わんこマスター現る!(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「なにあんたたち? 今どきスキー? え、スケボー? ちっがうでしょ。冬、そして雪とくれば、犬ぞり!」

 俺が言うと、周りの奴らはみんな「ええ?」って顔をする。ほら、今も見てみろよ。あそこの男。信じられないって首振ってんだろ。あんな派手なウェア着て、なんだよ、隣の女は彼女か?
 でもな、犬は女よりよっぽどイイんだぜ。
 ひとつ、愛情を注いだらそれだけ返してくれる。従順で誠実な動物だからな、わがままな女とはわけが違うぜ。
 ふたつ、素直だ。わかりやすい。
 ツンデレとかそういうのないからな。おやつほしいか? って聞けばわんっていうし。
「べ、べつに私はいらないけど、あんたがくれるっていうなら、もらってあげる」とか言わねえし。シンプルなのはいいことだ。
 で、三つめ。これが一番大事だな。それは。

「私と仕事、どっちが大事? とか言わねえんだよぉ!」

 俺が叫ぶと、周囲の人間はいっせいに、かわいそうなものを見る目をした。
 やめろ、そんな目で俺を見るんじゃねえ!
 俺は決してツンデレ女に「仕事と私とどっちが大事?」って聞かれて、答えられなくて別れたわけじゃない!
 スキー場で平手をくらって、一緒に乗ってきた車を持ち出されて、ひとりぽつねんと残されたわけじゃないんだ!
 そのとき慰めてくれたのが、スキー場で飼われていたハスキー犬だけだったなんて、そんな、そんな……。

 やべえ、思い出したら涙出てきた。
 いや、俺は今は、わんこマスターだ。犬ぞりにのせたら向かうところ敵なしだぜ。な! 犬たちよ。

「っておい、なんで一斉にそっぽ向くんだよ! さっき飯やっただろおっ!」

 ……ともかく、だ。
 男なら犬ぞり! 一生に一度は犬ぞり!
 ってっことで、体験講座だ。
 犬ぞりは2人乗りだ。ウィンクルムのうちどっちかが運転してくれよ。
 なあに、犬と意思の疎通ができていれば、案外簡単に言うことは聞いてくれる。安心しろ。それにコースも初心者用だからな。
 いいぜ、まっしろな雪山を走るのは……。
 あ、でもな、うっかり転んじまうこともあるからな。万が一雪の上転がってもいいように、防寒対策だけはばっちり頼むぜ。
 家でしっとり愛を語らうだけがクリスマスじゃねえんだよ。
 俺は何度も言うぜ。男は犬ぞり!

「クリスマスなんてくそくらえ! 犬だけが俺の友達だっ!」

解説

雪山といえばトナカイ、ばかりではありません。
犬ぞり体験をしませんか?
参加料は、各ウィンクルム300jrです。

雪山を上手に走るのもよし、転んで雪まみれになるもよし、犬に逃げられるもよし(その場合は捕獲お願いします)
お好きに楽しんでください。
道というか雪原は広く見渡せますので、何かが襲ってきたり雪崩がおこったり、池にハマったりする危険はありません。

なお、基本的にみんなでわいわい楽しむ話になりますので、わんこマスターが絡んできます。この通りのテンションの男です。いろいろお察し&ご理解ください。


ゲームマスターより

みなさんがクリスマスを盛り上げようと頑張っているのに、こんな男もいるようです。
なお「クリスマスなんてくそくらえ!」と思っていないウィンクルムの皆さんの参加も大歓迎です。
愛の素晴らしさ……は見せつけても無駄だと思いますが……。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

木之下若葉(アクア・グレイ)

  わんこマスターさんも犬さん方も初めまして
今日は宜しくお願い致します、だよ

コートを着込んでソリの前にしゃがみ込む
この手綱を持ってこのソリに乗ればいいのかな
(もふもふしながら犬に聞いて)
んー……ん?空。真上に空。……ああ、上に乗られたんだね
元気なのは良い事、だよね(更にもふもふ)

