【春の行楽】届けたい、言の花(錘里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ハルモニアホールの再建まで、あとわずか。
 工事の進む音楽堂を見上げ、少女は色とりどりの花を詰め込んだ籠を片手に、ふらりと公園まで足を進めた。
 そこにはまばらな人通り。一人を捕まえて、少女はそっと籠の中身を進めてみた。

「詩うたいの花、おひとつ、如何ですか?」

 少女は語る。その花の特徴を。
 チューリップに似た形のその花は、必ず五枚の花弁を有しており、重なる花弁は外側から内側へ、徐々に色が濃くなっている。
 花の色自体は豊富で、白から始まり紫で終わるようなものもあれば、薄紅から深紅へ変わる物もある。
 気に入りの色を見つけたなら、その花に言の葉を囁いてみると良い。
 その花は、人の言葉を覚えるのだ。
 そうして、この花は覚えた言葉を紡ぎ出す。
 外側から内側へ。花弁を順に摘まんで散らせば、その度に言葉が紡がれるのだという。
「覚えられる文字数……というか……言葉の長さ自体は、長くはないんですけどね」
 花弁一枚に付き、最大で七文字程度。
「……ん? 五枚の花弁で、最大七文字……」
「詩うたいの花、ですから」
 なるほど、和歌。五・七・五・七・七の五枚分という仕組みだ。
「別に、和歌じゃなくてもいいんですよ。五枚に七字分目一杯でもいいし、もっと端的に一文字ずつでもいいんです」
 区切りたい所は、念じながら紡ぐことで、ちゃんと意図通りに区切ってくれる。
「お連れの方に、詩を贈るのも、素敵だと思いますよ」
 ふわりと微笑む少女の言葉に、脳裡に過るのはパートナーの姿。
 直接言うのは照れくさい事でも、花に託して言えるかもしれない、なんて。
「少し狡いかな」
「ふふ、どう受け止めるかは、お互い次第では?」
 微笑ましげに笑う少女に、貴方はむず痒い心地で頬を掻いた。

解説

●消費ジェール
詩うたいの花一輪につき150jr頂戴いたします。

●詩うたいの花
うたうたいと読みます
5枚の花弁から成るカラフルな花
花の形状等の詳細はプロローグを参照ください

花弁一枚につき最大7文字分の言葉を覚えます。ひらがなで七文字です
和歌イメージですが、5・7・5・7・7に拘らなくて大丈夫です
字余りのみNGとさせていただきます
花占いの要領で色の薄い外側から順番に千切っていくと、覚えた言葉をそのまま再生します(本人の声で)

●プランについて
詩を書く際は切りたい場所で区切って表記してください
(例文)
ハルモニア
音鳴り響く
夢の堂
待ちて願うは
聖なる音色

テーマを決めて頂いてアドリブで錘里に振って頂くのも可能とします
その場合は、何となくそれっぽい物を作ります
なんとなくそれっぽいものにしかならないと思います

ゲームマスターより







とかでもいいんですよ。
どうにか5枚使って下さい。
既存の歌をそのまま引用するのはご遠慮くださいね

リザルトノベル

◆アクション・プラン

蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)

  詩うたいの花を、フィンと一輪ずつ購入

和歌なんて詠んだ事ないけど…
想いを込めて文章にするっていうのは、歌詞を書くのに少し似てる

溢れる想いを短いフレーズに乗せて
届くように祈りを込める

南風
初夏の気配
ハルモニア
振り返り見る
青空想う

(振り返り見れば、いつもフィンの笑顔があった。初めて二人で過ごす夏が来る事を想いながら作った)

出来上がった花はフィンへ渡す
自分で作った歌を自分で聞くのもな

意味?
読んだまんまだよ
風がさ、夏がすぐそこだって言ってるみたいだから
(青空=フィンの事…なんて本人には言えない)

夏になったら…
夏しか出来ない事がしたいな
(初めてフィンと過ごす夏が、楽しみだと思っていたら…嬉しい)
ああ、約束



ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
  前は花で占って貰った事があったか
今回は人の言の葉を覚える花…
これに乗せてなら俺がサーシャへ今本当に伝えたい事が言えるだろうか

