プロローグ
見渡す限り、猫、ねこ、ネコ。
「ふわあああ!」
少女は高い声を上げた。こっちの椅子の上には猫、テーブルの上にもねこ、ソファの上ももちろんネコで、こたつに至っては、足を入れるのが躊躇われてしまう。
「だってきっと、なかに猫ちゃんいますよね!」
ここはタブロス市内にある、和風ねこ喫茶『ほかにゃん』である。
ワンフロアの店内は、靴を脱いで上がるスタイルで、視界を遮る壁はない。ふんわり柔らかいクッションが並ぶ二人掛けソファと、多人数が入れるこたつ、そしてくぼみがある。
くぼみは、床にぽこぽこ穴があいているのものだ。狭くて人は入ることはできないが、猫はきっちり埋まることができる。
その他、こたつの上には空の土鍋、部屋の片隅には洗面台、そこらへんに、段ボール箱。『ほかにゃん』はまさに、猫の天国なのである。
「ここでは、なにもかもが猫優先です」
店員は少女に向けて、言いきった。
「喫茶店なので当然人向けの飲み物をご用意していますが、テーブルに置いてはいけません。うっかり猫が飲んでしまったら、猫の体に悪いですからね。手に持って、猫に取られないように注意しながら飲んでくださいね」
「はいっ!」
少女が力いっぱい頷く。
「そして猫を抱き上げることは禁止です。触れてもいいですが、猫の自由に任せてください。猫の進路を遮ってはいけません」
「もちろんです!」
「いいお返事ですね。それでは最後にこれを」
店員は、少女の前にすっとある物を差し出した。これには、さすがの彼女も驚いたようだ。しかし「猫と仲良くなるためです」と言われると、満面の笑みで受け取った。
「それ、しっかり装着してくださいね。つけないと店内から追い出します。それでは、飲み物つき、おひとり様2時間200jr、猫ちゃんたちと、精一杯戯れてください」
「はあい!」
少女は手にしたものを、すちゃっと頭につけた。もうおわかりでしょう。猫耳、です。
解説
ウィンクルムで400jr。
和風ねこ喫茶『ほかにゃん』で、猫ライフをお楽しみください。
とりあえず、たくさんの猫がいます。猫まみれです。
猫じゃらしとか毛糸玉とかも置いてあります。
飲み物はアルコール以外何でもご用意しますので、適当に頼んでみてください。熱いものはくれぐれもこぼさないように。猫にかかろうものなら、店員がキレます。
条件は、猫を傷つけないこと。
あと店内はワンフロアなので、ウィンクルムそれぞれのしていることは見えます。
一緒に楽しむ場合は、相談の上でプランにご記入ください。
猫と楽しい時間を過ごせれば成功です。
怒らせたり怪我をさせたり無視されたりしたら失敗に近くなります。
相棒のことも忘れないであげてね。
ゲームマスターより
冬といえばこたつ、こたつといえば猫!
