プロローグ
●風と空
バレンタインが近づいてくる。
街は赤や茶色、ハートなどの可愛らしい装飾に溢れ、街を歩く若者達は浮足立った雰囲気が見て取れる。
しかし最近では女性が男性にチョコレートをあげる日、と決まっているわけでもない。
義理チョコに始まり、友チョコ、自分へのご褒美チョコ。
男性が他者に感謝を伝える日にもなりうるわけで。
いつも以上に種類の増えるチョコレート、そしてチョコが苦手な人のために、和菓子であったり、それこそ甘いものの苦手な人のためにお酒であったり、雑貨であったり……プレゼントを選ぶには事欠かない季節の一つだろう。
そんな中、タブロス市内に一つのショップ『センティミエント』がオープンした。
市の中心地からは少し離れるが、大きめの店舗。
男性向けのファッションの階、女性向けファッションの階。
本や文房具、子供向けのおもちゃやスポーツ用品。
地下はスイーツや和菓子、お惣菜に新鮮な肉や魚。
最上階には見晴らしのいいレストランがある。
カジュアルな服装でも楽しめる、カフェレストラン「CIELO(シエロ)」
ドレスコードがあり、しっとりとした雰囲気が抜群で高級感溢れる「VIENTO(ビエント)」
「それで、だ。オープンキャンペーンで、それぞれのレストランの割引券を貰った」
A.R.O.A.の職員が渋い表情でピラピラとそのチケットを目の前で振る。
「新しくて綺麗な建物で夜景を見ながら、しっとりとした雰囲気で食事が出来るそうだ……」
しっとり、とは縁が遠そうな髭面のA.R.O.A.職員が眉間に皺を寄せる。
「……やる。使え」
あ、あぁ……と複雑な表情を見せる貴方。
「食い物には興味があるが、流石に一人で行くわけにもいかんだろ。どうせおまえらはペアなんだし、楽しんでくりゃあいい。日付と時間の指定はあるが、どっちの店でも使えるようだ」
ディナーだから、夜までたっぷり時間はある。
「レストランは勿論、どのお店も新しいし、なんでも揃っているようだ。時間を潰すのも良さそうだろう」
そう言いながら職員は手に持っていたチケットを押し付けてきた。
「きっとおまえらみたいなウィンクルムだらけかもしれん。気負わず楽しんで来い」
せっかくだから、たまには相手に感謝の気持ちを伝えてみようか。
そんな想いを抱く貴方だった。
解説
●流れ
メインはレストランでのお食事タイムです。
カジュアルレストラン「CIELO」は普段着でも楽しめるようなフランクなお店。
割引券なので一組300Jrいただきます。
あんまりしっぽり、大人の雰囲気苦手な方にオススメ。
高級レストラン「VIENTO」は照明暗め、落ち着いたムードのレストランです。
ドレスコードがあり、男性はスーツ系がオススメ。お洒落したってください。
一組700Jrいただきます。
お誘いは神人さんからでも精霊さんからでもどちらでも。
どちらのレストランへ行くか必ずご記入ください。
チケット貰ったから仕方なく、でも。
ご希望あればあらかじめショップで何かプレゼントを購入することができます。
その場合お一人300Jrいただきます。ウィンクルムそれぞれが買ったら600Jrです。
●プレゼント
アイテム化はされませんのでご了承ください。
また、あまりに高価なものや300Jrでは厳しかろう……!なものはマスタリングされる可能性大です。
●他
レストランの料理はある程度指定できます。
成年してればお酒も飲めます。
お友達いたら一緒にお買い物しても楽しいかもね!すれ違うかもね!
しっとりまったり、ワキャワキャわいわい。
どうぞ思い思いの甘い夜をお過ごしくださいませ。
ゲームマスターより
イベント最中に無印なエピソードどりゃー!
上澤そらです。
私の初めてのバレンタイン時期。王道なバレンタインを書きたかったんだ、糖分補給したかったんだ…!!
