プロローグ
●特製抹茶板チョコの危機
バレンタイン城下にある小じんまりとした茶房『しずか』。城下では珍しい抹茶を使ったお菓子がとても有名な知る人ぞ知る名店である。
城下は大規模なスィーツレストランやお菓子工場があるが、『しずか』のお菓子は大量生産品では味わえない温かみのある独特の美味さがある、と食通は唸る。
そんな『しずか』を一人で切り盛りするおばあちゃん、マーサさんに危機が迫っていた。
この時期、マーサさんは期間限定でチョコレートを作る。
もちろん普通のチョコレートではなく、抹茶チョコレートだ。備蓄していたカカオを出してきて、さあ作ろうと気合を入れた瞬間、マーサさんは窓の外を見て驚愕した。
デミ・ゴブリン三体が徘徊しているのを見たからである。
最近、オーガがうろついては瘴気でお菓子をダメにしていると聞いていたマーサさんは、慌てて救援を求めてきた。
「というわけで、急いでいってマーサさんとチョコレートを守ってください」
ゴブリンはウィンクルムの敵ではないだろう。あっという間に蹴散らせるはずだ。
「ついでにバイトしてきてくれませんか? この時期、マーサさんはチョコレート作りで精一杯らしいんですが、バレンタインは稼ぎどきでもあるらしくって店員を臨時募集しているそうなんです。この一連の騒動でウィンクルムもショコランドにいますから、お客になるかもしれない。ビジネスチャンスなんですよ。でも、マーサさんは接客まで手が回らないと……」
報酬も出してくれるそうだから、と職員はウィンクルムに頼む。
「皆さんが護衛しつつ手伝ってくださるなら、ショコランドの皆さんが大好きなマーサさんの抹茶板チョコがいつもの倍以上出来るんですよ。ね、人助けだと思って!」
逆に失敗すれば、今年はマーサばあさんの特製抹茶板チョコは発売できない。ショコランドの住民はとても悲しい思いをするだろう……。
解説
●目的:デミ・ゴブリンの退治と茶房を手伝う
●敵
デミ・ゴブリン3体
棒切れで武装しているが、とっても弱い
●バイト
ホールかキッチンを選択してください
ホールは接客や掃除をします
キッチンは飲み物の用意や、マーサさんのお手伝いをします
お客は【メルヘン】茶房を救え~お客編~の参加者です
●マーサさん
小人のおばあちゃん
のんびり優しくって可愛いけれどしっかりもののおばあちゃんです
●その他
【メルヘン】茶房を救え~お客編~と連動しています。
お客編のウィンクルムが登場します。
茶房のメニューはお客編を参照してください。
ただし、バイト編が失敗した場合は、板チョコはありません。
ゲームマスターより
お世話になっております。あき缶でございます。
頑張って二本同時連動を一人で頑張ってみるテスト。
お互いの会議室を見て、絡んでみてもいいのですよ。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
皆が楽しみにしている特製抹茶板チョコ 品切れにはさせられないからね、急ごうか 早急に茶房へ向かう ゴブリンの姿見えなければ木陰等から囮を走らせ 三体を取り囲むように位置取り クリアレインの閃光効果で逃亡防止を試み 俺はキッチンでマーサさんに付いてお手伝いをするよ 飲食関係のお手伝いの時には調理スキル使用 力仕事や水仕事は積極的に、折角の男手だから遠慮なくどうぞ ラセルタさんも、勿論一緒に頑張ってくれるでしょう?(ふふ セラフィムさんや信城さんの発案には賛同、参加 来て下さったお客様にバイトのウィンクルムから 小さなサプライズが贈れたらな、と 手伝いが終わって、もし板チョコが残っていたら お土産に買って帰りたいな…なんて |
信城いつき(レーゲン)
