プロローグ
―その手を離さないと誓えますか。
とあるウィンクルムが、桜の美しい公園に訪れた。
桜吹雪とは誰が考えた言葉なのだろうか、正に吹雪の如く吹き荒れる桜の花びら。
圧倒されてため息をつく。
「綺麗だね」
そういって笑う神人。精霊は頷いてもう一度桜を見ようと顔を上げた。
瞬間、突風が吹く。さらなる桜吹雪に、ギュッと目を瞑った。
そして、目を開けた時にはもう神人の姿はなかった。
「どこへ行ったんだ?」
問いかけるも、声は虚空へ消えていく。
あの一瞬に何があったのか。精霊は戸惑い、きょろきょろとあたりを見回す。
―それならば、強く願いなさい。
どこからか、声が聞こえる。
―あなたの大切な人を返してほしいなら、もっと強く願いなさい。
どうしてその手を放したの?
強く願う?
一時的にだが神人を失い、心にぽっかりと穴が開いたようだ。
帰ってきてほしい。精霊は願い始めた。
*****
「ここはどこなの?」
見回せばあたり一面に広がる薄桃色の絨毯。
桜に埋もれるようにして神人は座っていた。
甘い香りとふわふわの桜の絨毯。とても心地いい。けれど。
(あの人はどこに行っちゃったの……?)
急に切なさと不安が胸に押し寄せる。
―帰りたいの?
どこからか聞こえた声に即答した。
「あの人のところに戻りたいの」
―どうして?
思ってもみなかった切り返しに神人は目を見開く。
「どうして、って……」
―どうして、帰りたいの?戻ればまた危険な目に遭う。
命を賭して戦ってまで、貴方は彼の傍にいたい……?
声の主は彼らをウィンクルムと知っていたのだ。
声は問う。
精霊に、『彼女を本当に大切にできるのか、彼女に会いたいか』その想いを。
神人に、『命を賭してまでどうして彼と共に有りたいのか』その願いを……。
解説
目的:声の主の問いに答え、無事に帰還する。
*桜の公園までの交通費やデート代で400Jr消費します。
*皆さんは神人がさらわれることは事前に知りません。
純粋に桜が綺麗な公園にやってきたら桜に飲まれてしまった。ということです。
プランに必ず書いてほしいこと。
*アクション=神人が桜の空間に閉ざされるので、その時の神人の心情、帰りたいか、と問われての答え。何故危険を冒してまで彼の元へ帰りたいのか、等、問いかけに答えてください。
*ウィッシュ=一時的にですが神人が行方不明になります。ちょうど神隠しのような感じ。桜により異空間に閉じ込められるので、どんなに探しても出てきません。声も聞こえません。こちらもまた、心情、声への返答を考えてください。
*無事帰還できた時の心情や二人のやり取りもウィッシュの方へどうぞ。
!!注意!!
真面目に答えなかったり、声の主が納得できない答えだと公園の端と端に離されてしまいます。後々合流することは可能ですが、迷うと思いますのでご注意を!
正直に答えて声の主を納得させれば神人は精霊のすぐそばに返されます。
戻ってくる描写の指定があればどうぞ。(空から降ってくるとか桜の木の枝に座ってるとか気付いたら横にいたとか……)
ゲームマスターより
……君が桜に攫われるかと思った。(イケボ)
折角の珍しく綺麗な寿がGMコメントで台無しだよ!!
なんで(イケボ)とか付けちゃったんだよ!!
