【鐘の守護】ここ掘れ、ウィンクルム!(瀬田一稀 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 その教会は、ホワイト・ヒルの奥地にあった。
 深々と降り積もる雪は、人々の往来を途絶えさせている。冬の間、ここを訪れる者はまれだ。しかしそんな土地でも、教会の鐘は鳴る。
 リーン、ゴーンと響く鐘。その音はわずかながらも近隣の村々に届き、人々を敬虔な気持ちにさせた。あたたかい季節になれば、教会の周囲には草原が現れ、色とりどりの花が咲き乱れる。人はそれを、心待ちにしているのだ。

 しかしその日、いつもの時刻になっても鐘はならなかった。
 村人たちは、教会に住む者に何かがあったのかと心配した。しかし雪が降ったばかりのことである。こんなときに教会に向かえば、深い雪に足をとられて、たどり着くことは不可能だろう。
 それでも、音が途絶えて三日も過ぎると、人々はさすがに、この事態を放っておけないと思うようになった。
「最近は教会の鐘を狙っているという奴がいるらしい」
「まさかみんな、そいつにやられてしまったのか」
 村人の胸に不安が沸き起こる。
「これは誰かが様子を見に行かなくちゃいけないんじゃないのか」
 そんなとき、教会から村役場に、連絡が入った。

「すみません、最近鐘が狙われているというので、外して雪の中に隠してたんですけど、雪が降ってどこに埋めたか、わからなくなっちゃいました! 掘り出すの、手伝ってもらえませんか?」

 ……ばかだ、と村人の誰もが思った。目印位しとけよこのやろう。
「それも埋もれちゃったんです……」
 ……ってか、よく埋めたな。
「はい、みんなでがんばりました!」
 ……がんばるなよ。
「……でも、がんばったのに、埋めるな、鳴らさなきゃダメだって怒られちゃったんですよね」
 ……それはそうだろうよ。
「で、とりあえず探したんですけどね、グレムリンっていうんですかね? 敵も鐘を探してるみたいで……」
 ……争奪戦か。
「だから、手伝ってくださいよぉ……お願いします! あ、でも山の中なんで、暴れると雪崩が起こりますから。そこは覚悟して来てくださいね」
 ……そんな覚悟、したくない。

解説

雪に埋もれている教会の鐘を探してください。
たぶん雪の下30~50センチくらいのところに埋もれていますが、場所の見当はついていません。とりあえず、教会から見える範囲のどこか、くらいアバウトです。

鐘の大きさは、一般男性がぎりぎり腕を回せる程度を想像してください。
重いので、見つけて掘り出すだけで結構です。運搬は自業自得な教会の人間が、責任を持って行います。

グレムリンは30体程度。
鐘を探すことが目的なので、退治はしなくても構いません。
また、彼らも鐘を見つけるのに必死なので、いきなり襲ってくることはありません。

身長を超えるほどの雪が積もっています。
上は最近降ったばかりの新雪です。あまりにも暴れると、雪崩が起きるかもしれません。


ゲームマスターより

「ここ掘れわんわん!」
 ……と、犬はいませんが、掘ってください。

 スコップなど、鐘を掘るのに必要な道具のみ、教会が貸し出してくれます。
 雪は、歩くと足が埋もれます。ので、動き回る際はご注意を。

 また、瀬田は雪国在住ではありませんので、あくまで雪のイメージでお伝えします。
 本物の雪はこんなじゃないよ! とかあっても、スルーしてやってください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  あのな、俺40オーバーなんだよ
筋肉痛が翌日には来ない年代なんだよ
何が言いたいかって?
どんだけ重労働させる気だよ!
ああもう、さっさと見つけて終わらせんぞ……

*物資要請
そり(運搬用)
ビニールシート・段ボール(足場用)
以上を借りられないかAROAに交渉 無理そうなら持参
スコップは教会から借りる

現場では周囲のグレムリンを警戒しつつ刺激はしないように
発掘作業
交代もしながら頑張るか

こっちが鐘を発見したら全部掘り出す前に
グレムリンを追い払う
向こうが先に見つけたら奪還させてもらう
石でも投げとくか、逃げるなら命までは取らねえから
どっちか選べ!(脅し)



瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  事前にA.R.O.Aから、インカムを借りられないか申請。
借りられたら、予めウィンクルム全員に配ります。
目印を発見した際の連絡として、知らせてもらいたい為です。

教会の人からは、周辺の地形図と角スコップを借ります。
同時に、目印の特徴は勿論、色や形などについても尋ねて、
ウィンクルム全員と情報を共有しよう。
特徴については、些細な事でも話してもらうよう説得。
目印の手掛かりになるかもしれないからです。
(サバイバルスキル使用)

目印を発見次第、
インカムで皆を呼び、そこを中心に教会の鐘を掘り出す。
グレムリンと戦闘する際も、予めインカムで皆を呼んでおく。
その上でカンケツセンで敵の目を狙い撃って怯ませつつ後退する。



シグマ(オルガ)
  ・雪かきに必要な防寒着、道具を貸出申請
・鐘の位置をアバウトでも再確認
・鐘を探す為に雪かき
雪ってタブロスに来てから見たのかなー。
…本当にアバウト、だね。(汗
無闇に探すのも疲れる…の前に雪崩が心配なのかな。
ここ掘れ、わんわんって訳だね!
え?ちょ、違うから!変な誤解しないでよー!

・グレムリン襲撃時:弓矢で追い払う為に応戦を試みる
※能力判定覚悟の上。
・弓矢ダメダメ時:雪を投げつける事に変更
オルちんと違って俺は飛び道具あるし、張り切っちゃうー!

うぅ…折角オルちんをギャフンって言わす
絶好の時だと思ったのに!
仕方ない、あんまり役に立てないと
また蹴りが来そうで怖いよね。(泣
気を取り直して雪で追い払わないとね!


暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
  準備:かんじき

なぜ・・・いえ、深くはつっこまないようにしましょう
重い鐘を運ぶのは重労働ですから、見える範囲といってもそれほど離れた場所にはないでしょう
まずは目印を探して、教会から近い所から掘り返すように
目印を見つけたら、足場固めをしつつ協力して掘っていきましょう

向こうが先に鐘を見つけるorこちらの邪魔をしてくることも考え、
定期的に動向をチェックし、皆さんへ注意喚起
鐘は全て掘出さず確認次第、敵の殲滅へ移行

先に見つけた場合は鐘の近くに待機
なるべく動かず近くにいるor襲ってくる敵だけを相手にする
敵が先に見つけた場合は先生の詠唱が邪魔されないよう行動
状況をみて鐘の奪還に向かえそうなら移動する



