プロローグ
●宵闇花
君はバレンタイン地方の山林にデミベアが出たという通報を受け、討伐に向かった。
デミベア自体はさほど強い個体でもなく、あっという間に倒すことが出来た。
任務完了したならば、もうここに長居する必要はない。
君が精霊に、帰ろうと言いかけた時。首筋に何かが触れた。
ぐらり。世界が揺れた。
「おい、大丈夫か!?」
精霊が君に声をかける。
ああ。
だいすき。
だいすきだから、ころしたい。
ころしたい。
……え?
君の意志に関係なく君の手が武器に伸びる。
武器を握った君の手は迷うことなくそれを――精霊に振るった。
ころしたい。ころしたい。ころしたい!!!
君の中が殺意に満ちていく。君が精霊に抱いていた暖かな気持ちが、どす黒い狂気の渦に飲み込まれていく。
(いやだ! どうして?! たすけて……!)
君の理性がか細い悲鳴を上げる。君は自分の思い通りにならぬ体が、大事なパートナーを殺そうと尋常ではない力で動いていくのを、為す術もなく見守るしかなかった。
急に神人に襲われた精霊は、戸惑いながらも神人のうなじに一輪のダリアを見る。
宵闇色の大輪のダリアの名前こそ、トライシオンダリア。愛情を殺意に変え、それを吸って麗しく咲く花。
その花言葉は――裏切り。
解説
●成功条件:神人の救出
●トライシオンダリア
うなじに寄生し、愛情を殺意に変えて咲く植物
花を除去すれば宿主を救うことが出来る
寄生された者を強化するが、宿主の愛情が深ければ深いほど強化率が高まる
(初期親密度で互角より少し弱い程度、親密度が高いほど強敵になります)
●神人
全体的に能力が向上し、精霊が本気でかからないと精霊の身が危ない程度の強さになっています
親密度が高いほど強いですが、スキルの使用はできません
自分では暴走をどうすることも出来ませんが、心のなかの理性は残っています
●トランス
トランス状態ですので、精霊は望めばスキルが使えます
戦闘後という状況ですが、MPは減っていないものとします
ゲームマスターより
あき缶「闇堕ちっていいよね!」
錘里GM「いいよね!」
あき缶「やろうか!」
錘里GM「やろう!」
そういうことになった。(夢●獏風)
ということで始まった闇堕ちシリーズ《dahlia》です。
トライシオンダリアの設定は各GMで違いますので、私の設定は私のエピのみの扱いとなります。
今回、神人は自分の暴走を自分の中で見ているしかない状況です。
心の声とかプランに書くと、なかなか切ない感じになると思います。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハティ(ブリンド)
『気をつけろ』よブリンド 俺以外に傷つけられたくない 俺にはアンタしかないんだ アンタをやるか、アンタもやるか、どっちかしかない 流石に強いな…でもこれで本気じゃないはずだ アンタが言うように俺は甘いんだろう だったら『殺してくれ』よ 俺が俺を捨てられるようにな ブリンドが本気になってくれたら終わりにする、約束するよ …アンタが俺の命より自分の命を選ぶ方に賭けてたんだけどな 次はきっとそうしてくれよ 罪悪感と満たされる強さへの憧れの矛盾 これは俺…なのか いや違う、殺意だけは否定し続ける 『声』になったと思っても言葉にならず 知らせるつもりのなかった事は告白してしまった気分だ それも最悪の形で アンタ何で聞きたがるんだよ ――… |
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
何、だよ なんなんだよこれっ……!! 体が動かないだけならともかく どっからこんな力が出てくるんだっ…… くそ、やめろ、止まれ! ―どうせ、てにはいらないのなら。 いま、ここで。ころしてしまえばいい― ちがう、そんな……! っ!!(解放と同時に崩れ落ち) イ、グ、ニス……(存在を確かめるように縋り付いて) 最後の最後まで、スキル使わなかったな? そうでなくても、腕を狙って武器を落とせば早いだろうに こんな、命の掛かった時まで俺を気遣ったのかよ 馬鹿じゃないのかお前は……! (本当に怖かったのは動かない自分の体ではなく 優しい精霊を傷つけること、失うこと) この、ばかやろう…… (一瞬でも迷った自分が、一番馬鹿野郎だ) |
