プラン
アクションプラン
羽瀬川 千代 (ラセルタ=ブラドッツ) |
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7 豪華な夕食を食べ終え、ほっと一息 忙しない年の瀬にくつろげるなんて、ほんの少しだけ落ち着かないけれど 折角なら美しい冬の星を一緒に見たいと彼を露天風呂に誘う 徳利とお猪口を乗せた盆を、ツイと水面に浮かべ …のぼせるかもしれないから、少ーしだけ。ね? 注いで、注がれて、ゆっくりとおなかを満たしていく ほんのりと色づく肌、張り付く銀の髪が横目に見え 過る妄想を消したくて湯船につい顔を埋める ?!ええと、うん…綺麗だなあって 浴衣に袖を通し寝台に座れば、単純にも漏れる小さな欠伸 ふふ、もちろん満喫できたよ? ラセルタさんの事を好きなだけ考えていられて、贅沢な時間だった 離れた手に冷たさを感じて視線を落とす …え? 開いた口から何とか吐き出す、掠れた声 あなたのゆびわは、おれがはめたい 胸いっぱいに膨れた気持ちが瞳からこぼれていく ぼやけた視界、滲んだ輪郭 指輪を通し、しっかりと彼を見つめて告げる ――俺の、家族になってください |
リザルトノベル
和風リゾートホテル『そらのにわ』の夕食は、季節の旬を揃えながらもクリスマスらしい華やかさも湛えた立派な懐石だった。
高級感のある品揃えに舌鼓をうって、羽瀬川 千代はほっと一息を零す。
(忙しない年の瀬にくつろげるなんて……)
働き者の千代としてはほんの少し落ち着かない気もする。あれもこれも、まだ片付けておきたいことは沢山有るのだ。
けれど、これも大切な人の願いの一つ。
誰にも邪魔されずに千代を独占したい。そんな、ラセルタ=ブラドッツの願いの現れ。となれば、叶えずにいられようか。
落ち着いた雰囲気の室内は、時間の流れもゆったりと感じさせる。
ささやかで他愛のない話も特別に聞こえるようで、ラセルタの表情も穏やかに緩んでいた。
そんな彼と共に窓辺から星空を見上げるのも良いが、この部屋には更に絶景を拝める露天風呂が備わっているのを、千代は知っている。
『白馬岳』の頂上に位置する、限りなく空に近いこの場所で、硝子の仕切りを挟まずに星空を見ることが出来るのだ。
(折角なら、一緒に見たい)
そんな風に思うけれど、ラセルタが寒々しい露天風呂を厭うのも知っている。
だから一つ、手を打ったのだ。
「美しい冬の星を、ラセルタさんと一緒に見たい」
ねだるような声で見つめる千代の手には、盆に乗せられた徳利とお猪口。
その中身が何であるかなんて野暮なことは、聞くまでもない。
悪戯な顔で笑う千代が選んだ酒ならば、きっと旨いに違いないと、ラセルタは嘆息した。
「否と言わせないつもりだな」
「だって、折角だから」
釣られてくれたラセルタに、嬉しそうに微笑んで。二人は冷たい風に体の芯を冷やされてしまわぬ内に、湯船の中に滑り込んだ。
ツイ、と水面に浮かべた盆を手元へと滑らせて、千代はお猪口に酒を注ぐ。
「……のぼせるかもしれないから、少ーしだけ。ね?」
ラセルタがアルコールに弱いことを、千代は知っている。それでも酒を好むことも、よく。
だから言葉通り、注ぐ酒はほんの少し。差し出してくるお猪口を受け取りながら、対の手で千代の濡れた黒髪を撫ぜて。くすぐったげに笑う顔を、愛おしむように見つめた。
随分と俺様を扱うのが上手くなったものだと、心の中だけで皮肉げに笑う。
無論、それは皮肉そのものではなく、それだけ心を許し合っているのだという認識に変わるもの。
ほんの少し、舐める程度の酒を手元に置き、にこにことしている千代を横目に見て、ラセルタは彼の眼前に浮かぶ盆から徳利をさらう。
「……素面は許さん、お前も飲め」
そう言って、自分と同じだけの酒を注いでやった。
ザルである千代が、その程度で酔うとは思っていないけれど。
お互いの手に同じものを持って、同じ空を見て。
「綺麗、だね」
「ああ」
感想に、同意をして。
そうやって時間を共有していく。
こんこんと湧き出る温泉は冬空の下とて熱く、舌先から染み込むような酒もまた、暖かく。
ほぅ、と零した吐息は白く、湯気の中に溶けて。時間がまた一層、ゆっくりと紡がれているように感じる。
星空から視線を下ろせば、ほの白い視界の中に銀の髪が映るのを、見つけた。