桜吹雪ってすごい表現だよねって考えてたら
閃きました。
精霊との距離や関係性が見えるエピなんじゃないかな?なんて思います。
迷子の神人をしっかり取り戻してくださいね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
気が付いたらひとりだった。 帰りたいかと問われ、「帰りたい」とはっきり答える。 きっと、彼はひとりで寂しがっている。 意地っ張りで素直じゃないけど、本当は寂しがり屋なジャスティ。 昔も今も、寂しさに揺れる瞳は同じだった。 だから、彼に笑顔が増えるようにと願った。 2人の思い出のペンダントを握り、「彼に会いたい」と口にする。 契約したばかりの頃は衝突ばかりしていた。 だけど、少しずつ仲良くなり、互いに笑顔を見せるようになった。 そして、昔のことを思い出した。 今は彼といると心の奥があたたかくなるように感じる。 彼の笑顔を守りたい。だから、今すぐ彼に会いたいと思った。 この気持ちの名前を、なんというのだろうか。 |
篠宮潤(ヒュリアス)
「わっ…だ、誰?」 景色に見蕩れていて声への反応遅れたり ここなら、確かに怖い思いもしない 苦手な、人との付き合いをしなくていい そう考えた瞬間脳裏に浮かぶ。亡くした『彼女』が微笑む姿と、精霊の真顔が 「僕、は…神人なの、に、弱い、けど…」 「…成長、していける、って信じたい…」 「そう、教えてくれた人たち、に、応えたい」 情けなさそうに微笑 「パートナー、なのに、まだ全然知らないって、気づいたん、だ。ヒューリのこと… …知っていきたい、って、やっと思えたん、だ」 少しずつだけど成長してみせるから、見ていて欲しい 傍にいないと、見てもらうことも知っていくことも出来ないから どうか、帰してもらえないだろうか…と祈る |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
■心情 アルヴィン?(きょろきょろ 桜…沢山、また変な場所 コレが現れてから不思議現象てんこ盛りね(左手を掲げる ■答え 誰よ貴方 帰るわ、帰して どうしてって…此処に居ても仕方がないもの 嫌だろうが理不尽だろが、コレがある以上どうしようもないじゃない 貴方が何とかしてくるの!? オーガが怖いか? …守ってくれるって約束したもの、怖くなんかないわ 何で帰りたいかって(紋様を握り締める 言う理由なんてないわ(むぅっ上目使いに拗ねる …一緒にいると安心するのよ だっていつも傍にいてくれ、て契約だからって(はっと気づく してもらってばっかりで何も返してない 早く戻してっ! 前にも似たコトがあったわ(夏祭り あの時は怒ってたわよね …? |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
凄く綺麗な世界 でも、羽純くんが居ない 帰りたい 羽純くんの隣に居たい 笑顔が見たい 声が聞きたい 優しい手に触れたい どうして? 羽純くんが、好きだから 最初は憧れに似た感情 でも、彼を知る度に変わっていった 羽純くんは、色んな感情を教えてくれる 喜びも嫉妬も、寂しさも この切なさも彼を出会わなければきっと知らなかった エゴかもしれない 私と居れば、彼は戦うしかない それでも、この気持ちは止められない… 私に何が出来るかは分からない けれど、彼の傍に居て、彼を守りたい! 守られるだけじゃなくて、その隣に並べるように 命を懸けて、彼と歩いて行きたい だって、羽純くんの笑顔が好き 彼が笑ってくれたら、私はそれだけで天にも昇る心地になるの |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
桜があまりにも美しかったので、呆然と見惚れてたの。 「とても綺麗ですね、ミュラーさん」 アレ?ミュラーさん居なくなっちゃった? やん、私、迷子に? だって2人で桜を見に来たのに。 ミュラーさんと一緒に桜が見たいです。 だから戻りたいです。 神人だからオーガにどうしても狙われるの。 オーガは怖いわ。 でもミュラーさんは「必ず護るよ」って言ってくれたもの。それに私が居ないとミュラーさんも全力を出せなくて逆に危険なの。 一緒にいた方が危険への対処力が上がるの。 それに、何よりミュラーさんと一緒に居ると楽しい。 私の知らない事を色々と教えてくれるの。 そのお礼もまだ言えてない。 彼と一緒なら幸せを感じるの。だから帰りたい。 |
あたり一面の薄桃色。その中にぽつりと桜倉歌菜は立ち尽くしていた。
(……凄く綺麗な世界)
圧倒されてぱちくりと瞬きをする。そして、傍らに大切な人がいないことに気付き、血の気が引いた。
(でも、羽純くんが居ない……)
彼と来ることが大切だったのに。彼と桜を見たかったのに。
時を同じくして、隣にいたはずの神人が急に消えたことに月成羽純は焦燥感をおぼえた。
「歌菜……何処に……」
きょろきょろとあたりを見回すも、影も形も無くなってしまった彼女に、次第に手の先が冷たくなっていく。
―会いたいの?
突如聞こえた声に、彼は桜の木を見上げた。
「羽純くん!」
大切な人の名前を呼ぶも、声は虚空に消えていく。歌菜は心細さと不安に胸が締め付けられた。
(帰りたい。羽純くんの隣に居たい……)
もう会えなくなってしまうのではないかと言いようのない不安が胸に押し寄せてくる。じわりと目の奥が熱くなる。……泣いちゃダメだ。グッと堪え、戻る為の手段を探そうとする。
―帰りたいの?