さて。気を取り直して
道中は安全運転でゆっくり進むよ
アクア、ちゃんと俺に掴まっていてね

アクアも手綱握ってみる?
あ。背中に掴まるって何だか新鮮
撫でる時は大体正面から撫でちゃうし
ん。大丈夫。ちゃんと掴まっているよ
そう?俺、結構アクアに世話になってる気がするけれど
むしろ何時も有難う、だよ

おや。皆で料理?
ふふ、芯からホカホカだね



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  (本物の犬ぞりが間近に)こんな所でできるなんて思わなかった
あ、でも犬に触った事ない初めてで意思疎通できるかな。あの帽子もってないよね
(自己流?不安げにわんこMSに目をやり、実践かなえば安堵)
馴れてるんだ?…よろしく(そっと撫で

羨ましい
ん?!ちょっと(犬に舐められ慌て
驚いた…犬の愛情表現ってすごいね。わんこMSになった気持ちわかるかも

■カメラで撮影
(タイガも犬達も生き生きしてる…体験してよかった)
え、でもいいの?
それなら。転んでも文句言わないでよ(微笑

(大丈夫…習ったし操作も見たんだ。タイガもいるし)
楽しいと静かに感動

◆交流歓迎。白露を手伝いで配る。タイガは我慢しつつ【調理】も(すぐオカワリ)



アイオライト・セプテンバー(白露)
  ちゃんと防寒対策してきたよ
マフラーと帽子と手袋と、パパと色違いのお揃い♪
いいでしょーー(自慢

わんわんさんだーかっこいいー(嬉々
あ、わんこマスターさんじゃなくて、わんわんがかっこいいの
ね、鬼ごっこしていい?
あたしが鬼で犬さん追い掛けるの
でも、そんなことしたら、わんわん疲れちゃうか(なでなで

あたしがそりを運転するっ
大丈夫、これ見ながらやるから(初級マニュアル本「自動車」
じゃ行くよーえいっ
わっ。ちょっと待って。わんわん、そっちじゃないよーっ(激突
むー、もう1回チャレンジしようっと
(以下、延々と雪山激突くりかえし)←楽しい

犬ぞりって難しいねー
でも、楽しかった♪
パパ、お腹空いたーあったかいもの食べたいー



スコット・アラガキ(ミステリア=ミスト)
  精霊共々アドリブ交流歓迎

ゲレンデって初めて!
犬と一緒にはしゃいじゃうかも
ホーム(孤児院)の外ってあんまり出たことなかったからさー

ミスト!ヘイ!ミスト!
(そりに座るとここへ乗れとばかりに膝を叩く
運転してくれるの?ミストは紳士だなあ!

いやっほうぅぅぅ!トバすね御者さん!
他の犬ぞりとかちあったら一方的に勝負を挑むよ!
追い越せ追い抜けぇ!

