プラン
アクションプラン
叶 (桐華) |
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迷宮だなんて僕らにぴったりだねぇ桐華さん さて僕は先に行くから、捕まえにおいで 君が僕を捕まえられることが出来たらそこでお終い 約束を果たす時が来るんだよ …君は逃げても良いけどね じゃ、お先ー 樹氷のきらきらを楽しみながら迷路を歩いて 桐華が来るのを待つよ 桐華との色々を思い起こしながら ずーっと、待ってる 嫌われてしまえばよかったのに愛されてしまった 未練を残したかったのに満たされすぎてしまった 気がつけば、黒かった指輪がもう真っ白なんだ もう一度手を取り合えば、きっと… やぁ、間違えずに来れたね それとも逃げ出すつもりで戻ってきたの? …ふふ、冗談だよ ねぇ桐華。花火大会の時に言ったことを覚えているね? 嫌な連絡が来たんだ。二人目…僕にとっては三人目の精霊のお報せ 受けたくないから逃げたんだけど…いずれ捕まるかもしれない そうなる前に、終わらせて …わかるね、桐華 僕を殺して …でも、言ったよね。逃げても良いよって 選んでよ、桐華 |
リザルトノベル
「迷宮だなんて僕らにぴったりだねぇ桐華さん」
樹氷の迷宮を前にして『叶』は笑顔で『桐華』の顔をのぞきこむ。
叶の言い分に、桐華は黙ったまま軽く天を仰ぐことで同意の形をとる。確かに自分達の行くところとしては相応しいと思ってしまう自分がいる。だが、だからといってそれを笑顔で「そうだな」などと言う気にもなれない。だからこその沈黙だ。
「さて僕は先に行くから、捕まえにおいで」
そして当たり前のように別行動が告げられる。
「君が僕を捕まえられることが出来たらそこでお終い」
何気なく口にされた、お終い、という言葉。
それがただ今日の外出の終いを表しているわけではないのだと、分かってしまったから、桐華は眉根に力が入ってしまう。
「約束を果たす時が来るんだよ」
約束。それは。
「……君は逃げても良いけどね」
俯いてから、ぽつり、小さく付け加えて。
「じゃ、お先ー」
桐華が何か言うよりも早く、叶は笑顔で樹氷の迷路へと足を踏み入れてしまった。
そんないつも通りの叶を見送ってから、一度大きく息を吐き出す。
(足跡でも辿れば早そうだけど、そういうのは無粋か)
吐き出した息は白かった。樹氷も白く、何処か良く出来た玩具の世界のようだった。叶の好きそうな景色だと辺りを見据えながら、『お終い』と言った叶の顔を思い起こした。
「……晴れ晴れとしやがって」
吐き捨てるように言って、桐華は迷宮へと足を踏み入れた。
迷宮の中はキャンドルライトで鮮やかに飾りつけされ、暖かい光に包まれていた。その光を受け樹氷はきらきらと輝いている。それを楽しみながら叶は歩く。白い息を吐きながら、微笑みながら。
(桐華が来るのを待つよ)
叶は歩く。桐華との出会い、桐華との始まり、桐華とのここまで、起こった色々な事を思い起こしながら。
(ずーっと、待ってる)
初めは逃げていた。
それが捕まって、それでも逃げて、はぐらかして、本当の意味では捕まらなくて、けれど、やっぱり捕まって。
嫌われてしまえばよかったのに愛されてしまった。
未練を残したかったのに満たされすぎてしまった。
気がつけば、黒かった指輪がもう真っ白なんだ。
叶は右手で左手をさする。左の薬指、そこにある指輪をそっと、優しく撫でる。桐華の指輪と対になっている、呪いと誓いの指輪。
もう一度手を取り合えば、きっと……。
叶は歩く。樹氷の迷宮の中へ入り、そして目的地へと向かって一人歩いていく。
桐華はまだ、追いつかない。
初対面から向こう、ずっと追いかけるばかりだった。
樹氷の迷宮に入った桐華もまた、叶との今までを思い出しながら歩いていた。
契約することでやっと捕まえたのかと思ったら、振りほどこうとし続けて、いつか俺を置いて死ぬ気な事に罪悪感でもあったのか、それともただ試されていただけなのか。
それでも捕まえた。枷のような碇のような、呪いと誓いの指輪を贈り、受け取ってもらえた。
だから何処に行っても大丈夫だと、何があっても大丈夫だと。
桐華はフッと笑う。
(そうはとても思えないのが、叶だよな)
そして実際、大丈夫ではないのが叶なのだ。