美しい白磁の肌には熱の色がほんのりと浮かび、濡れた銀がひたりと張り付いて。
――なんと煽情的だろう、と。
ざぶん。脳内に過ぎった妄想に、千代はつい、湯船に顔を埋めていた。
突然顔を覆って沈んだ千代の様子に、ラセルタはかすかに目を剥いたが、視線を向けた彼の黒髪から、赤くなった耳が覗いているのを見つけて、口角を上げる。
「どうした? のぼぜてしまったか」
問いかけが耳に届いた千代は、慌てたように、またざぶんと音を立てて顔を上げると、ラセルタを見やる。
綺麗な、恋人の顔を見つめて。
「ええと、うん……綺麗だなあって」
星空に向けたのと同じ単語は、視線の先に捧げるもの。
つい、ラセルタの喉が音を立てた。
「そうか」
くつくつと笑うラセルタの胸中は、今すぐにでも千代を湯船から引き上げ可愛がってやりたいと願っているけれど。
もう少し、綺麗なものを眺めてからでいい。
◆
湯船を滑る盆を捕まえて、露天風呂を離れた後は、ゆったりと浴衣を纏って、柔らかな寝台に座り込む。
ふぁ、と千代の口から小さく漏れた欠伸は、もうじき一日が終わるのを知らせるよう。
二人の時間をゆっくりと過ごしてきたように感じたけれど、後は眠るだけと認識すれば、急にあっという間に感じてしまうから、不思議だ。
そんな彼に、ラセルタはそっと近寄った。
「今日一日、俺様は非常に満喫したが千代はどうだ?」
「ふふ、もちろん満喫できたよ?」
ラセルタの指先が千代の髪をくるりと遊んで、頬に触れる。
まだ少し熱く感じる体に、落ち着いた人肌の温度が心地良い。
「ラセルタさんの事を好きなだけ考えていられて、贅沢な時間だった」
熱に浸るようにゆっくりと瞳を伏せた千代が、幸せそうに告げるのを、ラセルタもまた幸せな心地で聞き止めて。露天風呂の時と同じように、相槌を一言だけ。
そうして、頬を撫でていた指を滑らせ、千代の左手を掬い取る。
とても自然な所作で、さり気なく指を絡めて、千代がかすかに握り返してくれるのを感じて、から。
するり、その薬指に、指輪を嵌めて、離れた。
それは今日という日のためにラセルタが用意していたもの。
手の内に隠すように仕舞い、何の前振りもなく渡されたそれは、ひやりと冷たい心地だけを千代に残す。
「……え?」
不思議そうな顔は、視線を落とす瞬間まで。
それを見つけた千代の目は、大きく、見開かれた。
「伴侶にしたいと、以前告げただろう?」
夢想花の咲き誇る花園で、純白のブーケと黒い角への口付けを受けとったあの時に。
わざわざそんなことをしなくても、既に心は決まっていたのだと、口付けをねだったのと同じ唇で囁いた。
指輪に釘付けになっている千代の視界に、ラセルタの手のひらが映り込む。
左手の赤い紋章を、愛おしげになぞる、白磁の指先。その手の甲にも、同じ赤色が刻まれている。
「お前との繋がりはこうして刻まれてはいるが……誠意は形にしておくに限るからな」
優しい声で告げる彼の薬指には、まだ、なにもない。
顔を上げた。真っ直ぐに、ラセルタを見つめるために。
唇が震えている。喉が引きつったのか、舌が回らないのか。言葉が上手く吐き出せない。
優しい顔は、促すでもなくただただ見つめて、待っていた。
「あなたのゆびわは、おれがはめたい」
掠れた声は、掻き消えることなく届いただろうか。
案じる千代の眼前で、ラセルタがふわりと微笑んだ。
手のひらに預けられた対の指輪を、一度愛おしげに撫でた千代は、その視界が滲むのを自覚する。
胸いっぱいに膨れた気持ちが、瞳からこぼれていく。
止まらない。止められない。押しとどめる必要なんて、ない。
優しく溢れ続ける涙で視界はぼやけ、重ねた左手の輪郭もおぼろげで。
それでも間違いなく彼の薬指に指輪を通した千代は、しっかりとラセルタを見つめる。
「――俺の、家族になってください」
幸せを湛えた満面の笑み。その瞳がこぼす涙さえも愛おしむように、ラセルタも殊更幸せそうに、微笑う。
「笑うのか泣くのか、どちらかにしろ」
そんな台詞を漏らすのは、きっと、照れくささが滲むせい。
だけれど、真っ直ぐな言葉と眼差しを、しっかりと受け止めて、ラセルタもまた、濡れる瞳を見つめた。
「無論だ」
頷いてみせて、そっと寄せた唇で、千代の涙を拭い取る。
指先で払うのは簡単なこと。だけれど、全て受け入れてみせると、告げるように。