スウィン(イルド)
(恍惚とした表情で)愛してるわ だからこそ殺して俺だけの物にしたいの イルドも俺の事を愛してくれてるなら 殺されてくれるわよね?どうして抵抗するの? ■心 目の前にいるのは敵じゃなくてイルド 分かってるのに止まらない 本当は殺したいなんて思ってない!守りたいと思ってる! でも体が勝手に動いてしまう 一瞬でも体が自由になれば… 自分に武器を突き立ててでも止めるのに イルドは強いからきっと大丈夫よね 攻撃を避けて、受け流して 手加減なんていらないから俺を止めてね …俺を切ってもいいから ■花除去後 (殺さなくて済んだ安堵で力なく微笑み ゆっくり伸ばした手でイルドの頬を撫で、か細い声で) よかった…ごめんね(ぐったりと力尽きる) |
ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
確実に殺意を持った眼で嗤う 懐に入らず大鎌の射程でサーシャの喉元狙う 腹部蹴って地面に組み伏す 狂い咲き踊り舞う様に 体の自由が効かない?! お前が居なければこの力を得られなかった 誰も救えなかった俺を救ったのはサーシャ、お前だ 俺から離れるな、傍に居ろとも言った なのに俺の手で終止符を打つなどっ…手加減したらお前が無事でいられる保障は… お前まで居なくなったら…なったら?俺は、どうする? …りは嫌だ 以前一度お前と刃を交えたが、 あの時のお前はどんな気持ちで俺と戦っていたんだろうか 何故避けない…? 台詞 俺以外の奴になど殺らせない、お前の最期は俺が見届ける 俺は強い強い強い。お前に守られていなくとも! …まだ覚えていたのか |
暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
アドリブ歓迎 一体何が起こって…くっ、すみません先生 自分の体というのに自由に動かせないとは… えぇ、本当に笑っている場合じゃないですよ かまいません、手加減は…無用です ★クリアライト主体、薄く微笑みながら攻撃 (無駄と分かっていても) どうにか自分の動きを制限できないか試みる 少しでも動きが止まれば、きっと先生がなんとかしてくれるはず すみません…本意ではないとはいえ、先生に刃を向けるなんて… お怪我はないでしょうか? 痛くない…といえば嘘になりますが、自業自得ですから こんなことになったのは、僕の油断でもあります 同じ過ちを繰り返さないよう、もっと精進しなければ… 先生を敵に回すのは、もう勘弁して欲しいんですよ |
●意趣返し
ひゅん、ひゅん、ひゅん、と軽く軽く三日月のような刃が嗤う。
ヴァレリアーノ・アレンスキーの眼が嘲笑の色を帯びて、彼が使う得物のような形に湾曲した。
長柄である大鎌の射程を活かして、小柄な『敵』はアレクサンドルの喉笛を数歩先から狙う。
(……この間の質問がよもや現実になろうとは)
アレクサンドルは瞠目して、内心ため息を吐く。
悪夢の中のガーゴイルが、問うていた言葉――神人に拒絶されたお前がどうなるのか告白せよ。
あの時アレクサンドルがヴァレリアーノを救うために答えた言葉に嘘偽りは、ない。
「全て享受する。……そのうえで、我は汝の目を覚ます」
決意を持った眼でアレクサンドルは月皇帝「狼」を握る。
巨大な戦斧を構え、アレクサンドルは自分のリーチに入ろうと動き出す。
拒絶するように、そして少しでも隙があれば切り込まん。とヴァレリアーノの大鎌は対等に戦斧とはたして打ち合うではないか。
「望む所。それが愛と称されなくとも、どんな感情であれ我だけを想うのなら」
アレクサンドルの表情はむしろ穏やかだ。
(汝の葛藤が目に見えるようだよ)
「俺は強い強い強い。お前に守られていなくとも!」
少年が叫ぶ。
アレクサンドルは微笑み、そして――自ら鎌刃の嵐に歩み寄った。
(何故避けない、サーシャ!?)
