プラン
アクションプラン
かのん (天藍) |
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2 天藍と手を繋ぎ花降る丘へ おじ様どうして帰ってしまったんでしょう?首傾げ 天藍…もう少しゆっくり歩きませんか なんとなく機嫌が良くないような気がして 私、何か気に障る事してしまいました? 繋いだ手をぎゅっと握る 両親と死別して、生きていくのにガーデナー目指して働き始めた頃に出会って、その時の私を慰めてくれたのはおじ様ですけど 顕現してから今までの間、色々な事を天藍と2人で過ごしてきた時間の方が長くて、その間の事はおじ様知らないんですよ? 大切な人は沢山いますけれど、天藍はたった1人の特別な人です 自虐めいた口ぶりの天藍にそんなことはないと寄り添う 私も…、天藍が私が知らない方と楽しそうにお話ししているの見るのは良い気持ちではないですから… 花火が上がる …すごいです、本当に花火が花びらのように降ってくるみたいです 天藍の、なんだかんだ言いつつも2人きりの時間をくれた…朽葉には感謝しないとなと言う呟きに笑みが浮かぶ |
リザルトノベル
どちらから手を伸ばしたのだろう。
おそらくは、ふたり同時だ。
いま、天藍とかのんの手と指は、絡み合っている。
ふたりは連れ添って丘を登っているのだった。花降る丘を。
紅月ノ神社はもう遙か後方だ。耳を澄ませてみたところで、笛の音一つ聞こえない。
それほど歩いたつもりはないので、なんだか狐に化かされたようにも天藍は思う。
けれども目下、天藍が気にしているのは、それよりもかのんのことだった。
歩きつつも、彼女はときおり振り返るのである。まるで誰かが、ひょっとしたら付いてきてはいないかと気にしているかのように。
いや、『誰か』などと漠然とした表現はやめよう――天藍にはわかっているのだから。
かのんは口にこそ出さないものの、こう言っているに等しいのだった。
――おじ様どうして帰ってしまったんでしょう?
と。
このときもかのんは、ちらりと振り返っていた。つられて天藍も彼女の視線の先を追い、つづいてかのん自身に目をとめる。
祭の灯はずいぶん小さくなっている。そのわずかな光に照らされるかのんの横顔は、幻じみて白く、透き通っていて、雪の女王のような印象を与えていた。
そんなかのんの様子が、天藍にはどうにも面白くない。
子どもじみた感情ということくらいわかっている。わかっていてそれでも彼は、薪に残る熾火のような嫉妬めいたものを抱かずにはおれなかった。
なんとなく、かのんが自分より朽葉を優先している気がして――。
無意識のうちに天藍の歩調は早まっていた。一刻も早く、朽葉の残り香から離れようとでもするかのように。
『送り狼は許さぬからの』
老手品師の言葉が、単なる言葉を越えた鉄製の拘束具となって追ってくるように思った。
「天藍……もう少しゆっくり歩きませんか」
かのんに呼びかけられて、天藍は、それまでずっと真一文字に口を閉ざしていたことを自覚した。
彼女は心配そうな顔して彼を見上げている。
「私、何か気に障ることしてしまいました?」
非難する口調ではなかった。むしろ己が罪の意識を負っているようにかのんは告げていた。
天藍は、ひしゃくで冷たい水を浴びたような気がした。
かのんが悪いんじゃない、と足元を見つめる。彼の足は、青い草の上で止まっていたのだった。
馬に蹴られる前に帰ってもいい、そんな風に朽葉は言ったはずだ。それはつまり、『恋人同士の邪魔はするまい』ということだろう。その言葉を裏付けるように、朽葉は花火も見ず、ひょこひょこと姿を消したのだった。
かのんならごく自然に、早々と去った朽葉を気にかけるだろう。かのんのそんな優しさに、自分は惹かれたのではなかったか。それを、自分が優先されていないと思うのはやはり矮小な考え方だったと天藍は悟り、溜息をついていた。穴があったら入りたいとはまさに今の状態だ。
「……すまない。俺が、つまらないことにこだわっていただけだ。かのんには何の責任もない」
黙っているわけにはいくまい。彼は気持ちを吐露した。
「自分が恥ずかしいよ。俺は……妬いていたんだ。かのんが、朽葉のことばかり気にかけるから」
隠しごとはしたくなかったので、途切れ途切れながら天藍はすべてを語る。
「たぶん、祭の会場で朽葉から、自分が知らないかのんの過去を聞いたこと……三人の中で自分だけが知らないと疎外感をもってしまったことも要因だと……思う」
天藍の手はいまだにかのんの手と結ばれたままだ。このとき、彼は手にいくらか力を込めていた。震えが彼女に伝わることを恐れるように。
「誰よりも俺がかのんのことを理解できたら、独占できたら、と思うのは傲慢だよな……それでも俺は、かのんにとっての一番を願ってしまう」
一方的な告白だと、天藍のなかの冷笑的な第三者が言う。結局この醜い独占欲を、生のままかのんにぶつけているようなものじゃないか――冷笑者の声はそう続けた。
けれどもかのんは彼の気持ちを否定しなかった。
そればかりか、天藍とつながれた手をさらに、ぎゅっと強く握り返したのである。
「天藍、聞いて下さい」
