プロローグ
「新年あけましておめでとうございます! さすがウィンクルムの方は、年明けも一緒なんですね。え、もしかして年越しも一緒なんですか?」
元旦早朝のタブロス市内である。
初詣へと向かう途中、偶然顔見知りのA.R.O.A.職員に会い、ウィンクルムは足を止めた。
「一緒じゃ悪いですか?」
「いえいえ、愛を育むのは良いことです。そういえば、お二人さん。この先に福袋を売ってる店があるの知ってます?」
「福袋なら、さっきも見ましたよ。今の時期、どこでも売っているでしょう?」
精霊が言うと、A.R.O.A.職員はぶるぶると首を振った。
「この先のはちょっと毛色が違いますよ。その名も【強制お着替え福袋】です。僕の友達が去年カップルで買ったそうなんですけど、素敵なお揃いの衣装が入っていて、大興奮だって言ってましたよ。新年早々、お揃い! 良いじゃないですか。ぜひ行ってみては?」
ウィンクルムはそこでA.R.O.A.職員と別れた。どうせ神社までの通り道であるし、寄ってみてもいいだろう。
しかし話とは違い、その店には人は集まっていなかった。ただ【強制お着替え福袋あります】というポスターだけが、ひらひらと揺れている。
「なんだ、人気ないみたいじゃないか」
「そうですね……って、わあああっ!」
精霊は叫んだ。それも当然、目の前に水の入ったバケツが飛んできたからである。
避ける間なんてない。精霊と隣にいた神人も、頭からぐっしゃぐしゃ。水も滴る……というやつである。
「あああ、すみません、お客さん! なに、今ね、大掃除をしててっ!」
「……ちょっとあなた、やめてくださいよ。年明け早々大掃除なんて理由、みっともない!素直に、宴会で酔って正体なくして、怒った妻に水かけられそうになって、逃げたところにあなた達がいました、って言いなさいよ」
「……それも、どうかと思いますよ?」
精霊は苦笑した。となりで神人は、深くため息をつく。
「そんな理由はどうでもいいが、拭くものを貸してもらえるか。このままではこいつが風邪をひいてしまう」
「拭くものなんて……そうだ、その福袋! 差し上げますから、着替えて言ってください。お正月気分も楽しめますし、ね?」
そんなわけで着替える福袋には、三種類のコースがあった。
1、正装コース
2、おちゃらけコース
3、ちょいエロコース
である。
「衣装は一式、それこそぜーんぶ入ってますから。ご安心くださいね」
「って、えええ、これ着るんですか?」
「おい、大事なものが入っていないぞ! ……だから、大興奮なのか?」
そんなこんなで着替えは終わり、いやさすがにこれはないだろう、初詣は無理だろうと、とりあえず帰路につこうとしたときである。
「きゃあああっ!」
背後からの悲鳴に振り返れば、そこには逃げ惑う人達がいた。
「なんだ、どうしたんだ?」
「なんか、あっちの、神社の前の道に、金色のモンスターが?」
「モンスター?」
この際、恰好など構っていられると気ではない。
ウィンクルムは急いでその場に向かった。するとそこには確かに、金色のものがいた。とはいっても、なんだろうこれは、見たことがないぞ、という感じではある。身長は2メートル半ほど、筋骨隆々の大男なのだ。
「オーガか……?」
「にしては、ずいぶんさわやかな笑顔ですね」
その声を聞きつけたのか、金色のオーガはウィンクルムに微笑みかける。
「やあ、君たち! うん、なかなかいい体をしているね。どうだい。俺と勝負をしないかい? なあに、戦闘なんて血なまぐさい事はしないさ。やはりね、筋肉を持つ者が興じるのは、スポーツだよ。ルールにのっとって行われる勝負こそ、美しいのだからね」
「それなら神社の周りをリレーはどう? ほら、駅伝とかやるところもあるらしいし!」
なぜかついてきた、福袋店の店主が声を上げた。
解説
福袋で着替えた衣装で、スポーツを愛するオーガ「ヤグ・ゴールド・アス」と勝負をしてください。
勝負内容はリレーですが、ひとりずつ走ると人数が多いので、ウィンクルムセットで走ってもらいます。おぶったり手を引っ張ったりしてもOK、とりあえずコースをクリアして次の人にバトンを渡せばいいです。
ヤグ・ゴールド・アスは全部一人で走ります。自信満々です。
コースはごく普通の道です。ウィンクルムにつき、500メートル。しかしその間で一度は(瀬田が)転ばせます。なぜかというと、衣裳がめくれて欲しいからです!
