【メルヘン】茶房を救え~お客編~(あき缶 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●店員はウィンクルム
 バレンタイン城下にある小じんまりとした茶房『しずか』。城下では珍しい抹茶を使ったお菓子がとても有名な知る人ぞ知る名店である。
 城下は大規模なスィーツレストランやお菓子工場があるが、『しずか』のお菓子は大量生産品では味わえない温かみのある独特の美味さがある、と食通は唸る。
 そんな美味なる『しずか』のお菓子は、小人のおばあさん、マーサさんが一人で手作りしたものだ。
「そんなマーサさんのお店にデートしに行ってみませんか? ちょっと諸事情で瘴気が漂っている可能性があるので、それを払って欲しいんですよね……」
 とウィンクルムは誘われた。
 ショコランドでデートをすると瘴気が消えるらしいので、デートも立派な人助けである。
 主に小人や妖精が住まうショコランドは、茶房の什器も全て人間のおままごとセットのような愛らしさだが、その分色んな種類が食べられて面白いのではないだろうか。
「接客は……たぶんウィンクルムの皆さんなんですけどね」
「え?」
 なぜショコランドの茶房でウィンクルムがバイトしているのか――それには深い訳があるのだが、まぁそれはいいだろう。
 誰が持ってきたってお菓子は美味しいのだから!

 『しずか』のおしながき
 白玉入り抹茶ぜんざい 50Jr
 抹茶白玉パフェ 80Jr
 抹茶と和三盆 40Jr
 抹茶アイス 30Jr
 抹茶シフォンケーキと煎茶 70Jr
 抹茶プリン 30Jr
 期間限定! 特製抹茶板チョコ 100Jr

「……板チョコはもしかしたら品切れかもしれませんが……おそらく彼らはうまくやるでしょう」

解説

●目的:和スイーツの茶房『しずか』でお茶

●品書き:プロローグ参照

●『しずか』
 メルヘンなショコランドでは珍しい和風のお店
 なにもかもが幼稚園児のおままごとサイズ
 普通の男性ならパフェでも二口で完食できるレベル

●その他
【チョコ】茶房を救え~バイト編~と連動しています。
 バイト編のウィンクルムが登場します。
 なおバイト編が失敗した場合は、板チョコはありません。

ゲームマスターより

お世話になっております。あき缶でございます。
頑張って二本同時連動を一人で頑張ってみるテスト。
お互いの会議室を見て、絡んでみてもいいのですよ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

(桐華)

  こっからここまで、全部くーださい(満面笑顔でメニュー全部指し)
…冗談だよ?ふふ、一度言ってみたかったんだ
お勧め聞けたら嬉しいな
あ。板チョコは、あるかな
あとパフェとー、白玉ぜんざいとー、桐華は何がいい?
甘すぎない…じゃあ、シフォンケーキとアイスかな
ふふ、結局殆ど頼んじゃってる。急がないから、よろしくお願いしまーす

可愛いお菓子にご満悦
桐華も味見してごらんよ。ほら、あーん
甘いよー。間接ちゅーで糖分増し増しだもの
ん?嫌じゃないよ。僕からする分には
してもらったことなんてないから、困るだけだよ
…ないよ。ないんだよ
だから、さ。張り合わないでよ
ちゃんと、好きだよ。桐華のこと
…ふふ、いいよ、誤魔化されてあげる


高原 晃司(アイン=ストレイフ)
  有名なお店なんだってな!
そんな所で食べれる菓子って相当うまいんだろうなー!
限定の板チョコは是非とも食いてぇなー

「楽しみだな!アイン!!こういう和風のって甘さがしつこくないだろうからきっとアインでも平気だ」

仕事とは言えこういうまったりとした仕事は好きなほうだ
それに…アインともデートができるしな?
っていやいやデートとか!恋人じゃねぇんだから!!

本当はメニューを全制覇してぇんだが…
店の忙しさによるだろうな
とりあえず板チョコとパフェはたのみたい!

