かまくらホットスペース(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 雪は恐ろしくもあるが、美しくもある。

 A.R.O.A.のロビーに観光案内のポスターが貼られている。雪国でかまくら祭り、という文字が読めた。
 ある雪国の街で、かまくら祭りが開催されるらしい。
 本来かまくらは水神様を祀る行事だというが、この祭りはあくまでも気楽なレジャーといった雰囲気だ。

 かまくらは大人がごく数名入れるほどの大きさで、会場のあちこちに設置されている。
 外部からの視線はある程度さえぎられるものの、構造上ドアが存在しないため、完全に人目をシャットアウトできるようにはなっていない。
 かまくら内部のスペースはそれほど広くはないので、おのずとパートナーの近くで座ることになるだろうか。
 床部分には清潔なムシロが敷かれている。寒さが苦手な人には、肩に羽織ったり膝にかけられるサイズの毛布が無料で貸し出されるそうだ。

 会場では、かまくらの中で飲食できるものも販売されている。
 飲み物は湯呑みやマグカップでの提供だ。甘酒やおでんなど、体がポカポカと温まるものが中心。ココアやチョコフォンデュといった、洋風のメニューもそろっている。

 かまくら祭りの開催時間は昼から夜にかけてだ。昼には二人乗りか一人乗りのソリ滑りができる。夜は幻想的なロウソクのイルミネーションと盛大な花火が打ち上げられる。

 ポスターの写真では、カップルや家族連れが朗らかな笑顔を浮かべて、雪の祭りを楽しんでいた。

解説

・必須費用
参加費:1組300jr

・飲食メニュー
緑茶:1つ20jr
紅茶:1つ20jr
コーヒー:1つ20jr

甘酒:1つ50jr
葛湯:1つ50jr
ホットココア:1つ50jr
ホットレモネード:1つ50jr
コーンポタージュ:1つ50jr

おでんセット:2人前100jr
お汁粉セット:2人前100jr
チョコフォンデュセット:2人前100jr
チーズフォンデュセット:2人前100jr

・プランについて
長い名前のメニューは、意味が通じる程度であれば省略して構いません。
昼のソリ滑りや夜の花火に参加する場合、リザルト文字数の関係で、どちらか片方の選択をオススメします。

ゲームマスターより

山内ヤトです。
コーディネート特殊効果も多種多様になってきましたね。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆心情
私が住んでいたところでは雪は降ってもそんなに積もらなかったんだもの、こんなに沢山の雪をみるとわくわくするよ
エミリオさんと楽しい時間を過ごせるといいな

☆かまくらの中で
しあわせー♪(マシュマロを頬張りながら微笑み)
寒い所で食べるチョコフォンデュは格別だねー
(最後の1個になった苺を見つめ)ふふ、エミリオさんも好物は最後にとっておくタイプ?
(食べたいのをぐっと我慢し微笑みながら苺を精霊に差し出す)はい、あーん
!?え、エミリオさん・・・っ(赤面)

☆夜の花火
(精霊に寄り添いながら花火を眺め)今日はすごく楽しかったね
またエミリオさんと来たいな

☆領収書
参加費:300jr
チョコフォンデュセット:100jr



ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  チョコフォンデュおいしかったですねー
うちの村、雪降らない訳じゃなかったんですけど
あまり積もらなかったのでかまくらは初めてでしたっ!
私は大丈夫ですけどグレンは寒かったりしないです?
体冷えたらいつでも言って下さいねっ!

…やっぱり。
手を繋いだり近くでくっついてるとすごく安心するし、心の中がふわふわして暖かい気持ちになります。
最近は何してる時も気がつけばグレンのこと
考えてるし、色々考えたけど…
やっぱり恋、してるんだと思います。

…な、なんでもないですよ!
お腹いっぱいでぼーっとしちゃっただけですっ
それより花火始まりましたよ!
何か気付いちゃったらまっすぐに顔見れません…
は、花火を見てる間に落ち着かないと…!



