どうだ、これが俺が作ったおにぎりだ!(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「チョコレートに飽きた幸運な男性諸君、もしくはチョコレートに恵まれなかった……あー……えっと、まあ、とにかく男性諸君! 特設おにぎりバイキングはいかがですか?」

 ここはタブロス市内の端っこ。すずらんの形をした街灯が特徴の、某商店街である。そこにオープンしたのは、期間限定のおにぎり専門店。しかも自分で作るというのだから、店側にとってはどれだけ手間いらずなのか。

「自由に具を入れて、適当に握って食べるだけ! いいでしょう、オーソドックスもいけますし、冒険もできます!」

 揃っている具材は以下の通り。
 ちなみにお米は白米一択です。

【まあ普通】

うめぼし、おかか、しゃけ、こんぶ、たらこ、めんたいこ
シーチキン、じゃこ、生ハム、チーズ、天かす、ねぎ
たくわん、きゅうりの糠漬け、納豆

のり、味付けのり、大判とろろ昆布、大葉、
しお、砂糖、ごま、味噌、しょうゆ、マヨネーズ、ケチャップ、ソース

【あまり普通じゃない……と思う】

ミニトマト、金柑、いちご、バナナ(一口大)りんご(うさぎ型)、ぶどう

チョコレート、ポテトチップス、醤油味のおせんべい、コーンフレーク
飴玉、マシュマロ、ガム、
生クリーム、はちみつ、ブルーベリージャム

クレープの皮、生八つ橋の皮


「その他、ご希望があれば事前に申請してくだされば、ご用意しますよ。なお、当店はカップル席はございません。
大きなテーブルがあり、具材や、味付けをするためのボールや菜箸、小皿、まあそういった細々したものが並んでおります。
参加者はそのテーブルを囲んで、みなさんでわいわい食事をするスタイルです。
美味しいものを作れば、隣の仲間が声をかけてくるかもしれません。
冒険心をくすぐるものを作れば、隣の仲間が顔をしかめるかもしれません。
どうぞ、素敵なおにぎりライフと、仲間との交流をお楽しみください。
なお、中身は店主お任せ、ロシアンルーレットタイプもできます。その際は店主にお声かけくださいね」

解説

上記のとおり、手巻き寿司みたいな要領で、好きな具材でおにぎりを握り、なおかつ他のウィンクルムとの交流も楽しみましょうという内容です。
他ウィンクルムとの絡みがNGな方は、参加をご遠慮ください。
参加料は、各ウィンクルム300jrです。

【おにぎりロシアンルーレットについて】
こちらは、ウィンクルムごとの申請になります。完全アドリブです。
大事なことなので、もう一度言います。完全に瀬田のアドリブとなります。
何を食べさせるかは、私が独断で決めてしまいます。
どういじられても問題ないという覚悟をもってお任せいただける方のみ、ご指定下さい。
プランに書いてほしいことは、以下の通り。

・食べるのは精霊と神人のどちらか。お二人でも結構ですが、カオスが予想されます。
・食の好み(甘いものが好き、梅干しが嫌い等、こだわりがあればで結構です)
・喜ばせたいか、悲しませたいか(ご希望に沿うようにいたします)
・その他ご要望があればお書きください。ふんわり取り入れるかもしれません。


ゲームマスターより

基本はコメディエピです。
おにぎりからロマンスを生みたい方は、プランの頭にロマンス希望とお書きください。
なるべくロマンスに持っていくように、努力はさせてもらいます。
なるべく、です。

大切なことを繰り返します。
他のウィンクルムとの絡みがNGな方は、参加をご遠慮ください。
おにぎりロシアンルーレットは、アドリブになります。多少なりとも、キャラのイメージが崩れる可能性がありますので、注文の際はその点ご注意ください。

それでは、みなさん、すてきなおにぎりライフを!

