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カナリア IL


フェスティバルイベント

『クリスマスを返せ!』

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リザルトノベル【男性側】レッドニス救出チーム

チーム一覧

神人:暁 千尋
精霊:ジルヴェール・シフォン
神人:信城いつき
精霊:レーゲン
神人:鳥飼
精霊:鴉
神人:ハティ
精霊:ブリンド
神人:俊・ブルックス
精霊:ネカット・グラキエス
神人:ヴァレリアーノ・アレンスキー
精霊:アレクサンドル
神人:天原 秋乃
精霊:イチカ・ククル

リザルトノベル

 ラインヴァイス城の門を、トランスのオーラを帯びた影が幾つもくぐり抜けていく。
 雪の城は冷たく厳かで、広々とした大広間が、ウィンクルムを迎え入れる。
「……流石に、数が多いですね」
 障害物が取り除かれた大広間には、階段が一つ。その周辺により多くのオーガが蠢いているのを見とめ、暁 千尋はそっと柱の陰でアヒル特務隊『オ・トーリ・デコイ』のネジを回す。
「どれだけ囮にかかるか分かりませんが、まぁないよりはマシでしょう」
 ジルヴェール・シフォンもまた、敵の目を晦ますための魔法を練り始める。
 同じエンドウィザードであるネカット・グラキエスは、多数の敵のひしめくさまに口角を吊り上げながら、真白な鳩がとまる杖を軽く一振り。
「広範囲殲滅ならお任せください」
 くるり、ネカットが一度確かめるように振り返ったのは、この場を駆け抜け、二階にいるダークニスの元へ向かう仲間達。
 必ず辿り着かせる。その意志を、頷き合う視線に込めて。
 ガァガァと鳴くアヒルが軽快に飛び出し、オーガの視線がそちらへ向くのを認めれば、鴉がけたたましいファンファーレと共に姿を表し、更に視線を集める。
「さぁ、かかって、来てもらえますかね」
 数えきれる気のしない敵を視界に収めながらも胡散臭く笑う鴉に、狼男が突進する。
 しかし、その出鼻を挫くように、ジルヴェールの朝霧が発動した。
 敵にのみ作用する霧に翻弄されている間に、ネカットの属性を表す水の玉は、弾けそうなほどに巨大に膨れ。
「纏めて、飲み込んでしまいなさい!」
 群れたオーガのど真ん中に、炸裂した。
 無論、その一撃が全てを屠るわけもなく。術と術の間をすり抜けるようにして迫る狼男に、鳥飼は果敢に立ちはだかった。
「くっ……」
「鳥飼、少し、頑張ってくれ」
 振りかざされる爪を受け止め苦悶の表情を浮かべた鳥飼の脇を抜け、小さな体が踊る。
 大鎌を振りぬいたヴァレリアーノ・アレンスキーは、その小柄な体を連携に活かし、敵の足を止めた。
 しかし、浅い。屠るには足りない神人たちの非力を補うべく、アレクサンドルは退魔のステンドグラスをはめ込んだ大斧を振りかざす。
 狼男がその動きを止めるのを、見届ける暇もない。
 ジルヴェールのカナリアが耳鳴りのように囀り、敵を穿つが、足りない。
 圧倒的に、手数が足りない。
「ネカ! とりあえずあそこだ、あそこを蹴散らせ!」
「了解です」
 俊・ブルックスが二階への進路を見定め、最も弊害となる敵軍へ向けて、クリアレインを放つ。
 その煌めきは敵にとっては視界を遮る枷となり、味方にとっては目印となる。
 ファンファーレの効果を維持した鴉が、その場所から敵を遠ざけるように移動すれば、道が開く。
 霧の中では、鴉の一際目立つ光と、千尋の放った小さなアヒルの大きな声が、敵にとっては数少ない目標として、意識を奪う。
「あのシャンデリアでも落とせば、更に混乱させられるかしら?」
「駄目ですよ先生、舞踏会を心待ちにしてる人々がいるんですから」
 ちら、と頭上のきらびやかなシャンデリアを見て零すジルヴェールに、窘めるような千尋の声が重なる。
 それもそうね、と肩を竦めたジルヴェールは、視線を再び下へ……魔法弾を放とうとする吸血鬼へと向けると、カナリアの囀りを喚ぶ。
「先生の詠唱の邪魔は、させませんよ」
 雪の城にはよく映える、氷の結晶を振りまく剣を掲げ、千尋は一歩進んで身構えた。