自由度高めです。
それいけラヴてぃめっと!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハティ(ブリンド)
ビエントでリンの誕生祝い スーツがいつかを思い出させるのと、プレゼントを選んでみて俺がリンに返せるものの少なさに気付いてしまい少々思案 プレゼントはビターなブレンドの珈琲 VD限定のブレンドらしい 珈琲の袋に隠してもう一つ、ホットチョコ用に作ったスプーンチョコを いつかのホットチョコのようにはいかないが… これなら失敗がないと思ったんだ …不器用で悪かったな 誕生日プレゼントとしてなら受け取るって言ってただろ アンタ、ほんと物貰うの苦手だよな 返すのが早すぎるぞ こっちは残らないものにしたのに もらったマグには見覚えがある リンが持ってるのと同じ型だ 例えば、そうだな リンは…今日みたいな日でもあの日と同じ事ができるのか |
ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
黒のシルクハット ステッキ ハーフパンツの燕尾服 VIENTOの個室 料理お任せ 世間はバレンタインと浮かれているが俺には関係無い だがチケットもあるしサーシャへの疑問を再び尋ねる良い機会だと自ら誘う 一向に来ない為少し苛々 理由聞けばはぐらかされるもレストラン内へ 美味しい料理に機嫌治す 落ち着いた所でサーシャに何故自分と同じ十字架を持っているのか、どこで拾ったのか聞く матьの形見が二つ…? サーシャは母と会った事があるのか? 贈り物を見てこれを買って時間に遅れたと悟る 複雑な心境でプレゼント受け取る 気が向けば返すと応える 台詞 お前がいたから俺はここに居る、その事は感謝している …俺だけお前の事を何も知らないのは、嫌だ |
スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
CIEROの割引券もらったから来てみた なにか肉々しい料理ください! ん!おーいしーい 肉汁がほぼ滝だよこれ ねぇ、お互いの料理食べっこしよー。はい、あーん♪ えー… 女の子は好きだよ、ミストと違っていい匂いするし でもそばに居たいのは君だけだ んん~…(彼の手を引き寄せ うん、まだちょっと臭うかな! そうだ、実はプレゼントがあるんだ… 肉だよ!!!(霜降りデデーン 先に地下に寄って買っておいたんだ~ 食が体を造るってTVで言ってた いいものを楽しく食べれば臭いの取れるよ! これからも美味しい食事をふたりでしようね (内側に染みついたあいつの臭いをはやく消さなきゃこの白くて冷たい手は俺のものだ) あのね、ミスト。大好きだよぅ… |
ハーケイン(シルフェレド)
◆行先 「VIENTO」 先に買い物をしてからレストランへ ◆服装 黒のスーツ 紫紺のシャツ ◆買い物 レストランに行く前に買い物だ スーツはともかく、小物は揃っていない ポケットチーフとカフスが欲しい所だ しかしこの辺りに詳しいわけではないからな ウィンクルムの誰かがいたら聞いてみるか ◆食事 メニューは俺が選んでおく シルフェレドは自分の好きな物を適当に選ぶからな 仕事をしている以上体は資本だ 嗜好品と酒ばかりの食事など食わせられるか 奴が体調を崩したら困るのは俺だ メニューを確認したシルフェレドがこっちを見てニヤニヤしているが、他の理由は特には……。 まあ、パートナーになった祝いと言う意味も少しはあるが。 |
●到着
予想よりも早く店へ到着したのはハーケインとシルフェレド。
「予約時間までまだまだあるな」
褐色の肌に銀色の髪、アメジストの如き紫の瞳を持つ、端正な顔立ちのハーケインがふと目に入った時計を見、呟く。
彼の隣には腰まで流れる黒髪と透き通るような白肌、金色の瞳を持つディアボロ、シルフェレド。
黒のスーツに紫紺のシャツを着こなしたハーケインと、黒のスーツに白いシャツ、赤いタイで身を包んだシルフェレド。