みんなが普通のおにぎりだと、面白くないなあ……。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  商店街に来るのは闇鍋以来かな?
美味しい物が食べられると良いね

具材を組み合わせたおにぎり作りに挑戦
たくさんあるし、折角だから色々試してみても楽しいかなって
他のおにぎりも食べてみたいから少し小さめに作るね

味噌を塗りねぎを入れて大葉で巻いた味噌おにぎり
チーズと沢庵に醤油を垂らして酒の肴風
ポテチを砕き海苔とごまを混ぜて、ふりかけ風

作っている最中に視線感じれば不思議そうに首傾げ
ああ、綺麗な三角形のコツはね、手に力を入れたら駄目だよ?
こっちの手は添えるだけ(つんと手の甲指差し

美味しかったおにぎりはメモ帳に書き留めておく
ラセルタさんが気に入った物には密かに花丸印
…食べたいと言われたら、作ってあげられるように


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  おにぎり色々作るぜ。
他の人とはがんがん絡む。おにぎり交換をしよう。
まるく握って海苔で全部くるむ作り方。
簡単だからよくやるんだ。海苔たっぷり食べれるし。
海苔がご飯の水分で少ししんなりしているのがウマいと思う。
しゃけ・たらこ・明太子は絶対食べる。大好き。
ラキアが作ってくれた天むすも「あむっ」と食べる。

そしてロシアンおにぎりは欠かせないっ!
「どんな具材の挑戦もオレは受けるっ!」
(ラキア「君は何と戦うつもりなんだい」苦笑)
何でも美味しく食べられる自信がある。
甘い系が来るだろうと大胆予測して食べるけどなっ!
オレのおにぎり基本系には甘味のって無いから。
食べて幸せになるんだ。
(新たな味覚との出会い再びか?)


アイオライト・セプテンバー(白露)
  \おにぎりワッショイ!/

俵型も三角も丸いのも全部好き
ミニサイズにすれば沢山食べられるよねー
デブらないもん、いっぱい遊んでいっぱいダイエットするもん
そんなことより、あのねパパ
こうやって海苔を御飯に巻いたら、ぱんつ☆みたi(もごもご
↑白露に口を抑えられた

むー、パパの意地悪
いいもん、あたしが作ってもパパに食べさせてあげないから
(調理マニュアル見ながら
ケチャップ御飯にツナを具にして、薄焼き卵で包んだら…
じゃーん、オムライス風おにぎり-!
…結構美味しいのに
でも、パパにはあげないもん…

(白露のおにぎりを見て
しょうがないなあ、パパのはあたしが食べたげる
もらってばっかりじゃ狡いから、交換でオムライスをあげるね






暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
 
セルフ方式の専門店ですか
自分で作ることはあまりないので、楽しそうでいいですね

おにぎりといえば、定番の梅ぼしでしょうか
梅干としゃけと納豆で
普通?普通でいいんですよ
このメンバーです
明らかに普通よりカオスなものが多くできあがるでしょう
口直しをしたい方はどうぞ遠慮なく

ああでも、チーズも意外と合うと聞いたことがあります
たらこも捨てがたいし・・・
いっそ全部混ぜますか(真顔

とりあえず、おにぎりにスイーツ枠は必要ないと思います
食べる人のことも考えてください

・ロシアン参加
先生が参加するのであれば僕も付き合います
苦手ものは特にないです
好きなものはトマト・・・普通に食べればの話ですが
(喜ぶ<悲しむ)
カオス歓迎


ルータス・ファン(ジャミファ・シャン)
  ロマンス希望
【おにぎりロシアン希望】

・食べるのは二人共。
・好き嫌いはほぼ無。肉が好物。
・喜ばせたいが、イタズラもしてやりたい。すごく。
・おにぎりは【デカイ爆弾にぎり】具も色んな種類が入って、食べた場所によりアタリハズレが発生。