 見渡す限り真っ白な雪原を、ブルーシートを載せたそりを引いている男たち。
 その後ろを、スコップを担いで、ウィンクルムは歩いている。
 ふくらはぎの三分の一ほどが、雪の中という状態に、誰もが無言だった。任務じゃなければ鐘なんかどうでもいい、そんなどんよりとした空気の中で、イグニス=アルデバランは、大きな声を上げる。
「とてつもない大雪ですが、皆さま困ってますし、頑張りましょうね。ねえ、秀様」
 しかし秀は、その眼前を白く染めただけ。はあっと吐き出したのは、もちろんため息だ。
「あのな、俺40オーバーなんだよ。筋肉痛が、翌日には来ない年代なんだよ」
「えっと、突然どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもねえよ! こんな雪の中、どんだけ重労働させる気だよ!」
「大丈夫ですよ、秀様。明日にはちゃんと来ますよ、筋肉痛!」
 問題はそこじゃねえだろと、秀は再び、息をつく。しかしイグニスは、きらきら笑顔で、そんな秀を見やるのみ。どうやら、言っても無駄なようだ。
「ああもう、さっさと鐘見つけて、終わらせんぞ……」
 そのとき、同じような深い息が、別のところからも聞こえた。
「なぜ……いえ、深くは突っ込まないようにしましょう」
「鐘を隠すまでは、良い判断だと思うんだけどねえ……」
 暁 千尋とジルヴェール・シフォンである。ふたりは雪道を歩きながら、顔を見合わせた。依頼した物を借りられなかったおかげで、雪に埋まっている足が冷たい。
「かんじき……こんな豪雪地帯の教会なのに、なんでなかったんでしょう。歴史のあるものなんですよ?」
「今年は特別雪が多いとは聞いていたけど……ちょっと和風だったからかしら? でも、ないものはないのだし、ここで愚痴っていても仕方無いわ」
 ジルヴェールは、長い髪を揺らして、そりを引く男たちに話しかける。
「ねえ、あなた達。鐘をどこに埋めたか、本当に記憶がないの? それに、グレムリンの姿が見えないようだけど?」
 紅一点(と教会関係者は勝手に思っているらしい)のジルヴェールに突然話しかけられて、初心な教会関係者は頬を染めた。
「いや、照れてる場合じゃねえだろ、お前ら!」
 四十路の秀が文句をつける。
「重い鐘を運ぶのは重労働ですから、見える範囲と言っても、それほど離れた場所にはないでしょう?」
 千尋が丁寧に聞くと、そりを引く男がひとり、うなずいた。
「はい、あれは本当に重くて……みんなで持ち上げても、ぎっくり腰になりそうでした」
「そうそう。そういえば、お前。埋めようとしたときに服の裾が木の枝に引っかかって、背中丸出しになったんだよな」
「ああ、そうだ。それが寒くて……」
「……ということは、埋めたのは木のそばですね」
 イグニスがふむ、と顎に手を当てる。
 それを聞いていた瑪瑙 瑠璃と瑪瑙 珊瑚は、きょろりと周囲に目を向けた。
 ここはもとが草原なので、見える木は多くない。ウィンクルムと教会関係者が分担すれば、一度に可能性のある場所を探せるだろう。
「じゃあ瑠璃、自分らはあっちぬ木ぬところ探すか」
「ああ、分担したほうが早いんだべ」
「みんな、鐘を見つけたら、さっき配った笛鳴らせよ!」
 珊瑚はそう言って、持ち込んだスケボーと、雪の中に足場を作るための、ブルーシートを抱えていく。
「ところで、スノボーならわかるけどさ、スケボー、どう使うんだ?」
「それはっ……裏返してとか?」
 言いながら、瑠璃が追いかける。
「木のあるところってわかっただけでもいいけど……本当にアバウトだね」
 さくさく……というより、ずぼずぼと雪を踏んで、シグマは別の木のところに向かった。
「本当に……シグマ並みに馬鹿な奴もいるんだな。まったく、責任を問いたいところだ」
 なんだよ、俺並みにバカって。言いたいところだが、完璧主義なオルガに比べれば、まあ、うん。そうだね。俺……。
 しゅんと落ち込みかけた頭を振って、シグマは意識を浮上させる。
「とりあえず、木のあるところを、ここ掘れわんわんってわけだね!」
「何を犬の真似事を……あぁ、犬になりたかったのか。犬のようにわかりやすい奴だもんな、おまえは」
「え? ちょ、違うから! 変な誤解しないでよー」
 一行はそれぞれの木に近い場所に、シートの足場を確保して、鐘を探し始めた。


