桜が咲らえば(寿ゆかり マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

■ふわり桜の香り
―桜の季節になりましたねぇ。タブロス郊外の清流沿いに、桜並木があるのはご存知でしょうか?その桜の数は1000本にものぼり、満開の様子はそれはもう圧巻だとか。
 すごいのは、それだけではないのです。
 その桜は人の楽しそうな笑い声を聞くとふわりと香るのだそうです。
 それはそれは甘く優しい香りなのだそう。

■お誘い
 と、そんな話を週末散歩していた老女から聞いたA.R.O.A.職員はいてもたっても居られなくて桜の管理をしている事務所に問い合わせたのだとか。
 清流沿いの公園がちょうどお花見に適したところで、このシーズンは花見客も多いのだそう。
「というわけで!普段から一生懸命任務をこなしていらっしゃるウィンクルムの皆さんも、花見でパーッと羽を伸ばしてはいかがかなって思ったんですよ!」
 彼は一升瓶片手にそんなことを言う。
 ああ、完璧に飲むつもりで居るなこいつ……。
「桜の花の見事さはもちろんのこと、素晴らしいのはその香りなんだってさ」
 香り?と聞き返すと彼はうんうんと頷く。
「そのおばあちゃんが言うにはね、桜は花見客が楽しそうに笑うと、まるでつられて笑っているようにそのつぼみをほころばせるんだって。その時に、ふわっと甘い香りがするらしいんだけど、その香りがすごく癒しの効果があるらしいですよ」
 なるほど。
「一部の人の間ではアロマテラピーみたいな感じで、桜テラピーとか呼ばれてるみたいです」
 そんなにすごい効果があるの?と身を乗り出すと、彼は笑う。
「いや、怪我が治るとかそういうんじゃないですよ?でも、普段のストレスとかがすぅっと抜ける感覚にはなるんだって言ってました。まあ、個人差はあるでしょうけどね」
 というわけだからみんなでお花見、行きましょうよ。彼はそういって広告を壁に張り出した。

『みんなでお花見にいきませんか?
 ところ:タブロス郊外笑桜公園
 時間 :11:00~15:00頃
 会費 :バス移動ですので、バス代と公園利用費計500Jr頂戴致します。
 持ってくるもの:お弁当・飲み物・はんかち・ちりかみ・おやつ・楽しむ心』

 途中から小学生の遠足みたいになってるぞ!と同僚の声が聞こえたが、るんるん気分の彼はスキップしながらリュックに荷物を詰めるのであった……。

解説

目的:お花見を大いに楽しみ、桜の香りを満喫しましょう。
参加費:一律500Jrです。

今回はお花見ですので、参加者みんなと近い場所でお弁当を食べながら談笑頂く感じになります。桜の花は皆さんの笑い声や笑顔に反応してふわっと香ります。その香りは必ずや日々の疲れを癒してくれることでしょう。
 お弁当ご持参ください。買ってきたという設定でも作ってきたという設定でも。みんなで分け合いっこしても楽しいかもしれませんね。
 飲んだくれ職員君のように、成人済みの方はお酒を持ってきてもOKです。未成年には絶対に勧めないこと☆飲んだくれても帰りもバスで送りますのでそこはご心配なく。
 火気厳禁です。焼肉やジンギスカンはしちゃだめですよ。
 お弁当を食べ終わった後に遊ぶのもOKです。(バドミントンとかいろいろ)
 ただし、他のお客さんに迷惑がかからないよう注意してくださいね。

舞台:笑桜公園 公園の中に小川が流れており、そのほとりに桜並木があります。
   この桜が笑い声に反応して香る不思議な桜。
   この日はとてもいい場所が取れたようですよ。

*交流多めになりそうです。会議室であらかじめ絡みたい方とお話ししておくといいかも。
*アドリブもいつも通り入りそうです。アドリブNGの方は明記ください

ゲームマスターより

お花見だよー!
酒持ってこーい!!
ハッ。未成年の飲酒喫煙は固くお断りいたします。
余談ですが、寿は 酒が無くても酔えます。
よく忘年会などで一滴も飲んでいないのに飲んでいる方とテンションが一緒だと
褒められるんですよ~(褒めてない)