福袋は自由にお選びいただけます。
中身は以下の通りです。
●正装コース
その名の通り、正装です。紋付き袴、もしくは振袖。その他、下着や小物等、一般的に着るものは入っています。足元は当然タビに草履です。
記載がなければ紋付を着せますので、振袖がいい人は記載願います。
●おちゃらけコース
羊年にちなんで、羊の着ぐるみ風衣装が入っています。真っ白でもっこもこ、上は長袖、下はハーフパンツ。足元は、羊の足風(イメージ)に、先が二つに割れたブーツです。ちなみ上着の丈は短く、手を挙げるとお腹が見えます。こちらはふたりお揃いです。
●ちょいエロコース
こちらは正装ではない和服です。ごく一般的な人が和装、と聞いて想像するあれです。足元はタビに草履。しかし下着は入っておりません。いいですか、下着は入っていません。見えないところですが、隠さないのでちょいエロです。
こちらも女性用もありますので、女装がいい方は記載してください。
ゲームマスターより
全力でコメディです。
ゴールドさんは、筋肉はすごいですが、走るのはそんなに早くないです。
あ、走る順番は、相談して決めてくださいね。
ルール違反をすると、ゴールドさんは怒りますよ。
みんなが正装コースを選ぶと、さみしいです……。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
高原 晃司(アイン=ストレイフ)
まさかオーガにこんな奴がいるとはな… とは言っても勝負は勝負だ 負けないぜ! っつか寒い!早く着替えさせてくれー! 福袋はちょいエロコースで 別に下着が入ってねぇだけだろ? むしろあんだけきっちりガードされてるんだから安全だろうしな 俺がアンカーっぽいんで本気を出していくぜ 特技のスポーツを使って爆走してやるよ! 「日頃鍛えてるんだからこんな所で負けられねぇんだよ!」 恐らく転ぶ時はめっさド派手に転びそうで嫌な予感がするなー さ、流石にそれでも捲れる事はねぇ…筈だ! アインがあんまりにも速度遅かったら手を引っ張ってやるかなー 「ほら、アイン!もっと早く走らねぇと勝てねぇだろ!」 必ずゴールテープは俺が切ってやる! |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
◆第三走者(おちゃらけコース羊めえ ランスにもふられたら一寸恥ずかしい お前だって羊だろうに(ぺし ◆オーガと勝負? そりゃ…殺し合いじゃない方が良いよ けどオーガ的にはそういう関係で良いのか? そうなら共存する余地もあったりするわけ? そもそもオーガは何故人間を襲うんだ? 他のものでも生命は維持できるんじゃないのか? そうだな。俺達が勝ったらさっきの質問答えてくれ それとも何か?勝つ自信が無い?か?(ふふふ とか挑発し、情報提供を約束させたい ちなみにトランスもしていいならするぞ 兎に角、全力で走るぞ! …って、ちょ、ランス(わああ 転んでも即起きる! ★他PCも積極的に応援 ★レース後、話を聞く(できるだけ穏便にいきたいぞ |
アイオライト・セプテンバー(白露)
ぱんつぱんつーっ(爽やかな新年の挨拶 ここは、3のちょいエロでっ きゃーだいたーんおっとなー(≧∀≦) あ、これ下着がない…ぱんつがない(; ;)←本人にとっては重要 まあ、いっか あたしのお着替えは女の子のね あたし、おんなのこだしー(得意満面 山吹色のがいいなーねー似合う-? あたし今年もかわいい? あたし達は第2走者になるんだよね パパーお姫様抱っこしてー だって、転んじゃったら見えちゃうんだよっ あたしはパパのちょっと見たいけど(何を あたしのは誰にも見られたくないもんっ女の子だもんっ だから、パパはあたしのてーそー守ってね☆ ゴールドさんのは見えるの?(何を 初詣には無事に行けるかな 今年1年ぱんつに恵まれますように |
明智珠樹(千亞)
★ 福袋は…ちょいエロ…お嫌ですか、千亞さん。 ではおちゃらけ…おやおや、ワガママさんですね。 では【正装】を。 紋付袴、久々です。 おや。 (振り袖姿の千亞) 千亞さん女性と思われましたかね、ふふ。 お似合いです、美しいです…! …マッスルなオーガさんですね。リレー、了解しました。 【第四走者】 振り袖よりはまだ動きやすいですね。 (千亞の手を取り、ペースを合わせ走る。 転んだり不利な状況になったら「失礼します」と 千亞をお姫様抱っこ) 「大事な姫を護るのは私の役目です、ふふ」 丁寧に、しかし懸命に走り 「高原さん、アインさん、お願いします!」 バトンタッチ。 無事に勝てたら 「また振り袖着てほしいです。次はノーパンでぜひ」 |
スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
>福袋→正装コース 振袖着るよ! 花の模様が細かく入っててカッコいいよね 袖に武器とか仕込めそうだし …これ女の子の服なの?へぇー!(動じない ミストも着物似合ってるよー テレビで見た田舎のナントカ式みたい! >リレー なんだか親近感の湧くモンスターだな! スポーツマン精神に則り、正々堂々勝負なんだよ 走順は一番手。いいとこ見せてミストに褒めてもらうぞー …って振袖もたつくぅミスト待ってー! バトンを渡したら近道してゴールへ 途中でなにか紐っぽいものを調達できないかな? なければミストから着物の腰ひもを暴力に訴えてでも借りるよ ミスト、紐の端っこ持って。即席のゴールテープだよ 駆けっこのラストにはこれがなくちゃね! |
●スタート!
