見た目と性格の兼ね合いの重要性について(錘里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 100年に一度、タブロス上空に現れると言う浮島、フィヨルネイジャ。
 ウィンクルムにしか視認できないその場所は、ピーサンカの力を蓄え、別の次元に飛び去った。
 それでも、ウィンクルムならばいつでも訪れる事が出来る、平穏で美しい庭園として道は開かれていた。
 新米ウィンクルムのロウとジャックは折角だから知り合いのウィンクルム幾人かを誘ってその場所に向かった。
 ――はずが、ワープした先では、自分とパートナーの二人だけになってしまったよう。
 周囲を見渡せば、背の高い生垣が複雑な造りで配置されている。
 どうやら、迷路になっているようだった。生垣には、様々な花が咲いていて、さしずめ花の迷宮と言ったところか。
「仕様がないから二人でデートでもしようか」
 ロウが茶化すような台詞を投げかければ、パートナーは不思議そうな顔をしていた。
「どうして貴方と?」
「えっ?」
「えっ」
 まさか拒絶されるなんて。いや待て、そもそもその拒否の仕方はおかしい。
 何故ってお前は俺のパートナーで……あれ? お前そんな口調だったっけ?
 クエスチョンマークの浮かびまくるロウを、不思議そうな顔で見つめていたパートナーは、あれ、と不意に声を上げた。
「ロウさんそんなに大きかった……? あっ、この服……もしかして僕いま、ちびすけの姿……」
「んん!? ちびすけってその呼び方……お前もしかしてセシルさんの相方のリチェットさんか!?」
「うーわー。めちゃくちゃ背が縮んでるー。ロウさん何とかしてくださいよー」
「いや待て何とかって……どうすりゃいいんだよ!!」

 100年に一度、タブロス上空に現れると言う浮島、フィヨルネイジャ。
 そこは、非現実的な不可思議な現象が当たり前のように起こる場所なのである。

解説

現状:
花の迷路に辿りつきました。
精霊の中身が他所の精霊と入れ替わりました。
元に戻る方法を探そうにも自分とパートナー(仮)の二人だけ

とりあえず合流目指せばいいんじゃないですかね

二人で一生懸命他の人を探しても良いし
まぁその内逢うだろうと呑気に構えていても良いし
相方の居ない隙にここぞとばかりに惚気や愚痴を語ってみても良いし

過ごし方は、どうぞご随意に
とりあえず適当に進んでればゴールにはたどり着く仕様になっています

入れ替え基準:
参加者一覧に表示されている精霊が一つずつ下にずれます
神人AさんとCさんの精霊
神人BさんとAさんの精霊
神人CさんとBさんの精霊

ご希望があれば考慮します
その場合はきちんと擦り合わせておいてください

消費ジェール:
フィヨルネイジャに行く準備諸経費で一組400jr頂戴いたします

余談:
NPCご一行はすでに突破したようなので遭遇しません
参加ウィンクルムの皆様だけしかいませんので予めご了承ください

ゲームマスターより

本気出して考えてみたとか続ければ語呂が良さそうな感じのタイトル。
蒼色クレヨンさんの入れ替えわちゃわちゃが楽しそうなので錘里も錘里もーって混ざりました。
外見は自分の精霊です。
中身は人んちの精霊です。
ギャップとか言うレベルじゃない感じになるか、意外としっくりきちゃうか。
非常にわくわくしております。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  今回は花の迷路か、まあのんびり行くかね
……どうした難しい顔して、腹でも減ったか?
ちょっと待ておやつ……は?
(無表情な上全く口調の違う精霊に怯み)
(いや待て落ち着け、ここはあれだ聖地だぞ
これも何かの奇跡だろそうに違いない)
……ど、どちら様だ……!(引きずる混乱)

あぁ、オルトか……すまんな、落差激しすぎて動揺した
まあ千秋の方も探してるだろうし、合流目指すか

(しかしこうも印象が変わるか
こう見れば本当に王子様なんだがな
……ああくそ、無表情のあいつとか。
夢を。己の弱さを突き付けられたあの夢を思い出す
少しは。伝えられるようになってるか?)

