどしへの真剣さゆえか、それとも別の何かか。
「……わかった。あんまり変なデザインにするなよ」
 珠樹が彦星を選ぶのは想定の範囲内として、織姫ならば願いを書くだけだし、
そこまでおかしな文面にはならないだろうと考え、千亞は珠樹にふんどしのデザインを任せることにした。
それに、千亞には確信があったのだ。
珠樹は千亞が本当に嫌がるようなデザインには絶対にしてこないと。
四六時中一緒にいるのだ、それくらいはわかる。
 ふんどしのデザインは珠樹がしてくれるので、千亞は以前と同様にスケッチブックに絵を描いて待つことにした。お得意のパフェ、それからプリン、うさぎ、ねこ、と思いつくままに書き連ねるが
千亞をモデルにデザインを考えている珠樹の視線が熱いほどに肌に突き刺さる。
心なしか呼吸も荒くなっており、はあはあという呼吸音が会話のない部屋の中にいやに大きく聞こえて、
気にしないようにしていても一抹の不安を感じざるを得ない千亞だった。

 スケッチブックの紙の上を、色鉛筆が走る音が響く。
スコットが持ったスケッチブックに描かれた夏らしいハイビスカス柄のふんどしは、
控えめの配色で主張しすぎ無いながらも爽やかなデザインでとても華やかだった。。
軽く口笛を吹きながらスケッチブックにデザインを考えていくスコットの隣で、
ミストの手が止まる。
 願いって言われてもなあ、と胸の奥で呟くミスト。
手にしたスケッチブックに描かれたふんどしはシックな黒地に天の川をイメージしたラメが輝くデザインだ。
彦星を革の向こうへ渡すカササギを大きく配置してある。
そこに書く、星に願う願い事がミストの頭を悩ませていた。
 宝くじが……と書こうとして、ミストは書きかけた文字をぐしゃぐしゃと塗りつぶした。
これは夢があるようで無い。
悩んだ末にほぼ自棄のような気持ちで四字熟語を一つ書いた。
『家内安全』
もうこれでいいや、と諦め、ふんどしのデザインの他に、必要な小物などをスケッチブックの端にリストアップしながら、ミストはスコットに尋ねた。
「ふんどし、って下着だよな」
「うん、そうだよ」
 質問に、答えるスコットが特に深く考えた様子はない。
だが、ミストにしてみれば大問題だ。
「つまり、T.F.C.は下着ショーってわけだな」
「うん? そう言われればそうだね」
「下着ショーに純粋に下着だけ見に来る客って少ないだろ」
「そうかな?」
 スコットは特に気にした風もなく答えるが、ミストの脳内では大事な弟分や若い子が
ステージを囲む観衆の下卑た視線に晒される姿がまざまざと再生されていた。
「お前や若い子たちが穢されないか心配だ……俺おかしくないよな」
「ミスト……心が汚れてる……」
 今までになかったミストの斬新な発想に、珍しくスコットがツッコミを入れることとなった。


 各々のデザインセンスと七夕への思い、それからだいぶ拗らせた性癖を詰め込んだふんどしも無事に完成し、
一同はスタッフの運転するマイクロバスでT.F.C.会場へと向かった。
遠くから見る限りでも、T.F.C.会場にはすでにたくさんの観客が詰めかけており、
T.F.C.が始まるのを今か今かと待ち侘びている様子だ。
マイクロバスの中からでも、その熱気が伝わってくる。
「なんか、前回よりも人が多い気がするな」
「みんな、ふんどし好きなんだな」
 海十の言葉に、千亞も同意して頷く。
「そりゃあ、前回のイベントのあと問い合わせが殺到しましたからね!」
デザイナ―の男が上機嫌で話す。初めて聞いたのうとめるべは目を丸くした。
「あのウィンクルムが履いていたのと同じデザインのふんどしがほしい、なんて電話も多かったんですよ。
今回は初参戦のウィンクルムさんもいるし、また新しいふんどしの魅力を伝えられるんじゃないでしょうか」
 ウィンクルムさん達の人気はすごいですね、と笑う男を見て、そんなもんかねえとミストが呟く。
ほどなくして会場の裏手にバスが到着して、会場入りした一同は早速T.F.C.の準備に取り掛かった。

