●命の火を灯した者と、灯された者
バレンタイン地方を彷徨っていた、英雄達の魂はウィンクルム達に浄化され、その姿のすべてを消した。
そしてウィンクルム達が去った後、バレンタイン地方『フラーム神殿』ではリヴェラ・アリアンヌが、神々しい光に向かって語りかけていた。
「――ジェンマ様。ボッカは、ギルティ・ガルテンに身を潜めたみたい」
光は人の姿を形作り、足の無い幽霊のような歪な形で顕現する。
『リヴェラ……辛い体験をさせてしまいましたね』
「辛くなんかないよ。むしろ、ボッカに会えるように命をくれたこと、私は感謝してるくらいなんだからさ」
イヌティリ・ボッカがかつて、シュバルト・ボッカと呼ばれていた頃、彼女は身分の違う恋をし、処刑された。
しかし、その命の灯し火が消える瞬間、女神ジェンマが彼女の命に再び火を点けた。
ギルティへと身を堕としたボッカ、そして従者の『セン』『スガート』『デクニー』達を止める為に。
「でも、今回辛かったのは英雄のみんなと、あんなバカみたいな力で暴れたボッカと戦ったウィンクルムのみんなでしょ。
謝るなら、私にじゃなくて、ウィンクルムにちゃんと姿見せて謝ったほうがいいと思う」
凛とした表情で、一点の曇りも畏怖もなく、彼女は愛を司る神へそう言い放つ。
「ずっとウィンクルムに姿見せてない気がするけど」
『そうですね。それどころか、直接本当の姿を見せたことは、無いかもしれません。
ですが、それは私が直接ウィンクルムの皆さんに手を出す必要が無かったからです』
天界から連絡をするのには、他の手段がいくつかあり、自らが出張る必要はなかった。
『私が直接天界から姿を現す必要が無かったのは、ひとえにウィンクルムの皆さんがオーガを倒し、
世界に対する脅威を遠ざけてくださっていたからです。……今はもう状況が変わってしまいましたが』
「どういうこと?」
怪訝そうに問うリヴェラに、ジェンマは嘘偽り無くはっきりと答えた。
『ジュリアーノがウィンクルムの皆さんに、力を分け与えるのが遅れてしまったのは、
ギルティの復活と誕生や、別空間からの干渉による空間の統合が発生していたからです。
その為に、天界からこの世界に降り立つことに時間を要しました』
「空間の統合って、この世界以外の別空間が合体していってるってこと?」
『そういうことになります。これまでクラックワールドの出現など、別空間がこの世界に干渉することがありましたが、
あれらはすべて一時的にこの世界に近づいてきていただけで、基本的にすべて元に戻っていました。
ですが、ダークニス・サンタクロースの出現や、ヴェロニカによる月の力の行使、
オベリスク・ギルティの出現などの影響で、空間が乖離しなくなってしまっています』
シャボン玉のように無数に散らばった空間達は、近くに存在していても、ほとんど干渉しないよう存在してきた。
女性神人と男性神人が干渉できないように、近くにいても存在が確認できないというように。
『今のままでは空間同士で融合が起こり、融合された地域に大規模な被害が出ます。
人々や動物、ウィンクルムにも悲劇が降りかかることになるでしょう』
そして、とジェンマは一呼吸置いて、
『――悲劇は、オーガを生み出します』
オーガになるのは、瘴気による影響が殆どだ。
しかし、実際には長期的に瘴気に身を晒されてオーガ化するということは、数ある内の一つでしかない。
オーガに堕ちる理由で最も多いのは、瘴気による負の感情の増大。
負の感情に支配されれば、簡単にデミ・オーガ化してしまう。そしてデミ・オーガになってしまえば、後はオーガとして進化をする道を進むのみだ。
リヴェラもまた、最愛の存在がギルティへと身を堕とす瞬間を見た。
彼女も「自分がもし逆の立場だったら」と思うとオーガへと身を堕とさなかったと断言できない。