精霊が周りに迷惑かけたら、皆に謝った後、しっかり躾てやらねばと使命感を燃やすと思う。

他人は「苗字」呼び捨ての文化圏


「商店街に来るのは、闇鍋以来かな? 美味しいものが食べられると良いね」
「この時節に甘味から敢えて逸れてみるとは。相変わらず、此処の商店街は面白い」
 羽瀬川 千代とラセルタ=ブラドッツは、シンプルな店内の大きなテーブルに目を向けている。並ぶ食材が『普通』『あまり普通じゃない』と区分けされているのは、おにぎりに慣れない者のためか。なるほど、セルフサービスゆえに、危険地帯に防波堤を設けたと見える。両方のちょうど中間に場所をとり、セイリュー・グラシアははめていた手袋を外した。
「おにぎり色々作るぜ」
「普通の具材もいろいろあって目移りしちゃうね」
 そもそも『普通』しか使うつもりのないラキア・ジェイドバインである。彼はそれぞれの皿についているラベルを順に眺め、「あれ?」と首を傾げる。
 そこに、店主がやって来た。
「事前に注文いただいていた、えだまめとえび天と、サニーレタスです。あと生卵と、これ!」
 店主はテーブルの上に、どん、とそれを置いた。カセットコンロとフライパンである。
「焼きおにぎりと薄焼き卵はセルフサービスでお願いしますね」
「わーい! パパ、あたし卵焼いてあげるね。大丈夫、マニュアル本持って来たから」
 さっそくフライパンを手にするアイオライト・セプテンバーの横で、ラキアは店主に話しかける。
「食材の追加、ありがとうございます。それでちょっと聞きたいんですけど、どうして普通具材に、砂糖があるんですか? 塩しか使ったことないけど、砂糖でおにぎりつくる地域があるの?」
 店主はテーブルの上を見た。と、がっと手を伸ばし、砂糖の皿を掴む。
「すみません、間違えました!」
 その謝罪の勢いにラキアは面食らう。しかし砂糖を『あまり普通じゃない』に置き直した後の台詞の方が驚いた。
「やっぱ俺は普通じゃないのか……」
 この店主、どうやらおにぎりに砂糖をつけて食べるようだ。

 さて、一同はそれぞれテーブルの前に移動した。とは言っても、元から座席のない立食形式である。
「セルフ方式ですか。おにぎりって自分で作ることはあまりないので、楽しそうでいいですね」
 暁 千尋は、眼鏡の奥の目を細めた。隣でジルヴェール・シフォンが紅を引いた赤い唇で微笑む。
「そうねえ。楽しみながら、美味しく作りたいわね」
 ジルは、シーチキンが入った器を引き寄せた。それを小皿に取りおかかとマヨネーズを混ぜて、一つ目のおにぎりを握る。次に店主が持ってきてくれたえだまめとじゃことゴマ、塩も使って、二個目を握った。
「これ、ヘルシーで美味しいの。じゃこの代わりに、海老とか使うのもオススメよ」
「先生、上手ですね」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいわ」
 ジルはまんざらでもない顔をして、同じものをいくつか作ると、仲間に声をかけた。
「混ぜご飯のおにぎり、よかったら皆さんもどうぞ」
 自分が食べるより先に声をかけてしまうのは、普段小料理屋をしているからか。
「わあい、いいの?」
 アイオライトが、きらきら瞳を輝かせて寄ってくる。
「あたしも、ジルさんみたく綺麗でお料理ができる人になりたいっ」
 口いっぱいにおにぎりをほおばって言うアイオライトに、ジルはくすりと笑った。

 さて、その正面では、千代が混ぜご飯のおにぎりを握っていた。彼の性格を反映したかのように、きっちりした三角形だ。
「たくさんあるし、せっかくだから色々試してみても楽しいかなって。でも、他のおにぎりも食べてみたいから、少し小さめに作るね」
 そう言って握るのは、味噌を塗り、ねぎを入れて大葉で巻いた味噌おにぎり。チーズと沢庵にしょうゆを垂らして、酒の肴風もある。
 ラセルタはそれを見ながら、そうか、米を握ればいいのかと、目の前にあった梅干しに視線を向けた。深い意味はない。手近にあったから選んだのだが。千尋とラキア、二人と目が合った。
「おにぎりと言えば、梅干しにしゃけに納豆ですよね」
 大きな一粒を白米に詰め握る千尋に「普通ねえ」とジルの声がかかる。
「普通でいいんですよ。このメンバーです。明らかに普通より、カオスなものが多くできあがるでしょう」
 ラキアがうんうんと頷きながら、梅をとる。
「でも納豆は……」
「このメンバーって……」
 不安そうな顔をするのは、ルータス・ファンとジャミファ・シャンである。なにせ初任務で初対面。いたって真面目そうな彼らが、どうしてカオスを生み出すかわからない。
 千尋とラキアは器用に握り飯を作っている。千代に負けぬ綺麗な三角形。ラセルタはとりあえず皆を真似して、手のひらにしゃもじですくった米を載せた。しかし。
「思ったより、熱いではないか……!」
 それでもなんとか、中央に梅干しを入れる。しかしただ握ればいいと思ったのに、どうにも形が歪になる。丸とも三角とも言い難い。不格好な物を皿に置き、千代はあんなに上手くやっているのにと、今はポテトチップスを砕いで、のりとゴマを混ぜている千代を見ていると、彼がふっと顔を上げた。
「ラセルタさん、どうしたの?」
「俺様は千代が作っているような美しい三角形の握り飯を作りたいのだ」
「ああ、綺麗な三角形のコツはね、手に力を入れたら駄目だよ? こっちの手は添えるだけ」
 千代はラセルタの手の甲を指さした。そうかなるほど、と呟きながら、ラセルタは新たに米をよそい、両手で包む。千代に言われた通りにすれば、なんとか綺麗な三角形ができた。
「千代! できたぞ!」
「本当だ、綺麗にできたね、ラセルタさん」
「初めてできたこれは千代にやろう。感想を聞かせろ」
「え、いいの?」
 ずいっと差し出されたおにぎりを受けとり、千代はそれを口に入れた。中はどんな具が、と思ったら、なんてことはない、塩むすびだ。ちょっと力を入れすぎた感はあるけれど、味はちょうどいい。美味しいよ、と言えば、ラセルタは偉そうに胸をはった。