病院の帰り道にサーシャと公園へ寄る
ダリアの一件でサーシャと少し気まずい
一方的に変に意識
精霊の存在意義は得る力があるから
能力適性者としてだった筈がサーシャ個人に対するモノへ明らかに変化
気持ちが揺らぐ

協力者とは違うのか
何故失うのを恐れたか
俺にはもう何もなかった筈なのに
お前だから、なのか
俺にとって…

和歌については無知なのでサーシャに聞く
どこか思いつめた表情で話す
渡された花への反応お任せ
花渡す時は顔背ける
耳は赤い

台詞
何であの時避けなかった
お前が更に分からなくなった


言葉








柳 大樹(クラウディオ)
  花か。
俺は見てないけど。(クラウの手首をチラリと見る

「これにする」
白から黄色に変わる花を一輪。
白がクロちゃん。黄色が俺。とか、なんとなく思った。

花に堕ち
思い漏れども
恙無く
もどかしくとも
我が身同じく

「はい」あげる。
(散らし終わるのを待つ
「この前は、ごめん」(手首を見てから、目を合わせる

「慣れていようと痛いだろ」
駄目だ。話が進まない。(溜息

「まあ、改めて俺の心境」
「あんたが俺を見てないって言ったけど。俺もあんたのこと見てなかった」

ああ、そう。
「知ってて、それなの」張り合いの無い。

「知ってる」
近くにいれば、さすがにそれくらい解る。
「できれば、気にしないで欲しい」
(自分のこと棚に上げてる。俺も悪いし)



ハーケイン(シルフェレド)
  ◆心境
シルフェレドは俺が何かするのを求めない
だから困る

俺は自分が何をしたいか分からない
だが、俺はあの時シルフェレドを見て思っていた
離れたくない、離さないと
あの人と同じように、しようとした

分かりたくない
まだ、分かりたくないんだ
この花を見たら、シルフェレドは分かってくれるだろうか

◆行動
良い色が揃っているな
その色がいい
薄い紅色から鮮やかな真紅のそれだ
なんだ、シルフェレドもやるのか

……おい、何を書いているんだ貴様は!恐怖しか感じんわ!
馬鹿らしくなってきた……なぜ俺ばかり……何でもない!
それより、その花を寄越せ
これは俺が持っている
俺以外の奴にこんな呪いの品を渡すんじゃないぞ


川内 國孝(四季 雅近)
  ・和歌の知識は皆無なので、花への言葉は直感的
・あまり見ない四季の思案の姿を珍しそうに凝視
和歌なんて作った事ないぞ…。
(いつもヘラヘラと笑むばかりだが、真剣な時の表情も綺麗な奴だ。
…本当に俺のパートナーなんだろうか)じー

ッハ!な、何でもないっ!気にするな!(見過ぎた!!

■花





・略:「物好きめ」皮肉の言葉
うう…思いつかん。これは俺が落ちこぼれだからか!?
?…つまり、どう言う意味なんだ?
!…ア、アンタまたっ!!本当……っ。(花に吹き込ませる
落ちこぼれはこの程度だ!

本当、なんで恥ずかし気もなくそんな言動するんだアンタ。
…和歌は確かに悪く、ないが。
(コイツにいつか仕返しが出来るよう勉強しよう…)



●想い寄せ
 詩うたいの花一輪を前に、川内 國孝は眉間に皺を寄せて唸っていた。
(うう……思いつかん。これは俺が落ちこぼれだからか!?)
 和歌のようなもの、と言われても、そもそも和歌の知識など皆無だ。
 気の利いた言葉が浮かぶわけでもなければ、雅やかな韻が踏めるわけでもない。
 教養の足りない我が身を呪えと言わんばかりの責苦が頭の端に浮かんだが、ぶんぶんと首を振って、真面目に思案する。
 しかしやはり出てくるものはなく、一度考えるのをやめて、ちらりと傍らを見やった。
 そこには、普段あまり見ることの無い、四季 雅近の真剣な思案顔があった。
(いつもヘラヘラと笑むばかりだが、真剣な時の表情も綺麗な奴だ)
 綺麗すぎて、隣に自分がいることが、いつだって不思議だ。
(……本当に俺のパートナーなんだろうか)
 胸の端にいつでも引っかかる痛みに似た物を自覚しながらも、國孝は雅近から目を離せないでいた。
 一方の雅近としては、和歌というものにはそもそも興味があり、多少は知識を齧っていた身で。
 それゆえに、折角の機会なら良いものが出来るまで頑張ってみよう、という心持で居たのだが、その顔があまりに真剣だったため、國孝は思わず見入っていた。
(どうせ考えるなら良きものを考えたい……)
 うぅん、と首をひねっていた雅近は、ふと、脳裏に浮かんだ國孝の姿に閃きを覚える。
(そうだ、國孝の前なのだから俺の思いが籠った物にしよう)
 思いついてしまえば、後は早いものだった。口元だけであれこれ呟いてから、うん、と一つ満足気に頷いた雅近は、そっと花に囁きかけてからくるりと國孝を振り返って、目と目が合うのに、気が付いた。
 ぱちくりと瞳を瞬かせる、間。
「ッハ! な、何でもないっ! 気にするな!」
「……國孝、そんなに見つめられると照れるぞー?」
 照れくさそうに頬を掻きながら、雅近はそっと花を差し出す。
 応じ受け取って、外側の花を一枚。恐る恐る散らせば、雅近の声が響いた。