ミストが楽しそうで嬉しいな!君の笑顔は俺の歓び…
…だいじょぶ?ゲーゲーする?(精霊の背を撫で

動いた後はご飯だね!豚汁つくるの手伝うよ
食事の前にはきちんとお祈りするよ

>わんこマスター
元気出して!俺歌うから!
ウィンクルムの歌聴くとご利益あるらしいよ
~♪(失恋ソング



「いいね! 犬ぞり! 家の犬にもできねえかな!」
 雪原の上、そりに繋がれた犬の前に、火山 タイガはしゃがみこんだ。
「こんなところで犬ぞりに乗れるなんて思わなかったよ」
 セラフィム・ロイスは立ったまま、相棒を見下ろす。
「あ……でも犬に触ったことない初めてで、意思疎通できるかな。あの帽子……持ってないよね?」
「動物と喋れるってやつ? 持ってないけど……大丈夫! 仲良くなりたいって気持ちでぶつかれば、何とかなる! まずは身をかがめてさ、嗅いできたらじっとしときゃいい。で、ワン公が舐めてきたら……」
 近付く犬たちに不安げなセラフィムに、タイガは満面の笑みを見せた。その小柄な体の後ろから、わんこマスターがぬっと姿を見せる。
「その通りだ、君はなかなかいいことを言う!」
「そうだろ? やっぱ人も犬も気持ちが大事……って、わあっ」
 並んでしゃがみこんだタイガとマスターの上に、犬が覆いかぶさる。しかしタイガは、落ちついたものだ。
「はは、なあセラ、怖くないだろ? ほら、来てみろよ。まあ俺も兄貴には負けるけどな。兄貴は初対面の大型犬と意気投合するし、噛まれまくっても懲りないし」
「そうなの? でもタイガだってすごいよ。犬、本当に馴れてるんだ……」
 セラフィムはそっと犬たちの傍にしゃがみこんだ。中でも小柄な一匹が、セラフィムの肩に両足を置き、ぺろりと唇を撫でる。
「わっ」
 セラフィムは慌てて身を引き、舐められた場所に手を当てた。
「驚いた……犬の愛情表現ってすごいね。わんこマスターの気持ち、ちょっとわかるかも」
「だろ? 犬は素晴らしいんだ! というのも……」
 興奮するわんこマスター。その横で、タイガは先ほどセラの唇を舐めた犬をぎゅっと抱きしめた。
「ははは、こーのー、可愛いなあ」
 言いながら、内心は穏やかではない。こいつ、なんだってセラの唇を……!
 わっしゃわっしゃと撫でている間に、わんこマスターの犬談議が始まる。それを聞きながら、タイガはセラフィムに目をやった。驚きは消せないようだが、セラフィムは穏やかに微笑んでいる。
 動物好きなんだよな、セラは。これだったら、犬ぞりも楽しめそうだ。

 そしてその、犬ぞり体験である。
 そりは、びゅんびゅんと風をきって進んでいった。
「ひゃっほー! すっげー、はえー!」
 犬を操縦しながら、タイガは叫んだ。吐き出す息は真っ白で、逆に吸い込む空気は冷たい。しかしそれすらも、楽しくなってくる。
 セラフィムは、そんなタイガを、後ろから眺めていた。
 タイガも犬も生き生きしてる……体験してよかった。
 ただ、せっかくカメラを持って来たのに、その表情をとれないのは残念だ。セラフィムが座る位置からでは、タイガの背中しか見えない。あとでたくさん撮ろうと、セラフィムはカメラを、ポンチョのポケットにしまった。ひらりと待った裾から、冷たい風が入り込み、体を震わせる。それが、一瞬タイガが振り返ったのと同時だった。
「セラ、寒い?」
 俺は運転してるからいいけど、そっか、ただ座っていると寒いのか。そりをとめ、手をぶんぶん振ってわんこマスターに声をかける。
「なあマスター! 運転交代してもいい?」
「もちろん! 順番に楽しんでくれよ!」
「じゃあ、セラ!」
 タイガは運転席から降りると、そこにセラフィムを促した。
「……いいの?」
「機会逃すのも勿体ないだろ?」
「それなら、転んでも文句言わないでよ」
 セラフィムは立ち上がり、さっきまでタイガがいた運転席に移動した。
 大丈夫、事前に運転習ったし、操作も見たし、タイガもいるし。
 恐る恐る、犬に指示を出す。それを犬たちは、実に忠実に守ってくれた。
「おお、セラ運転うまいじゃんっ」
 正面から受ける風にセラフィムは口を閉ざし、持ち手をぎゅっと握ったが、胸の内は、感動でいっぱいだった。