「!」
優しい声が聞こえた。彼の声ではない。では、誰?
(笑顔が見たい、声が聞きたい……優しい手に触れたい!)
強く願うと、もう一度声が聞こえる。
―どうして?危険を冒してまで彼の元へ?
「どうして?羽純くんが、好きだから」
さも当然と言うように歌菜は声に答えた。
―好きなだけで命を賭せる、と?
「会いたい、歌菜はどこに」
羽純は声の主に問いかけた。
―強く願いなさい。彼女があなたの大切な人ならば。
「願えば戻ってくるのか?」
羽純は静かに目を閉じ、そして彼女の事を想った。
(歌菜は大切な人……そうだ、いつの間にか大切になってた。歌菜、お前は何時だって己は弱いとそう言うけれど、俺はその笑顔と懸命な姿に支えられてる)
あたりに聞こえるのは風と葉擦れの音だけ。瞼の裏に愛らしい神人の笑顔を思い浮かべる。―会いたい。
―あなたが戦いの中死ぬことで彼女を傷つけることになるかもしれないのに?
声が問う。
(戦う覚悟は決めていた)
けれど、この声にはお見通しだったのか。彼の根底にあった懸念、それは。
(いつか、父さんのように戦いの中、死ぬ事になるかもしれない。それも運命なんだと思っていた)
死ぬことも運命と受け入れようと思っていた……けれど。
「こいつを残して死ねない。 守りたい」
彼が発した言葉は決して大きな声ではなかったけれど。
(俺はいつからそんな風に思うようになったんだろう)
このかけがえの無い想いをくれたのは……。
歌菜はギュッと目を閉じて想う。
(最初は憧れに似た感情……。でも、彼を知る度に変わっていった)
ただ、好きなだけじゃないんだ。
「羽純くんは、色んな感情を教えてくれる。喜びも嫉妬も、寂しさも、この切なさも彼に出会わなければきっと知らなかった」
さわ、と風が吹き優しく桜が揺れる。
―あなたのせいで、彼もまた危険にさらされるとしても?
歌菜が息を飲んだ。そうだ。彼は私を守る為に危険に身を投じているのだ。
「エゴかもしれない。貴方の言うとおり、私と居れば、彼は戦うしかない。それでも、この気持ちは止められない……」
決意と覚悟を宿した瞳で歌菜は桜を見上げ、唇を一度きゅっと結んだあとに凛とした声で告げた。
「私に何が出来るかは分からない。けれど、彼の傍に居て、彼を守りたい!」
ざぁ、っと薄桃色の花びらがざわめく。
「守られるだけじゃなくて、その隣に並べるように。命を懸けて、彼と歩いて行きたい」
瞬間、桜の花びらが歌菜の足もとをフワフワと舞い始めた。
―強い想い、受け取った。
「強く手を掴んでいれば、お前は消えなかったのか」
羽純が縋るように呟く。
「エゴかもしれない、お前は俺と居れば戦うしかない。でも
頼む。
戻って来てくれ」
祈るように声を絞り出せば、サァッと桜の木々がざわめいた。咄嗟に頭上を見上げると、そこには。
「……!」
ゆっくり、ふわりふわりと近くまで降りてきた歌菜が途中でドサリ、と羽純の腕に落ちてくる。彼女を取り落さないよう、羽純はその細い体をぎゅっと抱き留めた。
「羽純くん……!本物?よかった……」
少し不安げに瞳を揺らした歌菜が、羽純の瞳を覗き込んでその肩口に顔をうずめる。
「それはこっちの台詞だ。……もう、何所にも行くな」
抱きかかえた歌菜を桜が香る道にそっと降ろす。
優しい羽純の声に歌菜は顔を上げ、彼が優しく微笑むのを見て、つられて微笑んだ。
(あぁ、またこの笑顔を見れた)
だって、羽純くんの笑顔が好き。彼が笑ってくれたら、私はそれだけで天にも昇る心地になるの。
言葉には出さず、愛おしい彼の笑顔を見つめ歌菜はゆっくりとその細い腕を彼の体に回してその存在を確かめた。
ふわぁっと香る桜、あたり一面の桜並木。瀬谷瑞希は圧巻のスケールにただただ圧倒され、ぽかんとしながら頭上の桜を眺めていた。
「とても綺麗ですね、ミュラーさん」
と、傍らに精霊がいないことに気付く。
「あれ?ミュラーさん?」
(アレ?ミュラーさん居なくなっちゃった?)
