プロローグ
・後生のお願い
「どうしよう……」
男はそう呟きながらイベリンの街の中をフラフラと頭を抱えながら歩いていた。
「時間がない……」
この男の名前はルース・コンペレロ、イベリンではほんのりと名の知れた貴族の子息である。齢33歳。
先日イベリン王家直轄のウェディングパーティに出席した折に自分より身分の高い令嬢に気に入られ、見合いをするハメになってしまったのだ。
「確かに年齢は若いが……如何せんあの性格とは私には合わないし……」
完全に街中の人々には独り言呟く変人を見るような目で見られている。
しかし本人全く気付かない!!
「見合いになれば断るにも断れないし……」
街中のショーウィンドウに映った自分を見て、
「私にだって選ぶ権利はあるはずだ」
少々ナルシスト!? なのか硝子に映る自分の髪を直し、顔まじまじと見ながら何だかうっとり気味である。
そんな彼の後ろをウィンクルムの1組が通りがかった。
後ろを通り過ぎていく神人を見て咄嗟に声を掛ける。
「あの!! そこの綺麗で美人で可憐な人!!」
そう叫ぶとルースは神人に近付き手を握る。
しかしその手をすかさず精霊は振り払う。
「お願いです、どうか私を助けて下さい!」
ルースは説明をした。たぶん今思い付いた考えだろう。
彼はウィンクルムに、自分が望んでいない結婚をさせられそうになっていること、その見合いをぶち壊してほしいことを話した。
神人は困ったようにルースに断る言葉をかけるが、
「お願いです~後生ですから!!」
神人に縋るように抱きつこうとする、が、精霊は本気で払いのける。
「これは失礼しました……ですが、このままでは私の未来は真っ暗です! 後生ですから」
後生ですから、とルースは払いのけられて尻餅を付いた場所で今度は土下座をし始める。
街中で目立つこと目立つこと。
これにはウィンクルムも困り果てて2人とも手を差し伸べてしまっていた。
「あぁ~あなた達は神様です! お礼としてディナーにご招待させていただきます!」
涙を流しながら2人の手を取る。
ルースの家の地図と自分について簡単に書いた紙を渡すと2日後の午後1時に来て欲しいと何度も頭を下げて立ち去っていった。
もちろんその後に会う他のウィンクルムや街の人々に声を掛けながら。
「ルースさん?お帰りなさい」
ルースが家に帰ると初老の女性が出迎えた。
「おばあ様……ただいま戻りました」
「2日後のマリンクリス様とのお見合いですが」
「それについてですが私には現在お付き合いしている方がいます」
「それで?どこのご令嬢かしら?」
「2日後に来てもらうように話してありますので、宜しくお願いします」
「お付き合いしてる方ね……いいでしょう」
ルースはいつもの祖母に比べるとすんなりと承知してくれたのに少々困惑する。
「ルースさん、その方にこのお花を持ってお話してもらいましょう、もちろんマリンクリス様にもです」
そこに出してきたのは綺麗な赤い薔薇の蕾だった。
「これは薔薇の蕾よ花言葉は『愛の告白』と『恋の告白』です」
ルースの祖母はそう言ってほくそ笑んだ。
ルースの『突然恋人たくさん作戦』は見破られているのではないかと、額に冷や汗が滲む。
「では、2日後楽しみにしてますよ」
祖母はそう言ってルースの前から消え去った。
さてどうするルース君! 急いで花の事を2日後に来訪するウィンクル達と街の人々に伝えに走ったのだった。
解説
●見合いをぶち壊す作戦とルースについて
神人はルースの恋人の振りをしてください。精霊は神人の家族や従者などを装って神人の身分を保証する
ような行動や言動を心がけてください。
恋人の振りをしている神人は薔薇の蕾を持ってルースへの愛の偽告白をしてもらいます。
ルースはもしかすると神人に触れたりして恋人を装うかもしれません、お気をつけ下さい。
