プロローグ
「村の近くに川があるのですが、最近そこに奇妙な生き物がたむろするようになったんです」
A.R.O.A.のロビーで、困った顔をした中年男性が相談をしている。
「数はだいたい、十体ほどでしょうか。川に近づく人に水をバッシャーンとかけたり、水中に引きずり込もうとしたりするんです」
水をかけるだけならたいした被害ではないが、水に引きずり込むというのは悪質だ。命の危険にも繋がる。
「……水死者が出たのですか?」
「いいえ。死んだり大きなケガをした村人はいません。ですが、奇妙な生き物たちに水辺を占拠された状態で困っています」
オーガやデミ・オーガの仕業にしては、明確な殺意が感じられない。A.R.O.A.職員はそんな印象を抱いた。オーガ関連の事件である可能性は低そうだ。
それでも職員は一応確認しておく。
「その奇妙な生き物に、角はありましたか?」
「はい。一本角が、頭の片方からニョキっと伸びていました」
角の有無は、オーガかそうでないかを見分ける重要なポイントだ。
「なるほど、角が……。念のため、ウィンクルムに調査を頼んだ方が良さそうですね」
村の男性から、次のような情報が得られた。
問題の場所は、流れのゆるやかな広々とした川。浅瀬は歩きで移動できるが、川の中央は深くなっており大人でも足が底につかない。
北が上流で南が下流。村からいける東側は岩場になっていて、西側には森が広がっている。東から西へ移動できる大きな橋がある。この橋はかなり高い位置にかけられていて、水中の生き物の手は届かない。勇気があれば、橋から川に飛び込むことができそう。
川のそばで人の気配を感じると、向こうから近づいてきてイタズラをしかけてくる。
奇妙な生き物全員が言葉をしゃべれるわけではないが、カタコトで話す個体はいるようだ。
村人たちからの要望は、川を占拠している奇妙な生き物を追い払ってほしい、というものだ。そのための細かな方法は依頼を請けたウィンクルムたちに任されている。
解説
・装備について
水中に引きずり込まれる被害が確認されており、重装備の鎧では溺れるかもしれない! 危険だよね!! ということで、このエピソードではプランで希望の服を着ることが可能です。
アドベンチャーエピソードのため、デートコーデの参照はできません。
服を着て参加したい場合、希望する服装をプランに記載してください。その際、バトルコーデのボディ部位の装備効果はなしとなります。登場する敵には明確な殺意はないので、このことでPCが著しく不利になることはないと思われます。
例:ビッグTシャツの下に赤いビキニ着用。Yシャツからブルーの下着がチラリと透ける。精霊が、純白のフンドシ一丁。などなど。
全年齢の範疇をこえた、過度に性的な内容はご遠慮ください。
・道具の貸出について
今回は準備をする時間的余裕があるため、必要があればA.R.O.A.に申請が可能です。あまりに特殊なものや高価なものは用意できません。
・目的
奇妙な生き物を川から追い払う(奇妙な生き物がオーガでなかった場合、どうするかの判断は参加したウィンクルム任せ)
ゲームマスターより
山内ヤトです!