 五月晴れ
 花を愛でると
 見る君は
 儚く愛いと
 恋しかりけれ

「……? つまり、どう言う意味なんだ……?」
 一枚、また一枚と花を散らした國孝の素直な疑問に、雅近は微笑んで答える。
「五月のこの頃、花を見る儚く健気な君の姿を見て、また恋しいと思う……まぁ、恋の一句と言ったところだな」
「……! ア、アンタまたっ!! 本当……っ」
 ぶわ、と赤くなった頬を隠すようにフードを深くかぶりそっぽを向いて、國孝は手にした花に言葉を吹き込んだ。
「ものずきめ」
 ぼそりと小さなそれは、半分以上が皮肉の言葉だ。
 そう、こんな出来そこないでしかない自分に興味らしいものを向けている雅近への、精一杯の皮肉。
(……物好きめ)
 胸中で改めて呟いてから、國孝はずいと花を差し出した。
「落ちこぼれはこの程度だ!」
 受け取った雅近は、一枚に一文字ずつのその皮肉に、くすくすと笑みを漏らす。
「國孝らしいと言えばそうだなぁ」
 苦笑じみた笑みだが、それでも、雅近は嬉しそうだった。
 國孝のコロコロと変わる表情が、楽しくて。
「國孝の愛い表情も見れたし、和歌は良いなぁ」
「本当、なんで恥ずかし気もなくそんな言動するんだアンタ。……和歌は確かに悪く、ないが」
 気恥ずかしさにもごもごと口ごもるように言った國孝は、にこにこと満足気な雅近をもう一度横目に見て、茎だけになった花の詠った言葉を思い起こす。
(コイツにいつか仕返しが出来るよう勉強しよう……)
 いつか、きっと。
 それはつまり、きみのため。