長身でシャープな身体と雰囲気の二人が立てば……バレンタイン時期で買い物に来ていた女性客の視線の的になるのも無理はない。
本来賑やかな場所よりも静かな場所を好むハーケインは渋い表情を見せた。そして欲しいものがあったことを思い出す。
「ちょっと買い物に行く。服に合う小物が欲しい」
貴様はどうする?と言葉には出さずシルフェレドに視線を送れば、彼は一呼吸置いたのち
「私は物が揃っているから必要ない」
ハーケインの服装やセンスから、自分のアドバイスも必要なさそうだということを判断し、答えた。
「ならば適当に見て回る。時間になったらレストラン前へ」
そしてお互い気ままに歩を進めた。
●物色
アレクサンドルは上機嫌だった。
自分の神人であるヴァレリアーノ・アレンスキーから食事へと誘われたからだ。
近頃は様々な場所へ出かけていても、どこかヴァレリアーノへの気持ちや己の気持ちを模索する日が続いていた。
そんな中でのシンプルな誘いに、アレクサンドルは自然と笑みが零れる。
商業施設の名前の由来が「感謝」であることに気付き、せっかくだとパートナーへのプレゼントを物色する。
「アーノに合うのは……これであろうか」
いくらかの香りを楽しみ、彼は一つの香水を手に取った。
待ち合わせ場所へ向かう途中、艶やかな銀髪がアレクサンドルの目に入った。
ヴァレリアーノ……かと思えば、身長がだいぶ大きい。そして横を向いた顔は褐色の肌。
しかしそれはそれで見覚えがあると思った。
A.R.O.Aで何度か見かけた顔。その彼は今、何かを探している様子。
いつもなら、気にせず通り過ぎたかもしれない。しかしこの日は上機嫌だったのだ。
「汝、どうかしたのか?」
柔らかな笑みを浮かべ近づけば、振り返った男、ハーケインがキョトンとした表情を浮かべた。
顔や名は知らないまでも、本部で見かけたことがある人物だったからだ。
「あぁ……カフスを探していたんだが……どこにあるのか見つからなくてな」
「それならば、あちらで見たのだよ」
そう言い簡単に案内するアレクサンドルに、ハーケインは頭を下げ礼を伝え、売り場へと消えていった。
「おや、もうこんな時間か」
アレクサンドルは尚、上機嫌でレストランへと向かった。
●見つける
ハティは悩んでいた。
パートナーのブリンドの自己申告の誕生日を祝うために、レストランへブリンドを誘った。
今回はブリンドのスーツを借りることはせず、自力で揃えたハティ。
(あのスーツは家にあるけれど……)
少しでも大人になり、ブリンドとの差を縮めたいと願う。
待ち合わせ時間より相当早く到着し、ハティは各階を見て回る。
しかし誕生日プレゼントを選んでみて……自身がブリンドに返せるものの少なさに気付いてしまった。
ふむ……とハティは思考を巡らせる。
途中、黒く艶やかな長髪を持つディアボロ青年が懐中時計を手にする姿が目に入り。
(リン、どんな時計持ってたっけ……)
ボンヤリ歩くうちに結局、地下の食品売り場にまで到着した。
その時、緑色の髪を持ち、筋肉隆々の男性の姿がハティの目に映った。
彼は肉を買っている。それはもう大きな。
何かのパーティーでもあるのだろうか?とハティは思う。
「えっと、長い時間持ち歩くかもしれないから、保冷剤いっぱいつけてください!」
緑髪の青年が純朴な笑みを浮かべ店員に伝えれば、店員も笑顔で了承する。
(食べ物、か……)
そう思いながら歩くハティ。すると鼻腔に香ばしい香りが飛び込んできた。
見れば、コーヒー店。
試飲をどうぞ、と勧められるがままに一口飲めば、ビターですっきりとした味わい。
「バレンタイン限定のブレンドなんですよ」
売り子の言葉に加え、レジ横にあるものを見て、ハティは購入を決意した。
「なんだ、スーツ用意したのか」
待ち合わせ場所に現れたハティの姿に、ブリンドは若干目を見開いた。
言葉には出さないけれど「どうだ」と無表情に胸を張るハティ。
元々端正な顔立ちなハティによく似合うスーツだ。