 足止め班を襲うオーガの猛攻を横目に、苦い顔をしながらも、信城いつきは真っ直ぐにヒヅキの元へ向かった。
 正確には、その背後に隠すようにして囚われている、レッドニスの元へ。
 同様にヒヅキと対峙したブリンドは、互いの射程に辿り着いたことを悟り、足を止めてヒヅキを見やった。
 一瞬、攻撃する素振りを見せたヒヅキだが、ウィンクルムがそれ以上踏み込んで来ようとしないのを見れば、掌で遊ばせた暗黒色の炎を、持て余すように転がした。
 探りあうような間をおいて、ブリンドは小首を傾げるようにして口を開く。
「それ、前は着けてなかったよな。イメチェン?」
 ブリンドが示すのは、ヒヅキの口元を覆う漆黒の布。
 ヒヅキはその指摘に、ぴくりと反応を示したが、視線を泳がせて、口ごもった。
「これは……」
 特に意図のあるものではない、と取り繕うさまを、ブリンドは興味のなさそうな顔をしながらも、注視する。
(動揺させるネタには、良さそうだが……)
 余り突っ込みすぎては、こちらの準備が整う前に交戦に至ってしまいそうだ、と胸中でひとりごちる。
 準備、とは、一人仲間達から離れて動く、レーゲンのこと。
 ナイトメアの力を宿した鎧を纏ったレーゲンは、乱戦の最中という混乱と、物の影、闇を上手く利用してヒヅキの意識の外にいる。
 周囲を凍りつかせて攻撃の瞬間を無音にする武器、『スノーダスト・ガン』は、不意を打つには最適で。
 デミ・ギルティという存在に相対する上で万全を整えたいウィンクルムは、レーゲンからの合図を、待つことにしたのだ。
 命中率にやや難のある双剣を、確かめるように握り直しながら、イチカ・ククルはヒヅキの影に居るレッドニスへ、ちらりと視線を投げる。
(兄弟喧嘩っていうには規模が大きすぎるかな)
 元はといえば彼らの些細な行き違いと、仲違い。
 二人の気持ちが再び通い合うことがあれば、丸く、まぁるく収まることなのかもしれないけれど。
 レッドニスの表情がどこか苦しげに見えるのを見とめ、天原 秋乃も痛ましげに眉を寄せた。
(兄弟で争うなんてイヤだよな)
 兄を拘束し、利用しようとしているダークニスは、今はその兄をどう思っているのだろう。
 逆に、レッドニスはダークニスのことを、どう思ってるのだろう。
「……本人に、聞くしか無いよな」
 サンタが幸せではないのなら、クリスマスなんて、やる意味はあるのだろうか。
 その答えを聞くためにも、彼は無事に救わねばならない。
 レーゲンからの合図はまだない。急く気持ちを押さえながらも、いつきは意を決したように、ヒヅキに声をかけた。
「俺は滅びが綺麗って思えない……悲しくないの?」
 言葉通り、悲しみを宿したようないつきの瞳が、ヒヅキを真っ直ぐに見つめた。
 けれど、ヒヅキはどこか不思議そうに……あるいは、どこか憐れむように、小首を傾げてみせた。
「君はまだ、滅びの美しさに気づいていないだけ。悲しみは美しいものだよ」
 口布に隠れて見えにくいヒヅキの表情だが、薄く細められた瞳に過る、どこか陶酔したような装いが、その口元に笑みを浮かばせていることを悟らせる。
 恍惚とした顔が、ふわりと、仰ぐように頭上を見つめる。
 素晴らしき滅びをもたらしたダークニスへと、思いを馳せるように。
 おぞましささえ過るヒヅキの様子に、ウィンクルムたちが眉をひそめると同時、階段の方から、悲鳴が聞こえた。
「っ、振り返らないで、行ってください!」
 膝をつき、掠れた声を上げる鳥飼の前に、アレクサンドルが庇うように立つ。
 他方から追い打ちをかけようとする吸血鬼へと人形が飛び込んでは爆ぜ、妨害する。
 その奥、二階へと続く螺旋階段を駆け抜けていく仲間たちの姿を、確かに、見た。
「行って、どうするんだい」
