【スイーツ!】choose!(青ネコ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●ポルタ村のスイーツフェスタ
タブロスの近郊に位置するポルタという小さな村。
普段は閑静なこの村、年に一度この時期だけは見違えたように姿を変えます。
歴史ある祭典、甘い物をたくさん集めたスイーツフェスタが開催されるのです。
タブロスや付近の町からも多数の屋台が出店されるスイーツフェスタ。
どうぞ皆様、心ゆくまで甘い時間を楽しんで。


 * * *


 喫茶『花あらし』はタブロスの外れにある。仲の良い初老の夫婦が経営していて、テイクアウトも可能な店。中で食べるにしてもお土産にするにしても、一番人気は果実大福だ。
 ポルタ村のスイーツフェスタに出店した『花あらし』が持ってきたのは、勿論果実大福。
 話のネタに、大福が好き、何となく気になった、様々な理由で店を覗いた客に、売り子の女性が「いらっしゃいませ」と声をかけ、取り分け用の小さなお盆とトングを渡す。
「こちら、大福の詰め合わせになります。お好きな大福をお選びください。お持ち帰りですか? こちらでお召し上がりですか?」
 言われて横を見れば、三人がぴったり座れるくらいの緋毛氈の縁台がある。二人で使うなら、丁度お茶や大福が置けるだろう。火鉢もおかれていて少しの寒さは凌げそうだ。
 この場で食べる場合、選べる大福は四個で、綺麗な漆器の重箱で出され、さらに緑茶かほうじ茶が飲み放題となるそうだ。
 持ち帰る場合は、選べる大福は六個となるらしい。
 どうしようか、ここで食べようか、と考えながら並ぶ大福を見る。
 品書きとして店先に下げられているのは『苺』『蜜柑』『林檎』『檸檬』『口にしてはならない』の五つ。
 …………『口にしてはならない』?
「ああ、それですか?」
 客の怪訝そうな顔に気がついたのか、売り子の女性がクスリと笑う。
「実は父が、あ、この『花あらし』の店主なんですけど、変に挑戦したがると言いますか、試作品を混ぜてあるんですよ」
 混ぜてある、という言葉が引っかかり、改めて沢山の大福を見ると、四つに区切られている。
 そう、五つの品書きに対して四つにしか区切られていないのだ。
「こちらが苺で、こちらが蜜柑、そして林檎、そちらが檸檬です。口にしてはならないものはそれぞれの大福達の中に幾つか入ってますので、まぁ、当たりがあると思って楽しんで下さい」
 果たして本当にそれは当たりなのか。外れではないのか。
『口にしてはならない』という言葉から、恐ろしい組み合わせが待っている予感がひしひしとする。
「もし当たって、それが気に食わなかったらちゃんと取り替えますからご安心ください」
 客の微妙な表情を読み取ったのか、売り子の女性は悪戯っぽく微笑みながら付け加える。
「けれど、もし気に入ったら教えてくださいね。皆さんの反応によっては、試作品から新商品になるかもしれませんから」
 その言葉に少しだけ安心する。あまりにも酷いものは入ってなさそうだ。店主がまともなら、の話だが。
「ああ、そうだ。当たった時の楽しみが減らないよう、周囲の方には何が入っていたか『口にしてはならない』という事で、お願いしますね」

解説

スイーツフェスタにて『花あらし』の名物、果実大福を楽しんで下さい。
『口にしてはならない』ものは選んでも選ばなくても構いません。
こちらの判断に任せる場合はプランに『猫』と入れてください。
何が入っているかは秘密ですが、どうやら果実ではないものが入ってしまっているようです。
食べたら是非、お店の人に感想をお願いします。
店先で食べるのもよし、家に持ち帰って食べるのもよし。
家に持ち帰る場合は、どちらの家か、どんな家かをプランに書いて下さい。

●商品紹介
・苺大福(大粒の甘い苺と甘さ控えめのこし餡)
 (苺大福ゾーンに紛れてるもの(赤くて丸い野菜))
・蜜柑大福(薄皮の甘い蜜柑と甘さ控えめの白餡)
 (蜜柑大福ゾーンに紛れてるもの(黄色っぽい辛いソースというかルーというか))
・林檎大福(糖蜜煮の林檎とラム酒風味の白餡)
 (林檎大福ゾーンに紛れてるもの(外は赤で中は白の海産物))
・檸檬大福(砂糖漬けの檸檬と蜂蜜風味の白餡)
 (檸檬大福ゾーンに紛れてるもの(女王だったり男爵だったりする野菜))

代金は一律400Jr


ゲームマスターより

巴めろGM主催の連動企画【スイーツ!】の一つです。

寒い季節は続きますが、甘くて美味しいものを食べてのんびりして下さい。
甘くないものを食べた場合も、まぁ、楽しんで下さい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  む、むむむ
選べるゾーンが四つ、口にしてはいけないものも含めると種類は八つ…!
全部食べてみたいなぁ。おねーさん、ここで四つ食べてる間に、適当に六つ包んでおいて貰うとかってできる?
無理でも四つは味わおう
折角だから現地で食べたい派!
とりあえず一種類ずつ並べてみて、ほうじ茶をお供に。桐華も?