戦闘: お店優先。囮で引寄せ皆で囲み逃げ道を塞いで攻撃 トランスも行う バイト: (懸命にメニュー記憶中)わっ!な、何? 試食用のお菓子ぱくり。 おいしい!シフォンがすごくふわふわ! 和三盆もずっと残る甘さじゃくて……(懸命に説明) 美味しいけど小さいから、少しでも多く食べて欲しいな ……あ!直接スプーンに可愛く飾付けたら全部キレイに食べられるかも 今の時期、二人仲良く食べあうのもできそう (キッチン組へワンスプーンの提案) お客には食べた感想を自分なりの言葉で説明 おすすめは特製パフェ 別のおすすめはプリンやアイス。バレンタインだし二人で美味しく仲良く食べてほしいな。ワンスプーンだからあーんも大丈夫だよ(笑顔) |
セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
「オ・トーリ・デコイ」で 戦いやすい広場に誘き出し、囲う 任せて!射撃で行動制限 ◆ 料理もお菓子もメイド任せだったけどお菓子作りのヒントを学びたい ほら季節柄…催促されると思うし ◆味見。ホール組にも味を伝えてもらうため試食作製 渋さが上品で美味しい。これを再現するんだ… ご指導よろしくお願いします そんな事いわない(嗜め)タイガこれもお願い いっ いらっしゃいませ ■スキル【クッキングアート】遊び心で開花 (疲れた。…これいい形だな) もくもく は!?すみません…どうしましょうか クマ型抹茶アイス。黒蜜で顔 ※創作可能をもらえたら、いつき案と合わせ 特製パフェ。既存の商品にクマがのったプリンアラモード風) あくまで手伝い中心 |
シグマ(オルガ)
・少し戸惑いが残りつつトランス ・戦闘時はどこかに避難 さ、張り切って仕事ー。 じゃないと恐怖の蹴りが待ってるからねー。(ため息 ・バイトはホール担当 ・オルガのクマが気になり、メイクで隠してあげる ・男性客には普通の態度、女性客には褒め倒しの態度 ・出来る範囲でも楽しく接客 バイトは普段のが発揮できると良いな。 って、オルガさん!?よく見たらクマ酷いよっ!? ほらほら軽くメイクしてあげるから来てよ。もー。 精霊で顔綺麗なんだから…って (完璧主義なオルガさんにしては、これって珍しい? オルガさんに伝わったのかなー?…なんて) いらっしゃいませー! 甘いものに囲まれての接客って幸せー! え?あーそうなの? むー悪気ないってば! |
ハーケイン(シルフェレド)
◆担当 デミ・ゴブリン退治 ◆分担 囮役を狙って来た敵を囲んでボコる ◆トランス デミ・ゴブリンの姿が見えたらトランス いやしい奴等め ゴブリン風情が人様の食料を欲しがるとは シルフェレド、貴様も来い 貴様は菓子どころか簡単な料理さえ作れんだろうが いつも料理してやっているのは俺だぞ 相手は棒きれで武装している 俺は両手剣で手数は向こうが上 今回はシルフェレドが軽めの武器で攪乱 俺は隙を狙って一撃を叩き込む そうと決まればさっさと顔よこせ、トランスだ |
●邪魔者はさっくりと
がぁ。がぁ。がぁ。
ぜんまい仕掛けの玩具のアヒル『オ・トーリ・デコイ』がよちよちと、ショコランドのメルヘンな道を行く。
それをテチテチと三匹の角の生えたゴブリンが夢中で追う。
「まんまと囮にかかってくれて一安心だよ」
アヒルが向かおうとしている広場の植え込みに身を潜め、ゴブリンの動きに集中しながら、セラフィム・ロイスはホッと胸を撫で下ろした。
隣で、ほっとしているセラフィムを見ている火山 タイガは、こうやってコソコソと隠れているのがなんだか楽しい。
秘密基地にいるような、秘密のいたずらごとを一緒にやっているような……。
(とと! 食べ物をダメにする奴は許さねーんだからな! 集中集中ッ!)
