プラン
アクションプラン
シャルル・アンデルセン (ノグリエ・オルト) (ツェラツェル・リヒト) |
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10 神聖なツリーに飾り付けするのって少し緊張しますが…ツリーの飾りつけをお二人と出来て嬉しいです。 オーナメントには一つ一つ意味があるんですねぇ…それにさらに思い込めるというのは大切なことではないでしょうか。 なんて思ってましたが…オーナメントを飾るのが楽しくてどこかにいってしまいました。 丸いボールのオーナメント。キャンディスティックのオーナメント・・・どれも可愛いですよね。 朝目覚めると靴下にはプレゼント。 去年、私もサンタさんからプレゼントをいただいてしまって去年は何も準備できなかなかったので今年は枕元にクッキーとミルクを置いておこうと思います。 ツェラさんは初めて私の歌を聞いてくださったんですよね。あんな風に歌うのは初めて・・・いえ大勢の前で歌う機会はあったのですが「みなさん」に向けて歌うのは初めてでしたから気にいっていただけましたでしょうか? 「この聖なる夜にどうかすべての哀しみに癒しを」~♪ |
リザルトノベル
シャルル・アンデルセンは、澄み渡った古代の森の空気を吸い込んで白い息を吐き出した。
しんしんと、静かな森には雪が舞っている。
シャルルが絹の手袋を嵌めた掌を差し伸べると、綺麗な六角形の結晶がふわり舞い降りた。
「大きな雪の結晶ですね。美しいです」
シャルルの手元を覗き込んで、ノグリエ・オルトが瞳を細める。
「はい、本当に綺麗です……」
シャルルは小さく頷き、雪の結晶を見つめ微笑んだ。
そんな二人の様子を、ツェラツェル・リヒトは複雑な思いで眺めている。
『ツェラさんも一緒に行きませんか? 私とノグリエさんとツェラさん──三人で一緒に行きたいんです』
シャルルに誘われた時は、本当に驚いた。
そして、それを受け入れた己にも。
誘われるとは思わなかった。しかも三人で、などと。
「シャルル、寒くないですか?」
ノグリエがシャルルの首に、自分の巻いていたマフラーをふわりと掛ける。
「ありがとうございます、ノグリエさん」
ほんのり頬を染め、シャルルが蜂蜜色の瞳を細めた。
ツェラツェルはその光景から無意識に視線を逸らし、空を見上げる。
(ノグリエと二人で過ごせばいいというのに……)
ゆっくりと舞い落ちて来る雪は、眩しいくらいに美しかった。
(私のことなんて気にしなくていい。だが……誘ってもらえたのは嬉しかった)
「ツェラさん、どうかしましたか?」
振り返って来たシャルルの声に、ツェラツェルは視線を彼女に戻した。彼女は少し心配そうにこちらを見ている。ツェラツェルは、眼鏡を指先で押し上げた。
「いや、なんでもない。先を急ごう」
シャルルとノグリエを追い越して行けば、二人も彼の背中を追い掛けるように歩き出す。
(まさか……クリスマスを三人で過ごすことになるとはね)
ノグリエは、先を歩くツェラツェルの後ろ姿を見つめ、心内で呟いた。
隣を歩くシャルルをちらりと見遣る。
三人でクリスマスを過ごしたいというシャルルの達ての願い──ノグリエには無下にする事などは出来なかった。
(ツェラツェルの方が断ると思ったのですが……)
しかし、こうして三人で過ごす事になった現実に、ノグリエはツェラツェルの心境の変化を改めて実感している。
「あ」
シャルルの唇が動き、前を指差すのにノグリエは一旦思考を切り替えた。
「メリーツリーが見えました」
シャルルの指差す先に、一際大きな木が見えて来ていた。
「近くで見ると、一段と大きいですね……」
シャルルはそびえ立つ大樹に、大きく溜息を吐く。
緑のきれいな葉がふさふさと生い茂り、雪の結晶を受け止めて煌いていた。