 別の一角では、ラキアがセイリューに、自分がむすんだおにぎりを渡していた。
「これ好きでしょ? 天むす!」
 三角のてっぺんから見えるえびの尻尾に、おお、と嬉しそうな、しかしくぐもった声を上げるセイリュー。しかたない。口の中はのりで全面包まれた、丸いたらこむすびでいっぱいなのだから。
「ありがとう、ラキア。オレもラキアに作るな」
 にこにこと受け取り、あむっと噛みついた。膨れ上がった頬は、なにか小動物を連想させて、ラキアは思わず苦笑する。
「焦らなくても、おにぎりは逃げないよ」
「ほう、丸い握り飯もあるのか」
 しゃけのおむすびを握りながら、ラセルタはセイリューの作ったものを観察していた。
「ああ、簡単だからよくやるんだ。のりたっぷり食べれるし。のりがご飯の水分で少ししんなりしてるのが美味いんだよな」
 言いながらセイリューは、次はオレもしゃけにしようと、その器に目を向けた。と、千尋とまたも目が合う。
「気が合うな、オレら」
「そうだな」
 互いに定番を愛している節はある。千尋とセイリューの間は、おにぎりの力によってぐんと近づいたようにみえた。しかし千尋が納豆むすびを作り始めた時に、ラキアがうつむき呟く。
「だからそれはないって」

 ラセルタが次に選んだのは、色が綺麗な明太子だ。しゃけの使用の順番を千尋に譲ったセイリューも握っているということは、結構定番なのだろう。
 そこで「焦げる、パパ、焦げちゃううう」と声がした。アイオライトである。
 脇にはケチャップごはんとツナ。そして焼いているのは薄焼き卵であることからして、オムライスのおにぎりを作りたいようだ。横で白露は生ハム、チーズ、大葉、サニーレタスでサラダむすびを作っていた。
「パパやってええ」
「はいはい、言われると思ってました」
 白露はアイオライトの代わりにと、フライパンの前に立った。焦げかけた一枚を器用に裏返し、並ぶアイオライトに一言。
「アイ……それにしてもさっきからぱくぱくと……太りますよ」
「食べたのミニサイズだし、デブらないもん、いっぱい遊んでいっぱいダイエットするもん! そんなことより、あのねパパ」
 卵から目を離し、ちらりと横を見れば、アイオライトの目が輝いている。何やら嫌な予感がする。遊ぶのには、私も付き合わされるんでしょうね……ということよりも、危険な感じだ。
 アイオライトは白米を握っている。それを皿の上に置いて、丁寧にのりを……え?
「ね、こうやってのりを巻いたら、ぱんつ☆みたi」
「食事時のぱんつは、ちょっと控えましょうか」
 白露はアイオライトの口を押さえた。最近ぱんつぱんつ言いだすタイミングがわかってきた気がする。パパのいじわると青い目が言っているが、意地悪もなにも、である。そうしているうちに、なにやら不穏な……。
「卵……!」
 白露はアイオライトの顔から手を離し、コンロに向き直った。さっきまで黄色かったものは、今は真っ黒になってしまっている。
「まったく、アイがぱんつなんて言うから」
「えー、パパのせいでしょ!」