じゃー何が来ても恨みっこなしって事でとりあえず一個目!いただきまーす
(もぐもぐ)……うん
個人的におやつとご飯は分けて食べたい派だけど、あまじょっぱいとかそういう類と思えば…
…やっぱり普通のが良いな
ねー桐華さん、もう一個は中身確かめてから食べてもいい?

…桐華さん、それ、僕に中身解らなくない?
判ったよ、あーん
甘いなぁ…



ハティ(ブリンド)
  確実に食べたい苺は二つ、リンも好きそうな林檎も二つ、檸檬と蜜柑を一つずつ
持ち帰るのはリンの家
勝手知ったるとまではいかないが、何がどこにあるのか聞かなくても茶の用意くらいは出来るようになった
二人分の緑茶を持ってソファーへ
味見…するのは構わないが必要ないと思うぞ
リンは何が好きなんだ?バレンタインのものとか、色々、出てるだろ
…誕生日、なのか?いや、知らん
アンタって意外だよな…面倒臭がりなのかまめなのか
だってただの付き合いならそう断る必要もないだろう
攻める心算はないし、答えを知りたくもないのに何故か突っ込まずにいられない
ああ、トマトだったら大好きだが…だが…
苺がなかった……また買いに行ってもいいか?



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  タイガを避けスイーツフェスタの『花あらし』に足を止める
ここ…。あ、どうも先日はお世話になりました
『しーちゃん』は元気にしてますか(依頼3)
捕まり店先に連行された


大食いだしできないこともないだろ…

(駄目だ。目を逸らしてしまう
大体あんなこと言っておいて普段通りに誘うなんて卑怯だ
こっちは思い出して、頭がいっぱいで動けなくなるのに。言葉にならないのに
…昔みたいに)


◆抹茶。他【猫】

(食べ頬ゆるみ)うん…ほっとする味
(甘くて酸味がまろやかに包まれて、前食べたのが懐かしい)


…そんなに酷い…?
何でもない(愛想つかされたら、僕は)
!…ごめん
(そうか。タイガだって同じなんだ)

言うから、待ってて
(嬉しくて苦しい


柳 大樹(クラウディオ)
  お持ち帰りの6個も魅力的だけど。
今すぐ食べたいんで、ここで食べてくね。

全部1個ずつー。
飲み物は緑茶にしようかな。
クロちゃんは何飲む?

まずは苺。(早速一口
うん。苺が甘いから餡の甘さ抑えてあるんだね。
うまいうまい。
スイーツフェスタ万々歳だね。甘いものいっぱいで最高。

当たりってヤツじゃないの?
……中身は言わなくてもいいけど。決まりだし。
うまい?(好奇心

まあ、後で感想お店の人に言いなよ。
少しは参考になると思うし。

次はどっち食べたい?
偶には選んでいいよ。

大福は甘いのが普通だからね?
これは、蜜柑か。うん、甘い。(気が緩んだ笑み

大福初めてねえ。
なら、苺は食べちゃったけど。蜜柑は一口上げようか。
はい、あーん。



ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
  あー…目が疲れた。
仕事とはいえパソコンの前にばっかりいたらいろいろ鈍る…。
頭は回らないわ体は凝るわ。
ん?ローレンツおかえり。何処か行っていたのか?
(おかえり、ね。やっぱり俺そう言うのに憧れてるんだな。ローレンツと一緒にいて居心地いいのは家族ごっこがやりたいだけなのか…そういうの考えると申し訳ない)

大福。買ってきてくれたのか?ありがとう。
コーヒーか緑茶…緑茶も魅力的だがやはりコーヒーだな。
お店でアルバイトしてるからかローレンツの入れるコーヒーは割と飲める。
俺がインスタントで作るよりは美味い。

俺も何か役に立つスキルを覚えた方がいいか…。

お疲れ様?うん…ありがとう(困ったような微笑)



