【スイーツ!/指南】出張!まんまる堂(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●ポルタ村のスイーツフェスタ
 タブロスの近郊に位置するポルタという小さな村。
 普段は閑静なこの村、年に一度この時期だけは見違えたように姿を変えます。
 歴史ある祭典、甘い物をたくさん集めたスイーツフェスタが開催されるのです。
 タブロスや付近の町からも多数の屋台が出店されるスイーツフェスタ。
 どうぞ皆様、心ゆくまで甘い時間を楽しんで。

●ドーナッツ・ドーナッツ!
「いらっしゃい! 『まんまる堂』のしあわせドーナッツだよ!」
 明るく気風の良い掛け声に惹かれ声の方へと顔を向ければ、屋台越しに赤髪ベリーショートの美女がさっぱりとした笑みをこちらへと向けて。
「どうだい、お二人さん。スイーツフェスタ限定の双子のドーナッツ、美味しいよ」
 双子のドーナッツ? と首を傾げれば、店主の女性は楽しそうに言葉を続けた。
「普通のドーナッツより小ぶりのドーナッツが2つ、中身が見えない袋の中に入ってるんだ。味もお楽しみ、それからおまけもお楽しみってね」
 おまけは、何ということはない、他愛もない遊びだという。双子のドーナッツを買ってくれた人にくじを引いてもらう。くじには例えば、『手を繋ぐ』というようなちょっとした指令が書いてあって、それをこなせばドーナッツ代がただになるのだとか。
「それじゃあ改めて。しあわせドーナッツ、おひとついかが?」
 店主の女性がにっこりとした。

解説

●スイーツフェスタについて
冒頭にある通り、タブロス近郊の小村・ポルタ村で年に一度開催されるお菓子の祭典です。

●『まんまる堂』について
『まんまる!しあわせドーナッツ』に登場したタブロス市内のドーナッツ専門店。
今はスイーツフェスタに出店中です。近くにベンチあり。
プロローグの女店主はマチルダという名前でポルタ村の出身。
リザルトではあまり出張らせないつもりですが、皆様のプラン次第で変動いたします。
既知の方も初めましての方も、ご用があればお声掛けくださいませ。

●双子のドーナッツについて
『まんまる堂』のスイーツフェスタ限定品です。
通常2個入り50ジェールですが、おまけのくじのミッションをクリアすると無料に!
会議室で6面ダイスを2つ振っていただき、Aの目がドーナッツの味、Bの目がミッションとなります。

ドーナッツの味(2種入り・左は練り込み系、右はコーティング系)
1.プレーンとチョコレート
2.アールグレイとホワイトチョコ
3.抹茶と苺チョコ
4.さつまいもとキャラメルナッツ
5.オレンジピールとコーヒーチョコ
6.くるみとシナモンシュガー

ミッション
1.手を繋ぐ
2.2人から見て右側の人が左側の人の頭を撫でる
3.一方がもう一方を姫抱っこ
4.ハグ
5.2人から見て左側の人が右側の人に「大好き!」と言う
6.ドーナッツの袋を受け取った方がもう一方にドーナッツを「あーん」
ミッションは店主の前でこなしていただきますが、その後継続するか否かは自由です。

●童子について
監視役の童子が1組様につき1人ついていて後ほど2人の様子を甕星香々屋姫に報告しますが、エピソードには絡んできません。

●消費ジェールについて
スイーツフェスタ満喫代300ジェールのお支払いをお願いいたします。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは描写が極端に薄くなりますので、お気を付けくださいませ。

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

ポルタ村のスイーツフェスタが連動エピソードとなりました!
私からは『まんまる堂』のドーナッツをお届けです。
ダイスも初めて使用。会議室でころりと振ってくださいませ。
ミッションでどきどきしていただけたら嬉しいなぁと。
2つの味の美味しいドーナッツも、どうぞお二人でお楽しみくださいませ!
また、ポルタ村は『とどけて!しあわせドーナッツ』にも登場していますが、ご参照いただかなくとも支障はございません。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  ポルタ村……あー、あの村!
無事に開催できたんだな。っし、行こうか

