リザルトノベル

●王宮の夜のダンスパーティ 執筆:雪花菜 凛 マスター

 その地下の空洞の天井には、煌めく正座が描かれていた。
 ウィンクルム達は、思い思いに湯に浸かり、オーガとの戦いで疲弊した身体を休める。
「見て。まるで夕焼けみたいだ」
 『曙の湯』と呼ばれるその大きな湯船の壁には、琥珀色の光る石がモザイク模様に光っていた。
 ほんのりと感じる温かな力。
 ノスタルジックな光に照らされ、ウィンクルム達は存分に癒やされたのだった。

 ルミノックスで温泉を楽しんだウィンクルム達は、着替えを済ませて、スペクルム王宮へ向かう。
 送迎の車の中では、凱旋式とパーティに思いを馳せ、彼らの瞳は興奮と僅かな緊張に輝いていた。
 凱旋式が行われる夏宮は、王宮宮殿の一番南にある宮殿である。
 針葉樹林の森に囲まれた、静かな場所だった。
 その宮が、今日は熱気と活気に満ち溢れている。

 ダンスパーティに出席するウィンクルム達が通された『辺境伯の間』は、巨大な大理石と琥珀で飾られた美しいホールだった。
 王族や貴族、政財界の高官などの賓客が集い、室内楽団が心地良い音楽を奏でている。
 放送機器が並んでいても尚、広いホールにウィンクルム達は溜息を吐くのだった。

「勇敢なるウィンクルムの皆さん、この感謝の宴に集まってくれてありがとう」
 国王ヨーゼフⅦ世は、ウィンクルム達を見渡し、穏やかにそう言う。
「余は、皆さんが楽しんでくれる事を願います。思い起こせば、多くの犠牲を出した……ルミ、ルミ……ううう」
 老王の身体が小刻みに震え、頬につぅっと涙が伝った。
 涙が止まらなくなった王を侍従達が支え、王は退席する。

 歓談の時間などが過ぎた後、
「それでは、ウィンクルムの皆さんによる、パフォーマンスタイムへと移らせて頂きます」
 テレビ局の司会役が、マイクを手にホールの中央に現れた。
 照明が変わり、ステージのようにホールの中央が明るく照らされ、テレビ局のカメラがそこに向けられる。
「ダンス? パフォーマンス? する訳ないし」
 柳 大樹は、ステージのようなそこを見遣りながら、抑揚の無い声音でそう呟く。
 大樹の隣で、パートナーのクラウディオがそんな彼を見つめた。
「王様懐デカすぎ。俺みたいなのまで招待するとか。イヌティ……もう、イヌでいいや。そのイヌとの戦いの後だし俺が顕現したの」
「………」
 『イヌティ』じゃなくて、『ギルティ』だ。
 クラウディオは、心の中でツッコミを入れる。
「クロちゃん、向こう行っていいんだよ?」
「……私の仕事は、護衛だ」
 そう一言クラウディオは答え、大樹の隣に居続けたのだった。

「行くぜ、アイン!」
「何時でもどうぞ」
 高原 晃司は、パートナーのアイン=ストレイフに合図すると、クレーと呼ばれる素焼きの皿を投げて飛ばした。
 それと同時に、アインはクレー射撃用の銃(弾はゴム弾)をお手玉のように投げる。
 ジャキ。
 銃を片手で受け止めると同時に撃った。
 弾は正確に的を捉えて、クレーを破砕させる。
「おお……!」
 周囲から拍手が巻き起こった。
「まだまだ、行くぜッ」
 続けて、晃司は円盤投げのようにして、クレーを次々と宙へ投げた。
 アインの瞳が集中し、ぐっと眇められる。
 クルクルと銃を指で回し数回転させ、掌に収まると同時に連続して引き金を引いた。
 宙を舞うクレーが次々と撃ち抜かれる。
 全弾命中。
 完璧な二人の連携、素晴らしいアインの銃の腕に、盛大な拍手が周囲を包み込んだ。
 テレビの前では、市民達が感嘆の声を上げている。
 晃司とアインは手を上げると、パシッと掌を合わせたのだった。