「タイガ、……絆の誓いを」
チュと軽くやわらかなセラフィムの唇がタイガの頬に触れる。
ポウッと二人は光を纏った。
「なるほど、さすがは犬並みの知能だ。あんな玩具で釣られるとは」
ハーケインは広場の裏手にある建物の壁に背を預け、腕組みしながら愛らしいアヒルについていくゴブリンを見ている。
「いやしい奴等め。ゴブリン風情が人様の食料を欲しがるとは」
と呟くなり、ハーケインは預けていた背を壁から離し、すっくと己の足で立つ。
「シルフェレド、さっさと顔よこせ、トランスだ」
呼ばれたディアボロは淡々とハーケインに近寄り、頬を差し出す。
「求めるならばまず与えよ」
ハーケインの首が動き、シルフェレドの白皙の頬に口唇が触れる。
ゴブリンが広場に入るなり、シルフェレドが飛び出す。
ブゥンと重い刃が風を切り、ゴブリンの首を狙う。彼のロングソード『ギル』は叩き斬るように作られた、重量のある大きな剣だ。
幸いゴブリンは凶刃直撃を免れたが、驚かないわけがない。
「ギエエ」
すっかり囮に夢中だったゴブリン一同、奇襲に慌てふためく。
恐慌状態のゴブリンにハーケインも飛び込む。ウィンクルムソードを振り下ろし、ゴブリンが握りしめている棒きれを弾き飛ばす。
「おっと、遅れちまった!」
タイガも飛び出し、逃げようとするゴブリンの前に立ちはだかって、狼の牙のオーラを纏った長大な棒をブン回す。
「最短でケリを……ってそこまで気負う相手でもなかったかな?」
レーゲンのツタが絡んだ銃がゴブリンの退路を断つ。
「あわわわ、始まっちゃってるぅ!」
シグマは急に始まった戦闘に慌て、一瞬の逡巡の後、目をぎゅっと瞑って唱えた。
「立ちふさがる敵を切り裂け!」
押し当てる唇が、シグマと精霊を輝きで満たす。
「……さっさとトランス出来るようになったか。蹴る手間が省けた」
オルガは口端だけで笑うと、遅れを取らじと飛び出す。踊るような素早い連撃が一合、二合……三合目は必要がなかった。
「……ふん、俺様が出て行くまでもなかったな」
とラセルタ=ブラドッツが半分残念そうに言う通り、あっという間に決着がついていた。
まだがぁがぁと鳴いて職務を続けているオ・トーリ・デコイをセラフィムが回収する。
「ご苦労様」
「うん。これで、皆が楽しみにしている特製抹茶板チョコの品切れは免れたね。じゃ、次のお仕事に移ろうか。急ごう」
矢をつがえていたクリアレインを下ろした羽瀬川 千代は、ウィンクルム達に茶房『しずか』への移動を促した。
●役割分担とご提案
茶房の中でゴブリンに怯えていた店主の老婆、マーサに無事を告げると、マーサはホッと胸を撫で下ろし、微笑んだ。
「本当にありがとうございましたよ、ウィンクルムの皆様……。これで今年も皆さんに抹茶板チョコをお渡し出来ますものね」
ウィンクルムは、次の仕事について申し出た。つまり、マーサが板チョコ制作に専念出来るよう、茶房の仕事を手伝うという案件だ。
「まぁまぁ、本当に手伝ってくださるの!」
マーサの顔がぱぁっと輝く。
「それなら、おねがいしますねぇ。ぜんざい、プリン、アイス、和三盆、ケーキは、つぶあんと、パフェ用の生クリームと抹茶ソフトは、もう作り置きしております。ですので、トッピングと盛り付けをお願いします。お店のお菓子の盛り付けレシピはこちらに。あぁ、お手数ですけど、白玉は都度作っていただけますか?」
テキパキと指示し、レシピの紙を信城いつきに渡したマーサは、あとはお任せしますとばかりに倉庫に引っ込もうとして……。
「ああ、そちらの方、よろしければカカオバターと抹茶を運ぶのを手伝ってくださいますか」
とハーケインを呼んだ。
「お呼びだそうだ」
シルフェレドがハーケインに言う。
「シルフェレド、貴様も来い。貴様は菓子どころか簡単な料理さえ作れんだろうが。いつも料理してやっているのは俺だぞ」
言外に、ここにいても役立たずだろう、というニュアンスを込めてハーケインは精霊を引っ張っていく。
「っと……じゃあ、張り切って仕事しますかー」
シグマがウンと伸びをして、一同に声をかける。
「とりあえず、俺はホール担当すんね」
「なら俺もホールだな」
当然とばかりにオルガが頷く。
「え゛(うわぁ、ヘマしたら蹴られそう……!)」
カエルが潰れたような声をだすシグマに、オルガは冷たい視線を向けた。
「なんだ、不満か」
「イエ、ナンデモナイデス……そ、それよりオルガさん!? よく見たらクマ酷いよっ!? ほらほら軽くメイクしてあげるから来てよ。もー」
「なんだ、そんなに酷いのか? なら、頼もう」
ぱっとメイク道具を取り出し、シグマはオルガの目の下のクマをコンシーラーで隠しだす。