とにかく、今回のエピでは皆さんの素敵な笑顔がかけるといいな!と思っています。
普段の任務にお疲れの方も羽を伸ばしてくださいね!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

信城いつき(レーゲン)

  卵焼にからあげ肉団子エビフライにカボチャのコロッケにいなり寿司、あとデザートも…
(張り切って早朝から作成。二人では食べきれない量に)
みんな良かったら食べて。俺ももらいながらレシピも教わろうっと。
食事後はみんなと桜見ながら話したり遊んだりする

レーゲンお酒飲んでるけど大丈夫かな?酔ったら抱き付く癖あるのに。
俺、抱き付かれたよ何回も!他の人に抱き付かないようにしっかり見張ってないと(使命感)

あっという間に冠編んじゃった、それどうやるの?

帰る頃には疲れて眠くなりレーゲンに背負われつつバスへ
背中あったかいし、桜のいい香りがして気持ちいいや(うとうとしながら、背中にぎゅっとしがみつく)



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  まずは桜の香り確かめたい
元々香りはあると思うんだけど変化するのかなって

さて。

ゼク笑えー、と頬っぺたむにゅー
バスの中からおとなしかったのは察しているので
これぐらいじゃ怒られないんだぞむにゅー
ゼク爺さん長旅でお疲れかい
のんびり僕らのお弁当を準備したまえ

手ぶらじゃないよ
ちゃんと楽しむ心とおやつのバナナは持参したよ

目当ては甘い物なので
やよいくんのお団子とか千亞くんの桜餅とか狙っていくよ
やっぱり団子と言えば桜だよね

ゼクのお弁当はセイリューくんこれよかったら食べて
皆も食べてとひょいひょいパス
ピー○ンとキ○コが入っているのはお見通しだ


小川近くまで見に行きたいな
舞っているのも
水面を流れてゆくのも綺麗だろうし


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  よし。
花見で宴会だな、この面子だと!
こんな事もあろうかと日本酒・ビール・ワインの小瓶をクーラーボックスに入れてきたぜ☆
つまみをしっかり食べつつ桜を愛でながら日本酒。
風流だねぇ!天気よくて良かったな(満面の笑み)。

柊崎さんが気付く前にピーマン肉詰めを全てオレの腹の中へ!とせっせと食べる。他の人にも振舞う。
お弁当の中に柊崎さんの苦手な物あるならどーんとこーい。好き嫌いなく何でも食べるぜ、いただきまーす。
ラキアのおつまみも美味しい。
皆の料理も美味で幸せだな(超笑顔。

バトミントンするなら参戦。
お酒飲んでても平気、スポーツは得意(Lv5)だし。
むしろ酔拳的に強くなるかも!



明智珠樹(千亞)
  「遠足みたいで素敵ですね千亞さん、ふふ…!」
嬉しそうな25歳。
バスからウキウキ、トランプ持参。

>車酔いゼクさん
「おやおやゼクさん、大丈夫ですか?抱きしめましょうか?」
「私も酔っちゃいました…千亞さんに☆」

●お弁当
自分&千亞分を手作り。さくらでんぶ等でハート沢山。
海苔で『千亞LOVE』な愛妻弁当風。
兎型に切った林檎、そしてバナナ持参。
「愛のこもった私のバナナを皆さんにウホホ(蹴られる)」

皆様のお弁当等いただけたら
「皆様テクニシャンです、美味しいです」
と嬉しそうにモグモグ。

お酒も有難くいただき。
「身体が火照っちゃいます、ふふ!」

綺麗な桜と楽しそうな千亞や皆に、己も笑みを。

★絡み・アドリブ大歓迎!


新月・やよい(バルト)
  お酒、ご飯に巻き寿司、団子、あとカメラも買っていましょう

決して原稿をサボりたい訳では…ありませんよ?

