【メルヘン】頬に色づく季節はずれのモミジ(白羽瀬 理宇 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

それはそれは美しい女性だった。

少し気の強そうな眉、くっきりとした二重の碧い瞳、すっきりとした鼻筋に、やや厚めだけれど形の良い唇。
それらが小さな細面に実にバランス良く収まっている。
ハチミツ色の髪の毛は豊かな波となって背中に流れ、手足は程よく細く長く、
柔らかいソフトボールのような胸、ひょうたんのような細腰、そして桃のような尻。
全てにおいて完璧な、まさに美女と呼ぶにふさわしい女性だった。

そんな女性が一直線にあなたに向かってやって来る。
そして……。

パチンッ!!

女性のスタイルよりも、もっと見事な平手打ちがあなたの頬に炸裂した。

「何だぁ?」

頬に色づいた季節はずれのモミジをおさえつつ、あなたはそう叫んだかもしれない。
そしてそこに……。

「何々?どうした?」

あなたのパートナーがやってきた。
そう、今日は二人で一緒にショコラランドの散策をしようと、バレンタイン城の城下町で待ち合わせをしていたのだ。
頬の赤くなったあなたと、未だ怒りの冷めぬ様子の金髪美女。二人を交互に見るパートナー。
パートナーはどんな反応をするだろうか。
二人を仲裁しにかかるだろうか、それとも有無も言わさず美女の味方をするだろうか。

見知らぬ美女に突然平手打ちをされたあなたと、その場に居合わせたパートナー。
そして何やら怒っている様子の金髪美女。
それは一体どんな物語になるのだろうか。

解説

なかなかに失礼な話ではありますが、金髪の美女がいきなり平手打ちをしてきました。
戦い慣れたウィンクルム達であれば避けられるかもしれませんが、申し訳ありませんが、今回は叩かれてください。
イイ音のする、お手本のような平手打ちです。

それは過去の知り合いかもしれませんし、あるいは見知らぬ他人が人違いで叩いてきたのかもしれません。
もしかしたら、酔っ払って誰かれ構わず喧嘩を売り歩いている可能性もあります。
とにかく、それはそれは美しい、顔も体もパーフェクトな美女が頬を叩いてきたのです。
そして引っ叩かれた直後にパートナーがやってきます。

今回は、怒れる美女と神人と精霊、三人のお話です。

●プランに書いていただきたいこと
・叩かれたのは神人と精霊のどちらか
・なぜ叩かれたのか
・叩かれた人の反応
・パートナーの反応

キャラクター好みの女性に叩かれたいという場合には、美女の姿は変えていただいて構いません。
その場合にはプランに叩いてきた女性の容貌などを記載してください。

今回は個別でのお話になります。
また、デートのお土産として300Jrをいただきます。

よろしくお願いします。

ゲームマスターより

プロローグを読んでくださってありがとうございます。

怒れる美女の平手打ち。
ラッキースケベの直後だったり、諸事情で捨ててきた過去の女だったり。
色々と面白いシチュエーションを想像できますよね。

どうぞよろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)

  「珊瑚、大丈夫か?」
ハンカチをペットボトルの水で濡らし、珊瑚の頬に当てる。
その後、女性になぜ珊瑚を叩いたのか話を聞こう。

(だが、どうする?)
どうやら珊瑚を、自分を振った男だと思っているようだ。
話からすると、女性は男に失恋して自棄酒。
平手打ちをしたのは、珊瑚を見た途端、
本人との記憶がフラッシュバックした反動かもしれない。

「……お姉さん」
珊瑚の行動に便乗し、女性を挟んで誘惑といこう。
平手打ちされるのは、百も承知だ。
女性に近づいて髪に触れ、左耳に囁く。
そんな男、忘れてこっちおいで、と。
「ねぇ、おれと後ろの奴、どっちが好き?」

「っ・・・・・・」
おれの事は気にするな。
お土産?黒糖入りガトーショコラだぞ?



