ユズリノの『ひと夏の想い出の一ページ』
桂木京介 GM

プラン

アクションプラン

ユズリノ
(シャーマイン)
浴衣「しぼり花」+下駄

タブロスに来て初めての夏
こちらの祭りは初体験で数日連れて来て貰っている

◇パフォーマンス綿あめなるもの見た
工程は魔法の様な光景で魅入ってしまった
摘んで食べて目を合わせ「夢みたいに甘い 夢菓子だね
なんてポロリ 言って恥かしくなった 浮かれすぎ

◇道行く人が彼に振り返る モテぶり再実感 小さく溜息
キスに頬染「それは光栄だね (ジト目 でも嬉しい
アハハと軽く返された こんな軽口も慣れてきた
今は彼を独占できる時間 楽しまなくちゃ損だと思い直す

◆丘
空見上げ暫く見惚れる
触れられドキリ 「うん ちょっと辛かった 優しいね
足パタパタ 解放感ー!

◆花火に圧倒され光を追いキョロキョロ
抱き寄せられ 彼を見る 頬染 笑み
(時折彼の時間にお邪魔して
 気まぐれでもこんな風に触れてもらえたら それで十分なんだ
強制的に彼の人生に割り込んだのに僕だけ見てなんて言える筈ないから
彼の懐で花火に見入る

リザルトノベル

 夏の色って、何色――?
 そんなことをユズリノは思う。
 タブロスに来て初めての夏、ユズリノはこの地で、これまでの人生では知り得なかったことをたくさん知った。
 大都会の夏は、アスファルトに埋め尽くされ逃げ場を失った熱が猛然と吹き上がってくるものだということ。
 その熱に対抗するかように、男女を問わず多くの人が、ときにぎょっとするほど薄着になるということ。
 そんな猛暑ゆえ、夏じゅう猛回転する冷房は吹雪の夜みたいな風を送ってくるということ。
 都タブロスにはあらゆる文化が入り交じっており、異種混合ゆえのパワフルな夏を提供してくれるといういうことも、その一方で知ったのだった。
 それまで夏と言えば、晴天の空のあるいは海の、ただひたすらに突き抜けるような青を思い浮かべるユズリノだったが、タブロスの夏を過ごしてみて、単色のイメージは崩れた。
 ここでは夏は青であり、赤であり、黄色だったり緋色だったりする。タブロスでは紫も夏に似合う色だし、白も黒も例外ではない。
 だから今年の夏がどんな色なのか、ちょっとユズリノには表現できない。