 ※

「わんこマスターさんも犬さん方も、初めまして。よろしくお願いします、だよ」
「マスターさん、犬さん、お世話になりますね」
 木之下若葉とアクア・グレイは、丁寧に挨拶をした。わんこマスターは満面の笑みで、右手に若葉、左手にアクアの肩を抱く。
「おお、そんな堅苦しくなるなよ!」
 だんだんと肩を叩かれて、若葉は咳き込み、アクアは苦笑した。その足元には、たくさんの犬が体を寄せてきている。
「よし、今からこいつらをそりにつなぐからな。挨拶はまた後で、ゆっくりしてやってくれ」
 マスターが犬を連れて、そりに向かう。
「ずいぶん、賑やかなマスターさんだね」
「ええ、犬さん方にも早く挨拶したいですね。もふもふして気持ちよさそうです」
「アクアももふもふだよ?」
 二人は談笑しながら、マスターの後を追った。

 そりの準備ができると、若葉は犬たちの前にしゃがみこんだ。
「えっと、この手綱を持って、このそりに乗ればいいのかな?」
 一番手前の犬の首筋を撫でながら、犬の聞いていた……はず、なのだが。
「んー……ん?」
 気付けば、空が見えていた。
 ……ああ、上に乗られたんだね、と納得し、胸の上で、わふわふと息を吐き出す犬に手を伸ばす。
「元気なのはいいこと、だよね」
 もふもふもふ。毛並みをかきまぜているところに、ひょこっとアクアが顔を出した。
「さっそく雪に埋まっていますが、大丈夫ですかワカバさん!? 先ほどまで犬さん方と、お話していた気がするのですが」
「なんか、気が付いたらこうなってたんだよね」
「押し倒される前に気付きましょうね?」
 アクアは若葉の上の犬を抱き上げて地面に下ろすと、若葉の手を引いて起き上らせた。あちこちについてしまった雪を払ったところで「よし!」と声を上げる。
「これでそりに乗れますね!」

「道中は、安全運転でゆっくり進むよ。アクア、ちゃんと俺に捕まっていてね」
「はい! 出発進行です!」
 手綱を握るのは若葉だ。アクアは若葉の背中を、後ろからぎゅっと抱きしめた。
「わあ、雪が舞ってきらきらですっ」
 思ったよりも早いスピードと、過ぎゆく景色に歓声を上げる。
「前だともっとよく見えるよ。アクアも運転してみる?」
「そうですね、場所を交代しましょう。ワカバさん、ちゃんと僕につかまっていてくださいね」
 若葉はうなずき、アクアの背中に手を回した。
「あ、背中につかまるって、なんだか新鮮だね。撫でるときは、大体正面から撫でちゃうし。まあ……後ろからでもいけるけど」
 若葉は額を、アクアの髪に押し付けた。ぐりぐりと顔を動かすと、くすぐったいです、とアクアが身をよじる。
「ふふ、こうやって捕まってもらえると、ワカバさんに頼られてる気がして嬉しいですね。いつも以上に張り切らないと! ワカバさんって、意外にひとりで何でもできますし」
「そう? 俺、結構アクアに世話になってる気がするけど。むしろ、いつもありがとう、だよ」
 話をしている間にも、そりはびゅんびゅんと進んでいく。
「くしゅっ!」
「わ、くしゃみですか、大丈夫ですか、ワカバさん」
「アクアの髪が風になびいて、くすぐったくて……アクア、犬さん方と同じ、もふもふ羊だからね」
「もう、羊じゃないですってば」
 アクアが苦笑交じりの声を上げると、犬がわおん、と吠えた。
「ほら、犬さんも違うって言ってくれてますよ!」