まずはマチルダに挨拶を
よう、開催おめでとう。
ん?くじ?へー、無料とはまた思い切ったな
さて内容は……(中を見て)
(思わず左隣のイグニスを見上げ)
く、いつもながらこの身長差……!!
わかったから騒ぐんじゃない!
全くお前は……(わしゃわしゃ)
(身長差にむかついたので全力で鳥の巣に)
これでいいか、マチルダ?
……何笑ってんだよ……
ああもう、行くぞイグニス!!(さっさと歩き出し)

ああまあ普通っちゃ普通か……(ドーナツつまみつつ)
姫抱っことかじゃなくてよかったわ
……頬にキスはトランスと変わんねえだろうよ……
さて、折角来たんだから他も見て回るぞ?



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ラキアがスイーツ好きなんだよな。
勿論、オレもお菓子大好きだ!
そして限定品の一言にも弱い。
限定の言葉に釣られ『双子のドーナツ』を買う。

くじミッションで無料?
「やったぁ」とくじの内容を見る前から無料になる気満々。
他の人がお姫様だっことかしているのを見て
(くじを理由にラキアとあーんなことやこーんなこと!)と色々と期待が広がりまくったが・・・アレ?
『手を繋ぐ』だとぉぉ。なぁーんという事だ。

だが負けないっ!
ラキアの両手を俺の両手で包み込むように握りしめ(手を繋いだぞ)
「ラキア!見た目地味なミッションでもお前への愛は迸っているぜ!」と宣言。
手を繋いでベンチに移動し食べるぜ。
半分こして2人で味わう。美味い。



ヴァレリアーノ・アレンスキー(アレクサンドル)
  限定のドーナツか
…サーシャがどうしてもと言うなら食べてやらない事もない

スイーツフェスタに出店される屋台に密かに目輝かせる
まんまる堂で選んだ袋の中のドーナツに満足げ
指令には難色示す
以前王様ゲームでサーシャにあーんをやられ大分懲りた
今後は姫抱っこと聞き拒否したが上手く言い包められて渋々実行
店主等の視線を感じて俯く
妙に力む
変な浮遊感と羞恥心でサーシャの胸で顔隠す
なかなか下ろしてもらえず腕の中で暴れる

不機嫌な様子でドーナツ食べる
ドーナツの味が甘ったるく感じるのは
動悸が未だに激しいのは


台詞
俺がお前を抱っこ出来る訳ないだろ
だからってされる側は…やるぐらいならお金払、
俺を見くびるな、この程度…
誰の所為だ馬鹿



俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  思い出の宝石を見に行ってから、時々ネカを怖いと感じるようになった
こんなんじゃこの先ウィンクルムとしてやってけない
また前みたいに普通に接することができるようになりたい
このフェスタで少しでも近づけたらいいんだが

ネカ、くじには何て書いて…ファッ!?
不意打ちの告白に赤面してフリーズ
しどろもどろになりながらベンチでドーナッツを食べる
あ、味が分からねえ…

話を聞くうちに恐怖感の正体が何となく分かってきた
この相手の都合を考えない好意の表現が眩しいんだ
でもこれがネカなんだ
受け入れてみよう、そうしたら怖くはないはず

食べ終わって帰り際にさっきの返事のように呟く
俺もお前のこと、す…(恥ずかしさで断念)
き、嫌いじゃない



柳 大樹(クラウディオ)
  スイーツフェスタなのに食べなくてどうするのさ。

ミッションで無料?
んじゃ、この袋ね。(袋もくじも気負い無く選択

『手を繋ぐ』?
随分と簡単だね。クロちゃん手出して。
はい、ぎゅーっと。

ホワイトチョコ、もーらい。
クロちゃんにも一口上げようか。ほら、あーん。
甘くて良いね。もっと買えば良かった。(大の甘党の為ご満悦
さっき一口上げたから、アールグレイも一口頂戴。

(そういえば、こいつと手を繋ぐのは初めてか)
クロちゃん。ちょっと手袋脱いで、手ぇ貸して。

(自分も左手だけ手袋を外し、手を合わせて観察
「今までが違うと。手にも違いが出るんだなあって思っただけだよ」
大きさ同じぐらいだけど、やっぱ見た目の力強さが全然違うや。