やっぱりあいつは笑ってる方がいい(ぼそり)
ん、あ、いやなんでもない!



ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
  中身が入れ替わってるだと…?
つまりサーシャであってサーシャでないと…
和歌の時にらしくない事を言ってしまったから、顔合わせ辛かったし助かったがややこしいな
サーシャは多分他の人には変な事はしない…筈だが
胡散臭いが謎の信頼感
慌てても仕方ないと腹括る

イグニスと一緒に合流を目指す
感情の儘に表情が変わるのが慣れず珍しげに見遣る
出来ればツッコミ希望
悪夢依頼の時はサーシャと一緒に助けてくれて礼を言う
秀への惚気を聞きながら迷路を進みたい
色々談笑する
迷路は片手で塀を触って極力迷わずゴールを目指す

サーシャに秘密にされ少し不服
髪に花を飾られそれで機嫌が治ると思ったら大間違いだと素っ気ない態度を取る
後で密かに花瓶に差す



天原 秋乃(イチカ・ククル)
  …まさか中身はアレクサンドルさん?
イチカの格好でその口調だとなんか違和感。
精霊の中身が入れ替わってるのならイチカもどっかにいるはず…。まあ適当に歩いてりゃそのうち会えるだろう。

アレクサンドルさんにイチカのことについて質問されたら
「あれは変人です」と断言。

「気に入ってるっていうか。あいつを1人にしちゃいけないような気がして…なんか気になるというか…」
イチカの顔でそんな質問されると答えづらいな。中身があいつだったら「気になる」なんて言えない。
正直なんていうか…変な気分だ…。

「ってか、そっちこそアーノとどうなんですか!」
聞かれた事は聞き返す。

合流後イチカが俺のことあることないこといってたら…殴る。



日下部 千秋(オルト・クロフォード)
  心情:
……先輩の表情が動い、た……?!(驚く。すごく驚く。

入れ替わり……なる、ほど……?
……だめだ、どうあがいても表情筋が仕事してる先輩が違和感ありすぎる……(頭抱え

……もし、これくらいわかりやすかったら、なんて。
(でもなんだかんだでオルトには慣れてしまっている。距離感がつかめないだけ)

行動;
合流目指して動く。
先輩早く見つけないと……いや、ここにいるけどそれは先輩じゃないし。うん。俺間違ってない……はず。

「というわけで、えっと、よろしくお願いします」

「あれ、そういえば先輩、入れ替わってる間も俺の時みたいに距離近くない」(合流後、はた、と

補足:対他人だと年上なら敬語使う。



●どういうことだ
 精霊の中身が入れ替わっている。その事に気が付いた神人の反応は、それぞれだった。
 天原 秋乃は瞳を瞬かせたが溜息一つで受け入れて。
 ヴァレリアーノ・アレンスキーは怪訝に眉をひそめてからちらと精霊を思い。
 日下部 千秋は精霊の表情筋が動いたことに心底驚いた顔をして。
 初瀬=秀はこれ以上ないくらい動揺した。


「……まさか、中身はアレクサンドルさん?」
 ぱちくりぱちくり。繰り返した秋乃が、パートナーだと思っていたイチカ・ククルの振る舞いを観察して、導き出した答えがそれだった。
 言い当てられ、アレクサンドルは一つ頷いてから、ふむ、と己の容姿を改めて確認する。
「どうやら我はイチカと入れ替わってしまったようだ」
「みたい、ですね……」
 見た目はイチカなのだが、中身はアレクサンドル。ぎこちない敬語になってしまい、難しい顔をした秋乃に、アレクサンドルはくすりと笑った。
「焦っても変わらぬしゆるりと楽しもうか。違和感はあると思うが暫し我と歓談しないかね?」
「精霊の中身が入れ替わってるのなら、イチカもどこかにいるはずですし、ね……」
 歩いていればその内会えるだろう。花の迷宮を見やって、秋乃はアレクサンドルの提案に、同意を返した。
 のんびりと歩き出し始めてから、ちらり、秋乃は傍らを盗み見る。
(イチカの格好であの口調だとなんか違和感)
 へらへらと間の抜けたような調子に、文句も交えながら返すのが常だと言うのに。
 調子の狂う感覚。
 それを、アレクサンドルはどこか楽しげに、見やっていた。