「雪掘るのって、結構重労働だよなあ」
 ざっくざっくと雪にスコップを入れながら言う瑠璃に、珊瑚は思わず、顔を上げた。
「なんだよ、北海道弁ちかゆんくせに、そんなこといゆんのか?」
 こちらもざくざくと雪を掘っている。これがなかなか重くて、そろそろ腰が辛くなってきた。話す間休んでやれと手を止めると、遠くから、男の悲鳴、あるいは怒声が聞こえてきた。
「だあ、腰がいてえ!」
 秀は雪に突っ立てたスコップの持ち手に体重をかけて、片手で腰を叩いた。
「頑張ってくださいよ、秀様」
 イグニスはさらりとそんなことを言うが、だ。
「あ? 頑張ってるよ! ったく、お前明日俺が動けなくなったらどうするんだ?」
「えっと、お仕事手伝います!」
 そういう問題じゃねえと、またも思う。ったく、こんなことガキどもに任せておけばいいだろうが。
 そのガキども……ではない、シグマとオルガと名のついた、十代と二十代の若人たちは、適当に休憩を入れながら、木のあたり一面の雪を攫っていた。
「ねえオルちん、俺が本当に犬だったらさ、臭いとかで鐘すぐに見つけられるのかな?」
「ああ、犬だったほうが、お前は使い道があったかもしれないな。ほら、さっさと働けよ」
「ちょ、ひど……! 俺さっきから真面目に掘ってるし!」
 賑やかなものである。そんな彼らに、麗しきジルヴェールが、長いまつげに縁どられた瞳を向ける。
「あー、辛いわ。さっきのお兄さんは四十路で辛いって言ってたけど、三十路でも辛いわよ」
「先生、無理しないでくださいね」
「ん~、チヒロちゃんにとってはいい鍛錬、ってとこかしらね」
 よしよしと、年上の性で労わろうとすれば、露骨に目を逸らされる。あらまあ悲しい、と少しだけ大げさに言って、ジルヴェールはスコップを動かした。


 さて、こちらは敵方である。
 賑やかなウィンクルムをよそに、グレムリンは、雪の山の間に身を隠しながら、鐘を捜索していた。
 体長20センチほどの小さな体は軽いため、雪にも埋もれにくい。グレムリンは、比較的軽快に、雪原を動き回る事が可能だと言えよう。
 雪の上をがさがさと歩く。鐘がこのへんにあるらしいということはわかっているが、それがどこかはわからず、30体ほどで捜索をしているところに、ウィンクルムがやって来たのだ。
 先を越されてはまずい、とグレムリンが思ったかはわからないが、行動は早くなった。
 小さな体で雪に潜り込むようにして、鐘を探す。


「……いないなあって思ったけど、いますね」
 雪を掘るのを一時やめて、千尋は雪原に目を凝らした。ところどころに見える、小さな黒い影。あれはきっとグレムリンだ。
 ただ……鐘は見つけてないし、笛を吹くのは早いでしょう。
 服のポケットから取り出した笛を咥え、ウィンクルムの仲間を見ると、秀と目が合い、うなずかれた。どうやら彼は、グレムリンの姿に気が付いているらしい。
 でも、気にしながらも素知らぬふりをしている。それは敵が襲ってこないのならば、こちらから攻撃をする必要はない、という考えの表れだ。
 優先すべきは、教会の鐘。
 秀は千尋と合った目を、イグニスに向けた。
「おい、お前気付いてるか? グレムリン、出てきたぜ」
「本当ですか?」
 おっとりと敵がいるほうを振り向こうとするイグニスの頬を、秀は手で押さえた。小さな敵は、自分達よりも図体の大きなウィンクルムたちに、当然気付いているだろう。それでも襲ってこないのは、戦う意思がないからか、鐘を優先しているからか。どちらにしろ、無駄に刺激をすることはない。
「待てよ、動くなって。とりえあえず鐘を探して、戦うのは……」
 それからでいいだろう、とは言葉が続かなかった。ピイと高い、笛の音が鳴ったからだ。
「見つけたぜ!」
 叫んだのは、珊瑚。そちらに目を向ければ、白い雪の中に、とび色の鐘の頭が覗いている。
「あ、あったんだね!」
 瑠璃と珊瑚の元に、シグマが走り出す。当然、相棒のオルガも後についている。他のメンバーも足を動かそうとしたが、ふたりの後ろに蠢くグレムリンを見て、ジルヴェールは足を止めた。
「ワタシたちは動かなくても大丈夫よ。ここからだって攻撃できるもの。だから」
 赤く塗った滑らかな唇が、まっすぐに結ばれる。頬へのキスなど気にしないだろうジルヴェールがこんなかたい表情をするのは、千尋のためだ。
 千尋はわずかながら眉間にしわを寄せた。しかし、すべきことはわかっている。
「アレルヤ」
 短いインスパイアスペルを呟き、ジルヴェールの頬に唇を当てる。そう、まさに、子供のキスより軽く、押し当てる。どれだけ見ても見慣れない、かつての教師の麗しの姿。心境としては複雑ではあるが、必要だから、仕方がない。その気持ちをわかっているから、ジルヴェールは何も言わない。
 ジルヴェールが詠唱を開始し、千尋はウィンクルムソードをとる。呪文の完成までは、先生を守らなくてはならない。