あとはオススメがあればそれも頼むかな!

「アイン今日は気にしないでじゃんじゃん食べてくれよな!」
アインの美味しそうに食べてる所を見てると幸せだからな


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  *オーガ退治が終わってなかったら手伝った後に席につく

◆頼む
ランスの勧めに「確かに」と思うので俺も同じ物を
それとは別に濃い目に入れた緑茶を丼に一杯ずつください
俺達だとカフェオレカップサイズになることを期待してる

どんなに美味しくても、続けて食べたら舌が鈍るからな
たまにお茶で味覚をクリアにすれば美味しさが際立つって仕組み

◆食べる
味わって食べる
箸で一寸崩して中身を確認
材料や作り方を考察し…←

あ、悪い(苦笑

つい、つられて「あーん」
食べてからしまったと思うけどアトノマツリかもしれないよ(汗

◆実は
持ち帰りで板チョコを10枚買っておく
一枚はオヤツに渡す

残りは秘密
もうすぐVDだから、これを使って…
秘密だぞ(ふふ



アイオライト・セプテンバー(白露)
  板チョコ以外全部2つずつくださーい
あたしもパパも全部のメニューを1つずつ食べるの
板チョコはお土産にして、あたしは2パパは5、合計1900jr
他にお薦めがあったら、追加してもいいなあ

ふふふ憧れの「全部ください」やっちゃった♪
ちっちゃいから多分大丈夫だよ
もしパパのが余ってもあたしが食べるから、平気っ

ウィンクルムが給仕してくれるのって新鮮でいいな
サービスしてねっ(^_-)☆
ウィンクルムが仲良くしてるの見るの、あたし好きだよ
だから、あたしもパパと仲良しなの

あたしバレンタインのチョコ、まだ決めてないから、色々見せてもらって参考にしたいなあ
味とかデザインもだけど、ラッピングも
パパに一番可愛いのあげたいもん


月岡 尊(アルフレド=リィン)
  普段より更に無愛想…だが、不機嫌じゃ無い。
寧ろ、和風の店は好きな部類だ。落ち着ける。
…実家を思い出す事だけは不本意だが。

ともあれ、問題は機嫌では無く…
今の俺にデートなどと言われても、こんな顔しか出来んのだ。

注文は、抹茶と和三盆。
…懐が寒い訳じゃ無い。茶が飲みたかっただけだ。
煩い、笑うな。
ご夫人一人で頑張ってる店なんだ、お前は確り売上げに貢献しておけ。

公共の場で禁煙するマナーくらい弁えてる。が。
舌打ちくらい罰は当たるまい?
後は…例えば、ちょっとした意趣返しなども。
アルが分けようなどして来ようものなら、
動揺なぞ意地でも抑えて、微かに笑って言ってやろう。