 二度目の参加ともなればふんどしの装着ももはや手慣れたものだ。
海十は千羽鶴がデザインされたふんどしを手早く締めると、法被を羽織って鉢巻を巻いた。
ふんどしの前垂れには、『これからも幸せを繋いで行けますように』と書かれている。
「……よし」
 姿見で確認すれば、いかにも祭りといった雰囲気に仕上がっている。
ふと見ればフィンも準備ができたようで、ステージへ続く階段の下で海十を待っていた。
フィンが締めているふんどしの前垂れには、織姫、つまり海十への気持ちが綴られているはずだった。
ちらりと見れば、でかでかと『夜空に輝く俺の愛おしい星』と書かれている。
「フィン、お前、そのふんどし……」
「ふふ、かっこいいでしょう」
 恥ずかしがる素振りもなく得意げに笑うフィン。あまりのことに海十の方が赤面してしまい、フィンの顔を見ることができず、海十は慌てて視線を逸らした。
「海十の事を考える時、夜の海を照らす明るい星みたいだなぁって思った。
暗い水底に居た俺を、引き上げてくれた星」
以前、尻込みするフィンの背を押し、一歩を踏み出させたのは海十だった。
そのおかげで強くなれたのだと、フィンは信じていたのだ。
 それを聞いてさらに真っ赤になった海十に、フィンが手を差し出した。
「行こう、海十」
 階段を上り、二人で並んでステージに立つと、満員の観客が大歓声で迎えてくれた。
観客に手を振りながら、海十はフィンのふんどしに書かれた言葉を思い出す。
『夜空に輝く俺の愛おしい星』
あれがこの観客全員に見られていると思うと、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
以前と変わらず花道を歩き、ターンしてステージ裏へ戻るだけなのに、なんだかひどく体力を消耗した気がした。

 次に登場したのはむつばとめるべだ。
織姫のように整えた髪に、織姫のイメージの美しい髪飾りを挿し、華やかな上着を身に着けているむつばと
同じく、彦星のような髪に、彦星のイメージの輝く髪飾りと凛々しい上着をまとっためるべは
向かい合ってハイタッチをした後、堂々と花道を歩き出した。
むつばの濃い赤紫色のふんどしには、天の川をイメージした白の飛沫が散らしてあり、
『世の為人の為 この身を尽くせますように』と願いが記してあった。
一方めるべのふんどしには、むつばと同じく白い飛沫と
『貴男と私 二人で一人』というむつばへの愛が記してある。
「愛に有償も無償も無いが、直に発するのもつまらんからの」
 観客の歓声が響き渡る中、めるべはぼそりと呟いた。
まるでファッションモデルのように颯爽と歩いて花道の先までたどり着いた二人に、
観客たちのより熱狂的な声援が送られる。
中には、二人に向かって手を振る者までいた。
気を良くしたむつばはぐるりと観客を見回した後、衣装に手を伸ばすと
するりと上着を片側だけたくし上げ、滑らかな右の太腿を露わにし、にやりと笑って見せる。
それを見ためるべは不機嫌にむつばの手を引くと、くるりとターンして花道を早足で歩き舞台裏へと戻った。
「お主、客への媚売りは達者じゃの」
舞台裏へ引っ込んだめるべは珍しく皮肉めいた口調をむつばにむけたが
むつば本人は気にした素振りはない。
社交辞令じゃ、と言うむつばに、めるべは鼻を鳴らした。
やりすぎだ、と思ったのだ。
不機嫌な表情はそのままに、めるべは着替えるため更衣室へと向かった。