しかしブリンドにだけは……正直、子供が精一杯大人っぽく振舞うようにも見えて。
「いーんじゃねーの」
ニヤリと笑い、2人は『VIENTO』へ入った。
●待つ
ヴァレリアーノは苛立っていた。
『VIENTO』の前で、黒の燕尾服、シルクハットを被りステッキを手にした姿は気品に溢れ、誰が見ても上流階級の子息に見える。
だがその整った美貌は不満そうに歪んでいる。
店内へ楽しげに入っていくカップル達を己の視線に映さないよう、彼はシルクハットを目深に下ろした。
(世間はバレンタインと浮かれているが俺には関係無い。だが……)
今日の会食は『チケットがあるから』だけではない目的がある。
(再び尋ねる良い機会だ)
それにしても、遅い。
「待たせたか」
苛々が十分に募ったところで、不意にシルクハットが上へクイッと持ち上げられる。
視界に入るのは、笑みを携えたアレクサンドル。
執事服に臙脂色のリボンで髪を束ねた姿は新鮮な印象を与える。
来てくれたことに、表情には出さないものの安堵する。だがそれ以上に苛々が大きく。
「サーシャ。遅いじゃないか、どうした?」
ついつい攻撃的な視線を向けるが、アレクサンドルは余裕だ。
「知らぬ場所だから、少し道に迷ったのだよ。すまない、アーノ」
微笑むアレクサンドルに顔を背け。
「行くぞ」
2人は店内へと入っていった。
●思い遣る
ハーケインとシルフェレドが到着し『VIENTO』へと入る。
2人が席に着くも、メニューを渡されない。おや?と思うシルフェレド。
「メニューは俺が選んでおいた」
タイミング良く、ハーケインが彼へと告げた。
「……どういうことだ?」
楽しげな表情で、彼はハーケインへと問う。
「貴様に任せたら自分の好きなものを適当に選ぶだろう」
契約して同じ時間を過ごすうちに、少しずつシルフェレドの好みや動きがわかってくる。
そして感じたのは……心配。
ハーケインのクールで不遜な態度、更に近寄りがたいほどの美貌は懐に入り難い印象を与える。
そしてその通り、好んで入ってくる輩は多くない。
だがシルフェレドは違った。
一緒に居ても馬が合う、数少ない相手。
元来お人好しな一面を持つハーケインは、彼の享楽的な生活が心配に思えてくる。
グラスで乾杯し、運ばれてきた料理は野菜が中心。
バランスを考え魚や肉も出てくるが、添えられた野菜の方が圧倒的な存在感を感じさせる。
「仕事をしている以上体は資本だ。嗜好品と酒ばかりの食事など食わせられるか」
そう言いつつナイフとフォークを進めるハーケインに
(そんな台詞もサラリーマン的だな)
とシルフェレドは心の中で笑う。
「……ん、悪くない」
料理を口にし、素直な感想をシルフェレドは伝えた。
高いお金を取る店なだけあって味はどれも上品、野菜のソースもコクがあり、物足りなさを感じさせることはない。
それにハーケインは葡萄果汁のジュースではあるが、シルフェレドには酒が注がれている。
グラスが空けば、お代りか、お勧めの酒を紹介される。
(節制を求めるなら、私の好きな酒ばかり出てくるのは何故だろうな?)
グラスに残った酒を飲みほし、白身魚を口に運び。ハーケインの表情を見る。
刺さる視線とシルフェレドの悪戯な笑みに彼は気付き、気恥ずかしそうに顔を背けた。
(まぁ……ハーケインなりに私を喜ばせたいのだろう)
彼の横顔を眺め、シルフェレドは思う。
(素直に表現しないのは、今の時点では私と近付き過ぎるのが怖いからか)
夜景を見るその表情は、鋭利な刃物のようにも、脆い硝子のようにも見える。
(それも構わん。向こうから近づくのを待つのもいいだろう)
ククク、と思わず笑みを零れさせる。
窓ガラス越しに見えたシルフェレドは、笑んでいる。
(奴が何を考えているのか知らんが……奴が体調を崩したら困るのは俺だ。他の理由など特には……)
己の中で絡まる思考をひとまず止め、お互いに食事を済ませるのだった。
●肉
ミステリア=ミストは、胃がもたれていた。