「次は、チーム【ネカザイル】の皆さんによるパフォーマンスです!」
 司会の声を共に、ステージの照明が一旦消えた。
 暗闇の中、ステージに立つ影がぼんやりと見える。
 やがて軽快なダンスミュージックが流れ出すと、照明がパッと明転し、縦一列に並ぶダンサー達を映し出した。
 先頭に立つ、白いスーツのネカット・グラキエスが、腰でリズムを取りながら、右腕を高々と上げ天を指差した。
「さぁ、行きますよ♪ 皆さん!」
 二番目に立つ、俊・ブルックスは、上半身を右側へ倒す。
(ウィンクルムってマジで何でもするんだな……調査員時代にはちっとも知らなかったぜ……)
 俊は無理矢理口角を上げた。
(もうこうなりゃヤケだ)
 三番目に並ぶ、瑪瑙 瑠璃は、俊の動きに追従するように上半身を左側へ倒した。
(リハーサル通り、リズムに合わせて軽快に)
 後ろへ並ぶパートナーへ視線を向け、頷き合う。
 四番目の瑪瑙 珊瑚も、瑠璃が動くと同時に、右側へ上半身を倒す。
(こんな踊れるチャンス、滅多にねぇからな!)
 恥ずかしいよりも、ワクワクが勝っていた。
 リハーサルも何度もした。全力で踊るだけだ。
 同じく楽しそうな笑顔で、五番目に立つ礼装姿のスウィンは、ノリノリで上半身を左側へと倒した。
 スウィンに合わせて、そのパートナーのイルドもまた、上半身を右側へ倒す。
「テレビカメラがこっちを向いてる、だと……?」
 無理矢理スウィンに引っ張って来られたイルドは、カメラを見遣って冷や汗を浮かべた。
「ほら、もっと楽しそうにしなさいよ♪」
 スウィンが肘でイルドのお腹辺りをツンツンする。
「がんばって、パパなら出来るっ。あたし重くないもんっ、女の子だもんっ」
 アイオライト・セプテンバーは、イルドの後ろでパートナーの白露に肩車をして貰っていた。
 レースの付いたスカートを揺らし、足でリズムを取る。
「パパは回ってくれるだけでいいから。パフォーマンスはあたしに任せてっ」
「アイ、あんまり暴れないでくださいよっ。落ちたらどうするんですかっ」
 必死にアイオライトを落とさないよう注意しながら、白露は何とか上半身を左側へ倒した。
「ふんふふん♪ ラヤがんばってくるくるするよー!」
 同じく、パートナーのウルリヒ=フリーゼに肩車して貰い、ラヤは満面の笑顔で身体を揺する。
「俺たち完全に見世物……」
 ウルリヒは笑顔が引き攣るのを感じながら、テレビカメラを見遣った。
「ほらウル、笑顔笑顔ー!」
 頭上でラヤの楽しげな声が聞こえる。
「あーはいはい、笑顔ねはい笑顔ー」
(……ま、楽しそうだからいいか?)
 棒読みで返しつつ、彼の笑顔に和む自分を感じながら、ウルリヒは右側へ上半身を倒した。
 音楽の転調に合わせ、ネカットがパチンを指を鳴らす。
 それを合図に、縦に並んだメンバーの身体が、綺麗にくるくると円を描くように動き出した。
 笑顔で、手を振り、腕を回し、ウインクして。
 事前にリハーサルを重ねていた彼らの動きは完璧だった。
 切れのあるダンスに、周囲も自然と身体が動き出す。
(社交ダンス以外を踊るのは初めてですが、楽しいですね♪)
 ネカットは口の端を上げ、宙へ手を差し伸べる。
「皆さんもご一緒に♪」
 その言葉を切欠に、会場内の出席者達はステップを踏み出した。
 テレビを見ている市民達も、自然と踊り出す。
 皆を巻き込んでの、楽しいダンスの時間が会場を包み込んだ。
 やがて音楽が終わり、ポーズを付けて【ネカザイル】が動きを止める。
 暫しの静寂の後、会場内は割れんばかりの拍手に包まれた。
「ふふ♪ 完璧でしたね」
「……無茶しやがって」
 満足そうなネカットを眺め、俊は口の端を上げる。
「気持ち良かったー!」
「よかったな、瑠璃」
 大きく伸びをする珊瑚に、瑠璃が微笑みを向けた。
「楽しかったわね~♪」
「……まぁ、悪くはなかったな」
 最後はテレビカメラの存在を忘れてしまっていた。
 イルドはスウィンに小さく笑顔を見せる。
「ダンス、とっても面白かったー♪」
「えぇ。ただ、アイ……肩車の時は、足をバタバタしてはいけませんよ」
 嬉しそうなアイオライトに、白露は笑顔で、しかし何だかげっそりした表情でそう言った。
「くるくる、すっごく楽しかった~☆」
 ラヤは瞳をキラキラさせて、軽やかにステップを踏む。
「そうだね、楽しかったね」
 釣られるように微笑み、ウルリヒはラヤの頭を撫でたのだった。

 テレビ放送されたウィンクルム達のパフォーマンスは、市民達にも大変好評で、是非また何かして欲しいと要望が多数集まったとか。
 かくして、王宮の夜のダンスパーティは大盛況に終わったのだった。

「凱旋式パフォーマー」

   (国営放送、チャンネル1、タブロス周辺で放映)

ギルティへの勝利を称える記念のすべき凱旋式を彩った方の一覧です。
その名はA.R.O.A.の文献(及び画像)として記憶され、
この先も語り継がれることでしょう。

 ご参加ありがとうございました。
(順不同敬称省略) 


■チームでのパフォーマンス
  チーム名: 「ネカザイル」

  メンバー 俊・ブルックス
       ネカット・グラキエス【リーダー】
       アイオライト・セプテンバー
       白露
       スウィン
       イルド
       ラヤ
       ウルリヒ=フリーゼ
       瑪瑙 瑠璃
       瑪瑙 珊瑚

  放送時間 18:05
       ~ 18:19

  パフォーマンス: HIPなダンスナンバーに合わせて、上半身で円を描くようにくーるくる… をして盛り上げた。


■場面切り替え中の一コマ

  メンバー 柳 大樹
        クラウディオ

  放送時間 18:27
       ~ 18:28
 
  会場護衛中の二人が、衛士に混じってチラッと映る


■ペアでのパフォーマンス

  メンバー 高原 晃司
        アイン=ストレイフ

  放送時間 18:19
       ~ 18:27
 
  パフォーマンス: クレー射撃 をして盛り上げた。



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