*エピソードイベント*
『祝福の花嫁と、未来を繋ぐ希望の樹』
エピローグ







『祝福の花嫁と、未来を繋ぐ希望の樹』
*エピローグ*

◆世界に聳える『希望の樹』

 ウィンクルム達がイベリンと希望の樹へ愛の力を供給したことで、希望の樹達は、高さ10m~30mほどまで大きく生長し、深緑の葉を雄大に広げていた。
 そして、『記憶の森』は、希望の樹達によって愛の力に満たされ、美しい光で包まれている。

 その森の中で、女神ジェンマは一人。木々に祈りを捧げるように目を閉じ、願いを込める。
 見れば、ウィンクルム達が植林し願いを込めた『希望の樹』から、女神ジェンマへ暖かな光が注がれ、女神ジェンマの身体が、淡い光によって包まれていた。
 大きくなった光は、女神ジェンマに吸収され、光が消えたと同時に女神ジェンマは目を開く。
「ウィンクルム達の願いと愛、私にも伝わりました」
 女神ジェンマが立ち上がると、雲の切れ間から差し込む斜光のような光が、数個地面に陽だまりを形成する。
 すると陽だまりから淡い光が人型を形成し、女神ジェンマへ跪拝する姿で出現した。
 彼等は、女神ジェンマに遣えるセイント達と、女神ジェンマに手を貸すセイント達。
 その内の一人――ジュリアーノが、女神ジェンマへ進言する。
「……ジェンマ様、本当に行われるのですか」
 問われた女神ジェンマは、真剣な表情を形作ってから、ふと優しく微笑みを零す。
 その微笑みは、これから楽しい出来事が待っているかのような、そんな穏やかな微笑み。
「私は、この世界が好きです。オーガが跋扈し、それによって人々に軋轢を生んで戦争が起こっても。
 愛がある限り、果敢に戦い続けるウィンクルムと人々が好きです」
 セイント達は、無言で女神ジェンマの言葉に耳を傾ける。
「ですから、私はこの世界が滅ぼされてしまうのは、嫌なのです」
「しかし、まだ他に手はある筈です!
 オーガの脅威が大きくなっている今、ジェンマ様が姿を消しては……」
 ジュリアーノの悲痛な進言に、それでもなお女神ジェンマは微笑を絶やさない。
 サンタクロースとしてクリスマスの夜を駆け回るセイント――レッドニス・サンタクロースも、ジュリアーノ同様に、沈痛な面持ちで口を開く。
「絶望に呑みこまれたヤツは、すぐにその魂をオーガに堕とす。
 今、ジェンマ様が姿を消せば、人々だけじゃない。ウィンクルムにも影響が出る。
 他の方法を探すべきだと、俺も思う」
 ウィンクルムが愛の象徴であると同時に、女神ジェンマもまた、愛を司る神として、象徴的な存在だ。
 オーガに信仰を寄せているマントゥール教団のように、女神ジェンマを強く信仰している教団も数多くある。
 世界からオーガへ対抗する力である『愛』の象徴が姿を消してしまえば、世界には混乱が訪れるかもしれない。
「それも少しの間だけです。むしろ私は象徴として責務を全うし、
 これまでウィンクルムにかけてきた負担に対して、その責任をとるのですから」
 女神ジェンマの双眸には強い意志が宿っており、これ以上の問答は無意味だということが誰の目から見ても明らかだった。
 その目は大切な何かを失ってでも、何かを護ると決意を固めた者の目。
「……ごめんなさい。皆さん。
 あなた達と、あなた達の精霊……テソロの皆さんにも、
 もう少し私と共に責務を全うしていただくことになります」
 セイントとして、最終段階となった時。神人と精霊は、女神ジェンマにあるお願いを頼まれる。
 それは、『この世界を護るために、女神ジェンマに仕えること』。
 そしてその願いは、同時に『神人と精霊が離れ離れになる』ことを意味する。
 完全にセイントの力を行使できる神人とその精霊が、もしも仮にオーガ側の手に堕ち牙を剥いた場合、ギルティと同等かそれ以上の脅威になり得る。
 これまで味方だった仲間と戦うこと、人々の希望だった者が反旗を翻すことは、世界に重篤な危機感を与えかねない。
 そのため『神人は精霊との記憶を封印』、『精霊は女神ジェンマが指定した空間を守護する役目を負い、その空間から出れば記憶を失う』という制約が課せられる。
 今完全なセイントとして最高位に立つジュリアーノや、その他の完全なセイント達は全員このお願いに同意し、使命を全うしている。
 愛する二人が共に過ごすことは、とても尊く素晴らしい。
 だが、愛は表裏一体。希望にもなれば、絶望にもなりえてしまう。
 それ故に苦肉ではあるが、女神ジェンマはこのようなシステムをセイント達に課している。
 記憶を封印する時、どれほどの覚悟があっただろうか。
 何百年と空間を守護し続けているテソロ達の悲痛は、どれほどのものか。
「必ず、皆さんとウィンクルムと共に、この世界に平穏を取り戻します。
 たとえ、私の命が枯れ果てたとしても」
 そう言って、女神ジェンマが両手を天高く掲げる。
 その瞬間、希望の樹達が大きく揺れ、ざわざわと音を立てはじめる。
 女神ジェンマが神としてそのまま君臨し続ければ、たとえ地上がオーガに埋め尽くされたとしても、死ぬことはなかっただろう。
 けれど、彼女はウィンクルム達と世界を護るために。
 そして――、
「必ず、あの人が犯した罪と、私の罪を償います」
 その一言は、セイント達には聞こえることなく、『希望の樹』が光へと姿を変え女神ジェンマの掌へと集まっていく轟音と輝きに掻き消される。
 
