【鐘の守護】うじゃうじゃわらわら(白羽瀬 理宇 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

骨ばった小人が群れを成している。
その大きさは、平均的な身長の成人男性が、親指と人差し指を広げたくらい。
大まかに見て、乗車率200%と同じくらいの密集具合だろうか。
それが7号ケーキの下にひしめいている。

うじゃうじゃわらわら

ふと気がついたらケーキが移動していた。
不思議に思ってケーキを持ち上げた君の顔を見上げる小人達。
運んでいたケーキが急に消えた事に驚いたのだろうか、一斉にまばたきをするソレら。
パチパチ……
ざっくり170個くらいの目の、まばたきのタイミングが完全に一致している。

うじゃうじゃわらわら

ケーキを奪われた……!
そう思ったらしく、怒った小人達が君に向かってくる。
いやいや、ケーキを奪おうとしているのは、小人達の方なんですが……。
小さな槍を持ち、まるで蜂の群れか何かのように攻撃してくるそれらは、インプと呼ばれるクラック、
異世界からやってきたの生き物の一種であるようだ。

うじゃうじゃわらわら

槍と言ってもその長さは小人の身長の半分ほど。
突かれたところで蜂に刺されるほどの痛みがある訳ではない。が……いかんせん、数が多い。
チクチクチクチク……!!
露出している皮膚、特に顔を狙われるとかなりのダメージだ。
万が一、目などを刺されたりすれば相当苦しむ事になりそうである。

うじゃうじゃわらわら

しかも周りを見回してみれば、他のケーキの下にも同じようにインプがいるようだ
このままでは、この教会でのクリスマスイベントを台無しにされてしまう!
何とかしてこのインプ達を片付けなければ、大変な事になるだろう。
最初の依頼に含まれていた内容ではないが、これもウィンクルムの大事な使命だ。
手にしていたメリー・ベルを作業台の上に置き、君はインプに立ち向かうべく身構えた。





事の起こりはA.R.O.A.に寄せられた一つの依頼。
ホワイト・ヒルの教会でのクリスマスイベントを手助けして欲しいというものだった。
この教会では毎年慈善事業として、クリスマス当日に近隣住民や恵まれない人々にケーキを振舞うイベントを行っているのだが、
その時に使用するケーキに、メリー・ベルと呼ばれる魔法のハンドベルで『幸せの魔法』をかけて欲しいのだという。
例年であれば『幸せの魔法』はサンの力でかかるそうなのだが、
今年はサンタの奇跡の力の源であるメリー・ツリーに集まる聖なる力の多くが、炎龍王に奪われてしまったため
クリスマスの料理に『幸せの魔法』がかからなかったのだそうだ。
『幸せの魔法』は魔法のハンドベルを鳴らしながらクリスマスソングを歌うことでもかけることができるらしい。
そこで君達に、イベントで振舞うケーキに『幸せの魔法』をかけて欲しいと、そういう依頼であった。

依頼を受けた君達は、教会の調理場でやたらと重たいハンドベルを振りながらクリスマスソングを歌っていたのだが、
ふと気がつくと、わきに置いてあった作業済みのケーキが移動している。
不審に思った君がケーキを持ち上げたら先の状況になったという訳だ。

うじゃうじゃわらわら

見たところ、インプの群れによって動いているケーキは5個くらいありそうである。
群れを成すインプ。まずはそれを倒すことがイベントの成功の第一歩になりそうだ。
そして残りのケーキに幸せの魔法をかけ終えれば、君達の依頼は終了だ。

解説

●シチュエーション
今回は各ウィンクルム個別でのシチュエーションです

●目的
インプを倒し、まだ魔法をかけ終えていないケーキに『幸せの魔法』をかけてください

●インプ
1つのケーキの下に80~90体います
インプが奪っていこうとしているケーキは全部で6個、つまり全部で500体くらいいると考えてください。
身長15cm程、体重は150g程の骨ばった小人で、長さ8cmほどの槍を持って攻撃してきます
歩行速度は秒速10cm程度、飛行速度は秒速50cm程度
戦闘力は低く、厚手の服に覆われている部分ならば、突かれても何のダメージもありません
皮膚の薄いところを突かれると、爪の先でつねられたくらいの痛みがあります
厚めの雑誌で強めにはたく程度の攻撃で倒すことができます
叩くと紙のように平たくなって絶命します