 ※

「ゲレンデって初めて!」
 スコット・アラガキは、真っ白に染まった景色を、ぐるりと見渡した。
「すごいね、広いね! 俺、ホームの外ってあまり出たことなかったからさ……。あ、犬がたくさんいる!」
 キラキラと目を輝かせるスコットを、ミステリア=ミストは微笑ましい気持ちで見つめた。
「あいつもなあ、広い世界を知るべきだよな。っていうか、犬ぞりかー」
 スコットについて歩き、さらには犬を撫でながら、ミストはひとつ、息を吐く。
「昔流行った映画で観たな。確か北の極を探検する話で、最後に……犬が……」
 思いだすうちに、目頭が熱くなってくる。目の前の犬は、つぶらな瞳でミストを見上げていた。くうん、と優しく鳴くので、ミストはふるりと頭を振る。
「びっくりさせてごめんな、ジョン」
 滑らかな頭に手を置くと、犬はわん、と小さく吠えた。しかし遠くから、ミストを呼ぶ声がする。わんこマスターだ。
「おーい、そいつはジョンじゃないぞ! ジョニーだ!」
「ジョはかすってるよ、すごいね」
 スコットは驚いた顔を見せると、ジョニーをひと撫でして、立ち上がった。そりの元へと歩き、その座席に腰を下ろす。
「ミスト! ヘイ! ミスト!」
 とんとんと膝を叩いてミストを呼び寄せる。
「わかった、行くって。運転は俺な!」
「え、してくれるんだ! ミストは紳士だなあ」
 紳士というか、スコットに手綱を渡すと怖いっていうか。そこは黙って、笑顔で手綱を握る。
「よし、行くぞジョニー!」

「いやっほうぅぅぅ! トバすね御者さん!」
「はしゃぎすぎると落ちるぞー、もー……」
 ミストは運転をしながら、後ろに座るスコットの様子に嘆息した。しかしその顔に浮かぶのは微笑。スコットが楽しんでくれることは、ミストによって喜びでもある。
 それならと、どんどんスピードを上げていく。しかしそれが、勝因……いや、敗因だったのかもしれない。
「うわ、これ結構スピード出……ヒッ!」
 ミストの顔は、青く染まった。しかしその恐怖ぎりぎりのスピードが、スリルで快感だ。
「ん、はッ、おおお怖、でも楽しっヒヒヒヒィ!」
 悲鳴なのか歓声なのか、わからない声をミストが上げる。しかしそれを後者だと、スコットは判断する。
「ミストが楽しそうで嬉しいな! 君の笑顔は俺の歓び……」
 背後から運転席の主の顔を覗き込み、スコットが微笑んだ、その直後。ミストは顔をゆがませた。焦った様子で犬を止め、深呼吸を、一、二、三回。
「よ、酔った……」
「……大丈夫? ゲーゲーする?」
「だ、大丈夫だ……」
 スコットに背中を撫ぜられ、苦しいながらも呟くミスト。ジョニーが、くうん、と心配そうな声を上げ、ミストは顔を上げた。
「ジョニー、ありがとよ。あ、俺今、わんこマスターの気持ちわかったかも……」
「ミスト、ミストはわんこマスターみたく、見捨てられないよ、俺がいるからね!」
「ありがとな、スコット。けど、その『見捨てられた』ってやつ、わんこマスターの前ではぜええったい! 言うなよ?」
「え、うん、わかったよ!」
 スコットはミストの背中をとんとんと叩いて、深くうなずいた。そこでまたも、ジョニーがわおん、と、同意するようなタイミングで吠え声を出す。
「……ジョニー……お前は良いやつだな、本当に。わんこマスターの支えになるんだぞ」
「ミスト、ジョニーと仲良くなったねえ」
 スコットの無邪気な笑顔にジョニーは微笑み、その頭をくしゃりと撫でた。