PL情報ですが、オーガは出てきません。一本角の奇妙な生き物たちの正体は、シュノーケルをつけた水遊び好きなゴブリン集団です。悪ノリでイタズラをしています。対処方法は参加者の皆さんにお任せです。
敵の動きはガチ戦闘というより、水遊びのようなお気楽バトルをしかけてきます。
難易度はとても簡単ですが、アドベンチャーとしての目的もありますので、そちらの遂行も忘れずにお願いします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
月野 輝(アルベルト)
■服装 デニムのビキニ、下はショーパンタイプ 上に大きめTシャツ ■申請 水球のボール ■行動 ・川を確認に行く精霊達の後ろからついていき危険な時のトランスに備える ・敵の正体が判明したら話しかける(語学、会話術使用 どうしてこんな事をしてるの? みんな困ってるのよ 遊びたいなら私達が相手になるわ だから他の人には悪戯しないで 正々堂々勝負よ! 満足したらお家に帰ってね ■勝負 ・水鉄砲の早撃ちが得意なゴブリンがいないか確認 いたらディエゴさんと勝負して貰う ・水鉄砲の撃ち合い ・水球のボールを投げてドッヂボールを挑んでみたり 私、いつの間にか全力で楽しんでたかも また一緒に遊びましょうね もう悪戯しちゃダメよ(ゴブリン達に笑いかける |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
【調達物】 大型水鉄砲(形はグレネードランチャー) タオル(人数分、できればゴブリンの分も) 【服装】 Tシャツ ジーンズ 中に白のホルターネックビキニ トランスは相手が戦闘態勢や殺気を見せたらやります 徹底的にゴブリンの相手をする事で、こちらには敵意はないとアピール 相手がオーガじゃない限り戦闘は避けたいです。 果死合(と書いて水遊びと読む)はパワーです グレラン式の水鉄砲と水風船の投擲による特攻で圧倒しちゃいますよ 水風船はゴブリン側にも数個あげます 終わったら皆さんタオルで体を拭きましょう 川で遊びたい気持ちはわかるんですが、こうなってしまうと 人里から離れてもらうしかないんですかね…ちょっと可哀想な気もします。 |
ロア・ディヒラー(クレドリック)
下にワンピースタイプの水着(うす紫に花柄)白地にウサギの絵が描いてあるロングTシャツを着ている。足元はサンダル 事前に水風船をA.R.O.A.に申請(複数枚。多めに) 水際に行くクレちゃんの後ろからついていく …ねぇ、素朴な前打ち水した時、白衣ぬれるからって脱いでなかったっけ…なんで今回来たままなの? (クレちゃん、実験で引きこもってる割には筋肉がそれなりについてるんだなー…ってなんか直視するの恥ずかしいんですけど)ご、ごめん白衣だけは着てて!! ゴブリン達と水遊びする事になったら楽しむ。 水遊びとか高校生にもなって…(水をかけたれずぶぬれになり)…ちょっと、覚悟しなさいよ…! 水風船を投げたり全力で楽しむ |
アンジェローゼ(エー)
白薔薇の飾りのついたビキニの上にエーのシャツ着用 浮き輪やビーチボール用意 エーの用意した際どい水着は処分したわ (シャツかりたけど大きいのね…と呑気に *確認 精霊達が前に出て敵の正体を確認 私達は万が一の時すぐトランス出来るよう後ろに控える …エー?大丈夫??オーガ?オーガなの? (不安でエーの手を握り *ゴブリン ゴブリンだったのね 水で遊びたくなる気持ちわかるわ ふぅ…よかった…いえ、良くないね 人を困らせてるわけだし、そんな事しないように私達と思いっきり勝負して(遊んで)満足して貰い元いた場所に帰ってもらおう 戦闘にせずに平和的に解決したいの 容赦なく水鉄砲や水風船をぶつけちゃうから! 水遊びは好きだし得意よ! |
●濡れても良い服装でGO
川を奇妙な生き物が占拠して、川辺に近づくことができずに困っている。そう村人からの相談を受け、四組のウィンクルムたちが奇妙な生き物の調査に乗り出した。
重装備だと、かえって水に引きずり込まれて溺れる危険性があるということで、ウィンクルムたちは水に濡れても良い服装で現場に訪れた。
その日は暑くて、水辺で過ごすにはうってつけの気候だ。川の流れや吹く風にも、清々しさを感じる。
桜の和柄が描かれた黒のサーフパンツ姿の『エー』。
「……僕の用意した水着は破棄してしまわれたのですね……残念です」
白薔薇の飾りのついたビキニを着た『アンジェローゼ』を見て、彼はわずかに肩を落とした。今着ているのも華やかで美しいが、それはエーが渡した水着ではない。きわどいデザインだったので、アンジェローゼに処分されてしまったようだ。
二人共、水着の上にはお揃いのシャツを着ている。元々はエーの所持品だ。
身長155cmのアンジェローゼに対し、エーの背丈は182cmと差がある。ぶかぶかの大きなシャツをもてあましているアンジェローゼを見て、エーは思わずこう口走る。