驚いたのは心の奥底で正気を保つヴァレリアーノ本人だ。体は少年の理性の手綱から解かれ、好き勝手に動いていく。故に、ヴァレリアーノは、血にまみれていく精霊を愕然と見るしか出来ない。
(……思い出す……)
以前、ラミアの歌で操られたアレクサンドルと戦った。今とちょうど逆だ。
(あの時のお前はどんな気持ちで俺と戦っていたんだろうか)
冷静な思考ができたのはここまでだった。
ヴァレリアーノの意に沿わぬ形に唇が、喉が、舌が、動く。
「俺以外の奴になど殺らせない、お前の最期は俺が見届ける」
(!!)
自分は、アレクサンドルを殺そうとしている――。
「思いの外、感情が強いな……。驚いた」
傷だらけになればなるほどシンクロサモナーは強くなる。
故に、ヴァレリアーノの攻撃を受け続ける。想像以上に傷は深いが、構うものか。これがヴァレリアーノの『愛情を転化した殺意』ならば、甘んじて受けよう。
「殺せるものなら殺してみるといい」
アレクサンドルは両手を広げてみる。
(やめろ、サーシャ!! 手加減するな! 今の俺はお前を殺しきれる……っ)
内面のヴァレリアーノが絶叫する。だがどれだけ心が悲鳴をあげようと、外皮は一ミリたりとも動かず。
――誰も救えなかった。
真偽はどうあれ、世間の優しい声がどう言おうが、ヴァレリアーノはそう自分を評価しているのだから、ヴァレリアーノは確かに『誰も救えなかった』のだ。
そんな自分を救えた者こそ、金糸の麗しきファータ。
(俺から離れるな、傍に居ろ!)
自らそんな男を殺すなんて、ヴァレリアーノには耐え難い。
(……お前まで居なくなったら)
いなくなったら、また暗い闇の中で独り。
(……嫌だ)
ヴァレリアーノがぽつりとつぶやいている間に、視界の中には押し倒されるアレクサンドルが大写しになっている。
組み伏せられたアレクサンドルは、今日最も麗しく笑った。
「だが……まだ殺されてやるつもりはないのでね」
突き立てられようとする鎌が茨によって弾かれる。カウンターに戒められるヴァレリアーノの胸元を掴み、引き寄せ、唇の端を噛む。
「あの時の仕返しなのだよ」
一瞬の隙を見逃さず、アレクサンドルの手がヴァレリアーノの項に伸びた。
乱暴にダリアがむしりとられる。
散る花弁、ヴァレリアーノの理性に体の操縦権が急速に戻っていく。
「……まだ覚えていたのか」
内心の動揺を見せまいと、ヴァレリアーノは口端を手の甲で拭いながら、不機嫌に呟く。
攻撃による負傷に手早く応急処置を施しながら、アレクサンドルは少年に見えぬよう口端を歪めた。
(もし我を殺せていたら一生我への罪悪感から逃れられなかったと思うと……くく)
甘美な想像は、心のなかに伏せて。
●こわやこわや
口元に手を当てて、ジルヴェール・シフォンは首を傾げる。
「あらあら、これは大変」
薄く笑む神人が、青く光る短刀を構えてじりじりと近寄ってきている。
初撃。弾かれたように地面を蹴り、ジルヴェールの頬を欠く。
「っ……ふふ、笑っている場合じゃないかしら?」
つうっと流れる血の温さを感じ、ジルヴェールは一歩下がった。
クリスタルが先端にあしらわれた杖を握り、ジルヴェールは顔を引き締める。
(手荒な真似はしたくないけど、黙ってやられるのも御免だわ)
熱に浮かされたようなパートナーの目を見据え、ジルヴェールは先に謝った。
「ごめんなさいね、チヒロちゃん。少し痛くするけれど、我慢してちょうだい」
――容赦はしないから。
ぞくりと底冷えのする瞳で、ジルヴェールは詠唱を始めた。
当の項におぞましい花を咲かせた暁 千尋は、己の内面で無駄にあがいていたが、どうやったって自分で自分のブレーキは踏めも引けもしないと分かったので、せめて、心のなかから精霊の眼を見つめて頷いた。
(えぇ、本当に笑っている場合じゃないですよ。かまいません、手加減は……無用です)
「近寄るチヒロちゃんに、距離を取らないと危ない私……、あらあら不利なのは私の方なのかしら」
想像以上に千尋の足が速い。普段よりも随分と!