ということで、ねこ喫茶です。こういう店が実在するかは知りません。
猫ちゃんと思う存分遊んでください。
ちなみに、猫耳にこだわりがある方はどんな耳がいいか、プランに書いてくださいね。
カチューシャ状の猫耳です。
付けないと容赦なく店から追い出しますので、嫌がる精霊も説得してください。
あ、店の窓は大きいので、猫耳拒否って、外から覗くのもありですよ。
ちょっとさみしいですけどね。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
猫喫茶ってはじめてなんですよね。 一度は行ってみたいなとは思っていたのですが…。 ふふ、イヴェさんの猫耳のカチューシャ、黒猫なんですね。すごく似合ってます。可愛いです! 飲み物どうしましょうか?ふた付きのジュースなら安全でしょうか? ふふ、やっぱりねこちゃん達は可愛いですねー。 あ、あの黒猫。イヴェさんに似てますね。可愛いです。 あら、来てくれたんですか?ありがとうございます。なでなでさせてくださいねー。 イヴェさんどうしたんですか?膝枕…ですか? これで俺の方も向いてくれるって…うーん。 じゃあ、イヴェさんもなでなでしましょうか? (この体制かなり恥ずかしいのですが。でも…甘えてくれるイヴェさんは可愛いですね) |
かのん(天藍)
☆ 猫耳はハロウィン以来 少し恥ずかしい物の、皆付けるのだしと受け取って頭に ソファの上も猫だらけなので、ソファを背もたれにして床に座る 触れたい物のどうすれば良いのか躊躇して天藍の様子を見る ソファの上で陣取る猫と楽しそうに猫じゃらしで遊んでる様子が少し羨ましい 1人取り残された気がして少し寂しくなり天藍の上着の裾を少し引っ張る 猫じゃらし持つ手を取り動かし方を教えてくれるも顔が触れそうな至近距離に頬が染まる 膝の上に乗ってきた子を撫でると喉を鳴らして寛いでる様子に笑みがこぼれる 少し不満げな天藍の近くで猫じゃらしを振り どうしたらご機嫌な様子が見れますか?と 笑みを浮かべ膝上の猫を驚かせないようそっと体を寄せる |
夢路 希望(スノー・ラビット)
☆ 猫耳:黒 飲み物:アイスミルク 店内では控えめの声でお話し こういう所、一度来てみたかったんです 猫耳は躊躇いなく装着 彼の猫耳姿には思わず見惚れ す…凄く、可愛いです…っ 最初の内は飲みながら、のんびり猫達の様子を観察 一挙一動に頬緩め …天国です… 猫から近くに寄って来てくれた時は そっと人差し指を差し出してご挨拶 撫でさせてもらえそうなら、優しく触れ <動物学 ユキも、できますよ …あ (あの子、ユキみたい) ふわふわの白猫が目に留まり …にゃー 鳴き真似て 近付いてきてくれたら挨拶 ユキも、と促して 力加減を聞かれたら 内心思い切り、そっと彼の頭に手を伸ばし …これくらい、で ぐるぐると聞こえたら 気持ちいいんだよね、と猫ちゃんに |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
☆ 猫…というか動物が好きなので 遊びに来ました 説得に少々手間取りましたが 普段の疲れを動物で癒そう、と伝えました。 私は、馬だけじゃなく他の動物の事も多少は知識ありますから なつかれるコツなんかもわかるんですけど ディエゴさんは…言わずもがなですね コツを教えてあげますよ。 猫の言語を真似するんです、自分を味方に見せる為に…つまり語尾に「にゃん」をつけるんです。 ……良いもの聞かせてもらいました (懐から携帯出して録音停止) これ着信音にしますね そんな慌てないでください ちょっとは猫との距離が近づいたんじゃないですか 変に意識すると返って避けられるものですよ くっついてくる猫があったかくて眠たくなりました… |
織田 聖(亞緒)
