リザルトノベル

●コース2 リゾートホテルで大人な休日を。

 リゾートホテルのプールは、日常からかけ離れた静かな空間。
 ホテル最上階からの眺望は、贅沢としか言えない見事さだ。
 水着に着替えてプールにやって来たスウィンは、大きな窓から見える絶景に溜息を吐いた。
「イルド、凄い景色よ!」
「……高いな」
「最上階ですものねぇ♪」
 二人は窓ガラスに近寄って、見下ろす眺めに暫し見惚れる。
「さって、折角無料なんだから、満喫するわよ! 泳ぎましょう♪」
 何時までも飽きない景色だけども、それだけだと勿体ない。パチンとスウィンがウインクしてイルドを促せば、彼は少し苦い表情をした。
「プールはいいが、撮影されるのか……」
 イルドの視線の先には、撮影スタッフ。プールで過ごすウィンクルム達の姿を熱心に映している。
 落ち着かない様子の彼の横顔を見つめ、スウィンは少し思案する。
「イールード♪」
 スウィンはイルドに腕を絡め、身体を密着させた。
「お、おいおっさん?!」
 ビクゥ!とイルドの肩が跳ねる。
「撮影のお陰で無料なんだから、協力しましょうよね!」
 スウィンは笑顔でそう言うと、撮影スタッフへ向けて大きく手を振る。
「ちょ、何して……!」
 仲睦まじくくっ付く二人に、勿論カメラは向けられて……。
「……!……!」
 イルドの頬が僅かに紅潮する。
「ホラホラ、笑って♪」
 そんなイルドの頬を突き、スウィンはカメラに手を振った。
「もしかして……嫌、だった?」
 硬直する耳元で囁けば、イルドは即座に首を振る。
「……嫌じゃない」
 誤解されたくなくて、イルドはか細い声で言った。
 嫌じゃないのは本当。寧ろ逆だ。
 撮影されている事を除けば……。
 やっと手に入れた、大切な大切な、大好きな恋人。なかなか口には出せないけれど、嫌だ等と思う筈もない。
 ふわりとスウィンが笑った気配がした。
 刹那、頬に柔らかい感触。
 頬に口付けられたのだと、イルドが気付いて、更に紅くなるまで、後数秒──。


 大人といえば、ビキニ!
 ビキニといえば、大人!
「ふんふーん♪」
 アイオライト・セプテンバーは、満面の笑顔で持ってきたビキニを広げた。
 少し際どいラインが最高におっとなー♪な逸品なのである。
(おっとなー♪なビキニ着て、パパに『今日のアイは色っぽいですね』って言ってもらうぞー)
 ふふふふふ。
 ビキニを手にアイオライトが笑っていると、怪訝そうな声がした。
「アイ? 着替えないんですか?」
 パートナーの白露の声だ。
「うん、着替えるっ」
 咄嗟にビキニを隠して、アイオライトは白露を見上げる。
「だから、着替え終わるまで、パパはこっち見ちゃダメ!」
「?……分かりました」
 ?マークを沢山飛ばしながら、白露は頷いた。
「どう?どう? パパ!」
 おっとなー♪なビキニに身を包んだアイオライトは、髪を掻き上げてセクシーポーズを取ってみた。雑誌で見たおっとなー♪なポーズである。
「今日もアイは可愛いですよ」
 なでなで。
 いつもの様子で、白露はアイオライトの頭を撫でる。
 むーっとアイオライトは眉を寄せた。おかしい。おっとなー♪なビキニなのに、反応がいつもと同じだなんて。
(あ、そうか)
 ピーンと閃く。アイオライトに足りないもの、それは……。
(お胸だ!)
 平らな胸を見つめ、ぐっと拳を握る。これは、この機会に何とかしなければ。
「アイ、ジャグジーに行ってみませんか?」
「! 行く!!」
 アイオライトは全力で頷き、二人はジャグジーにやって来た。
「あわあわ、面白いよパパー!」
 ジャグジーの泡が心地良くて、アイオライトはうっとりとする。この感触は、何だか大人なカンジ♪
「よかったですねぇ、アイ」
 一方、白露は足だけ浸かって、冷たい飲み物を口に運ぶ。
「何もしないでぼーっとするだけの休日もたまにはいいものですね」
 しみじみと白露が呟いた時、バシャアとお湯が顔に掛かった。
「……アイ、はしゃぎすぎると他の人に迷惑になりますから」
 濡れた眼鏡をタオルで拭きながら
白露が見下ろすと、アイオライトは泡に両胸を押し付けている。
「これで、おっぱいおっきくなるかなあ?」
「おっぱいは……無理だと思いますよ」
 しっかりとこの様子を撮影しているカメラに気付いて、白露はそっと溜息を吐き出したのだった。