だって、当たり前のことではないか。
この暖かな雫は、愛しい恋人の気持ちそのものなのだから。
雪は祝福を湛えて降り積もる。だけれど二人の心は冷えることなく、幸福な熱に満たされていた。
高級感のある品揃えに舌鼓をうって、羽瀬川 千代はほっと一息を零す。
(忙しない年の瀬にくつろげるなんて……)
働き者の千代としてはほんの少し落ち着かない気もする。あれもこれも、まだ片付けておきたいことは沢山有るのだ。
けれど、これも大切な人の願いの一つ。
誰にも邪魔されずに千代を独占したい。そんな、ラセルタ=ブラドッツの願いの現れ。となれば、叶えずにいられようか。
落ち着いた雰囲気の室内は、時間の流れもゆったりと感じさせる。
ささやかで他愛のない話も特別に聞こえるようで、ラセルタの表情も穏やかに緩んでいた。
そんな彼と共に窓辺から星空を見上げるのも良いが、この部屋には更に絶景を拝める露天風呂が備わっているのを、千代は知っている。
『白馬岳』の頂上に位置する、限りなく空に近いこの場所で、硝子の仕切りを挟まずに星空を見ることが出来るのだ。
(折角なら、一緒に見たい)
そんな風に思うけれど、ラセルタが寒々しい露天風呂を厭うのも知っている。
だから一つ、手を打ったのだ。
「美しい冬の星を、ラセルタさんと一緒に見たい」
ねだるような声で見つめる千代の手には、盆に乗せられた徳利とお猪口。
その中身が何であるかなんて野暮なことは、聞くまでもない。
悪戯な顔で笑う千代が選んだ酒ならば、きっと旨いに違いないと、ラセルタは嘆息した。
「否と言わせないつもりだな」
「だって、折角だから」
釣られてくれたラセルタに、嬉しそうに微笑んで。二人は冷たい風に体の芯を冷やされてしまわぬ内に、湯船の中に滑り込んだ。
ツイ、と水面に浮かべた盆を手元へと滑らせて、千代はお猪口に酒を注ぐ。
「……のぼせるかもしれないから、少ーしだけ。ね?」
ラセルタがアルコールに弱いことを、千代は知っている。それでも酒を好むことも、よく。
だから言葉通り、注ぐ酒はほんの少し。差し出してくるお猪口を受け取りながら、対の手で千代の濡れた黒髪を撫ぜて。くすぐったげに笑う顔を、愛おしむように見つめた。
随分と俺様を扱うのが上手くなったものだと、心の中だけで皮肉げに笑う。
無論、それは皮肉そのものではなく、それだけ心を許し合っているのだという認識に変わるもの。
ほんの少し、舐める程度の酒を手元に置き、にこにことしている千代を横目に見て、ラセルタは彼の眼前に浮かぶ盆から徳利をさらう。
「……素面は許さん、お前も飲め」
そう言って、自分と同じだけの酒を注いでやった。
ザルである千代が、その程度で酔うとは思っていないけれど。
お互いの手に同じものを持って、同じ空を見て。
「綺麗、だね」
「ああ」
感想に、同意をして。
そうやって時間を共有していく。
こんこんと湧き出る温泉は冬空の下とて熱く、舌先から染み込むような酒もまた、暖かく。
ほぅ、と零した吐息は白く、湯気の中に溶けて。時間がまた一層、ゆっくりと紡がれているように感じる。
星空から視線を下ろせば、ほの白い視界の中に銀の髪が映るのを、見つけた。
美しい白磁の肌には熱の色がほんのりと浮かび、濡れた銀がひたりと張り付いて。
――なんと煽情的だろう、と。
ざぶん。脳内に過ぎった妄想に、千代はつい、湯船に顔を埋めていた。
突然顔を覆って沈んだ千代の様子に、ラセルタはかすかに目を剥いたが、視線を向けた彼の黒髪から、赤くなった耳が覗いているのを見つけて、口角を上げる。
「どうした? のぼぜてしまったか」
問いかけが耳に届いた千代は、慌てたように、またざぶんと音を立てて顔を上げると、ラセルタを見やる。
綺麗な、恋人の顔を見つめて。
「ええと、うん……綺麗だなあって」
星空に向けたのと同じ単語は、視線の先に捧げるもの。
つい、ラセルタの喉が音を立てた。
「そうか」
くつくつと笑うラセルタの胸中は、今すぐにでも千代を湯船から引き上げ可愛がってやりたいと願っているけれど。
もう少し、綺麗なものを眺めてからでいい。
◆
湯船を滑る盆を捕まえて、露天風呂を離れた後は、ゆったりと浴衣を纏って、柔らかな寝台に座り込む。
ふぁ、と千代の口から小さく漏れた欠伸は、もうじき一日が終わるのを知らせるよう。