 「意外だ……」
 千亞は手にした衣装を眺めて呟いた。
あの珠樹が作ったにしてはシンプルなデザインのふんどしを警戒して、
何度も裏返したり引っ張ったりしてみるが何か仕掛けられている気配もない。
布地に、謎の流線型の模様が入っているだけのデザインに、『ラブ&ピース』と書かれている。
 用意されていた衣装を一通り身に着け更衣室から出ると、
目の前で待機していた珠樹がひゃーんともふぁーんともつかぬ甲高い鳴き声を上げて駆け寄ってきた。
「ああああああああ千亞さん! 美しい! 素晴らしい!
さすが私の愛しい織姫……いや織王子? とにかくすんばらしいっ!」
「織王子ってなんだよ。ってかなんでお前だけジャケット着てるんだよ!」
 千亞の目の前で大興奮の珠樹は丈の長い白いジャケットをがっちりと羽織り、
見えるのはすらりとした脚の膝下のみ。
一方千亞は織姫をイメージしたとかいうコンセプトの、ピンク色で薄く透ける着物を羽織らされていた。
自分が羽織るのは気にならないが、珠樹だけが着込んでいるのはなんとなく不公平に感じる。
 「いいんですよ私はこれで。この中に千亞さんへの愛がたあっぷり詰まっ、」
「いらない。気持ち悪い」
「ああんっ、堪らない! 千亞さんのその見えそうで見えないお・ち・くも可愛らしいですよほほ」
「もういいや、黙ってて」
 言われれば確かに、この薄く透ける着物は普段服で隠れている部分まで見えてしまう。
やっぱり珠樹のがっちり着込んだジャケットを羨ましく思いながら、二人はステージに上がった。
さすがに二度目ともなれば、千亞も観客を見渡す余裕があった。
隣に立ち笑顔で手を振る珠樹は未だがっちりとジャケットを着こんでいるが、
どうせ前回の肌色モザイクふんどしと同じようなものだろうと千亞はため息を吐いた。
 珠樹のいやに美しいモデルウォークを横目に見ながら花道の先まで到達すると、
白いジャケットの前に手をかけた珠樹がふふ、と笑い観客に向かって叫んだ。
「本日は私の愛を織姫に伝えたいと思います」
 そういって珠樹がジャケットの前を勢い良く開けると、
ジャケットの内側には豪華な刺繍がこれでもかと言わんばかりに施されていた。
書かれているのは、いずれも画数の多い漢字で書かれた言葉だ。
『愛羅武勇』『夜路死苦』『千亞生涯最愛』『羅武離胃兎』
「ぼ、暴走族……?」
 心の準備はしていたはずなのに、
斜め上にぶっ飛んだ珠樹の行動に呆気にとられる千亞の肩を珠樹がグイと抱き寄せた。
「泣く子も黙る褌大使、明智珠樹!褌一筋、褌普及のためにツッパってくんで夜露死苦!千亞織姫愛死手流!」
 言葉と共に、珠樹が千亞と腰の位置を合わせると、
珠樹と千亞のふんどしにそれぞれ描かれていた流線型の模様が繋がり、
二人のふんどしを合わせた中央に大きなハートマークが浮かび上がった。
流線型だと思ったものは、ハートマークの片割れだったのだ。
「……とりあえず川に落ちてこい!」
 あまりの展開に言葉を失った千亞は、我に返ると同時に珠樹を傍に流れる川に蹴り落とした。
派手な水飛沫を上げて川に突っ込んでいった珠樹に、観客の歓声と笑い声が向けられた。
「千亞さんってば照れ屋さん、ふふ……!」
 水から上がった珠樹が呟く頃には、千亞はステージから姿を消していた。

 「イーハー!ふんどしガンマンだぞー」
 陽気な声を上げてスコットが舞台に駆け上がった。
カウボーイハットにトインタポンチョ、両手には二丁拳銃ならぬ、二丁水鉄砲だ。
ふんどしには『骨肉之親』の文字。
ばーん、ばきゅーん、と叫びながら、スコットは観客に向かって銃を乱射するふりをしながら花道の先まで駆け抜けていく。
対するミストは長い髪のウィッグを身に着け、黒のレースの羽織を靡かせながらハイヒールで悠々と花道を闊歩していた。
内心では、退かぬ、媚びぬ……と念仏のように唱えていたが、表情だけは笑みを絶やさない。
 自棄のように思いついた女装で別人になりきって恥ずかしさを軽減する作戦だが、
黒にラメのふんどしがシックなドレスに見えてくるほど良く似合っていた。
ふんどしに書かれた『家内安全』の文字さえ美しく見えてくるから不思議だ。
 先に花道の先へ辿り着いたスコットは、花道を歩いてくるミストに一瞬見惚れてしまう。
スコットの視線に気が付いたミストがにやりと妖艶な笑みを向けてから、スコットの隣に立った。
「お姉さんのミスト、いつみても恰好いいなぁ
彦星だけどお嫁になりたい」
「お前の恰好はその……
なんかそういうビデオとかに出てそ……いや、なんでもない」
 首を振って言葉を打ち消すミストとそれに首を傾げるスコット。
二人はターンして観客に手を振りながら来た道を戻っていった。

 イベントを終え、海十とフィンは二人で星空を眺めていた。
「市街地と違って街灯が少ないから、星がたくさん見えるね」
「そうだな」
 星を見上げて楽しげに話すフィンと、少しぶっきらぼうに答える海十。
海十の態度をフィンは一向に気にした風はない。照れ隠しだとわかっているのだ。
「ねえ、海十」
 星から視線を動かさないまま、フィンはそっぽをむいた海十に話しかけた。
「俺のふんどし、なんで投網のデザインにしたかわかる?」
「……たくさん幸せを捕まえられるように、じゃないのか」
 投網の七夕飾りは、豊漁の願いが込められている。
そこになぞらえて、フィンはたくさんの幸せを星に願ったのだろうと海十は思っていた。
「うーん、半分あたりで半分はずれかな。たくさん幸せを掬えますように、って願いは込めたけど
俺にじゃなくて、海十に、ってお願いしたんだ」
 急に出てきた自分の名前に、海十は目を白黒させた。
「海十がたくさん幸せを掬えますように、って願いを込めたんだよ」
 にっこりと笑うフィンに海十は顔を赤くしながら、小さな声で俺もと答えた。
「俺の千羽鶴も、フィンのための願いを込めたんだ。
フィンが末永く幸せにいられますようにって」
 海十の思いがけない言葉に、今度はフィンが驚く番だった。
海十が自分の幸せを願ってくれるなんて、それこそがこれ以上ない幸せだと思った。
ありがとう、とフィンが海十の顔を覗き込めば、
顔を真っ赤にした海十の夜空色の瞳に、嬉しそうな笑顔のフィンが映った。