●貴方の手
「大樹、食べ過ぎだ」
「クロちゃん、スイーツフェスタなのに食べなくてどうするのさ」
 クラウディオの指摘にそう返した柳 大樹が、元は手のひらサイズだったバームクーヘンをぱくりと食べ切る。
「うん、中々」
 感情の乗らない声でそう感想を漏らした大樹の姿に、クラウディオは密かなため息を漏らした。宥めたのは、大樹の体調を案じてのこと。けれど大樹は、クラウディオの忠告など意に介さずに、次のターゲットに狙いを定める。
「あ、ドーナッツだ。へえ、ミッションで無料……クロちゃん、行ってみよ」
 ふらり、『まんまる堂』の屋台へと足を向ける大樹を、それでも律義に追うクラウディオ。大樹の護衛として、彼の傍を離れるわけにはいかないのだ。
「いらっしゃい!」
「双子のドーナッツ1袋。んじゃ、この袋ね」
「はい、どうも! あ、くじはこっちだよ」
 快活な店主に促されるままに、大樹はドーナッツの袋を選んだ時と同じように、一切の気負いなしにくじを引く。開いたくじに示されたミッションは、
「……『手を繋ぐ』? 随分と簡単だね。あ、クロちゃん手出して」
「手を?」
「はい、ぎゅーっと」
「ぎゅー……?」
 クラウディオ、言われるがままに、意味も分からぬまま差し出された大樹の手を握った。その様子を面白がっているみたいに店主が笑う。
「はい、お兄さんたちお疲れさま! ミッションクリア、ドーナッツは無料だよ」
「ん、どうもね」
 ひらひらと手を振ってベンチへと向かう大樹を、頭にクエスチョンマークを浮かべたままでクラウディオは追うのだった。

「あ、ホワイトチョコ、もーらい」
 ベンチに座って開けた袋の中身は、アールグレイを練り込んだドーナッツとホワイトチョコの掛かったドーナッツだった。ひょいとホワイトチョコのドーナッツを手に取って、大樹はそれを口に運ぶ。クラウディオも、口布をずらし大樹に倣った。
「甘くて良いね。もっと買えば良かった」
 あ、無料になったんなら買ったとは言わないかと零す大樹は、大の甘党。ドーナッツの味にご満悦の様子の大樹を見遣って、
(大樹は上機嫌に甘味を食べている)
 とアールグレイのドーナッツを手にクラウディオは静かに記憶する。と。
「クロちゃんにも一口あげようか。ほら、あーん」
 口元にドーナッツの近づいてきたのを見て、クラウディオは差し出された大樹の手を掴んで一口。咀嚼する。ああ、やはり甘い。
(アールグレイというのは茶葉の一種だっただろうか)
 それが、こんなにも甘い菓子になる。
(大樹との契約以降、食べることが無かったものを食べる機会が増えた)
 聞いたことはあったがこんなにも食べる物に種類があるとは、と感慨めいた想いに僅かの間沈めば、「ねえ」という大樹の声が寸の間でクラウディオを呼び戻して。
「さっき一口あげたから、アールグレイも一口頂戴」
「……ああ」
 強請れば、躊躇なく差し出される甘やかな味。紅茶の風味を口に楽しみながら、
(そういえば、こいつと手を繋ぐのは初めてか)
 と大樹は思う。そして言った。
「クロちゃん。ちょっと手袋脱いで、手ぇ貸して」
「手がどうかしたか」
 言いながらも、素直に手袋を外し両の手を差し出すクラウディオ。自分は左手だけ手袋を外して、大樹はクラウディオの手に自らの手を合わせた。同じくらいの大きさの、けれど全然違う2人の手。不思議そうなクラウディオに、大樹は淡々と言葉を零す。
「今までが違うと。手にも違いが出るんだなあって思っただけだよ」
 やっぱ見た目の力強さが全然違うやと呟けば、
「神人と精霊の身体能力に差があるのは周知の事実だ」
 と、噛み合っているのかいないのか判らない台詞を吐くクラウディオ。
(大樹の手は、……このまま握れば潰れてしまうだろうか)
 触れ合った手の温度に、そんなことを思いながら、
「大樹、手が冷える。手袋をした方が良い」
 クラウディオは静かに、大樹へとそう促した。

