プロローグ
七色食堂って知ってるでしょう? 知ってるわよね?
その内の一つの青の食堂、【Revers eblue】がね、イベリン地方の貴族にウケてるらしいの。
紫の店だったかしら? あっちは高級店っぽい雰囲気だけど、青の方はどっちかって言うと庶民的じゃない。
それが良いんですって。不思議ね。不思議だわ。違いがあるようには思えないのだけれど。
「あの……」
「なによ」
「ご、ご用件の程は……」
びくびくと身を縮こまらせながら尋ねた職員に、さんざ一人で語っていた女は、あぁ、と頷く。
「イベリンで、出張店舗を展開するの。その第一号にウィンクルムを招きたいんですって」
「あ、あぁ……お仕事のお話じゃないんですね……でも、何故、あなたが?」
安堵した様子で肩の力を抜いた職員の問いに、つん、とすました顔の女は、再び「なによ」と一言挟む。
「手伝ってあげるてるのよ」
「あなたがですか?」
「私がよ」
文句ある? と続きそうな台詞に、職員は慌てて、何故を問うた。
「青のお店の最大の特徴は、極寒の中の温かい料理と、酷暑の中の冷たい料理でしょ。場所と機材の確保が必須なのを、今回出張店舗にした関係で、極寒を維持するのが難しいのよ」
季節的に、もう十分すぎる程暑い日々が始まっている。少しの暖房機材で暑い環境は作る事が出来るようだが、寒い環境は難しいのだ。
そこで白羽の矢をたてられたのが、この女というわけだ。
「ま、雪女の力にかかればちょっとしたブースを氷漬けにするぐらい軽いわよ」
得意げに胸を張った女――雪女のヒサメは、ウィンクルムと共に七色食堂の窮地を救った経緯がある。主に仕事をしたのはウィンクルムだが。
その縁で、夏の暑い日差しを避ける避暑地として青の店舗を利用させて貰えることになったのだ。
その見返りとして、極寒のフロアの冷房代わり、酷暑のフロアの冷製メニューの氷係を担当しているわけだ。
「酷暑のブースでは雪女特性かき氷、極寒のフロアではあつあつのおしるこ。今回は出張版だからスイーツに絞ったんですって。どう? 興味ない?」
「七色食堂自体有名なお店ですから、気になる人もいるかもしれませんね、早速ご案内させて頂きます」
かつては敵対していた雪女が、ウィンクルム以外の人間とも協力的に過ごしている姿を見て、職員は嬉しそうににこにことしている。
それを、ちらりと見て。雪女はぼそぼそと付け加えた。
「……ブースに入る時には、桃色の花車を胸に一つ、飾る決まりになってるのよ」
「ももいろの、はなぐるま、ですか?」
「そう、これよ、これ」
白い着物の袖の影に、そっと忍ばせるように添えたもの。それはどうやらコサージュのようだった。
生の花を切り取って胸元に添えやすいように加工されたそれは、きっと、イベリンの花で――。
「ひ、日頃の、かんしゃとか、そういうの、たまにはいう機会があってもいいんじゃない!」
ぷい、とそっぽを向いた雪女は、要するに『あてられて』いるのだろう。
桃色の花車。
女神の祝福を受けた、ピンク色の、ガーベラの花に。
解説
イベリン王家直轄領に出張店舗を展開している【Reverse blue】に遊びに行きましょう
酷暑の中で冷たいメニュー(かき氷)が楽しめる夏のブースと、
極寒の中で暖かいメニュー(おしるこ)が楽しめる冬のブースがあります
普段は温度差の関係で行き来できませんが、今回はスイーツのみで各ブースの滞在期間が短い事から、
休憩を挟む事で両ブースを行き来できます
試作店舗の為、メニューは一品のみです。お茶くらいなら出ます
「各ブースごと」にお一人様200jr頂戴いたします
二人で冬のブースにだけ行ってみる→400jr消費
二人で両方のブースに行ってみる→800jr消費
一人は冬のみ、もう一人は両方行ってみる→600jr消費
上記のようになります。