「さあ、対戦といこうか!」
ヤグ・ゴールド・アス……文字数の都合上、略してゴールドさんは、白い歯を見せて爽やかに微笑んだ。
スコット・アラガキはひらりと長い袖を振り、高く手を挙げる。
「なんか親近感の涌くモンスターだな! スポーツマン精神に則り、正々堂々勝負するよ!」
「それは素晴らしい決意表明だ」
ゴールドさんは、はっはと高く笑った。その間、ミステリア=ミストはスコットの服装が気になって仕方がない。なにせ長い袖の模様は細かな花柄、なのだ。
「スコット、それ女物……」
「え? これ女の子の服なの? へえー。袖に武器とか仕込めそうでいいって思ったのに。最近の女の子って強いんだね」
「たぶん普通の女子はそんなことはしないから。まあ納得ずくで着てるならいーんだけどさ……」
言いながら、よくスコットのサイズが合ったなと思う。なにせ身長190センチの、筋肉質な男である。
「……ガキの頃なら似あっただろうなあ……」
その言葉尻だけが聞こえたようだ。スコットは「ミストも似あってるよ! それモンツキって言うんでしょ」と、ゴールドさんに負けず、爽やかな笑顔を向けてくる。
「テレビで見た、田舎のなんとか式みたい!」
「ははは、賑やかなのもいいが、そろそろはじめないか?」
そこで、焦れたらしいゴールドさんが渡してきたのは、バナナである。
「君たちが急にリレーなんて言うから、バトンが見つからなくてね。俺の秘蔵のバナナだ。いいぞ、バナナは。栄養もあるし、腹持ちもいい」
なんだコイツ、見た目も頭もおめでたい。本当にオーガなのか。たんなる肉体自慢のスポーツマニアじゃないのか。
袂に入れた携帯を、手で押さえるミスト。オーガだオーガだと言い聞かせないと、単なる変態と判断して通報しそうだ。
「ほら、早くしたまえ、君たち」
ゴールドさんは事前にスタートラインと決めた場所に立ち、屈伸運動を始めている。
「俺も全力で行くぜ」
ミストは羽織と草履を脱ぎすてた。裾をふくらはぎまでたくしあげ、邪魔にならないようにと、縛って止めてしまう。
「俺もいいとこ見せて、ミストに褒めてもらうぞー」
スコットは衣装はそのまま、ゴールドさんの隣に立つ。準備ができたところで、福袋屋の店主が一言。
「スタート!」
ミストは走った。全力で走った。布の薄い足袋で、地面を踏んで一生懸命。バナナを握りしめたスコットが「待ってええ」と後ろから叫ぶ。
「振袖もたつくぅ、ミスト待ってー!」
「ああもう、待てるわけないだろ!」
「はっはっは、美しきコンビ愛! 先に進むぞ!」
「ほら、抜かれたっ!」
ミストはスコットの手を引いてまたも走り始めたが、なにせスコットは慣れない振袖、かつ草履。
「うわっ」
つまずき草履が脱げて、思いっきりバランスを崩す。当然手をつないだままのミストを巻きこんで。
「ちょ、まじかよっ!」
背後に腕をひかれ、ミストは背中から地面へ落ちる。対してスコットは、前のめり。あわや激突! と思いきや。
「危なかった……!」
スコットは、ぐいっと無理やり足を開き、ぎりぎり転ぶのを耐えた。しかし振袖の裾は大きく乱れ、しっかり男の足のふくらはぎがのぞく。
「気にするなミスト! 下にぱんつはいてるんだ、見えたってどうってことはない!」
「そうだよね、かえって走りやすくなったよね!」
はっはと笑いながら走るゴールドさんを、ダッシュでひたすら追いかける。
「くっそ、追いつけねえ……」
「ごめんね、二番手の人、お願い!」
ぱっしーん。バナナがアイオライト・セプテンバーの手に渡る。
●2番手!