●イベント
ホワイトヒルにある教会で行われる慈善イベントです
周辺住民や、その地域に住む恵まれない人に『幸せの魔法』のかかったケーキをふるまいます

●幸せの魔法
この魔法のかかった料理を食べると、幸せな気分になる魔法です
クリスマスソングを歌いながら、メリー・ベルを演奏することで『幸せの魔法』をかけることができます。

●メリー・ベル
『幸せの魔法』をかけるのに使う魔法のハンドベルです
何故か嫌がらせか何かのように、重さが7kgくらいあります

●ケーキ
7号ケーキです。直径は21cm、高さは12cmくらいの大きさです
シンプルなショートケーキですが、他のものをお望みの場合はプランに記載してください

●その他
1個目のケーキを持ち上げてインプの群れを発見したところからスタートです
インプの処理が終わった後は、まだ魔法をかけ終えていないケーキに『幸せの魔法』をかけてください
クリスマスイベントの手伝いに来ているので、基本的には武器や防具は携行していません
キッチンにありそうな道具(鍋、釜、麺棒やレシピ本、包丁など)は自由に使って大丈夫です

ゲームマスターより

プロローグを読んでくださってありがとうございます。

うじゃうじゃわらわら

個別でのシチュエーションになりますので他のウィンクルムと協力をすることはできません。ご注意ください。

うじゃうじゃわらわら

ご参加、お待ちしております。

うじゃうじゃわらわら

個人的にはインプというと、某六連星の車メーカーの車を思い浮かべます

リザルトノベル

◆アクション・プラン

羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)

  凄い数の小人さんだね。クリスマスケーキが食べたかったのかな?
でも、これは住民の皆さんの物だから…取り返させて貰うよ

動き始めているチョコレートケーキを持ち上げ退避
取り返した物は調理台へ乗せ、大きめのガラスボウルを被せて保護
背後からの攻撃防止にラセルタさんと背中合わせで戦う

着用した上着はしっかり着込んでフードを被る
調理場に手袋あれば拝借し手元の保護を
武器はレシピ本とまな板、両方で挟むように叩く
戦闘終了後は使った道具とインプの後片付けを行う

ベルを鳴らして元気よくクリスマスソングを歌おう
皆が笑顔であるように、幸せが訪れるようにささやかな願いを込めて
ラセルタさんもお疲れ様…怪我は無い?(じっと見上げ視認


スウィン(イルド)
  ぎえっ?!うじゃわらきもい!な、何なのよあんたらわ~!
これは大切なケーキなの!
あんた達に取られるわけにはいかないのよ!
おっさんフライパンで戦った事あるんだから!
フライパン捌きはお手の物よ!(フライパンで叩いていく
平たくなるのを見て)
よかった…ぷちっとなっちゃったらトラウマ物よ、これ;

ふぅ、何とか死守したわね
残りのケーキに幸せの魔法をかけましょ
も~、このベル重いのよ
おっさん箸より重い物持った事がないのに
(けらけら笑いノリノリでクリスマスソングを歌いベルを演奏)
歌うイルドなんてレアね
録音したくなっちゃうわ(くすくす)
二人ともあんまり上手くないけど
幸せの魔法、ちゃんとかかって頂戴ね♪



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  ランスとアイコンタクト
「ケーキを!」
協力して戸棚(食器棚・ロッカー等何でも良い)に入れよう
ランスが戸棚の中の物を出す間は俺が左手でケーキを掲げ、右手のフライパンでインプを叩き落とすよ
ケーキが崩れないように手渡し