「精霊で顔綺麗なんだから……って」
オルガが目の下にクマを作っているのは、先日の一件が気にかかっているから――急に距離を置かれてしまったのだ。オルガにとっては訳も分からず。彼の動揺を何となく察知するも、シグマは何も言わず化粧を済ませる。
「はい、これで大丈夫っ」
一方、マーサからお菓子作りを学ぼうと思っていたセラフィムは少し拍子抜けしてしまった。
「あれ、だいたいのものはもう出来てしまっているのか……」
ケーキやプリン、アイスは出来るまでに時間が掛かる。特にマーサ一人で切り盛りしている『しずか』では、開店してから作っていては間に合わないのだろう。
(料理もお菓子もメイド任せだったけど、お菓子作りのヒントを学びたいと思ったのに……季節柄、催促されると思うし……)
と少々がっかりしながらも、白玉の作り方レシピを読んでいたセラフィムは、メモの下に小さく書かれた文言を読んで目を輝かせた。
『よろしければ、閉店後の仕込みも手伝ってくださいますか? 残業代は、当店秘伝のレシピの伝授です』
千代が試食したいというホール組の希望を聞き、ちょっとずつ商品をスプーンにのせていく。
「料理出来るし、俺はキッチンでお手伝いするよ。ラセルタさんもお願いね」
ラセルタは千代の頼みに鷹揚に頷くと、試食スプーン作成を手伝い出す。
一生懸命、お品書きの商品と値段を一致させようと頑張っているいつきの肩をレーゲンが叩いた。
「わっ、な、なに!?」
振り返るとレーゲンの顔が予想以上に近くて、いつきはどぎまぎしてしまう。
「? どうしたの? 顔赤いよ? ……はい、口開けて」
いつきの動揺の意味がわかっていないレーゲンに差し出されたスプーンを、パクンと口に運んだいつきは、頬を思わず押さえた。
「わっ、おいしい! シフォンがすごくふわふわ!」
レーゲンの手がすっと次のスプーンを差し出すと、もちろんいつきはすぐに中身を口に入れた。
「あ。和三盆もずっと残る甘さじゃなくて……でも抹茶にすごく合いそうで!」
「いつきがおいしいと思った所が、お客もきっと知りたいと思うよ」
「うー、でも、美味しいってのをうまく説明できない~……」
この感動を言葉に表現できないもどかしさに、いつきが眉を顰める。
それを見て、レーゲンはクスと笑った。
「大丈夫。そんなに『美味しいんです!』って顔してたらみんなも分かるよ。一緒に頑張ろう。大丈夫だよ」
その様子を見て、タイガも我慢できなくなったらしく、スプーンを口に運ぶ。
「うまっ!! 俺、特に好きでもなかったんだけど、いくらでも食べれそう。甘すぎなくって大人の味だ」
(タイガ、本当に美味しそうだな。これを再現できればきっと喜んでくれるんだろうな)
セラフィムは、幸せそうに抹茶スイーツを食べているタイガを見て、ますます『残業』への意欲がわく。
そうこうしていると、ハーケインとシルフェレドが、小人サイズにまとめられたカカオバターや砂糖、生クリーム、抹茶を山ほどキッチンに運び込んできた。
その後を、腕まくりしたマーサがやってくる。
「そろそろ開店ですね。板チョコを今日のお客様の注文に間に合わせるためにもチョコ作りに専念していますが、困ったことがあったら何でも聞いてくださいね」
ぱっぱと湯煎の準備をはじめながら、マーサがバイト達に言う。
「あっ、あのさ、試食していて思いついたんだけど」
いつきが手を挙げながら口を開いた。
「直接スプーンに可愛く飾付けたら全部キレイに食べられるかもって思ったんだ。今の時期、二人仲良く食べあうのもできそうだし」
「新メニューってこと?」
と千代が首を傾げると、いつきは、
「うーん、新メニューっていうか、今あるお菓子を可愛くスプーンに盛るだけ……」
と身振り手振りをつけて、一生懸命自分のアイデアについて説明した。
「そうだね。アイスをクマ型にして、……黒蜜で顔を書いたのを……プリンに乗せてみるとか……ほら、プリン・ア・ラ・モードみたいに……」
セラフィムが考え考え、いつきの案に肉をつける。
「おー! 可愛いなそれ! 創作ってできねーかな! お薦めとしてだしてぇ!」
タイガが大きく頷き、神人の提案を後押しする。
「いいね。来て下さったお客様に小さなサプライズが贈れたら素敵だと思う」
千代も賛同を示した。
すると、マーサはゴソゴソとキッチンの食器棚をあさり、十本程度の『人間サイズのスプーン』を持ってきた。
「普段は小人や妖精のお客様ばかりで使わないのだけれど、こういうものがあるから使ってみてくださいな。私達のサイズのスプーンじゃ、ウィンクルムの方がクマさんを作るのは難しいと思うから……」
確かに、『しずか』の標準の食器はすべて小人サイズ。スプーンは人間界のティースプーンよりも少し小さいのだ。