ひろの(ルシエロ=ザガン)
  お汁粉セット。
毛布は膝に掛ける。

かまくらは初めて、かな。
そこまで降らないし。
タブロスに来るまで、あんまり外に出なかったから。
任務と、こういうお出かけで。外に出る回数、増えた。

寒い、けど。
お汁粉飲みたかった。

(他に人いない今なら、聞けるかな)
ルシェ。あの、ね。(服を引く
なんで、契約してくれたの?
子供、嫌い……だよね。

義務、そっか。
私も契約とか、ウィンクルムとか。よくわかってなかったし。
ルシェと同じで、義務。

ルシェは、……他の人でも、契約してたよね。
たぶん。私も、そう。

違う。そうじゃ、なくて。(首を振る
(誰でも良かったなら。ルシェも、本当は私がいらないんじゃないかって)

(一緒にいても、いいのかな)



和泉 羽海(セララ)
  アドリブ歓迎

(毛布でもこもこにくるまった状態)
……寒い。寒いの嫌い
来たくないって言ったのに…
そりゃかまくらなんて初めてだけど…ちょっと近い…
(半眼で睨む)

おでん食べたら、帰ってもいいかな…?夜遅いと親も心配するし
…伏兵は身内にいたか…
ていうか、何でこの人考えてること分かるんだろう…?エスパー?

「…!」
(急に上がった花火に驚く)

(微かに頷く)
この人は時々おかしいけど、ちゃんとあたしの事考えてくれてる
なのに、あたしは自分のことばっかり…

『ごめんなさい』(口パク

…綺麗
花火やイルミネーション以上に…
どうしてこの人はあたしと一緒にいるんだろう…?

その言葉はまだ信じられない
でも嫌な気はしない…と思う



ドロテア(フィデリオ)
  かまくらですわー!
こんなにいっぱいあるなんてすごいですの

まずはソリ遊びがしてみたいですわ
では、行ってきますわね!
ドロテアの見事な滑りっぷりととくと見ていてくださいませ!
1人乗りのソリで滑る
止まったら振り返って手をぶんぶん振る

他の人の様子をみて二人乗りもある事に気づき借りて精霊の元まで戻る
ドロテア1人で先に行ってしまってごめんなさい
二人乗りもありましたの、一緒に滑りましょう!
フィーも一緒ならもっと急な所も滑れそうですわ