●紡ぐ、想い
「美味しそうな物がいっぱいで目移りしてしまいますね、シュン」
「あ、ああ……」
 ネカット・グラキエスににっこりと微笑まれて、俊・ブルックスはぎこちないような返答をする。思い出の宝石を生む樹の元を訪れたあの日から――俊は、時折ネカットのことを『怖い』と感じるようになっていた。
(こんなんじゃこの先ウィンクルムとしてやってけない)
 また前みたいに普通に接することができるようになりたい、と俊は胸の内に思う。
(このフェスタで少しでも近づけたらいいんだが……)
 そんなふうにして憂いに沈む俊を深い緑の瞳で見留めて、ネカットもまた想いをその胸に過ぎらせる。
(最近シュンがちょっと元気ないみたいで心配です)
 こんな時は甘い物ですよね、とネカットは賑わう通りをぐるりと見渡して――ドーナッツの屋台に目を留めた。快活な印象を与える女性が、元気良く声を上げて呼び込みをしている。
「シュン」
 呼ばれて、俊が顔を上げた。
「一緒にドーナッツ食べましょう。美味しそうですよ」
 俊にも否を言う理由はなく、2人は共に『まんまる堂』の屋台へ。店主が明るい声で限定商品の説明をする。
「くじのミッションをクリアするとドーナッツ無料なんです?」
 ぜひチャレンジしなければと、ネカットはくじを開いた。ミッションは、『2人から見て左側の人が右側の人に「大好き!」と言う』。
(どれどれ……左? 並び順でしょうか、私が左にいますね)
 そうだ、とネカットは深緑の瞳を悪戯っぽく輝かせる。
(シュンに内緒でやって驚かせましょう)
 くすりと小さく笑みを漏らせば、俊が痺れを切らせたようにくじの内容を覗き込もうとネカットへと顔を寄せて。近づいた距離に、好都合だとネカットは笑みを深くする。
「ネカ、くじには何て書いて……」
「シュン、大好き! ……です」
「ファッ!?」
 その耳元に唇を寄せて甘やかな囁きで俊の耳をくすぐれば、思わずといった調子でその口から声を漏らし、耳まで朱に染めてその場でフリーズする俊。
「これでいいです?」
「勿論! 2人共、どうぞ素敵な甘い時間を!」
 ネカットと店主のやり取りも、狼狽する俊の耳には届かなかった。そんな俊を、ネカットはベンチへと先導する。
「さあ行きましょうか」
「へ? あ、ああ、そうだなっ」
 すっかりしどろもどろになっている俊の様子に、ネカットは笑みを一つ零した。

(あ、味が分からねえ……!)
 キャラメルナッツのドーナッツは、見るからに美味しそうなのに全然味がしない。先ほど耳をくすぐった囁きが頭の中に反響して、ちぃとも食べる方に集中できないのだ。未だに真っ赤な俊のことを「可愛いです」なんて思いながら、ネカットはさつまいものドーナッツをぱくりとする。そして、気がついた。
「シュン、口元にナッツがついてます。取ってあげますね」
「っ……!」
 手を伸ばそうとしたら俊が思い切り身を引いたのに、ネカットは苦笑する。そろそろネタばらしの頃合いか、と。
「シュン、さっきの告白ですが……」
「!!」
「あれ、くじのミッションです」
「……へ?」
「あ、くじにつられて言っちゃいましたけど本音ですよ。どの種類の好きかと言われたら自分でもよく分からないですけど」
 押しつけがましいって思われるかもしれませんが気持ちに嘘はつけません、とネカット。
「それに、嫌いよりはずっといいはずです」
 そう語るネカットの言葉に耳を傾けるうちに――俊は、自分の内に在った恐怖の正体をぼんやりとではあるが掴むことが出来た。この相手の都合を考えない好意の表現が眩しいんだ、と。
(でもこれがネカなんだ)
 受け入れてみよう、と思う。そうしたらきっと怖くはないはずだから。
「さて、そろそろ行きましょうか」
 ネカットが言った。2人の手元からはいつの間にかドーナッツがなくなっている。立ち上がったネカットの背に、俊は先ほどの返事のように呟きを零す。
「なあ、俺もお前のこと、す……」
「す?」
「……き、嫌いじゃない」
 羞恥に負けて「好き」とは紡げなかったけれど。俊の言葉に、ネカットはその瞳を和らげた。