ルースの祖母に恋人と信じ込ませつつも、見合いをぶち壊してください。
ぶち壊しはあまりにも暴力的なことやスキルなどの使用は禁止です。
祖母に見合い中止とマリンクリスに見合いをやめる方向に宣言させてください。
ルースは金髪の長髪の碧眼の美形で根は優しいですが、ナルシストで自分勝手が目立ちます。
●薔薇の蕾の効果について
薔薇の蕾を持つと「愛の告白」か「恋の告白」が勝手に口から出てきます。本心が出てしまうので気を付け
てください。
もちろんルースの偽恋人ですから、そのまま本心を出せば失敗します
どのように本心を口にしつつもルースにうまく告白できるかお考えください。
●神人の身分とぶち壊し後について
祖母は「どこぞの令嬢」かと思っているのでそれ相応の衣服や装飾品を身につけて来てください。
ドレスやアクセサリーの貸し代として一律400Jrいただきます。
せっかくのドレスなので、ルースからお礼としてレストランに招待されています。
お見合いぶち壊し後は、ドレスアップして精霊とディナーを楽しんでください。
レストランでは『祝福の音楽』が流れていて感謝の気持ちを伝えたくなるようです。
●プランについて
・神人はどこの令嬢か、精霊との関係。ドレスアップの衣装と精霊の衣装
・薔薇の蕾を持ったときどのように告白し、どうやって祖母を騙すか
・ぶち壊し方法
・どのようにディナーを楽しむか、何か感謝を伝えたいことがあるか
上記4つは必ず記載くださいますようにお願いします。
ゲームマスターより
お世話になっております。
草壁でございます。
なんとなくコメディーを書きたくなりこうなりました。
ルースさんのお見合いをハチャメチャにしてください!!
おばあさん高齢なのであまりにもやりすぎると危険かも?なので上手に騙してあげてくださいね!
ご参加お待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リヴィエラ(ロジェ)
服装は青のドレスに手袋(紋章を隠す為)・全体的にスキル『会話術』使用 リヴィエラ: ・ぶち壊し 私はシエンテ家のリヴィエラと申します。 シエンテの名はこの地方の貴族の家名ですから、ご存じだと思います。 (深々と高貴な一礼) (薔薇を受け取り) 『私は貴方を愛しています』…愛している方がいるのなら このように愛を告げるべきです。そうですね? ルース様、マリンクリス様、お祖母様。 (ロジェに視線を向け、にこりと微笑む) ・ディナー あ、あの…ロジェ、怒っていますか…?(ちらちらとロジェを見つつ) 本来なら、愛する方と結ばれるべきだと思うのです。 私ですか? 私はロジェと出会えて心から幸せだと思っています。 |
クロス(オルクス)
☆心情 「見合いを壊せって… んーやるだけやってみるか(苦笑」 ☆スキル・フェイク ☆淡い蒼銀の和風ドレス ☆父は軍人の貴族 ☆関係 専属執事 ☆ぶち壊し ・丁寧に挨拶 ・好きな人と結婚したいと伝える 「ルースさんは私にとって愛しい人 結婚はお互いが愛し愛されないと長続きしないわ」 ☆蕾 「私はある日を境に男として振舞い生きてきた それが私の存在意義だと思ったから… でも貴方が現れた事で私は女としての喜びを知ったの こんな私を好きだと言ってくれた 私は貴方に愛されてると思うと自然と笑顔になれる… ずっと貴方の傍にいたい、愛しいと思う程…」 ☆ディナー 「なぁ、蕾の時濁したけど貴方ってオルクの事だからな オルク、俺を愛してくれて有難う…」 |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