バルトはずーっと肩に力が入りすぎです
良い息抜きになればいいなぁ

会場では鼻歌まじりに花見団子を堪能
やっぱりこれですよねぇ
たんまり持ってきて皆さんにもおすそ分け

ねぇバルト
初めての花見はいかがでしょうか
可憐で良い香りですよね

ん?決り事?
強いて言うなら…楽しむ事
飲んで食べて、花を見て
あ。桜は掘り返したらダメですよ。遺体が埋まってます
嘘ですけどっ

思わぬ突込みがあればキョトン
そして噴出します

堅苦しい君より素の君と話したいから
敬語のない方が素敵ですよ
なんて

バルトの緊張が解けたらホッとしたい

あ、僕は二十歳です



 A.R.O.A.本部前から出発したバスは一時間ちょっとかけて、笑桜公園に到着した。
「遠足みたいで素敵ですね千亞さん、ふふ……!」
 心底嬉しそうにバスから降りたったのは明智珠樹25歳。傍らで精霊の千亞は薄く微笑んで答えた。
「桜セラピーか……癒されそうだね」
 そしてこの神人にストレスなどあるのか、と珠樹を見やった。
 彼はすでに車内で一同と大富豪で楽しんできたのである。
 続いてバスから降りてきたのは柊崎直香とその精霊ゼク=ファル。
 直香は公園に顔を向け、すぅっと深く深呼吸をした。
(……優しい香り。……これが、もっと甘い香りに変化するのかな?)
「美しいな、静かにひゃくらをにゃがm……ッ」
 直香は傍らのゼクのほっぺたをむにゅーんと伸ばす。
「ほーらゼク笑え~」
「……直香……」
 直香はゼクが何故バスの中からずーっと大人しかったのかをよ~く知っている。
 そう、彼は激しい車酔いの体質だったのだ。
(これくらいしても怒られないんだぞ~)
 むにゅぅ、ゼクのほっぺたを尚も引っ張ってみる直香。
 あとから降りてきたセイリュー・グラシアがぷっと吹き出した。いつもクールなお顔のゼクの頬がむにむにと伸ばされている。瞬間、ふわっと桜の香りが風に乗ってこちらへやってくる。
「あ……」
 精霊、ラキア・ジェイドバインはその香りに気付き、ふと目を細めた。
「この前一度お花見中止になったから、今日は楽しみだね」
 そういって信城いつきの顔を覗き込んだのはレーゲン。いつきは大きく頷く。
「早起きしていっぱいお弁当作ってきたよ!」
「二人じゃ食べきれないくらいつくったものね、いつき。みんなでたべよう」
 いつきは更に大きく頷き、桜並木の方へと歩みを進めた。
 バスから降りて眼前いっぱいに広がる桜並木にほぅっと感嘆のため息をついたのは、バルト。雪国で生まれた彼は、花見は初めてだ。もちろん、こんな数の桜並木を目にしたことも今までなかったものだから、想像よりも華やかなこの光景にただただ目を奪われ、息を飲んだ。
(……素敵だ)
 傍らでふふ、と笑ったのは神人の新月・やよい。
「綺麗でしょう?」
「……そう、ですね」
 どことなくぎこちない敬語で、バルトは答え、桜並木の方へ歩き始めた。やよいも、それに続いていく。

 レジャーシートを敷いて、ゼクはぺたんと座りふぅ、と息を吐く。直香は彼の背中をぽんぽんしながら言った。
「ゼク爺さん長旅でお疲れかい。のんびり僕らのお弁当を準備したまえ」
 ゼクは小さく頷き、持ってきたランチボックスの中から洋風の弁当箱を取り出した。続いて、温かいお茶が入った水筒。まだ、ボックスの中にはハンカチちりかみとデザートのミニクレープが入っている。ふらぁりとしたゼクを珠樹が気遣った。
「おやおやゼクさん、大丈夫ですか?抱きしめましょうか?」
「止めろ、珠樹」
 ドガッと珠樹に千亞からのうさぎキックが命中する。
「おうふ」
 恍惚とした笑みを浮かべながらゆっくりと崩れる珠樹。
 大丈夫かな、と思いながらその様子を見つめるゼクに千亞が心配そうに声をかけた。
「無理せずゆっくり過ごしてくださいね」
 ゼクが小さく頷く。
「あぁ、ありがとう」
 そして復活の早いこの男。
「私も酔っちゃいました……千亞さんに☆」
「そして珠樹は黙れ」
 兔らしからぬ冷徹な視線を珠樹に投げかけると、珠樹は嬉しそうにその口元を緩めた。