全部のケーキが戸棚に避難し終わるまではケーキ優先
弱点にたかられないよう素早く払おう

戸棚に入れ終わったら
「よし、本番だ」
ランスは左、俺は右
カバーし合って戸棚を背にがんがん叩き潰す

(閃く)
ポケットの金平糖を袋からばら撒く
「ケーキの代りだ。本当は金か貴金属と交換だが今日だけ特別だ」
「元の世界に帰れ。でなければ潰すぞ」
ぶんぶんバシバシ

★終わったら魔法だ
恥ずかしいけど仕事だからな
仕事だからだっ(汗



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  インプにケーキを取られるのも困るけど、ケーキがインプまみれになったら食べられなくなっちまう。
阻止しなきゃ。

オレがケーキを持ち上げた所へラキアがフライパンでインプを纏めて叩く。
別のテーブルへケーキを避難させる。
卓上蚊帳かお菓子用プラ製カバーをかけておく。
そんな要領で次々と処理して行くぜ。

ケーキヘの異物混入を防ぐため、潰したインプは乾いたフキンで纏めてポリ袋へ纏めしっかり口を縛る。
ラキアと息を合わせて手早く片づけるぜ。

インプの処理が済んだらしっかり手を洗う。
メリーベルを鳴らしラキアとクリスマスソングを歌って幸せの魔法をかけよう。
ケーキを食べた人達が幸せな気持ちになりますように!
と祈りを込めるぜ。



俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  大量のインプに一瞬フリーズし静かにベルを置き…
「な・ん・で・だぁああーっ!?」
インプごと上から台をバーン!

痛って!
攻撃を防げるものを探しミトンが目に入ったので装着
ネカが集めてよこしてきた奴を片っ端から叩いていく
ミトンじゃらちが明かねえな
台の上のはまな板を立ててせき止めて、集まったところにまな板を倒して潰していく
逃げた奴や空中の奴はネカが気を引いているうちに湯切り用の平たい網をラケットのように持って叩きつけて攻撃
くらえ!ウィンクルム・スマッシュ!…って何言わせんだよ!?

全部片付いたらケーキを元に戻し改めてベルを鳴らす
…ついでに塩でもまいとくか
今年のクリスマス盛りだくさんすぎる
何か憑いてんのか俺?



●ここは怖い場所ですよ

「ケーキを!」
 叫ぶアキ・セイジ。
 相棒であるヴェルトール・ランスと視線が絡み合う一瞬。
 二人にはそれだけで十分だった。
 全てを心得たランスが、イベント用の食器などがしまってある大きな食器棚に駆け寄る。
 そして中に入っていたものを、少々乱暴ではあるものの、大急ぎで外に引っ張り出し始めた。
 一方セイジはその間、ちょうど近くにあったフライパンを手に取り、ケーキと自身に群がるインプを叩き落している。
 左手でケーキを掲げインプから遠ざけつつ、フライパンを振り回すセイジ。
 やがてランスが食器棚の中をあらかた引き出し終えると、セイジはケーキを護っていた手をランスへと伸ばした。
 ケーキはセイジの手からランスの手へ、ランスの手から食器棚の中へ。
 急ぎつつも注意深く、セイジから手渡しされるケーキを戸棚に入れていたランスの視線がふとセイジが手にしたフライパンに留まる。 
 その視線の先ではセイジが、ケーキを運ぶ傍ら、襲ってくるインプをフライパンで素早く払いのけていた。
(アレはバトルフライパン!?)
 だが今日は武器の類は携行してきていない。
 一瞬の錯誤を軽く頭を振ることで追いやって、ランスはケーキの保護活動に意識を集中させた。

 やがて全てのケーキが戸棚の中に納まると……。
「よし、本番だ」
 そう言いながらセイジが食器棚の扉をピシャリと閉じ、二人はインプの群れへと向き直った。
 扉の右側にはフライパンを持つセイジ。左側には食器棚で見つけたトレイと擂粉木をまるで剣と盾のように構えるランス。
 扉の中にケーキがあると知るインプ達が群がってくるのを迎え討つ。
 面で叩くほうが効率的だと、ランスは盾のように構えたトレイを、足元のインプの群れに力任せに打ち付けた。
 トレイの面積分のインプが伸し餅になる。
 その横で、フトン叩きならぬインプ叩きにいそしむセイジ。
 舞い上がる埃のように宙に逃れたインプの一団が空中から二人を狙う。
「……!!」
 再び絡み合うセイジとアキの視線。

 バッシーーーーン!!