かのんの口調は優しい。優しいけれど、誤解する余地のないものだった。
「両親と死別して、生きていくためにガーデナーを目指して働きはじめた頃に出会って、そのときの私を慰めてくれたのはおじ様ですけど」
かのんの清らかな瞳は、天藍をとらえて離さなかった。
「顕現してから今日までのあいだ、天藍とふたりで過ごしてきた時間の方が長いんです。私が天藍と経験した色々なことを、おじ様は知らないんですよ?」
そうして軽く息を吸い、かのんは、はっきりとこう告げたのだ。
「大切な人は沢山いますけれど、天藍はたった一人の特別な人です」
ふっとかのんの肩から力が抜けた。言いたかったこと、うまく伝えられなかったことをすべて、言葉にできてすっきりしたような気がする。
天藍はたった一人の特別な人――。
心の中で反芻するだけでも、かのんはかあっと頬が熱くなる。
言ってしまった。
でも、言えてよかった。
それでも俺は、かのんにとっての一番を願ってしまう、という彼の言葉が嬉しかった。ずっと気持ちが通じ合っていたのだと、かのんは改めて思う。
この広い世界で天藍と出逢えたこと、心を通わせ、互いにとって特別な存在になることができたこと、それはなんという奇跡的な偶然だろう。
かのんはごく当然のように天藍に寄り添っていた。もう手を繋ぎ合うだけでは物足りない。自分にそんな大胆さがあったことに、少し驚いてもいた。
「傲慢なんてこと、ないと思います。それを言うなら私だって、傲慢です」
天藍の腕が、自分をしっかりと受け止めてくれたことを彼女は感じている。
「私も、天藍が私が知らないかたと楽しそうにお話ししているのを見るのは、良い気持ちではないですから……」
「かのん……」
天藍の口元はほころんでいた。わだかまっていたものはきれいになくなって、かわりに喜びがあらわれている。はしゃぎたいような喜びではない。大切に胸に秘して、ときおり思いだしてはこっそり愛でたいような種類の喜びだった。
心がかのんで満たされていく。この気持ちをどう表現したらいいのだろう。
かのんに、つまり、世界でただ一人のいとおしい人に返す言葉を天藍は探し、やがてこれしかないというものに思い至った。
彼は言ったのである。
「……ありがとう」
と。
見渡す限り草原と花。花降る丘の周囲に見えるものは他に何もない。誰もいない。
あとは頭上に、無数の星がきらめく夜空があるだけだ。
かのんも、天藍も、宇宙がふたりきりのものになったような気がしている。
錯覚かもしれない。けれどこのときだけは、本当にそうだと言ってよかった。
花火が上がった。
驚いてかのんは空を見上げた。天藍も。
まるで彼らが気持ちを確かめ合うのを待っていたかのように、夜空にくっきりと四色、炎をまとう光の粒子がきらめいたのである。
ごくわずかな時間とはいえ、光は空の星にまさる煌めきを誇った。手を伸ばせば届きそうなほど、まばゆさが近くに感じられる。
かのんは顔を上げたまま、心に浮かんだものを言葉に紡いでいる。
「……すごいです、本当に花火が、花びらのように降ってくるみたいです」
確かにそれは花なのだった。つぎつぎに咲く。競うように咲く。
巨大な菊のような黄色い花火。生命力にあふれたヒマワリのような橙の大輪。青が主体の花火は薔薇に見える。そして、かのんの浴衣の柄に似た、白と桃色、緑をともなう牡丹の花火……。
天藍は両腕に牡丹を抱いている。
花火の牡丹ではない。それよりもずっと美しい、愛する女性のことである。
かのんの肩にかけていた手を背中にまわし、互いの体温が伝わるくらい、しっかりと触れあう。
送り狼? これは違うな――と天藍は思った。
――俺とかのんが、本来の姿にかえっただけだろう。
朽葉が、「一本取られたのう」と言う声が聞こえてきそうだ。少し、天藍は愉快に思った。
ひときわ大きな六色の花火が開き、やや遅れて、綿でくるんだような低音が響いたとき、天藍はそっと囁いた。
「……なんだかんだ言いつつもふたりきりの時間をくれた……朽葉には感謝しないとな」
朽葉に直接礼を述べるつもりは天藍にはない。なんとなく、ろくなことにならない気がする。照れくさいし。
だけどこの感謝の気持ちはきっと、いま、彼の腕の中にあるかのんから伝わることだろう。
かのんは静かに微笑した。天藍の意を察したのである。
もっと素直になればいいのに――。
と考えたりもする。
けれどこの素直でないところも、天藍らしいとも思うのだ。
おそらくは、ふたり同時だ。
いま、天藍とかのんの手と指は、絡み合っている。
ふたりは連れ添って丘を登っているのだった。花降る丘を。
紅月ノ神社はもう遙か後方だ。耳を澄ませてみたところで、笛の音一つ聞こえない。
それほど歩いたつもりはないので、なんだか狐に化かされたようにも天藍は思う。
けれども目下、天藍が気にしているのは、それよりもかのんのことだった。
歩きつつも、彼女はときおり振り返るのである。まるで誰かが、ひょっとしたら付いてきてはいないかと気にしているかのように。
いや、『誰か』などと漠然とした表現はやめよう――天藍にはわかっているのだから。
かのんは口にこそ出さないものの、こう言っているに等しいのだった。
――おじ様どうして帰ってしまったんでしょう?