 フラーム神殿から、強い光が『記憶の森』へ降り注ぎ、
 ウィンクルムの居城-ヴァルハラ-から、そしてイベリンから次々と光が集って行く。

 光は次第に女神ジェンマを飲み込み、膨大な大きさとなって目を開けていられないほどの光量を発す。
 まるで巨大な爆弾が爆発するかのように、光はついに天高く上空を衝く。
 それは、世界すべてに届くほどのもので、人々はその異様な光景を眺めていた。
 人々は、異様な光景だと認識していることとは裏腹に、その光は自分達に味方するものだと何故か確信する。

 光は葉を伸ばすように、大きく上空にその体積を広げて行き、
 ついにその姿を巨大な巨大な世界樹へと変貌させた。

「なぁ、ジュリアーノ」
 目の前に聳え立つ世界樹から目を離さないままに、レッドニスはジュリアーノに語りかける。
「俺は、弟を失って正直すぐには立ち直れなかった。
 失った理由の中に、自分の存在があったことを理解して、深く絶望した。
 このままダークニスを追って、オーガ化して滅びようかとも思った」
 ナイトメア=フェイクギフトとの一件ですれ違い、そこからダークニス・サンタクロースはギルティへと少しずつ身を堕としていった。
 あの時にすれ違わなければ、また別の道があったのではないか、レッドニスは今でもそう考えてしまう。
「けど、今は違う。サンタクロースとして責務を全うして、子供達にクリスマスをプレゼントして、
 その仕事が終わったらダークニスのためだけに、クリスマスを祝ってる」
 ギルティとなったダークニスの魂は、もうすでに滅んでしまっているとはわかっている。
 それでも、ダークニスのために、レッドニスは毎年クリスマスを祝う時間を作っている。
「だからさ、俺もようやく本当に決心がついた。
 女神ジェンマ様がこれだけの覚悟を見せてくれたんだ。
 俺達も、ウィンクルムと共に、絶対にこの世界を護る。
 護って、今年もこの世界のみんなのために、ダークニスのためにクリスマスを祝う」
 精霊を想う、強い強い想い。
 レッドニスのその言葉を受けて、ジュリアーノの封印されている記憶がザザッとノイズが奔るビデオのように、一瞬取り戻される。
 それは、本当に小さな記憶のひと欠片で、精霊がどんな存在だったかも思い出せなかった。
 しかし、それでも何故だかその記憶は、ジュリアーノの心を強く奮い立たせた。
「はい……もちろんですよ!
 女神ジェンマ様が融合したこの世界樹――希望の樹は、絶対に護り抜きましょう!」
 ジュリアーノの力強い言葉に、セイント達は同じく力強く叫んだ。






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