■居心地のいい空間
「いらっしゃいませ、こちらで召し上がりますか? お持ち帰りですか?」
 売り子の出した二択に『ハティ』は迷わず持ち帰ることを選んだ。
(確実に食べたい苺は二つ、リンも好きそうな林檎も二つ、檸檬と蜜柑を一つずつ)
 選んで買って、持ち帰るのはパートナーである『ブリンド』の家。
 ……もうすぐ、自分の家にもなる場所。
 勝手知ったるとまではいかないが、何がどこにあるのか聞かなくてもある程度わかるようになった。だから、こうして茶の用意位は出来るようになった。
 二人分の緑茶を持ってソファーへ行けば、ブリンドが「何買ってきたんだ?」と尋ねる。
 売り子に聞いた『花あらし』の大福の説明をブリンドにすると、ブリンドは何故か嫌そうに顔を歪めた。
「何だよその『口にしてはならない』って。おい、お前味見しろ」
 警戒するブリンドにハティは首を傾げる。
「味見……するのは構わないが必要ないと思うぞ。美味しいってフェスタでも色々な所で言われてた」
 そう言いながら、まずはハティが一つ手に取り食べ始める。
 特に止まる事も無く食べ進める様子を見て、ようやくブリンドの警戒心も薄れた。
「そうだ、リンは何が好きなんだ? バレンタインのものとか、色々、出てるだろ」
 フェスタで見た様々なスイーツを思い浮かべながら、欲しい物があるならプレゼントしたいと尋ねれば、知らなかった事実を口にされる。
「バレンタインなあ……誕生日プレゼントとしてなら受け取るわ。13日な」
「……誕生日、なのか?」
 あまり動かない表情が驚きで目を見開く。
「そういうことになっとる。覚えてねーんだよ。まぁ、そういう事にしときゃあ、来月まとめて返せっだろ」
「誕生日……」
「なんだよ、お前こそ自分の誕生日覚えてんのか」
「いや、知らん」
「だよな」
 覚えてない、どころの話ではない。けれど、会話を進めるハティにもブリンドにも、衝撃や困惑などは無い。
(……この何でもねえような返事が、こいつと居心地の良い理由だ。死んでも言わねえが)
「アンタって意外だよな……面倒臭がりなのかまめなのか」
「はぁ?」
「だってただの付き合いならそう断る必要もないだろう」
 ハティに攻める心算はない。答えを知りたいわけでもないが、何故か突っ込まずにいられない。
 ブリンドを知る、という時は、いつもこんな気分だ。
 ブリンドもまた不快に思わない。ハティはただ思った事を言っているだけというのがわかっているからだ。
 一見探るようでいても、この空間は何処までも穏やかだった。
「? ……こりゃ何だ? 不味くはねーが食ったことねえ味だな」
 そんな穏やかさの中で齧り付いた大福に、ブリンドは疑問を覚える。いや、よくよく味わえば覚えがある。大福のほの甘い皮に誤魔化されそうだが、これは間違いなく、カレー。
「そっちもか。両方とも『当たり』だったみたいだな」
「わかってんなら顔に出せよ! 味見の意味ねえ……!」
 げんなりしながら無理矢理お茶で流し込み、もう一つに手を伸ばす。
「で、そっちは何だったんだ?」
「ああ、トマトだった。トマトだったら大好きだが……だが……」
 目当ては苺大福だった、とハティが珍しく落ち込む。
「……苺」
 ブリンドはもごもご食べながら呟く。その口の中に広がるのは、甘い苺と餡子の織り成す絶品ハーモニー。
 ハティの目当てを食べてしまった事はわかったが、だからといって今更吐き出せず、ひたすら食べて飲み込む。
「うんんまい」
「苺がなかった……」
「そりゃ残念だったな」
 俺が食べました、とはちょっと言えなかった。
「また買いに行ってもいいか?」
 そんなに食べたかったのかと、呆れるような気持ちになる。
(オメーはほんと、何も参考にならねえな。俺の経験なんざ何も)
 ブリンドの今までの人生に無かった存在に、それでもやはり不快感は無い。いや、むしろ。
「ま、引越し祝いになら買ってやってもいいぜ。フェスタの期間内に済ませろよ」
「いいのか? ありがとう。あ、タブロスの外れにも店があるらしい」
「へぇ、こんな変なもんで商売になんのかよ」
 大福を食べながらの軽口の飛ばしあいは続く。
 一人で住むには広いこの空間に、この居心地のいい空気がずっと流れる事になるのは、もう少しだけ先の話。