話は少し遡る。
「うわぁ、ねぇ見てみてミスト!肉料理だけでこーーんなに、たくさん!」
「あーあー俺も見てるから安心しろ」
ミストのパートナーである緑髪短髪マッチョメンであるスコット・アラガキが楽しそうにホラホラ、とメニューを見せてくる。しかしミストの手元にもメニューはあるわけで。
「あーでも、カツ丼はないんだね」
「定食屋じゃねぇんだからよ。食いたいもの食え」
「そうだね!それじゃあ……!」
2人は『CIELO』のメニューにくまなく目を通し、注文を済ました。
― スットコ・アラガキの三分の二は肉で出来ている ―
そうとしか思えない程の肉を彼は喰らった。
スコットが頼んだオーダーカットステーキはドドン!とした牛肉を、好きなだけカットしてステーキとして提供してくれるメニュー。
スコットの肉欲に刺激され、ついミストも普段あまり食べ慣れない肉料理に挑戦した。
流石に分厚いステーキを食べる程ではなかったが、ミストがチョイスしたのはチーズハンバーグ。
程なくしてアツアツの料理が運ばれる。
「ん!おーいしーーーい!!」
運ばれたステーキを幸せそうにハフハフ頬張るスコットに、ミストもハンバーグをパクつく。
鉄板に置かれたハンバーグは濃厚なソースがかかり、ナイフとフォークで切り分けてみれば中からチーズがとろけだし……
「ん、美味い」
素直に感想を述べるミストに、スコットは嬉しそうな笑顔を見せた。
「こっちのステーキも肉汁がほぼ滝だよ!じゅわんじゅわん。ねぇ、お互いの料理食べっこしよー」
「あぁ、構わねぇ……」
と、言うより早く、ミストの口の前に分厚いステーキが運ばれていた。
「はい、ミスト。あーん!」
明らかに、物凄く一口が大きい。拒否しようにも今にも零れそうな肉汁が見え。パクリ!とミストは肉を頬張る。
アツアツジューシィ。コクのあるソースながらも肉の味を殺さず……(たまには肉もいいな)とミストがモグモグ味わっていると。
気づけば目の前のスコットが『あーん』と口を開けている。
「俺は母鳥じゃねぇぞ。ほらよ」
意図を察し、チーズトロトロのハンバーグを彼の口の中へ。
「むぐむぐ。ハンバーグも美味しいね!チーズとろとろ」
「もー、交換はいいけどさぁ、あーんはそろそろ卒業しろよ」
そう言いつつも求められれば与えるミスト。
更に肉料理を追加してはもりもり食べ、またミストにもお裾分けするスコットだった。
「スコット、俺もうギブ……」
いつも以上に青白い顔を向けるミストを心配し。
「じゃあそろそろ〆にしようか。すいませーん、ステーキ茶漬けを2つ……」
「俺は要らねぇ……」
叫ぶ気力もないミストさんであった。
●十字架
アレクサンドルが遅れてきたことで、不機嫌にテーブルについていたヴァレリアーノ。
笑顔を見せないながらも、2人はグラスを交わす。
しかし運ばれてくる料理は彼の機嫌を和らぐのに十分だったらしい。
「……美味いな」
ロールキャベツにミートパイ、野菜を煮込んだスープ等、彼の口に合ったようだ。
美味しそうに食べる彼にアレクサンドルは優雅に笑みを浮かべ、己もワインに口を付けた。
「ところで、サーシャ」
ヴァレリアーノから突然投げられた神妙な声。
「何故、俺と同じ十字架を持っている?」
いつもならば軽くはぐらかせることが出来ただろう。しかし、このような場で真っ直ぐに……その紫色の瞳で見つめられたら。
(我に逃げ場はなし、か)
紫の瞳から目を逸らし俯くも、アレクサンドルは直ぐに顔を上げる。
「アーノと出会う前に、この十字架を拾ったのだよ」
「どこで拾った?」
矢継ぎ早なヴァレリアーノの質問。
「場所は……さて、どこだっただろうか」
ふぅむ、と考える。考える素振りをする。
「……覚えてないのだよ」
「……そうか」
「綺麗な装飾が気に入ったのだよ。今ではすっかり我のお気に入りとなった」
ヴァレリアーノは食事に目を落とし、ナイフとフォークを動かす。
(……形見が、二つ……?サーシャは母と会ったことがあるのか……?)