シグマ(オルガ)
  目撃

・反応:思わず固まる
・叩かれた理由に呆れて説教と謝るよう説得
あ(とても見てはいけないものを見た気がする!
それ、怒るに決まってるから!てか、いつも言ってるの!?
ちょっとこっち来て!
ねぇ謝ろうよ、あのお姉さん超怒ってるじゃん!こんなんじゃ今後仕事に影響する事もあるかもよ?
何でもするから!うんうん、嘘じゃないよ!オルガさんの言う事聞くから!

・お姉さんの言葉に少し気まずく
・オルガの言葉にわーわー騒ぐ
あ、それ言っちゃまずい…かな。(滅茶苦茶表情がが!!震
わ、わわわわわわあぁあぁぁぁああぁあ!?
ちょ、ちょっと何してるの!?それじゃあ誤解受けるって!
違うから!違うからねお姉さん!!
そんな顔で見ないでー!


暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
  アドリブ大歓迎

ど、どういう状況なんでしょうか、コレは…!?
先生が引っ叩かれたことも驚きですが、全く動じてない辺りさすが先生です(混乱中)

あ、初めまして…?
どうやら知り合いのようですし、あまり僕が出しゃばらない方がいいでしょうか
それにしても美麗な方ですね
顔が広いとは思ってましたが、一体どういう関係なのでしょうか?
まさかと思いますが、元カノとかそういう…いや先生に限ってそれはないです、よね
あ、でこぴん…あれ、結構痛いんですよ

いえ、僕のことは気にしないでください
それよりも頬は大丈夫ですか?
どこかで冷やした方がいいですね

あの、さっきの方のこと聞いても良いでしょうか?
昔って…その、付き合っていたとか…?



ハーケイン(シルフェレド)
  ◆場所
日用品の買い出し
各々好みの店で用を済ませてカフェで合流

◆状況
先に来ていたシルフェレドが女性に叩かれる瞬間を目撃

◆心境
……痴情のもつれか、喧しい
放置すると奴組んでいる俺にまで面倒がかかるな
手を煩わせやがって

「そこまでにしろ
赤裸々に喚き散らすのは貴様も恥だろう
この馬鹿の事はさっさと捨てて別の男を見繕え
これは俺が引き取ってやる」

ふん、去り際まで喧しい
まあ捨て台詞を吐けるなら問題なかろう

「次から面倒を起こす時は人目のない所でやれ
俺はお前のパートナーだ。恥をかくのは貴様だけではない」

しかしいい平手打ちだった
あれは下手な拳より痛いだろうな
これは冷やさんと腫れる。さっさと帰るぞ




レン・ユリカワ(魔魅也)
  ・叩かれ→精霊
・相手→行きずりの女
・叩かれた反応→飄々
・レンの反応→きょとん

(偶然通りかかり)
え!?魔魅也さん、どうしたんですかっ?
(男女のもつれっぽいし、自分が居ても邪魔なだけ…と思い、ひとまず己のハンカチを濡らしに走る。
 戻ってくれば居るのは魔魅也のみ)

うわぁ、頬っぺた真っ赤です。とりあえず冷やしますね。
(濡らしたハンカチで頬を押さえてやり)

何があったかわかりませんが、あんまり女の人を泣かすのは良くないと思いますよー。
「あぁ、私もそう思ったところさァ」
ならいいですけど……
「俺ァもぅ可愛い坊っちゃんのものだからなァ(悪戯に笑み)」
ななな、何言ってるんですかもう!
(頭撫でられ)
恥ずかしいですっ



●キミに夢中

 パッチン!!

 雑踏の中に突如として響く見事な平手打ちの音。
 魔魅也は打たれた右頬を左手でおさえつつ問題の美女を見下ろした。
「……えェと……お前さん、どこであった女だったっけなァ」
 その言葉に、気の強そうな眉をキリリと吊り上げる着物姿の美女。
「旦那と別れてアンタと一緒になるつもりだったのに……この人でなし!」
 同時に、今度は拳が魔魅也の肩のあたりを目掛けて振り下ろされる。
「おっと……」
 美女の女性らしい白い手首を取って、魔魅也は相手の拳を止めた。
 乱暴すぎない、けれどもぞんざいな仕草でそれを脇へと押しやって言う。
「すまないが、私が本気になるこたァ永遠にないと、どの女にも言っている。それでもなら、と夜を過ごすまでさァ」
 そして『その夜』のことを思い出させるかのように、指先で美女の喉元を撫で上げる魔魅也。
 と、そこに……。