 その後。二度目の挑戦で焼かれた卵を使い、アイオライトは希望通りのおにぎりを完成させた。
「じゃーん、オムライス風おにぎりー!」
 初級マニュアル本『料理』を見ながら作ったのだが、これはなかなかいい出来である。しかし「パパの意地悪。いいもん、あたしが作ってもパパに食べさせてあげないから」と言いながら作った手前、白露には分けづらい。食べながら、ちろちろと白露を見る。
「でもパパにはあげないもん……」
 ぱんつで怒られたことで拗ねているみたいですね、と。白露は先ほど自分が作ったサラダ風のおにぎりを、不機嫌なアイオライトに差し出した。
「アイ、食べますか」
 とたん、アイオライトがぱっと笑顔を向ける。
「しょうがないなあ、パパのはあたしが食べたげる。もらってばっかじゃ狡いから、交換でオムライスをあげるね」
 やれやれ、やっと機嫌を直してくれたみたいです。白露はほっと胸をなでおろした。ちなみにその後、白露はオムライスにぎりを食べたい他のウィンクルムに頼まれて、卵焼きマシーンになった。
 そのひとつを味わい、ラセルタが千代を手招く。
「うむ、なかなか美味いな。千代、お前もどうだ? 美味いものは共有すべきだからな!」
「なるほど、オムライスかあ。見た目も華やかだし、味も美味しい。いいね! 白露さん、ありがとう」
 ラキアの言葉をきっかけに、たくさんの「ありがとう」に包まれる白露。セイリューにはお礼だと言って、しゃけのおにぎりを貰った。これで卵を焼く甲斐もあるというものだ。

 さて、宴もたけなわ、そろそろ、おにぎりレパートリーも減ってきた。仲間の作る物を食べて、チーズが案外とあうと知り、しかしたらこも捨てがたく……。
「いっそ、全部混ぜますか」
 千尋はひとつの握り飯に、全部の具をつめはじめた。特大むすびである。その横ではルータスもまたどでか爆弾にぎりを作っていた。
「これはどこに何が入っているかわからないぞ。ロシアンむすびだ」
「ロシアンおにぎりと言うならこうだろう!」
 ジャミファは一口大のおむすびが並んだ皿を指さして、満面の笑みを浮かべている。
「一個だけまともな具があるよ。あとは全部アレだけど」
「ほう、なかなか面白いことを考えるな。ルータスに、ジャミファ……だったか」
 ラセルタが言うと、ジャミファはツンと顎を上げた。
「初対面なのに、いきなり呼び捨て?」
「なんだ、不満なのか」
「ジャミファ……! すまない、相棒が失礼を」
 一見強面、スキンヘッドのルータスに謝られ、ラセルタは目を瞬かせる。こいつがこの小僧を甘やかしているのか。しかしそんなルータスの気持ちは露知らず、ジャミファは続けた。
「さっきから見ていたけど、おにぎりは初めてなのか? 君たちの分、手伝ってあげようか?」
「は? 結構だ」
「でも、コレ入れると面白……喜んでくれると思うな、羽瀬川さん」
 じゃことたくあんのおにぎりを握っていたラキアはその一部始終を見ていた。千代にこの事実を伝えるべきか否か。いや、相棒同士のことには口を挟むまい。そしてロシアンという言葉で、はたと思いだしたことがある。
「ロシアンって……頼めばお店の人が作ってくれるって言ってたよね」
「え、オレやりたい!」
 セイリューははっと顔を上げ、厨房に向かって声をかけた。
「ロシアンおにぎり、お願いしますっ」

