かのんの『ひと夏の想い出の一ページ』(トリオ)
桂木京介 GM

プラン

アクションプラン

かのん
(天藍)
(朽葉)
1屋台
精霊との関係
天藍:現在婚約中、かのんの自宅の修繕+模様替え終了後同居予定
朽葉:2人目の契約精霊、顕現以前に1度出会っており契約時に再会
両親と死別して間もない自分を慰めてくれた人

天藍とおじ様と3人でお出かけできるなんて嬉しいです
いつもどちらか1人との外出だったので、特別な人、大切な人達と共に一緒にいれる事が嬉しい
2人ともかのんに見せるつもりはなく隠している事もあり、 天藍と朽葉の間の微妙な空気には気付かず

飴細工のお店があります!少し見てきて良いですか?
色々な動物を作れるというので、うさぎ(朽葉が手品によく使うぬいぐるみ)、エゾリス、シマエナガ(この2種は天藍との外出で出会った動物)を作って貰う

なんの流れかよくわからないまま、射的勝負となった2人公平に声援送る

おじ様、もう帰ってしまうんです?
…花火もこれからですよ?
目の前で急に出され、渡された飴細工の花に驚きつつ残念そうに朽葉の背中を見送る

リザルトノベル

 まるで砂金を振りまいたよう。
 それとも、撒いたのは真昼の太陽のかけらか。
 煌びやかな、あまりに煌びやかな、目覚めたまま見る夢のごとき祭の賑わいである。
 灼熱の午(ひる)はとうに過ぎ、涼風すら吹く今宵であるが、なおもここには熱気がある。
 今宵は紅月ノ神社の夏祭り。締めくくりには花火も上がるという。
 絢爛たるこの場所にあって、それでもかのんの姿は、光に埋没することがなかった。いやむしろ、人目を惹いた。
 白地に牡丹の花咲く浴衣、帯は自身の瞳の彩と、よく調和する紫紺色、髪にも牡丹のコサージュを差し、しっとりと立つかのんの姿は、一幅の美人画のように嫋(たお)やかだ。
 誰が彼女を無視し得よう。その前を素通りできようか。
 けれども今のかのんはあまりに清らかすぎ、それゆえ、どこかこの世の存在とも思えぬ幽玄さがあった。手を触れようものならたちまち、幻のように消えてしまいそうな。
 だから行き交う人々はかのんを見て、その可憐さに心奪われつつも、近づいたり、ましてや声を掛けたりといった無粋はせず、ただただその麗人を待たせている相手に、詩情のようなものを抱くばかりなのだった。
 やがてかのんの待ち人は来た。
 それも二人も。同時に。
 天藍は、はたと足を止める。
 同じく朽葉も、おや、と片眉を上げた。
 本日天藍は、かのんとデートだと思って出てきた。それなのに――やや解せない。
 ふうむ、と朽葉は顎に手をやった。これは彼としても予想外の事態なのだった。
「なんであんたまでいるんだ?」
 最初に頭に浮かんだ言葉を、天藍は迷わず口にしている。変に探りを入れたりしない、若者らしいその率直な物言いは朽葉としても不快なものではない。なので朽葉はやわらかく、
「かのんに呼ばれての」
 お邪魔であったか、と、つるり禿頭を撫でて苦笑いでもしたいところだったが、その前にかのんが声を上げた。
「こんばんは! 天藍! 朽葉おじ様!」
 透明な炭酸水が弾けるような、実に嬉しそうな声なのである。
 天藍は口元を緩めて、
「ああ、いい天気になって良かったな……花火日和だ」
 もっとも、このところずっと快晴続きだったから、ややとってつけたような挨拶であることは否めない。それは自覚しているから、天藍はちょっと間を置いた後、思い切って、
「その……去年も言ったかもしれないけど、その浴衣、よく似合う……とても綺麗だ」
 と、本当に言いたかったことを告げた。
 照れる。けれど、言わずにはおれなかった。
 浴衣が肌に馴染んできたのだろうか、昨年以上に、浴衣を着たかのんには艶があった。こんな美しい人と婚約できた我が身を、改めて幸運だと思う。
「天女のようじゃわい」
 思わず朽葉も言葉を加えている。
 真っ正面から褒められて、思わずかのんは頬を染めた。気恥ずかしそうに礼を言って、
「三人で、ってA.R.O.A.から招待を受けたんですよ。天藍とおじ様と私とでお出かけできるなんて嬉しいです」
 また、こぼれるような笑顔を見せた。
 これまでかのんの外出といえば、天藍か朽葉か、そのどちらか一人と行動を共にすることに限られていた。三人一緒にこうして、晴れやかな場所に来る機会はこれが初めてなのだ。それが新鮮で、嬉しい。はじめて育てる種のガーベラが、小さな黄色い花を開いたときのような気持ちである。
「そういうことなら」
 やれやれ――という溜息をこぼすはおろか、表情にもあらわすことなく天藍は言った。
「今日はよろしくな」
「こちらこそ」
 朽葉という人物は一見したところ好々爺で、接してみれば物腰もやわらかなのだが、天藍は彼に、どことなく胡散臭いものを感じていた。流しの手品師を自称しているものの実際のところは不明だし、サーカスの団長あがりという経歴についても、虫食いにあった古書のように不明の点だらけだ。悪人と決めつけるには材料が足りず、飄々とした口調もあって人としては嫌いではないが、天藍としては彼に、背中を預けるにはいささか躊躇するものがあった。
 そんな天藍の気持ちが、朽葉には手に取るようにわかっていた。
 それだけに、ほう、と内心賞賛して、老いた手品師は未使用の筆のような白髭を撫でつけるのである。
 天藍の心境を考えると同情もする。敵意とまではいかずとも、気後れしていることも伝わってくる。
 けれども、そんな憮然たる思いをかのんに隠している天藍から、朽葉は彼の優しさを理解したのだった。きっと天藍もその半生で、たくさんの苦難や葛藤と向かい合い、乗り越えてきたのだろう。
 そんな二人の男の間に流れる微妙なものには気付くことなく、
「じゃあ行きませんか?」
 明るくかのんは呼びかけた。
 天藍と朽葉は目配せし合う。
 かのんの気持ちを優先しよう――そんな無言の言葉が、天藍と朽葉に交わされていた。