スコットとミストとゴールドさんを待つ間、アイオライトはひらひらとそのあたりを舞踊っていた。山吹色の振袖は、とてもよく似合っている、が。
「ぱんつーぱんつー」
「なんで履いてないものを連呼してるんですか」
「きゃー、履いてないなんて、だいたーん、おっとなー!」
「着るときは、下着がないって大騒ぎをしていたのに。『ま、いっか』で片付けてましたけど」
「ふふ、ねーパパ、あたし今年もかわいい?」
「アイはいつもかわいいですよ。ええ、ぱんつぱんつ叫んでいてもです」
ため息交じりの白露の言葉に、アイオライトは満面の笑みだ。
「パパ、だーいすき!」
がっしと抱き付かれ、白露はその小さな体を抱きとめつつも、ため息が止まらない。
まったく新年あけまして胃が痛いです。今年もよろしく頭が痛いです。おまけに。
「私の帯を引っ張るのはやめてもらえませんか」
「あたし知ってるよ。着物って帯をくるくるして、よいではないかよいではないかあーれーってするの」
「……アイ、お昼のドラマは、今度から時代劇も禁止します」
そんなところに、届いたバナナである。
「パパ、バナナだよ、バナナ!」
「それはバトンですよ、行きますよ! ほら、あの変な人が先に行っちゃいます!」
「ははは、変な人とは俺のことかな?」
ゴールドさんは爽やかに、右手にバナナを持って走り抜けていった。それなのに、アイオライトは白露を見上げ、両手を大きく開く。
「パパ、お姫様抱っこしてー。だってね、あたし、転んじゃったら見えちゃうんだよ!」
その言葉に、白露はふむと考える。
特に力があるわけじゃなし、ずっと支えきれはしないだろうが。
「……これでお年玉代わりになるかと思えば、安上がりかもしれませんね」
「パパ、はーやーく!」
「はいはい、わかりました」
白露はアイオライトの膝裏と背中に手を添えると、えいやっと小さな体を持ち上げた。アオイライトの腕が首に回り、ぎゅっと抱き付かれる。
「わ、高い! よし、パパ、行っけええ」
白露は走った。とりあえず可能な限り全力で走った。
「きゃあああ」
アイオライトが歓声を上げる。
「パパはやーい! ね、落とさないでね。あたしの誰にも見られたくないんだから! あたしのてーそー守ってね」
「貞操って……」
その単語に、白露の腕から力が抜ける。同時に膝も崩れそうになって、おっとまずいと、気合と脚力で復活。
「パパが転んだら、パパのも見えちゃうんだよ! ……あたしはちょっと見たいけど」
「は? 何を言ってるんですか!」
大騒ぎでバタバタ走り、なんとかゴールドさんに近づいた。
「あれ、あの人、疲れてない?」
「みたいですね。明らかにスピードが落ちてます」
「は、はは、そんなことはない、ぞ」
「力配分、間違えたんですね」
しかし、そう呟く白露の腕も、震え始めている。ゴールまではあと200メートルほど。半分以上は抱っこしたから許してほしい。
「アイ、そろそろ下りてくれませんか」
「ええ~?」
非難の声を上げながらも、渋々頷くアイオライト。ではと立ち止まって下におろそうとしたところで。
「あっ!」
大した滑り止めもない草履の底が地面で滑り、アイオライトの体ががくりと揺れる。
白露はとっさに腕を伸ばしたが、アイオライトはそれより早く、白露の帯を掴んだ。
「ちょっ、アイ?」
ほどけこそしないが、ずるりとずれる小さな布。その下は腰ひも一本、さらにその下は……履いていない。
「待ちなさいアイ手を離しなさい! 大丈夫転びません! 支えますから、見えないです、見えないですよアイの中身!」
「パパ~、ありがとーう」
はたして。
三番手ペアは、乱れに乱れた格好の白露と、きっちり振袖を着こんだままのアイオライトを見ることになる。
●3番手!