「あれ?直香くんのとこは全部ゼクさんが持ってきたの?」
 千亞が尋ねると、直香はとん、と自分の胸を指し示し、バナナを片手に答えた。
「手ぶらじゃないよ、ちゃんと楽しむ心とおやつのバナナは持参したよ」
 にこ、と微笑む直香に千亞もふんわりとした笑顔を返す。
「バナナ!私もバナナを持ってきました!愛のこもった私のバナナを皆さんにウホホ」
 がいん!と音を立てて本日二度目の兔キックが炸裂する。
(まともに食らっちゃってるけどほんとよく大丈夫だよなぁ……)
 直香は倒れ伏す珠樹になんとなく感服してしまった。

「卵焼にからあげ肉団子エビフライにカボチャのコロッケにいなり寿司、あとデザートも……」
 いつきがお弁当箱を開けると、ふわっと美味しそうな香りが広がる。
「よかったら、皆食べて!」
 にっこりとほほ笑むと、バルトがカチコチに緊張しながら答える。
「は、はい。ありがとうございます。美味しそうですね、いただきます」
 どうぞどうぞ、と勧められるままエビフライに手を伸ばす。
 彼好みの洋食に、バルトはちょっとだけ表情を柔らかくした。
「!とても、美味しいですね」
「よかったぁ!」
 喜んでもらえてうれしくて、いつきの表情も綻んだ。瞬間、桜の香りがふわっと甘く周囲に漂う。
「!」
「もしかして……」
 桜がわらったのかな?一同はその香りに、更にリラックスしていく。
「ねぇバルト。初めての花見はいかがでしょうか。可憐で良い香りですよね」
「……あぁ……」

「こんな事もあろうかと日本酒・ビール・ワインの小瓶をクーラーボックスに入れてきたぜ☆」
 セイリューがどんっとクーラーボックスを真ん中に置く。開けると中からはたくさんの酒類。
「それと未成年用にジュースとお茶を」
 ラキアが気を利かせて入れたソフトドリンク類も、よく冷えていた。
「ありがと!僕、サイダー貰っていい?」
 直香がコップを差し出すと、ラキアはにっこり笑ってセイリューに注ぐように頼んだ。
「もちろん。おつまみも作ってきたから、箸休めにでもつまんでね」
 ラキアが小皿におつまみを乗せて皆に回す。セイリューは日本酒をちみちみ飲みながら頭上の桜を見上げた。
「風流だねぇ!天気よくて良かったな」
 うららかな春の日差しに、どこかから鶯の声も聞こえてくる。
 ラキアの作ってきた献立を見ると、肉料理が中心。それは、肉が好きなセイリューに配慮しての事。けど……よくよく見ると、それは肉詰めやら肉巻きやら、必ず野菜とセットになっていた。
 セイリューはセイリューで直香がピーマン嫌いなのを知っていて、彼の目に付く前にせっせと肉詰めを自らのおなかにおさめていっている。
(お肉に釣られて野菜も食べてしまう作戦、完璧だね!)
 ラキアの思うつぼであった。
「ええと、花見に決り事などあれば教えてください、従います」
 バルトが居住まいを正して一同に尋ねた。
「ん?決まり事?」
 やよいがう~んと考える。そして。
「強いて言うなら……楽しむ事。飲んで食べて、花を見て」
(新月が指示してくれれば、何でもするのに)
 バルトはそんなことでいいのか?と小さく首を傾げた。
「そーだよ、楽しむのが一番!やよいくん、お団子もらってもいい?」
 直香がやよいの持参したお団子を見つめる。
「うん、もちろん、どうぞどうぞ!」
 ありがとう!と直香は無邪気に微笑んでお団子を頬張る。
 ふわり、とまた桜の香りが広がった。
「楽しむ、そうだな。桜を楽しめばいいのだと思う」
 ゼクがお弁当を勧める。
 やよいは喜んでサンドイッチやカップサラダを受け取った。バルトも受け取り、会釈を返す。
「これ、全部ゼクさんが作ったんですよね?もしよければレシピを教えてもらえますか?」
 サンドイッチを食べて、とても美味しいとラキアがメモ帳を取り出す。
「あぁ、それは……みじん切りにした……あ。いれ、てないからな」
 ゼクが目を逸らすも、直香がジト目で見てくる。
(ぜーんぶ、気付いてたもんね!ピーマンとかピーマンとか中央に寄せて見えなくしていたのはお見通しなのだよ!)
「セイリューくん、これ食べる?」
「お?あぁ、ありがと!頂くよ!」
 直香はその後もピーなんとかとか、茶色い傘のなんとかタケが入っているものを鋭く見抜いてひょいひょい他のメンツにお裾分けしていく。鮮やかである。
(くっ……野菜も食べろと言ってるのに!)
 ゼクはぐぬぬと眉間にしわを寄せた。

