(イラスト:トキノユキ IL


アラノアの『ひと夏の想い出の一ページ』
桂木京介 GM

プラン

アクションプラン

アラノア
(ガルヴァン・ヴァールンガルド)


本当は屋台も回りたかったけどあまりの人の多さに断念


大輪の園

早めに来ちゃったけど…
結構人がいるね

周りのカップルを見
…そういえばガルヴァンさんは、今付き合ってる人とか、いるの…?
あっ気を悪くしちゃったらごめんっ
…でも、ここに一緒に来るとしたらそういう人との方が…よかったのかな…って…
尻すぼみに虚しく

そ、そうなんだ…
そりゃそうだよね恋愛の一つや二つ普通に経験して…
その後に続いた衝撃の告白に言葉を失う
知らなかった…

ヴァルリエルさんから?

そう…なんだ…

…私、は…ガルヴァンさんから見て、どうなの…?

未知…?
抽象的な答えに戸惑う
雰囲気的に悪くはなさげ…?


え…わぁ…っ!
もやもやを吹っ飛ばす光景に圧倒
見入る
精霊が何か呟いた気がした

…え?
あ、うん…綺麗、だね

今なんて言ったんだろう…

なに?
あ、う、うん…
自惚れちゃダメだと思うも嬉しい気持ち


終了後
綺麗だったね
??…な、なんで頭を…?
???(赤くなりつつ小首を傾げ

リザルトノベル

 薄い黒のヴェールの向こうから、ほの青い灯が透けてくるような夜である。
 青く感じるのは、真昼の熱気の残像だろうか。それとも、ほんの少し外れただけで、もう遠く幽(かす)かになった屋台付近の賑わいだろうか。
 屋台も回ってみたかった、そんな心残りもアラノアにはあった。
 けれどもあの人の多さ、ほんの少し油断すればたちまち呑まれてしまいそうな混み合いを考えると、やはり断念して正解だったという気もするのだ。彼女は早々に、大輪の園へ行くことをガルヴァン・ヴァールンガルドに提案していた。
 道々、アラノアは我が身を見やる。
 新しい浴衣、どう思ったのかな――。
 淡い生成り地の浴衣、帯は菖蒲色、水彩画風に描かれた百合の柄が古風である。されども帯にレースをあしらっているせいか、全体的に明るく、華やいでいて、大人っぽく上品でありつつも、元気さと可愛らしさも併せ持っていた。白い襟足も涼しげだ。
 先日、願い事の小川を見たあの祭とは違う浴衣だった。今日が、初披露になる。せっかくの機会なので、アラノアはうんと気合いを入れてこの装いを選んできていた。
 だが待ち合わせ場所に現れたアラノアを見ても、ガルヴァンは「行くか」と短く告げたほかは特に何も言わなかった。
 別に彼に、気の利いたコメントを求めていたわけではない。
 けれども少し……物足りないでは、ある。
 一方で今宵のガルヴァンは、前に見たときと同じ菖蒲の浴衣であった。葡萄色の髪とは好対照の色合いだが、それがむしろ両者を際立たせている。派手すぎぬ鯉の刺繍には、凜とした色気も漂っていた。
「どうかしたか?」
 黙りこくったアラノアが気になったのか、ガルヴァンは片眉に怪訝なものを浮かべる。
「ううん、何でも」
 ごまかすように彼女は言った。
「早めに来ちゃったけど……結構人がいるね」
 喧騒から逃れてきたのだろう、園の入口付近にはあまたの男女が見られる。といってもライトの照らす屋台周辺とは違い、いずれの姿も、どこか影絵のようだった。
「そうだな」
 ガルヴァンは短く答えて、何となく人の少なげな方角へ歩を進める。
 場所柄か、カップルと思わしきふたり連れが多い。
 笑いあっている友達同士のような者たちもあれば、黙って見つめ合っている組み合わせもある。腕を組んで、あるいは、手をつなぎあって歩く男女も少なくない。
 ――私たちって、どう見えるんだろう?
 ガルヴァンの隣にあってガルヴァンに触れえぬ左手が、アラノアにはもどかしい。
「……そういえばガルヴァンさんは、今付き合ってる人とか、いるの……?」
 ぽつんと、独り言にも聞こえるような口調でアラノアは言った。
「……何だ、藪から棒に」
 ガルヴァンはいくらか驚いた様子だ。
「あっ、気を悪くしちゃったらごめんっ……でも、ここに一緒に来るとしたらそういう人との方が……よかったのかな……って……」
 電池の切れかけた玩具のごとく、アラノアの口調は徐々に勢いを失い、やがて消え入るようにして終わった。
「付き合っている女性か……今はいないが、過去にはいた」
 彼は言う。
「断ろうがしつこく言い寄ってきて、仕方なく応じるも特別な感情は湧かず、勝手に振られるか自然消滅で終わった女性が何名か……だな」
 あきらかにそれと判る贋作を前にした絵画鑑定士のように、実に素っ気ない口調だった。いずれも彼にとっては、ただ来て、ただ去っていっただけの、流れる雲のような恋らしかった。いや、それを恋と呼ぶのもためらわれようか。
「そ、そうなんだ……そりゃそうだよね、恋愛の一つや二つ普通に経験して……」
 アラノアとしては、いくらか複雑な気持ちなのも確かだった。といっても、「今はいない」、と彼が断じたことは、闇夜に蛍を見出したような光明ではあるのだが。
 このとき、ふと、
「……こういう言葉を知っているか?」
 ガルヴァンが言ったのである。
「『宝石の価値は箱では当てられない』……故郷を出る前、父さんから授かった言葉だ」
「えっ?」
 意外な名前が出た。
 ――父さん、って、つまり……。
「ヴァルリエルさんから?」
「そうだ」
 と告げたとき、彼の目には誇るような色があった。
「外見に惑わされず、真価を見極められる男になれと父は言った。この言葉を肝に銘じて以来、世に称えられる美しい女性というものに興味が持てなくなってな……」
「そう……なんだ……」
 アラノアは先日の、ヴァルリエルとの出会いを回想していた。ガルヴァンに似て厳粛で、けれども若い息子よりも余裕と包容力を感じさせる父親……確かにあの人なら、そんな風に我が子に道を示しそうだ。
 でも――。
 心に、穴が開いたような気にもなる。
 彼の言う『世に称えられる美しい女性』とはさすがにいかずとも、少しでも見栄えがよくなるように、もっと言うと、ガルヴァンの視線を捉えられるように、と、一生懸命浴衣を選んで、外見を整えてきた今夜のアラノアなのだ。
 ――そんな自分が……恥ずかしいかも……。
 落ち込みそうになる。
 ――いけない。
 アラノアはゆっくりと深呼吸し、脳内のスイッチを切り替えるイメージを思い浮かべた。
 ほんの短い時間だったとはいえ、アラノアもヴァルリエルに薫陶を受けた一人だ。
 今の彼女に向かって、「そういうことだ、諦めろ」なんてヴァルリエルが言うだろうか。
 否。ヴァルリエルならきっと、「箱の中身、つまり、己自身に矜持を持て」、そんな風に言うはずだ。
 アラノアは顔を上げた。そうして、ありったけの勇気を振り絞ってこう問いかけた。
「……私、は……ガルヴァンさんから見て、どうなの……?」
「お前は……」
 と言ったまま、どう表現すべきかガルヴァンは考えたようだが、すぐに、
「触れると温かい未知の原石」
 こう告げた。
「未知……?」
 アラノアは戸惑う。なんとも抽象的な回答ではないか。
 ただ――同時に、彼女の頬に血色が差してきた。
 ――雰囲気的に悪くはなさげ……?
 そう思ったからだ。
 このとき、はっきりとガルヴァンが笑んでいた。易々と笑みを見せぬ彼だけに、値千金の微笑と言えようか。
 ぱっ、と空が明るくなった。
 花火だ。赤と青、そして黄色のまばゆい牡丹。
「……始まったようだぞ」
 あまりにもタイミングが良かった、いや、悪かったのか。このためアラノアには、ガルヴァンが笑みを見せたのは、自分の表情を見たためか、花火が始まったためか、にわかには判断がつきかねた。
 まあ、いいじゃない――そう思うことにする。
 今は素直に、夜空に競い咲く花々を楽しもう。もやもやを吹っ飛ばす光景に圧倒されよう!
「わぁ……っ!」
 ひときわ大きな七色の花火に、アラノアは我を忘れ見入った。
「……」
 このとき、光にやや遅れて鳴った遠雷のような響きに紛れ、ガルヴァンが何か呟いたような気がした。花火が良いとか綺麗だとか、そんな風に聞こえた。
「……え? あ、うん……綺麗、だね」
 ――今なんて言ったんだろう?
「いや……見事な花火だな」
 今度の声は聞こえる。彼はさらに、はっきりとこう言ったのだった。
「アラノア。また、一緒に来たいものだな」
「あ、う、うん……」
 自惚れちゃダメだ――そうは思うのだけれど、秘密の手紙をもらったように嬉しいのは事実だ。