タブロス在中の貴族の令嬢 精霊はお付の執事兼教育係 上品なエンパイアドレス 薔薇の蕾を持って告白する際は、羽純くんの姿を強く目に焼き付けてから、俯き瞳を伏せてルースさんに向かい合い告白 羽純くんを想いながら… 「貴方が…好きです。ずっと傍に居たい」 告白で騙す お見合いを壊す為、演技 ルース様のお祖母様。急にこんなに恋人が現れて驚かれていると思います、私も驚きました けれど安心して下さい 皆、ルース様が大好きですから、問題ありません ね?マリンクリス様 (それでもいいと言えば、彼女の想いは本物。ルースさんに考えて貰いたい。こんな事言ってくれる人、滅多に居ませんよ) ディナーでは 今日もいつも助けてくれる羽純くんに感謝を |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
・ミットランド辺境の富豪令嬢設定で。 フォーマルにアフタヌーンドレス。 華美な装飾は無く品の良い落ち着いたデザイン。 新緑のボレロと淡い緑のショートドレス(丈は膝下)。 ミッドランドとイベリンの社交界・経済界事情は2日間に過去の新聞・紳士録、ネット等で【記憶力4】も使い勉強して色々把握理解します。 ・花持って目を閉じて話します「彼は大人の視点で拙い私に色々と社会の事を教えて下さるので毎日が楽しいのです」 ・「こんなにご友人が多いなんて、ルース様はやはり魅力溢れる方ですね。誰か1人に縛ってなどおけませんわ」とにっこり。 (見合いを無かった事にしたい雰囲気で) ・ディナー時は「いつも見守ってくれてありがとう」と。 |
●最初が肝心
イベリンのとある貴族の邸宅が並ぶ一角にルースの家はあった。
ルースの屋敷の一室でルースの祖母は大声をあげていた。
「ルースさん!!これはいったいどういうことですか?」
大広間には男女入り混じり11名がいる。
「えっとこちらの方々は私の恋人………達……です」
ルースは祖母から目線を逸らしつつ来訪してくれた偽恋人達を紹介する。
もちろんその偽恋人達はルースに神頼みされたウィンクルム達だ。
その光景を見てルースに一目惚れをしたというマリンクリスが両手で顔を覆い泣き出す。
彼女は淡いピンクのフリルがふんだんに使われたプリンセスドレスに、髪は夜会巻きにピンク薔薇の髪飾りを付けた可愛らしい20歳ぐらいの可憐な女性だ。
「こんなにいらっしゃるとはね」
と祖母はルースを軽蔑の眼差しで見やる。
「ルース様のお祖母様。急にこんなに恋人が現れて驚かれていると思います、私も驚きました。
けれど安心して下さい。皆、ルース様が大好きですから、問題ありません」
3人の様子に1歩前に出てそう口を開いたのは桜倉 歌菜だ。歌菜は上品な生地で作られた薄いオレンジ色のエンパイヤドレスに
ドレスと同色のレースと小さい花のあしらったヘッドドレスを着用している。
「あなたはどなた?」
「お初にお目にかかります、桜倉 歌菜と申します。タブロスの桜倉家の娘でございます」
歌菜は丁寧にお辞儀をした。
「桜倉?聞いたことが、あるようなないような」
「失礼いたします。桜倉家で歌菜お嬢様の執事兼教育係をしております月成と申します」
執事服に白い手袋を着用し眼鏡を掛けた月成 羽純が歌菜をフォローするために前に出た。
「歌菜お嬢様は病弱で、社交界にも滅多に参加された事が御座いません」
羽純はそうさらっと大嘘を付く。
しかし羽純のフォローにあっさりと祖母は納得した。
「ルース様のおばあ様、シエンテ家のリヴィエラと申します」
続いて自己紹介を始めたのはリヴィエラだ。彼女は青いAラインのイブニングドレスに銀色の蝶の髪留めを付けている。
また紋章を隠すために絹でできた手袋も着用していた。
リヴィエラの言葉に祖母は驚いた顔をする。
「あのシエテ家の……ルースがご迷惑を……」