「え!?魔魅也さん、どうしたんですかっ?」
 声変わり前の少年の、澄んだ声が飛び込んできた。
 魔魅也のパートナー、レン・ユリカワである。
 待ち合わせをすっかり忘れていたくせに、何故か偶然にそこを通りがかったらしい。
 きょとんとした表情で魔魅也と美女を交互に見ることしばし。
「ハ……ハンカチ濡らして来ます!!」
 真っ白なハンカチを握り締めて、レンは人ごみの中へと走り去って行った。
 痴情のもつれと思われる現場に、まだ子供の自分が居たところで何の役にも立たないとレンは考えたのだ。
 姿勢の良いその後姿を見送った魔魅也が美女へと視線を戻す。
「見たろう?アレが今の私の相手さ」
「何よ!あんなガキんちょ!!」
 息巻く美女に、魔魅也は口の端だけで笑って言った。
「だから言ったろぅ、お前さんに本気になれない、と」
 飄々とした魔魅也の口調に偽りの色を見つけることができずに、美女はただこめかみを痙攣させる。
 そんな美女に向かい、魔魅也は軽く両手を広げてみせた。
「さァ、殴って気が済むなら好きなだけ殴るといい」
「……」
 黙って魔魅也を睨み上げる美女。
 魔魅也の言う通りとことんまで殴ることで気が晴れるのならば、どんなに楽だろう。
 とはいえ、どれほど憎くともかつては愛した男を本気で傷つけるのは難しい。
 何より、自分のそんな心情を見透かしたかのような魔魅也の態度に腹が立つ。
 ものも言えぬほどの怒りに満ちた美女の表情は、まさに壮絶といった風情であった。

「……ふんっ!!」
 くるりと踵を返しがてら、手にしていたバックで魔魅也の顔を殴るのが美女にできる精一杯の虚勢だった。
 着物姿にも関わらず大股に歩み去ってゆく美女の背中を、魔魅也は溜め息をつきながら見送る。
 そこに……。
「ハンカチ、濡らしてきました。……あれ?」
 冷たく冷やされたハンカチを手に首を傾げているレンの姿に魔魅也は軽く笑いながら答えた。
「もう行ったさァ」
「そうですか」
 少しほっとしたような表情で息を吐いたレンが魔魅也の頬に手を伸ばす。
「うわぁ、頬っぺた真っ赤です。とりあえず冷やしますね」
 平手とバックと、2度の攻撃にさらされた魔魅也の頬に当てられる白い布。
「何があったかわかりませんが、あんまり女の人を泣かすのは良くないと思いますよー」
「あぁ、私もそう思ったところさァ」
「ならいいですけど……」
 ふっと悪戯っぽい笑みを浮かべた魔魅也が、少し身を屈めてレンの顔を覗きこんだ。
「俺ァもぅ可愛い坊っちゃんのものだからなァ」
「ななな、何言ってるんですかもう!」
 照れから顔を真っ赤に染めているレンの、サラサラとした金髪を撫でる魔魅也。
(惚れた腫れたはなかろうと、護らなきゃならなぇって意味では夢中なのに変わりはないかもな……)
 正義感の強いレンは、きっと一生懸命にオーガに立ち向かってゆくのだろう。
 そんなレンを護るためには、きっと他の事に気を取られている余裕など無いに違いない。
 艶やかに笑う魔魅也を見上げ、レンが不貞腐れたように言った。
「もうっ!恥ずかしいですっ!」



●今日も今日とて

 シグマが待ち合わせ場所で見つけたのは、パートナーのオルガと、その正面に立つ美女の姿であった。
 二言、三言、言葉を交わしていると見えたのも束の間、美女の手が振り上げられる。
 そして……。

 パァン!!