桐華の歩みは止まらない。迷宮を着実に進み、そしてやがてゴールが見えてくる。叶は見つからなかった。
ゴールを目前にして、桐華はその足を止めた。
(叶は迷路得意だから抜けるのは簡単だろうけど……)
叶は何と言っていた。『僕を捕まえられることが出来たら』と言っていたではないか。それはつまり。
桐華は踵を返して戻る。
きっとただ歩けば辿り着く場所に叶はいない。
だけど。
『君が僕を捕まえられることが出来たらそこでお終い』
捕まえたら、お終い。その意味を考えてしまえば、捕まえたいのか、捕まえたくないのか。
桐華は歩く。スタート地点まで、戻っていく。
捕まえたいのか、捕まえたくないのか。その答えはもう出ている。
「やぁ、間違えずに来れたね」
「……居るし」
スタート地点まで戻れば、そこには当然のように叶がいた。
「それとも逃げ出すつもりで戻ってきたの?」
「今更逃げるわけ無いだろ」
からかうように言えば、呆れたような声が返ってくる。
「……ふふ、冗談だよ」
その呆れたような声は、逃げる気など砂粒一粒ほども考えてもいなかった、という音も含んでいて、その響きに叶は笑顔が少し歪む。
「ねぇ桐華。花火大会の時に言ったことを覚えているね?」
暗い空に咲いた幾つもの光の花を一緒に見た夜。その夜に叶が桐華へと言った事は幾つかあった。それを桐華は覚えていた。
墓参りがしたいと言った。自分が殺したと思ってる村人の墓参りへ。
『未練なく、いきたいから』と言った。その『いきたい』が『生きたい』なのか『逝きたい』なのかは問わなかった。
嫌な連絡が入ったと言った。その内容も聞かず、携帯電話を捨てるように渡された。
覚えている。すべて、覚えている。
あの光の夜空と暗い夜空を共に見ながら、熱のある手を掴んだ時の事を覚えている。
言われた事は幾つもあったけれど、それらは実のところすべて繋がっていた。
「嫌な連絡が来たんだ。二人目……僕にとっては三人目の精霊のお報せ」
ああ、やはり。
桐華の心に波は立たない。予測していたことだ。今更、何も驚きもしない。
(叶を生かす方法をずっと考えてきたけど)
「受けたくないから逃げたんだけど……いずれ捕まるかもしれない」
だから、と叶は微笑む。申し訳無さそうに、だけど嬉しそうに。
「そうなる前に、終わらせて……わかるね、桐華」
(叶が俺のために一颯の幻影を切り捨てた時に腹は決めた)
そして紡がれる、約束の言葉。呪いの言葉。誓いの言葉。
愛の言葉。
「僕を殺して」
ああ、やはり。
予測していた。驚きもしない。
「……でも、言ったよね。逃げても良いよって。選んでよ、桐華」
そう言って、叶はゆっくりと桐華へと左手を差し出す。
叶は桐華に好きなように選んでもらおうとしていた。けれどもう桐華は決めていた。決めていたのだ。桐華にとって選択肢など無く、答えは一つだった。
その薬指に光る指輪をじっと見てから、桐華は同じ左手を差し出した。差し出して、そしてその手を取った。
ぴくり、と叶の手が震えた。それを打ち消すように、桐華は握る手に少し力を込める。万が一にも振り払われても離す事の無いよう。逃がす事の無いよう。捕まえていられるよう。
指輪と指輪が触れ合っている。初めて身につけた時と比べて、指輪はきっと白く輝いている。黒く艶めいている。
「お前がここにいる意味を当ててやる」
冷えた手を握りながら桐華は言う。
「最初に戻って繰り返そう。だろ」
その言葉に、叶の笑みが微かに歪む。
最初に戻る。その最初とは。
「けど次は一颯より早く会ってみせる」
ウィンクルムが本当に、愛の中で輪廻転生を繰り返しているのなら、それならばこれ以上の愛などいらない。ここにある愛だけでいい。それだけを抱えて、何処にだっていける。何処までだって追いかけられる。何処にいたって捕まえてみせる。
「お前が何の罪も覚えず、ただ幸せに生きられるまで、俺は何度でも、お前を選び続ける」
だから、最初に戻って繰り返そう。桐華はそれを選んだ。
「桐、華……」
名前を呼ぶ声は震えていた。胸は苦しいほどの感情で溢れていた。視界は涙で滲み始めていた。それでも白く輝く中で、桐華が笑顔で見つめている事はわかった。
「桐華……!」
だから叶は名前を呼ぶ。思いのすべてを乗せて、心からの笑顔を見せて。
桐華は叶を抱きしめる。叶も桐華を抱きしめる。