 ※

「あたし、ちゃんと防寒対策してきたよ。マフラーと、帽子と、手袋! パパとお揃いなの、いいでしょー!」
 アイオライト・セプテンバーは、そう言ってマフラーの裾を持つと、わんこマスターの眼前に持ち上げた。わんこマスターはアイオライトを見た後、後ろに立つ白露を見て、一言「似てねえ」と呟く。
「パパさんよ、お前も美形だが、美人な嫁さん持ったんだなあ。かっわいい子連れてまあ……親子でウィンクルムとは、ご苦労なことだ」
「……はは、まあ」
 血の繋がり云々、実は本当の親子では云々という話を持ち出すこともなかろうと、白露はあいまいに微笑む。
 まあ、アイもいますしね。余計なことは言いません。しかし、わんこマスターの方のノリが、某商店街の人々を彷彿とさせるような……。
 そんなことを考えていると、わんこマスターはアイオライトの頭をぐっしゃぐっしゃとそれこそ犬を撫でる勢いで撫でながら、ほうっとため息をついた。
「美人かあ……ハチもなあ……昔は美人に片恋をしてたんだが。ああ知らねえか。タブロスにあるすずらん商店街ってとこに、ハチって奴がいてさ。親友なんだよ。学生時代はよく一緒にバカしたもんだけどなあ」
 突然始まった思い出話に、白露とアイオライトは顔を見合わせた。同類、どうりで。しかしアイオライトの興味は、すぐに足元に集まる犬たちに向かっていく。わんこマスターも然りだ。
「わんわんさんだー! かっこいいー!」
「はは、そうだろう! 凛々しい顔してるだろ、こいつら」
「うん! あ、わんこマスターさんじゃなくて、わんわんがかっこいいんだよ。ね、パパ。犬さんと鬼ごっこしてもいい? あたしが鬼で、犬さん追いかけるの」
「この広い雪原をですか?」
 白露は周囲を見やった。一面の白である。ここを犬と駆けまわるなど、まあアイオライトはいいにしても、体力的に自分がどうだろう。同年齢と比べれば劣るとは思わないが、いかんせん三十路半ばである。
 アイオライトは白露にならって広い場所を見ていたが「そんなことしたら、わんわん疲れちゃうかあ」という結論に達したようで、犬たちをもっふもふと撫でるにとどめた。わんこマスターは、自身がかっこいいわけではないと言われても気にせずに、せっせと犬を、そりにつないでいる。(そんなことじゃ俺の心は折れねえぜ! わんこマスター談)

「あたしがそりを運転するっ!」
 アイオライトはそりの運転席に立ち、荷物の中から一冊の本を取り出した。その題名は≪初級運転マニュアル『自動車』≫である。
「アイ、自動車と犬ぞりは、勝手が違うと思うんですが……」
 白露は、当たり前のことと知りながら、あえて言った。しかしそれでも運転はアイオライトの任せるあたりが、さすが白露といったところか。
「まあ、私もそりは全然わかりませんし、アイの好きにさせてみますか」
 アイオライトは犬たちと白露に微笑みを向けた後、手綱を握る。
「大丈夫だよ。じゃあ行くよ、えいっ!」

 しかし、だ。
「わっ、ちょっと待って、わんわん、そっちじゃないよー! きゃああっ」
 悲鳴とともにそりが倒れ、アイオライトと白露は、雪の中に放りだざれた。
 まあね、なんとなく予想はしてました。
 白露は無言で体を起こし、まずはアイオライトについた雪を払ってやる。アイオライトはマニュアルを開き、むうっとふくれっ面をした。
「もう一回チャレンジしようっと!」
 だからアイ、その本は役に立ちませんて。
 言えない白露である。

 結局その後。雪山に突撃してそりを放り出されること数回。さらには犬たちとじゃれて遊びまくり、アイオライトはご機嫌だ。しかし見ていた白露は、寒さに震えることとなった。
「犬ぞりって難しいねー。でも楽しかった♪ パパ、お腹すいたーあったかいもの食べたーい」
「そうですね、豚汁でもすすりたい気分です」
 白露も同意する。近隣に食材を買ったり、調理をしたりできる場所があっただろうかと考えていたところ、アイオライトの叫びが聞こえたからか、周囲では「お腹すいた」コールが始まった。