 銅鑼を鳴らすような音がして、セイジの持つフライパンとランスの持つトレイが空中で正面衝突をした。
 両手で蚊を叩き潰す時の要領で二人は空中のインプを葬ったのだ。
 軽く頷き合い、二人は足元に群がるインプ退治に戻る。
 大きな塊はトレイで、逃げ出して個別になったインプは擂粉木で叩いていたランスだったが、ふと上げた視線の先、セイジの背後に回りこんだインプに気がついた。
「そこだっ」
 シュッと放つのは金属製のBBQ串。
 小刀のように投げられた串に、セイジの髪を引っ張ろうとしていたインプが絶命する。
 声を掛け合わずとも息の合った二人の攻撃に、インプの群れは次々と蹂躙されていった。

 ほぼ殆どのインプが片付いた頃、ふと何かを思いついたらしいセイジがランスの攻撃の手を押しとどめた。
 そして、ポケットから金平糖を取り出し床に撒き散らす。
「ケーキの代りだ。本当は金か貴金属と交換だが今日だけ特別だ」
 セイジの言葉を理解しているのかいないのか。金平糖を抱えて逃げていこうとするインプ達を、セイジはフライパンで叩き潰さぬ程度に追い立てる。
「元の世界に帰れ。でなければ潰すぞ」
 釈然としない様子で首を傾げているランスにセイジは言った。
「一部を帰らせて『此処は怖いからダメ』っていう奴を作るんだ」
「あーなるほど。……でもまてよ。金や貴金属を置いてくようになったら?」
「まあ無いと思うけど、そしたら教会大儲けだな」
 そういう問題ではない……が、セイジが爽やかに笑うので、ランスもそう思うことにした。

 食器棚に避難させていたケーキを取り出し、その上でメリー・ベルを振りつつ歌うセイジ。
「セイジの歌声……」
 珍しいものを聞いた、とランスが笑う。
「恥ずかしいけど仕事だからな」
「俺にも魔法が掛かったかもしれない」
「仕事だからだっ」
 幸せそうなランスの笑顔に、セイジはややつっけんどんにそう返した。
 額に汗が浮いて見えるのは、照れかそれともメリー・ベルの重さによるものだろうか。
「もっと聞かせてくれよ」
 ふふっと笑ったランスだったが、ある事を思い出してセイジに訊ねた。
「そういえば、何で金平糖?」
「ケーキの飾りにと思ってさ」
「へぇ」
 そんな計画的なところも、またセイジの魅力だ。



●何がついてるの?

 ネカット・グラキエスがケーキを持ち上げたその瞬間、場の空気が凍りついた。
 吃驚して目を見開くネカット。その横では俊・ブルックスが完全にフリーズしている。
「密集恐怖症の人とか、きついんでしょうねこれ」
 のん気に感想を述べるネカットの横で、持っていたメリー・ベルを静かに作業台の上に置く俊。
「シュンは大丈……」
「な・ん・で・だぁああーっ!?」
 訊ねるネカットの言葉に被せるようにして俊が絶叫した。
 その勢いのまま、両手をインプの密集する台の上に打ち付ける。
 俊の手の下でインプの群れの一部が平たく伸され、ひらひらと舞った。
「ん、大丈夫でした」
 頷くネカット。しかし……。
「痛って!」
 インプを素手で叩き潰した際、手の平にインプの持つ槍が突き刺さりでもしたのだろう、俊が小さく声を上げる。
 寒い時のように両手をこすり合わせつつ周囲に目を走らせた俊は、そこに鍋つかみ用のミトンを見つけた。
 それを両手にはめ、台の上のインプを片っ端から叩き潰し始める。
「さすがにこんな所で魔法とか使えませんし……」
 思案に沈んだネカットだったが、壁にかけられた麺棒が目に留まったところで何かを閃いたようだ。
「行きますよー……薙ぎ払え!」
 長い麺棒を取り、まるで自動車のワイパーのように台の上を滑らせる。
 フロントガラスの雨滴のごとく払われ、俊の方へと集められるインプ達。
「ミトンじゃらちが明かねえな……」
 ぼやいた俊が、近くにあったまな板を台の上に立てた。
 ネカットの薙ぎ払ったインプ達をせき止める作戦である。
 そうして一定数のインプが集まると、俊はインプ達の方へとまな板を押し倒した。
 まな板の重みでインプを潰すつもりであったのだが、残念ながらインプ達の数が多過ぎて、それだけでは潰しきることができない。
 そこで俊は、倒したまな板をミトンをつけたままの手で念入りに叩いた。
 キィキィという悲鳴をあげつつ潰れてゆくインプの群れ。  
「この調子で他のケーキもいったん持ち上げて退かしてから集めて叩き潰……倒しましょう」
 思わず漏れた本性を慌ててウィンクルムらしい言葉に置き換えて、ネカットは俊と共に頷きあった。