『メリーツリー』は仄かに輝いているようで、何処か温かいような気がする。
「荷物はここでいいか?」
「そうですね、この辺りがいいでしょう」
ツェラツェルとノグリエが、互いに持ってきた鞄を地面に下ろした。
二人が鞄を開き箱を取り出せば、その中には美しいオーナメントが幾つも収められている。
ここに来ると決めて、シャルルがノグリエとツェラツェルに意見を聞きながら選んだオーナメントだ。
その時の事を思い出して、シャルルは僅かに口元を緩める。
「オーナメントには、それぞれ意味があるんですよ」
A.R.O.A.職員がそう言って、箱を机の上に置いた。
種類毎に仕分けされ、区切られている箱の中には、様々なツリー用のオーナメントが入っている。
「好きなものを持って行ってくださいね」
「ありがとうございます」
シャルルはじっと箱を見つめた。
A.R.O.A.職員か、もしくはこのオーナメントを用意してくれたノースガルドの町の人のものか──箱の仕切り部分に、オーナメントの意味を書いたカードが貼られている。
「オーナメントには一つ一つ意味があるんですねぇ……」
(それにさらに思い込めるというのは大切なことではないでしょうか)
シャルルは真剣にカードの言葉に視線を巡らせた。
「シャルルは何を選びますか?」
不意に隣のノグリエに尋ねられ、シャルルは瞬きした。カードの意味の部分を置いておいても、どれも本当に綺麗で可愛らしい。
「丸いボール……キャンディスティック……どれも可愛いですよね」
カラフルで煌びやかな丸いボールと、杖の形をしたキャンディにシャルルは瞳を細める。
「ボールは『クーゲル』とも呼ばれるそうですよ。『豊かな実り』、『生きる喜び』を表しているようですね」
ノグリエは、カードの解説を読みながら白いガラスのボールを手に取った。
「色にも意味があるみたいです。白は『純潔』ですか」
「緑は『永遠』なんですね」
シャルルも緑のボールを手に微笑む。
「キャンディスティックは、『助け合いの心』、『硬い信条』……か」
シャルルが見ていたキャンディスティックを、ツェラツェルが指先で摘まんだ。
赤と白のストライプのステッキは、可愛らしい大きさでツェラツェルの掌に収まる。
『助け合いの心』──ツェラツェルの口から出た言葉に、シャルルは胸が温かくなるのを感じた。
少しずつ変わってきた彼との関係。
助け合い、共に歩いていく事が出来たら、それはどんなに嬉しい事だろう。
「ああ、これも外せませんね」
ノグリエが赤いリボン飾りを指に絡めとるように持った。
「結んだリボンには、『永遠に結ばれる』という意味があるので」
にっこり微笑み見つめてくるノグリエに、シャルルは頬が熱を持つのを感じたのだった。
「さて、飾って行きましょうか」
そう言ったノグリエの手に赤いリボン飾りを認め、シャルルは今もまた顔が赤くなるのを感じる。
「どんな風に飾りましょう?」
首を傾けるノグリエと目が合って、シャルルは深呼吸して速い鼓動を落ち着けてから微笑んだ。
「あの、自由に飾っていきませんか? それぞれが良いと思うところに……」
そうして出来上がる、三人だけで飾ったツリーを見てみたいと思う。
「……不格好になっても責任は取らんぞ」
くいと眼鏡を指先で押して言うツェラツェルに、シャルルは首を振った。
「きっと大丈夫です」
シャルルの笑顔を合図に、三人はメリーツリーの飾り付けを開始する。
シャルルがまず手に取ったのは、ジンジャークッキー。
スタンダードな男の子の形に、家、ハート型など、カラフルで心温まる造形に心癒される。
『無病息災』や『幸運の祈り』といった意味があると、解説のカードに記されていた事を思い出し、シャルルは丁寧にツリーにクッキーを吊り下げて行った。