みみっちいのは性に合わん。
頂く時は、丸ごとだ。


●平和な茶房へようこそ
 メルヘンなショコランドの中では目立つ、黒い木造の小さな店舗。扉からして格子戸に障子紙が貼られている。
「……落ち着いた店構えだな」
 月岡 尊は、茶房『しずか』の前で立ち止まると店を見回して穏やかに呟いた。
(……実家を思い出すのは……不本意だがな)
 煩わしい空間の記憶が浮上する前に、尊は煙草を深く吸ってニコチンの味で自分をごまかす。
 甘味の店で喫煙はよろしくないだろう。名残惜しく吸ってから、吸い殻を灰皿に捨てる。
「っと、どーやら面倒事は解決済みみたいだな」
 アルフレド=リィンは、茶房の傍らにたてられたのぼりをみて、笑みを浮かべる。
 のぼりには、『期間限定! 特製抹茶板チョコはじめました』と書かれていた。
「というわけで、行きましょっか、ツキオカさん?」
 とアルフレドが水を向けると、尊は無愛想に頷いて格子戸に手をかける。
(超がつくほど仏頂面だけど、機嫌は悪くなさそうだな。……前よりちっとは解ってきた気がする)
 神人の様子を見て、そこまで考えたアルフレドは面映そうに肩をすくめた。
(ウィンクルムが世間に期待されてるもんとか関係無しに、この人を知りたいし近付きたい、信頼されたいと思ってる……なーんて、言えやしねえけど)
 さあ、尊に不審に思われないうちに自分もメルヘンな抹茶スイーツを堪能すべく、可愛らしい茶房に入店しようではないか。
「いらっしゃいませー!」
 元気な人間の声が迎えてくれた。なるほど、今日は本当にウィンクルムが接客バイトに立っているらしい。
 案内された席は、子供でちょうどのような小さいもの。
 ちんまりと座る大の大人という図が面白くて、アルフレドは思わず笑ってしまい――尊に睨まれた。
 アルフレドが肩をすくめるも、尊は窓の向こうのメルヘンな小路を眺めながら思考を別のことに飛ばす。
(デート、か……)
 まだ精霊のことは仕事上の相棒としか捉えられない。
(今の俺にデートなどと言われても、仏頂面しか出来んのだ)
 無意識に手が煙草を取り出そうとしてしまい、すぐに理性が『ここは公共の場であり、甘味処』とブレーキをかける。
 遊んだ手を見下ろし、尊は忌々しげに小さく舌を打った。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
 黒髪のファータが完璧な笑顔を浮かべて、注文を取りに来た。
「抹茶と和三盆」
 端的に尊が注文すると、アルフレドは周囲を見回し、
「あっちのにーさんと同じく、俺もおしながきここまでぜーんぶと、オススメを♪」
 と金髪のテイルスを指さしつつ、得意げな笑みとともに言い放った。
 尊の視線もどこ吹く風で、アルフレドはうそぶく。
「今日は美味い物を堪能するぜ!」

 アルフレドが指さした方角にいたテイルスの名は、ヴェルトール・ランスという。
「全部くれ!」
 ランスがきぱっと言い放ったのを、ピンク髪の少年はサラサラと伝票に書き留めていく。
 アキ・セイジも続けて注文した。
「俺も同じものを。……ああ、それから、濃い目に入れた緑茶を丼に一杯ずつください」
 お品書きにない注文に、少年のペンは一瞬止まったが、
「かしこまりました~。それでは少々お待ちください」
 朗らかに了承して、伝票に丼サイズ緑茶と記すと、くるりと厨房へと帰っていった。
「丼サイズのお茶か……」
「俺達にとってはカフェオレカップくらいの大きさになると思う。それに、どんなに美味しくても、続けて食べたら舌が鈍るからな。たまにお茶で味覚をクリアにすれば美味しさが際立つって仕組み」
 とランスの疑問に答えるセイジに、ランスは成る程と頷く。

 アイオライト・セプテンバーも負けてはいない。
「板チョコ以外全部二つずつくださーい。あたしとパパで一個ずつなの。あと、板チョコはおみやげにしたいな。あたしは二つでパパは五つ!」
 ぺらぺらと立て板に水を流すように注文するのを、虎のテイルスが遅れないように伝票に記録していく。
「あー、あとお薦めがあったら追加したいなぁ」
「じゃあ、ワンスプーンのプリン・ア・ラ・モードってのがあるぜ! 可愛くて旨い特別メニューだ!」
「じゃあ、それー!」
 と注文を済ませたアイオライトは満足気に椅子にもたれる。比較的体の小さいアイオライトには、小さな椅子もあまりアンバランスではない。
「ふふふ、あこがれの『全部ください』やっちゃった♪」
「アイ……大丈夫ですか? そんなに頼んで……」
 白露が心配そうに言うも、アイオライトは平気そうだ。
「ちっちゃいから多分大丈夫だよ。もしパパのが余ってもあたしが食べるから、平気っ」
「いえ、そういう問題ではなく……アイ、太りますよ?」
「その分お仕事がんばるもん」
「……まぁ、これでやる気が出てくれるのなら良しとしましょうか……」
 白露はそう呟いて、注文の品が届くのを待つことにした。