「美味しいっ」
 直香から肉巻きを受け取って食べた千亞がキラキラと瞳を輝かせる。
「ゼクさんお料理上手ですね、ほんと」
「あぁ、ありがとう」
「千亞、俺のも食べて食べて!」
「いいの?いただきます!」
 いつきお手製の卵焼きを頬張り、千亞はにこにこ笑顔になる。
「色んな美味しいもの食べれて幸せ……!」
「ふふ……皆さん、テクニシャンです……美味しいです!」
 珠樹がちょっと不思議な褒め言葉を放つ。
 そして、自分もと持ってきたお弁当箱を千亞に差し出した。
「やけに早起きしてると思ったら……!」
 千亞がお弁当箱のふたを開けて目を見張る。
『千亞(はぁと)L・O・V・E』
「……」
 千亞の表情が硬直する。
 海苔で書かれた文字、舞い踊るハートの桜でんぶ。うさぎさん型のリンゴ。
「普段は普通に美味しいけど、なんで今日その方向で凝った!?」
 顔を真っ赤に染めて千亞は詰め寄る。
「愛妻弁当風、ですよ、ふふ……!」
 おちゃめな笑顔に酒の入ったセイリューがはやし立てる。
「いいね!すっごい愛がこもってる!」
「は、恥ずかしい!」
 それでも、千亞は一口。
(あ。おいしい)
 珠樹の料理はいつも通り美味しかった。変なモン入ってないよね、とちょっと確認しながら、もくもくと食べる千亞。
「ふふ、美味しいですか?」
「うん。……美味しい」
 むぐむぐとお口を動かすさまは兔さながら。珠樹は可愛らしい千亞の様子ににっこりとほほ笑んだ。

 やよいが、あ、と思いついたように口を開く。
「桜は掘り返したらダメですよ。遺体が埋まってます」
 バルトがギョッとして飛び退く。
「え!?」
 そして、一番近い桜の木の幹を見て、根元を見やる。
(この下に……死体!?)
「嘘ですけどっ」
「……な!嘘かよ……っ!」
 レーゲンがふふ、と笑った。
「まぁ、そういう言い伝えもあるね」
「実際そうだったら怖いね!」
 いつきがあはは、と笑った。
 ふわ、とまた桜が香る。
 素直に信じてしまった自分が恥ずかしくて頬を染めたバルトだったが、その甘い桜の香
りにふわりと心をほぐされて怒る気など失せてしまった。
 やよいはふと見えたバルトの素の口調にホッとする。
(堅苦しい君より素の君と話したいから……)
「敬語のない方が素敵ですよ」
 こっそりと耳打ちした。
(……なんて)
「え?あぁ……」
 そうか。バルトも気づいた。距離感を測りかねていたが、彼が望んでいるのは、素の自分なのだ。
(心配かけたか……)
 今後は、もっと自然な話し方、か。
 そう思ってふと口元を緩めると、また桜がふんわりと優しく香った。
「あ、お酒飲みますか?」
「え、新月……」
「僕は二十歳です」
「また嘘か?」
 見かけは18だけど二十歳だし!そう言った彼の言葉が本当がどうかわからないから、お酒は取り上げて。桜の花にしばし見とれることとした。