(肉を切らせて……。だめね、それじゃあこの子はもっと傷つくもの……)
だから極力ジルヴェールは怪我をするわけには行かないのだ。
ジルヴェールよりも倍早く攻撃行動が取れる千尋の斬撃に四苦八苦しつつも、ジルヴェールは千尋の足を執拗に狙って魔法を打つ。
攻撃力には自信がある。地面を大きくえぐる魔法弾に、千尋が思わず転ぶ。
「あっ」
ジルヴェールは自分でやったことなのに、思わず声を上げてしまった。
――いけないいけない、手加減はしないって決めたのだから。
ジルヴェールは顔を引き締めた。むしろ今はチャンスだ。
立ち上がろうとする千尋に飛びつき、背を押さえつけて首根っこに生えた禍々しい宵闇色の花を千切った。
「チヒロちゃん……?」
そっと様子をうかがう。これで正気に戻らなければ、次はクリアライトを奪い取らねば。
だが、土に伏せ、くぐもった千尋の言葉は。
「……すみません、先生……」
だったから、慌てて助け起こした。
「チヒロちゃん! 怪我は最小限に留めたつもりだけど……。痛いわよね……ごめんなさい」
傷だらけの千尋の足を見やり、痛そうにジルヴェールは目を伏せる。
「僕こそ……本意ではないとはいえ、先生に刃を向けるなんて……お怪我はないでしょうか?」
と顔をあげようとする千尋が、ジルヴェールの顔を視線で捉えるより早く、ジルヴェールは切れた頬を手で隠した。
「大丈夫よ」
と微笑みながらジルヴェールは、長い髪を手櫛で梳いて、うまく頬の傷を隠す。
「自業自得です。こんなことになったのは、僕の油断でもあります」
同じ過ちを繰り返さないよう、もっと精進しなければ……、と千尋は力なく笑った。
そして、心底弱ったように頭を掻く。
「先生を敵に回すのは、もう勘弁して欲しいんですよ」
それを聞いてジルヴェールは花綻ぶように笑うと、千尋の肩を優しくポンポンと叩いた。
「ふふ。褒め言葉として受け取っておくわ」
●その身を投げ出す事こそが
初瀬=秀は戸惑っていた。
(何、だよ。なんなんだよこれっ……!!)
普段なら、ただの精霊の力を増すだけの短剣コネクトハーツが、彼のパートナーの衣服だけでなく肉まで断って血を溢れさせる。
(どっからこんな力が出てくるんだっ……)
秀は自分の思い通りにならぬ体が、精霊を殺そうと俊敏かつ力強く動くことに焦った。
「秀様?! いったい何が……っ?!」
神人の豹変に戸惑っておろおろするイグニス=アルデバランの声が、遠く聞こえる。
(くそ、やめろ……っ。止まれ!! 止まれって!!)