 ことりと首を傾げたヒヅキの声が、いやに響いて聞こえる。
「サンタクロースはまだここに居るのに。この人の力を使えるあの人に、勝てるわけがないのに」
 ふふ、と。ヒヅキは笑う。
 累々と重なり合うだけの末路も、それはそれで、と。そんな風に、笑う。
 ヒヅキの言う通り、ダークニス討伐部隊が攻めこむには、早すぎたのかもしれない。
 せめて不意打ちを仕掛けた後ならば、と思いもしたが、足止め側の陣形が崩れつつある中では、気を引く作戦の数々が功を奏している間でなければ、突破すら不可能だっただろう。
 彼らの選択は、今出来る最善。
 ならばその最善を、最良にすべく、努めるしかないのだ。
「サンタクロースを……クリスマスを、取り返す」
 ハティが毅然と言い放つ言葉は、空気に飲み込まれかけたいつきの声を取り戻した。
「こんな、悲しいクリスマスのままでは、終わらせないよ!」
 奮い立たせるような言葉に、くすり、ヒヅキは笑う。
「明るいものしか見えないのは、不幸だね……」
 どうせどうせ、最後には全て滅びるのに。
 ヒヅキが愉悦じみた笑みを浮かべるのと、いつきがレーゲンの合図を受け取ったのは、ほぼ同時で。
 カツンッ、と、いつきの封樹の杖が氷の床を打つ音が響く。
 瞬間、ヒヅキの側面から、凝縮された水の弾丸が放たれ、その身をしたたかに穿った。
「畳み掛けるよ!」
「援護頼んだ!」
 イチカとブリンドが同時に距離を詰め、追撃を仕掛ける。
 手応えはあった。しかし同時に、接敵した二人はヒヅキの表情が変わったことを、悟る。
「そういう手段は、嫌いだな……ああ、ああ、大嫌いだ!」
 ヒヅキの手元に黒炎が湧くのを見て、ぞくりと奔った悪寒に従うように距離を取るイチカとブリンド。
 その直感は正解で、寸でのところで直撃は免れたが、魂がひりひりと焼けつくような、言い様のない感覚に、つぅ、と冷や汗が伝う。
 どこかやる気の伺えなかったヒヅキの意識が完全に戦いに傾いたさまを見て、杖を握りしめたいつきは唇を噛む。
(本当の『逆鱗』に触れたみたいだ……)
 Bスケールオーガを倒したという朗報と共に得た、強大な敵にも弱点に値する物がある、という情報。
 ヒヅキの『それ』も見つけられたなら有利になるかと思ったが、こうなっては、探しようがない。
 ただ、ヒヅキが交戦しようとしたのはある意味では幸いだった。レッドニスから意識が逸れた瞬間を見計らい、ハティがレッドニスへと駆け寄る。
 無論、それを阻止するのが己の役目であるヒヅキが、ハティの行動を容認するはずがないのだけれど。
 殺意に満ちた視線がハティへと向けられるのを見とめ、ブリンドは舌打ちして間に立ちはだかる。
「させ、るか……!」
 きゅ、と引き絞った矢を放ち、ヒヅキの目を眩ませようとする秋乃。
 しかしその目が眩んだところで、彼にはあまり関係なかった。
 レッドニスを救出しようとするハティがいて、それを庇うようにブリンドがいる。
 そう、目の前に敵がいることは、明白だったのだから。
「ぐ、ぁ……!」
「ブリンドさん!」
 魂の焼かれる感覚に、ブリンドの身が傾ぐ。ヒヅキの背後から斬りつけたイチカへも、黒炎は迫る。
 しかしその身を悪意から守らんとする炎のオーラが、素早く反撃を繰り出し、間一髪、免れた。
 駆け寄ったレーゲンがヒヅキの死角に潜もうとするのを助けるように、いつきの杖が蔓草を呼び出し、ヒヅキに絡みついた。
「ハティさん、急いで!」
 焦燥が、声になる。蔓草の妨害など物ともせず、吐き散らすように放たれた黒炎がイチカを飲み込むのを見てしまえば、なお。
 そして声が聞こえるからこそ、ハティは焦らぬよう己に言い聞かせながら、漆黒の茨を削いでいく。
 振り返り確かめることも出来ない戦場に響く、どさりと身の崩れる音は、誰のものか――。