「でも……彼シャツというのもいいですね」
『ロア・ディヒラー』は、薄紫に花柄のワンピースタイプの水着を着てきた。上には、白地にウサギの絵が描かれたロングTシャツ。サンダルを履いた足元は涼しげ。落ち着きと可愛らしさが両立されたスタイルだ。
ロアの横で、やや異彩を放った服装の『クレドリック』。足元はサンダルで、ショートボクサー型の黒い水着と白いYシャツを素肌に身につけている。
が、その上に羽織っているのは白衣だ。水辺には、ややミスマッチ。
「ねえ、クレちゃん。川にいくのに、その白衣で大丈夫?」
「ふふふ……。心配は無用なのだよ」
この白衣には秘密があるらしい。クレドリックは余裕の笑みで返事をした。
下がショートパンツ風になったデニムのビキニに、大きめのTシャツを合わせたカジュアルな出で立ちの『月野 輝』。
輝は、パートナー『アルベルト』に問いかける。
「他にも水着あるでしょ? どうしてそれ?」
「敵に衝撃を与えられるかと」
アルベルトが着てきたのは、黒くつややかに光り輝く男性ビキニ型の水着だ。
ああ! なんというセクシー。まさに水も滴る良いダンディー。
「……アルってば……」
ちょっと呆れたような表情で、輝はアルベルトを眺めた。
Tシャツにジーンズという活動的なスタイルの下に、『ハロルド』は白のホルターネックビキニを身につけてきていた。
「相手がオーガじゃない限り戦闘は避けたいです」
という穏やかなセリフを口にしながら、彼女が構えているのは物騒極まりないグレネードランチャー……ではなく、それらしい見た目の大型水鉄砲。
パートナーの『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』は、白のYシャツにジーンズ。中に着ているのはウェットスーツだ。彼は拳銃のデザインの水鉄砲を自分用に二挺用意した。
時々ケチなことに定評のあるA.R.O.A.の道具貸出だが、今回はけっこう融通がきいた。たまたま担当者が大雑把な性格で、きっとウィンクルムたちが何かの作戦に使うんだろうと解釈し、水遊び道具の数々はゆるーく貸出申請が受理された。
ウィンクルムたちは、水鉄砲や水風船、ビーチボールといった小道具や濡れた体を拭くためのタオルを持ってきている。借りたものもあるし、自分の所持金で購入したものもある。
どうやら敵はそれほど危険な存在ではなさそうだ、という見通しがあったので、割りとお気楽な空気だった。
●お騒がせな奴ら
とはいえ、川にいる奇妙な生き物がオーガである可能性も、まあ、ゼロではない。
そこで、まず精霊たちが先行して川に近づき生き物の正体を調べることにした。余計な警戒心を煽らぬよう、今の段階ではトランスはしない。それでも、何かあればすぐにトランスできるよう態勢は整えておく。
「……エー? 大丈夫??」
もしかしたらオーガかもしれない、という不安にかられ、アンジェローゼはしなやかな指をエーの手にからめた。
「大丈夫ですよ、ロゼ様。僕がついてますからご安心を」
手を握り返し、微笑みを向けるエー。パートナーを安心させるように振る舞う彼だが、不安がないわけではない。油断せずに、慎重な行動を心がける。
クレドリックの後ろを歩くロアが、ぽつりと素朴な疑問を口にした。
「……ねぇ、前打ち水した時、白衣濡れるからって脱いでなかったっけ……なんで今回着たままなの?」
「この白衣かね?」
着用している白衣の裾を軽くつかみながら、ロアの質問に答える。クレドリックは少し得意げな顔だった。
「これは大丈夫なのだよ……何せ防水性なのだよ」
「防水性の白衣? ふうん。そういうのもある……、のかなぁ?」
と、首を傾げるロア。
「本当に何かいるのでしょうかね」
輝を後ろにかばいながら、アルベルトは川の縁を進んでいく。話し声はあえて大きくしていた。敵に聞こえるようにしているのだ。
「気をつけてね、アル」
はい、と敬語で返事をしそうになり、アルベルトは口を閉じた。軽く咳払いをした後、言い直す。
「ああ、大丈夫だ」
ハロルドとディエゴも、それぞれ水鉄砲を構え、敵が出没するのを待っている。
突如、賑やかな笑い声と共にキラキラと輝く水飛沫がウィンクルム一行に浴びせられる。
慎重に行動していたエーは、とっさにアンジェローゼの手を引いて守ることができた。
クレドリックとディエゴは、頭から川の水をかぶることになった。
敵をおびき寄せるために、わざと大きな声を出していたアルベルトは、特にひどく水浸しになる。
だが意図的に囮役として行動していたからこそ、彼は自分の足首をつかもうとしている小さな手に、すぐに気づくことができた。パッとその手をつかみ、水中から引き上げる。
「ギャギャ!?」
子供ほどの体格。大きな耳と鼻。ゴブリンだ。デミ化を示す角はついていない。
「ただの悪戯好きのゴブリンですか。私を引きずり込もうなんて良い度胸ですね」
実に良い笑顔で、アルベルトは捕まえたゴブリンを見る。ゴブリンは、ガクブル震えている!