 瑠璃は2丁拳銃カンケツセンを、走り寄るグレムリンに向けた。温泉水は勢いよく、敵の小さな体に当たったが、吹き飛ばすほどの威力はない。
「何やってるんだよ!」
「目を狙いたいんだけど、小さくて的が……」
「ああ、ったく!」
 珊瑚が瑠璃の前に立ちふさがると、察した瑠璃が口を開いた。
「ラピスアトゥイ・ウルマヌナダグァ」
 瑠璃は珊瑚の頬に唇を寄せ、冷たくなった肌にキスをした。無数のシャボン玉が舞い上がり、瑠璃色のオーラが瑠璃を、珊瑚色のオーラが珊瑚を、それぞれ包んだ。その美しい光を纏ったまま、珊瑚はダブルダガーを抜いた。足を踏み出して、敷いたままのブルーシートの上へ。武器を構えて目を瞑り、こちらへ向かってくるグレムリンの攻撃を待つ。
 グレムリンは勇猛果敢にも、動きを止めた珊瑚に襲い掛かった。尖った爪が、珊瑚へ届く瞬間前。珊瑚の目がかっと開き、ダガーの刃がグレムリンの爪をはじく。シートのお蔭で雪に足が沈むことはなく、そこそこに舞うことができる。
 それを見て、イグニスは秀の腕を引いた。
「逃げるなら命まではとらねえぞ! さあどうする!」
 石……は雪原に見あたらなかったので、雪玉を投げようとしていた秀は、その体を突然後ろに引かれ、余った勢いのままにつんのめる。
「なんだよ、イグニス!」
「秀様、私たちもトランスをしなければ」
「ちっ」
 秀はあからさまに舌打ちをした。が、仕方あるまい。
「顕現せよ、天球の焔!」
 背中を曲げたイグニスの頬に、冷えた唇で、口づける。
「ありがとうございます」
「礼はいいから、さっさと詠唱開始しろ」
 そんなふたりの横を、ひょろりと弓矢が飛んでいく。シグマである。
「オルちんと違って、俺は飛び道具あるし、張り切っちゃうー!」
「そう言えばシグマは、弓矢を持っていたか」
 オルガはそう言って、シグマの放った矢に視線を向けた。しかしその矢はあっさりと、グレムリンの横を通過していく。敵のどこにも、かすりもしない。
「うう……折角オルちんをギャフンって言わす、絶好の時だと思ったのに!」
「バカには早かったようだな……。いい、俺が雪でフォローする!」
 落ち込むシグマをよそに、オルガは雪玉を振りかぶった。隣ではシグマが、悲しみにくれつつ、弓を雪玉に持ちかえて、グレムリンに向かって投げつけている。役に立てなくてオルガに蹴られるのだけは、勘弁願いたい。
 しかし、なにせ的は小さく、しかも凹凸のある雪の上である。グレムリンたちは、姿が見えたかと思えば隠れてしまい、シグマは雪玉すらなかなか当たらない。
「ちょっと、動かないで!」
 そんなことを言いだすシグマに、オルガはため息をついた。
 使える神人に仕上げるには、まだまだ道は遠そうだな。考えながら投げた雪玉が、グレムリンに当たる。
 小さなグレムリンは、それだけで雪に埋まった。手足をバタバタしながらも、どうやらその場所からは動けないようだ。