頑張れと叫んで応援をしていたアキ・セイジは、転びかけた白露の乱れた服装に、思い切り顔をしかめた。
「大丈夫か、あの二人……。金色のオーガはもうすぐここまでくるというのに」
「よ、呼んだかな?」
ゴールドさんは、腹を押さえながら走っている。よく見れば、手に持つバナナは半分ほどのサイズ。
「体力を戻そうとバナナを食べたら、横っ腹が痛い……」
「それは、ご苦労だな」
セイジは真顔でそう返したが、その間に。
「うわっ、なんだ!」
「はは、セイジもっこもこ! ほらほら、羊の語尾は『めえ』だぞ」
「断固拒否する! まったく、お前がこの格好がいいと言うから!」
まっ白羊のもこふわ衣装。丈の短い上着の下の生肌に、手を差し入れようとしたランスの頭をぺしりと叩く。
「あの変なのは、もう先に進んでいるんだぞ」
「だって2番手がまだ来ないんだから、焦ったってしょうがないだろ。ほら、頑張れよ~」
そこに、前身ごろを押さえた白露と、蝶のように華やかなアイオライトが到着。
「お願い!」
「よっし、行くぜ……って、バナナ!」
ランスは叫び、それでもしかとバナナを握る。
「俺は羊の皮をかぶった狼だぜ! 俺の走り、とくと見よ!」
「……って、ちょ、ランス!」
右手にバナナ、左手にセイジの手を握り、ランスは走った。得意のスポーツ、全力を出せばあの金色に追いつくことは簡単だ。あれは今、横っ腹を押さえて足を引きずり始めている。
でも、とランスは後ろを見た。もっふもふ羊のセイジはかわいい。ハーフパンツと羊足ブーツの間の生足がいい。……じゃなくて。
セイジは人間にしては走るの速いけど、俺よりは遅いからな。
全力疾走するセイジ。その呼吸を聞きながら、ランスはスピードを調節する。と、前方でゴールドさんが止まった。
「だめだ、体力配分を間違えた……」
「よっし楽勝だぜ! これなら後半姫抱っこで行くか、セイジ?」
「そんなことしたら、遅くなるだろう。それより……」
よたよた走る金色の前で、セイジは唐突に足を止めた。
「ヤグ・ゴールド・アス、お前に聞きたいことがある」
「俺に? 後にしたらどうだ」
「そのまま逃げられても困るからな。……俺は、オーガとは、命を賭して戦う相手だと思っていた。しかしお前は違う。お前は特殊なのか? そもそもオーガはなぜ、人間を襲うんだ」
「そう、矢継ぎ早に聞かれても困る」
ゴールドさんは、はあっと深い息を吐いた。
「それに、勝負はまだ終わっていないぞ」
セイジが、くっと唇を上げる。
「そうだな。俺たちが勝ったら、さっきの質問に答えてくれ」
「いやだ、と言ったら?」
「なんだ、勝つ自信がないのか?」
ゴールドさんは横っ腹から手を離すと、残っていた半分のバナナを一気に口に入れた。
「は、おまへらがかふ? しょうひへんばんだな」(は、お前らが勝つ? 笑止千万だな)
ごくりとバナナを飲み込み、不敵な笑み。
「いいだろう、お前らが勝ったら、先程の問いに答えてやる」
ゴールドさんがすっと背筋を伸ばし、大きな足で地面を蹴る。
「ははは、後は気合いで乗り切るさ! 羊ごときに負けはしない!」
「なんだと!」
ランスはセイジの手を握り、いっきに走り出す。しかしそれは、セイジのために調節したスピードではなかった。
「ま、待てランス!」
ずりずりと引きずられるセイジの、羊足ブーツの先が地面をえぐり。
「うわあああ!」
二匹の羊は地面に転がり、泥まみれ。茶色羊になってしまう。
「ごめんセイジ! 大丈夫か?」
「平気だ……って、抱き上げるな! 遅くなるって言っただろ!」
「大丈夫、ほら!」
ランスが示す先には、あっという間に力尽きた感のあるよたよたゴールドさん。
「だからこれで行くぜ!」
「やめろ、下ろせランス!」
結局二人は、姫抱っこで4番手の元へとたどり着いたのである。
●4番手!
