(イラスト:楠なわて IL


セイリュー・グラシアの『ひと夏の想い出の一ページ』
桂木京介 GM

プラン

アクションプラン

セイリュー・グラシア
(ラキア・ジェイドバイン)
3.屋台→21時から花火デートにしよう。
甚平着て夏っぽく。涼しいし。

屋台といえばジャンクなフードだ。
お好み焼き食べよう。二つ折りになってて齧り付くスタイル。
これ、屋台っぽくてイイよな。
唐揚げやフランクフルトも食べるぜ。
ラキアは甘い物好きだよな(オレも好きだけど)
よしデザートはクレープだな。バナナチョコ生クリームにしよ。
途中でヨーヨー釣りもする。
水ヨーヨー持つ姿もラキアは凄く似合うし。
ウチの猫達へお土産にして持って帰りたいし。
取るコツ?気合と言うか。
今だ!ってのがピキーンと来たらえいっと。な?
(これで取れると思っている)

花火は花降る丘から見よう。
自分達だけで夜空独占って感じがいいじゃん?
花火はこの響く低音を聞きながらっての臨場感凄くて好きだ。
今年もラキアとこんな時間が過ごせて、すごく嬉しい。
超幸せだよな。と笑顔。
毎年言っているけどさ。
「来年もまた、一緒に花火見ようぜ」
ずっと一緒に過ごそうぜ。