ブース外での休憩描写は、基本的にプランでの希望が無ければありません
ブースに入る時には、胸にピンクのガーベラの花を付けてください
女神の祝福を受けたこの花は、触れる事で『感謝の気持ち』を伝えたくなります
伝えるかどうかはご随意に。我慢して頂いても構いません
雪女は仕事中なので話しかけられても挨拶くらいしか応じられません
雪童はいません
ゲームマスターより
夏が来る前にヒサメさんの顔出ししておこうと。
そしてクレヨンGMに続けとばかりに(とても遅い)七色食堂再来です。
ヒサメさん、および七色食堂に縁があっても無くても関係ないので、興味がございましたら是非ー。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
冬ブースでおしるこを注文 ヒサメさんには挨拶代わりに手を振って 全身もこもこ装備の珍しい姿に可愛さを見出しつつ 思わず頬が緩むのは仕方のないことだと思う 極寒も酷暑も嫌いな彼が、此処に付き合ってくれているんだから 無防備な手が震えるのを見かねて懐炉を差し出し ラセルタさんに比べたら耐性はあるから…、っ!(くしゃみ 少しは温かくなった?平静を装って尋ねてみる かじかんだ手が楽になるならいいとは思うけれど (役得だって素直に喜べないのは恥ずかしさもあるから、かな 跳ね回る心拍数を、気付かれないよう花車ごとそっと押さえ 不意に込み上げて堪らない感謝を、はにかみ笑いで告げる 今日はわがままを聞いてくれて嬉しかった。ありがとう |
鳥飼(鴉)
花を着けて、と。 どうしようか悩みますね。 鴉さんはどっちに行きたいとか、あります? こういう場所、嫌でしたか?(首傾げ (返答に苦笑い なら、今回は冬の方に行きましょうか。 ヒサメさんに、ご挨拶もしたいですし。 ヒサメさん、お久しぶりです。 お仕事がんばってくださいね。 (お汁粉一口 あったかくて美味しいですね。 そう言って、一緒に食べてくれますよね。 嬉しいです。(微笑 (花を見て いつも僕の我侭に付き合ってくれて、ありがとうございます。 鴉さんと居るのが楽しくて、ついはしゃいでしまって。(はにかみ (辛うじて聞こえ、満面の笑みで喜びのオーラ なら、これからも誘って良いですか? それと、鴉さんの行きたい場所にも行きたいです。 |
明智珠樹(千亞)
●2人で夏 ふ、ふふ。楽しみですね。 千亞さん、脱ぎだす夏と人肌暖めの冬、どちらがお好みですか? 勿論ご一緒します。いざ、常夏のアズールへ! ●酷暑 おやおや、これは暑いですね。 ふ、ふふ、暑さにやられて息も絶え絶えな千亞さん…ふ、ふふ…!(妄想) 私も暑いですよ?脱いでいいですか? …さては千亞さん、アレを期待してますか? 汗ばんだ私の身体がシャツを濡れ透けさせ、私のおち(蹴られ) ●氷(宇治金時に白玉&練乳希望) ふふ、これは生き返りますね…!もちもち…! 千亞さんも食べますか?はい、あーん 千亞さんのいちごみるく、美味しいです。ふふ…! どちらかと言うと和菓子派ですね。 でも千亞さんのお陰で洋菓子も好きになりました。 |
ハーケイン(シルフェレド)
◆心境 ここでオシルコ?と言う甘味が食えるらしい シルフェレドは寒いのは嫌か、酷暑ブースに行け 暑いのも嫌いだと?知るか ◆行動 結局ついて来たのか、って冷え過ぎだろう! こいつ本当に寒いのが駄目なのか 仕方ない、このままオシルコを食べに行く 食えば少しは温まるだろう ほら口を開けろ。貴様は箸が使えんだろう そこまで寒いのが苦手なら付いて来なければいいだろうに ……まあ、貴様が常に俺の側にいるのは……悪くは、ない (一人ではあの人の事をすべて思い出す事はできなかった) (苦痛に耐えられず、幸せだった事すら封じていただろう) そ、それはともかく、いつまで咀嚼している モチを飲み込むタイミングが分からない? ……貴様は馬鹿か |
カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
目的:冬のブースで寛ぐ 心情:暑いのより面白ぇ 手段: イェルを誘って冬のブースへ 理由? 今の季節に冬が味わえるのも楽しいだろ。てめぇはつまらないと思うのか? つまんねぇ男だな、オイ (実際はイェルの気分転換だが言わない) おしるこ、食ったことあるか? 俺はねぇ (苦手ではないので普通に食べる) 俺が甘いもの食うのは意外か? そりゃ偏見だ、ゴミ箱にでも捨てとけ 甘いのは嫁も娘も好きでな、休日は嫁がよくケーキを焼いてたの食ってた (死んだ妻子の話題はタブーではないので普通にする) 嫁? あいつはいい女だったよ。こんな馬鹿な男に引っ掛かるのが勿体無い位な(柔らかく笑う) (ガーベラに触れ)今日は、付き合わせて悪かったな |
●未だ冷ややかな、
酷暑、極寒。チラシに並ぶ二つの単語を見比べて、カイン・モーントズィッヒェルはふむと頷いた。
「冬だな。行くぞ、イェル」
きっかけはそんな調子で。
連行されたパートナーのイェルク・グリューンもまた、現地に並んだ二つのブースを見比べて、カインに問う。
「今日はどうしてこちらに」
「理由? 今の季節に冬が味わえるのも楽しいだろ。てめぇはつまらないと思うのか? つまんねぇ男だな、オイ」
ぶっきらぼうな物言いだが、本音としては、イェルクの気分転換を図りたかったのだ。
同じ事件で大切な人を失った者同士、思う所がないわけではない。
ただ、二人ともいい年をした大人なので、表立って口にすることが、無いだけで。
「……そうですね、楽しみます」
にこりと笑みを返したイェルクは、小さく、カインに気取られぬ程度に溜息をついた。
どうしてこんな所にいるのだろう、と心の端で思う彼は、まだ、自分の事で精一杯で、カインの意図を知ることはない。
「おしるこ、食ったことあるか? 俺はねぇ」
メニューが一つとなれば数を頼むだけ。暖かいお茶と引き換えの簡単な注文の後に、カインは向かい合ったイェルクに尋ねた。
イェルクの方も、首を傾げるばかりだった。
「おしるこ……は、食べたことがございませんね」
「そうか、それなら一層楽しみだな」
からりと笑えば、早々にお汁粉が運ばれてきた。
甘い香りが漂う器をひょいと抱えて、箸で中身をくるり一度だけ。少し観察するように見つめてから、カインはゆっくりと口を付けた。
そうして、ふんふんなるほどと言った表情で甘味を味わうカインを、イェルクは少しだけ意外そうな顔をして見つめていた。
「意外ですね。甘いものが苦手な方に見えました」
素直な感想に、カインは小首を傾げ、こくん、と嚥下してから肩を竦める。
「俺が甘いもの食うのは意外か? そりゃ偏見だ、ゴミ箱にでも捨てとけ」
あっけらかんと言い切ってから、カインは少し遠くに視線を置き、思い出をなぞるような顔をした。
優しい表情に、優しい声が重なる。
「甘いのは嫁も娘も好きでな、休日は嫁がよくケーキを焼いてたの食ってた」
今ではもう、二度と過ごす事の出来ない時間。
失くしてしまった家族の話があまりにもさらりと零れた事に、イェルクはかすかに目を剥いて、思わず沈黙した。
けれど、同時に沸いたのは、好奇心に少し似た、感情。
「奥様はどんな方でしたか?」
悲しくは、ないのだろうか。そんな疑問を重ねた問いに、カインはきょとんとした顔でイェルクを見やる。
「嫁? あいつはいい女だったよ。こんな馬鹿な男に引っ掛かるのが勿体無い位な」
優しい顔で、カインは笑った。
幸せな家庭が彼の下にはあったのだと、知らぬ身でも判る程に。