■帰る場所、迎える場所
「『花あらし』の大福かー、どれも美味しそうだね」
 スイーツフェスタを散策していた『ローレンツ・クーデルベル』は、丸い大福が並ぶ店の前で足を止めた。
(ロキ、仕事で徹夜してたし、ご褒美じゃないけど美味しいものを買って行ったら喜んでくれるかな)
 何気なく思いついたローレンツは早速行動に移す。
 持ち帰りを一セット。
 何を買おうか選びながらも、頭の中はこれを受け取る相手の反応ばかりだった。
(最近分かっちゃったんだよね。ロキって美味しいもの食べてる時はほんと幸せそうなんだよな)
 一緒にいるようになって、色々な顔を見ることが出来た。その上で、思う。
(うん、俺は、ロキのそういう顔見てる方が好きだな)
「よし、苺大福と林檎大福を各二つずつください」
「あ、すみません、そちらのお盆にとっていただけますか。あとお持ち帰りでしたら六個選べますが」
「あ、そっか」
 売り子に言われ、照れ笑いを浮かべながらローレンツは盆とトングを手にする。
 そうして苺と林檎、それに檸檬をそれぞれ二つずつとる。
(『口にしてはならない』……はあれだよね……食べるの好きなロキは怒りそうだからね……)
 どうか当たりませんように、と願いながら、ローレンツは大福を購入した。
 店から離れてすぐ、ローレンツは箱を開けて檸檬大福を味見する。
「うん! 美味しい!」
 爽やかな酸味と甘さが口に広がる。
 これは苺と林檎も期待できそうだと、足取り軽く家路に着いた。

「あー……目が疲れた」
 眼鏡を外して目を休ませるように押さえながら『ロキ・メティス』は呟く。
(仕事とはいえパソコンの前にばっかりいたらいろいろ鈍る……頭は回らないわ体は凝るわ)
 休憩だとパソコンから離れれば、玄関の方で物音がする。
「ただいまー」
「ん? ローレンツおかえり」
 何気なく口にして、すぐにその言葉に引っかかるようなものを感じる。
(おかえり、ね。やっぱり俺そう言うのに憧れてるんだな。ローレンツと一緒にいて居心地いいのは家族ごっこがやりたいだけなのか……そういうの考えると申し訳ない)
 心がふっと少し曇る。けれどそんなロキに気付いた様子もないローレンツは、笑顔で「いいものあるよー」と言う。
「何処か行っていたのか?」
「ポルタ村のスイーツフェスタ。ロキ、大福を買ってきたけど食べる?」
「大福。買ってきてくれたのか? ありがとう」
 少し曇った心が、思わずピクリと嬉しさで反応する。
「コーヒーと緑茶どっちがいい?」
「コーヒーか緑茶……緑茶も魅力的だがやはりコーヒーだな」
「ん、コーヒーね」
 言って、ローレンツはコーヒーを入れる準備を始める。
 お店でアルバイトしてるからか、ローレンツの入れるコーヒーは割と飲める、とロキは思っている。自分がインスタントで作るよりは美味い、と。
(俺も何か役に立つスキルを覚えた方がいいか……)
 鼻歌交じりにコーヒーを入れるローレンツの姿を見ながら、ぼんやりとそんな事を考える。
 コーヒーのいい匂いが部屋に広がる。ローレンツが二人分のコーヒーと大福を持ってやってくる。
「じゃあ、一緒に食べようか。ロキ、お仕事お疲れ様」
「お疲れ様? うん……ありがとう」
 言われるとは思っていなかった言葉に、困ったような微笑みでそれでも感謝の言葉を紡ぐ。
 そして改めて、自分の人生に、二人の生活に、何か役に立つものを身につけようかと考えながら、二人でおやつタイムに入る。
 大福の甘さとコーヒーの苦さは、丁度良いバランスだった。