「あ……」
 見てはいけないものを見てしまった。
 気配か或いはシグマの短い声が届いたか、オルガがシグマを振り返る。
「……なんだ、いたのか」
 気後れしているシグマとは裏腹に、全く頓着しない様子でオルガはそう呟いた。
「あ……の、どうしたの?」
 美女とオルガを交互に見つつ、恐る恐る状況を尋ねてみるシグマ。
 仲裁に入ったのをきっかけに、綺麗なお姉さんとお知り合いに……なんて思っていません。はい。
 一方のオルガは、理由を口にするのさえ煩わしいと言わんばかりの表情で溜め息をつく。
「俺はいつものように『雌豚と話す事等無い』と言っただけだ」
 まるで『挨拶をしていただけ』と答えるくらいに当然のような表情で言い放つオルガ。
 ぎょっと目を剥いてシグマが叫ぶ。
「それ、怒るに決まってるから!てか、いつも言ってるの!?」
「いつものように言ったといっている」
「……」
 想像していた以上の事態にしばし声を失っていたシグマだったが、ややあって気を取り直すとオルガの袖を掴んだ。
「ちょっとこっち来て!」
 美女から少し離れたところへと連行されてゆくオルガ。
 キツイ目でこちらを睨む美女の視線を感じつつ、小声での会話であれば届かない位置まで移動すると
 シグマはオルガに向かって言った。
「ねぇ謝ろうよ、あのお姉さん超怒ってるじゃん!こんなんじゃ今後仕事に影響する事もあるかもよ?」
 女性と見れば喧嘩を売り歩くような言動では、仕事に差し障りが出る可能性がある。
「ねぇ、謝ろう。俺が何でもするから!」
 その言葉にオルガが軽く眉を上げた。
「……ほう?何でもするのか」
「うんうん、嘘じゃないよ!オルガさんの言う事聞くから!」
 オルガの口元に浮かぶ黒い笑みには全く気づかずに頷くシグマ。
「分かった。良いだろう」

 果たして、美女の前に戻ってきたオルガは丁寧な謝罪の言葉を口にした。
「……不躾な行動を取りました、申し訳ないです」
 若干慇懃無礼な気配のある言葉だが、何とかこの場は納めることができそうだ。
 シグマがそう思った時だ。
「あれは条件反射で言ってしまったものでして」
 付け加えられた余計な一言が事態を変えた。
 ピクリと眉を吊り上げる美女。
「綺麗な顔なのに、ずいぶんと損な条件反射ですこと」
 その言葉に、オルガが浮かべていた形ばかりの笑みが一瞬にして姿を消した。
「あ、それ言っちゃまずい……かな」
 自身の顔を嫌悪しているオルガにとって、綺麗な顔だという言葉は屈辱に等しい。
 その事を知っているシグマは気まずそうにオルガと美女、両者の顔を見比べる。
 条件反射の一言だったなどと言わなければ、美女とて最後の一言は言わなかったに違いないが、
 その辺りの事はオルガの思考の中には存在していない。
「……」
 沈黙したまま、オルガは考えた。
(話すことなどない雌豚なんぞに声を掛けられたのは、この顔のせいなのか?)
 ならば……。

 不意にシグマの腰に手を回したオルガ。
 シグマが身構えるよりも早く抱きしめるようにその身体を引き寄せる。
「わ、わわわわわわあぁあぁぁぁああぁあ!?」
 そして騒ぐシグマの指先を掬い上げ、恭しく唇を押し当てた。
「俺は今から彼とあんな事やこんな事をする予定ですので失礼しますね」
 あんな事やこんな事と言っても、用は一緒に出歩いて瘴気を払うという、いわばA.R.O.A.のパシリなのだが……。
 呆然としている美女を尻目に、シグマの腰に手を回したまま歩き出すオルガ。
「ちょ、ちょっと何してるの!?それじゃあ誤解受けるって!」
 引き摺られるようにして歩きながら、シグマは必死に美女を振り返ったがもはや為す術はない。
「違うから!違うからねお姉さん!!そんな顔で見ないでー!」
 雑踏の中に紛れ、消えてゆくシグマの叫び。
 オルガに振り回されるシグマ、今日も通常営業であった。



●息ぴったり

 スパァン!!