竹やガラクタを組み合わせて作られた、粗雑な構造のゴブリン式シュノーケルを装備していた。村人がオーガの角だと早合点したのは、このシュノーケルのシルエットだったのだろう。ヨレヨレの水着も身につけている。
「ゴブリンでしたか! 人騒がせ、ですね」
オーガではなかったことが判明し、アンジェローゼはふっと肩の力を抜いた。
「ゴブリンだったのね。水で遊びたくなる気持ちわかるわ。ふぅ……よかった……いえ、良くないね」
このゴブリンたちのイタズラで村人が困っているのだ。どうにかしなくてはならない。
水を浴びたクレドリックは、ずぶ濡れの白衣をまとい、愕然として立ち尽くしている。
「……なぜだ、防水性のはずなのに……濡れている……」
この白衣に防水性能はない。どうやらクレドリックは、粗悪品か偽物をつかまされたようだ。
「……だまされたのだろうか私は」
白衣が水で張りつき、動きづらい。落胆しながら白衣を脱ごうとすると、慌ててロアが止めに入った。
「ご、ごめん白衣だけは着てて!!」
実験で引きこもっている割に、クレドリックの体にはそれなりに筋肉がついている。それを直視するのが、ロアにはなんだか気恥ずかしかった。
「ロア? ……どうかしたのかね?」
結局クレドリックはYシャツだけ脱いで、水着の上に濡れた白衣という格好になる。
相手が戦闘態勢や殺気を見せたら、トランスをする。そうディエゴと示し合わせた上で、周囲を見渡すハロルド。
「……いました。あそこです。こちらの出方を伺っていますね。殺気はないようですが……」
十体前後のゴブリンが、遠巻きにウィンクルムたちの様子を見ている。ゴブリンの一人がアルベルトに捕まっているため、ゴブリンたちの間には、なんかこれちょっとマズイんじゃねーのどうしよー的なムードが漂いはじめている……。
●決着は水遊びで!
「どうしてこんな事をしてるの? みんな困ってるのよ」
穏やかだが毅然とした口調で、輝がゴブリンたちに話しかける。輝が語学と会話術に堪能だったことと、ゴブリン側にもカタコトでしゃべれる者が若干いたため、コミュニケーションに大きな支障はなかった。
「遊びたいなら私達が相手になるわ。だから他の人には悪戯しないで。正々堂々勝負よ! 満足したらお家に帰ってね」
「ウキャーゥ!」
ひゃっほーいっ、とゴブリンたちから陽気な歓声があげる。ゴブリンも了承したようだ。
ウィンクルムが武力行使をすれば、ネイチャーのゴブリンを排除または殺傷するのは容易だっただろう。けれども、今回の依頼に参加したウィンクルムたちは強者の立場にありながら、相手と交渉し平和的な解決方法をとることを選択した。
大人らしきゴブリンは二人だけで、後はほとんど子供だった。人間でいうと小学生程度に相当するだろうか。男の子が多いが、女の子ゴブリンも少し混じっている。
バトルを開始する前に、ディエゴが提案する。
「あちらに水鉄砲がないとしたら道具を調達できるこちらが一方的に有利だ、それだと楽しくないだろう、お互いに」
クレドリックも頷いた。
「一理ある。その意見には私も同意するのだよ」
ハロルドとロアが自腹を切って購入してきたので、ゴブリンたちに使わせる分の遊び道具も充分ある。
「持ち方はこうだ。狙いをつけて、ここの部分の指を引く」
ディエゴがゴブリンたちに水鉄砲の使い方をレクチャーする。ハロルドは水風船を配った。興味津々といった様子でゴブリンが集まっている。
「私達と思いっきり勝負して満足してもらうわよ」
小脇に浮き輪を抱えながら、もう片方の手でアンジェローゼが愛らしく水鉄砲を掲げる。容赦なく水遊びでバトルするつもりだ。
「水遊びは好きだし得意よ!」
張り切るアンジェローゼをエーは心配そうに見つめた。
「……遊びといえどロゼ様に危害を加える事は許しませんのでそのつもりで」
熱中しすぎて神人にケガをさせることのないようにと、エーはゴブリンたちに釘をさす。遊びが興ざめにならない程度に、エーは常にアンジェローゼのそばにいて盾の様に彼女を守った。