二人の時間をゆっくりと過ごしてきたように感じたけれど、後は眠るだけと認識すれば、急にあっという間に感じてしまうから、不思議だ。
そんな彼に、ラセルタはそっと近寄った。
「今日一日、俺様は非常に満喫したが千代はどうだ?」
「ふふ、もちろん満喫できたよ?」
ラセルタの指先が千代の髪をくるりと遊んで、頬に触れる。
まだ少し熱く感じる体に、落ち着いた人肌の温度が心地良い。
「ラセルタさんの事を好きなだけ考えていられて、贅沢な時間だった」
熱に浸るようにゆっくりと瞳を伏せた千代が、幸せそうに告げるのを、ラセルタもまた幸せな心地で聞き止めて。露天風呂の時と同じように、相槌を一言だけ。
そうして、頬を撫でていた指を滑らせ、千代の左手を掬い取る。
とても自然な所作で、さり気なく指を絡めて、千代がかすかに握り返してくれるのを感じて、から。
するり、その薬指に、指輪を嵌めて、離れた。
それは今日という日のためにラセルタが用意していたもの。
手の内に隠すように仕舞い、何の前振りもなく渡されたそれは、ひやりと冷たい心地だけを千代に残す。
「……え?」
不思議そうな顔は、視線を落とす瞬間まで。
それを見つけた千代の目は、大きく、見開かれた。
「伴侶にしたいと、以前告げただろう?」
夢想花の咲き誇る花園で、純白のブーケと黒い角への口付けを受けとったあの時に。
わざわざそんなことをしなくても、既に心は決まっていたのだと、口付けをねだったのと同じ唇で囁いた。
指輪に釘付けになっている千代の視界に、ラセルタの手のひらが映り込む。
左手の赤い紋章を、愛おしげになぞる、白磁の指先。その手の甲にも、同じ赤色が刻まれている。
「お前との繋がりはこうして刻まれてはいるが……誠意は形にしておくに限るからな」
優しい声で告げる彼の薬指には、まだ、なにもない。
顔を上げた。真っ直ぐに、ラセルタを見つめるために。
唇が震えている。喉が引きつったのか、舌が回らないのか。言葉が上手く吐き出せない。
優しい顔は、促すでもなくただただ見つめて、待っていた。
「あなたのゆびわは、おれがはめたい」
掠れた声は、掻き消えることなく届いただろうか。
案じる千代の眼前で、ラセルタがふわりと微笑んだ。
手のひらに預けられた対の指輪を、一度愛おしげに撫でた千代は、その視界が滲むのを自覚する。
胸いっぱいに膨れた気持ちが、瞳からこぼれていく。
止まらない。止められない。押しとどめる必要なんて、ない。
優しく溢れ続ける涙で視界はぼやけ、重ねた左手の輪郭もおぼろげで。
それでも間違いなく彼の薬指に指輪を通した千代は、しっかりとラセルタを見つめる。
「――俺の、家族になってください」
幸せを湛えた満面の笑み。その瞳がこぼす涙さえも愛おしむように、ラセルタも殊更幸せそうに、微笑う。
「笑うのか泣くのか、どちらかにしろ」
そんな台詞を漏らすのは、きっと、照れくささが滲むせい。
だけれど、真っ直ぐな言葉と眼差しを、しっかりと受け止めて、ラセルタもまた、濡れる瞳を見つめた。
「無論だ」
頷いてみせて、そっと寄せた唇で、千代の涙を拭い取る。
指先で払うのは簡単なこと。だけれど、全て受け入れてみせると、告げるように。
だって、当たり前のことではないか。
この暖かな雫は、愛しい恋人の気持ちそのものなのだから。
雪は祝福を湛えて降り積もる。だけれど二人の心は冷えることなく、幸福な熱に満たされていた。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||
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リザルト筆記GM | 錘里 GM | 参加者一覧 | ||||
プロローグ筆記GM | なし |
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エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||
対象神人 | 個別 | |||||
ジャンル | イベント | |||||
タイプ | イベント | |||||
難易度 | 特殊 | |||||
報酬 | 特殊 | |||||
出発日 | 2016年12月18日 |