「ふふ、チャレンジャーですね」
 店主はにやりと笑った。
「ロシアンおにぎり、やりたい人―!」
 幼稚園さながらに声をかけると、セイリューと千尋、ジル、アイオライトと白露が、それぞれ大きく、あるいは小さく挙手をした。
「どんな具材の挑戦もオレは受けるっ!」
 ガッツボーズをしたセイリューに、ラキアは苦笑する。
「君は何と戦うつもりなんだい」
 上品に微笑むのは、ジルである。
「どんなものがくるのか楽しみだわ。好き嫌いは特にないから、大丈夫だと思うけど……」
 その隣で、渋面を見せる千尋。ジルには「チヒロちゃんはやらなくてもいいのよ」と言われたが、頑なに首を振った。
「先生が参加するのであれば僕も付き合います」
「僕たちはこれでいいよね、ルータス」
「お前がいいのなら、それでいい」
 ふたりはさっき作ったおにぎりで、セルフロシアンだ。互いが作ったおにぎりを交換して食べてるのだが――。
「うっ!」
 ジャミファは、ルータスの握った爆弾にぎりをひとかじりして、うめき声を上げた。
「甘い……ブルーベリージャムだ」
「違うところを食べればいい」
「じゃあ隣……って、ここは……おかか? 普通……じゃないよ! 口の中で混じって、大変なことになってる!」
 ジャミファは両手で握ったおにぎりを、憎き敵であるかのように睨み付けた。ルータスがそれを、眼光光る瞳で見やる。ジャミファはびくりと肩を揺らした。ウィンクルムになってそんなにたってない。はっきり言って、このスキンヘッド怖い。しかし彼はジャミファの手から、おにぎりを持って行っただけだった。
「わがままな奴め。まあ一口目の運が悪かったな。後は俺が食う」
 そう言うルータスはさっきからジャミファの握った一口にぎりを食べているのだが、いっこうに変な様子を見せない。
「おかしいな、変なの入れたのに」
 それともまあまあの味だったのか? ジャミファは自作のひとつをぽいと口に放りこみ。
「マシュマロだ……! お前が、お前が嫌な顔しないから!」
 お前が喜ぶ反応なんかしてやるものか。ルータスはマシュマロにぎりの隣にあったものを口に入れた。広がる濃厚な甘みは、はちみつと生クリームか。
「……さすがにまずいな、これは」

 という状況を見ながらの、店主のロシアンである。
「さあ参加者の皆さん、目を閉じてくださーい。いいって言うまで、開けちゃだめですよ。その間におにぎり作りますからね」
 うわあ、とラキアの声がする。え? と疑問符を挟んだのは千代だ。
「それは……」
 はちみつ生クリームむすびを作ったジャミファですら、呟くおにぎりは、どんなものなのか。
「さあいいですよ、みなさん!」
 ずらりと並んだ人数分のおにぎりに、いろんな意味で、参加者の喉が鳴る。

 真っ先に手に取ったのはセイリューである。
「オレはなんでも美味しく食べられる自信があるぜ!」
 そう言いつつ、甘い系がくるとは予想している。オレのおにぎり、基本的には甘みのってないから、食べて幸せになるんだ!
 胸の内でひとり幸せ宣言をして、大きなおにぎりをぱくりと一口。
「……甘い。これは……はちみつチョコバナナ?」
 え? っとラキアが驚いた顔をしたのは、たぶん平然と食べるセイリューに対してだろう。
「これはこれで……いや、やっぱ米じゃないほうがいいか……なんかねっちゃねちゃする」

「あたしもいっただきまーす!」
 アイオライトも元気にぱくり! がり! と何かを砕く音がした。
「わあ、飴だ! ほら!」
 べえっと伸ばされる赤い舌。その上には、同じく赤い飴が載っていた。
「苺ミルク味! あまーい、おいしーい」
 アイオライトはご機嫌で、飴をコロコロ転がしている。ご飯との相性はどうなのかと誰もが思ったが、本人が満足ならまあいいだろう。どうせ次の一口は、飴を食べ終わってからなのだろうし。
 さて白露の方はと言えば、不安が先立ち事前に手で割ったことにより、中身はすでに見えていた。
「確かに、別々に食べるんだったら問題ないでしょうね」
 アイオライトを見習い、先に食べてしまおうと、米から顔を出しているうさぎりんごを指でつかむ。これを抜いてしまえば、あとはただの米とのり。そのつもりでりんごを食べ、さらなる一口に挑戦したのだが。
「甘……これ、砂糖むすびですね? ひどいトラップです」