●甘い罠
「アーノ」
 甘い香り零す屋台通りの様子に密か目を輝かせていたヴァレリアーノ・アレンスキーは、アレクサンドルの呼び声に顔を上げた。
「何だ、サーシャ」
「あの店のドーナツを買い求めたいのだが、構わんかね?」
 一度行ってみたかったのだよと笑みを向けられて、ヴァレリアーノはアレクサンドルの示す方向へと視線を遣る。そこには、『限定ドーナッツあります』とのぼりの立った『まんまる堂』の屋台。
「限定のドーナツか……サーシャがどうしてもと言うなら食べてやらないこともない」
「ならば、どうしても」
 何だかんだで嬉しそうなヴァレリアーノの様子を微笑ましく思いながら、アレクサンドルは口元に笑みを乗せる。そうして2人は『まんまる堂』の屋台へと。アレクサンドルが選んだドーナッツの袋を開ければ、アールグレイとホワイトチョコ、2つのドーナッツが顔を出す。悪くない、とヴァレリアーノは満足げな様子を覗かせた。そして――差し出されたくじ箱に気づいて首を傾げる。
「何だこれは」
「ああ、このくじに書いてある指令をこなしたらドーナッツが無料になるんだ。ちょっとしたお遊びだよ」
 店主の答えに、横から手を伸ばしたアレクサンドルがくじを引き紙片を開いた。くじの内容に眉を顰めるヴァレリアーノ。
「『一方がもう一方を姫抱っこ』、だと……?」
「成る程、面白い趣向なのだよ」
「これのどこが面白いんだ」
 鋭く返すヴァレリアーノは渋い顔だ。以前王様ゲームでアレクサンドルに「あーん」をされ、それに大分懲りている。
「それで? どうするのかね、アーノ?」
「どうするも何も、俺がお前を抱っこ出来る訳ないだろ。だからってされる側は……」
 姫抱っこをされるくらいならお金を払う、と言い掛けたヴァレリアーノの言葉に被せるようにして、
「アーノがやりたくなければ構わない」
 とアレクサンドルはとても物分かりのいい応えをした。そして、笑顔で続ける。
「ただこれしきの簡単なことすら出来ないとは……少々幻滅したがね」
「なっ……! 俺を見くびるな、この程度……」
 ならばと、アレクサンドルは身構えるヴァレリアーノをひょいと抱き上げた。掌で転がされたヴァレリアーノの妙に力んでいるのを腕に感じて、アレクサンドルは彼に見咎められないよう密かに笑む。
(アーノが普段より小さく見えるのだよ)
 そんなヴァレリアーノを可愛らしいと思うアレクサンドルだ。一方のヴァレリアーノ、店主を始めとする周囲の視線に羞恥心から頬が火照るのを感じ、軽く俯いて相棒の胸で顔を隠した。奇妙な浮遊感。
「さて、これで良いかね?」
 勿論だと店主が答えたのに礼を言って、アレクサンドルはそのまま通りに出ようとする。
「おい、下ろせ!」
 ヴァレリアーノが腕の中で暴れるが、アレクサンドルは意に介さない。そのまま暫し屋台を巡り――ヴァレリアーノが拗ねたように抵抗を止めたのを見て取って、アレクサンドルはやっと彼を解放した。
「少しやりすぎた、すまないのだよ」
「……」
 視線を逸らしての無視。さてどうしたものかと、アレクサンドルは顎に手を宛がった。
「そうだ。アーノ、甘味の供に甘い飲み物はどうかね? 先ほどホットチョコレートの屋台を見かけたのだよ」
「……」
「勿論、我の奢りだ。ミルク、ダーク、カフェ……多くの味があるようだったが」
「……飲む」
 短い返事にアレクサンドルは口元を緩める。ああ、それにしても。
(彼が狼狽し動揺する姿が、どうしてこうも我の加虐心を煽るのか)
 そんなアレクサンドルの想いは余所に、2人は目当ての物を買い求めベンチに腰を下ろした。不機嫌顔のまま、ヴァレリアーノはドーナッツを齧る。
(ドーナツの味が甘ったるく感じるのは、動悸が未だに激しいのは)
 何故だろうかとその源を探ろうとするヴァレリアーノ。そんなヴァレリアーノを見遣ってアレクサンドルが柔らかく笑んだ。
「口を利いてくれて良かったのだよ」
「誰の所為だ馬鹿」
 返事に、アレクサンドルは喉を鳴らして笑った。