心のなかでどれだけ叫ぼうが、秀は表情ひとつ変えることが出来ない。
(……っくそ)
秀の中に、ぶわりと恐怖が広がる。自分の体が自分の意志で動かせないことが怖いのではない。自分が大事に思うイグニスを自分の手で傷つけること……そして、もしかしたら失うかもしれないこと。それが何より恐ろしかった。
「もしかして、あのやたら怪しい花が……?」
イグニスにとって身を切られた痛みなど遠い。それよりも大事な秀を救うことが大事だからだ。冷静に秀を観察し、項のトライシオンダリアを見つける。
イグニスが前衛職であれば、果敢に飛び込んだだろう。だが、イグニスはエンドウィザードで、普段よりも随分強くそして敵意を露わにしている秀の懐に飛び込むと、秀を助けるよりも先に自分が倒れるおそれがあった。
「とりあえずは……!」
イグニスはくるりと秀に背を向け、脱兎のごとく駆け出す。
その背をコネクトハーツが引き裂く。
「うっ……秀様、もう少し、ご辛抱くださいね。必ず取り戻しますから!」
背の痛みにつんのめりつつも、イグニスはキッと顔を引き締め、走ることをやめない。
「どうせ、てにはいらないのなら。いま、ここで。ころしてしまえばいい」
熱に浮かされたような譫言のようにフワフワと秀は『呟いた』。
(ちがう、そんな……っ!)
秀は自分ではない自分の独り言を必死に否定する。
ぶつぶつと、殺意をつぶやき続け秀はイグニスを追う。
しかし、急に湧き上がる濃いミルク色の霧にまかれ、足が止まった。
「どこだ、イグニス! ころしてやる!」
真っ白な視界で、自棄のようにめちゃくちゃに短剣を振り回す秀の眼前に、突然イグニスが霧を割って現れた。
「秀様っ!」
体ごと飛び込み、秀に抱きついて押し倒す。やっためたらともがく秀を無理やり抑えこむが、イグニスの腕が手当たり次第に振り回された刃に傷ついていく。
「急所をかばえば、これくらい……っ」
必死にイグニスは秀の腕を全体重で押さえ、
「秀様は……返してもらいますからねっ!!」
真っ赤な血が滴る白い腕が伸び、秀の項に咲き誇るダリアをわし掴んで、引きちぎった。
ぜえぜえと肩で息をするイグニスの背に震える手が伸びる。
もうこの手は、イグニスを殺そうという意志はない。秀の手は、ひたすら大切そうに、しかし二度と失わないと強い意志を持ってイグニスの背にかじりついた。
「イ、グ、ニス……イグニス……」
「秀様……秀様!」
イグニスは安堵と感動に震える声で応え、秀を起こし、きつく抱きしめた。
そっと宥めるように何度も秀の背を撫で、自分の満身創痍など気にも留めずにイグニスは優しくささやく。
「怖かったですよね、もう大丈夫ですから」
血を流す精霊を、痛そうに見つめ、秀は詰まる声で呟く。
「馬鹿、じゃないのか……お前は……っ」
――腕を狙って武器を落とせばよかったんだ。こんな、命の掛かった時まで俺を気遣ったのかよ……。
「本当に良かった。秀様、お怪我はありませんか?」
秀の言葉など、ふわっと微笑んで聞き流し、『王子』はあくまで『姫』を気遣う。