●猫耳 アメリカンショートヘアのような銀×黒 ●想 今まで動物を飼ったことなく、猫カフェも初体験。 (ワクワクです、ね…!) ●動 亞緒の姿に 「…アリだと思います、よ」 グッ!と親指を立てる。 (ここに新しい生物の誕生である)と脳内ナレーション そして褒められ照れ 注文は万が一も考えて「美味しい水」 ●戯 (わぁあ、猫にゃん…!か、可愛い!! 野良ちゃんんら戯れたことありますが、飼い猫ちゃんも可愛いです、ね! 愛くるしいです…!) と、声に出さず内心メロメロ。表情はとろけている。 野良猫を眺め、愛でるのは好きだが接し方はよくわからず。 亞緒にレクチャーされ。 「こ、こうですか、ね?」 亞緒で試す。 凄く楽しかったです…!と満喫。 |
ハロルドの頭には、白い猫耳が付いている。ちょこりと先が折れているのが愛らしい。傍ら、ディエゴ・ルナ・クィンテロの頭にあるのは、黒猫の耳である。
「俺……場違いな気がするんだが。端っこに座れたのが救いか」
二人、カフェの端にあるソファに座っている。ディエゴは珈琲をすすった。視界には、たくさんの、猫、ねこ、ネコ。さらに身近な場所にも当然猫は、いるわけで。
ディエゴの猫耳に似た耳を持つ黒猫が、ハロルドの足に身を寄せる。その丸い背中に、ハロルドは手を伸ばした。
「場違いだなんて、そんなことありませんよ」
言いながら、滑らかな毛皮を手のひらで撫ぜる。
「癒されますよね。動物って」
そうだろうな。ハロルドを見つつ、ディエゴは思う。あんな風に慣れてくれれば、確かに最大の和みになるだろう。しかし。
ディエゴは自分の足元に丸くなっている白猫を見下ろした。ハロルドを真似て触れようとすると、ぴくりと避けられてしまう。とっさに手を止めたディエゴは、それをどこに持って行っていいのかわからない。
「実はあまり小動物に好かれたことがない……」
正直に呟くと、ハロルドは「言わずもがなですね」と苦笑した。
「私は馬だけじゃなく、他の動物のことも多少は知識がありますから、懐かれるコツを教えてあげますよ」
「そんなものがあるのか」
ハロルドが深くうなずく。白い耳がへにょりと揺れた。
「猫の言語を真似するんです。自分を味方に見せるために……つまり、語尾に『にゃん』をつけるんです」
これは……いくらなんでも、どうだろう。しかし、ハロルドは真顔だ。その瞳にからかいの色など見えやしない。それでもディエゴは、あえて尋ねた。
「……本当にそんな方法で懐かれるのか? 確かに、言葉はかけたほうが良いだろうが……」
「もちろんです。ディエゴさん。猫にも心は通じるんですよ」
ハロルドの手は、ずっと黒猫を撫ぜている。猫は逃げない。それはディエゴの猜疑心を消すには十分だった。白猫を見下ろし、ディエゴは言う。
「な……、な……仲良くしてほしいにゃん……」
勇気を出したつもりだ。しかし猫は動かない。その代り、ハロルドから至極冷静な声が聞こえた。
「……良いもの聞かせてもらいました」
振り返ると、ハロルドの手には、携帯電話が握られていた。覗けば、そこに見えるは録音画面。
「録るな、消せ」
「いえ、これ、着信音にしますね。着信だって、言ってもらえますか」
「……何?」
「着信なんだにゃん、でお願いします」
本気か? 心の底からそれを願っているのか?
問い詰めたい。しかし、さあどうぞと目の前に携帯を準備されては、いかんとも断りにくい。
「……着信なんだ、にゃん……」
って、ちょっと待て、俺!
「なんでお前のリクエストに応えなきゃならないんだよ」
乱暴に言い捨て、正気に返る。しかしハロルドは、相変わらず落ち着いた様子で携帯を操作し続けた。着信音設定は本気のようだ。
「そんな慌てないでください。ちょっとは猫との距離が近付いたんじゃないですか」
画面を見ながら言うハロルド。ディエゴは白猫に手を伸ばしてみた。今度は猫は、動かないでいてくれた。
「む……まあ、お前と話してて気が解れた。最初のころから比べると寄り付かれやすくなったようだ……」
「変に意識すると、かえって避けられるものですよ」
そういうものかと、手近にあって、気になっていた玩具を手に取った。
「猫じゃらしも使ってみるか?」
ちろちろ、揺れる猫じゃらし。それに白猫、黒猫が猫パンチ、パンチ、パンチ!