――しあわせだ。今、こんなにもしあわせだ。
「……愛してる」
桐華のその告白は終わりを意味し、そして始まりを意味していた。
白く輝く世界は、祝福しているようだった。
樹氷の迷宮を前にして『叶』は笑顔で『桐華』の顔をのぞきこむ。
叶の言い分に、桐華は黙ったまま軽く天を仰ぐことで同意の形をとる。確かに自分達の行くところとしては相応しいと思ってしまう自分がいる。だが、だからといってそれを笑顔で「そうだな」などと言う気にもなれない。だからこその沈黙だ。
「さて僕は先に行くから、捕まえにおいで」
そして当たり前のように別行動が告げられる。
「君が僕を捕まえられることが出来たらそこでお終い」
何気なく口にされた、お終い、という言葉。
それがただ今日の外出の終いを表しているわけではないのだと、分かってしまったから、桐華は眉根に力が入ってしまう。
「約束を果たす時が来るんだよ」
約束。それは。
「……君は逃げても良いけどね」
俯いてから、ぽつり、小さく付け加えて。
「じゃ、お先ー」
桐華が何か言うよりも早く、叶は笑顔で樹氷の迷路へと足を踏み入れてしまった。
そんないつも通りの叶を見送ってから、一度大きく息を吐き出す。
(足跡でも辿れば早そうだけど、そういうのは無粋か)
吐き出した息は白かった。樹氷も白く、何処か良く出来た玩具の世界のようだった。叶の好きそうな景色だと辺りを見据えながら、『お終い』と言った叶の顔を思い起こした。
「……晴れ晴れとしやがって」
吐き捨てるように言って、桐華は迷宮へと足を踏み入れた。
迷宮の中はキャンドルライトで鮮やかに飾りつけされ、暖かい光に包まれていた。その光を受け樹氷はきらきらと輝いている。それを楽しみながら叶は歩く。白い息を吐きながら、微笑みながら。
(桐華が来るのを待つよ)
叶は歩く。桐華との出会い、桐華との始まり、桐華とのここまで、起こった色々な事を思い起こしながら。
(ずーっと、待ってる)
初めは逃げていた。
それが捕まって、それでも逃げて、はぐらかして、本当の意味では捕まらなくて、けれど、やっぱり捕まって。
嫌われてしまえばよかったのに愛されてしまった。
未練を残したかったのに満たされすぎてしまった。
気がつけば、黒かった指輪がもう真っ白なんだ。
叶は右手で左手をさする。左の薬指、そこにある指輪をそっと、優しく撫でる。桐華の指輪と対になっている、呪いと誓いの指輪。
もう一度手を取り合えば、きっと……。
叶は歩く。樹氷の迷宮の中へ入り、そして目的地へと向かって一人歩いていく。
桐華はまだ、追いつかない。
初対面から向こう、ずっと追いかけるばかりだった。
樹氷の迷宮に入った桐華もまた、叶との今までを思い出しながら歩いていた。
契約することでやっと捕まえたのかと思ったら、振りほどこうとし続けて、いつか俺を置いて死ぬ気な事に罪悪感でもあったのか、それともただ試されていただけなのか。
それでも捕まえた。枷のような碇のような、呪いと誓いの指輪を贈り、受け取ってもらえた。
だから何処に行っても大丈夫だと、何があっても大丈夫だと。
桐華はフッと笑う。
(そうはとても思えないのが、叶だよな)
そして実際、大丈夫ではないのが叶なのだ。
桐華の歩みは止まらない。迷宮を着実に進み、そしてやがてゴールが見えてくる。叶は見つからなかった。
ゴールを目前にして、桐華はその足を止めた。
(叶は迷路得意だから抜けるのは簡単だろうけど……)
叶は何と言っていた。『僕を捕まえられることが出来たら』と言っていたではないか。それはつまり。
桐華は踵を返して戻る。
きっとただ歩けば辿り着く場所に叶はいない。
だけど。
『君が僕を捕まえられることが出来たらそこでお終い』
捕まえたら、お終い。その意味を考えてしまえば、捕まえたいのか、捕まえたくないのか。
桐華は歩く。スタート地点まで、戻っていく。
捕まえたいのか、捕まえたくないのか。その答えはもう出ている。
「やぁ、間違えずに来れたね」
「……居るし」
スタート地点まで戻れば、そこには当然のように叶がいた。
「それとも逃げ出すつもりで戻ってきたの?」
「今更逃げるわけ無いだろ」
からかうように言えば、呆れたような声が返ってくる。
「……ふふ、冗談だよ」
その呆れたような声は、逃げる気など砂粒一粒ほども考えてもいなかった、という音も含んでいて、その響きに叶は笑顔が少し歪む。