「……この、ばかやろう……」
秀は目を閉じ、イグニスの肩口に額を押し当てると、湿った息を吐いた。
●氷から滴る雫の熱きことは
「気をつけろよ、ブリンド。俺以外に傷つけられたくない」
ご丁寧にも、ハティは冷たく忠告してから護身刀を抜いた。
「それを言うならテメーに気をつけろの間違いだろ!」
銀色にひらめく一閃をすんでのところでブリンドはなんとか躱すも、銀の前髪が切れて宙に舞う。
(こいつ、いきなり首狙いやがった)
舌打ち一つ。ブリンドは、ジャックオーリボルバーで牽制するも、もう一本の小刀であしらわれる。
「おいおい、別人じゃねえか」
常人とは思えない反応に、ブリンドは冷や汗を垂らした。なかなか一筋縄ではいかないようだ。
ダリアを咲かせたハティは普段より饒舌だった。
「俺にはアンタしかないんだ。アンタをやるか、アンタもやるか、どっちかしかない」
「なんだなんだ、どっちにしろ俺が死ぬのは決定事項かよ」
ハティの大真面目な物言いは、ダリアが咲いても変わらないらしい。ブリンドは歯を剥きだして凶悪に笑う。
「殺されると思うか? そんな口説き文句みてーな甘い理由でよ」
撃つ。確かにハティの腕を貫いたのに、ハティの刀の動きはちっとも精彩を欠かぬ。
「流石に強いな……。でもこれで本気じゃないはずだ」
――まるで操り人形だな。
多少の痛覚や肉体の損傷では、ハティを止めることは出来ないらしい。花を除去するしか無いのだ。
ならば悪戯にハティの体を壊すのは本意ではない。
近づけさせぬようにブリンドは、しかし本気で銃を撃つ。牽制や手加減をすると、自分が死ぬ。この男の殺意も刃もホンモノだ。だが、『この男はハティではない』。
「アンタが言うように俺は甘いんだろう」
ハティの振るう刀はどんどん鋭さを増していく。
「だったら『殺してくれ』よ。俺が俺を捨てられるようにな」
静かな物言いのくせに、悲鳴のようだった。
踏み込んでくるハティに、たまらず腹を浅くも捌かれながら、しかしブリンドは応戦をやめない。
冷静に銃を撃ち続けるブリンドに、とうとうハティは懇願しだす。
「ブリンドが本気になってくれたら終わりにする、約束するよ」
もう一度大きく舌を打って、ブリンドは逆に足を踏み込んだ。
飛び込む懐、そして狙い撃つ。
正確無比な射撃がダリアをバラバラに散らす。
崩れ落ちていくハティがつまらなそうに呟く。
「アンタが俺の命より自分の命を選ぶ方に賭けてたんだけどな」
――次はきっとそうしてくれよ。
暗転していく意識の中、ハティは充足を覚えて戸惑っていた。
強くなりたかった。だから、精霊すら屠れる力を感じて、確かにハティは満たされていた。
だがブリンドに傷を負わせて平然と要られるはずもなく、罪悪感に押し潰されそうになる。
二分する感情に身を引き裂かれそうなとき、ダリアが撃ち抜かれて、体の主導権を取り戻す。
(……あれが、俺だったのか? いや、違う。違う……殺意を抱くなんて、それは俺じゃない!)