「僕の大好きなお店の桜餅なんだ。よかったら皆さんどうぞ」
 千亞が差し出したのは一口サイズの道明寺桜餅。餅は弾力と粘り気があり、表面に粒味のある形のものだ。
「うわぁ、桜に桜餅、完璧だね」
 直香が嬉しそうに一つ受け取る。続いて他の面々も。
 甘いものが大好きなゼクも、ふわりとその口元を綻ばせた。
 甘い餡に塩気のある桜の葉が上品にマッチしていて、美味しい。
「ミニクレープも作ってきた。よければ食べてくれ」
 ゼクの差し出したクレープに、直香も千亞も嬉しそうに手を伸ばす。
 そして口へ運んで、その美味しさに顔を見合わせて笑った。

 もぐもぐと食べて飲んでばかりのセイリューにラキアが苦笑した。
「ん、お花見だからちゃんと桜も見て、セイリュー」
「むぐ。見てるよ!綺麗だな~!」
 褒められて嬉しいのか、桜の香りがより一層強まったような。ひらり。セイリューの手にしてる杯に花びらが舞い降りる。
 セイリューは一口清酒を口にして、その後ほんの少しだけそっと桜の木の根元に清酒を垂らした。
「今年もとっても綺麗だよ」
(来年も、きっと綺麗に咲いてね)
 とお礼と願いを込める。
「セイリュー、次はワイン飲みたいな。取ってくれる?」
「ん!」
 ラキアのリクエストに、セイリューがクーラーボックスからワインの小瓶を取り出す。
「あ、せっかくだから私も飲もうかな?」
「今注ぐね、ワインでいい?」
 レーゲンが頷くと、ラキアはグラスにワインを注ぐ。
 未成年のいつきは桜餅をもぐもぐしながら首を傾げた。
「レーゲンお酒飲んでるけど大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、お酒は強いから」
「酔ったら抱き付く癖あるのに」
「えっ、そうなの?」
 ラキアが驚く。
「……え!?抱き付く癖って?」
 どうやら記憶にないらしいレーゲンは珍しく狼狽える。
「俺、抱き付かれたよ何回も!他の人に抱き付かないようにしっかり見張ってないと」
 使命感にぐっと拳を握りしめるいつきに誤解だとレーゲンは慌てて首を振る。
「それは特殊な場合で普段は酔わない!」
 確かに、過去に花に酔っていつきを抱きしめたことが数回ある。
 今回の桜には今のところ酔っていないし(酔うような桜ではないし)、本人の証言通り、酒では酔わない。
(それに抱き締めるのもいつきだけだから……!)
 それはそうだ。思い人以外を抱きしめるような趣味はないし、酔っていてもそんな失礼なことはできない性質だから。
「ふふ……そうなんですか、私は酔っていなくとも千亞さんをっぶ!」
 ぺぇんとうさぎチョップが炸裂。
「なんか変なこと言ってるけど気にしないでね!」
 でも、周囲がレーゲンを見つめる視線は『そっか~普段はおとなしそうなレーゲンも酔うと抱きつき魔になっちゃうのかあ~』という感じだ。
(う……信じてもらえてないね)
 視線が痛い。
「ええと、酔ってないよ?花冠でも編もっか?」
 川のほとりに生えていたシロツメクサを摘んで、レーゲンは器用にささっと冠を編んで見せる。
「わ、すごい。あっという間に作っちゃった……それどうやるの?」
 いつきは興味津々でレーゲンの手元を覗き込む。そんないつきの頭にそれをぽんとのせてレーゲンは満足そうに笑った。
 むく、と起き上った珠樹に、ラキアがワインを勧める。
「はい、明智さんにも」
 グラスに注いだワインを渡すと、珠樹は嬉しそうに受け取る。
「有りがたく頂戴いたしますね。……乾杯」
 目の高さまで上げるだけの上品な乾杯を二人は交わし、ワインを口に運んだ。
「……綺麗だね」
 ラキアが頭上の桜をもういちど賞賛する。
「えぇ、皆さんも楽しそうですし、本当に来てよかったですね、ふふ……」
 珠樹も優しい微笑みを浮かべた。
 ふわり、桜が甘く甘く香る。
 千亞もその香りにふと目を細めた。
 桜の華やかさ、香り。そして皆の笑顔……
「こんな穏やかな日が続くといいな」
「身体が火照っちゃいます、ふふ!」
 耳に飛び込んできたのは神人の爆弾発言。上着をはだけさせようとする彼にぴしゃりと言い放った。
「……って、脱ぐなド変態」
 そのあとの兔キックがクリティカルヒットだったかどうかは珠樹のみぞ知る……。