きょろきょろ。あたりを見回すも、そこはただただ薄桃色が果て無く広がるだけ。
(やん、私、迷子に?)
一歩も動いてないはずなんだけど?と首を捻るも、誰が教えてくれるわけでも無く。
「ミズキ?」
一人取り残されたフェルン・ミュラーは神人を探そうとした、が。この一瞬でさほど遠くに行くわけもあるまい。
(……神隠し、というやつか)
彼の耳に聞きなれない優しい声が飛び込んできた。
―彼女を探しているの?
同じ瞬間に瑞希にも声が聞こえる。
―彼に会いたいの?
誰?と顔をあげても、そこには誰もいない。けれど、瑞希はその問いに答える。
「だって2人で桜を見に来たのに。ミュラーさんと一緒に桜が見たいです。だから戻りたいです」
―そう、何故二人で見る必要があるの?
何故、彼と?問われて瑞希は少し考える。
「彼女に戻ってきてほしい」
フェルンは確かな声色でそう答えた。
―何故?
謎の声にフェルンは答える。
「桜を見上げた時の笑顔を見ただろ。すごく嬉しそうだったじゃないか」
見ただろう、と言われ声は訝しげな声を出す。
―残念ながら顔は見えないの。
「普段、あんな笑顔はなかなか見られないんだ。彼女はもっと笑って過ごしていて欲しい」
フェルンの言葉に黙って続きを待つ声の主。見えてはいないけど、確かに聞こえてはいるようだ。
「彼女には彼女自身気が付いていない魅力が沢山ある。それを教えてあげたいよ」
―魅力を教える……それはエゴではないの?
「それに出会った時に約束したんだ。「必ず護るよ」って」
―彼女を危険にさらすのは 貴方 かもしれないのに?
フェルンがひゅっと息を飲んだ。
確かに、神人たる彼女を護るのは己の役目。けれど、彼女を戦場に連れて行くのもまた、自分なのだ。
―彼はあなたを危険にさらすかも知れない。
声に、瑞希は顔を上げた。そして、小さく頷く。
「そうね、でも……神人だからオーガにどうしても狙われるの」
それは、彼と共に戦場へ赴かなくても。
「オーガは怖いわ。でもミュラーさんは「必ず護るよ」って言ってくれたもの」
ぎゅっと拳を握りしめ、震える声で瑞希は告げた。
―信じるの?その言葉を。
「それに私が居ないとミュラーさんも全力を出せなくて逆に危険なの。一緒にいた方が危険への対処力が上がるの」
理詰めで話してしまう彼女の癖。なにも間違ったことは言っていない。
声も黙ってそれを聞いている。
本当に、それだけ……?
瑞希が薄く唇を開いた。
「それに、何よりミュラーさんと一緒に居ると楽しい。私の知らない事を色々と教えてくれるの」
……彼も同じことを言っていた。知らない事を教えたい、と。
桜の花びらが優しく揺れた。
「そのお礼もまだ言えてない。彼と一緒なら幸せを感じるの。だから帰りたい」
そう、それがきっと彼女の何よりの本音。
―伝わった。……帰しましょう、彼の元へ。
フェルンが護るという言葉に少し悩んでいると、目の前に強い光が現れた。
光の中から、瑞希が歩んでくる。
「ミズキ!」
思わず駆け寄り、その体を抱きしめる。
「お帰り」
「ミュラーさん、……ただいま」
もう会えなくなるかと思った。フェルンはよぎった不安を押し込め、彼女の瞳を覗き込む。
「また会えてよかった」
瑞希も同じように頷く。
彼女と一緒に居るひと時がどれだけ楽しいか、まだ伝えきっていないから。
これからも一緒に色々な経験をし、彼女と幸福を積み重ねていきたいから。
だから、……離れるわけには、いかない。
桜の絨毯にぺたりと座り込み、ミオン・キャロルはあたりをきょろきょろと見回した。
「アルヴィン?」
精霊の名を呼ぶも返事はなく。
(桜……沢山、また変な場所。コレが現れてから不思議現象てんこ盛りね)
左手をスッと掲げてウィンクルムの証たるその紋章を見つめた。
「ミオン?」
アルヴィン・ブラッドローは突如として傍らから姿を消したミオンの名を呼ぶ。
返事がない。
(……絆の感覚がない)
どくん、と心臓が大きく脈打った。ただでさえ静かな場所だからか、やたらと自分の鼓動が大きく聞こえる。
(質の悪い悪戯だ)
少しの苛立ちを覚えながら、彼は必死に彼女を探そうとする。
大きく息を吸って、吐いた。
―彼女に、会いたい?