 動いている全てのケーキを持ち上げ、台の上のインプをあらかた片付けた俊とネカット。
 次に狙うのは、飛んだり散って逃げているインプ達だ。
「私が気を引いて動きを止めますね」
 こそりと俊に耳打ちしたネカットが、キッチンの少し開けたところに踏み出してゆく。
「ネカザイルはクリスマスも通常営業です。ケーキを探すより私と踊りませんか?」
 ステップを踏みつつ、宙を飛ぶインプの一団に手を差し伸べるネカット。
 ネカットの意図を掴みかねたのか、それともその動作に興味を引かれたのか、動きを止めるインプ達。
「……かかったな」
 ネカットのとても良い笑顔。
「今です、シュン!」
「くらえ!ウィンクルム・スマッシュ!」
 ネカットの合図を受けた俊が、湯切り用の平たい網をまるでテニスのラケットのように振った。
 網に叩かれた衝撃で、あるいは弾き飛ばされた末に壁や床にぶつかって絶命してゆくインプ。
「……って何言わせんだよ!?」
 思わずノリで叫んでしまった技名に、自ら突っ込む俊。
 その後は黙々と網を振り、やがて見える範囲にインプはいなくなった。
「片付きました?」
「多分な」

 ようやく静かになったキッチンの中。
 台に戻したケーキの前で2人はメリー・ベルを鳴らす。
「……ついでに塩でもまいとくか」
 ぽつりと漏れた俊の言葉にネカットが首を傾げた。
「今年のクリスマス盛りだくさんすぎる。何か憑いてんのか俺?」
 ぐったりとした表情でぼやく俊。そんな俊ににっこりと笑ってネカットが言った。
「はい、私がついてますよ」
 そういう意味じゃない。


●袋の中にいらっしゃいませ

 穏健派、羽瀬川 千代の意見。
「凄い数の小人さんだね。クリスマスケーキが食べたかったのかな?でも、これは住民の皆さんの物だから……取り返させて貰うよ」

 強硬派、ラセルタ=ブラドッツの意見。
「『幸せの魔法』の所為でケーキに足が生えたのかと思ったぞ。人騒がせな小人は早々に退治してやる、覚悟しておくが良い」

 口調は違えど、たどり着くところは一緒であるようだ。

 今まさにインプに略奪されようとしているチョコレートケーキを持ち上げ、調理台の上へと避難させる千代。
 そしてインプ達の攻撃から護るべく大きなガラスボウルを上に被せる。
 全てのケーキの保護が終わる頃には、キッチンの中は行き場を失ったインプ達が縦横無尽に飛び回り駆け回る地獄絵図と化した。
 これではどこから攻撃されるか分からない。
 上着の前をしっかりと合わせてフードを被り、さらに鍋つかみで手を保護した千代。武器とするのはまな板とレシピ本である。
 ラセルタは長い尻尾を上着の中に隠し、洗い物用のゴム手袋を着けた両手にレシピ本を持った。
 背後から攻撃されることを避けるため、背中合わせに立つ2人。
 
 バンバンバシバシ!!