可愛い猫の戦いである。ハロルドはしばらくそれを見ていたが、いつの間にか膝に載ってきた特大猫の体温に、段々まぶたが重くなる。
「くっついてくる猫があったかくて、眠たくなりました……」
ゆったり深くなっていく呼吸、寄り添ってきた体。
「……エクレールも猫みたいなやつだな、まあ嫌いじゃないよ猫は」
ハロルドの滑らかな髪をそっと撫ぜ、ディエゴは目を細める。
「確かに温かくて、寝そうになるな」
数分後。彼の周りには、ハロルドと白猫、そして黒猫がぴったりくっついて、眠っていた。
※
黒いうさ耳が生えているところに、さらに白い猫耳をつけて、亞緒は首を傾げた。長い黒と短い白の、耳ダブル。これは猫たちに、どんな風に見えているんだろう。
「……猫さんに警戒されないか、ちょっと心配です」
ぽつりと呟けば、織田 聖がグッ! と親指を立ててくれる。
「……ありだと思います、よ」
ちょっとどもってしまったのは、内心『ここに、新しい生物の誕生である』とナレーションをつけていたからなのであるが、これは亞緒には秘密にしたいところだ。
亞緒は「そうですか?」と手を伸ばして四つのふわ耳を触りながら、聖の猫耳に目を向ける。銀と黒が混じった毛並みは、アメリカンショートヘアのよう。
「聖さんは猫耳似合いますね」
黒髪と落ち着いた雰囲気にぴったりだと思ったから言ったのだが、その言葉に、聖はぱっと頬を染めた。
「そ、そうですか……?」
聖は、今まで動物を触ったことはないし、猫カフェも初体験。わくわくしつつ、ちょっと緊張していた。それでも、亞緒さんと一緒だから大丈夫、と思っていたのだけれど。
――これは別の意味で緊張します、ね……。
さて、注文の水を持って、ソファに腰かける。周囲にはひたすら猫、ねこ、ネコ。亞緒の兎耳と同じ黒い猫もいるし、白い子もいるし、銀と黒の子だっている。とにかくあたりは猫まみれ。
わぁあ、猫にゃん……! か、可愛い!!
そのあまりの愛らしさに、聖は両手をきつく握った。
野良ちゃんなら戯れたことありますが、飼い猫ちゃんもかわいいです、ね! 愛くるしいです……!
声に出さずとも、顔はしっかり笑顔で蕩けている。聖の両手の間で、柔らかめのペットボトルが、少しだけ潰れた。
そんなに強く握るほどですかと、亞緒は聖を見つめる。しかしそれほどの歓喜に震えてみても、聖は猫に手を伸ばそうとしなかった。
――もしかして、接し方がわからないのでしょうか?
「聖さん、猫さんは、人差し指を向けてみて、寄ってきて匂いを嗅いでくれたら挨拶なんですよ」
言いながら、亞緒は目の前にいる銀黒猫に指を差し出した。小さな鼻がふんふん揺れる。
「触る時は頭からではなく、顎や耳元を優しく撫でてくださいね」
鼻先から、顎へ。くすぐるように手を動かすと、猫は目を細め、ごろごろと喉を鳴らした。
「こ、こうですか、ね?」
聖は亞緒を真似して、おそるおそる手を出してみた。猫に……ではない。亞緒に、である。
頭からではなく、顎や耳元を優しく。亞緒が言っていたことを頭の中で繰り返す。耳って、どっちの? と少しだけ思ったけれど、猫さん相手なので、猫耳の方にした。白い耳の付け根のあたりをさわさわ、さわさわ。亞緒は最初は驚いたようだったが、聖の自由にさせてくれている。
聖は白い猫耳に触っているが、近くにある黒い兎耳にも手が当たる。それは亞緒にとってはくすぐったいが、頑張っている聖を止めたくはなかった。感情の変化がわかりづらい聖。でも今日はとてもご機嫌だと思うのだ。
それでもそろそろ本当の猫さんに挑戦してほしいところではあった。そこで亞緒は。
「にゃー」
鳴いてみた。はっと聖の目が見開いて、まじまじと顔を見つめられる。