 もしかしたら神人と精霊は、似る部分があるのかもしれない。
「あ、今回はこれ緑の迷路って奴ですね! 他の皆様それぞれ別の場所でしょうか、とりあえず出口目指して頑張りましょう!」
 きょろきょろと辺りを見渡し、にこにこと凄くいい笑顔で振り返ってから、フリーズ。
「秀様!? またしても迷子!!? あれ、ええとヴァレリーさん!? 何故!?」
 ヴァレリアーノはこの時点で悟った。アレクサンドルらしい人物の中身になっているのは、イグニス=アルデバランだと。
「ん、なんかちょっと違和感……」
 尻尾がない。角もない。そして、それらを確かめる際に見た服には、見覚えが。
「もしや私は今アレクサンドル様ですか?」
 こくり。ヴァレリアーノは頷いた。アレクサンドルの見た目で物凄い笑顔と動揺を見せられて、ちょっと頭と心が噛みあってなかった。
「つまり今はサーシャであってサーシャでないと……」
 ぽつり。呟いて、ヴァレリアーノは小さく息をついた。
 それは安堵の吐息。先日、イベリン地方でアレクサンドルに『らしくない事』を言ってしまったため、顔を合わせづらかったのだ。
 中身がイグニスと分かればその点は安心だが……ややこしい事には、変わりはない。
「何ということでしょう相変わらず世界の神秘。折角ですからお話ししながら合流目指しましょう?」
 笑顔満面に促してくるアレクサンドル……もといイグニスに、違和感を禁じ得ない。
 アレクサンドル本人も、こんな調子で他の神人と接しているのだろうか。
(サーシャは多分他の人には変な事はしない……筈だが)
 思案は、少しだけ。
 胡散臭いと思いながらも、ヴァレリアーノはアレクサンドルを信頼していた。
「そうだな。慌てても仕方がない」
 腹を括ったヴァレリアーノを、イグニスはにこにこと見つめていた。


 千秋は驚いた顔のまま暫く硬直していた。
 なにせ無表情の代名詞と化していたパートナー、オルト・クロフォードが人当たりの良さそうな笑顔を浮かべていたのだから。
「……先輩の表情が動い、た……?!」
 一方のオルトらしい人物もまた、千秋の顔を見て驚きを見せた。
 笑顔に次いで驚きを、見せた。
「あれ、目の前にいるのが秋乃じゃない? 秋乃どこいっちゃったんだろ!?!?」
 慌ててる……こんな、見るだけで感情の判る先輩は初めて見る。
 そんな風に思ったのも束の間。相手の口から零れた「秋乃」の名前に、千秋は今回同行することになったウィンクルムの姿を思い起こして、ふと気づく。
「先輩じゃ、ない……?」
「ん? ん、んー……?」
 その呟きに、漸く落ち着いた様子で、改めて己の姿を省みたオルト……の中身のイチカは、うーん、と首を傾げつつもへらりと笑った。
「……どうやら精霊達の間で入れ替わりが起きてる……のかな?」
「入れ替わり……なる、ほど……?」
 良く分かんないけどフィヨルネイジャだしね。
 そんな雰囲気が漂った。
「まあ悩んでいても仕方がないし、みんなと合流できるように頑張ろうか!」
「は、はい……」
 促すイチカに素直に頷き歩き出した千秋は、ちらとその顔を盗み見て、眉を寄せた。
(……だめだ、どうあがいても表情筋が仕事してる先輩が違和感ありすぎる……)
(秋乃もきっと僕を心配して捜して……はいないよね、うん、わかってる……)
 イチカはイチカで、己の神人をぼんやりと思い浮かべ、肩を竦めるのであった。