 酔いどれ美女の平手打ちをくらったのは、瑪瑙 珊瑚であった。
(あがー。あまりの痛さに言葉が出ねぇ、ちくしょー。何だしこの痛み)
 打たれた頬をおさえ、ものも言えぬまま呆然としている。
(誰だくぬひゃー、たっくるさりんどー)
 『たっくるさりんどー』とは、懲らしめる、痛い目をみせるぞ……というようなニュアンスの言葉だ。
 何の落ち度も無いのに、突然に頬を叩かれたのでは『ぶっ殺してやる』と息巻きたくなるのも当然である。
 殺気のこもった目で美女をにらみつけた珊瑚であったが、女性の容姿を認識するや驚きに眉を上げた。
(と思ったら、うぎゃー。ちゅ、ちゅらかーぎーじゃねぇか!?)
 ちゅらかーぎー、つまり美女。
 その美貌に目を奪われている珊瑚の元に、もう一つの声が飛び込んでくる。
「珊瑚、大丈夫か?」
 待ち合わせ時間に、ほんの少しだけ遅れてやってきた瑪瑙 瑠璃であった。
 瑠璃は状況を見て取るや、手にしたペットボトルの水で素早くハンカチを濡らす。
 そして冷たくなったハンカチを珊瑚の頬へとあてがいながら、美女と珊瑚の両者へと訊ねた。
「で、一体どうしたんだ?」

 酒臭い息を吐く美女が言うには、つい先日、恋仲にあった珊瑚が突然に自分を振ったのだという。
 それで失恋の自棄酒におぼれて街を歩いていたのだが、偶然にも珊瑚の姿を見つけた。
 途端に振られた際の怒りがよみがえり、勢いのまま珊瑚の頬を打ったらしい。
 だが、珊瑚も瑠璃もこの美女を見るのははじめてである。
 要するに、美女が人違いで珊瑚を引っ叩いたというのが真相であるようだった。

 事情は飲み込め、美女の方も誤解だと理解したようだが、
 無実の罪で痛い思いをさせられた珊瑚としては、このままでは腹の虫が収まらない。
 一計を案じると、珊瑚は今にも去ろうとしている美女の手を後ろから掴んだ。
 本当は手ではなく足を掴みたかったのだが、自分よりも少し背の低い相手の足を取るのは、立ったままの姿勢からでは難しかったのである。
「待てよ、いなぐ」
 囁く珊瑚。そのまま美女を自分の方へと引き寄せて後ろから抱きしめた。
(やったー!神様!にふぇーど!)
 腕の中に納まった細く柔らかい感触に、珊瑚は心の中で神に感謝を叫ぶ。
 それと同時に、珊瑚の意図を読み取ったらしい瑠璃がスッと美女の前に立ちはだかった。
 珊瑚と瑠璃の二人で、美女をはさみ打ちにするような位置関係である。
「……お姉さん」
 平手をくらうのは覚悟の上。秘め事に誘うように、美女の艶やかな蜂蜜色の髪を撫でる瑠璃。
 そして触れるほどに近く美女の左耳へと唇を寄せると、熱っぽい声で囁いた。
「そんな男、忘れてこっちおいで」
 予想外の展開に驚いたのか、それとも酔いの回った頭では状況が理解できないのか、
 ポカンとした美女の様子に珊瑚は心の中で小さくガッツポーズをする。
(よ、よし!もういっちょやっさな)
 そして珊瑚は瑠璃の反対側。美女の右耳に息がかかるほどに近く唇を寄せて囁いた。
「さっき叩かれた、お・か・え・し、やっさ」
「ねぇ、おれと後ろの奴、どっちが好き?」
「瑠璃ばっか見てずりぃ。その顔、今度はオレにも見せてくれ」
 前後から囁かれ、しばしドギマギとした様子を見せていた美女だったが、やがて……。
「……なによっっ!!」

 スパァン!!