「助かります。ありがとうございます」
千代は素直にマーサの厚意に甘えることにした。スプーンを受け取り、調理台に並べる。
「ワンスプーンだし、パフェの半額くらいでいいかな」
と価格も決まれば、準備は万端。
「よーし、じゃあ、開けちゃうよー!」
シグマが張り切って店の扉を開く。
「いらっしゃいませー!!」
彼の元気な声に迎えられ、五組のウィンクルムがやってくる。
果たして、茶房『しずか』は今日も問題なく店を開いた。
もちろん『期間限定! 特製抹茶板チョコはじめました』の幟も忘れずに立てて――。
●いらっしゃいませ
「こっからここまで、全部くーださい」
「えっ」
にっこり笑顔で、おしながきを端から端までなぞられて、いつきは驚いてしまった。
だが、笑顔で『全部』注文した客はいたずらっぽく笑いながら、首を傾げていつきを見上げる。
「……冗談だよ? ふふ、一度言ってみたかったんだ。おすすめ聞けたら嬉しいな?」
「あっ、おすすめ。えっと……」
さっきまで何を言うか決めていたのに、いざ声に出そうとすると上手く言葉が出てこない。あわあわするいつきを、客は暖かく見守っている。
奥のレジの掃除をしているレーゲンといつきの目が合うなり、レーゲンは励ますように頷いて両手を拳に握ってみせた。
すると不思議に気分が落ち着き、いつきはすらすらとしゃべりだす。
「おすすめは特製パフェ……なんだけど、もっとおすすめはワンスプーンのプリン・ア・ラ・モード。バレンタインだし、二人で美味しく仲良く食べてほしいな」
「へぇ?」
「ワンスプーンだから、あーんも大丈夫だよ!」
ほう、と客の表情が変わる。
「じゃあ、是非それも。あとーパフェとー、白玉ぜんざいとー……」
結局ほぼ全部に近い注文を、伝票に一生懸命書き留めて、
「かしこまりましたー!」
いつきはホコリを立てない程度の早足で、厨房に注文を伝えに引っ込んだ。
「甘いものに囲まれての接客って幸せー! じゃなかった、四卓さんのご注文はっと、全部を二セットだそーです。あとお茶を丼に二杯」
厨房では、別のテーブルの注文を聞いてきたシグマが、衝撃的な注文を伝えている。
「え、凄いね。これは急がなくちゃ」
千代が慌てて時間のかかるパフェを作り始めた。
一方ラセルタは丼を探しだして、テキパキとお茶を注ぐと、今度は和三盆の用意にとりかかる。
なかなかどうしてラセルタも真剣だ。
(いち甘味好きとして、制作する時には真剣に取り組まねばな)
と考えるラセルタは、煎茶の横にハート型に抜いたチョコを添えるなど、細やかなサービスも忘れない。
「小さいからみんな全部制覇って感じなのかな。これは想像以上に忙しい……」
セラフィムも白玉を茹でるピッチを上げる。
オルガは、ウィンクルム達の活躍によってメニューに載せることが出来た板チョコの注文をマーサに伝えていた。
「五卓様は、板チョコを全部で七つだそうです」
「まぁまぁ、忙しい忙しい。四卓の方は十枚もご注文くださったのよ」
「他の客も板チョコは必ず頼んでいるな……」
注文伝票を眺め、シルフェレドはムゥと眉を寄せた。
「嬉しい悲鳴といったところね。さぁさぁ、はりきって頑張りましょ。お兄さんもっと材料を運んできてくださいな」
「シルフェレド、ご用命だ。行くぞ」
マーサに頼まれ、ハーケインは、伝票ばかり見ているシルフェレドを促すと、倉庫へと引っ込んでいった。騒がしい場所が苦手なハーケインとしては、倉庫にいるほうがしっくりくるのだろう。
「さぁできた。タイガこれ三卓さんにお願い」
「おう。任された」
とタイガはお盆いっぱいに乗せられた『しずか』のメニュー全部のせを手に乗せると、ホールへさっそうと戻っていく。
(セラ、気合入ってんな! やる気あるセラみんの好きだし、俺も頑張ろっ)
自然とタイガの足取りは軽くなる。
ふと客を見ると、皆美味しそうに抹茶スイーツを堪能していた。
(やった。戻ってセラ達に教えてあげないとなっ)
ぐっと拳を握って喜びを発露させ、タイガは虎しっぽを機嫌よくピンと立てて厨房へ戻っていった。
●閉店後のお楽しみ
夜に近い夕方。ウィンクルム以外にもやってきた様々な客を接客し、ようやくすべての客を送り出したが、まだ茶房のバイトは終わっていない。
店を掃除し、汚れた食器や器具を洗って片付け、売上をきちんとまとめてようやく終了。
「はぁーーーっ。やったぁ~」
飲食店などバイト経験は豊富なタイガでも疲れたのだから、他の面々は慣れない喫茶店の仕事でもっと疲れただろう。