「はい、お上手です。それでは猫さんを撫でてみてください」
聖の表情薄い顔が、きらきら輝いて見える。
「あ、お水がじゃまですね。お持ちしますよ、聖さん」
ふわふわもこもこの猫たちは、亞緒に言われた通りにすると、その体を聖に任せてくれた。あったかくてやわらかくて気持ちいい。黒猫、白猫、銀黒猫に、猫兎=亞緒。たくさん撫でて、聖はすっかりご満悦。そんな聖を、亞緒は微笑み見つめている。二時間は、あっという間に過ぎて行った。
「凄く楽しかったです……!」
「また遊びに来たいですね」
猫、ねこ、ネコの猫カフェで、心がすっかり温かい。並んで帰る途中、二人の指先が偶然触れた。
「にゃー」
亞緒が突然言ったので、聖は驚き、小さく噴き出した。
※
「猫耳って、ハロウィン以来ですね」
かのんは店主から受け取った猫耳を、自分の頭にちょこんとつけた。少々恥ずかしくはあるが、皆つけるものだと言われては仕方ない。その隣で、天藍は実にあっさり猫耳を装着した。こちらもハロウィンで経験済みだ。二度目に躊躇うことはない。
間違って猫が飲んでしまってはいけないので、ペットボトル入りのお茶を二つ、注文した。それを持ち、ソファに座ろうとすれば、人が座ってないソファは猫だらけときたものだ。
「天藍、どうします?」
「どうするもなにも……」
ソファに微妙なスペースは開いているが、無理して座って、猫を驚かせるのはかわいそうだ。二人はソファに寄りかかる形で、床の上に腰を下ろした。幸い、さすがの猫カフェは床暖房である。冷たくはない。
かのんは、ちらちらと背後の猫に視線を向けている。すぐそこにいる猫に触れたい気持ちはあるが、どうしていいのかよくわからなかった。
――いきなり触って、びっくりしないんでしょうか。
伸ばしかけた手を宙で止め、隣を見れば。天藍が後ろを向いて、ソファの上の子猫に、猫じゃらしを差し出したところだった。ちらちらと動くおもちゃを、子猫の小さな顔が追っている。右、左、右。くいっと上に上がったおもちゃの先を、ばしいっ! 猫の手……もとい、前足が叩く。
「なんだ、散々見ていたくせに、飛び掛かりはしないのか」
天藍はわずかに苦笑した。その後も猫の鼻先に猫じゃらしを近づけて、ちらちら、ちらちら。それをかのんはじっと見つめる。ちょっとだけ……そう、ちょっとだけ。天藍が、猫が、羨ましい。
天藍は猫に夢中。猫は猫じゃらしに夢中。そこにどうして私はいないんでしょう。
ひとり取り残された気がして、段々寂しくなってくる。
「天藍」
思い切って、かのんは天藍の上着の裾を、軽く引いた。
「どうした?」
最初は本当に意味がわからず聞いただけ。しかし所在なさげな表情のかのんに、天藍ははたと、彼女が言いたいことに気付いた。
「かのんも一緒にやるか、猫じゃらし」
天藍はかのんに猫じゃらしを持たせると、その背後に回った。彼女の背中に自らの胸を合わせ、背後から抱きしめる体勢で、かのんの手を握る。そのまま動かしてやれば、猫じゃらしはちらちらとまた、揺れ始めた。
「ほら、こうするんだ」
後ろから覗き込む天藍とかのんの顔は、今にも触れそうなほど近い。かのんは、自分の頬が熱くなるのを感じた。猫を見ている天藍は、気づかない。
――どうかこのまま、わかりませんように。もう少し、このままでいたいんです。
ちらちら揺れる猫じゃらし。前足を伸ばしていた猫は、そのうちつるりとかのんの膝にのってきた。柔らかな毛並みを優しく撫でると、ごろごろと喉を鳴らした後、小さな口を大きく開けて、あくびをする。
「疲れて眠くなっちゃったんでしょうか」
顔を足の間にのせて、すっかりくつろいでいる猫。