それよりも、ハティを動揺させたのはダリアの最期の言葉だった。
――次は、そうしてくれよ。
言うつもりは、なかったのに――。
「……全部が全部デタラメってわけじゃなさそうだな」
ブリンドは銃を仕舞い、肩をそびやかせる。
「おい、起きろ」
引き起こし、揺すぶるとハティはようやく意識を浮上させる。
「……っ」
バツ悪気に目をそらすハティの首根っこを捕まえ、ブリンドはしゃがみこむなり、ハティの顔を覗きこんだ。
だが、ハティはまるでカーテンを閉めるかのようにフードをかぶってしまう。
それを無理に引き開けることはせず、ブリンドは言い放った。
「もっかいおめーの口で言い直せ」
「最悪だ……アンタ何で聞きたがるんだよ」
くぐもった声に、ブリンドはため息を吐く。
――罪人みてーな面しやがって。
「何でって、見返り?」
と軽く言ってみれば、ハティは顔を伏せてしまった。
長い沈黙に耐え切れず、ブリンドは呟く。
「……つーか知ってんだよ、俺しかいねえ事くらい」
フード越しにきょとんとした青い視線がブリンドに刺さるのが、如実に分かってしまってブリンドは己の頭をガシガシと掻きむしった。
「俺にまで妙な告白させてんじゃねーよ」
「…………いたく、ないか」
泣きそうな声が微かにブリンドの機械質な耳に届き、ブリンドは吐き捨てるように返す。
「痛くねーよ、こんなの」
とうとうハティの肩が揺れ出す。ひっくひっくとしゃくりあげる声を聞いて、ブリンドは眉を下げた。
だが、ハティの頭がしっかりと上下に動いたのを見て、今はそれで十分、とブリンドは一切の追求の言葉を投げ捨てた。
●恍惚の後悔
うっとりと陶酔した顔で、スウィンは両手を広げる。
「愛してるわ……」
まるで美しいものを見た時のようなため息を吐き、スウィンは熱っぽくイルドを見やる。
「だからこそ」
血にまみれ怪しく光る大鎌「残月」を握ったまま、スウィンは走りだす。
「殺して」
そして鎌を軽々と振り上げ、
「俺だけの物にしたいの」
イルドめがけて力任せに振り下ろした。
「っ!!」
軽い刃――残月は普段はかなりの重量だが、命を奪おうと思った瞬間から羽のように軽くなる。だから、スウィンの殺意が本気だとイルドには知れた。
スウィンの斬撃は容赦がなく、凄まじい勢いで何度も何度も角度を変えてイルドを襲う。
「それが本心なら話くらい聞いてやる。が……正気のはずがねえだろ!」
真っ赤な刀身が波打つ長剣をイルドは大鎌にぶつけた。
ギィンッ!! と大きな音と共に両者が弾かれて距離を取る。
イルドの顔は不機嫌そのものだ。
(好きと言われた事はあるがな。まだ……『愛してる』と言われてはいねえんだよ!)
ふつふつと湧き上がる怒りの表情をどう見たか、微笑むスウィンは小首を傾げる。
「イルドも俺の事を愛してくれてるなら、殺されてくれるわよね? どうして抵抗するの?」
ねえどうして? とあどけない声でスウィンが尋ねる。
だから、イルドは怒声を浴びせた。
「それは『お前』が言っていい言葉じゃねーんだよ!」
だがダリアに操られたスウィンは、歌うようにただ繰り返した。
「ねえ、殺されてちょうだいよ。愛しているわ。だから殺されてちょうだいよ」
イルドは歯を食いしばり、フランベルジュをスウィンの手甲に叩きつける。
「本気でいくぜ。悪いな、スウィン!」
もちろん、スウィンを攻撃することに戸惑いはある。だが、戸惑っていては共倒れだ。
本気でかかるイルドを見て、スウィンは心のなかで頷いた。
(手加減なんていらないから俺を止めてね)
イルドは、スウィンが殺したいのではなく守りたい男なのだ。なのに、守るはずの体がイルドを傷つけ、あまつさえ命を奪おうとするのがどうしても許せなかった。
一瞬でも主導権を奪えたなら、自害してでも自分の暴走を止めたいのに……。
(イルド。イルドは強いから、きっと大丈夫よね)
どうすることもできぬ己に歯噛みし、スウィンは祈るように思う。
(俺を斬ってもいいから、俺を止めてね)
何合も斬り合う。
イルドの褐色の肌が裂かれて血にまみれていく。スウィンの装甲がハードブレイカーの強打で崩れていく。
それでも二人は一歩も引かない。
片方は夢現の表情で、もう片方は必死の形相で。
そしてイルドはとっておきを出した。
「スウィンを返しやがれ!」
重い音を立てて叩き落とされる残月。無防備になった男をイルドがすかさず組み伏せる。
「スウィン、今助ける!」
暴れるスウィンを傷つけぬよう、一気に花を切り落とす。
ぐたりと力を失う神人をイルドは慌てて抱き起こした。