と。
このときもかのんは、ちらりと振り返っていた。つられて天藍も彼女の視線の先を追い、つづいてかのん自身に目をとめる。
祭の灯はずいぶん小さくなっている。そのわずかな光に照らされるかのんの横顔は、幻じみて白く、透き通っていて、雪の女王のような印象を与えていた。
そんなかのんの様子が、天藍にはどうにも面白くない。
子どもじみた感情ということくらいわかっている。わかっていてそれでも彼は、薪に残る熾火のような嫉妬めいたものを抱かずにはおれなかった。
なんとなく、かのんが自分より朽葉を優先している気がして――。
無意識のうちに天藍の歩調は早まっていた。一刻も早く、朽葉の残り香から離れようとでもするかのように。
『送り狼は許さぬからの』
老手品師の言葉が、単なる言葉を越えた鉄製の拘束具となって追ってくるように思った。
「天藍……もう少しゆっくり歩きませんか」
かのんに呼びかけられて、天藍は、それまでずっと真一文字に口を閉ざしていたことを自覚した。
彼女は心配そうな顔して彼を見上げている。
「私、何か気に障ることしてしまいました?」
非難する口調ではなかった。むしろ己が罪の意識を負っているようにかのんは告げていた。
天藍は、ひしゃくで冷たい水を浴びたような気がした。
かのんが悪いんじゃない、と足元を見つめる。彼の足は、青い草の上で止まっていたのだった。
馬に蹴られる前に帰ってもいい、そんな風に朽葉は言ったはずだ。それはつまり、『恋人同士の邪魔はするまい』ということだろう。その言葉を裏付けるように、朽葉は花火も見ず、ひょこひょこと姿を消したのだった。
かのんならごく自然に、早々と去った朽葉を気にかけるだろう。かのんのそんな優しさに、自分は惹かれたのではなかったか。それを、自分が優先されていないと思うのはやはり矮小な考え方だったと天藍は悟り、溜息をついていた。穴があったら入りたいとはまさに今の状態だ。
「……すまない。俺が、つまらないことにこだわっていただけだ。かのんには何の責任もない」
黙っているわけにはいくまい。彼は気持ちを吐露した。
「自分が恥ずかしいよ。俺は……妬いていたんだ。かのんが、朽葉のことばかり気にかけるから」
隠しごとはしたくなかったので、途切れ途切れながら天藍はすべてを語る。
「たぶん、祭の会場で朽葉から、自分が知らないかのんの過去を聞いたこと……三人の中で自分だけが知らないと疎外感をもってしまったことも要因だと……思う」
天藍の手はいまだにかのんの手と結ばれたままだ。このとき、彼は手にいくらか力を込めていた。震えが彼女に伝わることを恐れるように。
「誰よりも俺がかのんのことを理解できたら、独占できたら、と思うのは傲慢だよな……それでも俺は、かのんにとっての一番を願ってしまう」
一方的な告白だと、天藍のなかの冷笑的な第三者が言う。結局この醜い独占欲を、生のままかのんにぶつけているようなものじゃないか――冷笑者の声はそう続けた。
けれどもかのんは彼の気持ちを否定しなかった。
そればかりか、天藍とつながれた手をさらに、ぎゅっと強く握り返したのである。
「天藍、聞いて下さい」
かのんの口調は優しい。優しいけれど、誤解する余地のないものだった。
「両親と死別して、生きていくためにガーデナーを目指して働きはじめた頃に出会って、そのときの私を慰めてくれたのはおじ様ですけど」
かのんの清らかな瞳は、天藍をとらえて離さなかった。
「顕現してから今日までのあいだ、天藍とふたりで過ごしてきた時間の方が長いんです。私が天藍と経験した色々なことを、おじ様は知らないんですよ?」
そうして軽く息を吸い、かのんは、はっきりとこう告げたのだ。
「大切な人は沢山いますけれど、天藍はたった一人の特別な人です」
ふっとかのんの肩から力が抜けた。言いたかったこと、うまく伝えられなかったことをすべて、言葉にできてすっきりしたような気がする。
天藍はたった一人の特別な人――。
心の中で反芻するだけでも、かのんはかあっと頬が熱くなる。
言ってしまった。
でも、言えてよかった。
それでも俺は、かのんにとっての一番を願ってしまう、という彼の言葉が嬉しかった。ずっと気持ちが通じ合っていたのだと、かのんは改めて思う。
