リザルトノベル【男性側】結界石破壊チーム
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●門前・陽動遠く地平の向こうから、朝を告げる陽光が伸びてくる。
常ならば、それは一日の始まりの合図。
しかし今日に限っては、そうばかりとは言えなかった。
今はギルティの居城となった、真っ白なラインヴァイス城を取り戻すために。
日の出とともに、ウィンクルムは武器をとる。
雪を踏み、まず駆けだしたのは陽動班だ。
城門を固く閉ざしている結界石は、城の四方にあるという。それを守るオーガを、門前に集めるのが彼らの仕事である。
ロキ・メティスとローレンツ・クーデルベル、そしてカイエル・シェナーと、エルディス・シュアは、南から西回り。叶と桐華、新月・やよいとバルトは、東回りに走って行く。
だが彼らの行動に気付いた敵もいた。足の速いデミ・ウルフや鼻の良いデミ・ワイルドドックたちである。
「皆を追いかけられちゃ、困るんだよな」
終夜 望は片手剣『破邪』を振り上げた。こちらに尻を向けている、犬のオーガにまず一閃。イレイスはやれやれと嘆息しつつも、さすがに弟を放っておくわけにもいかない。マジックブックを取り出した。
彼らに後を任せて西に向かったカイエルは、口元に手をあてて叫んでいる。
「おい、敵はこっちだ!」
剣をあえて高い位置で振り、いかにも注目を集める素振り。
「もう少し、派手にするか?」
エルディスはメイス『御神渡り』を振り上げ、思い切り地面を叩いた。ごおお、と地響きに近い音を立てて、大地が揺れる。
びくり、敵の動きが止まり、視線は一気にエルディスへ。
その先ではローレンツが、より多くの敵を引き付けていた。『アプローチ』である。
「ロキに大丈夫って言ったから……大丈夫にしなくちゃ」
言ううちに、デミ・大ラットのぎょろりとした目が、デミ・ボアの大きな鼻が、そしてデミ・ベアーの前足が、ローレンツの周りで動く。
ロキは彼を守るように、ウィンクルムソードを構える。相棒だけに、敵を任せるわけにはいかないのだ。
一方東へ向かった桐華は、左右の手に握った剣を振るい、軽やかな動きで敵を切りつけていた。狙うは足、動きを止めることが最優先だ。
「ほらほら、こっちにおいでよ!」
叶は刀を手に、大きな声を出す。もちろん集めたところで、やってきた敵にはさくっと一撃。
「石のとこにも、他の人のとこにも行かせないからね」
「そうだ、全部こちらに来い!」
バルトは両手に剣を握っている。デミ・ゴブリンがキイと鳴き、さびた鎧をがちゃがちゃと動かして足を向けてきた。
「バルト、こちらからも来ました!」
バルトの右手側で、やよいが叫ぶ。弓で狙いを定めた先には、地に密集するデミ・大ラット。
敵の前歯が、かちかちと音を立てている。
●北
ラインヴァイス城と正反対の北側、結界石付近。
「陽動作戦は、成功しているみたいだね」
増えない敵を前に、李月はゼノアス・グールンを見上げた。だとすれば、後はやることは決まっている。
二人は口元に両手を添えて、胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「わーっ!」
「オオ―ッ!」
敵の中央に飛び込んで、背中合わせ。精一杯に声を出し、周囲にいるデミ・ワイルドドックにデミ・ウルフ、デミ・シルバーウルフを引き付ける。そして、ぐるる、と鳴く敵に、それぞれ剣を振り上げた。
その隙に石を狙うのは、ラティオ・ウィーウェレと、ノクスである。
李月とゼノアスの策も見事だが、北から西へ向かっていった碧とルミエール・フワンボワーズ、そして咲祈とサフィニアが、通りすがる敵を倒していってくれたのも幸いだった。
ノクスは『アーマードマスター』を発動し、ラティオの前で『ハンドアックス』を振るう。
地面の上に設置された結界石が、眼前のウルフのすぐ近く。
「これさえどかせば……」
ガキン! 敵が、ノクスの盾に噛みつく。その衝撃に一瞬腕が揺れるが、しかし。
「行け!」