そこはお前の席じゃないぞ、と。天藍は、かのんの膝の上の猫をねめつけた。かのんは、天藍のそんな様子には気づかず、猫に夢中。さっきかのんが俺の服の裾を引いたのは、この疎外感かと合点がいった。さすがに猫にヤキモチというのも大人げないが、面白くないのは事実である。
かのんは、急に体を離し黙り込んでしまった天藍に視線を向けた。彼の眼前で猫じゃらしをちらちら、ちらり。
「こちらの猫ちゃんは、どうしたらご機嫌な様子が見れますか?」
その言葉に、天藍は苦笑する。猫に夢中だと思っていたかのんがこうしてこちらを向いただけで、気分が上昇するのだから、不思議なものだ。
そっと腕を伸ばし、かのんの体を抱き寄せる。かのんは膝の上に猫を驚かせないように注意しながら、天藍に体を預けた。
二人して、猫を撫ぜる。猫はふわあとさらに大きなあくびをして、すうすうと眠り始めた。
※
「こういう所、一度来てみたかったんです」
夢路 希望は周囲を見回した。猫たちを驚かせないように、もともと大きくはない声を、さらに潜めている。
その声をきちんと聴いて、スノー・ラビットはほっと安堵の息を漏らした。
「この前の依頼でキノックマと触れあってる時楽しそうだったから、こういうの好きかな? って思ったんだ。喜んでもらえてよかった」
白い兎耳を揺らして、微笑むユキ。希望はその笑顔にはにかみながら、黒猫耳を身につける。
「えっと、僕の耳はそのままでいいのかな?」
ドリンクを注文するついでに店員に聞けば、「ここでは猫ちゃんになってくださいね」と、あっさり白い猫耳を差し出される。
「だって、ノゾミさん」
ユキは帽子の中に兎耳をしまい、その上から、白い猫耳をつけた。いつもとは様子の変わったユキに、希望は感嘆の声を漏らす。
「す……凄く、可愛いです……っ。ユキ、猫の耳も似合いますね」
「ありがとう。でも、ノゾミさんの方がずっと可愛いよ」
ユキは、ノゾミの黒い猫耳に手を伸ばした。その先端を指でつついて、くすりと笑う。その足元に、すり寄る猫が一匹。
そこに、店員がドリンクを運んできた。希望はアイスミルク、ユキは林檎のジュースを受け取って、その場で一口、のどを潤す。
「ユキの足元の猫、真っ黒で綺麗ですね」
「うん、そうだね。ねえノゾミさん、あっちにも黒い子がいるよ。あ、あっちには白と黒のぶちの子が……なんだか牛みたいだね。僕、こんなにたくさんの猫を見るのは初めてかも」
「私も……」
希望はユキが指さした猫を順に見て、その頬を緩ませた。黒い子は床の穴の中に身を丸め、白と黒の子は、熱心に自分の体を舐めている。さらにはあちこち猫が縦断、横断していて。
「……天国です……」
希望は、その場に座りこんだ。ユキの足に身を寄せていた黒猫が、興味を持ったように近づいてくる。人差し指をそっと差し出すと、人に慣れている猫は、希望の指をぺろりと舐めた。
「きゃっ」
希望は小さく叫び、でも指は引かずに、唇に優しい笑みを浮かべた。それからそっと、耳の付け根を撫ぜる。ユキはそれを、黙って見つめていた。
楽しそうな希望にも、気持ちよさそうな猫にも癒される。でもどうせなら、自分も仲間に入りたい。
「僕も仲良くなれるかな……」
「大丈夫、ユキもできますよ。こうやって、猫の前に指を出して――」
そう言う希望の視界の片隅を、白い猫が横ぎった。ふわふわの耳。それはまるで。
……ユキみたい。
そう思ったからこそ、注意はすっかりそちらに向いてしまう。
こっちに来てくれないかな。
どうしようかと一瞬考え。
「……にゃー」
「にゃー?」
隣のユキも真似てくれる。
「にゃあん」
白猫は、こちらに寄ってきた。なつっこい子にさっきのように指を出して、ご挨拶。
「ユキも」
「え? うん……」
恐る恐る指を差し出せば、鼻先が寄ってきた。