ヴァレリアーノが思考の海に沈むのを察知し、アレクサンドルは包みを取り出した。
不意の事に、ヴァレリアーノが目を見開く。
「これは……なんだ?」
「今後ともよろしく、という我から汝への気持ちを形にしたのだよ」
ヴァレリアーノが包みを開けると、中からは香水。
アンティーク調の王冠のようなボトルに、栓は十字架モチーフ。
少し蓋を開けてみればシャープだが、微かに甘さを感じさせる香りだった。
これを買ったが為に遅れてきたことを、聡い彼は直ぐに気が付いた。
しかし喜びと共に複雑な心境が胸に広がるのも事実。
「……お前がいたから俺はここに居る……その事は感謝している」
ヴァレリアーノが己の胸の十字架をそっと撫で。更に言葉を続けた。
「だが……俺だけお前の事を何も知らないのは、嫌だ」
アレクサンドルの胸で揺れる十字架へと視線を落とすヴァレリアーノ。
「……アーノが『我』を知れば、汝は我を遠ざけるであろう」
そんなことは……と口を開くヴァレリアーノに、アレクサンドルは彼の銀色の髪へと手をかざす。
そして微笑みながらその髪を柔らかく撫でた。
「我は誰よりもアーノが大事なのだよ。……時が来たら、話そう」
黙り込むヴァレリアーノ。そして贈られた香水に改めて目を落とす。
「気が向けば、何か返す」
その言葉にアレクサンドルは静かな微笑みを返した。
(……汝との出会いは我にとって幸運であり、必然)
己の十字架をグッと握る。
(狂おしい程に、大事なのだよ)
●祝う
2月13日はブリンドの誕生日。
この日が誕生日なら、自然にホワイトデーにお返しができる……記憶がないブリンドが自分で設定した、誕生日。
そんな理由も全て知っていてなお、ハティはブリンドを食事へと誘ったのだ。
スーツ姿の2人が食事をする様は、夜景と共に絵になる。
食事の感想を述べ合い。笑い。時折訪れる沈黙すらも苦にならない。
そして食事の最後に供されたコーヒーを見て、ハティが思い出したように包みを取り出した。
「リン、これ」
ん?と包みを覗き、取り出すと中には珈琲が。
可愛らしいピンク、そしてハート柄が入っている。
「バレンタイン限定のブレンドだそうだ」
「ほー、珈琲か……」
ブリンドは珈琲以外にも中に何か入っているのに気が付き、取り出せば……チョコで出来たスプーンが。
溶かせばチョコレートドリンクになる代物。
「いつかのホットチョコのようにはいかないが……これなら失敗がないと思ったんだ」
そう言うハティにブリンドは目を細める。
「ほー珈琲か。丁度良かった、帰ったら入れたるわ」
しっかし。
「こんな不器用なもん貰うの初めてだわ」
「……不器用で悪かったな」
「別に悪く言ったわけじゃねーよ」
やや口を尖らせるハティに、ブリンドは笑う。
確かに、これまで貰った物の大半は俺の空白の多さを意識させた。
が、ハティには不思議と感じなかった。
こいつもそうなんだ、とブリンドは思う。
イベント事に参加したがるくせに、どっか寂しそうなのも。クリスマスの時だって。
真逆のように見えても、馬が合うのはそういうことなんだろう。
ブリンドが思考に耽りつつ、己が用意した包みを差し出した。
「ほらよ」
「アンタ、ほんと物貰うの苦手だよな。返すのが早すぎるぞ。ホワイトデーにもなってない」
ハティがそう言いつつ包みを開くと、中には見覚えのあるマグカップが。
ブリンドが家で使っているのと同じ型の、色違い。
「こっちは残らないものにしたのに……」
「残らねぇもんつったって何がいいんだ」
「例えば、そうだな……」
ハティが真剣な表情で思案する。
「リンは……今日みたいな日でも、あの日と同じこと事が出来るのか?」
あの日。ブリンドにはピンと来る。
「……キスしてくれって聞こえるんだが?」
否定も肯定もしない真っ直ぐなハティの瞳が映る。
「外で言うお前が悪い。あの後一言も触れなかったくせに」
「そうか。ならば……」
これからは同じ家に帰宅する2人。
2人だけの時間は、これから、いくらでも。
●礼
店を出た所でシルフェレドが包みを差し出した。
「今日の食事の礼だ」
ハーケインが受け取ると、反応を見ずに彼は闇へと消えていった。
そんな態度は慣れている。ハーケインが包みを開ければ、中には懐中時計が。
「今日は……パートナーになった祝いと言う意味も……少しはあるか」
そう呟き、ハーケインは懐中時計を見つめた。
●香る
「ふー、お腹いっぱーい!」
美味しい料理を食べ終え、二人は夜の道を歩く。
ミストは相変わらず胃がもたれ、いつも以上にその顔は青白い。
「ちと食い過ぎたが……入りやすくていい雰囲気だったな」
そこでミストは思い出す。
「あ、おまえこないだ話してた職場の女の子誘ってみろよ!おまえに気があるっぽいし」