 両手を合わせて飛ぶ蚊を叩くような要領で空中に舞ったインプ達を叩き潰してゆく千代と、調理台の上のインプを重点的に狙うラセルタ。
 が、いかんせん相手の数が多すぎる。
 インプ達の数は順調に減っているようではあるが、このままでは双方の体力的にも苦しくなりかねない。
 特に、飛び回るインプを追いかけている千代の負担は少なくないだろう。
 台の上のインプをあらかた叩き潰し終えたラセルタは、千代に声を掛けて一旦戦線を離脱するとゴミ出し用の大きなビニール袋を手にして戻ってきた。
 袋を広げると、今度は棚の上にあった角砂糖の瓶に手を伸ばす。
「これは……大変美味だと噂のアレではないか。こんなところにあったとは。少し拝借していくぞ」
 瓶の中の角砂糖を袋のなかにあけると、さも大事そうに袋を抱えるラセルタ。
 ラセルタの行動に、袋の中には美味しいものが入っているらしいと思ったらしいインプ達が一斉に群がってきた。
「駄目だ!これは俺様のものだ、渡さぬぞ……っと、しまった」
 護ろうとしていた袋を取り落としてしまった、そんな風体を装ってラセルタは口を大きく広げた袋を床に落とす。
 我先にと袋の中に入ってゆくインプ達。それは全てラセルタの狙い通りであった。

 残っていたインプの大半がビニール袋の中に入っていったところで、ラセルタは袋の口を素早く閉める。
 あとは文字通りの袋叩きだ。
 千代と2人で、インプの詰まった袋をまるで布団でも叩くかのように上からビシバシと叩く。
 ほどなくして袋の中のインプは1体残らず動きを止めた。
 あとは、ほんの少し残っていたインプをそれぞれ叩き潰せば、調理場にはようやく静寂が戻ってくる。
 袋叩きにされたインプ達はそのまま処分すれば良いが、調理台の上や床にはそれ以外のインプ達の亡骸が散らばっていた。
 ヒラヒラとした紙人形のようなそれらを箒で集め、別のゴミ袋に入れる千代。
 その横では、ラセルタがミトンやまな板、レシピ本などを元の位置に戻していた。
   
 静かになった調理場に、メリー・ベルの音と、千代の元気な歌声が響く。
 皆が笑顔であるように。幸せが訪れるよう。歌に込められるささやかな願い。
「重いだろう。代わってやる」
 そう言いながら手を出すラセルタに、千代は重たいメリー・ベルを手渡す。
「ご苦労だったな千代、美味いケーキを買って帰るとしようか」
「ラセルタさんもお疲れ様……怪我は無い?」
 じっと見上げて確認してくる千代に笑顔を見せ、ラセルタはベルを振りながら再び歌を口にした。
 このケーキを食べる近隣住民だけでなく、このお節介焼きの相手にも幸せが訪れると良い。
 賛美歌のように美しく響くラセルタの歌声。
 2人の『幸せの魔法』は甘いケーキを更に甘くすること間違いなしだ。 
 

●異物混入は許しません

 可愛いデコレーション。それを見るのもクリスマスケーキを食べる際の楽しみの一つだが、
 白いショートケーキに張りつくのが骨ばった小人では、想像するだけで食欲が失せるというものだ。
「インプにケーキを取られるのも困るけど、ケーキがインプまみれになったら食べられなくなっちまう。阻止しなきゃ」
 と、セイリュー・グラシア。
「そうだね、ケーキがインプデコになっては困るし。処理しようか」
 と、ラキア・ジェイドバイン。