この祖母、権力に弱いらしい。この地方でもシエテ家の家名は有名だ。
「妹がいつもルースさんにお世話になっております。兄のロジェと申します」
リヴィエラを指差しながら爽やかな笑顔を祖母に向けた。
爽やかな笑顔ではあるが、内心は引きつっているに違いない……リヴィエラに何かしたらルース許さん!と。
その2人を見てすぐ隣にいた燕尾服風の執事服を纏ったオルクスは、
(ロジェ完璧にやってるな……オレも落ち着け、大丈夫……クーが愛してるのはオレだアイツではない平常心平常心……任務成功させるのが先決だクールになれ…)
そう心で決め、オルクスは隣で少々緊張しているクロスに視線を移した。
(見合いを壊せって……んーやるだけやってみるか)
クロスはそう決心し一歩前へと出る。
「クロスです」
というと深く丁寧にお辞儀をする。聊か緊張気味なのか先の言葉が出ない。
「わたくしはクロスお嬢様専属の執事でオルクスでございます。旦那様は公爵を賜っており軍人でもあります」
「どちらの軍に所属してらっしゃるのかしら?」
唐突の質問に2人は押し黙る。どこ?……と。
「クー様のお父様とは私の父とも懇意にしてもらっております」
それはクロスの親友であるリヴィエラからの助け舟だった。
シエテ家と懇意にしていると聞き祖母はそれ以上の追及はしなかった。
(リヴィー助かったぜ)
礼を後でちゃんと言おうと心に決めつつ、クロスはそのまま話し出す。
「ルースさんは私にとって愛しい人……結婚はお互いが愛し愛されないと長続きしないわ!」
クロス渾身の演技である。オルクスの眉間に薄っすらと皺が寄ったのは見ないことにしておこう。
「私だってそうよ、ルース様をお慕いしてるもの」
応えるように言ったのは、質の良い新緑のボレロと淡い緑の膝下丈のショートドレスを上品着こなしている瀬谷 瑞希だ。
「瀬谷 瑞希と申します。ミットランドの奥にある瀬谷家の娘です」
瑞希の立ち姿は気品溢れるものだ。瑞希はこの日のために社交界・経済界事情は2日間に過去の新聞・紳士録やネットなどでその【記憶力】で
全て把握してきたのだ。
「ミットランドと言えばウィルター家のご主人はお元気かしら?」
「フェルス様でしたらつい先日まで腰痛に悩まされていらっしゃったそうですが、良いお医者様と出会われてすっかり良くなったと」
昨日その情報は仕入れたばかりのものだった、某掲示板で。
話が合うことで祖母は身分に偽りなしと認識したようだ。
「お嬢様専属にお仕えしております、フェルン・ミュラーです。護衛も兼ねていますけれども」
「護衛ですか?」
「はい、昔の話ですが攫われかけた事もありますし、また彼女の父が彼女を溺愛しておりましてね」
フェルン・ミュラーも質の良い上質な生地で作られたスーツを纏い、憂いを帯びた瞳で瑞希を見やる。
「お綺麗ですものね」
そんな、と遠慮がちに謙遜をする瑞希がいるが、ルースは瑞希を少し熱っぽい瞳で凝視する。
それに気付いたのかフェルンはルースに睨みを利かせる、とルースは心の中で「ヒッ!!」と慄いていた。
「皆さん揃ったようですね……では、皆さんにルースさんへの愛を聞かせていただきますわ」
祖母はほくそ笑み4組のウィンクルムを見渡した。
「お待ちください、私にもその愛の告白をやらせてください!」
「マリンクリス様…いいでしょう、では準備をしますのでお待ちくださいね」
そう言うと祖母は広間を後にした。
●ルースの対策と告白
「皆さん、ちょっと」
祖母が告白タイムの準備、マリンクリスが化粧直しに居なくなった瞬間にルースはウィンクルム達にこっそりと声を掛けた。
「本日はありがとうございます」
と丁寧にお辞儀をしてまずは一礼する。
「これから薔薇の蕾を持って私への想いを言ってもらうんですが……対策は?」