この広い世界で天藍と出逢えたこと、心を通わせ、互いにとって特別な存在になることができたこと、それはなんという奇跡的な偶然だろう。
かのんはごく当然のように天藍に寄り添っていた。もう手を繋ぎ合うだけでは物足りない。自分にそんな大胆さがあったことに、少し驚いてもいた。
「傲慢なんてこと、ないと思います。それを言うなら私だって、傲慢です」
天藍の腕が、自分をしっかりと受け止めてくれたことを彼女は感じている。
「私も、天藍が私が知らないかたと楽しそうにお話ししているのを見るのは、良い気持ちではないですから……」
「かのん……」
天藍の口元はほころんでいた。わだかまっていたものはきれいになくなって、かわりに喜びがあらわれている。はしゃぎたいような喜びではない。大切に胸に秘して、ときおり思いだしてはこっそり愛でたいような種類の喜びだった。
心がかのんで満たされていく。この気持ちをどう表現したらいいのだろう。
かのんに、つまり、世界でただ一人のいとおしい人に返す言葉を天藍は探し、やがてこれしかないというものに思い至った。
彼は言ったのである。
「……ありがとう」
と。
見渡す限り草原と花。花降る丘の周囲に見えるものは他に何もない。誰もいない。
あとは頭上に、無数の星がきらめく夜空があるだけだ。
かのんも、天藍も、宇宙がふたりきりのものになったような気がしている。
錯覚かもしれない。けれどこのときだけは、本当にそうだと言ってよかった。
花火が上がった。
驚いてかのんは空を見上げた。天藍も。
まるで彼らが気持ちを確かめ合うのを待っていたかのように、夜空にくっきりと四色、炎をまとう光の粒子がきらめいたのである。
ごくわずかな時間とはいえ、光は空の星にまさる煌めきを誇った。手を伸ばせば届きそうなほど、まばゆさが近くに感じられる。
かのんは顔を上げたまま、心に浮かんだものを言葉に紡いでいる。
「……すごいです、本当に花火が、花びらのように降ってくるみたいです」
確かにそれは花なのだった。つぎつぎに咲く。競うように咲く。
巨大な菊のような黄色い花火。生命力にあふれたヒマワリのような橙の大輪。青が主体の花火は薔薇に見える。そして、かのんの浴衣の柄に似た、白と桃色、緑をともなう牡丹の花火……。
天藍は両腕に牡丹を抱いている。
花火の牡丹ではない。それよりもずっと美しい、愛する女性のことである。
かのんの肩にかけていた手を背中にまわし、互いの体温が伝わるくらい、しっかりと触れあう。
送り狼? これは違うな――と天藍は思った。
――俺とかのんが、本来の姿にかえっただけだろう。
朽葉が、「一本取られたのう」と言う声が聞こえてきそうだ。少し、天藍は愉快に思った。
ひときわ大きな六色の花火が開き、やや遅れて、綿でくるんだような低音が響いたとき、天藍はそっと囁いた。
「……なんだかんだ言いつつもふたりきりの時間をくれた……朽葉には感謝しないとな」
朽葉に直接礼を述べるつもりは天藍にはない。なんとなく、ろくなことにならない気がする。照れくさいし。
だけどこの感謝の気持ちはきっと、いま、彼の腕の中にあるかのんから伝わることだろう。
かのんは静かに微笑した。天藍の意を察したのである。
もっと素直になればいいのに――。
と考えたりもする。
けれどこの素直でないところも、天藍らしいとも思うのだ。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||
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リザルト筆記GM | 桂木京介 GM | 参加者一覧 | ||||
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
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対象神人 | 個別 | |||||
ジャンル | イベント | |||||
タイプ | イベント | |||||
難易度 | 特殊 | |||||
報酬 | 特殊 | |||||
出発日 | 2016年8月28日 |