「ねえノゾミさん。撫でる力はどのくらいがいいのかな?」
「えっと……」
どうやって説明したらいいんだろう。綿毛に触るように? とにかく、ふわっと優しく、愛情を込めて……。
って、言葉で言うよりは――。
希望は決意を決めて、ユキを見た。帽子をかぶり、白猫耳をつけた頭に両手を伸ばして包み込む。
「……これくらい、で」
恥ずかしくて顔が見られない。うつむく希望を、ユキは瞳を細めて見つめる。
「うん、わかったよ」
希望がしてくれたように優しく優しく、猫を撫ぜた。すぐにぐるぐると音が聞こえてきたものだから、焦って希望を見てしまう。
「ノゾミさん、これって」
「大丈夫。気持ちいいんだよね」
希望は猫の顎に指を添えた。またも聞こえた『ぐるぐる』の理由がわかり、ユキは安心した顔を見せる。
「……ノゾミさんも、気持ちいい?」
ユキの手が、そっと希望の顎に伸びる。それが上に上がってさらりと頬を撫でたので、希望の頬は、一気に赤く染まった。
それでも、答えないわけにはいかない。
「……いい、です」
消え入りそうな小さな声。ユキはひっそりと微笑んだ。
※
「猫喫茶って初めてなんですよね。一度は行ってみたいなとは思っていたんですが……」
淡島 咲は店内をぐるりと見やった。頭の上で、つけたばかりの三角耳がふわりと揺れる。それがなんだか違和感で、猫はみんなこんな気持ちなのかなと考えたりもする。そこに聞こえたのが、イヴェリア・ルーツの声である。
「猫喫茶はいいのだが、この猫耳はどうにかならないのだろうか」
まさか自分のことを言われたのかと思い、振り返る咲。すると困惑顔のイヴェリアと目が合った。イヴェリアは、自分の発言が、誤解を招いたことに気付いたらしい。
「いや、サクはすごく似合っている。三毛猫の耳だろうか? 可愛いよ」
真っ向からの褒め言葉に、咲はふわりと微笑んだ。イヴェリアの頭についている、ふわふわ三角の耳を見上げる。
「ふふ、イヴェさんの猫耳のカチューシャ、黒猫なんですね」
「俺は似合わないだろう?」
咲はぶんぶんと首を振る。
「そんなことないです、すごく似合ってます。可愛いです!」
後半になるにつれ、声に力がこもってしまった。だって、本当に可愛いんだものと思いながら、握りしめた両手は胸の前。
「いや、可愛いと言われてもな」
イヴェリアは、すっかり困りきった顔である。しかしその苦笑にすら、猫耳はやっぱり似合う。そんなことを話していると、店員がドリンクのメニューを渡してきた。
「飲み物どうしましょうか? ふた付きのジュースなら安全でしょうか?」
「ああ、それを頼もう。それにしても」
黒耳ショックから脱却したらしいイヴェリアは、首を回して辺りを見た。床に猫、ソファにねこ、こたつの上にネコ。
「ここの猫達は本当にVIP待遇だな。これだけ愛されていれば幸せだろう」
注文を終えた咲は、彼の視線を追う。
「ふふ、やっぱりねこちゃん達は可愛いですねー。あ、あの黒猫」
「どうした?」
「イヴェさんに似てますね。可愛いです……って、あら? 来てくれたんですか?」
咲は、とてとてと近づいてきた黒猫を見下ろした。
「ありがとうございます、ねこちゃん。なでなでさせてくださいね~」
暖房が付いた床に座りこみ、猫の小さな体を撫ぜる。黒猫は最初はそれを立ったまま受け入れていたが、咲の手付きが心地いいのか、そのうちするりと、咲の膝に半身を載せてきた。それをイヴェリアは、二人分のドリンクを手に、見下ろしている。
「この猫、今にも咲の膝にのりそうなのだが……」
店員は猫を抱くのはダメだといっていたが、勝手にのってくる分には構わないだろうか。しかし。
気持ちよさそうに目を閉じかけている猫を見て思う。