聞いたイェルクは、黙るしかできなかった。ずっと浮かべている温和な笑顔も、今はあまりに場違いに思えて、少し薄れている。
そうですか、と。相槌の一つでも返せればよかったのだが、叶わないままの沈黙。
けれど不意に、カインがそっと己の胸元に添えたガーベラに触れて、いつもと同じ顔で、少しだけ苦笑した。
「今日は、付き合わせて悪かったな」
それで、ようやくイェルクの時も動き出した。
けれど、同時に。何故だか判らないが、死んだ恋人の事を思い出してしまった。
カインの幸せな時間を、垣間見たせいだろうか。
分からなかったけれど、イェルクはただ微笑んで、カインを穏やかに見つめた。
「こちらこそ」
悲しい気分になるのはこの人のせいではない。
そんな風に、言い聞かせながら。
●微か温もった、
冷気がじわじわと滲み出ているブースを前に、ハーケインは厚手のコートを羽織りながら呟く。
「ここでオシルコ? という甘味が食えるらしい」
「日本料理が気に入っているようだな。オシルコとやらを目当てにこんな所に来る程とは……」
当たり前のように同行したシルフェレドが、想像もついていない甘味を思案していると、ふと、ブースの看板が目に入った。
「……まて、このブース極寒と書いてないか?」
「だから厚着しているんだろう? シルフェレドは寒いのは嫌か、酷暑ブースに行け」
「暑いのも嫌だ」
「知るか」
だったらそこで待っていろ、と切り捨てて、ハーケインは一人でずんずんとブースに向かってしまう。
うぐ、と少し唸ったシルフェレドだが、やがてコートを羽織ると、ハーケインの後を追った。
揃って、胸に花を添えながら。
「……結局ついて来たのか、って冷えすぎだろう!」
がたがたと震えながらぴったりとハーケインにくっついているシルフェレド。
見た感じはハーケインより厚着なのだが、震えが止まる気配はない。
どうしてハーケインは震えてすらいないのだと言う目と、視線が合う。
(寒い。寒すぎる。ハーケインがあたたかい)
温もりが心地よくなってしまう。いけない、寝たら死ぬぞ。
シルフェレドのあんまりな様子に、ハーケインは小さく溜息をついて、出された暖かいお茶をシルフェレドの傍に寄せた。
「オシルコが来るまで待て。食えば少しは温まるだろう」
吐息の白くなるその場所で、待つ時間はほんの少し。暖かいお汁粉が二つ並べられれば、ハーケインは、ほら、とシルフェレドをせっついた。
「口を開けろ。貴様は箸が使えんだろう」
にょん、と伸びる餅を口元に差出ながら言うが、震えるばかりのシルフェレドが応じる様子は無く。
仕方ない、と、器ごと口に寄せて、甘い汁を飲ませてやった。
そうしてやっと、身体を満たした暖かさに、シルフェレドの口から、ほぅと小さな吐息が漏れた。
見届けたハーケインも、心なしか安堵した顔をしている。
「そこまで寒いのが苦手なら付いて来なければいいだろうに」
突っぱねるような言葉を吐きつつも、自分も暖かいお汁粉を口にして。
「……まあ、貴様が常に俺の側にいるのは……悪くは、ない」
ぽつり、呟いた。
ハーケインは、シルフェレドの事がどちらかと言えば嫌いだ。
だけれど、彼と出会うことなく一人のままだったら。彼が、過去を抉りだしてくれなければ。
きっと、ハーケインの記憶に残る唯一の人の事さえも、思い出すことはできなかっただろう。
辛い記憶に耐えかね、全て蓋をして、無かった事にしていたかもしれない。
そう言う意味では、感謝しているのだ。これでも。
だから、こうやって甲斐甲斐しくお汁粉を食べさせてやったりしているわけで。
普段は見られないハーケインのデレの部分を垣間見れ、暖かさに余裕を取り戻したシルフェレドの口元が緩む。
(これは返してやらねばなるまい)
皮肉も嫌味も、傷つける意図もなく。花車の祝福に押されるように、シルフェレドは言葉を紡ぐ。
「私もお前に出会えた事を感謝している」