目一杯遊んだらかまくらに入り休憩
ホットココアをちびちび飲む
ソリ滑り面白かったですわね
フィーも楽しそうにしてましたもの

夜には花火もあるのでしょう?
楽しみですわ…



●思いやりとごめんなさい
 めったに外出しない『和泉 羽海』は、かまくらの中で毛布にもこもこにくるまり引きこもっていた。
「ヤバイ! ヤバイ! オレ、キュン死しそう!」
 静かな羽海とは対照的に、楽しそうな歓声をあげてもだえているのはファータの精霊『セララ』だ。
 そのテンションの高さに、肝心の羽海はシラーッとした冷たい眼差しを向ける。
 セララのことは、頭のネジが一本足りないとっても残念なイケメンとして羽海は認識している。初対面の時に、ウィンクルムの契約どころか結婚を申し込んだところもぶっ飛んでいた。
(……寒い。寒いの嫌い)
 青白い顔で、羽海はかすかに唇を動かした。幼い頃の病気が原因で声は出せない。
(来たくないって言ったのに……そりゃかまくらなんて初めてだけど……)
「羽海ちゃん大丈夫? まだ寒い?」
 相手を気遣う言葉をかけつつ、何気ない素振りで距離をつめようとするセララ。この精霊、油断も隙もない。
(……ちょっと近い……)
 ジロリと半眼で睨んでやった。
 セララは笑顔を浮かべたまま、大人しく引き下がる。外出を好まない羽海のことを強引に連れてきてしまったという引け目もあるようだ。
 不機嫌そうな羽海を見て……、セララは改めてこう思う。
 まぁ拗ねてる顔も可愛いんだけど!
 びっくりするほどポジティブだった。
「寒いならオレが人肌で温めて……」
 腕を広げるセララと、険しい表情でささっと身をかわそうとする羽海。
「ゴメンナサイ調子ニ乗リマシタ」
 注文した食べ物を口に運びながら、羽海は帰りのことを考えていた。
(おでん食べたら、帰ってもいいかな……? 夜遅いと親も心配するし)
「あ、ちゃんとご両親からは夜間外出許可は取ってあるから大丈夫だよぉ」
(……伏兵は身内にいたか……)
 早く帰る口実を一つ潰されてしまった。ため息をつく。その後で、ふと羽海は疑問にかられる。
(ていうか、何でこの人考えてること分かるんだろう……?)
 もはやエスパーなのかといぶかしむ。
「あ、そろそろ時間かな」
 セララがそういってすぐに、ドンと大きな音がした。
「……!」
 羽海はビクッと体をすくませた。だが、音の正体がわかれば驚きは感動へと変わる。冬の夜空に輝く打ち上げ花火だ。
「冬に花火って乙だよね~。羽海ちゃんに見せてあげたかったんだ」
 セララは花火があがることは羽海に秘密にしていた。
「ねぇねぇ機嫌直った?」
 にこやかに問いかけられて、羽海は微かに頷く。
(この人は時々おかしいけど、ちゃんとあたしの事考えてくれてる。なのに、あたしは自分のことばっかり……)
 強引な面もあるが、セララは羽海への親切な気配りを欠かさなかった。そんな彼に対して、今日の自分の振る舞いを省みる。
 相手に伝わりやすいように、羽海はハッキリと唇を動かして。
『ごめんなさい』
 セララはにっこりと微笑んだ。わかってくれたらしい。
 そのまま二人、花火を眺める。
(……綺麗。花火やイルミネーション以上に……)
 羽海はセララの端正な横顔に視線を向けた。
(どうしてこの人はあたしと一緒にいるんだろう……?)
 セララは格好良いし社交的な雰囲気をまとっている。一方羽海はというと、自分の容姿に自信が持てず、考え方も臆病でネガティブだ。セララのようなタイプとは違う。
 だからこそ、明るい美青年セララからの好意の表現を羽海は本気で受け止められない。
「羽海ちゃんってさぁ、すぐ顔に出るよねぇ」
 視線がそそがれていることに、セララは気づいていたようだ。
 慌てて羽海は花火の方へと顔を向けた。

 セララはストレートに愛情をぶつけてくる。
 羽海はまだ、その全てを信じることはできない。
(でも嫌な気はしない……と思う)

●変わりゆく二人
「チョコフォンデュおいしかったですねー」
 かまくらの中、『グレン・カーヴェル』の傍らで、『ニーナ・ルアルディ』は屈託のない笑みを見せた。
「うちの村、雪降らない訳じゃなかったんですけどあまり積もらなかったので、かまくらは初めてでしたっ!」
 雪で作られたかまくらを珍しそうに見ながら、ニーナがいう。
 グレンも彼女に同意するように頷いた。
「存在は知ってても入ることってねーよな、かまくら」
 ニーナはグレンが寒くないか気にかけた。
「私は大丈夫ですけどグレンは寒かったりしないです? 体冷えたらいつでも言って下さいねっ!」
 温かなチョコフォンデュを食べた後なので、ニーナの体はポカポカしていた。
「ふーん……それじゃ、遠慮なくお前で暖取るわ」
 そう言うが早いか、グレンはニーナの体を自分のそばに引き寄せた。
「きゃ」
 ちょっとだけ驚いてニーナは小さく声をあげたが、それ以外は特に抵抗せず、グレンに引き寄せられるままだ。恥ずかしいだとか緊張するといった気持ちは、今は感じない。
「……やっぱり」
 ニーナは自分の心の変化に気づいていた。
 グレンと手を繋いだり、近くでくっついていると、すごく安心するのだ。心の中がふわふわして、暖かい気持ちになる。こんな風に感じるようになったのは、いったいいつからだろう。