石鹸をきれいな箱に詰める女子も、きっとスコットと同じく良い香りなんだろうな、とミストは思う。
「えー……」
スコットの考える表情。
「女の子は好きだよ。ミストと違っていい匂いするし。でもそばに居たいのは君だけだ」
「……ちょっと待て。その言い方だと俺が臭うみたいじゃん!まさか加齢臭とかしねーよなっ!?」
屈託のないスコットの発言で一番気になったのは真ん中部分だったらしい。
ミストが慌てて己の袖を嗅ぎ、確認する。
恐らく加齢臭にはまだ早い年齢、そこまで臭いはしない……はず。
スコットはミストの手を取り、己の顔へと近付けた。
「んんーー……うん、まだちょっと臭うかな!」
それはそれは無垢な表情で笑いながら言うスコットに、ミストは明らかにショックな表情を浮かべた。
「ま、まじかよ……うわあああああ……体臭って何が原因なんだ?あれか?酒で内臓がやられ……」
「ミスト、あのねっ!実はプレゼントがあるんだっ」
話を遮るように、スコットはじゃーーん!と袋を取り出した。
「……あ?もしかして友チョコみたいな奴か?ありが……重ッ!」
その包みは大きく……重たく、冷たい。
「肉だよ!」
スコットの満面の笑顔に、ミストの胃がキリキリと叫んだ。
チラリと見れば、しっかりサシの入った見るからに上質なお肉。
「……この期に及んでいいお肉……」
先に地下に寄って買っておいたんだー!と鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌なアラガキさん。
そして、手をポムッ!と叩き、ミストに顔を向け。
「そういえば、食が体を造るってTVで言ってた!いいものを楽しく食べれば臭いの取れるよ!」
ミストはなるほど、と頷く。
(……食事を旨いと思っても、楽しいと感じることはほとんどなかった。……この間抜けと出会うまでは)
ふ、と笑むミスト。
「……おい。明日辺り家に来いよ。独りじゃこんな量、食べきれない」
「え?いいの?ありがとー!これからも美味しい食事をふたりでしようね!」
そう言うと、キラキラとした笑みを浮かべ、ミストの手を握りキャッキャと喜ぶスコット。
……内側ニ染ミツイタアイツノ臭イヲハヤク消サナキャコノ白クテ冷タイ手ハ俺ノモノダ……
「誰へのプレゼントかわからねぇな、これじゃ……ッッ!?」
そう苦笑するミストは、急に襲われた寒気に身を震わせた。
「なんだぁ?風邪か?」
「え?大丈夫?あっためてあげるよー!」
大柄なスコットが小柄なミストを包み込んだ。仄かな石鹸の香りがミストの鼻腔をくすぐる。
「あのね、ミスト。大好きだよぅ……」
「あぁ、はいはい。大丈夫だから、離れろ」
親愛の言葉なのか、それとも。
彼の言葉に隠された想いの強さに、まだミストは気づいていなかった。
依頼結果:成功
MVP:
名前:スコット・アラガキ 呼び名:スコット、スットコ |
名前:ミステリア=ミスト 呼び名:ミスト |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 上澤そら |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 01月30日 |
出発日 | 02月05日 00:00 |
予定納品日 | 02月15日 |
参加者
- ハティ(ブリンド)
- ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
- スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
- ハーケイン(シルフェレド)
会議室
-
2015/02/04-20:55
挨拶を忘れていた、許せ。ハーケインとシルフェレドだ。
行先はレストランだが、身嗜みを整えるために買い物が必要だ。
もし顔を合わせたら挨拶くらいはするかもな。 -
2015/02/03-15:17
はじめましての人がひの、ふの、たくさん!
スコットとミストだよー、よろしくねぇ。
どんな肉々しい料理を頼むかばっかり考えてたけど
お店でこっそりプレゼントを買っておくのもいいな~。なに買おっかなっ。
もしかしてアレクサンドルも神人に贈り物?
迷ったら肉だよ、男子はだいたい肉好きだからね! -
2015/02/02-17:55
今晩は。アレクサンドルと神人のアーノだ。
ハティ達は宿り木以来か。
スコットやハーケイン達は初めましてかね、宜しくお願いするのだよ。
今回、我はアーノに誘われてレストランへ行く予定だ。
その前に我のみ買い物へ行くつもりなのだが、誰か行く者はいるのだろうか。
もしどこかですれ違えれば面白いかもしれぬ。
見かけたら気軽に声を掛けてくれれば嬉しいのだよ(微笑