 じりじりと身体が熱せられて、汗が湧き出てくる。
 蒼崎 海十とフィン・ブラーシュは、並んで座り、じわじわ熱さに癒されていた。
 ここはサウナ。むっとした熱気に満ちている。
 無言で汗を流しながら、海十はチラリと隣のフィンを見遣った。
 白い肌には無残な傷痕が多く残る。その肌を汗が流れ落ちていた。
「……ッ……」
 直視出来なくて、直ぐに視線を前に戻る。心臓が五月蠅い。
 これまで裸なんて、同居したり一緒に出掛けたり戦ったりの間で、幾度となく見たというのに。
(変だ、俺……)
 この胸の高鳴りを、フィンに気付かれたくない。
「……」
 海十がこちらを見て、直ぐに視線を逸らしたのに、フィンは気付いていた。
(やっぱり、傷痕は見ていて気持ち良いものじゃないよね……)
 海十を見遣る。綺麗な肌だなと思った。触るときっと滑らかで……。
 この肌に傷を付けさせない為にも、俺が頑張らないとね。改めてそう思う。
「……そろそろ出ないか?」
「そうだね」
 十分に汗を流した二人は、ジャグジーに移動した。
 シャワーで汗を流し、大きなジャグジーに二人で浸かる。
「気持ち良いな……」
「うん、気持ち良い」
 泡の刺激に癒されて、二人はほうっと息を吐き出した。
 会話が途切れるけど、その沈黙は嫌な沈黙ではなくて。
(本当に気持ち良い……)
 ゆっくりと瞼が重くなるのを海十は感じる。心地良い眠りに入るのに、そう時間は掛からなかった。
「ん?」
 コツンと肩に何かが当たるのに、フィンは隣を見る。
 穏やかな寝息を立てる海十が、肩に凭れ掛かっていた。
 寝顔が可愛いな。フィンがそっと海十を引き寄せた時、撮影スタッフがカメラを向けていた。
 フィンは笑顔のままだ。
「……ハッ! 俺、寝てた?」
 人の近付く気配に気付いたのか、海十が瞳を開く。
「おはよ」
 フィンの声がやけに近い。
「寝顔、可愛かったよ」
 耳元で囁かれた声に、海十は耳まで赤くなった。フィンが驚くほど、近くにいる。
「わ、悪い……!」
 クラリと眩暈がするのを感じる。
 茹蛸のようになった海十を、撮影カメラはバッチリと捉えていたのだった。


 カフェ・バーでは、ゆったりとした時が流れている。
「軽めのヤツ、頼もうかな」
 カウンター席に座り、柳 大樹は棚に並ぶアルコール類の瓶を眺めて呟いた。
 隣に座るクラウディオの眉根が微かに上がる。
 大樹はチラリとクラウディオの顔を見遣った。クラウディオの口元に、今日は口布はない。
「今年二十歳になったばっかで飲み慣れてないし」
「……アルコールの摂取は判断能力の低下を招く」
 クラウディオがゆっくりと口を開いた。
「あまり推奨は出来ない」
 予想通りというか、彼らしいというか。
 大樹は軽く肩を竦める。
「ホントくそ真面目だね」
 笑って、カウンターの向こうのウェイターに声を掛けた。
「軽めのヤツ、お願いします」
 ウェイターは畏まりましたと頷き、クラウディオは眉を顰める。
「クロちゃんも飲めば良いよ」
 今日は休日なんだし。
 そう薦めてみても、彼はきっぱりと首を振った。
「私は大樹の護衛だ」
 他にもウィンクルムが居るとはいえ、任務を疎かにする訳にはいかない。
「…………」
 本当にくそ真面目。大樹はトントンと指先でカウンターを軽く叩く。
「飲まないなら何か食べる?」
 目の前には、ガラスの小皿に乗ったチョコレート。本来はお酒のつまみなんだろうけども。
 高級そうなそれを、大樹は指先で摘まんだ。
「ほら、口開けなよ」
 クラウディオの口元にチョコレートを運べば、彼は素直に口を開けた。
 大樹の指が唇の中へチョコレートを一気に押し込む。
 上品な甘さが口いっぱいに広がった。
「甘いな」
「どれどれ」
 大樹もチョコレートを口に放り込む。
「うん、本当だ。甘いね」
 口元を上げた大樹の前に、抜けるような青色のカクテルが置かれた。
 ゆっくりとカクテルを呷る大樹の姿に、撮影カメラがキラリと光った。