 神人の投げた雪玉が、グレムリンを雪の中へと埋めていく中。秀と千尋の後ろでは、それぞれイグニスとジルヴェールの詠唱が、終わりに近づいていた。
 もう少しだ、と、千尋は雪玉を振りかぶる。しかしそのとき、瑠璃のカンケツセンの狙いがそれて、雪玉埋もれたグレムリンに当たった。カンケツセン、中身は温泉水である。雪が溶け、グレムリンが動きだす。
「あ、しまった!」
「なにやってるんだよ、もう!」
 珊瑚は武器を手に、グレムリンが集まっているところに突撃していく。しかしそこは既にシートのない場所、雪の上である。ずぼずぼと足が埋まり、いつものペースでは動けない。
「くっそ!」
 結局、飛び道具が有利とばかり、みんな雪玉を投げている。


「なんだか、雪合戦って感じですね」
 教会関係者は、地味に鐘を掘り起こしている最中だ。
 ウィンクルムたちがグレムリンを蹴散らかしてくれているおかげで、敵は鐘の近くにいない。雪の中から頭だけが見えている鐘の周りを、スコップで掘っていく。これを持ち上げてそりに乗せるのはまたしんどい作業だが、まあ何とかなるだろう。
「それにしてもグレムリンたち、よく逃げるなあ」
 関係者は、のんびりしたものである。


 雪とグレムリンに翻弄されるウィンクルムたちに差し伸べられた救いの手は、エンドウィザードの詠唱完了だった。
 ふたりのウィザードが選んだのは、同じ呪文だ。揃って言葉を切ると同時、ソフトボール大のプラズマ級が、生まれる。
「ふふ、ごめんなさいね。鐘はあげるわけにはいかないのよ」
 弾は放物線を描いて、雪の中を走るグレムリンを追った。敵に当たり弾けた光球は、グレムリンの小さな体を吹き飛ばす。それはちょうど別のグレムリンに重なり、的は数匹まとめて、雪の上にベしゃりと潰れた。一番下のグレムリンはぴくりとも動かないが、上の方のはなんとか雪上に立ち上がる。ただ、その動きは遅い上に、こちらを振り返る様は、動揺しているように見えなくもない。
「これで下がらないと、もっと怖い奴いきますよ!」
 イグニスは叫んだ。逃げるならそれでよし、というやつである。しかしその横で、神人たちを視界の隅のとめたジルヴェールが、首を傾げる。
「あら、怖い奴いっちゃうと、雪崩が心配よ。せっかく掘り出した鐘がまた埋もれてしまっては困るわ。それにそろそろ、寒さもしんどくなってきたし」
「大丈夫ですよ、ジルヴェール様」
 ほら、とイグニスが指を指す向こうで、グレムリンたちは、こちらに背を向け、雪の中を走り始めていた。
「おい、敵が逃げるぞ!」
 思わず追いかけようとしたウィンクルムもいたが、教会の人が声を上げる。
「皆さん、鐘さえ取り戻せればいいですから! 雪山で遭難とか、されても困りますんで! 探すの、寒いですから!」


 かくして、鐘は見つかり、任務は完了した。倒した敵より逃げた敵の方が多いが、問題はないだろうと、教会関係者は言う。
「本当はね、鐘を見張ればよかったんですよ。でもその手間を省いて、隠そうなんてしたからだめだったんですよね。ええ、心を入れ替えますよ、俺たちは」
 そりに載せた鐘を引く、関係者。
 教会に所属する者が『心を入れ替える』と言うことはなんとも違和感のある発言な気がするが、まあそれはそれ。また掘り出すよりはよほど、ましである。
「頼むぜ、まじで」
 腰を伸ばして、秀が言う。そんな彼を優しく労わるのは、当然若い相棒である。
「お疲れさまでした。秀様、寒くないですか?」
 イグニスは秀の手を握った。氷のように冷たいそれを持ち上げ温めようとするも、その手を振り払われる。
「いい、いいって! 凍えてねえから! 手袋してるから!」
「まあまあまあ」
 明るく賑やかつ楽しげなイグニスの後ろでは、オルガがシグマの背中を蹴飛ばした。
「おら、行くぞ、馬鹿犬!」
「ってなんだよ、俺、役に立っててなかった?」
「わんわん鳴くだけじゃな……今度、稽古つけてやるよ」
「え~、俺、バイトとかもあるんだけど!」
「ばっか、面倒見る俺の気持ちにもなれ!」
 オルガの言葉に、シグマは驚いた顔を見せる。
「……それって、俺を心配してくれたってこと?」
 オルガは答えない。その沈黙は、ジルヴェールの声が明るく塗り替える。
「ああ、寒かったわねえ。帰ったらお茶でも入れましょうね。もう体中冷たくって」
 ジルヴェールは両手を口元に当て、はあっと息を吹きかけた。
「先生、手袋とかしてないからですよ」
 千尋はふたり分のスコップを抱えて、雪道を歩く。そこに、千尋がひょこりと顔を出した。
「これで、温めますか」
「その銃で?」
「中が、温泉水なんです」
「うーん……ありがとう。でもやめておくわ。お湯を使うと、手があれるのよね」
 ジルヴェールが苦笑する。瑠璃はそれならとあっさり銃をしまおうとしたが、珊瑚がそれを手に取った。
「ならわんの手あっためてくれよ。このグローブ、ふぃっさん(薄い)から、防寒かいならねえんだ」