「……ど、どちら様だ……!」
 花の迷路に飛ばされた瞬間からなんだかイグニスが難しい顔をしているな、腹でも減ったのだろうかおやつを出そうか。
 なんて呑気に構えていた秀の動揺の表れは、最終的にその一言に集約されていた。
 いや待て落ち着け、ここはあれだ聖地だぞこれも何かの奇跡だろそうに違いない。頭では理解したように見せかけて、混乱は拭いきれていなかったのだ。
 そんな秀の動揺っぷりを見て首を傾げたイグニス(の見た目の誰か)は、己の手を見て、服を見て、頭の角に触れ、尻尾を見つけて。
 真顔で秀に向き直る。その間、一切表情は変化していない。
「千秋はどこへ……」
 ぽつり。零れた問いに、秀は漸く落ち着きを取り戻す。
「あぁ、オルトか……すまんな、落差激しすぎて動揺した」
 いつもはにこにこと秀の後を付いて回るイグニスが、全くの無表情で淡々とした台詞を零すのだ。
 付き合いの長さも程々になってきた秀の動揺は良く分かる。
 構わないと告げるように頷いて、オルトは花の迷路に視線をやった。
「日下部との合流を目指す。一緒に来たのは確かだから合流できるはずだ」
「まあ千秋の方も探してるだろうし、そうだな、合流目指すか」
「一時的な協力関係ではあるが、宜しく」
 冷静に、淡々と。歩き出したオルトは、並ぶ秀からは少し距離を開けている。
 中身が違うと判っていても、イグニスが急に遠ざかったような気がして。
 動揺とは違う何かが、秀の中にじわりと滲んだ。

●のんびりいこうか

 行き止まりに当たっても、アレクサンドルは困った素振り一つ見せない。
 むしろその突当りに咲いている花をのんびりと愛でてから引き返すほどの悠遊閑々っぷり。
 初めこそ、そんなアレクサンドルにそわそわとしていた秋乃だが、焦っても仕方がないと言ったアレクサンドルの言葉に肩の力を抜いて、のんびりとした散歩気分に切り替えていた。
 ぷちん、と。可憐な薄紅の花を摘み取ったアレクサンドルを見やれば、「アーノに似合いそうだとな」と微笑まれる。
 そうしてから、ふと秋乃を見て、ゆるり、首を傾げた。
「以前から気になっていたのだが、秋乃はイチカの事をどう思っているのだ?」
「あれは変人です」
 きっぱり断言。
 なかなか予想外の返答ではあったが、特に嫌悪も窺えない。
「変人、か……しかしそれでも嫌いではない。つまりイチカの事は少なからず気に入っていると」
「気に入ってるって言うか……」
「でなければ一緒にいないだろう?」
「そう、いうんじゃ、なくて……あいつを一人にしちゃいけないような気がして……」
 歯切れ悪く紡ぎながらアレクサンドルの穏やかな表情をちらと見て、秋乃は思わず視線を背けた。
 中身はアレクサンドルとはいえ、見た目はイチカ。声もそれ。
 イチカの事をどう思ってる、なんて、イチカの顔を見て答えるのは、難しい。
 そんな秋乃の胸中が分かるのだろう。くつ、と喉を鳴らし、アレクサンドルはそれでもなお問いを続ける。
「その感情は果たして友情かそれとも……」
「放っておいちゃいけないって意味で何か気になるだけです! ってか、そっちこそ『アーノ』とはどうなんですか!」
 アレクサンドルの質問攻めに、負けじと質問を返した秋乃だが、アレクサンドルはにこやかに受け止める。
「アーノの事は守るべき存在だと思っている」
 淀みの無い台詞に、秋乃は一瞬言葉に詰まった。
 それは精霊としての本分だろうか。ほんの一瞬思ったが、ヴァレリアーノに似合うと言った花を見つめる瞳は優しくて。
 大切、という単語が、過る。
 しかもそれは、イチカの顔で。秋乃は、つぃと視線を背けて、押し黙った。
「イチカが汝の事を好く理由が分かる気がするのだよ」
 ほんのりと頬を染め、複雑な胸中にもどかしげな顔をする秋乃を見つめて。アレクサンドルは、くすりと小さく、微笑んだ。