「ふふ、ふふふ……」
「ど、どうしたの珠樹……」
「千亞さん、お似合いです、美しいです……!」
「なにその揉むみたいな手付き! やめてっ」
四番手、明智珠樹と千亞は大騒ぎ。そもそも千亞は、どうして自分が振袖を着ているのかわからない。珠樹が選んだちょいエロ和装も、もふもふ羊も断ったというのに。
「千亞さん、女性と思われましたかね、ふふ……ふふふ。黒地に赤白、黄色帯ですか。華やかですね。ああ本当に美しい。食べてしまいたいです」
「何度も褒めないでよ、馬鹿!」
女装を褒められるとか恥ずかしすぎる。それでも下着があるだけましだったか。一部は「ぱんつがない!」とか叫んでいたし。
思ったそのままを呟けば、珠樹が怪訝な顔をする。
「え? 下着つけないのが普通じゃないんですか? 私履いてませんよ?」
「って、はぁ!? あぁもう、ド変態!」
珠樹の頬に、千亞のぐーぱんちが炸裂する。
さて、そこにやって来たマッスルオーガ、ゴールドさん。
ぜえぜえと荒い呼吸で必死の形相。喋る元気もなさそうだ。
「やめろ、ランス下ろせ!」
「大丈夫もう着くから! ほい、頼むな四番手!」
同時にセイジとランスも到着して、千亞はバナナを受け取った。
「バナナ!」
「……そこの、兎のお嬢さんよ。そのバナナを分けてくれないか……俺の体力が」
ゴールドさんが手を伸ばしてきたものだから、千亞は思わずバナナを渡しそうになった。が。
「ダメですよ千亞さん! そいつは行き倒れのヤグ・ゴールド・アスではありません。敵です!」
「ああそうだった」
千亞はバナナを握りしめ、コースにそって走り始める。
「ああ、もとは俺のバナナだったのに……」
ゴールドさんは千亞と珠樹の後ろを追いかけた。
しかし、だ。
「この格好……は、走り辛い」
「紋付の方が、振袖よりはまだ動きやすいですね」
珠樹は千亞に手を伸ばした。千亞はそれを振り払い、ぷいっとそっぽを向く
「大丈夫だよ、ひとりで走れるから!」
千亞がよそを見たのは一瞬だった。しかし偶然とは恐ろしいもので、ちょうどそのとき、彼の草履の足は、大きな石を踏みつけたのだ。
「千亞さんっ!」
珠樹は千亞の手をとった。振袖の足は開かない。珠樹が千亞を引き寄せる。珠樹の首に千亞は腕を回す。
「ち、千亞さん……!」
「か、勘違いしないでよね。僕は転びたくなかっただけで、お前みたいなド変態に抱き付くつもりなんてっ」
「定番のツン……ああ、もっと言ってくださいっ。私はもうあなたなしでは……っ」
珠樹は問答無用で千亞を抱き上げた。姫抱っこである。当然千亞は暴れるが、きつい帯と長い袖、しまった足元のせいで、その威力は普段よりは低い。
「大事な姫を護るのは、私の役目です、ふふ」
「ああもう、いい、頑張れ、珠樹!」
「ええ、頑張りますとも!」
珠樹は、走った。丁寧に走った。千亞を落とすなんて言語道断。しかもこんなチャンス、そうそうないに決まっている。そう考えるとゆっくり走りたいところだったが、それで勝負に負けても困るので、涙を飲んで加速する。
「高原さん、アインさん、お願いします!」
●アンカー!
「まさかオーガにこんな奴がいるとはな……とはいっても、勝負は勝負だ、負けないぜ!」
「なにか変なことに巻き込まれてしまいましたね。とにかく、スポーツ形式とは言っても、オーガとの戦いです。気を引き締めていきましょう」
がっしと腕を組み目を合わせて、高原 晃司とアイン=ストレイフは勝利を誓った。なにせアンカーだ。勝負がかかっている。
だがしかし、正直待っている間に体が冷える。理由はひとつ、正月気分で選んだ和装の下に、履くべきものを履いていないからだ。
「寒い! 早く着替えさせてくれー」
「ええ、とっとと走りたいですね……」
下半身が心許ない。あの小さな布は偉大だったのだと、その存在意義に恐れ入る。ひゅうと入り込む風に、膝をすり合わせて対抗しているところに、4番手が到着した。
「高原さん、アインさん、お願いします!」
「よっし、本気出して、爆走してやるぜ!」
バトンを受け取るべく、晃司は手を伸ばし。
「なんだ、バナナ! しかも潰れてる!」
みんなの握力のせいでひしゃげたバナナは、正直持ちにくい。でもこれがバトンだと、晃司はそれを軽く持つ。
「ってかバナナがなんだってんだ! 日頃鍛えてるんだから、こんなところで負けられねえんだよ!」
晃司は走った。潰れてべたつくバナナとともに、走った。アインはそれに追いつけない。それでも「待ってくれ」とは言わないアイン。とにかく自分達に、勝負がかかっているのだ。と、隣にやってくるゴールドさん。
「は、はあ、もう、だめだ、しんどい……」
――敵が弱気になっていますね。チャンスです。
アインは加速した。とりあえず出せる限りの力を振り絞った。晃司の足だけはひっぱるまいと、ただただ前方を見つめ――。
「うわああっ」
「こ、晃司!?」
なぜそこで転ぶのかわからない。一見何もないように見えたのだが。いや、それよりなによりそんなところで転ばれたら、中身が見えるじゃないですか!