近くに他の敵はない。石を壊すなら今だ。
敵の横を走り抜け、ラティオが剣の切っ先を石に当てる。そして――ガシャリ。
「結界石、破壊したぞ!」
ラティオの声は、周囲に響き渡った。
●南
オ・トーリ・デコイ。黄色いアヒルが、かたかたと雪の上を進んでいる。
それを追うのが、犬系のデミ・オーガたち。ふんふんと鼻を鳴らしている様は、一瞬ここが戦いの場であることを忘れさせ――。
「はしないよね、クロさん!」
「当たり前だろ」
永倉 玲央が言えば、クロウ・銀月が紫煙を吐き出し武器をとる。狙うはアヒルにつられている犬たちだ。
その犬たちと一緒に居るデミ・ゴブリンを相手に、雨宮・水生は剣を握った。敵は何もここで倒さずとも、石から引き離してやればいい。
ちらりと刃を見せてやれば、ゴブリンたちはつられたのか、自らも武器を振ってくる。それをあえて放置して、門前へ向かって走る。気を引くためにと、道中の敵にも剣を向けた。それに続くのがコンラート。ロングソードで斬りつける。
西園寺優純絆は小さな両手で、女神の力が宿る杖を振った。きらきらと舞う力の粉。これで準備は万端だとばかり、こちらは結界石を目指して走り出す。
「カズちゃん、行くのだ!」
「おい、ユズ!」
十六夜和翔が、すぐさま優純絆の後を追い、向かってくる敵に双剣を振るった。小さな体を生かして敵の懐に入り、相手の体に斬り込むのだ。
その後方。うばらは、向かい来るデミ・トレントに、両手で手裏剣を投げつけた。
「この戦いの原因のひとつが、兄弟のすれ違いってのが気に食わねぇ」
小さな刃は左右から同時に敵を襲う。その間に、ちらり、葵田 正身に視線を向ける。だがこちらの戦いもあるから、一瞬だ。
正身も雪原で戦う本日ばかりは、さすがに黒づくめの衣装ではない。鎧に腕を通し剣を持ち、デミ・大ラットに傷をつける。
そこに、何かに反射した陽光が届く。ローランド・ホデアだ。彼は『クリアライト』の刃を、きらりと輝かせた。今は敵を倒すよりも、撹乱することが優先だ。
身体のあちこちには、既にいくつもの小さな傷がついているが、気にはしない。敵の蠢く中を突き進んできたのだから、これは当然のこと。
――だが、それもあと少し。
シーエ・エヴァンジェリンは、『シャイニングアロー』を発動させている。敵の爪も牙も、これですべてはじいてくれる。石まで二人、そのまま突き進む。
「さあ、若!」
――ガシャン。
ローランドの剣が、地上に設置された石に振り下ろされる。
●西
「お、鬼さんこちら、ですっ!」
ユフィニエは幼い声を張り上げて、敵の注目を促している。そんな彼を守るように、アッシュはぴったりと彼についている。
そうでなければ――。
「フィニ!」
アッシュは、ユフィニエの死角にやってきたデミ・ウルフに、ロングソードを叩きつけた。
このまま敵を率いて、石から離す。目指すは門前、その途中。
既にアプローチを発動させているケインの周りには、敵が群れている。異臭を放つデミ・リビングデット、その他犬や鼠や狼たちだ。
敵が結界石に背を向ける形に陣をとれたことは、良策だった。彼らはもう、石のことなど忘れている。
ケインはショートソードを持って、自らが集めた敵を斬りつけた。それに続くのは、ショーン。剣を振るい、ケインが狙った敵にとどめを刺す。
そして石の付近では、北の敵を減らしながら進んできたサフィニアが、『朧月』を発動させていた。石の破壊をする碧とルミエールのために、少しでも多くのデミ・オーガを倒さなくてはならない。
緩慢な動きで敵を翻弄しつつ、戸惑う体に手裏剣を投げつける。
その後ろでは、咲祈が『トランスソード』で、石に向かうデミ・ボアを斬りつけている。
そこに。
「皆、避けろよ!」
ルミエールは『小さな出会い』を発動させた。ソフトボール大のプラズマが、別のデミ・ボアへと飛んでいく。
これひとまず、結界石の周りは落ち着いた。碧は小刀を握り締め、半球状の石に対峙する。
「この石を割ればいいのですね……」
初めての戦いで緊張しきりだったが、相手が動かぬ石ならば問題ない。
――パリン!