●花弁に捧ぐ
 花を見て、思い出すのは以前に聞いた花言葉による占い。
 それから、人の好意を糧に育つ、ダリア――。

 ヴァレリアーノ・アレンスキーとアレクサンドルがその公園に立ち寄ったのは、病院帰り。
 先日バレンタイン地方で起きた寄生植物の事件の名残を、片付けるため。
 ……要は、治療だ。ヴァレリアーノがつけた、アレクサンドルの傷の。
 自分がアレクサンドルを傷つけた事は元より。その理由の根幹に、彼への執着を見つけてしまったヴァレリアーノは、少しの気まずさに変にアレクサンドルを意識してしまっていた。
 自分にとって、アレクサンドルは一体どういう存在なのか。その意義が、揺らいでいる。
(協力者とは、違うのか)
 利害が一致しているから傍にいる。それだけではないのだろうか。
 問うように見せかけて、ヴァレリアーノは心の端でそれを認識していた。
 失う事への恐怖。
 見て見ぬ振りをして誤魔化してきた感情が、ダリアの一件で零れてしまった。
(俺にはもう何もなかった筈なのに)
 空っぽだったはずの手の中に、掴みたいものを一つ、見つけてしまった。
(お前だから、なのか……)
 サーシャ、と。胸の内で小さく語り掛けた、そんな瞬間だった。穏やかな声が呼び止め、花を差し出してきたのは。
 詩うたいの花。一通りの説明を聞いても、ヴァレリアーノはピンとこなかった。
「……サーシャ、和歌とはなんだ」
「文字数の決まっている詩のような物……と思っていれば、違うまい」
 細かい定義があるが、その辺りは割愛だ。イメージであって、それその物である必要はないのだから。
 一枚に一文字でも良いと聞いて、ヴァレリアーノは「和歌……」と呟きながらも、どこか思いつめた表情で花に向き合った。
 そんなヴァレリアーノをちらと見て、アレクサンドルは知られぬように小さく息をつく。
 全く以て、良いタイミングだった。
 ヴァレリアーノの様子がおかしいのは気が付いていたけれど、それに当てられたように、アレクサンドル自身も調子が狂っていた。
 真っ直ぐに自分だけを見る瞳が心地良いと感じる。
 捕らわれているのは、己か、彼か。
 今まで知ることの無かった感情には、戸惑いもある。
 相手の血を浴びる事、相手の息の根を止める事。それだけが心を満たしていたはずなのに。
 小さき少年への独占欲が、それ以上に膨らんでいる、なんて。
(一時の感情にすぎぬ……)
 つきりと何かが痛んだのは、きっとダリアに蝕まれた傷のせい。
 少しの自嘲を覚えながらも、アレクサンドルは柔らかな声で花に紡ぐ。
 そうして、思いつめた顔のヴァレリアーノに、差し出した。
 どこか怪訝な顔をしながらも、はらり、少年は花を散らす。

 渇望に
 沿いし汝と
 時紡ぎ
 重ねた縁に
 癒えを知るらむ

 和歌には、通じていなかった。
 だけれどこれは、己に向けられた詩だと、ヴァレリアーノは直感した。
 傍に在る事を、願うような――。
「サーシャ。何であの時避けなかった」
「我はアーノの傍にいると約束したのだよ、それに受け止められる自信はあった」
 絞り出したような問いに、アレクサンドルは、穏やかに返す。
「アーノは何でも一人で抱え込みすぎだ、汝はそこまで強くない」
 促すような言葉に。
 つかえていた物が、零れる。
「お前が更に分からなくなった」
「奇遇だな。我も良く分かっていない」
 だが、と。アレクサンドルは笑みをこぼす。
「我もアーノが居なければ今ここには居ないのだよ」
 それはまだ、ウィンクルムとして、だけれど。
「この環境は悪くない」
 そう思うのは、極々単純な、好意から。
 淀みの無い言葉に、ヴァレリアーノは暫し俯いてから、つぃと顔を背けた。
 そうして、己の花を差し出す。
 ――ありがとう。
 響いた言葉に、アレクサンドルは少しだけ目を丸くしてから、笑みを零した。
 素直な気持ちと言うやつだろうか。微笑ましさを覚える。
 そんなアレクサンドルを見るでもなく、つかつかと歩き出してしまったヴァレリアーノを見やり、アレクサンドルは散らした花の一枚に口付けて。
 ふうわり、風に飛ばした。
「アーノ」
 呼ぶだけの声に返答は要らない。
 前を行く神人の背を、ただ追いかけて、歩き出した。

●こころうた
 花、か。そんな感想が、柳 大樹の中にふつと湧いた。
 少し後ろを歩くクラウディオの手首をちらりと盗み見て、すぐに視線を逸らす。
 脳裡に過ったのは、ダリアの花。大樹の目には映ることの無かった、花。
 ぱちりと一つ瞬いて思考を切り替えると、大樹は目の前の花に集中した。
「言葉を覚える花か」
「何だか面白いね」
 クラウディオの呟きに相槌じみた台詞を返して。
「これにする」
 直感で、白から黄色に変わる花を一輪、選び取った。
 白がクラウディオで、黄色が大樹。
 白に守られる黄色は、心半ばで、ふわりと交わるクリーム色。
(散らさねば聞けぬのなら。散らせば、それで終わりか)
 言の葉に似ているそれは、一度だけの記録――。
「はい」
 思案半分で前を行く大樹についてベンチに向かっていると、隣に腰を下ろしたタイミングで花を差し出された。
「あげる」
 クラウディオに、それを拒む理由は、無くて。
 一枚ずつ、花弁をはらりと散らして行った。
 本人が近くにいると言うのに、その声を聞く。不思議な感覚。