まずは男の子のクッキーを一人吊るす。
一人だと寂しい気がして、隣に女の子を並べてみた。
そうすると、もう一人男の子が居た方が良い気がする。
男の子二人と女の子──女の子を挟んで男の子が二人並び、手を繋いでいるように吊るした。
そして、彼女らの近くには、温かい家。
幸せを示すハートマーク。
ツリーの中で幸せそうな三人に、シャルルはにっこりと微笑んだ。
彼らがもっと楽しそうになるように──シャルルは続いてガラス玉に手を伸ばす。
赤・白・緑・金に銀──賑やかに華やかに。
「シャルルはオーナメントを飾るのが楽しいようですね」
赤いリボンをツリーに結びながらノグリエがそう言ったのに、ツェラツェルはキャンディスティックを吊るす手を一旦止めた。
「……そうだな」
瞳をキラキラと輝かせ、夢中でオーナメントを飾るシャルルを、ツェラツェルは見遣り頷く。
「家のツリーを飾り付ける時もはしゃいでましたが……」
そこまで言ってから、ノグリエはツェラツェルの目を真っ直ぐに見つめた。
「シャルルにはこんな風に幸せであって欲しいんです。……今なら貴方もそう思えるでしょう?」
ぴくりとツェラツェルの眉が動いたのを、ノグリエは見ていた。そのまま、言葉を重ねる。
「悲しい過去は封印したままでよかった……キミにとっては違うでしょうが」
ツェラツェルはノグリエから顔を逸らすと、キャンディスティックに視線を戻す。
赤と白の縞模様に触れながら、彼はゆっくりと口を開いた。
「こんな風に誰かとクリスマスを過ごすなんて子供の頃以来だ……母と二人決して裕福ではなかったけれど幸せだったあの日」
ツェラツェルの瞳が伏せられる。
今彼の脳裏に浮かぶのは、幼い頃の自身の思い出と──そして、シャルルと一緒に覗いた赤い瓶に映し出された光景。
豪奢に飾られた牢屋のような部屋の中で、過去のシャルルが父親から受けていた仕打ちとその痛ましい姿。
──シャルルは知らなかったのだ、こんな風な幸せを。
「だから、ノグリエがシャルルの幸せを望むことは当然のことだ……」
今度は、ノグリエが眉を動かす番だった。
「シャルルと過ごしているうちに気持ちが変わりましたか?」
「私は随分とシャルルを傷つけただろうな……」
ノグリエの問いには答えず、ツェラツェルは口の端を上げた。苦々しい笑みが浮かぶ。
「お前の言う通り、記憶を取り戻さない方が幸せだったのかもしれない」
ツェラツェルはシャルルを見た。幸せそうにツリーを無心で飾る彼女を。
「それでも私は過去を暴こうとした。結果がこれだ」
一層自嘲の笑みを深めて、ツェラツェルはノグリエの目を見返した。
「傷付いた筈の彼女に逆に赦された。
私の……いや俺の憎しみも悲しみも当然なのだと言ってな」
ノグリエは、ハァと溜息を吐き、今度こそ口に出して小さく呟く。
「……だから嫌だったんですよ。他の男をシャルルの傍に置くなんて」
「……?」
意味を飲み込めないツェラツェルが眉を寄せれば、ノグリエは両手を広げて肩を竦めた。
「特に君はシャルルを憎んでましたから……その気持ちが無くなった事自体には素直に喜べますが」
「何を言って……」
「ノグリエさん、ツェラさん」
ツェラツェルがノグリエに口を開いたタイミングで、シャルルが二人の名前を呼んで歩み寄ってくる。
己の心臓が大きく跳ねたのをツェラツェルは感じた。
「どうしました? シャルル」
何もなかったような笑顔で、ノグリエがシャルルに尋ねる。
ツェラツェルは咄嗟に眼鏡に手を当てて、表情を消した。
「見てください。靴下のオーナメントがあったんです」
シャルルが両の掌に乗せ二人に見せたのは、白いファーが付いた赤い毛糸の靴下。サンタクロースの靴のような愛らしいオーナメントだ。
「これを見たら、去年、私もサンタさんからプレゼントを頂いてしまった事を思い出して……」