 ヴァレリアーノと共に迷路を歩きながら、イグニスは物珍しげな顔でくるりと表情を変えていた。
 珍しそうな花を見ては眺め、ぶわ、と吹き抜けた風に花弁が吹雪のように舞えば、感嘆の声を上げる。
「綺麗ですねー、ヴァレリー様」
「あぁ、そうだな」
 ヴァレリアーノはと言えば、そんなイグニスをこそ、珍しげな顔で見ていた。
 何せ、外見はアレクサンドルなのだ。感情のままに表情を変えてはしゃぐアレクサンドルなんて、珍しすぎる。
「あ、ヴァレリー様、見て下さい、花のアーチ!」
「……イグニス、そっちは多分行き止まりだぞ」
 先程少し高い位置に出た時に見えたアーチだ。何となく目で辿った先が行き止まりになっていることを記憶していたヴァレリアーノの言葉に、あぁ、とイグニスは立ち止まる。
 が、にこやかに微笑んで、一度くぐってから戻ってきた。
「折角ですから」
「……楽し、そうだな」
「はい、とても!」
 笑顔満面のイグニスは、花の迷路を純粋に楽しんでいる。
「次の機会があれば秀様や皆さんと一緒に来たいですね」
「そうだな……」
 だからこそ、そんな一言も純粋な気持ちで受け止められた。
 パートナーが傍にいない事は、少なからず、落ち着かないものなのだろう。
 いつぞや、悪夢の中ではぐれることになった時の、ように。
「イグニス。先日の悪夢では、サーシャと一緒に助けてくれて、ありがとう」
 聞き留めて、イグニスは一度瞳を丸くしてから、優しい顔で微笑んだ。
「あの時は私も必死だっただけです。夢で、本当に良かったです」
 夢の中で、ガーゴイルに尋ねられた様々な問いの答えを、きっとこの少年は聞いていないのだろう。
 それでも、助けるために労を費やした事を、疑わない。
 今だって不安な顔一つ見せないまま、毅然としている。
「ヴァレリー様はアレクサンドル様を信頼されてるんですね」
「まぁ……否定はしない」
「素直になれる間柄ってことですよね」
 それがもしかしたら純粋さとは違うものであったとしても。
 イグニスは素直に、きれいだと思っていた。


 ここにいるのは先輩であって先輩ではないから早く先輩を見つけなければいけない。
(……うん。俺間違ってない……はず)
 自問自答の後、宜しくお願いします、と頭を下げた千秋に、イチカはにこにこと微笑みながらこちらこそと頷く。
「あ、そういえば今回初めましてだったよね。君の名前はなんていうの? どう書くの?」
「名前ですか……えっと、千の秋……ちあき、って書いて、せんしゅうって読みます」
「ちあき……あ、千秋か。で、せんしゅう君かー」
 なるほどなるほどと頷いて、イチカは少し嬉しそうに笑う。
「秋乃と同じ秋つきの名前だね」
 その名を出した瞬間のイチカの表情は、どこか幸せそうで。それが見慣れた無表情、オルトの顔で浮かべられている物だから、千秋は幾度かの驚愕に目を丸くした。
 それから、緩やかに、緩やかに、瞳を細めた。
「あ、秋乃って言うのはね、僕のパートナーですっごく可愛いんだよ~」
「フィヨルネイジャに来る前に、顔、だけは見かけたと思います。かわ……いいかは、俺にはちょっとわかりませんが」
 でれれとした笑顔を浮かべて、楽しげに語るイチカからはそっと視線を背けて、前を向いたまま、千秋は言葉を返す。
 もし、オルトという人間が、イチカが入っている今と同じくらい、わかりやすかったら、なんて。
 そんな事をついつい考えてしまう自分に、気が付いたせい。
 感情に応じて表情が変われば、何を考えているかももう少し気取れるだろう。
 コミュニケーションも、もう少し上手くいくかもしれない。
 でも――。
(なんだかんだで、先輩には慣れてしまってる。距離感が、掴めないだけ……?)
 千秋にとって、オルトというのは真意の掴めない存在で、だからこそ接し方に迷う存在だ。
 だけれどきっと、一番近くに在る事で、自分にしか判らないオルトの一面にも、触れているのだろう。
 だから、いつもの、彼が、良い。
「千秋君?」
 きょとん、と。覗き込むでもなく、イチカが尋ねてくる。
 何でもない、と緩く首を振ったけれど、まじまじと見つめられてから、にこりと笑われた。
「お互い、パートナーの事で頭一杯みたいだね」
 本人がいない隙に言いたい放題惚気を語るイチカも。
 いない本人とその皮を被ったような相手を比べる千秋も。
「早く、合流できたらいいね」
 優しく笑って、イチカは再び、千秋を促した。