謎の声が問いかける。
―彼の元に戻りたいの?
時を同じくしてミオンも同じ質問をされていた。
「誰よ貴方
帰るわ、帰して」
簡潔に答え、立ち上がると声がさらに問う。
―どうして?
「どうしてって……此処に居ても仕方がないもの。嫌だろうが理不尽だろうが、コレがある以上どうしようもないじゃない」
ずい、と左手を声がした空間に突きつけ、ミオンは叫ぶ。
「貴方が何とかしてくれるの!?」
噛みつくような彼女の叫びに声は一度引いて、それから静かに問いかけた。
―何もできないけれど、ここは安全。……オーガが怖くないの?
「……守ってくれるって約束したもの、怖くなんかないわ」
左手の印をそっと触る。……本当は、怖いけれど、でもそれ以上に彼を信じているから。
「彼女は神人で俺は契約した精霊だ」
だから、離れるわけにはいかないとアルヴィンは答えた。
―互いに危険に晒されるのに?
その問いに即答する。
「可能性がある以上、俺は覚悟はしてた。でも彼女は違う。彼女が逃げずに立ち向かう限り一緒にいると決めてるんだ」
―理由は、本当にそれだけ……?
アルヴィンは声を詰まらせた。
思い浮かぶのは、恋や定職についても契約で引き離されると思うと本気になれなかった昔。
神人と過ごした日々、彼女の表情……。当初、オーガ退治は半分八つ当たりだった。以前彼女に言われた言葉が呼び起される。
『精霊で良かった、会えたもの』
ふわりと胸が温かくなる。
どこかで感じたような感触。
「……とにかく、ここに返せ。俺は約束した以上、果たす義務があるんだ」
声のした方をギッと睨みつけてアルヴィンは低い声でそう告げた。
「何で帰りたいかって」
ぎゅっと、右手で紋様を握り締めミオンはぽつりと呟いた。
「言う理由なんてないわ」
むぅっと上目づかいに拗ねたような表情で口を尖らせる。
それでも、自然と言葉が零れてくる。
「……一緒にいると安心するのよ。だっていつも傍にいてくれ、て契約だからって」
そこまで言ってミオンはハッと気づいた。
「してもらってばっかりで何も返してない!早く戻してっ!」
そうだ、いつもいつもしてもらってばかり。私だって返したいのに……!
そう強く願った瞬間、光がはじけた。
「ミオン!」
咄嗟に神人の手を取る。ギュッとつないだ手は温かかった。
「よかった……」
ミオンがはたと思い出す。前にも似たようなことがあった。夏祭りの時だ。
「……ねぇ、もしまた消えたら、困る?」
おずおずと切り出した言葉にアルヴィンはふいと顔をそむけた。今、顔を見られたくない。だってきっと見せられない顔をしているはずだ。
そのつないだ手をもう一度強く握り返すことしか、彼には出来なかった。
「……?」
気付いたら、一人になっていた。リーリア=エスペリットはすぐ傍に居たはずの精霊を探す。どこにいるの、と問いかけても彼の声はしない。
―帰りたいの?
不意に聞こえた声に彼女は答えた。
「!帰りたい」
はっきりとした答えを返せば、声はさらに問う。
―何故?
「きっと、彼はひとりで寂しがっている」
自分の事を言わなかった彼女に、声の主は少し驚く。
(意地っ張りで素直じゃないけど、本当は寂しがり屋なジャスティ)
「昔も今も、寂しさに揺れる瞳は同じだった」
一人になんてできない。そう言うと、彼女は祈るように瞳を閉じる。
(だから、彼に笑顔が増えるようにと願ったの)
桜の花がふわっとリーリアを包む。
一方、ジャスティ=カレックは桜吹雪の中神人を見失い、先程まで隣にいた彼女の気配を一生懸命に探ろうと必死だった。
(早く彼女を見つけないと)
焦りで胃の奥がきゅぅっと冷たくなってくる。
「リーリア」
彼女の名を唇から零す。
「どこにいるのです?早く会いたい……」
懇願は切ない響きとなって五月の空に吸い込まれていく。
―会いたいの?