ルースにとってこれを乗り切らなければ行われるはずだったマリンクリスとの見合いをぶち壊すことは出来ない。
失敗すれば日を改めて見合いを行うとなるに違いない。
「それは大丈夫よ、目を閉じて他の愛しい人を想いながら話すから」
それに答えたのは瑞希だ。
「演技の準備もバッチリだぜ」
続いてクロスが言う。
他の2人も同じなのか強く頷いている。
「え、演技って……それに……他の人ですか?」
それを聞いたルースは頭を垂らし肩を落とした。
「それではだめなんですね……」
ルースの態度を察し歌菜は額に汗を掻きだした。
「時間もないですし……」
リヴィエラは今から対策する方法はないかと思案しだす。
「薔薇の蕾を持っただけで、私への素直な気持ちを伝えたくなるのです、他の人への想いも演技もできません」
薔薇の蕾は祖母が今日のお見合いのために特別にと育てられた薔薇の蕾だと説明した。
「まぁ会って数日の人間にいきなり好意ってのは難しいだろうと思いまして……こちらでどうにか」
と言いながらウィンクルム達に薔薇の蕾対策について説明したのだった。
それから程なくしてマリンクリスは気合が入った顔で広間に戻り、祖母は召使いに薔薇の蕾を運ばせながら皆の前に立つ。
「では皆さんにルースさんへの愛を告げていただきますわ」
召使いに薔薇の蕾を配らせる。
「では、まず瀬谷様」
最初に選ばれたのは瑞希だ。
スッと瞳を閉じて瑞希はルースへの想いを告げる。
「彼は大人の視点で拙い私に色々と社会の事を教えて下さるので毎日が楽しいのです」
少し頬を赤らめさせたのは真実味をますのに最適だった。
「彼と居るときは心が躍り世界が煌びやかに輝きます。このような方とはこれから先出会うことはないでしょう」
瑞希は驚くほど口からスラスラと言葉が出てくる、自分の思ったとおりに。
(ルースさんが言っていた通り、ただの薔薇の蕾ね)
そうルースは対策として薔薇の蕾をただの薔薇の蕾に摩り替えておいたのだ。
安堵しそのまま瑞希は更にルースへの愛を語っていく。
それを聞いたルースはのぼせあがり近付き肩を組もうとした……が、
その手を瑞希の後ろに立っていたフェルンが祖母には見えないように抓る。
「ヒギャッ!?」
フェルンさん結構力が入っていたようだ。
「ルースさんどうしました?」
奇声をあげ涙目のルースを祖母は訝しげに見る。
「いえ、彼女の気持ちに心から嬉しくてつい」
「お嬢様に触れるな……」
ルースにしか聞こえないようにフェルンが言い放つ、ドスが利いてるよ。
「そう、ですが……では次はクロス様」
次はクロスの番だ、一つ深呼吸すると薔薇の蕾を嗅ぎながら口を開いた。
「私はある日を境に男として振舞い生きてきた。それが私の存在意義だと思ったから……」
窓の外に目線をやり憂いを帯びた視線をする。そして次はルースを見つめる。
「でも貴方が現れた事で私は女としての喜びを知ったの……こんな私を好きだと言ってくれた」
少し涙を浮かべた微笑みを浮かべる。
「私は貴方に愛されてると思うと自然と笑顔になれる……ずっと貴方の傍にいたい、愛しいと思う程……」
胸の前で手を組み愛しそうにルースを熱っぽい瞳で見る。
瑞希の側にいたルースは感動し少しずつ近付きクロスの手を握ろうとする。
と、すかさずオルクスがルースを跳ね除け、
「ですので!お嬢様は幼き頃から跡取りとして男として育てられておりました。しかしルース様と出逢い、お嬢様は変われました」
床に突っ伏しかけたルースを放置しオルクスも迫真の演技をする。
「お嬢様が此処まで変われたのはルース様及び恋の力……お嬢様には幸せになって貰いたいのがわたくしの願いです」
口ではそう言いながらもオルクスの心中に少しチクリと何かが刺さった。偽りだとしても幸せにするのは自分だと告げたくなる。