短い刃が、石を砕く。
●東
「物は試しで結界石狙ってみようか?」
萌葱は石から少し離れたところで、あえて大声を出した。
陽動班が敵を連れ去ってくれたから、ここにいるデミ・オーガの数は多くはない。それでもまだ、いくらかは残っている。
言葉を解することもなかろうに、声に反応したデミ・ベアーがこちらを向いた。
弓を構える萌葱の後ろ。
「あんたは無茶をするな」
蘇芳は相棒が引き寄せた敵の骨を砕くべく、両手斧を振り上げる。
その間に、石動かなめは石へと近付いている。セレイヤが、彼の道を拓いているのだ。
とはいっても、すべてが好調に進んでいるわけではない。銃で狙いを定めるも、一撃で仕留められるとは限らないのである。
目の前に立ちふさがるのは、デミ・トロールの巨体。
一発を放って注意を引き付け、セレイヤはとっさに横に走り出す。
「石動、さっさと前に行け!」
かなめは一直線に、結界石のもとへと走った。そして半球状の石の前に立ち、一呼吸。
「これが……」
剣を振り上げ、ガシャンと、石を叩き割る。
●再び門前・開城
デミ・ベアーがどさりと地面に崩れ落ちた。ゼク=ファルの『乙女の恋心』が命中したからだ。
陽動組の行動が成功したおかげで、門前は大変なことになっている。集められたデミ・オーガのほかに、石を破壊した仲間もやってきて、敵味方入り乱れての大乱闘。
「ゼク、あっちもだ」
柊崎 直香の指示で、ゼクは次の呪文の詠唱を始めた。
もちろん直香自身も、しっかり武器を握っている。
南から回ってきたシムリスとソドリーンは、ここに来て初めて、武器をとっていた。
「なにもこんな初陣選ばなくても」
言いながらも、ソドリーンはシムリスを背中側へと押しやる。
死にたくはないし、死なれては困るのだ。
目の前には、角の生えた狼。それに、シムリスは手裏剣を投げつけた。
その彼の前方では、エルド・Y・ルークが儀礼刀『エムシ』を振るっている。相棒ディナス・フォーシスは、負傷した仲間のために、『サンクチュアリ』を発動中だ。
「これからもっと負傷者が増えるかもしれませんね……」
ディナスは仲間の様子を案じつつ、エルドを見やる。
――その時。ズズ、と音が聞こえた。
「おや、門が……。結界石が破壊されたのですね」
エルドが眼鏡の奥の目を細める。
ランドヴァイス城の門が、ゆっくりと開き始めていたのだ。
……しかし。
門前には、仲間が抜けられるだけの道がない。
サンクチュアリの前。
水生が大ラットに斬りかかる。その後に続くのは、白い蛇となった武器を持つコンラート。
その背後で、デミ・ワイルドドッグの爪を、ゼノアスのローズの力が跳ね返した。キャインとよろめく体に、李月が剣を刺す。
ノクスは盾で、ラティオに飛び掛かる敵を弾き飛ばした。
隣りのウルフに、背後から斬りかかるのは正身である。それだけでは足りぬとばかり、うばらも手裏剣を放つ。
武器を投げるのは、ソドリーンも同じ。こちらは背に、シムリスを庇っている。
和翔はちょうど、敵の一撃を双剣で受け止めたところ。戦いの邪魔にならぬよう、優純絆はそんな彼を、遠目から見守っている。
ローランドは石を壊した後も、剣を使い続けていた。シーエと共に狙うは、眼前のデミ・シルバーウルフ。
仲間を傷つける敵の爪。だが似たものを武器とする者もある。クロウだ。彼の爪は、玲央がステッキで叩いた敵に、まっすぐに襲い掛かる。