 「そういえば、むつのふんどしの願いの謂れを聞いておらなんだな」
 ステージを下りて以来、押し黙ったままだっためるべが星を眺めながらむつばに尋ねた。
むつばのふんどしに書かれた願いは『世の為人の為 この身を尽くせますように』だ。
やや自己中心的な考え方をするむつばが何を思ってそんな殊勝なことを書いたのか、
めるべは少し興味があったのだった。
「謂れもなにも、書かれたままじゃ。他意はない」
 夜空を見上げたむつばの横顔を、めるべはじっと見つめた。
そんな視線に気づかず、むつばは言葉を続けた。
「じゃが、褌に書いた事は誠。
この命ある限り、出来る限りの事をわらわは成し遂げる」
 むつばの瞳に宿る強い決意に、めるべは満足げな笑みを浮かべた。
「その夢、努々忘れるでないぞ」


 自分でデザインした白いジャケットにくるまって、珠樹はがたがたと震えていた。
川に飛び込んだためびしょ濡れになった体は、夜風であっという間に冷え切っていた。
「珠樹……寒いなら着替えてきたら」
「千亞さんと夜空を眺めるロマンティックなシーンなのにそんなことできません!」
「そのジャケットはロマンティックさのかけらもないけどな」
 軽口を叩けるならまだ平気なのだろう。本当に危うくなったら引きずってでも連れて帰ろうと思いながら、
千亞は珠樹と並んで星空を見上げた。
「千亞さん、流れ星を探しませんか
せっかくの七夕の夜ですし、流れ星に願えば願いもより叶うかもしれません」
「いいけど……流れ星見つけたら戻るからな。風邪引かれても困るし」
 寒さに震える珠樹の言葉で、二人は夜空を見上げ星が流れるのを待った。
一言も会話のない、穏やかな空気。
いつもは饒舌な珠樹も、息を顰めて星を待つ。
「あ、あそこ!」
 千亞が指差した方向には、地平に向かって輝く星が白い軌跡を描いていた。
目を閉じて、願う。
再び目を開けると、流れ星は消えてしまっていた。
「千亞さん、何をお願いしたんです」
「うーん、珠樹の変態が治りますように、かな」
 嘘だった。
本当は、珠樹の普通の愛情表現を見てみたいと願ったのだが、
それを本人に伝えるのはなんだか癪だ。
「珠樹はなんてお願いしたの?」
「そうですねえ、千亞さんが素肌で私を温めてくれますように、ですかね」
「断る」
 珠樹の言葉も本当の願いではないと、千亞は気づいただろうか。
『ずっと、千亞さんの傍にいられますように』という星に込めた祈りを、
珠樹はそっと胸の奥にしまい込んだ。

 スコットとミストのふんどしに書かれた文字は対照的だった。
スコットは『骨肉之親』
ミストは『家内安全』
 「お前のそれは、たしか血縁者に使う言葉じゃなかったか」
 ミストの指摘に、スコットはうーんと首を傾げた。
「確かにこの言葉は家族とか兄弟とかの愛情を示す言葉だけど、
 例え血の繋がりははなくても、俺と君は最高の友達で家族だよね?」
だから、ミストも家内安全って書いてくれたんでしょ、とにこにこと微笑むスコットは、
ミストが自分たちのための願いを書いた者と信じているようだ。
「お……おうよ! 俺も二人の幸せを願ってこの言葉をな!」 
 ミストったら、とスコットが頬を染める。
そんなスコットの姿に胸は痛むが、まさか今更適当に書いたとは言えず、
ミストは流されるままにそういう事にしておこうと思うのだった。
 一方、スコットは心の底から安心していた。
ミストが自分と同じ気持ちだとわかったことがとても嬉しかったのだ。
 最近少し二人の空気がぎくしゃくしていたのを、スコットは敏感に感じ取っていた。
なんとか元に戻そうと思っていた矢先のこのミストの願いは、スコットを天にも昇るように気持ちにさせた。
彼も同じ気持ちなんだよね、と浮き立つ気持ちを知っているのは、夜空で輝く星たちばかりだった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あご
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 4 / 3 ~ 5
報酬 なし
リリース日 07月04日
出発日 07月09日 00:00
予定納品日 07月19日