「世に称えられる美しい女性というものに興味が持てなくなってな……」
 と自分が告げてすぐ、アラノアの瞳に哀しげな色彩が差したこと、そのことにガルヴァンは心を痛めていた。
 苦い気持ちだ。銀色をしたざらざらの毒を、舌に乗せたような気になる。
 ――不誠実な男と思われてしまったか……?
 ガルヴァンとしては、「世に称えられる」の部分にアクセントを置いたつもりだ。世間一般の基準などあてにならない、そう言いたかった。
 なぜなら、アラノアにこそ、彼は美しさを感じていたから。内面の美しさが表にあらわれ、輝いている彼女に。
 とりわけ今夜の彼女は、浴衣が似合っていて魅力的だ。照れてしまって直視できないほどに。
 やがて花火がはじまり、七色の大輪が開いたとき、ついにガルヴァンは口にしていた。
「……好きだ」
 と。
 自分に確認するためのつぶやき。アラノアには届いていなかったようだ。
 なぜなら彼女は、
「……え? あ、うん……綺麗、だね」
 と返したのだから。
 それでも、いいと思う。

 花火が終わったとき、互いは互いに、距離が近づいたような気がしていた。
「綺麗だったね」
 アラノアはガルヴァンを見上げる。
「そうだな……」
 彼は手を、彼女の頭に置いた。
 ――な、なんで頭を……?
 けれどアラノアの感じた疑問符は、たちまちのうちに夜空に吸い込まれていったのである。
 ガルヴァンがさりげなく、こう付け加えたからだ。
「……その浴衣姿もな」
 ――不意打ち過ぎるっ!
 まさかの言葉に顔から火が出そうだ。自分の頬が真っ赤になっていることをアラノアは自覚している。
 ――盲目になるとはこのことか。
 ガルヴァンは思った。
 徐々に、はまっていくような感覚があった。
 アラノアがうつむいて、顔を上げなかったのは正解だったのだろうか。
 なぜならこのとき、わずかにとはいえ、ガルヴァンも紅潮していたのだから。




依頼結果:大成功

エピソード情報
リザルト筆記GM 桂木京介 GM 参加者一覧
エピソードの種類 ハピネスエピソード
神人:アラノア
精霊:ガルヴァン・ヴァールンガルド
対象神人 個別
ジャンル イベント
タイプ イベント
難易度 特殊
報酬 特殊
出発日 2016年8月13日
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