「けど、今まで自然に戻ってたのに、どうして空間が元に戻らないの」
空間に干渉するような力が発動されて、それが影響となっていることはリヴェラにも納得できたが、何故戻らなくなってしまったのかが腑に落ちない。
『それは、何者かが空間の統合を少しずつですが行っているからです』
「空間の統合を行っているって、何のために」
『かつて引き起こされた『流星融合』。再び行って、すべての空間を統合しようと考えているのでしょう』
さらりと告げられた一言に、リヴェラの目が大きく見開かれる。
「引き起こされた、再び行ったって! 流星融合は、人為的に誰かが引き起こしたものだってこと!?」
今から20年ほど前、世界の各地で部分的にコレまで見たことのない文明をもつ世界が出現するという事件が発生し、世界が大混乱に陥った。
それは、神代に発生したと言われる世界の融合(大融合)と区別して「流星融合」と呼ばれている――。
これまで、その事件は自然現象で引き起こされていたものだという考えが、主流で多勢を占めていた。
リヴェラは封印されていたため、当時の状況を詳しくは知らないが、混乱に乗じてオーガが猛威をふるい、しばらく混乱が続くことになったと聞いている。
混乱の影響は強く、今現在に至るまでオーガに関する事件は落ち着くどころか、10年ほど前から急増の一途を辿り、悲劇を生み続けている。
そんな絶望的な事件を裏で操り、引き起こした存在が居ることに、怒りを隠しきれない。
『その者の目的は、世界の崩壊でしょう』
「何のために!?」
激昂するリヴェラに、ジェンマは数秒間を空け、目を伏せて応える。
『……それは、わかりません。……ただ、私達はそれに対抗しなければなりません』
そうつぶやくと、ジェンマを包んでいた光が強く輝きを増し、神々しく辺りを照らし始めた。
『リヴェラ、矢継ぎ早なお願いですが、ウィンクルムの皆さんと力を併せて愛の供給をしていただきたいのです』
「愛の供給って、どういうこと?」
驚愕の真実に動揺を隠し切れない様子で、リヴェラは震えた声で問い返す。
『ウィンクルム達の中には、すでに婚約や結婚をしている者達が居るのは知っていますね。
そういった深い繋がりは愛の力を増し、強力な力となります』
オーガの力の源が深く暗い負の感情であるというのなら、ウィンクルムの力の源は愛だ。
互いの仲を深めることは、恋愛、友愛、家族愛、すべてを強くすることに繋がる。
『A.R.O.A.へ正式な結婚証明書などの準備をすることは、伝えておきました。
あなたには、イベリンへウィンクルムの皆さんを案内してください』
神々しい光は辺り一面を照らし、リヴェラがその眩しさに目を眩ませている間に、ジェンマの姿はなくなっていた。
「……前から思ってたけど、ジェンマ様って結構人遣い荒いよね」
リヴェラは混乱する頭をぐしゃりと掻き毟り、はぁ、と一息溜息を漏らした。
●花と音楽の街『イベリン』
花と音楽の街、――『イベリン』。
王立音楽堂ハルモニアホールが再建してからというもの、観光地としての人気も高くなり人々の出入りも激しくなっていた。
人気の理由は数あるが、中でもこの街で挙式を上げれば幸せになれるという言い伝えがジンクスとなり、絶大な人気を誇っている。
そんな香る花々と、美しく奏でられる音楽がゆったりとした時間を演出する中、A.R.O.A.と共に設営を行っているリヴェラの姿があった。
「うーん、流石にこの期間で準備するのは骨が折れるよ」
鮮やかな色を見せる花々を一度地面に下ろし、リヴェラは疲れた表情で漏らす。
女神ジェンマに頼まれ、リヴェラが準備を行ったのはイベリンで、ウィンクルム達がデートするスポットの確保。
そして、ウィンクルム達が挙式を上げるための準備進行と、ウィンクルムがブライダルプランナーをするための企画進行などだ。