 高原 晃司は物珍しそうに何もかもが小さな店内を見回す。
 彼はつい先程、注文を済ませたばかりである。
「ここ、有名なお店なんだってな! 相当うまい菓子なんだろうなー!
 楽しみだな! アイン!! こういう和風のって甘さがしつこくないだろうからきっとアインでも平気だ」
「抹茶を売りにしていますからね。飲み物の抹茶自体もきっと美味しいはずでしょう」
 アイン=ストレイフは、自分が注文した抹茶と和三盆の味に期待する。
 注文の品が届くまでの時間を雑談で潰すのも、また喫茶の醍醐味。
「ここでお茶するのも、瘴気を払うっていう立派な仕事なんだよな。仕事とは言えこういうまったりとした仕事は好きなほうだ。それにア……いや」
 晃司はそう言いかけ、もごもごと語尾を濁す。
(アインともデートができるしな? っていやいやデートとか! 恋人じゃねぇんだから!! 何言いかけたんだ俺は……)
 当のアインは晃司の動揺に気づいていないようだ。
「あー楽しみだな。限定の板チョコ。ぜひとも食いてぇなー」
 と品が来るのを待つ晃司が、楽しげにしていることだけで十分らしい。のんびりと窓の景色を眺めている。

「こっからここまで、全部くーださい」
「えっ」
 叶うにっこり笑顔で、おしながきを端から端までなぞると、茶髪の少年ウェイターは驚いてしまった。
 叶は、いたずらっぽく笑いながら、首を傾げてウェイターを見上げる。
「……冗談だよ? ふふ、一度言ってみたかったんだ。おすすめ聞けたら嬉しいな?」
「あっ、おすすめ。えっと……」
 あわあわするウェイターを、叶は暖かく見守る。
 今日だけの特別バイトさんだから、緊張したりドジしたりすることもあるだろうことは了承済みだ。
 しばらくすると、落ち着いたのかウェイターは、すらすらとしゃべりだした。
「おすすめは特製パフェ……なんだけど、もっとおすすめはワンスプーンのプリン・ア・ラ・モード。バレンタインだし、二人で美味しく仲良く食べてほしいな」
「へぇ?」
「ワンスプーンだから、あーんも大丈夫だよ!」
 ほう、と叶の表情が変わるのを見て、桐華は眉を寄せる。
(またくだらないというか……良からぬことを思いついたな……)
「じゃあ、是非それも。あとーパフェとー、白玉ぜんざいとー……桐華は何がいい?」
 不意に水を向けられた桐華は、思考に気づかれたか、と驚いたがどうやら杞憂だったらしいことにホッとしつつ、
「俺は甘すぎないやつが良い」
 と答える。
「じゃあ、シフォンケーキとアイスかな。あと板チョコ」
「かしこまりましたー!」
「ふふ、結局殆ど頼んじゃってる。急がないから、よろしくお願いしまーす」
 ひらひらと手を振る叶に、ウェイターはペコンと大きく頭を下げ、厨房へと足早に向かう。
「全部とか……本気で言いやがった……。忙しい時に無茶振りすんな」
 ウェイターがいなくなってから、桐華は小さな声でイタズラ好きの神人を咎める。
「まぁまぁ。でも他の人もみんな全部って頼んでるみたいだよ? 小さいお菓子だし、一個じゃ足らないだろうしね」
 組んだ手の上に顎を乗せ、甘いものに目がない叶は、待ち遠しげに厨房の方へ視線を向けた。
「楽しみだねー」