リザルトノベル

 なんと誘惑の多いことか!
 セイリュー・グラシアは、我を忘れて立ちつくす。
 甘い香りが鼻をくすぐる。
 威勢のいい呼び込み声、それに野外発電機のモーター音が混じり合い、心地よいビートになって血管にしみこむ。
 口中はもうカラカラで、肌に触れる夏の夜風も、火照りを鎮めるどころかぞくぞくと、期待を煽る一方ではないか。
 目眩がするほどに魅力的な光景だった。
 古今東西の屋台がずらりと、ある種荘厳に、だがしかし雑然と、果てが見えぬほど延々と連なっているのだ。それぞれに多様な、まぶしい光をまとって。
 五感をフル稼働させてもまだ足りない。それほどに情報量の多い、現在の紅月ノ神社なのである。
 今夜のセイリューは涼しげな男ぶりだった。濃い渋色地の赤刺繍、さっぱりきりりとした甚平姿。腕組みして彼は、紫水晶色の眼で周囲を見渡している。
「どうしたの? 幽体離脱したみたいになって」
 ぽん、とセイリューの肩に手が置かれた。
 顔を上げるとそこには、ラキア・ジェイドバインの端整な目鼻立ちがあった。
 夏の夜の湿り気を受けたか、ラキアの髪は艶やかな光沢を帯びている。彼を飾る白基調の浴衣には、印象的な藍染めがほどこされていた。和風の花模様、それも、朝顔の絵柄だ。グラデーションのかかった繊細なタッチには、どこかしら理知的なものを感じずにはおれない。
「幽体離脱?」
 かもな、とセイリューは笑った。
「ただただ圧倒されてた。屋台、聞いていた以上にたくさんあるんだな、って。どこに行こうか迷ってさ」
「迷うよね、実際」
 ふわっとした風のようにラキアは笑む。
「なら、色々見てみようよ。屋台で気になったものを、少しずつ食べ歩きするなんて贅沢でいいじゃない?」
「違いない」
 会心の笑みを返すと、となれば早速――とばかりにセイリューは、目の前の屋台へ歩を進めていた。
「お好み焼き、食べよう」
 まもなくしてふたりの手には、半円形に畳まれたお好み焼きの包みが収まっていた。
 白い包み紙越しに手が温かい。運良く焼きたてということもあって熱いくらいだ。
「これ、屋台っぽくてイイよな」
「うん、二つ折りスタイルが、ちょっと特別感あって好き」
 空いた左手で後れ毛を直しつつラキアは言った。
「こうやって食べると、家で作るのと少し味が違う気がするんだもの」
 まだ存分に熱いやつを、ふうふう吹いてから口に運ぶ。揺れる鰹節が唇をくすぐった。ソースはどろりと濃く、フルーティーに甘く、大ざっぱに切られたキャベツはボリューム感がある。肉もふんだんに使われていた。安物のバラ肉だが、汁気がたっぷりで歯ごたえもいい。
「うん、美味い」
 たちまちセイリューはお好み焼きを平らげてしまっている。
「やっぱ屋台飯ってのはこれくらいジャンクじゃないとな。ジャンクと言えば、次は唐揚げとフランクフルトのどっちにしようかな?」
 早くも彼の視線は、次の標的を定めかねているようだ。
 間もなくしてセイリューは、唐揚げ、フランクフルトのいずれも食べ終えていた。ジャンクといえばこれ以上ジャンクなものはないほどの食べ物だが、夏祭りの情熱を閉じ込めたような、力強く忘れがたい味だった。
「セイリューはガッツリ肉系を食べたいものね」
 腕白ざかりの弟を見守る姉のような目をしてラキアは言う。
「次はクレープ食べよう」
 ちょうど行く手に、『クレープ』と書いたのぼりがはためいていたのである。
「甘い物もいいでしょ?」
「ラキアは甘い物好きだよな」
 と答えて一秒してから、セイリューは思いだしたように告げる。
「……オレも好きだけど」
 まるで魔法の言葉だ。『甘いもの』と口にするともう、セイリューの頭の中は生クリームやケーキ地、チョコレートで埋め尽くされていた。ラキアと飼っている猫たちの名を会話の端にでものぼらせてしまえば、たちどころに彼らへの愛で頭がいっぱいになってしまうのと似ている。
「よし、デザートはクレープだな!」
 ラキアが選んだクレープは、キウイチョコ生クリームだ。
「キウイの甘酸っぱさが好きなんだよね」
 たっぷり盛られたクリームの間から、きゅっと凝縮された果実の味がにじむのが嬉しい。
 セイリューのほうはバナナチョコ生クリーム、
「定番だよな。定番だけに、ついまた頼みたくなる」
 南国バナナの香りは高く、チョコレートとの相性も抜群だった。クレープ生地も厚すぎず薄すぎずで食べやすい。
 このまま食べ歩きをつづけていても、あっという間に花火の時間になりそうだったが、セイリューはこの短い夜の夢を楽しみ尽くそうとでもいうように、途中見かけたビニールプールに駆け寄っていた。
「ラキア、ヨーヨー釣りだ!」
 セイリューはすでにしゃがんで、店員から『釣り針』を受け取っている。こよりの先にクリップを結わえただけのシンプルな作りだが、構造が単純なだけに奥深い。
「ラキアもやろうぜ。ウチの猫たちへお土産にして持って帰りたいし」
 と彼に呼びかけながら、セイリューは手早く一つを釣り上げている。赤、白、緑のカラフルなヨーヨーだ。
「セイリュー、ヨーヨー釣り上手だね」
 ラキアも挑戦してみる。セイリューはなんなく釣っていたが、実際やってみるとなかなかどうして、こよりが揺れてクリップが安定しない。
「……思ったより難しいね、これ」
 軽く笑いながら言ったのだがその実、ラキアの表情は真剣そのものである。
 セイリューが取れて自分が取れないと悔しい――そんな少年ぽい心も、ラキアの中には生きているのだ。
「なにかこれ、コツあるの?」
「取るコツ? 気合と言うか」
「気合い? うーん、もう少し具体的に説明してもらえない?」
「具体的か……オレの場合、『今だ!』ってのがピキーンと来たらえいっと、な?」
 言いながらひょいひょいと、直接手でつかみ取るように巧みに、セイリューはヨーヨーを取り鉢に上げていくのだ。
「君の言うコツは難しいかも……」
 あまり具体性のない言いように、ラキアは思わず苦笑してしまった。セイリューの言う『ピキーン』の境地に達するには、ちょっと修行が必要のようだ。