 三人ならんで石畳をゆく。
 真ん中にかのん、その右に天藍、左側は朽葉だ。
 会場はとても広いので、こうして横一列で歩いても、誰ともぶつかる心配はない。無数に軒を連ねる屋台も、じっくり見物することができた。
 うちひとつを、じっとかのんは見つめ、
「飴細工のお店があります!」
 と顔を輝かせた。
「少し見てきていいですか?」
 もちろん天藍と朽葉に否やはない。楽しそうなかのんを見ることは、二人に共通した喜びだから。
 飴細工は店に作ってもらうこともできるが、材料と器具を使って自分でも挑戦できるという。
「動物型の飴ってできますか!? おじ様?」
 朽葉を見上げるかのんは、普段よりも年若に見えた。父親に甘える少女のように。
 それではお父様に、と、鉢巻きした屋台の若店主が呼びかけたところでかのんがまた口を開く。
「父じゃないんです。でも私の恩人なんです」
 恩人、という言葉には無意識的に力がこもっていた。
 すると朽葉は目を細めて、
「なに、そう大層なものではないのじゃよ。むしろかのんに出会って救われたのは我のほうでの」
「そんなことありません。おじ様がいなかったら、今の私はないんですから」
「いやいや、かのんがおらなんだら、我はきっと今も、前の稼業を続けておった」
 ……。
 そんな彼らのやりとりを無言で見守りながら、天藍はつい口のあたりに、妙な力がこもってしまうのだった。
 かのんと朽葉は、彼女が十代半ばの頃に出会っている。天藍がかのんを知るより前のことだ。
 その頃彼女は両親と死別し、失意のどん底にあったという。このとき彼女の心に、朽葉が善なる影響を与えたということは聞いている。
 とはいえ後追いで得た天藍の知識が、二人の共有記憶の重みに及ばないことは言うまでもない。
 だから掛け値なしに、うらやましい。
 自分の知らないかのんを知る、朽葉が。
 朽葉の心にはまだ、かつての彼女の蕾のような可愛らしさが息吹いている……そのことが。
 さすが手品師というべきか、「飴細工など何十年ぶりじゃ」と言いながら、朽葉はあっという間に桃色のうさぎを作り上げていた。ぴんと立った耳、つぶらな瞳をもつ愛らしい顔つき、玄人はだしというやつで、そのまま売り物にできそうなほどの完成度だ。
「後のリクエストはエゾリスとシマエナガか、どれどれ……」
 興が乗ってきたらしく鼻歌でも歌い出しそうな調子で、朽葉はたちまち愛くるしい子リスと、雪の妖精と称される白い小鳥を生み出してしまった。エゾリスの尾もシマエナガの体も、飴細工とは思えないほどのふわふわ感をかもしだしている。
 完成すると、かのんは天藍に駆け寄って、
「せっかくなので三人分作ってもらいました! これは天藍に」
 と、細い棒のついたエゾリスの飴細工を手渡した。
「ありがとう」
 近くで見ると改めて、その精緻さに驚かされる。
「まあ、こんなもんかのう。久々にしては、まあまあの出来じゃ」
 という朽葉に思わず天藍は言った。
「『まあまあ』とはご謙遜、かなりのものだと思う。前は飴細工師を……?」
「なに、素人の見習いじゃよ。余興としての経験はあるが、本業にしたことはないのう」