特に営業スマイル全開で接客し続けていたオルガ――しかも彼は完璧主義者――の疲弊ぶりは相当なものだったらしく、いつも浮かべている胡散臭い笑顔も、ともすれば無表情になってしまいそうなくらい疲れている。コンビニバイトで接客は慣れている上に、大好きなケーキに囲まれた仕事が楽しかったらしく、さほど疲れは見せていないシグマとは対照的だ。
ずっと板チョコ作りの手伝いをしていたハーケインとシルフェレドは、非日常な時間が案外面白かったらしく、疲れつつも機嫌は悪くない。
「皆さん本当にお疲れ様でした。大変だったでしょう。でも、おかげさまでいつもよりずいぶん沢山の板チョコを作ることが出来ました。本当に有難うねえ」
マーサが深々と一同に礼をする。そして、お礼のおまけだとして、板チョコを一人一枚ずつ配ってくれる。
「わぁ。今回はバイトだから食べられないと思ってたから、よけいに嬉しいな」
レーゲンは頬を緩ませ、いつきと笑顔を見合わせる。
「さて、もし宜しければ『残業』してくださるかしら?」
「もちろんです」
セラフィムが待ってましたとばかりに食いつくのを、タイガは驚いて見る。
(セラだって疲れてるだろうに。ますます気合はいっちゃって。
まさか菓子作りでも……いやいつもメイド特製パイだったしそれはねーか)
「じゃあ、俺ももうひと頑張りしようかな。力仕事や水仕事は折角の男手だから遠慮なくどうぞ」
千代が朗らかに申し出る。そして、笑顔で隣の精霊に向き直った。
「ラセルタさんも、勿論一緒に頑張ってくれるでしょう?」
「ああ。菓子作りの工程が間近で見学出来るいい機会でもあるな。手伝ってやらんでもない」
というラセルタの声音は気安い。
「じゃあ、明日の仕込み兼お菓子教室を始めましょうか……」
マーサが腕をまくる。
まだまだ茶房の灯りは消えなさそうだ。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:セラフィム・ロイス 呼び名:セラ |
名前:火山 タイガ 呼び名:タイガ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | あき缶 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 日常 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 少し |
リリース日 | 01月18日 |
出発日 | 01月25日 00:00 |
予定納品日 | 02月04日 |
参加者
会議室
-
2015/01/24-23:59
みんなお疲れ様がんばろう・・!
-
2015/01/24-23:45
(さっきので誤字に気づいた……訂正しとかないと)
千代の文字数引き受けの件、遅くなったけど、ありがとう。なんとかプランに入れたよ。
あと、セラフィムの試食もらえる前提で書いたよ。そちらもありがとう
バイトのみんな頑張ろーね!
お客のみんなもお待ちしてますー!
-
2015/01/24-23:38
プラン提出したよ
『美味しいけど小さいから、少しでも多く食べて欲しいな
……あ!直接スプーンに飾付けたら全部キレイに食べられるかも
今の時期、二人仲良く食べあうのもできそう
(キッチン組へワンスプーンの提案)』
『おすすめは特製パフェ
別のおすすめはプリンやアイス。バレンタインだし、で二人で美味しく仲良く食べてほしいな。ワンスプーンだからあーんとかでも大丈夫だよ(笑)』
こんな感じで書いたよ -
2015/01/24-23:36
お客組はちゃくちゃくと提出し終わってるようだね。お疲れ様だ
こちら調整はとりあえずすんだ。まだぎりぎりまで対応するつもりだ
あっと、「ふり」というか、きっかけは
魔が差して遊び心でやったらみられて、タイガがのって「創作しよう!」という
(マーサさんの了解をもらい)
。。。伝えるの遅れたな。直接的には関係ないけど一応いっておくね -
2015/01/24-22:38
>試食
あ。ホール組の紹介がうまくいうよう全員の試食はつくっておくね(お客用ではない)
これでうまく味を伝えてほしい
>メニュー
あっと、そうだね。量的にいうとプリンとアイスか・・・(お品書きの「抹茶白玉パフェ」をみつつ)
まあ、作製時間のないしお手伝いとして規模は小さく(可愛く)それでいこうか
>千代、ひきとり
ううん・・・もしできるのなら
賛同とアイディアフォローをたのみたいかも
僕はパフェで仮に書いたから、いつきの案でいくなら2品だし
アイスに直して、発案者としてのフリは書いておくね
イメージとしては既存商品にクマ(アイス)が乗ったプリンアラモードな感じ
えっと、プリンとパフェを作る方向でいいかな・・・?