 瞬間的な動揺は落ち着いた。けれど、ただひたすら無言で歩くだけの道程に、秀の中にはじんわりとした不安じみたものがよぎる。
(こうも印象が変わるか)
 事あるごとにくるりくるりと表情を変えるイグニスと、その中身になっているオルトという精霊とは、言うなれば対照的だった。
 精霊が須らく持つ端正な顔立ち。それが沈黙で引き立てられているかのようで、秀はちらと見た横顔に『王子様』という単語を思い起こす。
(こう見れば本当に王子様なんだがな)
 凛として怜悧な青の双眸。陶器じみた肌に映える滑らかな金糸。
 表情の欠けたその顔は、どこか物憂げな儚さも漂わせているような、そんな気もして。
 あぁ、なるほど、王子様とはこう言う物だと秀は深く感じた。
 ちらちらと見られている視線に気付いているのか居ないのか。オルトは黙々と前へと歩を進めるばかり。
 舞い散る花吹雪にも囀る小鳥にも一切表情を変えず、ただ淡々とした視線を向けては、興味の欠落を示すように逸らされるだけ。
 あぁ、彼ならばどんなにか喜んだことか――。
 過った思いに、秀は眉間に皺の寄るのを自覚して額を押さえる。
 思わず伏せた瞼の裏に、いつかの時に見た夢が蘇った。
 傷を抉るような言葉をひたすら紡ぐ、無表情のイグニス。
 『何も言わない』ことを咎められ、『伝えないまま』でいることを否定した夢の中の彼に、オルトの宿ったイグニスの形をしたものが、似すぎていて。
 薄ら寒い心地になった。
「初瀬秀」
 不意に、冷めた声に呼ばれて、弾かれたように顔を上げた秀は、気付けばオルトと随分距離が開いていた事に気が付いた。
「気分が優れないなら休むが」
「……いや、悪い。考え事してただけだから」
 小走りに駆けよって先を促した秀を、オルトはじっと見つめてから、何を言うでもなく再び歩き出した。
 通常とは違う距離感に苦笑しながらも、秀は肺腑の奥に溜まった淀みに似た何かを、吐息に変えて吐き出した。
(少しは。伝えられるようになってるか?)
 あの時よりも、少しくらいは。
 距離の開く事はなくなったが、思案に暮れている様子の秀を横目に見て、オルトはそれを『不安の表れ』と受け止めた。
 パートナーがいない為、だろうか。思ってから、ふと、己のパートナーを思い浮かべた。
(日下部も、こうなるのだろうか)
 例えばオルトが居ない事で不安や動揺が現れているのなら……それは、興味深いものだと、オルトは思う。
 急ぎ足に成りそうな己を諌め、それでもオルトは、合流に気の急くのを押さえられずにいた。

●お疲れ様でした
 四組のウィンクルムは、多少の時間差はあれど無事に合流を果たした。
 そして何かの達成を告げるかのように、ぶわりと大量の花弁が舞い、思わず掲げた腕を降ろした頃には、精霊たちの入れ替わり現象は収まっていたのであった。
「いつもの先輩だ……!」
「? 日下部? どういうことだ?」
 表情筋が仕事していないオルトを見つめ、千秋は安堵に満ちた呟きを零した。
 良く分かっていないオルトだが、もしかしたら良く笑うイチカの影響で頬の筋肉が若干柔らかくなっているかもしれない。かも知れないだけ。
 一人で盛大に安堵してから、千秋はふと、花の迷路を抜け出てきた秀とオルトの姿を思い出す。
「あれ、そういえば……」
 ぴったりと傍に配置しているオルトの距離感に千秋はすっかり慣れているわけだが、先程イグニスの姿で秀の隣にいたオルトは、こんなに近くなかった。
(入れ替わってる間も俺の時みたいに距離近くない……)
 物理的な、この距離に。
 意味は、あるのだろうか。
 首を傾げる千秋に、オルトもまた、訳が分からないと言ったニュアンスで首を傾げているのであった。