シルフェレドは、自覚している。自分の本性がねじ曲がっているのを。
だからこそ、押し込んでいる欲望を垣間見れば、誰しも、勝手に離れていくのだ。
「だがお前は私の側から離れない。私も決して離さない」
精霊は、漏れなく美貌で。寒さのせいで儚げな顔が、穏やかに微笑んで素直な言葉を告げてくる。
甘い雰囲気に、ハーケインは思わずシルフェレドの口に餅を突っ込んでいた。
「むぐ」
もぐもぐもぐもぐ。まだ温かさの残っている餅を噛むのに一生懸命になるシルフェレド。
甘い雰囲気が掻き消えたのを確かめて、自分の分のお汁粉を味わってから、一息。
ちらと隣を見れば、難しい顔のシルフェレドがまだ餅をもぐもぐしていた。
「いつまで咀嚼している」
「飲み込むのか? いつ? ネトネトとして噛み切れんぞ」
「モチを飲み込むタイミングが分からない? ……貴様は馬鹿か」
呆れて。それから、小さく笑ってやった。
●常に熱烈な、
少し距離を開けて二つ並べられたブースを交互に見て、明智珠樹はパートナーの千亞を見やる。
「ふ、ふふ。楽しみですね。千亞さん、脱ぎだす夏と人肌暖めの冬、どちらがお好みですか?」
「服を着ろド変態」
来てみたかったんだ、とにこにこしている千亞に珠樹もにこにことしながら問えば、まず真っ先に悪態が返る。
しかしそれももはや日常。ころりと切り替えた千亞は、んー、と思案顔を作った。
「両方好きだけど……今日はかき氷食べたいかな。珠樹は?」
「勿論ご一緒します。いざ、常夏のアズールへ!」
ばさり。纏ったのは薄手のシャツ。意気揚々とブース内へ入れば、熱気が二人を包んだ。
「おやおや、これは暑いですね」
「想像以上に暑い……」
カラッとした熱気である分、まだ息苦しさはないが、予想していたより暑くて早速ダレる千亞。
白い兎の耳を垂れさせ、ぐったりと机に伏した彼を、珠樹は微笑ましげな顔で見つめた。
(ふ、ふふ、暑さにやられて息も絶え絶えな千亞さん……ふ、ふふ……!)
頭の中で妄想展開されている事ももはやお約束ではあるが、千亞は知らない。
ただ、にこにこと変わらず元気そうな珠樹を、少し訝しげな顔で見るだけ。
「……珠樹はこんな状況下でも元気だな……」
「私も暑いですよ? 脱いでいいですか?」
「脱ぐな。気持ちはわかるが脱ぐな」
ぐてーっとしたまま淡々と返す千亞に、珠樹ははっとしたような顔をする。
「……さては千亞さん、アレを期待してますか? 汗ばんだ私の身体がシャツを濡れ透けさせ、私のおちっあふぅん!」
強制終了。
ぐったりしながらも自慢の脚は衰えない。千亞の強烈な蹴りを食らって、珠樹もまた、千亞同様机に伏す事となった。
と、そこへ現れたのがかき氷だ。
氷の粒がきらきらして見えたのは照明のせいだけではあるまい。
瞳を煌めかせ、がばっと身を起こした千亞は、伏した珠樹も起こしつつ、そっとかき氷に匙を入れた。
きめ細かいふわふわの氷にたっぷりかかった苺みるく。口にして、千亞はふわぁっと花咲くような笑顔になった。
「……おいっしい!」
「ふふ、これは生き返りますね……! もちもち……!」
傍らでは、宇治金時にもちもち白玉、練乳もたっぷりかけられたかき氷を満喫している珠樹。
暑い中に食べるかき氷は、絶品だ。
「良い氷を使うと頭痛くならないって、本当なんだな……!」
感動したように氷を味わう千亞を、にこにこと見つめていると、気取られたのか、不意に視線が合った。
にこ、と微笑みかけて、珠樹は自分のかき氷を一口分、掬って差し出した。
「千亞さんも食べますか? はい、あーん」
自然な行動に、ぶわ、と頬が熱くなる千亞だが、かき氷の魅力は絶大だ。あーん、と口を開けて、ぱくり。
「ん、和風も美味しい……! 珠樹って、和菓子好きだよな」