――さすがに、そこはとられるわけにはいかないな。
イヴェリアは猫を間に、咲の隣に座りこんだ。
「サク」
抱くのが禁止の猫を動かすことはできない。寄り添い名前を呼べば、咲は「なんですか」とイヴェリアを向いてくれる。
「イヴェさんどうしたんですか?」
「……借りてもいいか?」
「え? 何を……」
咲が理解するより早く。イヴェリアは、猫の顔が載っていない左の膝上にごろんと頭を載せた。
「これで、俺の方も向いてくれるだろう?」
そう言って、真下から咲を見上げる。いつもと違う角度から見るサクも可愛いと思っていると、咲は恥ずかしそうに頬を染めて、左手をそっとイヴェリアの頭に置いた。
「……じゃあ、イヴェさんもなでなでしましょうか?」
咲の細い指が、イヴェリアの髪を梳く。その手があまりに優しく心地よくて、黒猫が咲の膝から降りない気持ちがわかった。
ごろごろと猫の喉が鳴り、イヴェリアの唇には笑みがこぼれている。
――この体勢、かなり恥ずかしいのですが……甘えてくれるイヴェさんは可愛いですね。
咲はゆっくりと手を動かし続ける。
今はこんな風に甘えてしまったが、本当はサクにもっと甘えてもらいたいのだがな。
考えつつ、イヴェリアはそっと目を閉じた。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 瀬田一稀 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月21日 |
出発日 | 02月28日 00:00 |
予定納品日 | 03月10日 |
参加者
会議室
-
2015/02/27-23:33
猫耳は、まぁ、ドレスコードだと思えば、な
テイルスの精霊達がどんなことになるのか少し気になっている
皆楽しい時が過ごせると良いな -
2015/02/27-23:31
-
2015/02/27-21:54
亞緒と申します。
皆様よろしくお願いいたします(お辞儀)
ふふ、皆さん猫耳が似合いそうですね。
ラビットさんと私がどのような出で立ちになるのかも興味津々です。
此方はプランを提出しました。
皆様と素敵な時間を過ごせますのを、聖さん共々楽しみにしております。 -
2015/02/27-20:39
挨拶が遅れてしまってすみません
みなさんよろしくお願いいたします
カフェ楽しみです -
2015/02/26-06:00
夢路希望、です。
パートナーのラビットさんと、参加します。
初めましての方も、お久しぶりの方も、宜しくお願いします。
兎タイプのテイルス、ラビットさん以外で会うの、初めてです。(ついチラチラ)
うさ耳に猫耳……可愛いに可愛いを足せば、更に可愛く……?
いろいろ、楽しみです。 -
2015/02/24-21:07
初めましての方も、お久しぶりの方もよろしくお願いします
かのんと申します、こちらはパートナーの天藍です
猫喫茶・・・初めてお邪魔しますのでとても楽しみにしています
どの位猫がいるのでしょうね -
2015/02/24-18:47
こんにちは、淡島咲です。
パートナーはマキナのイヴェリアさんです。
織田さんは初めまして!よろしくお願いしますね(ぺこり)
ねこ喫茶は始めてなので楽しみですがちょっと緊張しますね。
イヴェさんの猫耳カチューシャ姿は今から楽しみです!
猫耳+うさぎ耳…どんな感じになるのでしょうか(にこにこ -
2015/02/24-00:19
はじめまして、織田聖と申します。
よろしくお願いいたします、ね(ぺこ)
隣は黒兎の亞緒さんです。
兎耳+猫耳になりそうです、ね……!
(希望さん達のお姿に)
亞緒さん、お仲間さんが…!(うきうき)