「大丈夫かっ!?」
心底心配そうに顔を覗きこんでくる精霊に、スウィンはかすかに微笑んだ。
同じ笑みでも先ほどの狂気すら感じる浮いた笑顔ではない。
(もどった……)
ほっとするイルドの頬を、力なくスウィンの手が撫でる。
「よかっ、た……ごめん、ね」
スウィンは蚊の鳴くような声で、謝った。
落下しそうな手をしっかと握りこみ、イルドは優しく返す。
「謝んな」
そっと抱きしめ、そして肩を貸す。
「……帰ろうぜ、スウィン」
切り落とした宵闇色の大輪の花を踏み越えて、二人は帰路についた。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:スウィン 呼び名:スウィン、おっさん |
名前:イルド 呼び名:イルド、若者 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | あき缶 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 少し |
リリース日 | 04月29日 |
出発日 | 05月07日 00:00 |
予定納品日 | 05月17日 |
参加者
- ハティ(ブリンド)
- 初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
- スウィン(イルド)
- ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
- 暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
会議室
-
2015/05/06-19:56
イルド:
そうだな…攻撃スキルは使わないつもりだったが、こっちがやばいかもしれねー。
イグニスも無理そうならスキル使えよ? -
2015/05/06-02:03
ブリンド:
ワリィ顔出し遅くなった。プレストガンナーのブリンドだ。引き続きの面子も久々な面子もよろしく頼むわ。
と言いてえが各自神人の相手すんので手いっぱいになりそーだな。
スウィンのおっさんにしても秀にしても、イルドとイグニスを殺せる能力持ってるってんなら防御面もそこそこ強化されてんじゃねーのかと思ったんだが、どうなんだろーな。
OP読む限り手加減すんなって言われてる気がすっけど。 -
2015/05/06-01:17
イグニス:
イルド様が優しい(ほろり)
いっそ秀様がハリセンでも持っててくれればよかったんですが
デミとはいえ熊相手にそんな舐めたことする人じゃありませんでした(しょんもり)
とりあえずものすごく頑張って距離を取りつつ
何とかして朝霧さえ撃てれば近寄れないかなと思うのですが……
他の皆様のお邪魔になるようでしたら別の手を考えますね。
最悪刺し違える覚悟で特攻するか、
乙女の恋心を……うう、やっぱり攻撃スキルは怖い…… -
2015/05/05-21:27
イルド:
イルドだ…よろしく。ハードブレイカーの攻撃力もきつそうだと思ったが
エンドウィザードは更に大変そうだな。攻撃でも防御でも。
能力は落ちるが適正外の武器を装備するって手もあるが
適正外の装備をしてる理由を考えるのがなぁ…。ま、どうにか頑張れ(イグニスの肩をぽん) -
2015/05/05-02:58
イグニス:
拷問の次は闇堕ちですか秀様ぁ!!(わーん)
は、申し訳ありませんエンドウィザードのイグニスです!
アレクサンドル様は今回もよろしくお願いします、
ブリンド様、イルド様、ジルヴェール様お久しぶりです!
うーん、秀様の方が素早さが高いんですよね……
そして杖の物理攻撃力0・スキルは発動したらなんか命に関わりそうな気が……
ど、どうなんでしょうかこれ……!!
気合で接近戦で花毟るしかないですかね! -
2015/05/04-19:45
ジルヴェール:
こんにちは、ジルヴェールよ。皆さん、よろしくね。
それにしてもお互い厄介なことになったわねぇ・・・
あまり手荒な真似はしたくないけど・・・ふふ、困ったわね
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2015/05/04-18:42
アレクサンドル:
挨拶が遅れて申し訳ないのだよ。
アーノが挨拶出来る状態ではない故、我が代わりに。
シンクロサモナーのアレクサンドルだ。
相手が神人の為、なかなか手出ししづらいだろうが、何とか花を除去する。
汝ら、宜しくお願いするのだよ。