もちもちした白玉の食感を味わいながら、千亞もまた、珠樹に己のかき氷を差し出す。ただしこちらは、器ごとだが。
「ありがとうございます。千亞さんのいちごみるく、美味しいです。ふふ……!」
一口分掬い取って口に入れた珠樹は、千亞の問いに、そうですね、と同意を示した。
「どちらかと言うと和菓子派ですね。でも千亞さんのお陰で洋菓子も好きになりました」
二人で味わう物が、どれも美味しいからだ。
そう言って笑う珠樹の顔に、千亞はなるほどと頷きつつも、つぃと顔を背けて。
(今度は、お汁粉を食べよう)
珠樹の好きなものを、一緒に。そう、決意した。
「ところで……千亞さん。交換日記続けてくださりありがとうございます」
「へ? なんだ、突然」
「感謝と愛を伝えたくなりました」
千亞から言い出し、綴るようになった日記も、随分長く続いている気がする。
「べ、別に感謝されるようなものじゃ」
大したものじゃない、と。そう言いたいけれど。赤面した顔が、物語る。
今日という日も、思い出として綴られますように。
今後何があっても、珠樹が、千亞を忘れることの無いように。
●斯くも暖かな、
羽瀬川 千代は至極楽しそうだった。
ぱたぱたとせわしなく働く雪女に、視線の合った瞬間を狙って手を振れば、ひらりと袖を振り返されたし。
全身もこもこというとても珍しい姿のラセルタ=ブラドッツはなんだか可愛らしいし。
何より、極寒も酷暑も厭うはずの彼が、そうやってこの場所に付き合ってくれたのだから。
(千代に誘われようとも断るつもりがどうしてこうなった?)
ブースの隅で小さくなって震えているラセルタは、七色食堂の評判は元より、青の店舗についてもきちんと把握していた。
断固拒否を貫くつもりで居たはずなのに、気が付けばこんなことになっている。
震える声で早急に熱い茶と汁粉を所望るラセルタを見つめて、ほんのりと微笑んでいる千代が今だけは憎い。
(笑いたければ笑うが良いだろう後で覚えていろ……!)
はぁ、と。吐き出した息が白くかすみ、腕の間に突っ込んでいた指先を少しだけ暖める。
完全防寒で来たつもりのラセルタだったが、唯一、手袋を忘れてしまっていたのだ。
かじかむほどではないが、じわじわと熱を奪われている心地がして、放り出しても置けない。
そんなラセルタの手元に、そっと、懐炉が差し出された。
「使って?」
「……流石に準備が良いな」
ありがたく受け取りかけて、じ、とラセルタは千代を見つめる。
まさか一つではあるまいな、と問うような視線に、千代はにこりと微笑んで。
「ラセルタさんに比べたら耐性はあるから……、っ!」
ぱ、と咄嗟に口元を押さえても零れてしまう、小さなくしゃみ。
先ほどとは違う息を吐き出して、肩を竦めたラセルタは、受け取った懐炉を千代の手と一緒に掴んで、包んだ。
「どちらの手も温くなって一石二鳥だろう?」
窺うように、笑みを湛えて見つめてくるラセルタの顔と、包まれる手とを交互に見つめて、千代はにこりと微笑む。
「……少しは温かくなった?」
何でもない風を装って小首を傾げた千代だが、内心では跳ね上がる心拍数を気取られぬように繕うのに必死だった。
まだ足りない、と主張されるようにかすかな力を籠められれば、なお、鼓動は高まる。
ラセルタのかじかんだ手が楽になるなら、それは喜ばしい事、だけれど。
(役得だって素直に喜べないのは恥ずかしさもあるから、かな)
顔にまでは出ていないだろうか。
そわそわしながら胸元の花を押さえて。
じわり、と。胸中に暖かな気持ちが膨らんで、千代は少しだけ視線を落とす。
自分の胸元を、問うような目で見つめたけれど、込み上げる物は抑えようがなくて、それを、伝えたくなって。
「今日はわがままを聞いてくれて嬉しかった。ありがとう」
ふわり、はにかんで、告げた。