 お弁当を食べ終わると、一同はバドミントンやトランプに興じたり、ゆったりと酒を飲んだり……。
 直香は、小川の畔まで足を運んでみることにした。
(……綺麗)
 視線の先には、さらさらと流れる小川、そして、その川を漂いながら流れゆく薄桃色の桜。視線を上げれば空を舞う桜。あたりは、桜に包まれている。
(笑えと言ったお前の方こそどうなんだ)
 ゼクは一人小川の方へ行ってしまった神人を目で追いかける。
 その先に、桜を見上げて目を細める直香の姿があった。
 ふわり。桜が優しく優しく香る。日々の疲れを解きほぐすその香りと神人の柔らかな表情に、ゼクもつられてふわりと笑みをこぼした。その表情は、桜だけが知っている……。

「いくよー!えい!」
 セイリューのサーブが唸る。
「うわわ!」
 千亞がなんとか打ち返した。
「なんのっ」
 やよいがすかさず拾う。
「おおわ!」
 ちょっと酒の入っているバルトも必死に返す。
 円形になってラリーを繰り返すだけのバドミントン。
 なかなか白熱している模様。
(……良い表情になってきたね)
 もう、バルトに緊張の面持ちはない。
 やよいは嬉しそうに笑った。
「おっと!余裕そうだね!いっくぞ、お酒入ってるけどスマーッシュ!」
 セイリューがひょいとジャンプして思いっきり腕を振る。
 ずびし、と音を立ててシャトルが地面に突き刺さった。
「な、なにこれ……」
 寸でのところで避けたやよいが苦笑する。
「酔拳!」
「ちょっと違うような」
 皆の朗らかな笑い声に、桜がまた甘い香りを漂わせた。

 それぞれ思い思いに桜を楽しんで、綺麗に後片付け。ゴミは持ち帰る。
 ふっと桜を見上げると、もう一度桜が見送るように優しく香った。
―きっと、また来てね。
 どこからか、そんな声が聞こえたような。
「さぁ、おうちに帰るまでが遠足ですよ……ふふ!」
 珠樹の微笑みに一同がおー!と応じる。
 ゼクがもう一度車酔いの危機にさらされる事を案じてちょっと表情を曇らせた。
「なるほど、だからお酒を飲んでなかったのか」
 セイリューが優しくぽんぽん、と背を撫でる。
「ゼク爺さんファイト~」
 直香が楽しげにバスへと向かっていった。
「お~……」
 いつきがノろうとして、ちょっと眠たげな声を出す。レーゲンはそれに気づいて苦笑した。
「朝早くから頑張ってお弁当作ってくれたしね。休んでていいよ」
「ん?休むって?」
 レーゲンはその場にしゃがみ込んで、背中を見せる。
 おぶさって、と合図すると、いつきは眠さの限界だったのか素直にその背中にしがみ付いた。
「ふふ、いつき君、なんだか子供みたいで可愛い……」
 千亞の頬が綻ぶ。
「なんでしたら私の背にも」
「何?蹴り飛ばしてほしいって?」
 笑い声が巻き起こる。ふわり。桜の甘い香りがいつきの鼻を擽った。
(背中あったかいし、桜のいい香りがして気持ちいいや……)
 落ちないように、うとうととまどろみながらいつきは無意識のうちにレーゲンの背にギュッとしがみつく。
(……おやおや、抱き付くのはどっちかな)
 そんな風に思いながら、レーゲンの頬は嬉しそうに緩んで桜色に染まっていた。

 帰りのバスの中でははしゃぎ疲れた者が無防備に眠る姿。酔ってグロッキーなお方。思い出を振り返りながら静かに微笑むもの。鞄についた桜の花びらを愛おしそうに拾う者。
 それぞれが、それぞれの思い出を噛みしめていた。
 桜セラピーの効果を確かに感じながら……。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 寿ゆかり
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月16日
出発日 04月22日 00:00
予定納品日 05月02日

参加者

会議室

  • [9]明智珠樹

    2015/04/21-23:11 

  • [8]明智珠樹

    2015/04/21-18:10 

    ふらふらするゼクさんを熱く介抱したい明智ですこんにちは。
    千亞さんに蹴られる未来が見えます。

    お弁当は自分たち分しか作る余裕がなさそうですが、食欲千亞魔人がものほしそうな目をしていたら
    構ってくださると幸いです。
    やよいさんとバルトさんとも親睦を深めたいですね、物凄く深めたいですね、ふふ…!