参加者

会議室

  • [15]むつば

    2015/07/09-00:00 

    プランは出した。
    スコット、珠樹、海十は申し遅れたが、こちらこそよろしく頼む。

  • [14]明智珠樹

    2015/07/08-23:58 

  • [13]蒼崎 海十

    2015/07/08-23:54 

  • [12]蒼崎 海十

    2015/07/08-23:54 

  • [11]蒼崎 海十

    2015/07/08-23:54 

    むつばさん、めるべさん、はじめまして。
    よろしくお願いします!

    愛の告白はしませんが、プランは提出済です(キリッ)

    フィン:
    代わりに俺が愛を叫んでおくよ☆

    楽しい一時になるといいね!
    皆のふんどし姿、今から楽しみだよ♪

  • [10]明智珠樹

    2015/07/08-23:32 

    よいっしょー!
    プラン提出しました(ぜーはー)
    やりたいことは色々あったのですが、結果的に一番ナンダコレ?を
    選んで気がしてなりません。いつものようにスベってるかと思いますが
    それは全て私のせいですのでそっとはにかんでやってください、ふふ…!!

    と、ご挨拶遅れまして申し訳ございません、
    むつばさんとめるべさん、はじめましてですね。何卒よろしくお願いいたします…!

    ふ、ふふふふふ、レッツ濡れ濡れ!

  • [9]明智珠樹

    2015/07/08-23:27 

  • [8]スコット・アラガキ

    2015/07/08-21:56 

    むつばとめるべ。むつばとめるべ。
    …語感がいいから何度も呼びたくなる名前だなあ。二人ともよろしくね!

    褌の神様に試されてる感じの強行ジュルスケだったけど、みんな大丈夫だった?
    俺のとこはプラン提出済みだよー。あとは成功を祈るばかり。
    前垂れに託したそれぞれの願い事も、叶うといいね。

  • [7]むつば

    2015/07/08-00:39 

    (※妙にテンションの高い陣営じゃのぅと横目に見る)

    現段階では顔を合わせるのは初めてじゃな。
    むつば、と精霊のめるべと申す。よろしく頼むぞ。

    ステータス欄には、物騒な事を書いておるが、
    公の催事ゆえ、まともな内容を記すつもりでいる。

    明日で出発じゃが、上手くいくことを祈る。

    (静かに離席し、会議室を出る)

  • [6]スコット・アラガキ

    2015/07/08-00:34 

    怒涛の挨拶と書き込みタイミングの被りっぷりに参加者各位の意気込みが表れてるね…!?
    We will put on FUNDOSHI.なスコットとミストだよ、よろふんどしー。

    お待ちされてた!俺も会いたかったよ明智ー、さっき別れたばかりな気もするけど!
    TFC先達の海十先輩もよろふんっす、今回は胸をお借りするっすうっす。
    願いを見られるのが恥ずかしいなら、精霊への愛を見せつければいいと思うよ!

  • [5]蒼崎 海十

    2015/07/08-00:14 

    ノリと勢いで今回も参加です。
    明智さんと千亞さん、スコットさんとミストさん、宜しくお願いいたします!

    ふんどしが短冊で、つまりは皆に願いを観られる訳で…
    というのに後から気付いたとか、そんなことはありません、ええ、ありませんとも!
    まぁ、せっかくの七夕だし、うん……

    が、がんばりましょう!(ぐっ

  • [4]スコット・アラガキ

    2015/07/08-00:12 

    T・F・C! T・F・C!
    (ドン・ドン・パッ、ドン・ドン・パッと足踏みと手拍子打ちつつ)

  • [3]蒼崎 海十

    2015/07/08-00:11 

  • [2]明智珠樹

    2015/07/08-00:11 

    ふ、ふふ、ふふふふふ!!
    こんばんは、おふんどし愛好家・明智珠樹と二度目となればもはや諦め顔の兎っ子、千亞さんです。
    海十さんご両人は春に引き続きよろしくお願いいたします。
    そしてお待ちしておりました、スコットたん…!(満面の笑み)

    今宵出発ではありますが、楽しんで参加させていただきたいと思います。
    織姫・彦星分担が楽しみでなりませんね、ふふ…!
    何卒よろしくお願いいたします…!

  • [1]明智珠樹

    2015/07/08-00:08 


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