 まずラキアが、壁にかかっていたやや大きめのフライパンを手に取った。
 それから互いにアイコンタクトを取り息を合わせてから、セイリューがおもむろにケーキを持ち上げる。
 ぎょっとして2人を見上げる、うじゃうじゃとしたインプの群れ。
 インプ達が動き出すより早く、ラキアはそこを目掛けてフライパンを力一杯振り下ろした。
 7号ケーキの直径はおよそ21cm。対するフライパンの直径はおよそ26cm。
 ケーキを持ち上げられた状態から陣形が崩れていなければ、ほぼ全てのインプがその一撃の犠牲となる。
 一斉に大量に叩き潰すには若干力が足りなかったのか、又は間一髪でフライパンの下から逃れたのか、
 討ち漏らした一部のインプを、続けざまバンバンとフライパンで引っ叩くラキア。
 その横でじゃセイリューが持ち上げたケーキを別の作業台へと避難させている。
 そしてセイリューは、ちょうど目に留まった卓上蚊帳をケーキの上に広げた。
 ラキアに討ち落とされたインプの亡骸がケーキに張り付いたりするのを防ぐためだ。

 ケーキを持ち上げては下にいたインプを叩き、保護したケーキを卓上蚊帳で護る。
 そんな要領で次々とインプを撃墜してゆくセイリューとラキア。
 文字通り虫けらのように潰されていくインプ達を見ながらポツリとラキアが言った。
「ちょっと可哀想な気もするんだけれど、ケーキに異物混入しても時節柄ヤバイからね」
 ラキアの同情心も分かる部分はある。
 だが、こんな気色の悪い生き物の屍骸が貼り付いているケーキなど、
 いくら『幸せの魔法』がかかっていたからといって、美味しく味わえるものではないだろう。
「インプトッピングケーキなんて誰も食べたくない!」
 だからラキアはフライパンを振り下ろし続ける。
 時折、攻撃から逃れたインプがラキアの腕などを刺してきたが、ラキアは全く構う様子を見せなかった。
「料理でも油が飛んだりするし。それと同じだと思えば耐えられるよ」
 不屈の精神で敵に立ち向かうのは、そういう理論らしい。
 クリスマスイベントを成功させて『聖』と『邪』の調律を保つのがウィンクルムとしての使命であるとか、
 そういう難しい理屈は今の2人にはあまり関係がない。
「イベントに来てくれた人に美味しいケーキを提供したいから」
 そんな思いを胸に、セイリューとラキアはインプ達の殲滅に心血を注いだ。

 やがて全てのインプがフライパンで伸され、静寂が戻った教会のキッチン。
 乾いたフキンを手にしたセイリューが、テーブルを拭くときのような仕草で、調理台の上に散らばったインプの亡骸を集めている。
 その傍らではラキアがゴミ袋の口を開けて待機していた。
 そして、ラキアが持ったゴミ袋の中へと落ちるように、セイリューがインプの亡骸をフキンで台から押し出す。
 掃除が終わると2人はポリ袋の口をしっかりと縛り、手をよく洗ってから『幸せの魔法』をかける作業へと戻った。

 少し重たいメリー・ベルを一緒に持ち、声を合わせてクリスマスソングを歌うセイリューとラキア。
「ケーキを食べた人達が幸せな気持ちになりますように!」
 ただインプ達を排除するのではなく、ケーキを綺麗なままで人々に届けようと頑張った2人の想いは、『幸せの魔法』に乗って、きっとそれを食べた人たちの元へと届くだろう。