「ねぇ桐華。花火大会の時に言ったことを覚えているね?」
暗い空に咲いた幾つもの光の花を一緒に見た夜。その夜に叶が桐華へと言った事は幾つかあった。それを桐華は覚えていた。
墓参りがしたいと言った。自分が殺したと思ってる村人の墓参りへ。
『未練なく、いきたいから』と言った。その『いきたい』が『生きたい』なのか『逝きたい』なのかは問わなかった。
嫌な連絡が入ったと言った。その内容も聞かず、携帯電話を捨てるように渡された。
覚えている。すべて、覚えている。
あの光の夜空と暗い夜空を共に見ながら、熱のある手を掴んだ時の事を覚えている。
言われた事は幾つもあったけれど、それらは実のところすべて繋がっていた。
「嫌な連絡が来たんだ。二人目……僕にとっては三人目の精霊のお報せ」
ああ、やはり。
桐華の心に波は立たない。予測していたことだ。今更、何も驚きもしない。
(叶を生かす方法をずっと考えてきたけど)
「受けたくないから逃げたんだけど……いずれ捕まるかもしれない」
だから、と叶は微笑む。申し訳無さそうに、だけど嬉しそうに。
「そうなる前に、終わらせて……わかるね、桐華」
(叶が俺のために一颯の幻影を切り捨てた時に腹は決めた)
そして紡がれる、約束の言葉。呪いの言葉。誓いの言葉。
愛の言葉。
「僕を殺して」
ああ、やはり。
予測していた。驚きもしない。
「……でも、言ったよね。逃げても良いよって。選んでよ、桐華」
そう言って、叶はゆっくりと桐華へと左手を差し出す。
叶は桐華に好きなように選んでもらおうとしていた。けれどもう桐華は決めていた。決めていたのだ。桐華にとって選択肢など無く、答えは一つだった。
その薬指に光る指輪をじっと見てから、桐華は同じ左手を差し出した。差し出して、そしてその手を取った。
ぴくり、と叶の手が震えた。それを打ち消すように、桐華は握る手に少し力を込める。万が一にも振り払われても離す事の無いよう。逃がす事の無いよう。捕まえていられるよう。
指輪と指輪が触れ合っている。初めて身につけた時と比べて、指輪はきっと白く輝いている。黒く艶めいている。
「お前がここにいる意味を当ててやる」
冷えた手を握りながら桐華は言う。
「最初に戻って繰り返そう。だろ」
その言葉に、叶の笑みが微かに歪む。
最初に戻る。その最初とは。
「けど次は一颯より早く会ってみせる」
ウィンクルムが本当に、愛の中で輪廻転生を繰り返しているのなら、それならばこれ以上の愛などいらない。ここにある愛だけでいい。それだけを抱えて、何処にだっていける。何処までだって追いかけられる。何処にいたって捕まえてみせる。
「お前が何の罪も覚えず、ただ幸せに生きられるまで、俺は何度でも、お前を選び続ける」
だから、最初に戻って繰り返そう。桐華はそれを選んだ。
「桐、華……」
名前を呼ぶ声は震えていた。胸は苦しいほどの感情で溢れていた。視界は涙で滲み始めていた。それでも白く輝く中で、桐華が笑顔で見つめている事はわかった。
「桐華……!」
だから叶は名前を呼ぶ。思いのすべてを乗せて、心からの笑顔を見せて。
桐華は叶を抱きしめる。叶も桐華を抱きしめる。
――しあわせだ。今、こんなにもしあわせだ。
「……愛してる」
桐華のその告白は終わりを意味し、そして始まりを意味していた。
白く輝く世界は、祝福しているようだった。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||
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リザルト筆記GM | 青ネコ GM | 参加者一覧 | ||||
プロローグ筆記GM | なし |
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エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||
対象神人 | 個別 | |||||
ジャンル | イベント | |||||
タイプ | イベント | |||||
難易度 | 特殊 | |||||
報酬 | 特殊 | |||||
出発日 | 2016年12月18日 |