■ほころぶものは
「お持ち帰りの6個も魅力的だけど」
 店の前で考え込んでいるのは『柳 大樹』で、その横で『クラウディオ』は珍しげに商品の大福を見ていた。
「大福というものも、様々な種類があるのだな」
「最近は色々あるよ、クリーム大福とか。てか何その感想、まさか大福食べた事ないとか?」
 冗談半分で言えば、表情を崩さずに頷くクラウディオ。
 大樹はしばし沈黙するが、すぐに「まぁいいか」と意識を切り替える。
「今すぐ食べたいんで、ここで食べてくね」
 問答無用で告げ、早速大福を取り始めた。
「全部1個ずつー。飲み物は緑茶にしようかな。クロちゃんは何飲む?」
「……飲み物は、大樹と同じもので構わない」
 迷うことなくお盆に乗せ、売り子の女性に渡しながら飲み物を頼む。
 支払いを終わらせ縁台に座り一息つけば、売り子の女性が大福とお茶を持ってくる。
「おー、これは……」
 黒の漆器の重箱は螺鈿で梅の花が描かれており、そこだけ春を思わせる。その中に大福が四つ。入れ物のおかげでまるで高級な菓子のように見えるから不思議だ。
 大樹は早速そのうちの一つに手を伸ばす。
「まずは苺」
 白い大福皮がほんのりと紅色が透けてるものを選ぶ。
 もっちりとした歯ごたえ。中にある苺を餡ごと齧れば、じゅわりと果汁が口の中に広がる。
「うん。苺が甘いから餡の甘さ抑えてあるんだね。うまいうまい」
 もっもっ、と口を動かしながら大福を堪能する。
「スイーツフェスタ万々歳だね。甘いものいっぱいで最高」
 この大福を制覇した後もどこかを回ろうか。そんな事を考えている横で、クラウディオが林檎大福と思われたものを食べていたのだが。
「大福は甘いと言うが、甘くない大福もあるのだな」
「うん?」
 思わず口の中の幸せを忘れてクラウディオの方を見てしまう。
「当たりってヤツじゃないの?」
「ああ、これが『口にしてはならない』なのか」
 なるほど、と二口目をぱくり。
「……中身は言わなくてもいいけど。決まりだし」
 食を進めるクラウディオの表情は、嫌そうに顔を顰めるでもなく、常と変わらない。
「うまい?」
 好奇心に負けて尋ねれば、「食べられる」という少しずれた返し。大樹の中で好奇心に呆れが加わる。
「まあ、後で感想お店の人に言いなよ。少しは参考になると思うし」
「そうだな」
「で、次はどっち食べたい?」
「まだ食べるのか」
「そりゃ、あと二つあるから。偶には選んでいいよ」
 残ったものは蜜柑と檸檬。の筈。
(資料では、大樹は酸味のあるものは苦手とあった)
 ならば、とクラウディオは檸檬大福と思われるものを選択して口に運ぶ。
「そうか、大福の甘さとはこういうものか」
 思ったよりも酸味が薄く柔らかい甘さが口に広がる。
「大福は甘いのが普通だからね? これは、蜜柑か。うん、甘い」
 言って、大樹は頬を緩ませた。それは気が緩んだような、ほろりと見せた笑み。
 甘いものが好きなのだ。好物にありつけて嬉しいのだろう。
 納得しながら檸檬大福をもう一口。けれど、クラウディオにはこの味が美味い類に入るのか、よくわからない。
「大福初めてねえ」
 そんなクラウディオに気付いたのか、それともただの気まぐれか。
「なら、苺は食べちゃったけど。蜜柑は一口上げようか。はい、あーん」
 言いながら、大樹は食べかけの蜜柑大福をクラウディオの口元にグイッと押し付ける。
「押し付けずとも食べれる」
 悪戯染みた大樹の行動にも特に気にした様子も無く返す。けれど口の横には大福の白い粉。
 見慣れないクラウディオに、大樹は小さく吹き出した。

「『口にしてはならない』ものを食べたようだが」
 店を離れる前に、クラウディオは売り子に声をかける。
「食感で倦厭する者が多いのではないだろうか」
 大福の中にあったのは、ぷりっぷりの蟹と海老と白餡ではなく裏ごししたじゃが芋。
 ですよねぇ、と売り子は苦笑して、ご意見ありがとうございました、と深々とお辞儀をした。


■君の隣で
 ポルタ村のスイーツフェスタへ、いつものように『火山 タイガ』に引っ張られるようにきた『セラフィム・ロイス』だったが、着いて早々、タイガを避けるように人ごみに紛れて逃げた。
 一瞬の隙で逃げられたタイガはその場でしゃがみこんで頭を抱えた。思い切り落ち込みながら。
(告白、まずったか)
 鎮守の森で、『愛している』とはっきり告白した。本心で本気なのだと伝えた。
 けれど、それに対するセラフィムの反応ははっきりしないものだった。
「落ち込んでる場合じゃねぇ! 追わなきゃ!」
 パンッ! と自分の頬を叩いて、タイガはセラフィムを探し始めた。