「皆さん豚汁大会ですか? 素敵ですっ、僕もお手伝いします!」
「うん、アクアの料理は美味しいよね」

「俺も料理できるよ」
「ああ、ミストは器用だからな」

「俺はすっげー食いたい!」
「はは、タイガは良く食べるもんね」

 わんこマスターは彼らの言葉を聞きながら、犬たちを見やった。どの子も尻尾をふりふりと振っている。ご機嫌だ。こんなにも犬と仲良く触れあえる奴らは素晴らしい。わんこマスターのシンプルな思考は、そう判断する。
 ってことはだ。やることはひとつだろ。
 わんこマスターは高らかに声を上げた。
「じゃあ、俺の家を使えばいい。豚汁の材料も提供するぜ! その代わり、独り身の俺に美味い手作り豚汁、食わせてくれよなっ! なあに、犬たちも満足しているみたいだし、その礼さ!」
「きゃあ、わんこマスターさん、かっこいい!」
 アイオライトがバンザイの姿勢をとると、わんこマスターはいやいや、と首を振った。
「もっと褒めてくれてもいいんだぜ……!」
「……アイ、さっきかっこいいのはわんわんだと言ったばかりですよ」
 言う方も聞く方も、忘れているのか。平和な二人だと、白露はひっそりと笑った。


 ※

「動いた後のご飯か、いいね!」
 スコットは手を打ち、さっそくわんこマスター宅のキッチンに入った。それに続くのは、アクアと、アイオライトに指名された白露である。その間に、ミストはわんこマスターのもと、倉庫の奥から食器を持って来た。
「なんであんなとこにしまってあるんだよ」
「あ? ひとり暮らしに必要ないだろ……それに、これはな、別れた彼女の好み……いやいや、俺に別れた女なんていねえ!」
 リビングに着くなり叫んだわんこマスターに、若葉が視線を向ける。
「大変なんだね、マスターさんも」
「俺はセラがいてよかったぜ」
「え、どうして? タイガ」
「だって、わんこマスターみたく一人飯とかしなくていいじゃん!」
「一人飯とか言うなああ!」
 わんこマスターは頭を抱えてしゃがみこんだ。
「わんこマスターさん、落ち着いて!」
 アイオライトが、とんとんとその背中を叩く。
「いいじゃない、犬さんたちいっぱいいるから、寂しくないでしょ」
「寂しいとか言うなあああ」
「……本気で大変だな、あんたも」
 ミストは苦笑しながら、皿をテーブルの上に並べ始めた。

 しかしそんなわんこマスターの機嫌は、ほかほかと湯気を立てる豚汁を見るとすぐに浮上した。単純さゆえである。
「お袋の味、豚汁……!」
 いただきますの挨拶もそこそこに、汁をすすり。
「美味い!」
「食事の前にはきちんとお祈りをしないと」
 スコットは胸の前で手を合わせ、いつものように、食事への感謝をささげた。
「わんこさん達もお疲れさまでした」
 豚汁に夢中な飼い主に変わり、冷ました豚肉を犬たちに差し出す白露。もぞもぞと寄ってくる犬たちの愛らしさに、我慢ができなかったのか。アイオライトはその隣、床の上に座り、はふはふと豚汁と食べている。
「犬さんたち可愛いし、豚汁美味しいし、すごい楽しいね!」
「セラ、俺たちも犬と食わねえ?」
「え、でも……」
 セラフィムはお椀を見つめ、困惑顔を見せた。食べ物と犬たち。なんかちょっと怖そうだ。でもタイガは、いいからとセラフィムの手を引いて、アイオライトと犬のいる場所に座り込んでしまう。
 犬の毛が触れる中での食事。衛生面ではどうかと思うが、普段体験できることではない。
「こういうのも、いいね」
 セラフィムの目が輝く。その状況をスコットも羨ましく思ったらしい。俺も、とミストをひきつれ、犬の間に座る。
 わんこマスターは最初その交流を微笑ましく見つめていた。しかし、そのうちに次第に眉が下がっていく。
「ああ、愛すべき犬たち……。お前らは俺じゃなくても良かったのか……?」
 落ちたり上がったり、忙しい人物だ。
「元気出して、俺、歌うから!」
 スコットが歌い始めるが。
「おいスコット、それは失恋ソングだぞ。なあ、お前らだって好きだよな、わんこマスターのこと。どうだよ、万次郎」
 近くにいる犬に話しかけるミストに、わんこマスターの声が飛ぶ。
「そいつは万次郎じゃねえ、万三郎だ!」