様々な角度からウィンクルム達が仲を深めるきっかけを作る――ひいては、楽しめるような場所を提供するために、準備を行っている。
封印されてから外界との連絡手段がなかったため、こうして現代の文化などに触れるとついて行けないことが多い。
特に、タブロスで使われていたぱそこんとか、ちかてつという乗り物は、何がどうなっているのかさっぱりだ。
(でも、やっぱり愛っていうのは、どれだけ時間が経っても変わらないものなんだね)
時代が移り変わり、きっかけや接し方は大きく変わっているところがあるのを、リヴェラも少しだけだが知った。
けれど、恋や愛情といった感情が失われているわけではないようで、そんな時代が変わっても変化しないものの存在が、とても嬉しい。
リヴェラがA.R.O.A.と協力して準備を進めたデートスポットや企画は多岐にわたっており、中には異色さ満点のものもあるが楽しめることだろう。
「リヴェラさん、ウィンクルムの皆さんが到着します!」
「予想より早いけど、何とかなったね。それじゃあ……楽しんで貰おうか。ウィンクルムのみんなに!」
花と音楽の街というキャッチコピーは、今日、花と音楽と恋の街に変わる。
そう確信しながら、リヴェラはA.R.O.A.職員達と共にウィンクルム達を迎え入れるのだった。
●未来を繋ぐ『希望の樹』
王家が管理する古い森『記憶の森』に降り立つ、一つの輝きがあった。
『早いもので、もうウィンクルム達が植えてから数年が経ちましたね』
ジェンマは、ルミノックス戦記念でウィンクルム達が植林した樹々――『希望の樹』を眺めて、ふと微笑をこぼす。
平和への願いや、個人的なメッセージなどが書き込まれており、植林した当初からは考えられないほどの大きさへと樹々は成長していた。
世界を想うメッセージ、パートナーを想うメッセージ、願い事を込めたメッセージ、平和を願うメッセージ。
その様々な想いが、確かに樹を大きく成長させ、世界を護り続けてきた。
けれど、世界は今、危機的な状況に置かれている。
『皆さんの願いと一緒に、私も一つ願い事をしても良いですか?』
樹々に問いかけるようにもらし、女神は両手を胸の前で組み、長く強く樹々に願う。
すると、樹々は暖かな光を帯びて発光し、楽しげに左右に揺れ始める。
ジェンマはその様子を見据えると、優しく微笑み、『希望の樹』達が作り出した林の中へ姿を消していった。
ウィンクルム達の戦闘経験、そして愛情、はたまた友情は深まり、強力なオーガにも対抗できるようになってきました。
しかし、グノーシス・ヤルダバオートの侵攻と策略、イヌティリ・ボッカの侵攻など、
ギルティを含めた高スケールオーガとの戦いが激化し、ウィンクルム達に苛烈な戦いが強いられるようになっています。
グノーシス・ヤルダバオートによる、精霊をギルティへと堕とそうとする試みなど、
オーガ側の者達による猛攻が続き、本格化していることを懸念した女神ジェンマは、
ウィンクルム達に『愛の力』の供給を行い、イベリンを『愛の力』で満たしウィンクルム達を、さらに強い絆で結び、
そしてルミノックス戦記念植樹『希望の樹』へ、『愛の力』を注ぐことを願いました。
イベリンに『愛の力』を供給することで、ウィンクルムの絆をより一層深くする力が働き、
ウィンクルム達に秘められた過去の記憶や前世の記憶が呼び覚まされるきっかけになります。
また、ルミノックス戦記念植樹『希望の樹』へ、『愛の力』を注ぐことで、
女神ジェンマへの愛を供給する力が向上し、『希望の樹』が大きく成長します。
『希望の樹』はウィンクルム達の未来、そして世界の未来を繋ぐ力をとなりえるでしょう。
音楽と花が美しいイベリンの街に『愛の力』を満たし、そしてウィンクルムの愛に祝福を上げましょう!