どこからともなく声が聞こえた。
「!……会いたい、彼女の傍に居たいです」
そう答えると声はさらに問うてくる。
―貴方と共に有ることで彼女が危険に晒されても?
「守ります」
私が、守る。はっきりとした意志を告げる。
―大切だと言える?
「彼女は大切な人です。愛おしい、守りたいという気持ちは偽りではありません。離れ離れになった年数を覆せるぐらい、彼女と共にありたい」
彼女から昔贈られたペンダントをギュッと握り締め、祈るように言葉を紡ぐ。
「きっと、彼女は心配しています。早く見つけて、安心させてあげたいのです」
ジャスティは自分か心配だから、という口調ではない。
むしろ、自分が彼女を心配させているだろうから、と。
どこまでも二人は相手を思いやって言葉を紡いでいた。
「だから、彼の元に返して」
リーリアの凛とした声に、桜の花が揺れた。
(契約したばかりの頃は衝突ばかりしていた)
リーリアは祈りながらそっと彼の事を思い出す。
(だけど、少しずつ仲良くなり、互いに笑顔を見せるようになった。……そして、昔のこと、幼い頃出会ったときの事を思い出した)
「今は彼といると心の奥があたたかくなるように感じる」
だから、一緒にいるべきなんだと思う。そう告げると、ふわりと桜に包まれた。
―二人は、通じ合っている。だから、きっと大丈夫……。
声がして、ジャスティが顔を上げると前方には桜吹雪の中佇む彼女の姿があった。
「リーリア!」
大切な大切な女性の名を呼び、思わず駆け出す。
「大丈夫でしたか」
リーリアの様子を見て、ほっと息をつく。
……よかった、怪我はしていないみたいだ。
「大丈夫よ」
にっこりと笑うリーリアにジャスティが少し情けない顔で微笑んだ。
(よかった、ジャスティ、笑ってくれた)
彼の笑顔を守りたい。だから、今すぐ彼に会いたいと思った。……この気持ちの名前を、なんというのだろうか。リーリアは胸に灯った温かな灯を感じる。
「……無事でよかった」
「あなたも無事でよかった」
リーリアがふわりと微笑んだ。
二人を包むようにさぁっと桜の花びらが舞う。
その微笑みがあまりに美しく、そんな彼女が自分を案じていてくれたということに、ジャスティは思わずほんのりと頬を染め俯いた。
……この気持ちの名前を知るのは、そう遠くない気がして……。
さやさやと風が流れていく。桜はふわふわと流れ、足元にも柔らかな花びらの絨毯。……綺麗。
―……の?
「……」
篠宮潤は、幻想的な薄桃色の景色に目を奪われ、その声への反応が遅れた。
―願わないの?
「わっ……だ、誰?」
突如聞こえた聞きなれぬ声に潤はきょろきょろとあたりを見回す。声はすれども姿は見えず……。声は潤に問うてくる。
―貴方は、焦らないの……?そう、帰らなくても、いいの?
「……え?」
「ウル……?」
忽然と傍らから姿を消した神人に、ヒュリアスはふぅ、とため息をついた。
(あの歳で迷子かね……)
が、どうも様子がおかしいことに気付いた。
いくらあたり一面桜並木といえど、迷うところも隠れるところもない。それも、この一瞬のうちに。
―……会いたいの?
声が、聞こえた。
聞いたことのない声色に、ヒュリアスは咄嗟に身構える。
「ええと、帰り、たい……よ」
潤は声におずおずと答えた。その声は彼女の気持ちを見透かすように次の問いを投げかける。
―何故?帰れば貴方は怖い思いをする。……ここは、安全。
潤がふと俯く。
(ここなら、確かに怖い思いもしない)
ただ、薄桃色の景色が広がるだけ。
(苦手な、人との付き合いをしなくていい)
そう思った瞬間、脳裏に『彼女』の微笑む姿がよぎった。
「……っ!」
次によぎるのは、一番身近にいてくれる精霊の顔。
(……ヒューリ……)
きゅっと心が締め付けられる。
小さく首を横に振り、小さい声だけれどはっきりと彼女は声に答えた。
「僕、は……神人なの、に、弱い、けど……」
決意を後押しするかのように後ろから風が吹く。潤のショートヘアが靡いた。
「……成長、していける、って信じたい……」
だから、ここで逃げて止まるわけにいかない。
「そう、教えてくれた人たち、に、応えたい」
とぎれとぎれながらも、強い意志を込めたその言葉に、桜の花びらが優しく揺れた。
―あの子を、大切にできる?