「……サンタ?」
思わず聞き返したツェラツェルに、シャルルは笑顔で頷く。
「朝目覚めると、靴下にプレゼントが入っていたんです。去年は何も準備出来なかったので、今年は枕元にクッキーとミルクを置いておこうと思います」
嬉しそうに靴下をツリーに吊るし出すシャルルを横目に、ツェラツェルはノグリエを見た。
「なんですか……ボクがサンタの真似事をしている事が意外ですか?」
「……まぁサンタは少々意外だったが」
ツェラツェルの言葉に、ノグリエはふっと微笑む。
「……シャルルの為なら何でもしますよ、ボクは」
愛おしむ眼差しがシャルルを向き、ツェラツェルはその瞳を、視線の先を見た。
「少しでも喜んで貰いたかった。……以前の彼女はクリスマスが幸せなものだという事を知らなかったのだから」
ノグリエの声が森の静かな空気に溶けた時、シャルルが振り返る。
「そういえば……ツェラさんはこの間、初めて私の歌を聞いて下さったんですよね」
「……ああ、そうだな」
努めていつも通りに返事を返せば、シャルルが眉を下げた。
「あんな風に歌うのは初めて……いえ大勢の前で歌う機会はあったのですが、『みなさん』に向けて歌うのは初めてでしたから……気に入って頂けましたでしょうか?」
ツェラツェルは、一つ息を吐き出して、口を開く。
「シャルルの歌は素晴らしかった。天使の歌声とはああいうのを言うのだろう」
「そ、そんな大袈裟ですよ……」
見る間に真っ赤になるシャルルに、ツェラツェルは首を振る。
「大袈裟じゃないさ。今も、もう一度聴きたいと思っている」
真っ赤に染まったシャルルの顔が輝く笑顔になって、彼女は一礼した。
「それでは、また聴いて下さいますか?」
「ああ、勿論だ」
すぅと息を吸って、シャルルは飾り付けたツリーを見上げる。
「この聖なる夜にどうかすべての哀しみに癒しを──」
透明な優しい歌声が、メリーツリーを、ツェラツェルを、ノグリエを包んでいく。
「独占できるお前が少し羨ましい」
小さな小さなツェラツェルの呟きに、ノグリエは軽く目を瞠った。
「シャルルが望むのはお前からの愛情だ。幸せにしてやれ」
「……幸せにします。必ず」
メリーツリーは、三人を静かに優しく見つめていた。
しんしんと、静かな森には雪が舞っている。
シャルルが絹の手袋を嵌めた掌を差し伸べると、綺麗な六角形の結晶がふわり舞い降りた。
「大きな雪の結晶ですね。美しいです」
シャルルの手元を覗き込んで、ノグリエ・オルトが瞳を細める。
「はい、本当に綺麗です……」
シャルルは小さく頷き、雪の結晶を見つめ微笑んだ。
そんな二人の様子を、ツェラツェル・リヒトは複雑な思いで眺めている。
『ツェラさんも一緒に行きませんか? 私とノグリエさんとツェラさん──三人で一緒に行きたいんです』
シャルルに誘われた時は、本当に驚いた。
そして、それを受け入れた己にも。
誘われるとは思わなかった。しかも三人で、などと。
「シャルル、寒くないですか?」
ノグリエがシャルルの首に、自分の巻いていたマフラーをふわりと掛ける。
「ありがとうございます、ノグリエさん」
ほんのり頬を染め、シャルルが蜂蜜色の瞳を細めた。
ツェラツェルはその光景から無意識に視線を逸らし、空を見上げる。
(ノグリエと二人で過ごせばいいというのに……)
ゆっくりと舞い落ちて来る雪は、眩しいくらいに美しかった。
(私のことなんて気にしなくていい。だが……誘ってもらえたのは嬉しかった)
「ツェラさん、どうかしましたか?」
振り返って来たシャルルの声に、ツェラツェルは視線を彼女に戻した。彼女は少し心配そうにこちらを見ている。ツェラツェルは、眼鏡を指先で押し上げた。
「いや、なんでもない。先を急ごう」
シャルルとノグリエを追い越して行けば、二人も彼の背中を追い掛けるように歩き出す。