「やべえええっ! くそ、なんでこんなところに犬がいるんだよ!」
晃司が叫ぶ。その言葉通り、足元には子犬がちょこちょこ歩いていた。どうやらそれを避けようとして、晃司が転んだことはわかる。わかったが。
「晃司、足! 閉じなさい! いつもの格好とは違うんですよ!」
起き上る途中、がっと左右に足を開いた晃司の姿に、アインは自らの精神力を、それはもう総動員した。深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。あの開いたところは見てはいけないのだと言い聞かせ、晃司の顔を見つめて手を伸ばす。
「晃司、大丈夫ですか? 走れますか?」
「ああ、悪い。くっそ、捲れることはないと思ったのに、つい癖で……!」
でしょうね、和装なんて、慣れてませんもんね。意識せず足開きますよね。
はああと深く息を吐き出したかったが、晃司にばれてもどうかと思い、小さく嘆息するだけにする。よく頑張った、この精神力は称賛に値する、と自画自賛。しかしまずい、この間にゴールドさんが追い付いてきている。
「って、いつまでも座り込んでちゃだめだよな。行くぞアイン!」
晃司はアインの手を引いて、再び走り始めた。前方に晃司。あえてその上半身だけに目を向けて、アインは懸命に足を動かす。
「ほら、アイン! もっと早くは知らねえと勝てねえだろ!」
「は、は、勝つのは、俺、だっ」
ゴールドさんの荒い呼吸が迫っている。
ゴールでは、スコットとミストがゴールテープというか、紐を持っていた。
「やっぱ、かけっこの最後はこれがなくちゃね。ねえミスト!」
「……俺の腰ひもだけどな」
「ほら、ゴールだ。ゴールテープは俺が切ってやるぜ!」
晃司が叫び、アンカー二人が加速する。
しかしゴールドさんも負けてはいない。
「うおおおお、負けるかあああ」
結果は――。
「やった、やったぜアイン! 俺たちの勝ちだ!」
「ええ、晃司、よくやりました!」
※
「さあ、質問に答えてもらおうか」
地面に座り込んだゴールドさんの前に、セイジとランスが立った。
後ろでは、千亞が珠樹を見上げている。
「珠樹……ありがと」
紋付姿の珠樹が結構イケてるって思うなんて、とんだ新年だよ。
そう思っている千亜の肩を、珠樹が掴む。
「また振袖着てほしいです。次はノーパンでぜひ!」
「ってもう着ない! 脱がない!」
その横で、ガラケーを取り出すミスト。スコットがその肩に手を置く。
「ミスト、通報はしなくていいから」
ヤグ・ゴールド・アスは、じっとセイジを見つめた。
「ひとつだけ答えよう。俺は特殊らしくてな、戦闘では燃えない。血がたぎるのはスポーツだ。他の奴ら? 知ったことか。ああ、勝ったらお前らを食えたのに」
言い捨て、金色のオーガが、バヒューン! と音を立てて消える。とめる間などなかった。
「特殊、か。やはり、オーガと共存する余地はないのか……?」
呟くセイジに、ランスは真剣なまなざしを向ける。
「それは……難しいと思う。でも、その理由を突きとめてからでも、結論を出すのは遅くないよな。可能性は追求しないと」
「共存は無理だと思っているのに、可能性を探すのか?」
セイジの言葉に、ランスが微笑む。
「だって、俺が闇落ちしたら、オーガになるかもなんだろ? セイジが言いたいのは、そういうことじゃないのか?」
セイジの顔色が変わる。――が、口調はいつものまま。
「お前はならないと、信じている」
「うん、俺はならない。大丈夫だよ」
ランスは、静かに微笑んだ。
背後で、何とも和やかな声がする。
「今年は、もう少し心穏やかに暮らしたいです。でも、アイの教育に悪いものが見えなくて良かったですよ」
「ねえパパ、初詣行く? あたし、今年1年ぱんつに恵まれますようにってお願いするね」
今年も、素敵な年になりますように。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 瀬田一稀 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | 日常 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 少し |
リリース日 | 12月30日 |
出発日 | 01月06日 00:00 |
予定納品日 | 01月16日 |
参加者
- 高原 晃司(アイン=ストレイフ)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- アイオライト・セプテンバー(白露)
- 明智珠樹(千亞)
- スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
会議室
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2015/01/05-23:47
スコットさん…!!