「水遊びとか高校生にもなって……」
低めのテンションでぼやいたロアに、ザッパーンっと豪快に水がかけられる。ゴブリンの子供たちからの先制攻撃だ。ロングTシャツは水を吸い、水着の花柄がうっすらと透けて見えた。
「……ちょっと、覚悟しなさいよ……!」
先ほどの少し面倒くさそうな様子とは打って変わって果敢に反撃をするロアに、クレドリックもニヤリと笑って協力する。
「遊びとはいえ、ロアをずぶ濡れにしたのだ……全力でいかせてもらおうではないか……」
悪役さながらの迫力の笑みで、容赦なく水鉄砲を乱射する。チビゴブリンたちは、そんなクレドリックに追いかけられ、キャーキャーわーわー悲鳴を上げている。
水鉄砲での撃ち合いに、ちょっと単調さを感じてきた輝が新しい遊びに誘う。
「ボールがあるんだけど、川の中でドッヂボールをしてみない?」
ゴブリンたちは、何やら不思議そうな表情で輝を見る。興味はあるけど、どんな遊びかわからない、といった雰囲気だ。
輝はゴブリンたちにルールの説明をする。
「二つのチームにわかれて、相手のボールが当たらないように避けたり、相手をボールで狙っていく遊びよ。でもケガをしないように、力加減にはくれぐれも気をつけてね。ケンカになるから、あまりムキになるのもダメよ」
ドッヂボールを安全に楽しむには、細かな決まりを守っていくことが必要だ。輝の語学能力と会話力が高かったので、ゴブリンたちもルールを理解することができた。
アルベルトもドッヂボールに参加する。大胆な漆黒のビキニパンツを装着した彼は、ゴブリンたちから、なんかこう熱い視線を集めていた。
「果死合はパワーです」
そう言ったのはハロルドだ。ちなみに、果死合と書いて水遊びと読む。
メイン攻撃手段はグレネードランチャーの形をした大型の水鉄砲。サブの武装として、水風船を用意してある。ガンガンと前線に進んでいく特攻スタイルだ。ゴブリンたちはハロルドの猛攻に圧倒されているが、向こうはそれはそれで楽しんでいるようだ。
「……」
二丁拳銃を操り次々にゴブリンにヒットさせていくディエゴだが、プレストガンナーの彼としては遊びが簡単すぎて、いまいち歯応えが感じられずにいた。
「すまない。少し通訳を頼めるだろうか?」
ディエゴが輝に相談を持ちかけた。
「ゴブリンたちの中で一番手練れを紹介してもらいたい」
「水鉄砲が得意なゴブリンね。聞いてみるわ」
輝が手練れの者は誰かと尋ねると、二人の大人ゴブリンが推薦された。
一人は渋く濃い顔立ちをした寡黙なゴブリン。もはや職人技といえるほどに難易度の高い狙撃をおこなう。水鉄砲だけど。
もう一人は黒い帽子を目深にかぶったゴブリン。早撃ちなら負ける気はしない、と自信がありそうだ。水鉄砲だけど。
ディエゴがやってみたいのは早撃ち勝負。黒帽子のゴブリンと戦おう、という流れで話が決まりかけたところで、おずおずと自分から手を挙げた者がいた。分厚い水中眼鏡をかけた、気の弱そうな男の子ゴブリンだ。
他の子供ゴブリンたちから小馬鹿にしたようなからかいの声があがったが、ディエゴだけは水中眼鏡ゴブリン少年の素質を見抜いていた。
手練れの勝負相手を求めたディエゴの望みに応えるかのように、彼と拮抗するほどの射撃の才能を持つ者が登場した。ただし同等なのは水鉄砲の技術だけで、本物の銃の腕前ならば格段にディエゴの方が上である。
「勝負がしたい。最初は背中合わせでそこから三歩進み振り向いて撃つ、シンプルなものだ」
輝とカタコトのゴブリンを介して、ディエゴの言葉が伝えられる。眼鏡少年ゴブリンは緊張した面持ちで頷く。成人男性と子供ゴブリンでは、歩幅の違いで同じ3歩でもズレがある。なるべく勝負が公平なものになるように、歩くテンポをお互いに確認するなどの事前の調整もおこなった。
仲間のウィンクルムもゴブリンたちも、いったん水遊びを中止してこの勝負のなりゆきを見守る。
二人が背中合わせになり、そして一歩踏み出す。
二歩……。
三歩……。
振り向き、撃つ!