 なるほどと言いながら、彼の『本業』という言葉が天藍には妙にひっかかった。かのんとの会話でも老人は、『前の稼業』という語を用いていた。サーカスの団長や手品師と明言すればいいものを、なにか暗幕の裏でごそごそやっているような、どうにも想像の余地のある表現ではないか。やはり只者ではない、と確信を強める。
 察したようじゃな――朽葉はいわくありげな笑みを浮かべた。天藍はほのめかしに気付いたらしい。盗賊という、かつて朽葉が就いていた生業(なりわい)の匂いまで嗅ぎ取ったかは定かではないが、今はこれで十分だろう。
 天藍はかのんに向き直って、彼女の手にあるシマエナガと、自分のエゾリスを付き合わせた。
「あのとき出会った動物たちだな……落ち着いたら、また森に動物観察に行くのもいいかもな」
「ええ、ぜひ連れてってください」
 ひょい、とかのんは小指を立てた。
 虚を突かれた格好で、天藍は小さく息を呑んだ。
 なぜならこのとき彼女は、朽葉に見せていたあの、あどけない笑顔だったから。
 朽葉の飴細工作りが幼少期の記憶を呼び覚ましたのか、それとも、シマエナガとエゾリスという、楽しい思い出に直結する組み合わせが導いたのか。
 いずれにせよ天藍は、思いがけない宝物を得た気になったのである。
「約束しよう」
 天藍は彼女の小指と自分の小指を結んだ。
 嘘ついたら針千本――きっと実現してみせる。
 そんな天藍とかのんを見ていて、早くも朽葉の心は満たされていた。そろそろ年寄りは退場するか、と決める。
 といってもそのまま帰るのは、朽葉とて少しばかり癪に障るところだった。
 年寄りはひねくれているもんじゃからのう、などと考えてニヤリとし、周囲の屋台を見やってすぐに目当てのものを朽葉は見つけた。
「さてさて」
 軽く天藍の袖を引いて、朽葉は彼にだけ聞こえる小声で述べた。
「射撃は得意かの?」
「射撃? どうして?」
「『はい』か『イエス』か聞きたいのじゃが」
「それ選択肢じゃないと思うが……まあ、レンジャーとして訓練は受けている」
「結構結構」
 朽葉は屋台のひとつを指さした。
 看板には『射的』とある。コルク銃による的当てだ。こういう場所の古典中の古典だろう。
「取ってほしい景品でもあるのか? というか、そういう芸当の類いはあんたの得意分野だろう」
 という天藍の言葉に、かぶせるように朽葉は囁いた。
「我に勝つのなら、馬に蹴られる前に帰っても良いんじゃがの」
 む、と天藍は口をつぐんだ。朽葉の意図は理解できた。
「射的に自信がないなら、他の屋台でもいいぞ」
「……そういうことか」
 天藍は素早く屋台を眺め回すも、輪投げやダーツはやめておこう。こういった技術で元サーカス団長に勝つのは至難のわざだ。ブラック・ジャックやポーカーの卓も見つけたものの、カードゲームで手品師に挑むというのは、それこそ勝負を投げるようなものに違いない。イカサマをされても見破ることができるとは思えない。
「そうだな。射的が一番良さそうだ」
「決まりじゃな」
 かのんは、天藍と朽葉が額を付き合わせるようにしてなにやら相談しているのを小首をかしげて見ていたが、突然、
「かのん、俺たちは射的で勝負することになった」
「真剣勝負じゃ、応援してほしいものじゃの」
 突然くるり振り向いた二人が、口々にそんなことを言いだしたのでただただ目を丸くするのであった。