 カップル向けのメニューは、何処にでも隠れているから気を付けろ。
「…………」
 フレディ・フットマンは、目の前に置かれた大きなパフェを眺めて大きく瞬きした。
 トロピカルフルーツがふんだんに盛られたパフェは、常夏カフェという名前だった、確か。
 限定品と書いてあったので、頼んでみたのだけども、こんなに大きいとは思わなかった。
「デカ過ぎやしないか?」
 隣に座るフロックス・フォスターも目を丸くしている。
「スプーンが2つ……」
 パフェに添えられているスプーンと、パフェを見比べる。
 間違えて二個付けた、という訳ではなさそうだと思った。丁度2人前くらいの大きさだし。
 うんとフレディは小さく頷くと、フロックスにスプーンを一つ、差し出した。
「オジさん、一緒に食べよ……?」
「いや、俺は……」
 フロックスはパフェを見つめ、小さく唸る。実は甘いものが好きな彼には、堪らない誘惑だ。
「僕だけじゃ食べきれないよ……」
 お願いと、フレディは上目遣いに彼を見つめ、スプーンを受け取るよう促した。
「……はぁぁ、解ったよ」
 降参だとばかりに、フロックスは渋々スプーンを受け取る。
(何とも食べ辛いな……反対側から頂くとしよう)
 フロックスはフレディとは反対側にスプーンを入れて、バニラアイスを掬った。
「……む」
 口の中に居れると、広がる甘いバニラの香り。
(……うーん、アイスの甘さが濃厚で堪らん……)
 自然と頬が緩む。これは美味い。
 フレディはフロックスの様子を伺い、そっと微笑む。
「アイス、オジさんにあげる」
「え? いいのか?」
「うん。僕はフルーツが食べたいから」
「そうか」
 次はチョコレートアイスを掬って口に入れる。フロックスの目尻が下がった。
(ふふ……オジさん、嬉しそう)
 フロックスが嬉しそうだと、フレディの胸も温かくなる。
「……なにニコニコしてんだよ」
 フレディがこちらをじっと見ているのに気付き、フロックスが少し照れた様子で顔を上げた。
「坊主も早く食べちまえ」
「ふふ、溶けちゃいますからね」
 和やかにパフェを分け合う二人を、優しく撮影カメラが映し出していた。


 人を見た目で判断してはいけません。
 そう習ったのは何時だったか。
「広いプールだなぁ、思う存分泳げそう」
 石動かなめは、大きく伸びをして、開放的な室内プールを見渡した。
「…………」
 そんな彼の隣で、セレイヤはふるふると小さく震えている。彼の足に絡む魚の尾もぷるぷると震えていた。
「ん?」
 かなめは不思議そうにそんな彼を見て、
「魚類、泳げないの?」
 ずばっと確信を付いてきた。
 びくぅと分かりやすくセレイヤの肩が跳ねる。
「えっ? マジ?」
 じろじろじろと、水着に身を包むセレイヤを眺め、かなめがニヤニヤと顔を綻ばせる。セレイヤの手には、浮き輪が握り締められていた。
「その尻尾、なんのためについてんの?」
「し、仕方ないだろ! 俺は猫なんだ!」
 ダンッと床を蹴って、セレイヤが抗議した。彼の頭の猫耳が揺れる。
「あー、中身猫、なるほどね」
 ふむふむとかなめは顎に手を当てて頷き、次の瞬間、ニィと口の端を上げる。
「でもさ、尻尾あるんだし、何とかなるかもよ?」
「なるか、バカ!……うぁ!?」
「あ、おい?」
 ツルッ。
 床を蹴ろうとしたセレイヤの足が見事に滑った。
 ざっぱぁーん!
 プールの中にセレイヤの身体が落下する。
「無理無理無理! 泳げない!」
「マジで溺れかかってんじゃん!」
 仕方ないとかなめもプールに飛び込んだ。
「ぷぇっぷ!」
 顔に水が掛かり、セレイヤはぷるぷると必死に水を払う。
「やめ、水かけんな!馬鹿!嫌!」
「あーほらほら、暴れると余計溺れるって。浮き輪とか置けよ。ほら、手貸してやるから」
 かなめはセレイヤの傍に行くと、彼が必死で掴む浮き輪を奪い、遠くへぽーんと投げた。
「浮き輪~! かえせぇえ!」
 半狂乱になりつつ、セレイヤは咄嗟にかなめの手をしがみ付く。
「浮き輪よりこっちの方が安定するだろ?」
 必死にしがみ付く様子が、不覚にも可愛いと思ってしまった。かなめが明後日の方向を見ながら言うと、
「絶対手離すなよ、絶対だぞ」
 セレイヤは震えながら、かなめに縋るように一層強く手を掴んでくる。
「はいはい、ちゃんと支えるよ」
 ゆっくりゆっくりプールを漂う二人を、撮影カメラがしっかり捉えていた。



シナリオ:雪花菜 凛 GM


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