「途中で何話してたか、正直に言ってみろ」
「え? 別に、ただの世間話だよ。千秋君が秋乃と同じ秋つきだな~って話とか」
「とか?」
「……とか!」
 笑顔で誤魔化したイチカに、秋乃は拳を振り上げた。
「人の居ない間にあることないこと言ってんじゃない!」
「うわわ、千秋君、千秋君! 誤解だって説明してあげて!」
 実際あることないこと言ってたので、きっと千秋が説明しても火に油だろうが。
 それでもイチカは、秋乃がそうやって自分の事を気にしてくれているのが、ただ、素直に嬉しくて。
「そんな怒らないでよ、秋乃」
 へらり。つい、緩い笑みを、浮かべているのであった。

「秀様が迷子になったかと思って慌てましたよ……」
 ほーっ、と大きく安堵の息をついて、ふにゃりと笑ったイグニスを、秀は思わず、まじまじと見つめていた。
 イグニスが、笑っている。それだけで安心してしまう自分は、余程あの夢にやられていたらしい。
 苦笑し、くしゃりとイグニスの髪を撫ぜた秀は、肩の荷が下りたというように大きく息を吐いた。
「他人様に迷惑かけなかったか?」
「はい!」
 大変いいお返事をしたイグニスの満面の笑顔に、秀もつられて笑みを零して。
(やっぱりこいつは笑ってる方がいい)
「え?」
 心の中の呟きのつもりが、小さく小さく声に出ていたようで。
「秀様、今なんて言いました?」
「いや、なんでもない!」
 食いついてきたイグニスを誤魔化すのに骨が折れる羽目となった秀であった。

 賑やかな場をするりと抜け、ヴァレリアーノの前に立ったアレクサンドルを、少年はどこか怪訝な顔で見上げた。
「道中、何を話してたんだ」
「秘密だ」
 そっと探ったつもりが、しれっと返されて。ヴァレリアーノは露骨に機嫌を損ねた。
 子供っぽく頬でも膨らませそうだ、と喉を鳴らして笑ったアレクサンドルは、道中で摘んだ花を少年の髪に添え、穏やかに微笑む。
「やはり、似合うと思った」
「……これで機嫌が直ると思ったら大間違いだからな」
 ぷい、とそっぽを向いたヴァレリアーノは、そのまま踵を返して、つかつかと歩き出してしまう。
「花の迷路も秋乃と楽しんだようだし、もう今回は帰るぞ」
 次の機会があるなら。そう言ったイグニスの言葉を思い起こし、けれどそれも内緒だと意趣返しに飲み込んで。
 後を追ってくるアレクサンドルの気配だけを確かめて、そっと安堵した。
 ――この花は、後でこっそり花瓶に飾られる事なる。

 余韻は、花散るまで。
 そして、散った後には記憶として。それぞれの胸中に残るのだろう――。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 05月17日
出発日 05月24日 00:00
予定納品日 06月03日

参加者

会議室

  • [12]天原 秋乃

    2015/05/23-23:23 

  • [11]日下部 千秋

    2015/05/23-20:53 

    一応プラン提出完了……と。

    >天原さん、イチカさん
    よろしくお願いします。

    >初瀬さん
    オルト:……こちらこそ。(やはり表情筋はry

    あー……ハイ、多分迷惑とかにはならないと思いますけど……イメージ崩壊的な意味でスンマセン……最後までずっと見ての通りだと思うんで……

  • アレクサンドル:
    >秋乃
    イチカは随分と秋乃に信頼されているようだ。
    我も汝と色々話せると嬉しいのだよ。宜しく頼む。
    あと我の事は呼び捨てでも構わないのだよ。