●ぶちっといかなくて良かった

「ぎえっ?!うじゃわらきもい!な、何なのよあんたらはー!」
 感想を的確に凝縮したスウィンの叫び。
「これは大切なケーキなの!あんた達に取られるわけにはいかないのよ!」
 好きな食べ物を独り占めしようとする子供のように……と言ってしまうと語弊がありそうだが、
 とにかくそんな勢いでケーキを抱え込み、インプ達に背を向けてスウィンはケーキを護ろうとする。 
「くそ、武器がねえな!こう数が多いと面積広いやつで一気に潰すのがよさそーだな!」
 ケーキを抱えているためあまり自由には動けないスウィンを背中に庇いつつぼやくイルド。
 その目がすぐ側にあったコンロに留まった。
「これだ!」
 都合の良いことに、偶然コンロの側に置かれていた大鍋とフライパン。
 フライパンはスウィンに渡し、イルドは自分用の武器にと大鍋を手に取る。
 体重を掛けながら鍋底を押し付け、インプの群れを潰してゆくイルド。
 その横ではスウィンが片手でケーキを守りつつ、もう片方の手に持ったフライパンでインプの群れを叩いていた。
「おっさんフライパンで戦った事あるんだから!フライパン捌きはお手の物よ!」
 慣れた様子で、フライパンをラケットとかハエ叩きのように振り回していたスウィンが、潰れて紙のように薄くなったインプを見て言う。
「よかった……ぷちっとなっちゃったらトラウマ物よ、これ」
 1体や2体ならまだ我慢もできるが、ぱっと見ただけでも数100体はいると認識できるインプの群れ。
 これがいちいち普通の生物のように潰れたのでは、その光景はグロテスクなどという言葉では到底言い表せないものになったに違いない。
 が、伸されたインプが紙のようにヒラヒラと舞うのも正直鬱陶しいし、何より……。
「ちくちく突くな!ケーキが欲しかったら自分達で作れ!」
 袖口に取り付いたインプを振り払いながらイルドが怒鳴る。
 冬物の厚手の衣類に、メリー・ベルを振るための手袋を装備している身には、インプの攻撃は決して痛くはないものの、やはり煩わしい。
 その上、慈善イベント用のものを奪っていこうというその精神に腹が立った。
「大切なケーキなのよ!渡さないわ!」
 燃えたぎる2人の情熱。インプ達はなす術もなくその数を徐々に減らしていった。 

 やがて静かになったキッチンの中。
「ようやく倒したか」
 強敵ではなかったが、いかんせん数が多かった。
 じんわりと額に浮いた汗を袖口で拭いつつ息を吐き出すイルド。
「ふぅ、何とか死守したわね。残りのケーキに幸せの魔法をかけましょ」
 同じように「やれやれ」といった様子で首を振り、スウィンはメリー・ベルを手に取る。
「もー、このベル重いのよ。おっさん箸より重い物持った事がないのに」
「嘘吐け」
 イルドがすかさず突っ込み、スウィンはけらけらと笑った。
「ったく、また歌うのか……変な魔法だよな」
 ノリノリで楽しげに歌うスウィンの姿に小さく笑みを漏らして、イルドはメリー・ベルを持つスウィンの手に自分の手を添えた。
 箸より重い物を持ったことがないというのは流石に大嘘だが、このベルはスウィンにはきっと重過ぎるだろう。
 力の強いイルドの手に支えられてベルの動きが軽くなる。
「歌うイルドなんてレアね。録音したくなっちゃうわ」
 普段、歌ったりしないイルドの少したどたどしい歌い方にスウィンがくすくすと笑った。
「やめろ……」
 録音という言葉にげんなりとした表情を浮かべてイルドはスウィンに言い返す。
「歌うおっさんも結構珍しいけどな」
「2人ともあんまり上手くないけど」
 上手くはない。けれども互いを思いやる心を持った2人の歌声はあたたかだ。
「幸せの魔法、ちゃんとかかって頂戴ね」
「俺達がこれだけやったんだ、大丈夫だろ」



依頼結果:成功
MVP
名前:アキ・セイジ
呼び名:セイジ
  名前:ヴェルトール・ランス
呼び名:ランス

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 白羽瀬 理宇
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 少し
リリース日 12月14日
出発日 12月19日 00:00
予定納品日 12月29日

参加者

会議室

  • [4]羽瀬川 千代

    2014/12/18-23:55 

  • [3]アキ・セイジ

    2014/12/18-22:51 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。
    プランは提出できているよ。うじゃうじゃわらわらをなんとかできるといいな。

  • [2]スウィン

    2014/12/18-00:05 

  • [1]俊・ブルックス

    2014/12/17-00:26 

    俊・ブルックスとパートナーのネカだ。
    クリスマスなのに休みねえな…
    今回はそれぞれ別行動ってことになるが、ともかくよろしくな。

    ついでに、
    今月俺が飲む胃薬の数と種類

    【ダイスA(10面):7】【ダイスB(10面):8】


PAGE TOP