とりあえず一口スプーンはこちらも押したい。でも手伝える文字数は厳しいから
その辺はお願いしたいよ
あとは・・・何かあったらまた書き込む。意見のすれ違いがあれば指摘を頼む -
2015/01/24-22:20
発案者が顔出し遅れてすまない(苦笑)
>おすすめ案
いつきは申し出ありがとう。とても助かるよ
スプーンアイディアも素敵だし、丁度「バイト組の案」としても出せれるし
よかったらお願いしたい
いつきの試食の作製もしておくね(という、当人も味見かいていたw)
その流れで調整してみるね。
とりあえず創作メニューは作る方向で、でも「お手伝いは手を抜かないよう」にしておく
本末転倒になったらやはりまずいし
>戦闘
大丈夫。僕もバイトの方がメインだ・・・(遠目) -
2015/01/24-21:19
発言が少なくてごめんね。
お勧め案、良い案だと思うな!
こっちも接客の時、お勧め紹介するね!
プランは大体出来たかな?
戦闘は薄くなってるんだけど平気かな……バイトメインに書いちゃってる。(汗
スキル不足だからそれを補佐する事に字数食っちゃった……。
結局頼っちゃう事になってごめんね。
その代わり、バイトは全力で頑張るからね!
改めて皆
よろしくお願いしますっ! -
2015/01/24-14:58
>キッチン「おすすめ案」
まずは特製抹茶板チョコがたくさんあります、と胸を張って言えるように頑張らないといけませんね。
マーサさんのお手伝いがメインですから、あまり制作に時間が掛かってしまうと他の作業が厳しくなってしまうかも知れません。
信城さんに提案して頂いたスプーンに盛り付ける案ならお手伝いの範囲内で出来そうな気がします。
それに他のメニューと統一感があって、可愛らしくて素敵ですし(ふふ
文字数に関しては調整がきくので、もし俺たちの方で引き取れる記載部分があったら仰って下さい。 -
2015/01/24-10:09
「パフェでも『二口』で完食できる」っていうので、ちょっと思いついたんだけど
器の代わりにスプーンに盛りつけるってできないかな?
(ワンスプーンって言ったら良いのかな)
……背後がね、「お客様たちが「あーん」としてる姿が見られる!」と嬉しそうに言ってるんだ
パフェは豪華にやるなら容量的に難しいかもしれないけど、プリンかアイスとかなら……
味のおすすめはパフェで、イベント的おすすめはプリンとか案内できるかなって
通るかどうか分からないので、やれそうならプランは俺たちが入れるよ
お客にうまく説明できるように事前に一口試食させてもらおうと考えてるので
その流れでキッチン組に提案する流れにもっていけると思うんだ
どうかな?
-
2015/01/24-04:28
・・・「おすすめ」か(お客側を見て)
創作(できたら)か、無難にいうと「期間限定! 特製抹茶板チョコ」
になるのかな・・・?