「教会につけば暖房がありますから、みなさん頑張ってくださいね!」
 鐘を引きずる依頼主の言葉に、ウィンクルムは冷たい脚を動かし続けた。
 めざす建物は、数メートルの先にある。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 少し
リリース日 12月17日
出発日 12月24日 00:00
予定納品日 01月03日

参加者

会議室

  • [14]瑪瑙 瑠璃

    2014/12/24-00:00 

  • [13]暁 千尋

    2014/12/23-23:10 

    こちらもプラン完成済みです。
    初瀬さんの発言を見て、鐘はグレムリンを追い払ってから掘出しという流れにしました。
    その方が鐘が傷つく可能性も低いですしね。
    皆さん頑張りましょう。

  • [12]シグマ

    2014/12/23-22:41 

    あんまり発言できなくてごめんよー!
    取り敢えず流れの件も含めてプラン出きたよ。
    一応クリアレイン持っていくけど
    命中は絶望的だから期待しないでね。(汗
    改めてよろしくー!

  • [11]初瀬=秀

    2014/12/23-22:09 

    GMコメントでスコップとかの掘り出す道具しか貸してくれない的なこと
    書いてあるから、一応その他はAROAに交渉か持参できないか書いておく。

    目印も埋もれてるっぽいし目印が出た時点で足場固めを並行して始めて、
    鐘を確認次第グレムリンを追っ払って、それから本格的な堀出し、
    みたいな流れを考えたがどうだろうか?

  • [10]暁 千尋

    2014/12/23-11:08 

    流れとしては瑠璃さんが書かれた通りで了解しました。
    そりやブルーシートも賛成です。
    あとはかんじき的なものが借りられないかと思っています。

    スケートリンクな道ですが、こちら側の足元を固めるという意味なら
    滑って危ないんじゃないかな、と・・・
    それを逆手にとってグレムリン側に撃つというのであれば賛成します。
    むしろお願いします。

    グレムリンの動向は僕も気になるので、定期的にチェックするようプランに盛り込んでみますね。

  • [9]瑪瑙 瑠璃

    2014/12/23-08:52 

    初瀬さん、千尋さん、シグマさん、意見ありがとうございます。
    そうなると、当日の予定はこんなイメージでしょうか。

    まず、教会の方が言っていた目印(の特徴)を聞き出し、探し出しましょう。
    見つかり次第、全員がそこを中心に掘っていく形です。

    足場に関しては、[6]で言った案か、
    自分と珊瑚がカンケツセンを雪に撃って、スケートリンクな道にするという案があります。

    そりが荷物を積むのに関しては賛成しています。

  • [8]シグマ

    2014/12/23-07:38 

    確かにオルちんもダンサーだから、足場は心配だね……。
    ブルーシートなら、借りられそうな気がする。
    借りられなかった場合の為に
    雪を投げたりする事も参考にさせてもらうね。

    PL:ネットの不具合によりスマホから来ました。
    復旧の目処は今のところ不明ですが
    プランはスマホからも書けるようですので、白紙は防げそうです。
    ご迷惑をおかけします。申し訳ありません。

  • [7]初瀬=秀

    2014/12/23-06:48 

    ウィザードは砲撃できるからいいとして、
    ダンサーは足場が欲しいよな。
    そりか何か借りてそれに荷物積んでいくか?