 暁は食べた瞬間口を押さえた。
「食べ物以外はないはずだけど……そんなにいけない組み合わせだったの? チヒロちゃん」
 心配顔のジルに、千尋はわずかに潤んだ瞳で答える。
「嫌いなトマトに……生クリームと味噌のコラボが」
 それにはジルのみならず、一同が同情した。和洋折衷ではすまされないレベルだし、ありえない。
 ジルはたらこと明太子のマヨネーズかけで、案外普通ね、と舌鼓だ。
「だけど、ちょっとしょっぱいわねえ。おじさんなのに、塩分過多になっちゃうわ」
「おじさんっ!?」
 新人ウィンクルム、および店主が叫ぶ。その声に、ジルは「そうよぉ」と美しく微笑み、千尋は目を逸らすのだった。

 結果それぞれ。幸せそれぞれ。
 賑やかなウィンクルムを見ながら千代には背を向けて、ラセルタはおにぎりを作っている。
「どうだこれは!」
 数分後、差し出されたそれは、三角形の握り方を教えたはずなのに、けっこうなサイズの丸いおにぎりだった。きゅうりの糠漬けがふたつ、ちょんと上を向いてさしてある。正面にはミニトマトが二つ並んでいて、細く切ったのりが、その少し下、左右に数本ずつ貼りつけられていた。
「……うさぎ?」
「そうだ、なかなかだろう。もうすぐ千代の誕生日だからな。特別に握ってやったぞ」
 自信満々のラセルタに、千代は笑顔を向けた。トマトはどうなのと思いつつも、自分が好きな物を意識して作ってくれたことが嬉しい。しかし、この商店街に来るたびに、不思議なもの食べている気はする。
「俺様は千代の作った、ふりかけの握り飯が気に入ったぞ。香ばしくて良い。あとは明太子もなかなかだった。ジルの物も美味かったな」
 つらつらと語られる感想を、千代は持参したメモに書きとめ、花丸印をつけた。自分が気に入ったものはすでに記入済みだから、これでおにぎりレパートリーがかなり増えた。
 そのメモを閉じたところで、ラキアが千代に歩み寄る。
「ちょっと手伝ってもらえない? 俺、みんなの口直し作ろうと思うんだけど」
「おにぎり、このくらいの大きさでいいの?」
「のりも巻くのか?」
 ジャミファとルータスは既にラキアに声をかけられた様子。すぐに千代とラセルタも仲間に加わった。そのうちに、香ばしい匂いが部屋に広がる。
「焼きおにぎりだよ。よかったらどうぞ~!」
 今度はラキアたちが、感謝の言葉に包まれる。

 ジルはテーブルの『あまり普通じゃない』コーナーに目線を向けた。
「……デザートが欲しい気がするわ。せっかくだからスイーツ枠も作るべきよね。……バレンタインだったし、やっぱりチョコは入れるべきかしら」
 焼きおにぎりをお腹に収めたジルが新たなおにぎりを握り出す。苺、チョコ、生クリームにコーンフレーク。隣で「おにぎりにスイーツ枠は必要ないと思います。食べる人のことも考えてください」と主張する千尋のことは、華麗にスルーでだ。
「うーん……ありきたりすぎるかしら? でも冒険しすぎて、食べられないのも悲しいし」
「どうせなら、あたしはクレープがいいな!」
 アオイライトは、ジルが使ったのと同じ材料を、クレープの皮に包みだした。
「それではコンセプトが違いますよ」
「大丈夫、パパにもあげるから!」
「いや、そういう問題ではなくてですね」
 困惑顔の白露の前に、はい、と差し出されたクレープ。
「大変ねえ、あなたも」
 同年代の白露に、ジルはそっとエールを送った。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月15日
出発日 02月22日 00:00
予定納品日 03月04日

参加者

会議室

  • [5]羽瀬川 千代

    2015/02/21-23:20 

    ご挨拶がぎりぎりになってしまいました…!
    こんばんは、羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
    ルータスさんとジャミファさんは初めましてですね、宜しくお願い致します。
    皆さんとわいわい、賑やかな時間が過ごせるのを楽しみにしています。

  • [4]暁 千尋

    2015/02/21-13:48 

    こんにちは、暁千尋です。
    ルータスさん達は初めまして。
    他の皆さんも、どうぞよろしくお願いします。

  • [1]ルータス・ファン

    2015/02/19-19:21 

    初めまして。

    初依頼なので何かやらかすかもしれないが、何をやらかしても良さそうだったので、安心して参加させていただいた。

    よろしく。


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