「お互いが愛する人と結婚が宜しいかと……ルース様には感謝しております」
突っ伏しているルースに手を差し伸べる。顔は微笑みを浮かべているが、目が笑っていない。
「触るなと言っているだろ」
これもまたルースにしか聞こえないように低く言う。
「クロス様そこまでルースさんのことを」
「本心ですから」
クロスの迫真の演技に祖母は感動したのか瞳が少し濡れている。
マリンクリスはというと今までの告白を聞いて不安が過ぎっていた。
「桜倉様宜しくお願いしますわ」
声を掛けられた歌菜は背筋を正す。
「貴方が…好きです。ずっと傍に居たい」
ルースを真剣な目で見つめ愛おしそうに胸に手を当てて瞳を閉じた。
歌菜の心には羽純が浮かびあがっている。直ぐ後ろに羽純がいるからこそ素直に出た言葉だ。
閉じた瞳を静かに開くと優しい微笑みを浮かべ、
「先ほども言いましたが、たくさん恋人がいても問題ありません。ね?マリンクリス様」
歌菜に突如として話しを振られマリンクルスは歌菜を見た。
「も、ちろんです……」
言い淀んでいたものの、歌菜にそう言われてこの状況を飲み込む覚悟をしたように瞳をぎゅっと閉じる。
(彼女の想いは本物)
決心が付いていないだけでマリンクリスの心は本物だと確信する歌菜。
そんなこと露知らずにルースは歌菜に、
「歌菜さすがだよ、私も心からッ!!」
言いながら抱きつこうとする。
もちろん羽純の出番だ。
咄嗟に2人の間に入り、手を渾身の一撃で叩き落とす。
「ルース様、お嬢様が驚きで倒れてしまわれます。お体が弱いので」
ニッコリと羽純はそう言うが、ルースの右手の甲は真っ赤だ。
「うぐっ!?」
小さく呻いて羽純を見ると顔は爽やかスマイルだが後ろに何か見える、怒りの炎だ。
「これは失礼を……」
「お嬢様の告白に感極まったのですね、いつものルース様らしくありませんよ」
更にさわやかスマイルである。
ルースはこれで三度目、と少々体のあちらこちらが痛くなってきたと思いだす。
「では次リヴィエラ様」
指名されたリヴィエラは丁寧にお辞儀をし話し出す。
「私は貴方を愛しています」
それは強烈な愛の告白だった。リヴィエラから真剣な心だということが全身から伝わってくる。
ロジェはルースを見つめながら言っているリヴィエラを見て唇を噛む。
今自分はリヴィエラの兄としてここにいるが、他の男に愛を告げている姿は偽りだとしても見たくはない。
自然と拳を強く握る。
「愛している方がいるのなら……このように愛を告げるべきです。そうですね? ルース様、マリンクリス様、お祖母様」
3人を見渡した後に、ロジェに視線を合わせてニコリといつも向けている笑顔で微笑んだ。
「そうです!私だって……ルース様を愛しています!」
リヴィエラの番だということを忘れてマリンクルスが愛を告げた。
彼女はリヴィエラの誘導にうまく乗ったのだ。
「今後更に10人100人、愛している方が現れたとしても私はルース様だけを愛します……」
マリンクリスは泣き崩れながらも真摯に告げた。
「あの時ルース様が見知らぬ男達に囲まれた時に助けて下さいました、そのことは覚えていらっしゃらないようですが」
それを聞きルースはマリンクリスを見つめる。
「先月の社交界でまたお会いできた時運命を感じました」
そんなマリンクリスにリヴィエラはそっと手を差し伸べると抱き締める。
「俺は」
その様子にロジェは声を張り上げる。
「自分の手で神人を手に入れた。ルース、アンタが本当の愛を求めているのならこんな親の取り決めた婚約など、蹴る勇気を見せてみろ!」
一通りの言動や行動をみてロジェの我慢が限界にきていたのか、リヴィエラの持っている薔薇の蕾を投げ捨てる。
「こんな見合い、俺は認めない!ばあさん、アンタもルースを甘やかすな!」
そう強く言い放った。