「ここ……」
 セラフィムは呟いて足を止めた。そこは『花あらし』。過去に行った事のある店の出店だった。
 セラフィムの心が過去へと向く。その瞬間、背後からガシッと肩を組まれる。タイガだ。
「よ! でてると聞いてまた苺大福食べにきたんだ!」
 タイガが売り子に笑顔で言う。売り子は「いつもありがとうございます」と頭を下げる。
「あ、どうも先日はお世話になりました。『しーちゃん』は元気にしてますか」
 逃げられないと悟ったセラフィムが売り子に挨拶をすれば、売り子は笑顔のまま首を傾げて「店の方に来ていただいたんですか? ええ、元気ですよ」と返す。
 その答えにほっとしながらも、そういえばこの人は店で見なかったという事実にも今更気付き、セラフィムは自分がかなり動揺している事を知る。
「王道の苺か、気になる檸檬か、林檎も捨てがたい。蜜柑も旨そう、『口にしてはならない』は当てたいよな~、数に制限なきゃいくぞ!」
 敢えてそんなセラフィムに気付かないフリをして、タイガは明るくご機嫌な様を装う。
 その気遣いにセラフィムは気付き、ぽそりと「大食いだしできないこともないだろ……」と呟く。
 パッとタイガは期待に満ちた目でセラフィムを見るが、セラフィムは咄嗟に目を逸らしてしまう。
「……ちぇー」
 小さく零された声に心が痛む。だけど。
(あんなこと言っておいて普段通りに誘うなんて卑怯だ。こっちは思い出して、頭がいっぱいで動けなくなるのに。言葉にならないのに……昔みたいに)
 こんな状態の自分には覚えがある。昔の、まだ素直になれていない時のようで。
 セラフィムの心はまた過去へ行く。今と上手く向き合えない。

「この味だ!」
 久しぶりの苺大福に、タイガはフリではなく、心の底から笑顔になる。
「他はどれどれ。お、白餡もいいもんだな~」
 ぺろりと苺大福を食べたタイガは、二つ目の蜜柑大福をがぶりと賞味する。
 セラフィムはまだ一つ目、苺大福だ。
「うん……ほっとする味」
 口に広がる懐かしくも甘い味に、セラフィムは自然と頬を緩ませて微笑む。
(甘くて酸味がまろやかに包まれて、前食べたのが懐かしい)
 やはり過去へと意識を向く。けれど、すぐに今へと引き戻される。
「やっと笑顔みれた」
 思わず隣に座るタイガを見るが、すぐに顔を逸らす。
「……また逸らす。昔のセラみてぇだ。あんま逸らすと噛み付くぞ」
 それは冗談として、空気を変えようとしての発言だった。
 けれど、過去ばかりを考えていたセラフィムには思わぬ刺さりようだった。
「……そんなに酷い……?」
 一瞬だけ、傷ついたような、縋るような目でタイガを見る。
「ひど……?」
「……何でもない」
 意味がわからなくて鸚鵡返しにしようとしたタイガを、セラフィムは自ら断ち切る。
 ―――『昔のセラみてぇだ』
 暗く、斜に構え、素直になれずにいた昔の自分。
(愛想つかされたら、僕は)
 セラフィムの心が緩やかに暗く落ち込んでいく。その様にタイガはハッと気付く。
(人形みてぇな頃の瞳……俺がさせてんのか)
 そんなつもりじゃなかった。けれどそれをどう言えばいいかわからなくて、タイガは黙ったままセラの手にそっと触れ、労わる様に握った。
「!……ごめん」
 気を使わせているという事に気付き、セラフィムは咄嗟に謝罪するが、それに対してタイガは苦笑する。
「今、『ごめん』は辛いな」
 セラフィムは気付く。
(そうか。タイガだって同じなんだ)
 どちらも、離れられたくない、と。そう思っているのだ。
「アレは俺の我侭だ。伝えたくて言った。後悔もしてねぇ。けど、隣にいたいし、本音を聞きたい」
 俺、我侭だから。そう言って苦笑するタイガに、胸が苦しくなって口を開く。
「言うから、待ってて」
 ポツリ、吐き出した今の本心。
 心の整理がつかない。自分はそんなに思い切りよくなれない。
「おう! 待っとく、隣で」
 タイガがほっとしたような笑顔になる。
 その笑顔が眩しくて―――嬉しくて、苦しかった。