(まさか……クリスマスを三人で過ごすことになるとはね)
ノグリエは、先を歩くツェラツェルの後ろ姿を見つめ、心内で呟いた。
隣を歩くシャルルをちらりと見遣る。
三人でクリスマスを過ごしたいというシャルルの達ての願い──ノグリエには無下にする事などは出来なかった。
(ツェラツェルの方が断ると思ったのですが……)
しかし、こうして三人で過ごす事になった現実に、ノグリエはツェラツェルの心境の変化を改めて実感している。
「あ」
シャルルの唇が動き、前を指差すのにノグリエは一旦思考を切り替えた。
「メリーツリーが見えました」
シャルルの指差す先に、一際大きな木が見えて来ていた。
「近くで見ると、一段と大きいですね……」
シャルルはそびえ立つ大樹に、大きく溜息を吐く。
緑のきれいな葉がふさふさと生い茂り、雪の結晶を受け止めて煌いていた。
『メリーツリー』は仄かに輝いているようで、何処か温かいような気がする。
「荷物はここでいいか?」
「そうですね、この辺りがいいでしょう」
ツェラツェルとノグリエが、互いに持ってきた鞄を地面に下ろした。
二人が鞄を開き箱を取り出せば、その中には美しいオーナメントが幾つも収められている。
ここに来ると決めて、シャルルがノグリエとツェラツェルに意見を聞きながら選んだオーナメントだ。
その時の事を思い出して、シャルルは僅かに口元を緩める。
「オーナメントには、それぞれ意味があるんですよ」
A.R.O.A.職員がそう言って、箱を机の上に置いた。
種類毎に仕分けされ、区切られている箱の中には、様々なツリー用のオーナメントが入っている。
「好きなものを持って行ってくださいね」
「ありがとうございます」
シャルルはじっと箱を見つめた。
A.R.O.A.職員か、もしくはこのオーナメントを用意してくれたノースガルドの町の人のものか──箱の仕切り部分に、オーナメントの意味を書いたカードが貼られている。
「オーナメントには一つ一つ意味があるんですねぇ……」
(それにさらに思い込めるというのは大切なことではないでしょうか)
シャルルは真剣にカードの言葉に視線を巡らせた。
「シャルルは何を選びますか?」
不意に隣のノグリエに尋ねられ、シャルルは瞬きした。カードの意味の部分を置いておいても、どれも本当に綺麗で可愛らしい。
「丸いボール……キャンディスティック……どれも可愛いですよね」
カラフルで煌びやかな丸いボールと、杖の形をしたキャンディにシャルルは瞳を細める。
「ボールは『クーゲル』とも呼ばれるそうですよ。『豊かな実り』、『生きる喜び』を表しているようですね」
ノグリエは、カードの解説を読みながら白いガラスのボールを手に取った。
「色にも意味があるみたいです。白は『純潔』ですか」
「緑は『永遠』なんですね」
シャルルも緑のボールを手に微笑む。
「キャンディスティックは、『助け合いの心』、『硬い信条』……か」
シャルルが見ていたキャンディスティックを、ツェラツェルが指先で摘まんだ。
赤と白のストライプのステッキは、可愛らしい大きさでツェラツェルの掌に収まる。
『助け合いの心』──ツェラツェルの口から出た言葉に、シャルルは胸が温かくなるのを感じた。
少しずつ変わってきた彼との関係。
助け合い、共に歩いていく事が出来たら、それはどんなに嬉しい事だろう。
「ああ、これも外せませんね」
ノグリエが赤いリボン飾りを指に絡めとるように持った。
「結んだリボンには、『永遠に結ばれる』という意味があるので」
にっこり微笑み見つめてくるノグリエに、シャルルは頬が熱を持つのを感じたのだった。
「さて、飾って行きましょうか」
そう言ったノグリエの手に赤いリボン飾りを認め、シャルルは今もまた顔が赤くなるのを感じる。