「っ……」
 平手打ち、再びの炸裂。
 叩かれた頬をおさえて小さく呻く瑠璃を突き飛ばすと、美女は早足にその場を去って行った。
 取り残された静寂の中、瑠璃と珊瑚の視線が絡み合う。
「……にふぇーど」
 息を合わせてくれてありがとう、と珊瑚は先ほど瑠璃から渡されていた濡れたハンカチを瑠璃へと渡した。
 少しぬるくなったハンカチを頬に当てつつ瑠璃が言う。
「おれの事は気にするな」
「くそぅ、ちゃっかりお土産死守しやがって」
「お土産?黒糖入りガトーショコラだぞ?」
 珊瑚の好きなお菓子を持ってきてくれた瑠璃の気遣いが有難い。
(食っている間も涙が出るじゃねぇか、ちくしょう)
 隣にいて、息を合わせてくれるパートナーがここにいる。
「瑠璃、一緒に食おうぜ」
 一人じゃないのは素敵なことだ。



●まさかの正体

 暁 千尋とジルヴェール・シフォン。
 落ち合った二人が、さあ行こうと歩き出そうとした、まさにその時のことである。

 パァン!!

 ツカツカと歩み寄ってきた背の高い美女の平手がジルヴェールの左頬をとらえた。
「……」
 予想外の出来事に目をパチクリとさせているジルヴェール。
 そして隣にいた千尋は……。
「ど、どういう状況なんでしょうか、コレは…!?」
 困惑した表情を浮かべながら、ジルヴェールと美女を交互に見遣っている。
「先生が引っ叩かれたことも驚きですが、全く動じてない辺りさすが先生です」
 かなり的の外れた賞賛を口にするあたり、どうやら相当に混乱しているようだ。

 最初の衝撃からいち早く立ち直ったジルヴェール。
 相手の顔に目をやりそれが自分の知り合いであると知ると、妖艶な笑みを浮かべて言う。
「あらあら、随分なご挨拶ね。一体どうしたのかしら?」
「どうしたもこうしたも!!ヒトのカレシを寝取っておいてっっ!!」
 更に手を振り上げてジルヴェールを叩こうとする美女。
 それを素早くおさえて、ジルヴェールは言った。
「気性の荒さは相変わらずねぇ。とりあえず少し落ち着いてくれるかしら?チヒロちゃんが吃驚してるじゃない」
「え?……あら」
 ジルヴェールに言われて、美女はようやく千尋の存在に気がついたらしい。
 取り繕うように慌てて髪を手櫛で撫で付け、笑顔を見せる。
「はじめまして。私はジルちゃんの古くからの友人よ」
「あ、初めまして……?僕は暁千尋といいます」
 つられるように、慌てて自己紹介をする千尋。
「あら、会うのは初めてだったかしら」
 美女と千尋の反応に、ジルヴェールが少し驚いたように口元に手を当てて呟いた。
「あ、はい……。えっと、どうやら知り合いのようですし、あまり僕が出しゃばらない方がいいでしょうか」
「いいのよ。いて頂戴」
 踵を返しかけた千尋の手を取って、ジルヴェールは千尋を止めた。
 そして、自分の方へと引き寄せると千尋の両肩に手を置いて宣言する。
「この子はワタシの……『大事な人』よ。だから貴女が危惧しているようなことは一切ないわ」
 とても、とても大切な事を言われた気がして思わず頬を赤らめる千尋と、
 千尋のそんな様子に「まぁ」と小さく声を上げる美女。
「それなら良かったわ。……じゃあね!」
「あぁ、ちょっと待って」
 一人すっきりとした顔をして去ろうとしていた美女を押しとどめるジルヴェール。
 振り返った美女の顔の前に、ジルヴェールは手を伸ばした。
「やられっぱなしは性に合わないの」
 ジルヴェールの中指の爪がパチンと美女の額を弾く。
 優しそうに見えて、ジルヴェールのでこぴんは結構痛いのだ。