>キッチン「おすすめ」案
キッチン組、千代とラセルタは文字数どんな感じだろうか
ふっとね、合作のパフェでもやってみないかと思って
特製抹茶板チョコはもちろんつかって豪華に
多分僕らだけじゃ経験値でできないと思うから千代の返信で決めたい
保障はないから賭けでもあるのだけれど・・・・
あと、どうせならバイト組み皆の案もいれた合作とか素敵だとおもっ・・・ごめん(夢見がち)
えっと、最後のはまあ・・・半分流して(でも意見はくれるとうれしい)
返信が早めにあれば対処できるから。
なければそのまま進めようと思う -
2015/01/24-03:06
特に役立つ物を持っていないんでな、囮役に群がった敵を精霊と一緒に殴る事になる。
囮役は任せた。 -
2015/01/23-23:19
あ。タイガの言ってるのは冗談(ノリ)だからこっちで丸め込むからね
よくよくお品書きとガイドみてみたら
●『しずか』
メルヘンなショコランドでは珍しい和風のお店
なにもかもが幼稚園児のおままごとサイズ
普通の男性ならパフェでも二口で完食できるレベル
「二口」とあるし必要なのは手先の器用さみたいだね・・・ふむ
創作についてはチャレンジするけど、要望もやってみるつもりだから
お客様もわがままどうぞ
PLが今日おいしい抹茶たべて気持ち上がってる。黒蜜やあんこでみせたいらしい -
2015/01/23-01:13
>戦闘
デミ・ゴブリンは狡猾で愛らしい(セラの感覚)イメージだからね
食べ物につられたり、泣き言いって逃げたり、パンツ・・・まあ過去はいいか
「簡単に蹴散らせるだろう」とあるし平気だとは思うけどつめておこうか
「オ・トーリ・デコイ」(囮+1アイテム)をもってるから
戦いやすい広場におびき出し、潜んでたところ四方から囲えばいいかなって
>バイト
両方いるけどホールが3組でおおいよね。僕らキッチン行こうか
『タイガ:えーー!ま、いっか。大盛り山盛りつくってやるぜ!要望もどんとこい!』
(いいのかな・・・?)それより量がいると思う
『あっと運ぶ助っ人とか暇ありゃ様子みるからな!』
過去お手伝いもしてきたし多少は慣れてるとも思うから(クッキングアート習得した)
えっと
創作というかお試しで商品にチョコで書いたメッセージ(指定可能)や
クマ形のアイスでも・・・マーサさんのお眼鏡にかなったらやろうと思う -
2015/01/22-22:26
遅くなってごめん!信城いつきと相棒のレーゲンだよ。
向こう側にも。えーと、い、いらっしゃいませー!……はまだ早い?
バイトは今ホールとキッチン二組づつ別れてる…のかな?
俺たちはホールの仕事しようと思ってるよ。
二人ともまんべんなく仕事するつもりだけど、俺は注文きいたりするのが多くなるかも
レーゲンは今のところ掃除とか食器の片付けとかかな
戦闘については、逃げられないよう囲むのいいんじゃないかな
逃げられるとその分時間とられちゃうから、
逃がさないことを優先で動いた方がいいと思う
バイトのみんなもお客のみんなもどうぞよろしくね!(手をふりふり) -
2015/01/22-03:14
こんばんは、羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
チョコレートが危機と聞いて居てもたっても居られなくて…。
一緒に働く皆様も遊びに来て下さるお客様も、どうぞ宜しくお願い致します(ゆるりと手振り
>バイト
俺たちは二人共キッチンに居る予定です。
何かご入用の際はお気軽に仰ってくださいね?
>戦闘
今回の敵はデミゴブリンが3体、トランスは各自の判断で大丈夫かと。
瘴気がお菓子を傷める原因ならあまり時間が掛からない方が良いですよね…。
複数で取り囲むでも良いし、前衛陣で1体ずつ対処+後衛陣の支援でも対応出来そうです。 -
2015/01/22-01:11
ハーケインとシルフェレドだ。
生憎なんのスキルも持っていない。
が、武器さえあれば殴るくらいはできる。
料理は無理だろうな。
デミ・ゴブリンの対処に向かう。
複数いれば取り囲む事もできるだろう。 -
2015/01/21-23:41
どーも!シグマとオルガさんだよー!
皆みんなよろしくー!(手ブンブン
頼りになるメンバー!((
……あ、うん頼りすぎないヨ、ダカラ睨まないでヨ(オルガを見ながら
オルガさんはアルペジオでザクザク行くみたい
……うん、逃げられないようにするには囲んだ方が良いのかな?
バイトの件は俺もオルガさんもホールかなー。
役立つスキルは特にないけど、目一杯頑張るね! -
2015/01/21-20:17
:タイガ
おーい!みてっぞー!絡むってどうやんだー!(笑。お客に手をぶんぶん)
よっす!俺、精霊のタイガと神人のセラフィムだ!見知った面子と・・・
ハーケインとシグマ達ははじめましてだな。あとお客様も。皆よろしく頼むぜ!
バイトがんばってこー!『セラ:あと戦闘もね』
>バイト
場所は未定だけど。セラはキッチンに興味あるみてー
『スキルないからマーサさんか誰かに教えてもらう事になりそうだけどね
ホールは・・・(できると思う?という視線)』
俺がひっぱってくから問題ねー!偏りそうなら調整にいくからさ『!!?』
>戦闘
俺は前線でウルフファングでがんがんいく!・・・けど、
逃げられねーようにしていきてぇなー。囲うか・・・?