■初めての甘さは
「む、むむむ。選べるゾーンが四つ、口にしてはいけないものも含めると種類は八つ……! 全部食べてみたいなぁ」
 大福を前に悩む『叶』を、『桐華』は呆れた顔で見ていた。
「わざわざネタ味まで食べたいとかチャレンジャーな……」
 口に出すも叶には届かない。若しくは届いても無視である。元気に「おねーさん、ここで四つ食べてる間に、適当に六つ包んでおいて貰うとかってできる?」と尋ねている。
「先に六つ選んで下されば、召し上がってる間にお包しますよ」
「よし! じゃあそうしますか!」
「本気か。必ず当たるとも限らないんだぞ」
「甘い物ばっかりでもそれはそれで僕が美味しいからおっけー!」
 言うと思った、と桐華はため息を一つ。そのやり取りを見ていた売り子がクスクスと笑いながら叶に盆とトングを渡す。
「とりあえず一種類ずつ並べてみて、ほうじ茶をお供に。桐華も?」
「ここで食うなら二個は食べるけど、それ以上は手伝わないからな」
『当たり』を取るべく慎重に、けれど楽しそうに取っていく叶に、桐華は色々と諦めて譲歩案を出した。

「折角だから現地で食べないとね! じゃー何が来ても恨みっこなしって事でとりあえず一個目! いただきまーす」
 店先で並んで座り、二人は一つずつ大福を頬張る。
 桐華が選んだのは『当たり』、ではなく、甘さ控えめの蜜柑。
(大福で蜜柑味ってのも変わってるな)
 柑橘類特有の爽やかな甘みを味わいながら横を見る。
「そっちはなに、って」
 そこには微妙な顔でも首を傾けながらもぐもぐと食べる叶。
「……うん」
 どうやら見事『当たり』を引いたようだ。
「個人的におやつとご飯は分けて食べたい派だけど、あまじょっぱいとかそういう類と思えば……」
 柔らかくほの甘い大福の中には、丁寧に裏ごしされ滑らかな食感のじゃが芋。バター醤油の味付けが施されていた。
「何が入ってたんだ……って、『口にしてはいけない』だっけ。顔見れば微妙なのは判るけど、不味くないなら良かったな」
「んーまぁそうなんだけど……やっぱり普通のが良いな」
 残りを押し込むように食べ、ほうじ茶で流し込む。
「ねー桐華さん、もう一個は中身確かめてから食べてもいい?」
「中身見てから、ね。はいはい」
 そう言うと、桐華は食べかけの大福を改めて目で中身を確認してから、一口大に千切って叶には中身が見えないよう差し出す。
「ほら、あーん?」
 叶が目を見開く。
 そんな風に渡されるだなんて思っていなかった。
「……桐華さん、それ、僕に中身解らなくない?」
 違う、言いたいのはそこじゃない。だけど、口をついて出たのは出来るだけいつもの調子を保った反抗。
「全部食ってみたいっつったのお前じゃん」
 その意見はもっともで、だけどそれ以上に。
 食べかけのものを分け与えるその行為が、「あーん」と言いながら差し出すその行為が、叶から言葉を奪った。
「判ったよ、あーん」
 観念したように叶が口を開けば、何処かほっとした様子の桐華によって、一口大の甘味が口に運ばれる。
「甘いなぁ……」
「甘かったなら良かったな」
「そう言う意味じゃないんだけどね」
 口の中よりも胸に何かがじんわりと広がっている気がした。甘いだけではない、けれどもうほろ苦さとは言えない、何か。
「張り合わなくていいって言ったのに……」
 ぽつり、先日の茶房でのやりとりを思い出して零す。
「? なんか言ったか?」
「なんでもなーい! あーあ、間接ちゅー奪われちゃった!」
 いつもの明るい調子を取り戻して笑う叶に、桐華は「は?! 今のは違うだろ!」と慌てたように声をあげた。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 八木ふつき  )


エピソード情報

マスター 青ネコ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月23日
出発日 02月01日 00:00
予定納品日 02月11日

参加者

会議室

  • [11]セラフィム・ロイス

    2015/01/31-23:43 

    :タイガ
    おお!野生のケセラか!見たことねーから興味あるな~
    『セラ:うん可愛いよね。報告書でみたけれど僕もいきたかった』

    そそ、詳しくは報告書よんでくれ。謎がとけるぞw
    とりあえず今回は『しーちゃん』元気か聞いてるから、MS次第でみれるといいなーっと
    (PL:話していてプランがケセラがメインになったら怖いので軌道修正しときますw大福ーっ)