●迸れ、この情熱!
「スイーツスイーツ! 楽しみだな、ラキア!」
「そうだね。屋台が沢山あって……うん、目移りしちゃう」
 セイリュー・グラシアがにっと白い歯を零せば、応じたラキア・ジェイドバインもくすりとたおやかに笑った。
(勿論オレもお菓子大好きだけど、ラキアがスイーツ好きなんだよな)
(ふふ、セイリューって食べ物に弱いんだよね)
 互いに胸の内に思うのは、互いのこと。そうして2人は、『まんまる堂』の屋台へと辿り着く。
「いらっしゃい、元気の出るしあわせドーナッツだよ! スイーツフェスタの限定品!」
「限定品?!」
 店主の呼び込みに、セイリューが食いついて足を止めた。限定品の一言には弱いのだ。双子のドーナッツを買い求めるセイリューの姿を見て、ラキアはその目元を微笑ましげに柔らかくした。
(『まんまる堂』のドーナツ……とっても美味しいから絶対食べなきゃ! と俺も内心意気込んでたのは、ナイショにしておこう)
 密やかにそんなことを思うラキアの耳に、セイリューの驚いたような声が届く。
「え? くじミッションで無料?」
 やったぁ! とガッツポーズを決めるセイリュー。くじの内容を見る前からもうドーナッツが無料になったようなその喜びように、ラキアは苦笑する。
「セイリュー、まだくじ引いてないよ」
「いや、そうだけどさ。だって、ミッションってもしかして……」
 ちらり、セイリューは先の客らしき2人が姫抱っこというごく不自然な状態で屋台から離れていくのを見遣った。その視線の意味に気がついて、店主がからりと笑う。
「あれ、うちのミッションだよ。面白いだろう?」
「おおお!」
 思わず、心の叫びがちょっとだけ漏れた。セイリューの今の心境は、
(くじを理由にラキアとあーんなことやこーんなこと!)
 である。いそいそとくじを引くセイリューが期待を高めまくっているのも、ラキアにはお見通し。
(セイリューったら、考えていること全部顔に出ちゃうからね)
 さて、どんなミッションが言い渡されるのだろうかとセイリューを見守るラキア。と。
「……アレ? 『手を繋ぐ』だとぉぉ! なぁーんということだ!!」
 くじに記されていたミッションはごくごく簡単なものだった。だが、ここで諦めるセイリューではない。「手を繋ぐ、かぁ」とのんびり構えているラキアを、だが負けないっ! とキリリと見据えて手を伸ばす。そうしてセイリューは、ラキアの両の手を自分の両手で包み込むようにして握り締めた。一応手は繋いでる、繋いでるったら繋いでる!
「わ! ええっ?!」
 突然すぎる行動に驚くラキアの目を真っ直ぐに見て、祭りの喧騒にも負けない勢いのある声でセイリューは高らかに宣言した。
「ラキア! 見た目地味なミッションでもお前への愛は迸っているぜ!」
「ちょ、セイリュー、くじにはそこまで書いてないよ!」
 大いに慌て、焦るラキア。セイリューの告白めいた言葉は通りを行く人々にしっかりと聞こえていて、何事かと振り返る人が続出。
(は、恥ずかしい……!)
 耳まで朱に染めたラキアと真摯な面持ちのセイリューを見て、店主が柔らかく笑み零す。
「お兄さん、随分と情熱的だねぇ。はい、ドーナッツは無料だよ、お疲れさま」
 片方の手ではラキアの手を握ったままで差し出されたドーナッツの袋を受け取るセイリューに、ラキアは照れ臭さに俯いたまま言葉を零した。
「セイリュー、俺、紅茶淹れて持ってきてるから。2人で飲んで落ちつこう」
 そして2人は、手に手を重ねたままベンチへと。入っていたドーナッツは、抹茶を練り込んだ物と苺チョコの掛かった物だった。半分こにして2人で一緒に味わう。
「うん、美味い」
「ほんと。美味しいね」
 どちらからともなく顔を見合わせて、2人は笑顔でしあわせドーナッツを食べるのだった。