さらにはエルディスの蛇……スネイクヘッドも、敵に容赦はしない。それは群れとなったデミ・ゴブリンの一匹が持つ、古い剣を弾き飛ばした。カイエルが、武器を失くした敵に向かう。
ローレンツも、ゴブリンに一閃を放った。そのすぐそばには、ロキ。
そんな中で、別のゴブリンには、やよいの弓が刺さっている。彼の居場所はいつだって、バルトの右だ。そしてバルトのほうは、やよいを常に意識しながら、両手剣で敵を切り伏せていく。
そこに、集団のデミ・大ラット。
碧はルミエールの前に立ち、小刀で鼠を斬りつける。
しかし中には、思いもよらないところから飛び出すラットもあった。
「アッシュ、後ろ!」
ユフィニエの言葉に、アッシュが振り返る。蛇の力が鼠を襲ってすぐに、ケインのショートソードの刃が落ちた。ショーンも剣を握り締め、同時に攻撃。これで鼠は動かない。
隣の大ラットには、サフィニアの手裏剣が刺さる。咲祈は別の鼠に応戦中。
その後ろのデミ・ボアは、かなめの攻撃を受けてごうと鳴く。だが反撃の間はない。セレイヤの撃った銃弾が、見事眉間を砕いたからだ。
別の敵、萌葱の放った矢が刺さる。向かい来る敵は、蘇芳が『ローズガーデン』ではじいた。
さらには直香の指示により、ゼクの『カナリアの囀り』が飛ぶ。
そこに――。
「あれ、救出班と討伐班じゃねえ?」
望は遠く進んでくる仲間を見やった。
しかしこの混戦状態では、まっすぐに城へと向かうのは難しいだろうと、すぐ気付く。
ここでの戦闘も決して楽ではないけれど、場内ではきっと、更に熾烈な戦闘が待ち受けているに違いない。そう考えれば、彼らがここで敵の攻撃を受けることなど、あってはならないのだ。
「兄貴!」
「ああ、わかっている」
イレイスのパペットが、周囲の敵味方の視線を引き付けるように歩きだす。
「じゃあ僕たちも」
叶が言うと同時、桐華は仲間を誘導すべく、飛び出した。
叶と望と、イレイス。並んで大きな声を出し、手で合図をすれば、他のウィンクルムたちは、この場所が戦いにふさわしくないことを察したようだ。多くの敵は、既に動かなくなっているから、場所を動くのもそこまで厳しいことはないだろう。
そうして開けた道筋を、レッドニス救出チームとダークニス討伐チームが進んでいく。
「頑張って!」
「気を付けて行って来いよ」
「後は任せたからな!」
入口付近で、エルドとディナスが、声をかける。
「私どもは、ここで待っています」
「皆さんご無事で、帰ってきてくださいね」
※
――そして、しばらく後。
すっかり落ち着いた城門に、人影が見えた。場内から、ハティとヴァレリアーノが戻ってきたのだ。
しかもその二人が担いでいるのは。
「レッドニス……!」
誰かが、その名を呼んだ。
しかし彼は、力なく俯いたまま。指先一本動かない。
まさか、と周囲に嫌な予感が走る。それをハティが、否定した。
「死んではいない。意識を失っているだけだ」
そこで、わあと歓声が上がった。
「やったな、お前たち!」
互いの体は満身創痍。だが、クリスマスを取り戻すという任務は達成したのだ。
「とりあえず、街へ戻ろう!」
「レッドニスを病院に連れて行かないと!」
「城の奴らも、すぐに出てくるんだろう?」
「凱旋だ! 俺たちは勝ったんだ!」
一同はハティとヴァレリアーノ、そしてレッドニスとともに、街への一歩を踏み出した。
(執筆GM:瀬田一稀 GM)