●あまいじかん
 人間の大人にとってはミニテーブルのような小さな卓上に、小さな菓子がそれでも所狭しと並べられた。
「……ちっさ」
 こころなしか獣耳も垂れ気味に、ランスはアイスをティースプーンのような小さな匙で掬って呟いた。
「これ絶対腹が減るよ。もう一セットほしいなぁ……って」
 ランスはチミチミと匙でアイスを口に運び、それでも一瞬でなくなってしまった容器を見つめて呟いた。だが、ふいと視線を上げると、セイジが匙でパフェをまるで解剖するかのように崩して検分しているのを見て、眉を寄せる。
「セイジ、分解して食べるのはどうかと思うぞ」
 セイジはハッとランスを見ると、匙を止めて頬を赤く染めた。
「あ、悪い……」
「美味いものはそのままで食べようぜ」
 ほらあーん、とランスはセイジに人間サイズのスプーンに愛らしく盛られたプリン・ア・ラ・モードを差し出す。
「あーん……」
 自然とスプーンの中身を口に入れたセイジは、口をとじて、中身を飲み下してから、事の重大さに気づく。
(しまった……。俺はなんて恥ずかしいことを……)
 さっきとは違う種類の赤にセイジは頬を染めるも、もう遅い。
 ごまかすように『丼サイズ』のお茶を口に運ぶ。メニューにないお茶に、ハート型に抜いたチョコレートが添えられていたのは、きっとバイトのお茶目だろう。
「なぁ、もう一セット頼んでいい?」
 上機嫌にしっぽを揺らすランスが尋ねる内容を吟味する余裕もなく、コクコクとセイジは頷いた。
 言質得たりとばかりに、ランスはウェイターを呼びつけて、もう一度メニュー全部を注文した。
「今度は俺にも俺にも。あーんしてくれよな」
 ニッと笑ってみせるランスを、セイジは頬を赤くしたまま睨むのだった。
「足りないなら、これも食べればいいよ」
 セイジは、板チョコを一枚取り出してランスに差し出した。
「これ、どこから……」
 と尋ねかけたランスだが、何か悟ったように言葉を飲み込むと、明るい笑顔で礼を言ってチョコレートを受け取った。
 板チョコの出処は、セイジの足元に隠された袋。この袋には、持ち帰り用にこっそりセイジがオーダーした抹茶板チョコが、まだ九枚も入っている。

 笑顔で小さな抹茶スイーツを次々ぱくつくアイオライトの食欲に、白露は控えめに言ってみた。
「太りますよ……?」
 先程も言ったが、もう一度言ってみる。
「大丈夫だって。その分お仕事がんばれば」
 アイオライトには馬耳東風であった。
「あ、パパがあたしに食べさせてくれたら、やる気百倍だよ。それとも、パパがアーンする?」
 ぐいっとスプーン山盛りにプリンを掬ったアイオライトに、白露は額を抑えてため息を吐いた。
「……アイ……」
 しかし、呆れて見せながらも、アイオライトが差し出したスプーンを白露は受け入れた。いつもならちょっと恥ずかしい行動だが、今日は信じられないほど素直に受け入れられる。
(他の人達も同じようなことをしているようですし……ね)
 場の空気に流されるのも、また一興。
 アイオライトは『あーん』が成功したので満足したらしく、また自分の食事に戻った。抹茶ぜんざいを飲み、抹茶を飲んで大人の味に驚いて慌てて和三盆を口に含み、広がる優しい甘みにほっと息を吐く。
 子供が美味しそうにお菓子を食べる姿は愛らしい。白露は頬杖をついて、温かい表情でアイオライトの食べっぷりを眺めていた。
 ふと白露は違和感に気づく。
(沢山食べてるわりには、アイの気が散っているようです……?)
 アイオライトの青い瞳が、テーブルの上だけでなく、周囲にも向けられているのだ。
 白露は何が見えるのか、と周囲を同じように見回してみた。
 小さくて可愛らしい『しずか』のしつらえは確かに夢中になってしまうが……。
「どうかしましたか?」
 白露は素直に尋ねてみる。するとアイオライトは、ふふふと小さく微笑んだ。
「えっと、まだ内緒」
「……そうですか」
 ならば深くは尋ねまい。『まだ』なのならば、いつかは教えてもらえるのだから。
 白露はそっと両手でぜんざいの椀を持ち上げると、甘くほろ苦い餡を楽しむ。
 アイオライトはまた周囲を見回した。可愛い店の内装や、スイーツの盛り付けを覚えて帰るのだ。白露にあげるチョコレートは、ラッピングまでこだわりたい。一番可愛い物をあげたいのだ。
 そして、周囲を見れば他のウィンクルムも目に映る。
(みんな仲良しだな。いいな)
 皆が仲良くしているのは、アイオライトにとって喜ばしいことだ。
(あたしもパパと仲良しだしねっ☆)
 上機嫌のアイオライトは張り切って匙をパフェに突き立てた。