「それにしても美麗な方でしたね。先生は顔が広いとは思ってましたが、一体どういうご関係なのでしょうか?」
 美女も去り、ヴァレンタイン城の城下町を散策しながら、千尋はジルヴェールに問いかける。
「まさかと思いますが、元カノとかそういう……いや先生に限ってそれはないです、よね」
 僕が気にする権利は無いはずじゃ……いや、っていうか何で僕はそんな事を気にしてるんだ。
 勢いで疑問を口にしてしまったものの、一人でモヤモヤしている千尋に、ジルヴェールが答える。
「彼女は昔からの知り合いでね」
「昔って……その、付き合っていたとか……?」
 思わず跳ね上がる千尋の声。
「あら、いやだわ。そんなわけないじゃない」
 そしてジルヴェールは悪戯っぽくウィンクをすると、その理由を千尋に告げた。
「ふふ、彼女はね、ワタシと『同じ』なのよ」
 女性としては大柄だとは思ったが『オネェ』だったとは……。
「それよりも頬は大丈夫ですか?どこかで冷やした方がいいですね。ハンカチ冷やしてきます」
 ジルヴェールの答えも聞かずに、そう言って走り出す千尋。
 モヤモヤの正体。千尋がその理由に気づくのは、一体いつになるのだろうか。



●シーソーゲーム

 「いらっしゃいませ」
 静かなカフェに入ってくるシルフェレド。
 今日はショコラランドの散策にやって来ていたのだが、日用品の買出しも済ませてしまおうという事になり
 パートナーのハーケインとは別行動を取っていたのだ。
 ハーケインとは、用事が済んだらこのカフェで合流することになっている。
 待つ間、何気なく店内を眺めていた視線がある一点にとまった。
「……」
 それはかつて、シルフェイドの『彼女』と呼ばれていた女性である。
(今の私には何の関わりもない)
 そう思ったシルフェレドはすぐに美女から視線を外したが、美女の方はそうではなかったらしい。
 ツカツカと歩み寄って来ると、座るシルフェレドを恨みの篭った目で見下ろして言う。
「お久しぶりね……」
 どこぞで会いでもしたか?そう言いかけたシルフェレドだったが、
 美女の向こうの窓の外に、こちらへやって来るハーケインの姿を見つけ、言葉を飲み込んだ。
「……」
 酷薄な笑みを浮かべたシルフェレドの冷たい金の瞳が、仁王立ちの美女を見上げる。
「わざわざ文句を言いに来るとはご苦労なことだが、丁度いい。少しばかり使わせてもらおう」
「どういう意味よっ!」
 怒れる美女に、顎で店の入り口を示すシルフェレド。
 そこにはちょうど店へと入ってきたハーケインがいた。
「奴は色事には嫌悪感があるようだ。別れた男女のやりとりに奴はどうするか……」
「人を道具みたいにっ……!」
 美女の罵りを涼しい顔で受けながら、シルフェレドはハーケインの姿を静かに観察する。
(俺を遊び人と気にせず流すのか、パートナーとして事務的に処理するのか……)
 視線の先、ハーケインが怒鳴る美女と怒鳴られるシルフェレドに気づいた。
 呆れたような溜め息をつきつつ、こちらに足を向けるハーケイン。
 ちょうどその時……。

 パッチーン!!

 罵り声など蛙の面に水な態度にしびれを切らした美女の平手が、シルフェレドの頬に炸裂する。
「……」
 叩かれた頬の痛みにシルフェレドは僅かに眉根を寄せて頬をおさえた。
 しかし頭の中では全く別の事を考えている。
(叩かれた俺と、そうしなければ気が済まなかった女を心配して喧嘩を仲裁するか……この態度ばかり突き放したお人好しはどうするのかな?)
 果たして、ハーケインは……。

「……痴情のもつれか、喧しい」
 険しい表情でシルフェレドを睨みつつ、冷たい声を二人の間に割り込ませた。
(放置すると奴組んでいる俺にまで面倒がかかるな。手を煩わせやがって)
 そんな事を思いながら美女を押しのけて言う。
「そこまでにしろ。赤裸々に喚き散らすのは貴様も恥だろう」
 公共の場で騒ぐことの恥ずかしさを指摘され、さっと頬に朱を走らせる美女。
「この馬鹿の事はさっさと捨てて別の男を見繕え。これは俺が引き取ってやる」
 アンタ何様?だとか、しばらくごちゃごちゃ言っていた美女だったが、
 シルフェレドとハーケインの取り付く島も無い態度に分の悪さを悟ったのだろう。
 やがて「地獄に墜ちやがれ」という捨て台詞と共に踵を返して去って行った。