 グレンの方も、ニーナとともにいる時間のことを考えていた。
 ニーナが自分のそばでこんな明るい表情をするようになるなんて、一年前なら思いもしなかった。彼女はいつも困った顔ばかりしていた。
 だが、変わらないところもある。何事も必死で、たまに空回りをして正直に気持ちをぶつけてくる。そんなところは変わっていない。
 ニーナの変化のことを考えていると、自然とグレンの口元に笑みが浮かんだ。
 むしろ変わったのは自分の方で、いつしかニーナのいる未来も悪くないと、そう思うようになった。そんなことは、最初は予想もしていなかったというのに。

(最近は何してる時も気がつけばグレンのこと考えてるし、色々考えたけど……)
 すぐそばにいるグレンの顔に、ニーナはドキドキしながら視線を向けた。
 そして、自分の気持ちを確信する。
(やっぱり恋、してるんだと思います)

「おい、ニーナ。どうした?」
 ふいにグレンの声がした。いつもより近くで聞こえる声にドキリとしながら、ニーナは慌ててその場を取り繕う。
「……な、なんでもないですよ! お腹いっぱいでぼーっとしちゃっただけですっ」
「そうか? それにしては……」
 これ以上追求されることを避けたかったニーナにとってありがたいタイミングで、ちょうど夜の花火がはじまった。
「ああ、ほらグレン! それより花火始まりましたよ!」
 グレンの意識は打ち上げ花火の方にそれた。
「花火か……これは夜まで待った甲斐あったな」
 グレンの言うとおり、夏の花火とは一味違った幻想的な光景だった。
「そ、そうですねっ」
 恋心を自覚してしまったニーナは、それどころではなかった。とてもじゃないが、今はまっすぐにグレンの顔を見られない。花火を見ている間に、なんとか気持ちを落ち着けようと必死だった。
「もっと見やすい場所、移動するか?」
 かまくらの中では、少々空を見にくい。グレンはニーナに声をかけたが、彼女はやたら一生懸命に花火を見ている様子で。
「って、こいつ完全に見入ってるなこりゃ……」
 グレンはそう解釈したらしい。
 そんなに花火が気に入ったのか、と呆れ半分と愛しさ半分の眼差しを彼女に向ける。
 また今度、こうして連れ出してやるか。
 真剣な面持ちで花火を見上げるニーナを見て、グレンはそう思うのだった。