 花に堕ち
 思い漏れども
 恙無く
 もどかしくとも
 我が身同じく

 はらり。最後の一枚がゆっくりと落ちるのを見届けて、大樹はぽつり、紡ぐ。
「この前は、ごめん」
 それは、神人を堕とした花の話。
 クラウディオの手首に落とされた視線が、ゆっくりと目線の高さに上げられる。
 覚えていたのか、と。己の手首に――大樹の手で刃の付き立てられたその場所に一度だけ視線を落としてから、クラウディオは淡々と紡ぐ。
「問題は無い。怪我は慣れている」
「慣れていようと痛いだろ」
「痛覚はある」
 素直な頷きに、大樹は眉をひそめ、小さく溜息をついた。
 くそ真面目な問答だけじゃ、話しが進まない。
「まあ、改めて俺の心境」
 首の後ろを書いて、大樹は少し言いにくそうな顔をして、小さく呟く。
「あんたが俺を見てないって言ったけど。俺もあんたのこと見てなかった」
 その言葉に、ちら、と窺ったクラウディオの顔は、取り立てて、変わった様子はなかった。
「知っている」
 大樹が、クラウディオを見ていないことくらいは。
 クラウディオが、大樹を見ていないと告げられた真意は、まだ良く分かっていないけれど。
 端的な返答に、す、と大樹の表情が覚めた。
「知ってて、それなの」
 張り合いらしいものもない相手に、自分ばかりが気にしているようで、少しだけ、不満だ。
「私は、そういった機微はよく解らん」
「知ってる。できれば、気にしないでほしい」
 近くに居るのだ。それくらいは『解っている』のだ。
 そして、解っていて、大樹もこうなのだ。
 暖簾と暖簾は、そよぐばかり。
 そのままついとそっぽを向いてしまった大樹に、クラウディオはその顔を覗き込むようなことはせず、言葉を飲み込んだ。
 言いたかっただけなのならば、ちゃんと聞いた事くらいは分かって貰えたのだろう。
 気にするなと言うなら、それ以上は、何も。
(だが……)
 足元に残る白と黄色を、ちらと見つめる。
(今日の事は記憶しておこう。いずれ、理解出来るかも知れん)
 認識は、一つの切欠として。クラウディオの中に、芽生えを残した。

●花は刹那に
「良い色が揃っているな……その色が良い」
 公園で詩うたいの花籠を見つめたハーケインは、色とりどりの中から薄い紅色から鮮やかな真紅に変わる物を選び、手に取った。
 今、『花』には少し苦い記憶がある。それを上塗りするかのように。
 紅色を見つめながら、ハーケインは思案する。
 この紅よりも、もっと黒くて深い、花弁の事を。
 好意を殺意に捻じ曲げるトライシオンダリアに寄生されたあの時、ハーケインはパートナーであるシルフェレドを見て確かに思ったのだ。
 離れたくない。離さない。と。
 それは、ハーケインがかつて心酔したその人へした事と同じで。
 だから、困るのだ。
 シルフェレドがハーケインにただ要求を重ねてくるならば簡単な事なのに。
 ふらりと泳がせては、寄り付くのを待つようにただ見つめているだけ。
(分かりたくない……)
 自分がどうしたいのか。彼をどう思っているのか。
 まだ、分かりたくない。
 まじまじと見つめた花に、言葉を籠めれば。シルフェレドは分かってくれるだろうか……。
 ひょい、と。視界の端に細い指が伸びた。
 思案に暮れるハーケインの傍らから手を伸ばしたシルフェレドもまた、詩うたいの花を手に取ったのだ。
「なんだ、シルフェレドもやるのか」
「一枚につき一文字でもいいのだろう。ならば私が籠める事は決まっているな」
 にぃ、と笑ったシルフェレドは、ハーケインを横目に見つめる。
 ダリアの一件で、その心根をまた深く覗く事が出来た。
 どうやら、ハーケインの心に負った傷は、シルフェレドが思っているより深いらしい。
 シルフェレドも相当抉ってきたとは思っていたが、まだ足りないようだ。
 くるりと花を回して、愉しげに、シルフェレドは口角を吊り上げる。
(私が付けた傷がより深く大きくなるまで、私は傷つける)
 そうして、誰もハーケインの傍に立たないよう、立てないよう、誰よりもハーケインを理解しよう。
 歪んだ感情は、時を重ねる程に顕著になる。
 興奮とは違う、静かな昂揚が、シルフェレドの胸中でささやかに嗤う。
「にがさない」
 ゆっくりと、一文字一文字はっきりとした声で紡がれた言葉に、ハーケインはぞっとした。
「……おい、何を告げているんだ貴様は! 恐怖しか感じんわ!」
 声を荒げたハーケインに、シルフェレドは愉しげに笑って花を揺らす。
「ククク……いいリアクションだが、お前も私と同じ事をしていたじゃないか」
 一文字ずつ、念を籠めるようにゆっくりと紡がれていたハーケインの口元を思い起こして、くつくつと喉を鳴らすシルフェレド。
「まあ、私もお前も詩など嗜むようなタイプでは……」
 けれどその顔が、ふと、ハーケインの口元の言葉を認識して、止まる。
 一方でもう一言噛み付こうとしたハーケインだが、柳に風と言ったシルフェレドの態度に、急に気力が削がれて、代わりに溜息が零れる。
「馬鹿らしくなってきた……なぜ俺ばかり……何でもない!」
 追及を避けるようにぴしゃりと打ち切って、シルフェレドへとずいと手を差し出した。
「それより、その花を寄越せ。これは俺が持っている。俺以外の奴にこんな呪いの品を渡すんじゃないぞ」
「ほう……」
 要求に、シルフェレドは笑みを湛えて、素直に手渡す。
「ならばハーケイン、これは私が貰ってもいいな?」
 代わりにと要求したのは、ハーケインの紅い花。
 怪訝な目をしたハーケインだが、異を唱えることはせずに、素直に、渡す。
(私の物はお前にやる。お前の物は私の物だ。誰にも渡さない )