落ち着かない様子の千代を、不思議そうに見つめていたラセルタだったが、不意の表情に、一瞬、息をするのを忘れた。
(ああ、そうか思い出した)
極寒も酷暑もごめんだと思いながら、それでもこんなところまで来てしまった、理由。
ちよの、この笑った顔が浮かんだ所為だ。
(何故かこの顔が見たくて俺様は)
あんなにも安易に、頷いてしまったのだ。
そしてそれを、気付いた今は後悔していない。
「……俺様がしたくてした事だ、礼には及ばん」
気を遣われる事はない。己の為の、当たり前の事だから。
湯気を立てる甘いお汁粉が運ばれる頃には、すっかり手のひらも暖まっていて。
熱と甘さが、心地よさを引き上げる。
どちらからともなく吐き出した吐息は、安息にも似ている気がする。
顔を見合わせて微笑めば、なお、二人の時は穏やかに流れて行くのであった。
●温度差の残る、
花車のコサージュを手に取って、鳥飼はパートナーの鴉を振り返る。
「鴉さんはどっちに行きたいとか、あります?」
どちらも興味があって、悩んでしまう。と、その顔には書いてあった。
くるり、花を手元で回しながら、鴉は小首を傾げる。
「ご随意にどうぞ」
「こういう場所、嫌でしたか?」
「いえ、特に関心が無いだけですよ」
同じ方向に首を傾げた鳥飼に、鴉はしれっとした答えを返すだけ。
苦笑して、それなら、と鳥飼は迷っていた視線を、冷気を纏うブースへ向けた。
「今回は冬の方に行きましょうか。ヒサメさんに、ご挨拶もしたいですし」
厚手のコートを借りて、纏って。その胸元に花を添えて、極寒の地へ。
ふるり、首元から流れ込んでくる冷気に体を震わせた鳥飼だが、ブースの奥で氷を作っている雪女を見つけると、ぱっと表情を明るくした。
「ヒサメさん、お久しぶりです。お仕事がんばってくださいね」
邪魔にならないよう、小声で声をかける鳥飼に倣って、鴉もまた、声をかける。
「昨年説得に向かった時は、想像もつかない状況ですね」
「なによ。悪かったわね」
ぷい、と素っ気ない態度と返答に、鳥飼は微笑ましく笑って、席に着いた。
来てくれてありがとう、と。小さく囁いたのが聞こえて、鴉は形だけの笑みを返しながら、思案する。
判らないものだ、と。
だからこそ面白い、と、言う者もいるのだろう。
例えば、早々に運ばれてきたお汁粉を一口啜って、幸せそうな息を吐く鳥飼などは。
「あったかくて美味しいですね」
「わざわざ寒い場所に来て、暖かい物を食べる意味が私には理解できませんがね」
湯気の立っている器を何度か持ち直しながらの鴉の台詞は、皮肉に聞こえて、ただの素直な感想なのだろう。
理解できない。
けれど、彼はそれを拒絶はしない。
「そう言って、一緒に食べてくれますよね。嬉しいです」
「……嫌とは、言っておりませんので」
ずず、と。鴉の口元が少し雑な音を立てたのは、誤魔化すように器を押しあてたせい。
それを気取れる程聡いわけでもない鳥飼だが、だからこそ言葉のままに受け取って、嬉しそうに微笑んだ。
その視線が、ふと、胸元の花を見つける。
触れた時に湧いた感情が、そっと、紡ぎあげられる。
「いつも僕の我侭に付き合ってくれて、ありがとうございます。鴉さんと居るのが楽しくて、ついはしゃいでしまって」
迷惑ではないだろうか、と。苦笑がちにはにかみながら言う鳥飼を、鴉は相変わらず器で口元を隠しながらちらと見つめて。
「別に、お礼を言われる程の事ではありませんよ。あまり出歩かないのも自分でもどうかと思いますし」
それに、と。続いたのは、少しばかり小さく押さえられた声。
「あなたと居るのは、嫌いではないので」
そんな声を、辛うじて聞き取った鳥飼は、一度瞳をぱちくりとさせてから、ぱぁっと満面の笑みを湛えた。
「なら、これからも誘って良いですか?」
「……どうぞ、お好きに」
鳥飼から迸る喜びのオーラが眩しすぎて、つぃと視線を背ける鴉。