 やがて屋台の喧噪から離れ、ふたりは肩を並べ丘を登っていた。
 聞こえるのはもう、さくさくと草を踏む音と、互いにひとつずつ下げた水風船のヨーヨーが、ちゃぷんと立てる豊かな水音ばかりだった。
 花降る丘は不思議な丘だ。ここに来ると世界が、ふたりだけのものになったような気がする。
 お互いのほかに誰の姿も見えない。
 ぽん、と打ち上がった火の玉のようなものが、夜空の中央で四方に弾けた。四つの色がひろがって真円となる。
「おっ、はじまった」
 にこりとセイリューは白い歯を見せた。
「やっぱここに来て正解だったな。花降る丘からの花火か……自分たちだけで夜空独占って感じがいいじゃん?」
 光の速度は音のそれを上回る。なので時間差をおいて、どすんと下腹に響く音が鳴った。
 もちろん花火を見るのは好きだが、実はセイリューは、この重低音を聞きながら臨場感を味わうのも好きなのだった。こればかりはいくら映像作品を見ても実感できない。現地ならではの楽しみだと思う。
「ああ、いいね。この場所から見ると、花火、すごく綺麗だ」
 綺麗なのは花火だけじゃないよ――なんて、きざな台詞は言えないラキアなのだ。本当のことを言うとラキアは、「腕、組んでいい?」とセイリューに呼びかけることだって照れてしまってできない。面と向かって甘えられない性分なのである。
 けれども、だからこそ。
 こっそりとラキアは、自分の腕をセイリューの腕に絡めていた。面と向かって甘えられないからこそ、さりげなく一歩踏み込むのは得意だったりする。
 ――彼、花火に夢中で気がつかない。あはは。
 こういうのってスリリングで、なかなか悪くない。
 花火は次々と上がっている。短い夏を惜しむように、あるいは、生きる歓びを祝福するかのように。
 花火と花火の合間に、セイリューはふっと笑みをラキアに向けた。
「超幸せだよな」
 えっ――。
 なんという不意打ち!
 心臓をわしづかみされたような気がして、ラキアはしばし言葉を失った。
 もちろん嬉しい不意打ちだ。セイリューは不器用なようでいてときどき、ラキアを夢中にさせるような言葉を最高のタイミングで使う。
 そんなラキアの心境を知ってか知らずか、
「今年もラキアとこんな時間が過ごせて、すごく嬉しい」
 と言いながらセイリューは、軽く自分の鼻の頭をかいた。
「来年もまた、一緒に花火見ようぜ」
 まあ、毎年言っているけどさ、といくらか早口で言い添えて、彼はラキアの反応を待つ。
「……俺もすごく嬉しいし、幸せだって思うよ」
 屋台周辺の明るさから離れていて良かった――とラキアは思う。
 きっと今、自分は紅潮しているに違いないから。
「今年もそう言ってくれると思ってた」
 しばらく見つめ合ったまま、ふたりともそれ以上の言葉は重ねなかった。
 けれども視線を交えるだけで、彼らはお互いが、何と言おうとしているのか理解できていたのである。
『ずっと一緒に過ごそうぜ』
 そうセイリューはラキアに呼びかけており、
『来年も一緒に見よう。そして一緒の時間を過ごして行こう』
 そうラキアは、セイリューに返していた。




依頼結果:大成功

エピソード情報
リザルト筆記GM 桂木京介 GM 参加者一覧
エピソードの種類 ハピネスエピソード
神人:セイリュー・グラシア
精霊:ラキア・ジェイドバイン
対象神人 個別
ジャンル イベント
タイプ イベント
難易度 特殊
報酬 特殊
出発日 2016年8月28日
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