●何時かの距離は彼方
「まーんまーるしーあわーせドーナッツ♪」
 屋台通りを行きながらイグニス=アルデバランは歌う。『まんまる堂』の店主――マチルダが口ずさんでいた歌を。
「って、そんな歌だったか? ちょっと違うような……」
「ふふふー、アレンジを加えてみました! どうでしょうか?」
「どうって……まあ、悪くないんじゃないか」
 応じて、初瀬=秀は賑わう通りを見渡した。感嘆のため息が、知らずその唇から漏れる。
(前に来た時とは別の場所みたいに賑やかだな)
 無事に開催できたんだなと改めて実感する秀。開催を知って、「行こうか」と言い出したのは秀だった。
「スイーツフェスタ、無事に開催できてよかったですね!」
「……だな」
 秀の心を読んだみたいなタイミングでイグニスがふんわりと笑って言ったのに、短く、けれど柔らかな声で秀は返す。『まんまる堂』の屋台へと近づけば、彼らに気づいた店主が笑み零した。
「よう、開催おめでとう」
「ありがとう、また会えて嬉しいよ」
 先ずはうちの限定ドーナッツはどうかと悪戯っぽく店主。その言い様に秀は少し笑った。
「じゃあ、それを頼む」
 イグニスが選んだ袋には、アールグレイとホワイトチョコのドーナッツが1つずつ。イグニスが、きらきらと青の瞳を輝かせた。
「双子ドーナツ! わーかわい……あれ? マチルダ様、こっちの箱は何ですか?」
「ん? 本当だ、何だこれ」
 2人の視線がくじ箱に注がれるのを見て、マチルダがくじの概要を説明する。「へー、くじねぇ」と秀が唸って、促されるまま箱から紙片を1枚取り出した。
「しかし、無料とはまた思い切ったな。さて内容は……」
「ミッション、なんでしょうね? なんでしたか?」
 くじの内容を確かめて何とも複雑な面持ちでイグニスを見上げる秀と、わくわく顔で秀の手の中のくじを覗き込むイグニス。
「えーと……『右側の人が左側の人の頭を撫でる』!」
 指令を読み上げたイグニスの明るい声に、秀が難しい顔をする。イグニス、くじの内容を解し、自分の右側に秀が立っているのを確認し、じーっと青の視線を送ったけれど秀が苦いような顔をするばかりでちぃとも手を伸ばしてくれないので、
「あっ届きます!? 座りますね!」
 はっと思いついたようにその場にしゅた! っとしゃがみ込んだ。益々苦くなる秀の顔。
「く、いつもながらこの身長差……!!」
「さあどうぞ秀様! 存分に!!」
「っ……わかったから騒ぐんじゃない!」
 全くお前は……と秀はイグニスの頭を指示通りわしゃわしゃとする。身長差への苛立ち紛れに、柔らかな金の髪を全力で鳥の巣にしてやる。
「わーなんかすごいことに!」
 もしゃもしゃになったイグニスが何故か楽しげに言った。秀、息を吐いて店主へと向き直り、
「これでいいか、マチルダ?」
「ああ、うん、勿論だよ。お疲れさま」
「……何笑ってんだよ」
「いや、なんか、微笑ましくってさ」
 その反応に何だかいたたまれなくなって、「ああもう、行くぞイグニス!!」と秀はさっさと歩き出した。イグニスが慌てる。
「ああっ、秀様待って! 私(とドーナツ)を置いて行かないで下さい!」
 2人の背中に、「どうぞ素敵な甘い時間を!」とやはり笑い混じりの声が届いた。