「アイン今日は気にしないでじゃんじゃん食べてくれよな!」
 パフェを口に運びながら、晃司はアインに抹茶スイーツを勧める。
 アインは特に言葉は発さないが、ゆっくりと味わって食べている。
 何度も頷いているあたり、気に入ってくれているのだろう。
(アインの美味しそうに食べてる所を見てると幸せだな)
 晃司の頬が自然と緩む。
 一緒に来てよかった、と思う。
「晃司」
 不意に声をかけられ、晃司は内心アインの顔をじっと見ていたことを指摘されるのかと焦った。
「ん? あ、な、なんだ?」
 だが、アインの用件はそれではなかった。
「クリームついてますよ」
 と、紙ナプキンでそっと拭ってやる。
「……あ、そ、そうか。悪いな」
 晃司は、ホッとしつつもどこか残念な気持ちは深く考えないようにする。
「嬉しそうですね。美味しいですか」
「おう。さすが評判の店だな。すっげー旨い!」
「そうですか。……なら、良かった」
 ふっと微笑んだアインの顔に、晃司はドキリと胸を鳴らした。

 アルフレドの前にはずぅらりと並んだ様々なスイーツ。一方、尊の前には、お猪口のような抹茶茶碗にちょっとだけの抹茶と、さしみ醤油皿のような小皿にコロンと小指の爪サイズの和三盆が数個――だけ。
「品数の差に、流石に笑いがっ!」
 アルフレドが笑いをこらえきれずに吹き出す。
「煩い、笑うな。ご夫人一人で頑張ってる店なんだ、お前は確り売上げに貢献しておけ」
 尊は眉を寄せ、アルフレドをたしなめた。
「別に懐が寒いわけじゃない。茶が飲みたかっただけだ」
 淡々と言い、作法通り和三盆を口に入れてから抹茶に手を伸ばす。
「こんなの一舐めじゃないっすか。あっという間に空っすよ」
 と言いながら、アルフレドは溶けないうちにアイスを片付けにかかる。
 案の定、すぐに手持ち無沙汰になった尊だが、煙草は吸えない。
 だから見るでもなくアルフレドの食事模様を眺めていた。
 すると不意に尊の眼前にスプーンが差し出される。
 抹茶プリンの上に、抹茶アイスで出来たキュートなクマさんが乗っているワンスプーンのプリン・ア・ラ・モードだ。
「半分ドーゾ? ミコトさん。あーん」
 ニヤニヤ笑いのアルフレドがスプーンをグイグイと差し出してくる。
 キュートなスイーツも、あーんも、尊の柄ではない。だが。
 尊は不敵に笑うと、挑戦的にアルフレドの金色の瞳を見つめたまま、スプーンを口に含んだ。
「みみっちいのは性に合わん。頂く時は、丸ごとだ」
「ッ……」
 予想外の反応に、アルフレドは虚を突かれてしまった。一瞬、目を見開いてから、参ったと頭を掻いて眉を下げる。
「かなわねーなぁ……」
 だが、このまま負けっぱなしのアルフレドではない。
(近づくさ)