 白い『しぼり花』の浴衣に袖を通して、ユズリノは紅月ノ神社の境内、その中央部に立っていた。
 明るいがどこかに愁いを秘めた彼の容貌は、華奢な体型もあいまって、ユニセックスというよりは女物に近い雰囲気の、この『しぼり花』にこそふさわしい。
 こちらの祭は初体験なので、この夏ユズリノは、いくつか祭に連れて行ってもらっていた。さすがタブロス、近郊まで含めれば、ほぼ毎週末どこかで夜祭りが開かれていたのである。
 どの祭も賑やかでキラキラとしていて、それぞれに特徴のあるものだったが、なかでも今夜は格別だ。
 大社の広大な敷地に、途切れることなくびっしりと東西の屋台が揃っているのだった。
 これまでの祭とは規模が段違いだ。これまでの祭が小学校の校庭だとしたら、ここはまるでドーム球場ではないか。もちろん人出も相応に多いのだけれど、ぎゅうぎゅう詰めにならないだけの余裕もあった。
 屋台は多いだけにとどまらない。その種類もとても豊かだ。
 見たことも聞いたこともない食べ物を扱う屋台があった。オムレツフランク、ラーメンバーガー、揚げピザ……このあたりは名前から中身も察しが付きそうなものだが、ぽっぽ焼だのキャンドルボーイだの、回転タコのみ焼きだのとなると、もう何が何やら想像もつかない。
 定番の金魚すくいにしたところで、バリエーションたるや目を見張るものがあった。オタマジャクシすくい、鮎すくい、ウナギすくい……と天井知らずの様相だ。そのうち『ピラニアすくい』なんてのも出てくるのではないか。(すくった後、困りそうだけど!)
「どうした? そんなにキョロキョロしてるとはぐれるぞ」
 声をかけられてユズリノは、翠玉のような瞳をしばたかせた。
「キョロキョロなんか……!」
 と勢いよく切り出したはいいが、やがて言いにくそうにしめくくる。
「してる……かも」
 そんなユズリノの様子を見て、ふっとシャーマインは相好を崩した。
 すらり引き締まった肉体を包むは『彩染』の浴衣だ。ぱりっとした濃い藍色は、それなりに上背がなければ着こなせないものだが、その点、シャーマインは腰の細い理想的な逆三角形の体型ゆえ何ら問題がない。笑顔の似合う美丈夫なれど、一面とても精悍な彼はこの浴衣を得て、野生の黒豹を思わせる危険な魅力を振りまいていた。
「ほらリノ、迷子対策だ」
 からかい半分の口調で、シャーマインはユズリノの手を取った。包み込むようにして握り、そっと引っ張る。
「あ……うん」
 任せてもいいかな、とユズリノは思った。なにより、手をつないでてもらうのは心地よかった。
 途上、派手なパフォーマンスを行っている綿飴屋に出会った。BPM値の高い音楽に合わせ、剃刀みたくシャープなダンスを披露しながら綿飴を作るというものだ。腕を振るたび綿飴の塊が宙を舞う。それがいちいち綺麗な球形になっている。これを空中でキャッチしては、さらに大きなボールにしていく。しかも合間合間に、人形型綿飴を作ってしまうという小技まで効かせていた。
 綿飴屋の青年がぽいと投げてきた人形型綿飴、これがすとんとユズリノの手に落ちた。持ち手の串もついている。
「もらっていいの!?」
 ユズリノは問いかけるも、青年はちらと笑みを見せてもう次のパフォーマンスに移っていた。
「今夜はA.R.O.A.が前もってジェールを立て替えている。俺たちは無料なのさ」
 遠慮なくもらっとけよ、とシャーマインが言ったときにはもう、ユズリノはちぎってこれを口に入れている。すぐに目を輝かせ、
「夢みたいに甘い……夢菓子だね!」
 と息を弾ませた。
 思わずシャーマインから笑いが漏れてしまった。
 理由のひとつは、ユズリノの口調が子どものようだったから。
 もうひとつは、それがとても、可愛らしかったから。
 けれど彼の笑みをどう解釈したのか、
「う……浮かれすぎた、かな」
 恥ずかしそうにユズリノは頬を染めたのだった。

 やはり手をつないだまま、ユズリノとシャーマインは祭会場を歩む。
 すぐにユズリノは気がついた。道行く人の視線が、ごく自然にシャーマインに注がれているということに。
 熱っぽい目で彼を振り返る少女、はっと目が覚めたような顔をしている少年……それこそ枚挙に暇がない。
「やっぱりモテるんだよね……シャミィって」
 小さく溜息だけするつもりが、ユズリノの口からは拗ねたような文句までこぼれ落ちていた。
 散らばった小銭をかき集めるように、ユズリノは慌てて咳払いしてごまかそうとするも、すでにシャーマインはきっちり耳にしている。
 シャーマインは、すっと音もなく結ばれたままの手を上げ、わずかに湿り気のある口づけをユズリノの手の甲に与えた。そうして、
「気にすんな。今日の俺のお姫様はリノだ」
 軽く片目をつぶったのだ。
 シャーマインにとっては軽いスキンシップかもしれないが、ユズリノが軽く受け止めるのは無理というものだ。たちまち耳まで紅潮し、
「それは……光栄だね」
 と返した。顔は赤いけれど目はちょっと、非難するような形にもなっている。お姫様呼ばわりは不本意だ。嬉しさ半分……かもしれないが、不本意も半分あると主張したい。
 アハハとシャーマインは声を上げた。少なくとも、ユズリノの拗ねた気分はどこかへ行ったと理解したからだ。
 まあいいか。ユズリノもつられて笑った。シャーマインのこんな軽口にも馴れてきた。
 それに今は彼を独占できる時間 楽しまなくちゃ損だ――。