    千亞さんが一口サイズの道明寺型桜餅をたくさん持っていくようですので
    ぜひ皆様も召し上がっていただければと思います。
    手作りではありません、何も盛ってませんのでご安心を…!

    そして皆様飲むなら私もお酒嗜みたいですね。ふ、ふふ…!

    プランの文字数が足りなくなること請け合いです。
    いよいよ始まるバスツアー……楽しみでたまりませんね、ふふふふふふふふ!!!

  • [7]柊崎 直香

    2015/04/19-22:22 

    なんてなんて。さほど遊ばぬよ。
    クキザキ・タダカと、精霊はたぶんそのうち来るゼク=ファルです。
    よろしく頼もー。

    うちはゼクが料理できるからお弁当作らせると思う。
    あ、はい。
    緑の悪魔(ピーマン)や茶色の禍々しい傘状の物(茸)は避けて頂ければ幸い。
    それ以外は野菜苦手だけど食べられるよ。うん。

    しかし前述2つの食材はゼクが絶対混ぜこんでるから
    怪しい料理はセイリューくんとか食べてくれそうな人に進呈してしまおうかにゃー。

    あ、それと。
    バス降りてすぐはゼクがおとなしいと思うので
    荷物持ちとか無理難題とか適当に振っておけばやってくれると思うよー。
    一度頷かせてしまえばこっちのもんだよー。
    (※車酔いする精霊なのでふらふらしてます。
    放っておけば回復するのでご心配には及びませぬ。)

  • [6]柊崎 直香

    2015/04/19-22:22 

  • [5]新月・やよい

    2015/04/19-14:54 

    新月です、はじめまして!相棒の名前はバルトです。
    よろしくお願いいたします。
    (初めてのエピなので内心ひやひや)

    お花見初見のバルトにちょっかい出しつつ
    お団子もぐもぐする予定です
    皆さんの分のお団子も持ってきますねっ

    絡みはこちらも歓迎です。賑やかになりそうですね

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    新月さんは初めまして!
    他は宴会得意系メンツが集まっているので
    凄い事になりそうな予感がひしひし!
    今回もヨロシク!

    結構成人も居るし、お酒どんとこい?
    いつきさんとは是非お弁当交換会を・・!
    オレ達にもばんばん絡んでもらってOKさ。
    こっちからも積極的に絡みに行くし!

    柊崎さんは茸とピーマン駄目なんだっけ。
    ではピーマンの肉詰めは全て
    柊崎さんの目に触れる前に食べつくさねば!(きらーん☆

  • [3]信城いつき

    2015/04/19-01:34 

    こんばんは、信城いつきと相棒のレーゲンだよ。今回もどうぞよろしく!

    張り切ってお弁当いっぱい作ったから、良かったらみんなもどうぞ。
    俺もレシピ増やしたいから、他の人の作ったの見て話かけると思う。
    レーゲンはお酒も飲むって。
    (PL:花に酔うエピなどではやらかしてますが、普通のお酒の場合は酔わないので
    迷惑はかけないはず、です)

  • [2]明智珠樹

    2015/04/19-00:21 

    皆様こんばんは。
    絡み愛大好き、明智珠樹です。
    隣の食欲魔人兎っ子は千亞さんです。ふふ…!何卒よろしくお願いいたします。

    バスツアーで花見…!とてもとてもほのぼの和やか楽しそうですね…!!
    私も千亞さんも絡み大歓迎ですのでなんなりと交流していただければ幸いです。

    各自お弁当持参!
    成人はお酒オッケイ!
    火気厳禁!
    ご飯後は遊んでもオケ!
    たくさん笑え!
    明智のバナナはオヤツに入りま(千亞の飛び蹴り)

    千亞『ド変態厳禁ッ』

  • [1]明智珠樹

    2015/04/19-00:17 


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