両者の胸で水飛沫が弾けたのは、ほぼ同時のタイミング。
この場にいるウィンクルムの中で、最も回避力と命中率に秀でた者がジャッジを下す。その能力が高いのは、ハロルドだった。
「ほぼ互角の良い勝負でしたが……そちらのゴブリンの方がわずかに早かったです」
水鉄砲での勝負だからこの結果になっただけで、実弾を用いた実戦ならディエゴの方に軍配が上がっていただろう。
眼鏡少年ゴブリンは、ウィンクルムたちに尊敬の眼差しを向けていた。高い武力を持っていながら、やみくもにその力をふるうことなく、自分よりも弱い相手に対してもフェアプレーで応じる。そんなウィンクルムたちの振る舞いに、ジーンと感動しているようだ。……眼鏡ゴブリンは普段理不尽な暴力をボカスカと振るわれることが多かったので、なおさらウィンクルムたちの紳士的な態度に胸を打たれたようである。
他のゴブリンたちも、ウィンクルムと接したことで人間への友好的な気持ちが芽生えた。ウィンクルムたちの行動方針が、イタズラ者のゴブリンたちに良い影響を与えたようだ。
●遊んだ後は、お家に帰ろう
「たくさん遊んじゃったわね」
水鉄砲や水風船で遊びまわったアンジェローゼが、エーに微笑みかける。
「……っ、ロゼ様!」
エーは赤面し、思わず彼女から目をそらした。
水遊びをしたアンジェローゼはシャツも水着もすっかり濡れている。エーにとっては、麗しすぎて目の毒だ。
「お風邪を召しませんように、このタオルをお使いください。そして、すぐにお着替えを!」
タオルをアンジェローゼへと渡す。川の近くの村人たちが更衣室を提供していくれているので、着替えならそこでできる。
「なんだかんだで、意外と全力で遊んじゃったな」
髪の水気をタオルで拭き取りながら、ロアがつぶやく。
「ああ。私も全力を尽くしたのだよ。予想以上に水に濡れてしまったがね……」
クレドリックの紫色の髪から水が滴り、首筋を伝って落ちた。
彼の分のタオルを手渡しながら、苦笑いするロア。
「クレちゃん……。水鉄砲撃ちつつの悪人面笑いは、かなり怖かったよ……」
ノリノリの悪人笑いには軽く引くロアだったが、ゴブリンを遊びで追いかけるクレドリックの姿は、なかなか楽しそうに見えた。
「私、いつの間にか全力で楽しんでたかも」
心地良い疲労感と共にため息をつく輝。Tシャツが濡れて、健康的なデニムのビキニが透けて見える。
「また一緒に遊びましょうね。もう悪戯しちゃダメよ」
川を挟んだ向こう側で、ゴブリンたちも帰り仕度や一休みをしていた。輝が笑いかければ、ゴブリンたちは大きく手を振って反応した。
「また遊びたくなったら私達を呼んで下さい。町の人達に迷惑をかけてはいけませんよ」
アルベルトがそう諭す。
「川で遊びたい気持ちはわかるんですが、こうなってしまうと人里から離れてもらうしかないんですかね……ちょっと可哀想な気もします」
浮かない表情をしているのはハロルドだ。水を吸ったジーンズは重く、彼女の心境もまた重かった。依頼内容は、奇妙な生き物を川から追い払うこと。必ずしも殺傷する必要はないが、ゴブリンたちを川から追い払う必要はある。
「……」
ディエゴはそんなハロルドの気持ちをくみとり発言する。
「死者が出る恐れのある悪戯はやめ、自分達だけで人がいないところで水遊びをすると約束できるなら水鉄砲は何個かやってもいいんじゃないかと思う」
人に迷惑をかけたり、危ないイタズラはしない。遊ぶ時は、人のいない場所で自分たちだけで。
そう約束をかわし、ウィンクルムたちはゴブリンにピカピカの水鉄砲をプレゼントした。ハロルドとロアが買った分である。