 ヴァレリアーノは一人、ヒヅキとオーガの群れの間にて状況を把握していたため、気付けた。
 ヒヅキと対峙する仲間の苦戦を。
 そして、同様にオーガの群れと対峙する仲間の、苦戦を。
 積極的に前に出ていた神人である鳥飼が、真っ先に崩れた。その身を庇う役目は、アレクサンドルから鴉に移ったが、彼にはオーガの群れを倒しきるだけの力は、ない。
「主殿は、どうしてこう、いつも無茶をしてくれるんでしょうね……」
 苦言に似た台詞を吐く口元は、常と同じで笑みが浮かんでいるが、やや引きつっている。
 頼りの火力であるエンドウィザードを支える千尋と俊が、MP補填のためにディスペンサを使った反動で一時戦線離脱している事もあって、前衛と呼べるのはアレクサンドル一人。
 鴉がパペットをけしかけてその足を止めるが、アレクサンドルの負担を軽減するには至らない。
「ネカ、後、何回撃てる……?」
「そうです、ね……パン籠一発、どーんと……で、打ち止めです」
 攻撃を受けないように移動しながら、ネカットが小さく笑う。
 爽快に敵を蹴散らした範囲攻撃も、後一回きり。大事に使わねばならない。
 同様に、ジルヴェールの魔力も底が見えている。苦い笑いが零れるのを、抑えようがなかった。
「チヒロちゃん、もう、下がってて」
「いえ、まだ……僕もまだ、頑張れます」
 鳥飼ほど深刻ではないが、千尋も十分満身創痍だった。
 案じるジルヴェールの声を振りきり、襲いかかろうとする狼男の前に立ちはだかった千尋は、奮闘虚しく、叩き伏せられた。
 ぎりぎりの防戦。己の血が滴る感覚には若干の愉悦を覚えるものの、敗戦色の濃い状況に、アレクサンドルは舌を打つ。
 くるりと見渡した視線が周囲に仲間の居ないことを確かめてから、すぅ、息を吸う。
 刹那、アレクサンドルを中心に暴風が吹き荒れ、周囲の敵を吹き飛ばす。
 それを、見て。ヴァレリアーノは駆けた。
 侵食が一気に進んだアレクサンドルが崩れるのは、時間の問題だ。
 この状況を打開するにはレッドニスを救出する他、無い。
 ヒヅキにとって戦場の外に等しかった場所から駆けつけてきたヴァレリアーノは、阻まれることなくレッドニスの元へ近づく。
「手伝う」
「助かる」
 短いやり取りで役割を確かめ合った二人は、なんとかレッドニスの拘束を解くことに、成功した。
 レッドニスの意識はない。二階での戦闘の影響で、力を奪われすぎたのだろう。
 危険な状況であることは明らかであるからこそ、二人は即座にレッドニスを抱え、撤退する。
 そこでようやく振り返った戦場は、一言で言えば凄惨だった。
 しかし、魔守のオーブを握りしめ、ヒヅキの前に立ついつきの姿を見ては、足を止めるわけには行かなかった。
 レッドニスを抱え、駆け出す二人を庇うように秋乃が弓を突きつけたが、ヒヅキは何かの糸が切れたように、静かな目をしていた。
「これじゃ……こんな滅びじゃ、美しくないよ。もっともっと素晴らしい滅びがあるはず……」
 ぶつぶつと呟いたヒヅキは、足元で倒れ伏している精霊たちを一瞥だけして、ふらり、どこかへと去ってしまった。
 追うだけの余力は、ない。
 ボロボロになったアレクサンドルを、興味を無くしたように放り捨てた狼男が、ふん、と鼻を鳴らす。
「所詮、デミ・ギルティか」
「途中で逃げるとはな」
「まったく、興醒めだ」
 口々にヒヅキを罵るオーガ達もまた、同様に、一切の興味を無くしたように去っていく。
 最後のとっておきをぶちかました後のネカットは、途端に襲いかかった強烈な疲弊感に崩れ落ち、それを支えた俊は、安堵に満ちた息を吐く。
「……終わった、のか……?」
 ダークニス討伐部隊を送り込む役目と、レッドニスを救助するという役目は、果たした。
 数の不利を耐え切った彼らの多くは、その結末を見届けることは出来なかったけれど。


(執筆GM:錘里 GM)

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