    あとお茶屋ではお疲れさんな!そっちMVPおめでとー!バイト編でも顔でててニヤリだ
    これからお客編は読み込んでくるー

  • [10]叶

    2015/01/31-00:06 

    ケセラ、知ってるー。一回ケセラの生息してる場所の保護に行ったことあるよ。可愛いよねぇ。
    色んなところで見かけるねぇ。ふふ、僕もあの時おうちにおいでってお誘いすれば良かったなぁ。
    んで、そのケセラの『しーちゃん』が逃げ出した、と……
    ……人間苺タワー?
    何それ面白そうな響き。
    逃げ出したケセラを捕まえてーってお話はちらっと聞いた記憶あるけど、まさかそんな面白い事になってたなんてなぁ。
    ふふ、ありがと。後でゆっくり報告書の方も読ませて貰うことにする。

  • [9]セラフィム・ロイス

    2015/01/30-22:01 

    タイガ:
    大福の数かなんかかな~。ダイスで決めるってのもありだな。丁度武器がサイコロだし(鈍器)


    お?おお、おう!(ぽむ)ここで話きくってことだよな・・・?
    大した話じゃねーぞ。短いし(尻尾がご機嫌)
    『しーちゃん』つーのはもこもこの毛玉、ケセラしってか?
    リスみたいでこのくらいの(両手を前にだし)そのもこの毛玉が
    事故で驚いて逃げたから『まるはち』ってペットショップ兼動物病院のスタッフに
    頼まれて探してたんだ

    で、人間苺タワーになって俺がキャッチして籠にいれて無事捕獲っと
    『セラ:・・・・・・・・・まとまってなくてすまない』
    あ。逃げられたことは『花やしき』のおっちゃん達には内緒だから言わないでくれよー

  • [8]ロキ・メティス

    2015/01/30-21:08 

  • [7]柳 大樹

    2015/01/30-12:41 

    ん。5と3か。
    よし決まった。

    大福楽しみだわ。

  • [6]柳 大樹

    2015/01/30-12:37 

    おー……、皆さんおひさー。(欠伸一つ
    毎度よろしく柳大樹でーす。

    とりあえずダイス振ろうかな。(唐突


    【ダイスA(6面):5】【ダイスB(6面):3】

  • [5]叶

    2015/01/30-01:22 

    『しーちゃん』?何だか可愛い子の予感がする名前。
    飼い主さんって事は、そのしーちゃんはわんことかにゃんこなのかな。
    一年前だったら、結構懐かしいお話んだんだねぇ。

    お菓子のお祭だし、生き物はさすがに連れてきてないよねぇ。
    会う機会はまたいずれ模索するとしてー。ちょっとお話聞きたいなーなー。
    (いそいそと聞く姿勢)
    (リザルト関係なくってもたまには喧しく喋るのも楽しいと思います!)

  • [4]セラフィム・ロイス

    2015/01/29-23:56 

    タイガ:
    お持ち帰りか、食べて帰るかでも迷うよな~。でももう一つ悩むのが・・・

    おう!知ってるぞ!約一年前の依頼で逃げた『しーちゃん』探しやったのの飼い主さんだな
    ごちそうになったんだ~(青ネコMSシナリオ「ある日、事故に出くわして」)
    (PL:皆で会話できるタイプだったら話題にしたいところ。できなくても主人や皆に挨拶はする予定)

  • [3]ハティ

    2015/01/29-11:56 

    ハティとブリンドだ。俺もロキさんとローレンツさんとは初めまして、だな。よろしく。
    タイガ達は『花あらし』を知ってるんだな。
    俺も持ち帰りか食べて行くかで迷ってるところだ。
    苺大福以外はシロアンなのか。初めて食べるが美味そうだ。
    林檎は洋風なんだな。……絞れん。

  • [2]叶

    2015/01/27-20:41 

    はいさー、お邪魔様っ!叶と愉快な桐華さんだよー。
    ロキ君達は初めましてかなー?初めましてと言えば『花あらし』のお話も、僕は初めて聞くから楽しみ。
    お試し系も併せて、制覇してみたいなー。
    …制覇するには八個っていう数の壁を越えなきゃいけないんだけどね。
    桐華さん、四個食べ……

    桐華:れるわけがねぇ。

    ですよねー。うーん。現地で4個、お持ち帰りに6個とかは出来るのかな…!
    お店のおねーさんに聞いてみよっかな。
    何はともあれ、宜しくねー。

  • [1]セラフィム・ロイス

    2015/01/27-19:09 

    よおおすううう!皆しりあいだな!よろしく頼むぜ!
    タイガ、と相棒のセラだ。
    『花あらし』の菓子がまた食べれると聞いて参加しねーわけにはいかねぇ!と来たぜ!

    何を食べるかはお任せにしても楽しいかもなー
    王道の苺か、気になる檸檬か、林檎も捨てがたい。ネタなら蜜柑もいいし(悩)


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