●質問と仮定
 かまくらの中で、静かな時間が流れていく。
 『ひろの』は毛布を膝にかけ座っていた。目の前の小さな卓の上にはお汁粉が二人分。
「前は雪が降る場所に住んでたんだろう」
 『ルシエロ=ザガン』がそう問いかける。
 ひろのはゆるりと視線を上げた。
「かまくらは初めて、かな。そこまで降らないし」
 訥々とひろのが語る。
「タブロスに来るまで、あんまり外に出なかったから。任務と、こういうお出かけで。外に出る回数、増えた」
「今でも家に篭ってるのにか」
 もっと外に出た方が良い……のだろうか? ルシエロの言葉から、一瞬だけそう受け止めかけたひろのだが、すぐに思い直す。ルシエロの微妙な表情から、ひろのはこのままで良いと思っているように読み取れた。
 そう。ルシエロとしては、このままで良かった。下手に外出してまた浚われても事だ、と彼は内心思っていた。
「寒いのか」
 寒さでわずかに身震いしたひろのに、そう声がかけられる。
「寒い、けど」
「なら何故来たんだ」
「お汁粉飲みたかった」
 素朴で純粋な理由。ひろのは温かなお汁粉に口をつけた。ホッとする小豆の風味が口中に広がる。
 かまくらは完全な密室ではないが、外からの視線はある程度遮られている。周囲に人の気配がなくなった時を見計らい、ひろのがルシエロに尋ねる。
 大切な質問を。
「ルシェ。あの、ね」
 ひろのの手が、ルシエロの衣服を軽くつかんだ。
「なんで、契約してくれたの? 子供、嫌い……だよね」
 ルシエロの返事はこうだった。
「それがオレの成すべき勤めで義務だからだ」
 義務という硬質な言葉。
「契約相手が子供なのは些末事でしかない」
「義務、そっか」
 ポツリと小さなひろのの声。
「私も契約とか、ウィンクルムとか。よくわかってなかったし。ルシェと同じで、義務」
 まるで言い聞かせるかのように、義務という言葉を繰り返した。
 ひろのは俯きながら、静かに言葉を続ける。
「ルシェは、……他の人でも、契約してたよね。たぶん。私も、そう」
 そこでルシエロの表情がわずかに変化したことを、俯いていたひろのはしらない。
「つまり。オレとの契約を解消したいと?」
 契約の解消。その言葉に、顔を上げるひろの。それは誤解だ。否定の意味を込めて首を横に振る。
「違う。そうじゃ、なくて」
 もちろんルシエロとの契約を解消したいわけではない。ただ、ひろのは確認したかったのだ。
(誰でも良かったなら。ルシェも、本当は私がいらないんじゃないかって)
 気持ちを表す上手い言葉が見つけられず、ひろのは黙ってしまう。
 ルシエロは、服をつかんでいたひろのの手を離す。そしてすぐに自分の両手でひろのの頬を挟んで、目を合わせる。
「いいか。良く聞け。始まりがどうであれ、オレは今オマエと契約している。そしてオレはこの状態に不満は無い。今更オマエ以外と契約する気も無い」
 それがルシエロからの回答。
「オレはな、ヒロノ」
 焦げ茶色をしたひろのの瞳と、タンジャリンオレンジの輝きを帯びたルシエロの眼光が絡み合う。
「オマエ以外はいらん」
 そう告げて、ルシエロはひろのの頬を解放した。
 彼の口から語られた言葉をひろのは一つ一つ思い返し、頭の中で整理していく。
(一緒にいても、いいのかな)
 導き出されたのは、迷いと戸惑いを含んだ仮定。一緒にいてもいい、でもなく、一緒にはいられないんだ、でもない。そんな距離感だった。
 ルシエロ自身は自分の思いを認めていた。オレはコイツが欲しい、と。
 だが、ひろのの視線が下るのを見て、彼はその思いをそっと秘めた。告げるには、まだ早いだろうと。

●甘いご馳走
 雪。同じ光景に対して、『ミサ・フルール』と『エミリオ・シュトルツ』は正反対の感情を抱いていた。
 無邪気にはしゃいでいるのは、ミサだ。
「私が住んでいたところでは雪は降ってもそんなに積もらなかったんだもの、こんなに沢山の雪をみるとわくわくするよ」
 そんな彼女に、エミリオは少しだけ寂しげな笑みを見せた。雪は彼にとって辛い記憶と結びついていた。過去の記憶が蘇ってきそうになる。
「いや……」
 暗澹とした思いを振り払うかのように、エミリオは軽く首を振った。それに、ミサといるからなのか、今は心がとても温かい気がするのだ。
「エミリオさんと楽しい時間を過ごせるといいな」
 ミサの言葉に、エミリオが頷く。
「もっとミサと一緒に色んなことがしたい。今日は思う存分ミサと楽しめればと思うよ」
 辛い雪の思い出にとらわれず、エミリオはミサとの時間を大切に過ごすつもりだ。