 うまうま、と甘いお菓子を叶は上機嫌で口に運ぶ。
「さっすが。おいしーっ」
 その様子を半ば呆れたように、シフォンケーキをつつきながら眺めている桐華に、叶はスプーンを差し出してみせる。スプーンにはパフェのあんこに包まれた白玉が乗っている。
「桐華も味見してごらんよ。ほら、あーん。甘いよー。間接ちゅーで糖分増し増しだもの」
 そのセリフを聞いて、桐華は顔を不機嫌に歪める。
「だから甘すぎるのは……って、嫌じゃないのな。間接キスとか」
 叶は、ダメだったかーとちっとも残念そうではない口調で呟き、スプーンを引っ込める。
「嫌じゃないよ。僕からする分には。してもらったことなんてないから、困るだけだよ」
 淡々という言葉が、桐華の心を痛める。
「…………して貰ったことないとか……」
 叶には、桐華の前にも契約した精霊がいる。前の『彼』はもうこの世にいない――叶を守ったから。
「嘘、つくなよ……」
 桐華はケーキをつついていたフォークを下ろし、俯く。絞りだすような声になってしまったのは、自分でも予想外だった。
 すると、叶は困ったように痛そうに眉を下げた。
「……ないよ」
 かすれたような呟きのような小さな声で、叶は訴える。
「ないんだよ」
 切々と訴える。
「だから、さ…………張り合わないでよ」
 駄々をこねる幼子を宥めすかすような声音に、桐華は忸怩たる思いを抱えた。
「張り合ってなんか……」
 張り合ってなんかない。
 故人に張り合うことは、虚しい。どれだけあがいても、到達できないから。
(張り合えてなんか、ない。敵わないのは、判ってんだよ。判りたくないだけで)
 勝ち目のないシャドーボクシングのようだ。
 桐華の表情を見て、叶は優しく囁く。
「ちゃんと、好きだよ。桐華のこと」
「好き、なら……そんな顔するなよ」
 そう言う桐華を見て叶は胸が締め付けられる思いがする。
 桐華は、迷子の子供のような顔をしていた。
 どうしていいかわからなくて、叶は苦しい気持ちのまま、無理に笑った。
 何か困ったことがあるたびに、笑ってしまうのは、いつからだったろう。
 叶は、誰にも傷ついてほしくないのだ。それは身体的にも精神的にも。なのに、自分が桐華を傷つけている。『どうしようもないこと』で。
(だから、言いたくなかったんだよね……)
 でも、いつまでも言わずに終えることなんて、出来なかったろう。あの温泉宿での出来事に、後悔はしていない。したくないから。
 桐華が、叶の前に溶けかけた手付かずのアイスを押しやる。
「急かして悪かったから……だから、そんな苦しそうに笑うな。
 今日は、こんなメルヘンチックな場所で、洒落た菓子を前にしてるんだから。甘い物に、満たされた顔してろ」
 まだ、二人共見据えるには早すぎたのだ。
 叶は、渡りに船とばかりに微笑んだ。
 アイスを口にして、叶は笑う。
「……ふふ、いいよ、誤魔化されてあげる」
 二人して、互いの傷を互いの手で隠す。舐め合うには、まだ足りない。でも、僅かずつだが着実に二人の心は近づいている。
 抹茶のほろ苦く優しく控えめに甘い味が、二人の優しさの味のようだった。



依頼結果:成功
MVP
名前:
呼び名:叶
  名前:桐華
呼び名:桐華、桐華さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あき缶
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月18日
出発日 01月25日 00:00
予定納品日 02月04日

参加者

会議室

  • [16]叶

    2015/01/24-23:32 

    プラン、おっけー!
    というわけでゴマクッキーを心置きなく頂きまーす。(もぐっ)
    バイトの皆も、色々ありがとう。やること増やしちゃったならごめんね。でも楽しみにしてる!