  • >秀、イグニス
    イグニスなら大丈夫だ。気遣い感謝する。
    あと俺の事はアレンやヴァレリーなど好きに呼んでくれて構わない。

    イグニスはこちらこそ宜しく。
    何度か同じ依頼には入っているが、改めてゆっくり喋るのは初めてかもしれないな。
    合流を目指す、で了解だ。

  • [8]初瀬=秀

    2015/05/21-03:47 

    イグニス:
    そして秀様のパートナーのイグニス(inアレクサンドル様)です!
    ヴァレリアーノ様は秀様見つかるまでよろしくお願いしますね?
    ……とりあえず合流を目指したい、です!(ぐっ)
    後は道々いろいろお話しできればいいなーと。

  • [7]初瀬=秀

    2015/05/21-03:41 

    ちっと出遅れ。初瀬とイグニスだ。
    秋乃とヴァレリアーノは悪夢ぶり、千秋は初めましてだな。よろしく。

    入れ替わりの認識は秋乃ので合ってると思う。
    ……オルトは初対面がこの特殊状況だがまあ、よろしくな?
    あー、あれだ。悩み相談とかなら受け付けるから。うん。
    (表情筋の動かないイグニスとか全く想像つかんな……)

    >ヴァレリアーノ
    先に謝っとく。中身があれなので何かやらかしたらすまん。
    (主にイメージ崩壊の方向で)
    何かあったら報告もらえれば俺から叱っとくから。

  • [6]天原 秋乃

    2015/05/21-00:27 

    イチカ:
    秋乃のパートナーのイチカ・ククルだよ。改めてよろしくね

    >千秋君
    初めましてだから話しづらいかもしれないけど僕も合流を目指すつもりでいるから、一緒に頑張ろうね!
    よろしく~(へらへらと笑いながら

  • [5]天原 秋乃

    2015/05/21-00:23 

    >アレクサンドルさん
    イチカの奴なら大丈夫そうだし、中身がアレクサンドルさんなら俺も安心です
    俺もいろいろ話せたらいいなって思います。よろしくお願いしますね

    >千秋
    イチカが迷惑をかけるかもしれない。もし嫌なことがあったら合流後俺に言ってくれ
    あとで殴…注意しておくから

  • [4]日下部 千秋

    2015/05/20-20:31 

    ……はじめまして。日下部千秋(くさかべ・せんしゅう)です。
    こっちが精霊の、オルト・クロフォード先輩、です……

    俺、一応合流目指して動くつもりなんですけど……
    ……どうしよう。表情筋が動く先輩に違和感しか感じない気がする……!(頭抱え

    オルト:?(何のことだか分からない表情筋が動かない張本人

  • アレクサンドル:
    アーノの精霊のアレクサンドルだ。汝ら宜しく頼むのだよ。
    どうやら中身が入れ替わってしまったようだ。これは面白い事になった。

    >秋乃
    外見はイチカになっている為、接しづらいかもしれぬがこれも何かの縁。
    我はせっかくだから秋乃と楽しみたいのだがどうかね。悠長に構えるのも良いと思っている。
    秋乃とこうしてゆっくり話すのは、最初に出会った自転車以来かもしれぬし。
    イチカに対しての愚痴や何かあれば聞くのだよ(くすくす

  • Здравствуйте、ヴァレリアーノ・アレンスキーとサーシャだ。
    秋乃と秀は悪夢以来だな。今回は痛い目には合わなそうだから安心している。
    千秋は初めましてだな。宜しく。

    入れ替わりについては秋乃の認識で問題ない。
    しかし…ややこしいな。見た目はサーシャなのに中身はイグニスか。
    (全然性格が違っているな…)

    >イグニス
    サー…イグニスは秀と合流するのを目指すか?秀の事が心配ならそれでも構わない。
    それとも迷路を純粋に楽しんでもいいし、花を眺めていいしな。
    あと、ついサーシャにしているように偉そうな態度を取ってしまったらすまない…

  • [1]天原 秋乃

    2015/05/20-15:38 

    天原秋乃とパートナーのイチカだ
    えっと、千秋は初めまして。アーノと秀さんとはこないだの悪夢以来かな?
    なにはともあれ、よろしく頼む

    で、今回の入れ替わりだが解説の基準に従うと―

    イグニス(オルト)
    アレクサンドル(イグニス)
    イチカ(アレクサンドル)
    オルト(イチカ)

    ということになるのかな?
    認識間違ってたら指摘してほしい


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