 かまくらの中で、ミサはチョコフォンデュを堪能していた。
「しあわせー♪」
 たっぷりとチョコがかかったマシュマロを頬張りながら、笑顔を見せるミサ。
「寒い所で食べるチョコフォンデュは格別だねー」
 そんなミサのことをエミリオは愛おしそうにじっと見つめている。
「お前って本当に幸せそうに食べるよね、可愛い」
「えへへ。可愛いなんて、そんな……。照れちゃうよ」
 エミリオから可愛いと言われて、はにかむようにミサは笑った。
 食事を進めるうちに、盛りだくさんだったチョコフォンデュも、いよいよ最後のイチゴ一個になってしまった。
「ふふ、エミリオさんも好物は最後にとっておくタイプ?」
 食べたいという気持ちをぐっと我慢して、ミサは大好きなエミリオに最後のイチゴを譲ることにした。
「はい、あーん」
 エミリオにイチゴを差し出す。
 そんなミサの振る舞いに、エミリオの胸は高鳴ったようだ。
「っ、俺はいいよ、それはお前が食べて」
「え? でも、エミリオさん……」
「いいから。食べさせてあげる……ほら口あけて」
 逆にエミリオからイチゴを食べさせてもらうことになった。
「ありがとう。美味しかったよ。だけど、私一人だけイチゴを食べちゃって、なんだかエミリオさんに悪いな……」
「へえ。そんなに気になるなら、今頂くよ」
 今頂く?
 その言葉の意味をミサが理解するより先に、エミリオが動いた。ミサの顔にエミリオの顔が近づく。そして、ミサの口元についていたチョコをエミリオはペロッと舐めとった。
「!? え、エミリオさん……っ」
 セクシーで大胆なエミリオの行動に、ミサの顔がポッと赤くなる。
 さらに追い打ちがかかる。エミリオは赤面するミサの耳元で、色っぽいニュアンスでこう囁いた。
「……ご馳走様、ミサは甘いね」
「もうっ! エミリオさん! ……そんなことされたら、私、心臓がドキドキしちゃうよ」
 そんな反応も可愛らしいと、エミリオは満足気な様子。
 ミサとエミリオは親密な関係のペアで、良い雰囲気のデートを成功させるための能力も二人とも高く、今日は気さくにスキンシップがしたい気分だった。

 夜の花火が始まる頃、二人は寄り添い合っていた。
「今日はすごく楽しかったね」
 しみじみとミサがつぶやく。
 星空を花火が彩った。
「……花火綺麗だね」
 そういったエミリオが、ミサの方へと手を伸ばす。エミリオの手に気づくと、ミサはそっと指をすり寄せた。エミリオは、彼女の細くしなやかな手を握る。
「またエミリオさんと来たいな」
「また1つ大切な思い出ができた。ありがとう、ミサ」
 握る手の指を絆と同じくらい強く絡ませながら、二人は冬の花火を見上げる。

●保護者青年と無邪気なレディ
「かまくらですわー!」
 明るく無邪気な『ドロテア』の声が響き渡る。
「こんなにいっぱいあるなんてすごいですの」
 人里離れたお屋敷で暮らす彼女には、ずらりと並んだかまくらは充分珍しいものなのだろう。
「はぐれないようにな」
 はしゃぐドロテアに声をかけたのは『フィデリオ』。身長190cmの大柄な青年だ。
「まずはソリ遊びがしてみたいですわ」
 お屋敷に住んでいるが、ドロテアは好奇心が強くておてんばなところがある。年相応の子供っぽさを持っている少女だ。
 ソリ滑りのできるコーナーの方に、ドロテアが興味津々の視線を向ける。どこに遊びにいくかをフィデリオにきちんと伝えてから、軽やかな足取りで飛び出していった。
「では、行ってきますわね! ドロテアの見事な滑りっぷり、とくと見ていてくださいませ!」
「ああ」
 一人乗りのソリを選んだドロテアは、滑り終わってフィデリオのいる方向に元気良く手をぶんぶんと振った。
 フィデリオは、ドロテアに手を振り返す。
 そんなやり取りを交わすフィデリオとドロテアの姿は、傍目には親子に見えるのかもしれない。周囲の他の客の間から、元気な娘さんだね、だとか、良いお父さんだね、だとか話しているのが今にも聞こえてきそうだ。そういった声が、自分に向けられているような気がしてならない。
「……」
 せめて兄が良い……、と内心複雑なフィデリオであった。
 もっとも父にしろ兄にしろ、どちらも保護者だなと思い返して、フィデリオは遊んでいるドロテアの様子を見守ることにした。
「!」
 辺りを見回したドロテアは何かに気づいた顔をして、フィデリオのところに戻ってきた。
「ドロテア一人で先に行ってしまってごめんなさい。二人乗りもありましたの、一緒に滑りましょう!」
 素直に謝ってから、今度は二人で滑ろうと誘う。
「別に見てるだけでいいんだが……」
「フィーも一緒ならもっと急な所も滑れそうですわ」
 はじめはやんわりと断ろうとしたフィデリオだが、ドロテアの無垢な熱意に負ける形で、ソリ滑りに付き合うことになる。
 小さなドロテアが斜面で転げ落ちてしまわぬよう、フィデリオは彼女の細い体をそっと支えた。