「どんな風に飾りましょう?」
首を傾けるノグリエと目が合って、シャルルは深呼吸して速い鼓動を落ち着けてから微笑んだ。
「あの、自由に飾っていきませんか? それぞれが良いと思うところに……」
そうして出来上がる、三人だけで飾ったツリーを見てみたいと思う。
「……不格好になっても責任は取らんぞ」
くいと眼鏡を指先で押して言うツェラツェルに、シャルルは首を振った。
「きっと大丈夫です」
シャルルの笑顔を合図に、三人はメリーツリーの飾り付けを開始する。
シャルルがまず手に取ったのは、ジンジャークッキー。
スタンダードな男の子の形に、家、ハート型など、カラフルで心温まる造形に心癒される。
『無病息災』や『幸運の祈り』といった意味があると、解説のカードに記されていた事を思い出し、シャルルは丁寧にツリーにクッキーを吊り下げて行った。
まずは男の子のクッキーを一人吊るす。
一人だと寂しい気がして、隣に女の子を並べてみた。
そうすると、もう一人男の子が居た方が良い気がする。
男の子二人と女の子──女の子を挟んで男の子が二人並び、手を繋いでいるように吊るした。
そして、彼女らの近くには、温かい家。
幸せを示すハートマーク。
ツリーの中で幸せそうな三人に、シャルルはにっこりと微笑んだ。
彼らがもっと楽しそうになるように──シャルルは続いてガラス玉に手を伸ばす。
赤・白・緑・金に銀──賑やかに華やかに。
「シャルルはオーナメントを飾るのが楽しいようですね」
赤いリボンをツリーに結びながらノグリエがそう言ったのに、ツェラツェルはキャンディスティックを吊るす手を一旦止めた。
「……そうだな」
瞳をキラキラと輝かせ、夢中でオーナメントを飾るシャルルを、ツェラツェルは見遣り頷く。
「家のツリーを飾り付ける時もはしゃいでましたが……」
そこまで言ってから、ノグリエはツェラツェルの目を真っ直ぐに見つめた。
「シャルルにはこんな風に幸せであって欲しいんです。……今なら貴方もそう思えるでしょう?」
ぴくりとツェラツェルの眉が動いたのを、ノグリエは見ていた。そのまま、言葉を重ねる。
「悲しい過去は封印したままでよかった……キミにとっては違うでしょうが」
ツェラツェルはノグリエから顔を逸らすと、キャンディスティックに視線を戻す。
赤と白の縞模様に触れながら、彼はゆっくりと口を開いた。
「こんな風に誰かとクリスマスを過ごすなんて子供の頃以来だ……母と二人決して裕福ではなかったけれど幸せだったあの日」
ツェラツェルの瞳が伏せられる。
今彼の脳裏に浮かぶのは、幼い頃の自身の思い出と──そして、シャルルと一緒に覗いた赤い瓶に映し出された光景。
豪奢に飾られた牢屋のような部屋の中で、過去のシャルルが父親から受けていた仕打ちとその痛ましい姿。
──シャルルは知らなかったのだ、こんな風な幸せを。
「だから、ノグリエがシャルルの幸せを望むことは当然のことだ……」
今度は、ノグリエが眉を動かす番だった。
「シャルルと過ごしているうちに気持ちが変わりましたか?」
「私は随分とシャルルを傷つけただろうな……」
ノグリエの問いには答えず、ツェラツェルは口の端を上げた。苦々しい笑みが浮かぶ。
「お前の言う通り、記憶を取り戻さない方が幸せだったのかもしれない」
ツェラツェルはシャルルを見た。幸せそうにツリーを無心で飾る彼女を。
「それでも私は過去を暴こうとした。結果がこれだ」
一層自嘲の笑みを深めて、ツェラツェルはノグリエの目を見返した。
「傷付いた筈の彼女に逆に赦された。
私の……いや俺の憎しみも悲しみも当然なのだと言ってな」
ノグリエは、ハァと溜息を吐き、今度こそ口に出して小さく呟く。
「……だから嫌だったんですよ。他の男をシャルルの傍に置くなんて」
「……?」