 ――わすれない。

 何を、なんて、聞かずとも判るその切望じみた囁き。
 拒絶によく似た言葉の意味を深く思い、シルフェレドは緩やかに、笑みを深くした。

●明日を奏でる
 己とパートナーとで一輪ずつ。
 詩うたいの花を手にした蒼崎 海十は、ふわりと揺れる花を見つめて、言葉を思案した。
 その隣では、フィン・ブラーシュがうぅんと小さく唸っていた。
「和歌かぁ……普段職業柄文章は書いてるけど、それとは全然違うね」
「俺も和歌なんて詠んだ事ないけど……想いを込めて文章にするっていうのは、歌詞を書くのに少し似てる」
「あぁ、なるほど」
 道理で、淀みの無い顔をしているわけだ、と、フィンは海十をちらと見て納得したように頷く。
 そうしてから、ゆっくりながら、自分も歌をイメージしながら、言葉を選んでみた。
 海十の頭の中には幾つものフレーズ。切って繋いで結んで解いて。和歌の決められた文字数を重ねながら、届くようにと祈りを込める。
 溢れる想いは、端的に、短く。
 歌うように囁きかければ、覚えたよ、というように花が揺れた。
「フィン」
「もう出来ちゃったの? じゃあ、聞かせて貰うね」
 凄い、と顔を綻ばせながら、フィンは一旦考えるのをやめて、海十の詩に、意識を傾けた。

 南風
 初夏の気配
 ハルモニア
 振り返り見る
 青空想う

 一枚一枚、ゆっくりと余韻を残しながら聞ききった詩。
 意味を問えば、そのままだと返される。
 振り返り見れば、いつもフィンの笑顔があった。初めて二人で過ごす夏が、もうそこまで来ているのを、噛みしめる。
「風がさ、夏がすぐそこだって言ってるみたいだから」
 心地よさが、詩になったんだ。なんて笑う海十は、その心の内側に、ひっそりと思いを秘めていた。
(青空がフィンの事……なんて、本人には言えないな……)
 想うのは、青空のように晴れやかな君の笑顔。
 この風に清々しさを覚えるのは、君が、そうして笑ってくれているから……なんて。
 そんな海十の胸の内は知らぬまま、それでもフィンは顔をほころばせる。
「詩人だねぇ、海十は。ふふ、さて。お手本を見せて貰ったし、オニーサンもちゃんと考えるから、待ってて」
 海十の詩を聞いたら、何だか浮かびそうな気がしたのだ。
 くるりと花を回しながら思案を展開して、うんと頷いたフィンは、そっと花に向かって紡いだ。