 そのまま会場を抜けたふたりは、花降る丘にたどりついていた。
 嘘のように人がいなくなっている。地上の光も遠くなった。
 かわりに頭上には、見渡す限りの星灯が輝いているのだった。圧倒されるほどの、混じりけのない星あかり。
 ユズリノが空に見とれているのに気づき、シャーマインも同じようにしばし、口を閉ざして星座の数々を眺めた。
「座らないか?」
 やがてシャーマインは呼びかけた。
 平らな石の上に腰を下ろすと、シャーマインはユズリノの足に手をかけた。
「ほら」
 そのまま、優しく下駄を脱がしてやる。
「慣れない履物で疲れたろ」
 短く言い切る。でもそれで、ユズリノは十分、彼の心を受け取っていた。
「うん、ちょっと辛かった。優しいね」
 だから素直に従って、足の裏にひやりとする草葉の感触を楽しむのだった。解放された気がする。すぐにシャーマインも下駄を脱いでいた。
 花火が始まると、ユズリノは半ば口を開けてこれに見入った。
 タブロスの花火は初体験だ。
 なんてたくさんの花火。
 豊穣で、空を縦横に使って、いつまでもいつまでも、咲いては散り、散ってはまた咲く光の渦。
 そんなユズリノの、あどけない表情を眺めながらシャーマインは思う。
 ――何だこの可愛い生き物は。
 いま、ユズリノの状態を一言で表現するならそれは『無防備』ではないか。
 ただただ、花火に心を向けている。ひな鳥のように。
 とりわけ無防備なのはその唇だ。つややかで、ある種の宝石のように色気があって……奪ってほしいと誘っているかのよう。
 シャーマインは思わず目をそらせた。
 ほどよく肉食系を自認する彼だが、こういう不意打ちというか、安易に関係を作ってしまうやり方は選びたくなかった。少なくともユズリノに対しては。
 だから、
 ――その代償行為と言っては何だが……。
 シャーマインはユズリノの肩を抱き寄せたのである。ユズリノの可憐さにくすぐられた庇護欲を、満たすにはむしろこのほうがふさわしい、と自分を納得させる。
 ――気があるの見てりゃわかるのに手が出せないって。
 らしくないことをしている、と苦笑気味にシャーマインは思う。けれども衝動を抑え込めた自分にも、シャーマインは誇りを感じているのだった。
 うん? と言うようにユズリノはシャーマインを見て、照れて、そして笑みを浮かべた。
 彼のテリトリーに入れてもらえた、というように思ったのだ。
 でもこれ以上の贅沢は望まない。
 ――ときおり彼の時間にお邪魔して……気まぐれでもこんな風に触れてもらえたら、それで十分なんだ。
 なぜって、
 ――強制的に彼の人生に割り込んだのに、僕だけ見てなんて言えるはずないから。
 ふたりは並んで花火を眺める。
 ずっとこうしていたかった。

 このときユズリノは卒然と、自分にとって今年の夏は、シャーマインの色だと知ったのだった。




依頼結果:大成功

エピソード情報
リザルト筆記GM 桂木京介 GM 参加者一覧
エピソードの種類 ハピネスエピソード
神人:ユズリノ
精霊:シャーマイン
対象神人 個別
ジャンル イベント
タイプ イベント
難易度 特殊
報酬 特殊
出発日 2016年8月28日
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