「んー、なんか割と普通でしたね」
 ベンチにて。ドーナッツを美味しそうにもぐもぐとしながら、イグニスはそんなことを言う。彼の隣で同じくドーナッツを摘まみつつ、秀が応えた。
「ああまあ普通っちゃ普通か……姫抱っことかじゃなくてよかったわ」
「私はもっとラブラブな感じでもよかったですよ! 例えば頬にキスとか!」
「……頬にキスはトランスと変わんねえだろうよ……」
「あ、そうでしたね!」
 呆れたような秀の声に、イグニスが目を丸くして返す。その反応に少し笑んで、ドーナッツの残りを口の中に放り込む秀。
「さて、折角来たんだから他も見て回るぞ?」
 立ち上がった秀の背を見遣って、イグニスは眩しいみたいに青の目を細める。
(……でも。トランスも最初はすごく躊躇ってましたよね?)
 秀との距離が縮まっているのを感じて、イグニスはふわりと笑み零した。



依頼結果:大成功
MVP
名前:俊・ブルックス
呼び名:シュン
  名前:ネカット・グラキエス
呼び名:ネカ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 01月15日
出発日 01月23日 00:00
予定納品日 02月02日

参加者

会議室

  • [11]俊・ブルックス

    2015/01/18-21:26 

    ネカット:
    ドーナツはさつまいもとキャラメルナッツ、
    ミッションは…左→右で「大好き!」ですか…
    左右はこう、掛け算的なものでいいんでしょうか?
    まあプランに書いておけば確実ですよね。
    改めてみなさんよろしくお願いします。

  • [10]俊・ブルックス

    2015/01/18-21:22 

    初めましての奴はいないな。
    俊・ブルックスだ、今回もよろしく頼む。
    さて、くじは…っと。

    【ダイスA(6面):4】【ダイスB(6面):5】

  • アールグレイとホワイトチョコのドーナツ率が凄いな。
    良いアールグレイの茶葉が思わず手に入っちゃって
    マチルダさん喜びのあまり沢山作っちゃった・・・のかも。
    美味しさ3割増しかもしれないぞ。

  • [8]初瀬=秀

    2015/01/18-17:14 

    イグニス:
    わーアールグレイとホワイトチョコです!これで3つ目って実はすごいですね!

    ええと、ミッション「2人から見て右側の人が左側の人の頭を撫でる」……?
    右?左?
    (これはいわゆる大人の掛け算的な右左でいいのでしょうか?)

  • [7]初瀬=秀

    2015/01/18-17:08 

    初瀬とイグニスだ、無事にスイーツフェスタが開かれたみたいなんでな。
    さて、くじの方はどうなるやら。
    今のところそんなに難易度高そうなのは出てないから流れに乗りたいところだが……


    【ダイスA(6面):2】【ダイスB(6面):2】

  • ラキア:
    ドーナツの味は『抹茶と苺チョコ』だね。
    ミッションは『手を繋ぐ』。
    派手系ミッションじゃなくて良かった(笑顔)。

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    美味しそうなドーナツに見事釣られてやって来たぜ。
    おまけのくじミッション、素敵ミッションが出る事を祈る!
    (くじのせいにすれば何をしても許され うわなにをする)


    【ダイスA(6面):3】【ダイスB(6面):1】

  • [4]柳 大樹

    2015/01/18-14:47 

    えーと。
    味の方が、アールグレイとホワイトチョコで。
    ミッションが、手をつなぐ。

    随分簡単なミッション。(ちょっとつまらない
    他の皆はどんなのになるのかなー。

  • [3]柳 大樹

    2015/01/18-14:45 

    柳大樹、甘いものに釣られて参加ー。
    よろしく。(右手をひらひらと振る

    さって、双子のドーナッツの味とミッションは何かなあ。(わくわく

    【ダイスA(6面):2】【ダイスB(6面):1】

  • ふむ…我達はこうなったか。
    ドーナツの味:2.アールグレイとホワイトチョコ
    ミッション:3.一方がもう一方を姫抱っこ

    美味しそうなドーナツを引いたようだ。
    指令は我にとっては楽なものが当たったが…はてさてどうするかね。
    あとは汝らがどのドーナツを選ぶのか暫し見物させて頂くのだよ。

  • アレクサンドル:

    こんにちは。我はアレクサンドル。
    アーノと共に限定スイーツを食べにきたのだよ。
    ドーナツはこちらから選べばいいのかね(適当に袋を取り
    …ほう。指令をこなせば無料にと。ではくじも引いてしまおうか。

    【ダイスA(6面):2】【ダイスB(6面):3】


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