「ふん、去り際まで喧しい。まあ捨て台詞を吐けるなら問題なかろう」
 突き放すような言葉だが美女を心配しているハーケイン。
 そんな反応にシルフェレドは唇の端を吊り上げる。
「次から面倒を起こす時は人目のない所でやれ。俺はお前のパートナーだ。恥をかくのは貴様だけではない」
 シルフェルドの表情には気づかず、文句を言いながらハーケインは思った。
(しかしいい平手打ちだった。あれは下手な拳より痛いだろうな)
「これは冷やさんと腫れる。さっさと帰るぞ」
 ハーケインに促され席を立つシルフェレド。
 観察の結果、ハーケインは美女の事を心配して仲裁に立った。
(この呆れたお人好しが生きやすいよう、私が矯正してやるのもいいな)
 お人好しと利己主義者。互いの矯正のシーソーゲームは始まったばかりだ。



依頼結果:成功
MVP
名前:暁 千尋
呼び名:チヒロちゃん
  名前:ジルヴェール・シフォン
呼び名:先生

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 白羽瀬 理宇
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月05日
出発日 02月11日 00:00
予定納品日 02月21日

参加者

会議室

  • [10]瑪瑙 瑠璃

    2015/02/10-23:17 

    珊瑚:
    オレ達も出した!へへっ、ちゅらかーぎー楽しみ楽しみ♪

    瑠璃:
    (大丈夫だろうか、こいつ)

  • [9]瑪瑙 瑠璃

    2015/02/10-23:14 

  • [8]シグマ

    2015/02/10-21:54 

    出発目前だけど
    ちょーっと方向性変えたので前の発言は削除させてもらったよー。ごめんね。
    改めて俺シグマとパートナーのオルガさんだよ!

    俺もプランは提出済み!
    俺のモミジは日常茶飯事だったりするけど、皆ファイトだよー(苦笑

  • [7]レン・ユリカワ

    2015/02/10-20:34 

    魔魅也:
    叩かれる方、魔魅也です。
    無事に初めてのプランを提出しました。
    皆様の紅葉、遠目に楽しみにさせていただこうと思います。
    よろしくお願いいたします。

  • [6]レン・ユリカワ

    2015/02/09-00:20 

    皆さん、ご丁寧にありがとうございます(ぺこり)
    僕はレン・ユリカワです。
    大人って大変だなぁ、と魔魅也さん含め見守ってそうです(てへ)

    皆様、ふぁいとー。

  • [5]暁 千尋

    2015/02/08-10:11 

    こんにちは、暁千尋です。
    ハーケインさん、レンさんは初めまして。
    瑠璃さん、シグマさんはお久しぶりです。宜しくお願い致します。

    さて、妙なことになってますが、一体どういう状況なのでしょうねコレは…

  • [4]ハーケイン

    2015/02/08-09:25 

    ハーケインだ。よろしく頼む。
    シグマとは前も顔を合わせたな。
    妙な事になっているが見逃せ。俺も見たものは忘れよう。

  • [3]瑪瑙 瑠璃

    2015/02/08-01:01 

    ハーケインさん、レンさんは初めまして。瑪瑙瑠璃です。
    シグマさん、千尋さんは教会の鐘探し以来になりますね。よろしくお願いします。

    今回、ちゅらいなぐ(美女)が現れたという事で珊瑚が上機嫌なのですが、
    あいつ、何か無礼な事しないだろうか。

  • [1]レン・ユリカワ

    2015/02/08-00:26 

    魔魅也:
    はじめまして。私はレン様のお目付け役、魔魅也と申します(恭しく礼)
    美女に引っぱたかれるなんざぁ日常茶飯事。
    よろしくお願いいたします。


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