承諾に、身を乗り出すようにして、鳥飼はにこにこと続ける。
「それと、鴉さんの行きたい場所にも行きたいです」
「私の行きたい場所、ですか」
乞うような台詞には、眉を寄せて思案するけれど。咄嗟には、思いつかないもので。
「まあ、あればその内」
何の気なく、そう告げた鴉は、多分気付いていない。
いつか、いずれ、その内。
そんな言葉は、今後も鳥飼と過ごす未来を示す言葉であることを。
――その『未来』を、全く期待していない言葉でも、あるけれど。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 06月20日 |
出発日 | 06月25日 00:00 |
予定納品日 | 07月05日 |
参加者
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- 鳥飼(鴉)
- 明智珠樹(千亞)
- ハーケイン(シルフェレド)
- カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
会議室
-
2015/06/24-23:31
-
2015/06/24-21:53
わわ、挨拶がギリギリになってしまいました。
僕は鳥飼と呼ばれてます。
知ってる方も知らない方もよろしくお願いしますね。
ふふ。プランは提出してあります。
僕達は冬のブースに行く事にしました。
楽しみです♪ -
2015/06/24-18:54
ふ、ふふ。プラン提出完了です。
悩んだ末に、酷暑でかき氷コースにしました。どちらも魅力的で悩みましたが…!!
僅差でかき氷と練乳が勝ちました。ふふ…!
>ハーケインさん
ふ、ふふ。相変わらず元気で過ごしております。冬でも夏でも生まれたままの姿で(千亞に蹴られ)
お花見に引き続き、和食を召し上がるハーケインさん&シルフェレドさんが楽しみでなりません、ふふ…!
(カインさんの熱視線にハァハァしつつ)
皆様が素敵な時間を過ごせますよう祈っております。
またお会いできますのを楽しみにしております…! -
2015/06/24-18:39
-
2015/06/23-21:46
>珠樹
ああ、はじめまして。
(何か派手なにーちゃんだな)
そっちの(千亞)もよろしく。
俺はおしるこだな。
季節的のその方が面白ぇから。
あと、イェルって薄着しなさそうで、見てるだけで暑くなりそうだしよ。
なら、寒い方がいい。 -
2015/06/23-20:40
ハーケインとシルフェレドだ。よろしく頼む。
食堂の噂を聞いて来た。オシルコ?とやらを食う予定だ。
……相変わらずのテンションだな。
と言うか暑かろうが寒かろうが一旦脱ぐのは決まりなのか。
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2015/06/23-19:19
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2015/06/23-19:18
酷暑で脱ぐのも、極寒で人肌で暖め合うのも大好きな明智珠樹です。
隣におります兎っ子は精霊の千亞さんです。
千代さんご両人、鳥飼さんご両人、ハーケインさんご両人、今回も何卒よろしくお願いいたします…!
そしてカインさんとイェルクさんははじめまして、ですね。
不束者ですが何卒よろしくお願いいたします、ふふ……!!
七色食堂未体験、ヒサメさんとも面識がありませんが参加させていただきました。
酷暑かき氷と極寒おしるこ、どちらに向かおうか、両方向かおうか悩み中です。
皆様がどちらへ行かれるか、こっそり楽しみにしております…!! -
2015/06/23-10:46
カインだ。
ま、適当によろしく。