声の主の様子に敵意が無いと判断し、ヒュリアスは警戒をひとまず解いて考える。
「……大切に出来ると断言するにはまだ……俺は欠陥品なのだよ……」
切なげに、胸の奥を掴まれたように絞り出すような声でヒュリアスは答えた。『欠陥品』と。
―欠陥……?
「あぁ、俺がウルを大切にできると今言いきることはきっとおこがましいことだ」
だから、違うのだ、とヒュリアスは言う。
「ウルがウルのままで傍にある事が『俺』に必要だ」
声がした方を向いて、ヒュリアスは困ったように笑った。
「守り、隣りに在りたいと思う……それでは駄目かね」
ふわっと桜の甘い香りが強くなった。
彼の困り顔を隠すように、桜吹雪が強く吹き付ける。
「パートナー、なのに、まだ全然知らないって、気づいたん、だ」
少し情けさそうに潤は微笑む。そして、顔を上げしっかりと告げた。
「ヒューリのこと……知っていきたい、って、やっと思えたん、だ」
逃げたりはしないから。
―知ることは、怖くないの?
潤は小さく頷く。
「少しずつ……だ、けど、成長して……みせる、から。見ていて欲しい」
貴方にも、と声の主の事を差して潤は言う。
(傍にいないと、見てもらうことも知っていくことも出来ないから、どうか、帰してもらえないだろうか……)
祈るように両手の指を絡めたとき、真っ白な光が優しく潤を包んだ。
―……解った。……どうか、幸せに。
優しげな声と共に。
潤が舞い降りたのはヒュリアスから少し離れたところ。
目視できる距離の彼女を見つけ、ヒュリアスは安堵に息を吐いた。
すぐに駆け寄り、潤が彼を見上げて焦りながら口にした言葉は。
「ご、ごめんっ」
「言葉が違うのではないかね」
優しい声でヒュリアスが返す。
少し驚いて、潤は言うべき言葉をすぐに見つけた。
「えっと……ただい、ま」
照れくさそうに頬を染めながら彼の目を見て告げた言葉。
満足そうに目を細め、ヒュリアスは答えた。
「おかえり」
(……何だろうかね……この満足感は)
生まれて初めて口にした「おかえり」という言葉。誰かを迎える言葉を口にする日がくるなんて。
胸の奥がじわりと暖かくなる。
(……『お前』は、誰かを待っているのだろうかね)
ヒュリアスは舞い降りてきた桜の花びらをそっと手に握り、この満足感を得るきっかけとなった声の主…… 桜に感謝を贈った。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:篠宮潤 呼び名:ウル |
名前:ヒュリアス 呼び名:ヒューリ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 寿ゆかり |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | シリアス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 04月28日 |
出発日 | 05月03日 00:00 |
予定納品日 | 05月13日 |
参加者
- リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)
- 篠宮潤(ヒュリアス)
- ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
- 桜倉 歌菜(月成 羽純)
- 瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
会議室
-
2015/05/02-23:58
-
2015/05/02-23:58
-
2015/05/02-21:46
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのミュラーさんです。
皆さんよろしくお願いいたします。
桜がとても綺麗ですね。
-
2015/05/02-01:15
桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
皆様、宜しくお願い致します!
綺麗な桜……でも何ででしょう?何だか胸の奥がざわざわします…。
あれ? 羽純くん、どこ?
あれ? あれ?(きょろきょろ)
早く合流しなきゃ…!
皆さんもお気をつけてっ -
2015/05/01-19:48
篠宮潤と、パートナーはヒュリアス、だよ。よろしく、だ。
……わ、ぁ…っ
本当、に、凄く綺麗なところ、だね……いつの間に、来ちゃった、んだろう?
(精霊がいないことに気付くのは、この数分後) -
2015/05/01-07:09
…?
あれ?ジャスティ…?
どこに行っちゃったのかしら…。
おはよう。
私はリーリア。よろしくね。
それぞれがパートナーと早く合流できますように。 -
2015/05/01-00:45
すごい桜…綺麗(ペタン座りできょろきょろ)
ここ、どこ?
あ、ミオンよ。皆さんよろしくお願いします。
ほんと変な事ばっかり…。