  • [15]月岡 尊

    2015/01/24-23:25 

    当方もプラン提出完了だ。
    店員の皆々方の話にも、ちゃっかり耳を欹ててるんでな。
    うちの煩いツレも、「ワンスプーン期待してるぜ!」とか言っていた。
    無論、俺もな。楽しみにしている。

    ……ということで。ゴマクッキー、1枚ずつ頂いていくなー。

  • [14]叶

    2015/01/24-23:17 

    ワンスプーンの可愛いメニューを食べたいでーす!(大声)
    お勧めがあれば教えてほしいって言ったら、出してくれる感じなのかな。
    それはそれとしても、普通にメニューも頼みます(きりりっ)

    プランはもうちょっと…ゴマクッキー…終わってから、終わってから…!
    ところで最近のアキ君の差し入れは手作りなんでしょうか。

  • あたしもプラン提出しました。
    なわけで、ゴマクッキーmgmgするーー♪

    【ダイスA(10面):2】

  • [11]アキ・セイジ

    2015/01/24-22:50 

    プランは提出できたよ。上手くいっていると良いな。

    ではプラン後のお茶といこうか。(皿に乗せたゴマクッキーを差し出す。

    ゴマクッキーの枚数:サイコロAの2倍+8

    【ダイスA(10面):3】

  • よーし。というわけで、おみやげの板チョコは7枚買うことにしましたー。
    あたしの分がダイスA、パパの分がダイスBね

    その他のメニューは全制覇しちゃうぞー

  • まだプランを書いていないです(キリッ
    ワンスプーンいいなっ
    アーンいいなっ(ちらっちらっ

    と、ちょっと思い付いたのでダイス振らせてね

    【ダイスA(6面):2】【ダイスB(6面):5】

  • [8]月岡 尊

    2015/01/24-02:48 

    メニュー全制覇か!
    そりゃイイな、何てったってロマンだよな!!

    尊:
    そうか。つまり今回はアルの奢りか(白っとした眼)

    サーセン、調子に乗りました……。
    でもまー、バイト側の皆も、ホールかキッチンかで分かれるようだし。
    オススメ決めといてもらって、それ頼むってのはオレもしてーなーと(ちらちらっ)

  • [7]高原 晃司

    2015/01/23-02:40 

    うっす!高原晃司だ!よろしく頼むぜ!!
    バイトもいるんだなー…きつそうだけど頑張れ!
    俺はくっそ美味そうな菓子でも食べてるかなー!

    小さい菓子って結構作るの難しそうだよな
    確かに全部入りそうな気はする
    んー何たべっかなー!!

  • [6]叶

    2015/01/22-22:42 

    僕ね、こっからここまで全部って一回言ってみたい(真面目な顔)
    サイズがサイズだから、実際全部食べきれちゃうんじゃないかと思うんだ…。
    あと、おにーさんのおすすめなぁに(はぁと)とかとか。
    とはいえ、バイト組に無茶ぶりする気はないから、言ってみるだけー
    ……言ってみるだけならいいかなぁ…(ちらっちらっ)

    桐華:
    既に無茶ぶってんだろ。聞き流していいからな。

  • アイ:
    こっちも見てるよーっ☆(バイトに腕ぶんぶん
    サービス期待してるっ(*・ω・)ノ
    丁度5VS5(←戦いません)だし、誰かが誰かのとこを専用で接客するのも楽しそうだよねー。

    白露:
    アイ、おまけをねだっちゃいけません
    そういえば注文を決めてないのですが……お薦めはありますか?

  • [3]アキ・セイジ

    2015/01/22-00:06 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。
    相棒に連れられてやってきたんだが、材料や作り方が気になるな(チラチラ

  • [2]月岡 尊

    2015/01/21-00:52 

    普段がサービス業に就いていると、偶には、特に茶などは、供される側でいたくてな。
    ……デートとかと言えば、未だ胸中複雑だが。
    月岡尊。ツレは、アルフレドだ。
    今の所、知った顔ばかりのよう……か?(微かに笑って)
    よろしく頼む。

  • [1]叶

    2015/01/21-00:20 

    はーいおじゃまさま。
    バイトしようかなって思ったけど頼もしい面子見てこの面子に接客されるとかお得じゃない?って思って華麗にお客様転身した叶と愉快な桐華さんだよー
    ちっちゃいお菓子を堪能してこよう。
    バイトの方々も宜しくねー(おててふりふり)


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