「このような軽薄なお方です。考え直された方が良いかと」
羽純はマリンクリスに歌菜と一緒に近付きそう言う。
「いいえ、私はルース様をっ!」
マリンクリスは声を詰まらせて大きな瞳から涙を零す。
「彼女の想いは本物です。ルースさん考えて貰いたいのです。こんな事言ってくれる人、滅多に居ませんよ」
ロジェの告白とマリンクリスの言葉、更に歌菜の真摯な態度に羽純は心を決めルースに詰め寄り胸倉を掴む。
「本気で惚れてくれた相手だ。お前も男なら、受け止めるかは置いていても誠意を見せろ」
ルースは羽純の言葉に目を見開いた。
「これはどういうことですか!!??」
そのやり取りを今まで黙っていた祖母は困惑気味に言った。
「皆落ち着いて、ちゃんと話そう」
その雰囲気を戻したのはフェルンだ。
彼のスキル【メンタルヘルス】が功を奏した、一人ずつ落ち着かせるように話しかけたのだった。
一通りの今回の件について祖母に事情は話しその場は落ち着いたが、それをきいたマリンクリスはショックを隠せずにいた。
しかしそのマリンクリスに4人の神人がそっと寄り添う。
「あなたの想いは通じています、大丈夫です」
手を握ったり抱き締めたり、優しく微笑みながら話す神人に、ルースに受け止める覚悟を決めろと精霊達は語る。
祖母はというとそれを少し困ったように見つめ、自分がどれだけルースを甘やかしてきたのかと反省していた。
「わかりました……」
ルースは精霊の話を聞いて今まで見たことの無いような面持ちでマリンクリスに近付きそっと手を取った。
それをウィンクルム達は立ち上がり見届ける。
「マリンクリス、私は過ちを犯しそうになりました。まずはお互いを知るためにお付き合いから」
「ルース様……」
そっとマリンクリスの涙を手で拭いルースは微笑んだのだった。
●花火と音楽に彩られて
一騒動が落ち着いた頃には日はすっかり落ちていた。
ルースは今回のお礼としてイベリンの最高級の展望レストランに皆を招待したのだ。
「では皆さん、これではお礼に不足ではありますが晩餐をお楽しみください」
皆が囲んだテーブルにはローストビーフやパエリア、アスパラのポタージュ、寿司とさまざまな料理が並んでいる。
そんな中早速とルースはマリンクリスとイチャラブ中である。
皆さっきまでの騒動を考えると、少々呆れ気味でみる。
「あ、あの…ロジェ、怒っていますか…?」
ポタージュに口を付けながらチラチラとロジェの様子を伺うようにリヴィエラはいう。
「…別に怒ってはいない。君はすぐ、困っている人を助けようとするからな」
そこがまた好きなところだと言いたそうにロジェの瞳は語っていた。
「リヴィー、君は…恋人が俺で良かったか…?」
幸せそうに今は微笑んでいるマリンクリスを見てロジェは尋ねる。
「私ですか? 私はロジェと出会えて心から幸せだと思っています」
リヴィエラはとびっきりの笑顔で答える。
その様子にロジェは心で感謝し、リヴィエラの手を握った。
フェルンは皆を落ち着かせるのに疲れたのか食事にはあまり手をつけずグラスに入った飲み物を飲んだ。
「ミュラーさん食べないの?」
そんな様子を心配してか瑞希はフェルンの顔を覗き込んだ。
「食べるよ、ちょっと大変だったからな」
自嘲気味に笑みを浮かべる。
「今は幸せそうだね」
イチャラブの2人を見て少し呆れる2人。
「いつも見守ってくれてありがとう」
突如瑞希の口から感謝の言葉が紡がれた。
てんやわんやした際に直ぐに行動に出たフェルンを瑞希は一緒に回りつつ頼りになると見つめていた。
「俺も君と一緒だと毎日が楽しいよ」
それはフェルンからの感謝の気持ちだ。
瑞希と出会えたこと、毎日幸せを感じていることに。
「私も毎日楽しいよ」
2人は信頼という絆でこれからも一緒に居ようと心に決めたのだった。