「いい勝負じゃった」
 朽葉が手を差し出した。
「ああ。楽しかった」
 天藍がその手を握る。二人とも爽快な気分で握手を交わしていた。
 一進一退の好勝負だった。最終的に天藍が大物(鉄製の小さな盾)を倒し、辛勝を収めたのである。ちょうど追い風が吹き込んだことも天藍に味方したといえよう。 
「二人とも、すごいです!」
 両者の健闘をたたえてかのんが拍手する。拍手しているのはかのんばかりではない。大きな喝采が集まっていた。
 彼らの熱戦はいつの間にかギャラリーを集め、衆目の集まるなかで勝負は繰り広げられたのだった。
 人の輪から抜けると朽葉は素早くかのんに近づき、その手に、袋に入った飴を滑りこませた。
「実はもうひとつ、こっそり作っておいたのじゃ」
 花の形をした手作りの飴細工だ。それも、かのんの浴衣と同じ、緋と白の牡丹だった。
「いつの間に……!?」
 しかし朽葉は謎めいた笑顔を向けただけで答えず、
「そろそろ眠くなってきたのう。我は帰って寝るとするかの」
 と言って彼女に背を向けたのである。
「おじ様、もう帰ってしまうんです? ……花火もこれからですよ?」
 かのんが追いすがるようにして呼びかけるも、
「年を取ると夜更かしができんものじゃよ」
 ほっほっほと笑うだけで、朽葉は振り返らずに歩き続ける。
 ここで朽葉は、やってきた天藍の肩にすれ違いざま手を置き、何事か耳打ちした。
 そうして片手をあげてそのまま、祭り囃子の中に消えていったのだった。
 天涯孤独の身ながら、と朽葉は思う。
 ――このような時を過ごすことができるとは思わなかった。

「おじ様……」
 彼の背が見えなくなっても、まだかのんは名残惜しそうにその場に立ち尽くしていた。
 手は透明な袋をつかんだままだ。袋に入った飴細工の牡丹に、橙色の屋台の光が映り込んでいる。
 天藍は彼女の隣に立ち、最後に彼が言い残した言葉を胸の内に反芻している。
「送り狼は許さぬからの」
 そう朽葉は彼に告げた。
 やれやれ――。
 天藍はきまり悪そうに、頭をかくしかない。




依頼結果:大成功

エピソード情報
リザルト筆記GM 桂木京介 GM 参加者一覧
エピソードの種類 ハピネスエピソード
神人:かのん
精霊:天藍
精霊:朽葉
対象神人 個別
ジャンル イベント
タイプ イベント
難易度 特殊
報酬 特殊
出発日 2016年8月28日
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