その時は、頼みました(真剣な眼差して頷く) -
2015/01/05-23:27
プランは提出済みだ。
俺はまっとうにマトモに走っている。
受けも狙わず実に面白みが無いと背後がブーブー言っているが、キャラブレするより良いと思うんだよ(苦笑 -
2015/01/05-23:01
『ちくしょう…このスタンプもっとカッコいい場面で使いたかったのに…』
「わぁいセイジだ! ひさしぶりー
晃司と珠樹もよろしくね! ふんどしふんどしいえーぃ
ぱんつは見えなくても みんなのこころのなかに!」
>千亞
『リレーでルールを破らない限りは戦闘にはならないと思うぜ
あと明智の変た… エキセントリックな挙動を見て
うっかり俺が通報するかもしれない。したらゴメンな』 -
2015/01/05-22:51
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2015/01/05-21:34
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2015/01/05-19:56
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2015/01/05-19:55
ふ、ふふ。
千亞さんの激しい抵抗にあい、結局私たちは無難に「正装」福袋になりそうです。
可愛い羊さんや妄想たぎるちょいエロコースな皆様をニヤニヤ眺めていたいところですが
ひとまず走りに集中したいと思います。
無事に勝つことが出来たら皆様のお姿、穴が開くほど見つめたいものです、ふふ…!
千亞:
ド変態!(蹴り)
何はともあれ、ギリギリまで調整はできる…かも。
何かあったらぜひ教えてね。頑張ろうねっ(ぐっ) -
2015/01/05-13:16
じゃあ、高原さん、アンカーおねがいしますっ
そしてあたしは、ちょいエロコースにぱんつがないことに気付いて(´;ω;`) -
2015/01/04-00:18
うっす!最後の参加枠はもらった!
晃司だぜ!よろしくな!
俺も挨拶順で全然構わないぜー -
2015/01/03-23:56
千亞:
僕は明智珠樹の精霊、千亞だよ。
改めて、皆さんよろしくお願いします(ぺこり)
無事に五組目の走者さん、高原さん達もいらしてくださったね。よかったよー。
挨拶準で異論なければ、僕らは四組目で構わないよ。
……無事にリレーで勝てば、特にトランスして戦う…とか、そういう流れにはならない、という
認識でいいの…かな? -
2015/01/03-11:50
うん、俺も挨拶順で構わない。
もしそうだとすると
「スコットさん⇒アイオライトさん⇒セイジ⇒明智さん⇒五人目さん」
かな。
トータル距離が長くなればオーガも少しは疲れてくれると思うから、参加五人目さん大募集だ。
…ってわけで、誰かカモン!(笑 -
2015/01/03-10:59
ぱんつぱんつーっ(爽やかな新年の挨拶)
スコットさんまたよろしく♪
アキさんも明智さんも、こんちはーっ★
じゃ、挨拶順に走っとく?
あたし、ちょいエロコースにしようかな。
きゃー(>▽<) -
2015/01/03-00:13
お邪魔いたします、明智珠樹です。皆様よろしくお願いいたします。
皆様がどのようなお召し物を選ぶのか興味津々です、ふふ。
おちゃらけ羊もちょいエロも捨てがたい……!
そして走る順番は今のところ希望はありません。
ご要望あれば何卒お申し付けください、ふ、ふふ…!
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2015/01/03-00:07
アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。
走る順番にこだわりは無い。
ランスがヤルキ満々なので「羊にする」つもりだ。
ランス「羊の皮を被った狼だぜ!」←狼のテイルス -
2015/01/02-23:20
アイオライトやっほー! ぱんつぱんついえーぃ
走る順番ねー… とりあえずあいさつ順にしとく?
俺はちょっとやりたいことがあるから
アンカー以外だとうれしいなー
ゼッケンゆずるのはオッケーだよー -
2015/01/02-02:14
転ぶ→めくれる→ぱんつ やった-!
というわけで、アイオライト・セプテンバーです。
よろしくおねがいします。
走る順番どうしよ?
あたしはなんでもいいよ-。 -
2015/01/02-00:57
『おかしいな…、俺たち初詣に来ただけなのに……
なんでこんなことになってんの…』
「金の筋肉が俺を呼んでいる!
スコットとミストだよー、よろしくねー」
『こんなのぜったいおかしいよ……』