「ああ、あったかいもの食べて、芯からほかほかになったよ。これアクアの味付けでしょ? 美味しいね」
「ふふ、ありがとうございます、ワカバさん」
 微笑むアクアの視界の端で、アイオライトがお椀を高く上げた。
「ねえ、パパ、豚汁おかわりある?」
「あ、俺も食いたい!」
「アイ、タイガさん。残念ですが……豚汁はあと一人分ですね」
 白露が言うと、アイオライトとタイガは同時に「ええっ」と声を上げた。それを見て、白露は小さくふきだした。
「豚汁のお代わりをかけて、勝負でもしますか」
「え? 勝負俺もやりたいっ!」
「あたしも!」
「俺も!」
 まずはスコット、その後にアイオライト、タイガが順番に賛成を示した。若葉は首を傾げ、アクアに聞く。
「どうするアクア、みんなやるみたいだけど、俺たちも参戦する?」
「待て待て、犬たちを休ませてからだぞ、お前らっ!」
 わんこマスターの声に、はあい、と全員の声が重なった。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 12月20日
出発日 12月27日 00:00
予定納品日 01月06日

参加者

会議室

  • そんなわけで、犬ぞりのあとはみんなで豚汁であったまろーー♪
    あ、プラン出してます。

    >スコットさん
    あたし、いっぱい食べて、早くダイナマイトボディになるんだもーん♪
    もきゅもきゅ。

  • [9]木之下若葉

    2014/12/26-21:44 

    今晩はとはじめまして。
    木之下とパートナーのアクアだよ。

    おや、豚汁会なんてやるんだね。
    アクアが「お手伝いします!」って言っていたからそちらに行くかもだよ。

    ん。皆、楽しく過ごせるといいよね。

  • [8]スコット・アラガキ

    2014/12/26-18:16 

    挨拶のオオトリは俺がいただく!
    スコットとミストだよー、よろしくねー

    豚汁!そういうのもあるのか!
    わああわあああ俺も食べるうぅ
    役に立つかはわかんないけど手伝いもするよー、働くの大好き!

    アイオライトちいさいのによく食べるねぇ
    俺も運命のおかわりダイスロールッ

    【ダイスA(10面):5】

  • じゃあ、「あとで豚汁食べる」(←作るのは、白露)ってプランに入れてみる!
    材料とかあるといいなあ。

    えいっ。ダイスの目だけ豚汁をおかわりするぞっ。

    【ダイスA(10面):3】

  • [6]セラフィム・ロイス

    2014/12/25-07:03 

    >暖かい食事
    冬らしくていいんじゃない
    『大なべからとるのいいよなー!って、俺もレベル1だった!?』
    メインは犬ぞりだし文字数に余裕があったらでもいいよ。やるならお手伝いにいくかも

  • ふふー。一番乗りとっちゃったー♪

    >暖かい食事
    パパが調理レベル1だし…簡単なのなら作れるかな。
    「豚汁! 芋煮!」とかそんなんしか(うしろの人が)思い付かないけど・汗

  • [4]木之下若葉

    2014/12/24-22:08 

  • [3]セラフィム・ロイス

    2014/12/24-06:45 

    Σは!?書き込んだら2番のりだった(笑)

  • [2]セラフィム・ロイス

    2014/12/24-06:44 

    以外。挨拶一番乗りか。わんこの単語に飛びついた僕セラフィムとタイガだよ
    皆よろしく

    (引用)
    基本的にみんなでわいわい楽しむ話になりますので、わんこマスターが絡んできます

    これ・・・パーティごとじゃなくて交流もできそうだよね
    レースはキツイかもしれないけれど、こちら交流歓迎と書いておくから仲良くしてやってほしい
    カメラは持っていくかな
    暖かい食事が用意できたらいうことないんだけど・・・(技量なし)


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