    あとグレムリンの動きも注意して観察して、
    向こうが先に見つけたら奪還も考えんとな。

  • [6]瑪瑙 瑠璃

    2014/12/23-01:42 

    初瀬さん、千尋さん、シグマさん、意見ありがとうございます。
    今回は雪かきスキルより、サバイバルスキルの方を使いたいと思います。
    サバイバルスキルのレベル2からは、地形の見方がわかるそうなので。

    グレムリン対策に関しては、足場ですと、
    段ボールを潰したものやブルーシートを予め雪の上に敷くのはどうでしょうか?
    少なくとも動かないで戦う事が前提になります。

    あるいは、その場で雪を作って投げつけたり、長い棒などを振り回して抵抗する案があります。

  • [5]シグマ

    2014/12/21-22:08 

    ど−もー!挨拶遅れちゃったー(汗
    千尋ちん達は初めましてかな。
    他の2人は……うん、思い出したくないところで一緒だったね。ははは……。(遠い目
    と、とにかくっ今回もよろしくねっ!

    スキル必要そう?なんて思ったけど、皆は必要なさそうって見ててちょっと安心。
    俺達はあんまり役に立てそうなスキル持ってないから……(汗
    まぁでも印見つけて雪崩に注意しつつ掘れば、鐘の件は大丈夫……なのかな?

    問題はやっぱ敵のグレムリンだよね。
    確かに足場悪いし戦いにくそう。
    雪崩の件は山中だし、大胆な作戦で良いと思うけど……(ギンッ※精霊に剣を向けられる)ひぃい
    や、やっぱり危険だから避けたの方が良いのかな!

    うーん、俺ももうちょっと考えてみるー。

  • [4]暁 千尋

    2014/12/21-10:00 

    初瀬さん、シグマさんは初めまして。
    瑠璃さんは嫁レース以来ですね。
    暁千尋です。未熟者ですが、よろしくお願い致します。

    まずは目印を探すのが先決でしょうね。
    どんな風につけたのかによりますが、あとは手分けして探すしかないでしょうか。
    雪かきスキルはあれば便利だが、必須ではないと考えています。
    むしろ探し物をするならサバイバルスキルとかの方が役に立ちますかね・・・?

    あとはグレムリン対策でしょうか。
    どちらが先に鐘を見つけても、多少の戦闘は避けられないと考えているのですが・・・
    雪上で戦いにくい+派手に暴れると雪崩が起きるとなると普段通りには戦えないということになりますか。

    ・・・鐘をみつけた後なら、わざと雪崩を起こしてグレムリンごと埋めてしまう。
    というのも考えましたが、ちょっと危険すぎますかね。
    退治はしなくてもいいということですが・・・もう少し考えてみます。

  • [3]初瀬=秀

    2014/12/21-05:33 

    四十路に何てことさせやがる。
    改め、初瀬と相方のイグニスだ。よろしくな。
    瑠璃はこの間のリボンの祭ぶり、千尋は初めましてかね。
    (シグマを見て)
    ……思い出してはいけない何かを思い出しそうだ。久しぶり(若干の遠い目)

    ともかく何でもいいから目印やら覚えている限りの情報やらを提供してもらって、
    あとは頑張るしかないだろうな……

    雪かきスキルはあれば便利だろうが絶対必要かと言われると悩みどころかね。

  • [1]瑪瑙 瑠璃

    2014/12/20-23:14 

    以前ご一緒した方はお久しぶりです、瑪瑙瑠璃です。
    シグマさん、千尋さんとは依頼は初めてですね、改めてよろしくお願いします。

    ひとまず、教会の方が言っていた目印の特徴について聞いてから、
    そこを中心に掘った方が効率的ではないかと考えています。

    また、雪かきスキルが必要かどうかも考えましたが、今のところ本当に必要なのか検討中です。


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