 目一杯遊んだ後で、かまくらに入って休憩する。体を温めるために、二人分のホットドリンクも買ってある。
 ドロテアはホットココアを両手で包んで、ちびちびと飲んでいる。フィデリオは湯気の立つコーヒーを片手で持っていた。
「体を冷やさないように、これを羽織っていた方が良いだろう」
 ドロテアの肩に、柔らかな毛布がふわりとかけられる。
「ソリ滑り面白かったですわね。フィーも楽しそうにしてましたもの」
「……」
 ドロテアはともかく、こんな年齢になってソリ滑りだなんて少々恥ずかしい、とフィデリオは思った。
 だが、実際に滑ってみて、楽しかったのも事実だ。
 否定もできず、しかし気恥ずかしさがなくなるわけでもなく。
 とりあえずフィデリオは目をそらしておく。
「夜には……花火もあるのでしょう?」
 そう問いかけるドロテアの声は、普段よりもスローモーだった。
「……楽しみ……ですわ……」
 フィデリオは、かすかな重みを体に感じる。不思議に思って首を動かせば、ドロテアが寄りかかっていた。昼のソリ滑りで疲れて眠ってしまったようだ。夜の花火も楽しみにしていたようだが、眠気には抗えなかったのだろう。
「遊び疲れたのか。まだまだ子供だな」
 ドロテアの両手に握られていたココアがこぼれる前に回収するフィデリオ。こういうさり気ない行動に、彼の保護者らしさが表れている。
 安らな寝息をたてるドロテアを見守っていると、フィデリオは温かな気持ちになるのだった。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月12日
出発日 02月17日 00:00
予定納品日 02月27日

参加者

会議室

  • [7]ニーナ・ルアルディ

    2015/02/16-23:38 

  • [6]ドロテア

    2015/02/16-22:20 

    ドロテアと申します。
    パートナーのフィデリオ様ともどもよろしくお願い致します。
    かまくら祭り楽しみですわ!
    皆様も素敵なひと時を。

  • [5]和泉 羽海

    2015/02/16-22:16 

    はろはろ~セララ君と可愛い羽海ちゃんだよー
    みんな、よろしくね~!
    僕らは花火を楽しむ予定だよ!お互い素敵な時間を過ごそうね!

  • [4]ミサ・フルール

    2015/02/16-10:43 

  • [3]ミサ・フルール

    2015/02/16-10:43 

    こんにちはー!
    ミサ・フルールです、ディアボロのエミリオさんと一緒に参加します。
    久しぶりの方は久しぶり!初めての方は初めまして!(にこりと微笑む)
    私達はかまくらの中でチョコフォンデュを食べたいと思ってるんだ。
    夜の花火もすごく楽しみだよ♪
    お互い素敵な時間を過ごせることを願って、

  • [2]ニーナ・ルアルディ

    2015/02/16-01:45 

  • [1]ひろの

    2015/02/15-23:03 


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