意味を飲み込めないツェラツェルが眉を寄せれば、ノグリエは両手を広げて肩を竦めた。
「特に君はシャルルを憎んでましたから……その気持ちが無くなった事自体には素直に喜べますが」
「何を言って……」
「ノグリエさん、ツェラさん」
ツェラツェルがノグリエに口を開いたタイミングで、シャルルが二人の名前を呼んで歩み寄ってくる。
己の心臓が大きく跳ねたのをツェラツェルは感じた。
「どうしました? シャルル」
何もなかったような笑顔で、ノグリエがシャルルに尋ねる。
ツェラツェルは咄嗟に眼鏡に手を当てて、表情を消した。
「見てください。靴下のオーナメントがあったんです」
シャルルが両の掌に乗せ二人に見せたのは、白いファーが付いた赤い毛糸の靴下。サンタクロースの靴のような愛らしいオーナメントだ。
「これを見たら、去年、私もサンタさんからプレゼントを頂いてしまった事を思い出して……」
「……サンタ?」
思わず聞き返したツェラツェルに、シャルルは笑顔で頷く。
「朝目覚めると、靴下にプレゼントが入っていたんです。去年は何も準備出来なかったので、今年は枕元にクッキーとミルクを置いておこうと思います」
嬉しそうに靴下をツリーに吊るし出すシャルルを横目に、ツェラツェルはノグリエを見た。
「なんですか……ボクがサンタの真似事をしている事が意外ですか?」
「……まぁサンタは少々意外だったが」
ツェラツェルの言葉に、ノグリエはふっと微笑む。
「……シャルルの為なら何でもしますよ、ボクは」
愛おしむ眼差しがシャルルを向き、ツェラツェルはその瞳を、視線の先を見た。
「少しでも喜んで貰いたかった。……以前の彼女はクリスマスが幸せなものだという事を知らなかったのだから」
ノグリエの声が森の静かな空気に溶けた時、シャルルが振り返る。
「そういえば……ツェラさんはこの間、初めて私の歌を聞いて下さったんですよね」
「……ああ、そうだな」
努めていつも通りに返事を返せば、シャルルが眉を下げた。
「あんな風に歌うのは初めて……いえ大勢の前で歌う機会はあったのですが、『みなさん』に向けて歌うのは初めてでしたから……気に入って頂けましたでしょうか?」
ツェラツェルは、一つ息を吐き出して、口を開く。
「シャルルの歌は素晴らしかった。天使の歌声とはああいうのを言うのだろう」
「そ、そんな大袈裟ですよ……」
見る間に真っ赤になるシャルルに、ツェラツェルは首を振る。
「大袈裟じゃないさ。今も、もう一度聴きたいと思っている」
真っ赤に染まったシャルルの顔が輝く笑顔になって、彼女は一礼した。
「それでは、また聴いて下さいますか?」
「ああ、勿論だ」
すぅと息を吸って、シャルルは飾り付けたツリーを見上げる。
「この聖なる夜にどうかすべての哀しみに癒しを──」
透明な優しい歌声が、メリーツリーを、ツェラツェルを、ノグリエを包んでいく。
「独占できるお前が少し羨ましい」
小さな小さなツェラツェルの呟きに、ノグリエは軽く目を瞠った。
「シャルルが望むのはお前からの愛情だ。幸せにしてやれ」
「……幸せにします。必ず」
メリーツリーは、三人を静かに優しく見つめていた。
依頼結果:大成功
エピソード情報 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
リザルト筆記GM | 雪花菜 凛 GM | 参加者一覧 | ||||||
プロローグ筆記GM | なし |
|
エピソードの種類 | ハピネスエピソード | ||||
対象神人 | 個別 | |||||||
ジャンル | イベント | |||||||
タイプ | イベント | |||||||
難易度 | 特殊 | |||||||
報酬 | 特殊 | |||||||
出発日 | 2016年12月18日 |