 月影に
 独り立つ君
 二人なら
 きっと見つかる
 幸せの意味

「はい、これは海十に」
 籠められた詩をはらりはらりと散らし聞けば、じんわりと頬の染まるのを自覚しながらも、意味を問うて。
 同様に、そのままだと返された。
「二人で幸せを見つけるって約束をさ、歌にしたくて」
 その言葉が、また胸の奥を暖めてくれる。
 ふくよかな感情に笑みをこぼしながら、海十は来る夏に向けての期待を描く。
「夏になったら……夏しか出来ない事がしたいな」
「そうだね、夏の美味しいもの、沢山食べたいね」
 ふふ、と笑ったフィンは、同じ季節に思いをはせて。
「海十との初めての夏だ。楽しみだね」
 当たり前のように、告げる。
 フィンが、二人で過ごす初めての夏を、楽しみだと思ってくれたら嬉しいと。そう思っていた海十は、たまりかねたように破顔した。
「色々、楽しもうな」
「じゃあ、指切りしよう」
「ああ、約束」
 小指を絡めて、未来へ向けて。
 童謡じみた歌を紡ぎながら微笑みあうその顔を見て、フィンはひそりと、願う。
(海十の笑顔が曇らないように――)
 俺が、支えたいんだ、と。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 05月12日
出発日 05月19日 00:00
予定納品日 05月29日

参加者

会議室

  • [10]蒼崎 海十

    2015/05/18-22:41 

  • [9]蒼崎 海十

    2015/05/18-22:40 

    ヴァレリアーノさん、こちらこそお花見の時はお世話になりました!

    今から皆さんがどんな歌を花に託すのか、とても楽しみです。
    俺とフィンも慣れないながらも、何とか和歌を詠んでみるつもりです。

  • [8]ハーケイン

    2015/05/18-20:14 

    ハーケインとシルフェレドだ。
    滑り込みどころではない参加だが、よろしく頼む。
    模擬戦で世話になった面子がほとんどか。
    あれは楽しかった、機会があればまたやりたいものだな。

  • ああいう機会はなかなかないからな。俺も楽しかった。
    貫禄か、そんなオーラ出てただろうか。俺はクラウディオの順応性の高さなど流石だなと感心していた。
    また機会があればやりたいと思う。

    海十達は花見以来だな。特にサーシャがフィンと世話になった。
    今回も宜しく。

  • [5]蒼崎 海十

    2015/05/18-00:07 

    途中参加失礼します。
    蒼崎海十です。パートナーはフィン。
    皆様、宜しくお願い致します。

    和歌…歌詞を書くのに似てる…かな。

  • [4]柳 大樹

    2015/05/17-16:17 

    俺も模擬訓練ではヴァレリーくん達と組めて楽しかったよ。
    ヴァレリーくんのラスボスみたいな貫禄すごかったし。(楽しげに微笑
    またなんかあった時はよろしく。

    俺の方もプランは提出完了したよ。
    まあ、いつも通りって感じかな。

  • Здравствуйте、ヴァレリアーノ・アレンスキーだ。
    雅近達は初めましてか。もしすれ違ったら宜しく。
    大樹達は模擬訓練以来だな。あの節は世話になった。
    二人と組めて本当に良かったと思っている。連携も取れていたと思うしな。いい経験になった。

    和歌、を実はきちんと理解していないのだが、サーシャに聞いて考えてみたいと思う。

  • [2]川内 國孝

    2015/05/16-15:30 

    雅近:
    おや、出発出来る人数集まっていたかー良かった良かった。
    初めましての者は初めまして
    俺は四季 雅近、隣の者は川内 國孝だ。よろしくなぁ。

    プランは既に提出している。
    和歌は前々から興味があったのだ、今からワクワクするぞー!

  • [1]柳 大樹

    2015/05/16-15:00 

    こんにちはー。
    柳大樹でーす。よろしく。(棒読み

    こっちは契約した精霊のクラウディオ。(隣を親指で示す

    さて、花に言葉を。ねえ。
    不思議なもんだわ。(手元でくるくる回す


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