ゴブリンたちは感謝の鳴き声を上げて、彼らの本来の住処らしき森の奥深くへと帰っていった。
●小さな事件
それから数日後。その村の付近で小さな事件が起きた。
……人が、溺れたのだ。
豊かな自然を観察するために、つい森の奥まで入り込んだ旅の画家。森の中にある湖のほとりで足を滑らせ、水中に落ちてしまった。
が、シュノーケルをつけたおかしなゴブリンの一団に発見され、溺れた旅人は無事に救助されたという。危害は一切加えられず、水中眼鏡をかけた小さなゴブリンに森の出口まで案内された。
ゴブリンが見返りなしで人を助けるなんて、とても珍しい事件だ。
よほど人間に良いイメージを持っていなければ、けっしてそんなことはしなかっただろう。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 日常 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | 少し |
リリース日 | 06月27日 |
出発日 | 07月03日 00:00 |
予定納品日 | 07月13日 |
参加者
会議室
-
2015/07/02-23:33
-
2015/07/02-22:55
-
2015/07/02-22:26
-
2015/07/02-21:43
>ロア
ああ、水風船の申請頼む
こちらもプランは完成した
何かあれば言ってくれ -
2015/07/02-21:05
水鉄砲の自腹……ディエゴさん、ありがとう。
私、ビーチボールでも申請してみようかなと思ったんだけど……水球用のボールでもいいかしらね……
ドッヂボール感覚で遊べるかもしれないし。
と、そんな事を考えつつプラン調整中です。
まだ対応は可能なので、何かあったら言ってね。 -
2015/07/02-20:52
水鉄砲申請と交渉ありがとうございます…!
後は全力をつくして遊ぶ、これにつきるかな…!
水風船も楽しそうですね、投げてよし、水を入れるのも楽しいです。
水風船は私のほうで申請しておきますか?
水鉄砲、あげる分は自腹ですね、承知しました。 -
2015/07/02-09:12
続けざまで悪いな
道具は貸出だから、ゴブリンにあげる分はできれば自腹で調達できないか書いてみる -
2015/07/02-08:51
なかなかご相談に参加できずすみませんっ
交渉と水鉄砲の申請、ありがとうございます!よろしくお願いしますね
そうですね、トランスしないで近ずくほうが相手を刺激せずにすみそうです
水鉄砲をゴブリン達に差し上げるのにも異論はないですよ!
街の人を困らせず、遊ぶのは私たちとだけ…等お約束したいですね
平和的に解決できるよう、楽しく遊んでがんばりましょうね -
2015/07/02-07:25
いや、良いんだ
悪いな、では交渉役は任せる
ゴブリンたちにやる水鉄砲は
人がいないところで自分たちだけで遊ぶと約束できるなら、あげても良いんじゃないかと思ってるよ
やんちゃで遊びたいだけだろうしな
もちろん反対意見があればそれに沿う -
2015/07/02-07:21
あ、ごめんなさい、ディエゴさんと発言が被っちゃったわ。
水鉄砲、申請してくれるのね。
ありがとう、それじゃ水鉄砲はハルちゃんにお願いするわね。
(慌てて書いたらこの短い中で誤字っちゃって一度削除しました。ごめんなさい;) -
2015/07/02-07:19
どうやら、気が済むまで相手をしてあげて帰って貰うって方針で良さそう?