オルクスはローストビーフに口を付けながら少しの笑みを零しながらイチャイチャラブラブ(パワーアップ)している2人を見ていた。
「なぁ、蕾の時濁したけど貴方ってオルクの事だからな」
少し恥ずかしそうにクロスは告げると、オルクスは一瞬目を見開いて彼女を見るが、
「ったく、知ってるし当たり前だっつーの」
と照れながら目の前のローストビーフを実は心の中での嫉妬心を抱いた事を隠すように頬張る。
もちろん分かっていたことだが目の前で愛している女性が他の男に……となると自分でも抑えられない感情が湧き上がってきたのだ。
「オルク、俺を愛してくれて有難う……」
クロスの言葉に食べていたのをやめ見る。
ここに他人がいなければ抱き締めるところだった。
その衝動をグッと堪えるオルクスをクロスから目線を逸らした。
「オルク?」
オルクの行動に少し焦るクロスだったが、ふと手が握られる。
「当たり前だっつーの」
衝動を抑えるための精一杯の答えだった。
クロスはそんなオルクスの肩に寄りかかったのだった。
お疲れ様、というように歌菜と羽純はグラスを鳴らす。
「今日もいつも助けてありがとう」
歌菜は素直に感謝を告げた。
「歌菜が一生懸命だから手伝っただけさ」
いつも一生懸命に立ち回る歌菜を見ているのが好きだ、と羽純は思う。
「でもさ、最後やっちゃったよな……」
「でも、あの言葉があったから今2人は幸せそうだよ」
2人は同時にイチャイチャイチャラブラブラブ(パワーハイアップ)のルースとマリンクリスを見る。
「羽純君かっこよかったよ」
「歌菜の姿見てたら、それにロジェさんの言葉で」
恥ずかしそうに鼻の頭を掻く。
「これからもよろしくね」
歌菜の笑顔に羽純は「もちろん」と笑顔で返した。
ふっと部屋の明かりが暗くなる。
「皆さん花火が始まりますよ!」
澄み切った夜空に大輪の花が咲く。
大輪の花火はここに居る人々の未来を色とりどりに輝くようにと夜空を彩っていた。
依頼結果:成功
MVP:
名前:桜倉 歌菜 呼び名:歌菜 |
名前:月成 羽純 呼び名:羽純くん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 草壁楓 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月23日 |
出発日 | 06月29日 00:00 |
予定納品日 | 07月09日 |
参加者
会議室
-
2015/06/28-23:50
-
2015/06/28-23:50
-
2015/06/28-16:16
ご挨拶が遅くなりました…!(ずざざっ)
桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
皆様、宜しくお願い致します!
薔薇の蕾を持つと本心が出てしまうんですよね…むむむ、上手くやらないとですねっ
最後の敵はモ=ジスウです…! -
2015/06/28-16:13
-
2015/06/28-00:52
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのミュラーさんです。
黒須さんは初めまして。
皆さま、よろしくお願いいたします。
プラン記載必須項目が4種類も!
書き忘れないようにしなくてはいけませんね。
文字数が厳しそう。頑張ります。 -
2015/06/27-10:23
-
2015/06/27-09:55
-
2015/06/27-09:53
ロジェ:俺はロジェという。神人はリヴィエラだ。どうか宜しく。
具体的な方法はまだ思いついてないんだが、少し考えてみるつもりだ。
リヴィエラ:うう、ルース様を殴らないでくださいね(目に涙を溜めつつ)