良かった♪
それじゃ、僭越ながら交渉役させて貰うわね。
どうしてこんな悪戯をするのか、悪戯にはみんな困ってるので気が済むまで遊んだら帰ってくれないか、
もし嫌だと言われたら勝負を持ちかけて、負けたら帰って貰う
な感じで話してみるわね。
ディエゴさんの早撃ち勝負の件、了解よ。聞いてみるわね。
トランスは、とりあえずしないで、精霊さんの後ろに神人もくっついて行って
いつでもトランスできるような状態で…のがいいかもしれないわね。
ロアちゃんが言うように、トランスしてると戦う気満々に見えちゃうかもだし。
水遊びに必要そうな物って何があるかしらね。
とりあえず水鉄砲は申請しようと思ってるんだけど。 -
2015/07/02-07:17
>勝負を仕掛けて、負けたらここから出ていくように約束させる
良いと思う
あと、ハロルドが水鉄砲をゴブリンの分を含め調達したいと言っているんだが… -
2015/07/02-00:14
参加させていただきました
みなさんよろしくお願いします!
水遊び楽しそう!…じゃない、真面目にやり(遊び)ますね
疲れるまで真剣に相手して敵意がないということをアピールしたほうが安全な道かなーと…オーガでない限り戦闘はしたくないかなって。
輝さんが交渉役という認識で良いですか?
では少し御願いなのですが…ディエゴさんが水鉄砲の早撃ち勝負をしたいそうなので、ゴブリンの中で手練れのものがいないか聞いてもらって良いでしょうか?
私は水風船爆弾を作って相手の背中にはりつけトーン!(手刀)とかやりたいです。
ディエゴ:落ち着け
タオルはこちらで用意しとこうと思う -
2015/07/01-23:40
ロア・ディヒラーとエンドウィザードのクレドリックです。
アンジェローゼさんとエーさんは初めまして、輝ちゃんとアルベルトさんはお久しぶりです。
どうぞよろしくお願いいたしますっ
精霊さんに見に行ってもらうのは賛成です。
トランスは…どうしましょうかね。相手に敵意があるか分からない現状ですから、即トランスできるようにはしておいて、のぞきにいく状態では非トランス状態の方がいいかもしれません。警戒されちゃうかもしれませんしっ
わぁ、語学スキルもってるんだね…!
それは頼もしい。
思いっきり遊んで返ってもらえるならいいなぁ。
なるべく争いごとにはしたくないし…平和的な感じがいいなぁ。 -
2015/07/01-22:27
はじめまして、アンジェローゼと精霊のエーです!
皆様よろしくお願いしますね!
奇妙な生き物
私もまずはこれが何なのか確認すべきだと思います。
精霊さん達に見てきていただくの、いいですね。賛成です
その際は万が一の時のために、トランスしておいたほうがいいのでしょうか?
ゴブリン
語学スキルを持っていらっしゃるのですね!
でしたら、言葉のわかるゴブリンとの会話もできそうですね。
お願いしてもよろしいでしょうか?
私も、討伐というよりは、思いっきり遊んでもらい帰ってもらうという方向になったらいいなぁと思っています。
…ゴブリン達の出方次第、という面はありますが…
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2015/07/01-00:19
こんばんは。月野輝と、パートナーのアルベルトです。
アンジェローゼさんとエーさんには初めまして、ロアちゃんとクレドリックさんはお久しぶり。
皆さん、どうぞよろしくね。
えっと、まず、『奇妙な生き物』が何なのかを確認しないとよね。
だから最初は精霊さん達だけで川へ近づいて確認してはどうかしら?
ただのゴブリンだと判ったら、できたら「どうして悪戯をしてるのか」を聞いてみたいなと思うのだけど。
もしかして、気の済むまで一緒に遊んであげたら満足して帰ってくれないかなとか思ったのよね。
カタコトを話す個体もいるみたいだし、私、語学スキル持ってるので、たぶん話は通じると思うの。
あと思い付いたのは、勝負を仕掛けて、負けたらここから出ていくように約束させるとか?
ごめんなさい、眠気であんまり頭が回ってないので、もうちょっと考えてからまた来るわね。