【愛の鐘】クリスマス市で天使に愛を(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

「ようこそ、我がラ・ポルト村へ!」

 ホワイト・ヒルの近郊。雪深い山の中にある、ラ・ポルト村は、まさに、田舎と表現するにふさわしく、何もない場所だ。
 暖かい時期、人々は農作業をして過ごす。
 とれた作物を保存用に加工して、冬はまるで冬眠をするかのように、ひっそりと屋内にとどまっている。
 しかし、クリスマスの時期は別である。

 村一番の大通りでは、クリスマス市が行われている。
 闇夜を飾るは、月と星。それと、人々が吐き出す白い息。
 その中に、ランプをともした露店が立ち並ぶ。
 ふかふかのコートと、顔の半分を隠ししまうマフラーを見につけた店主たちが、陽気に人を呼びこんでいる。

 とろけるような甘い香りは、ホットチョコレート。
 ココアとチョコレートの中間のような、飲み物だ。

 体をあたためるのならば、ホットワインが一番。
 グラスにいっぱいのワインは、指の先まで血を巡らせる。

 お腹がすいたら、ワッフルとクレープを。
 甘みを抑えたワッフルと、イチゴジャムが挟まっただけのクレープは、どちらも素朴な味だが、なかなか美味い。

 もう少し本格的に食べたい人は、ソーセージのグリルをいかが。
 じゃがいもをチーズ、ベーコンの入った、タルティフレットもどうぞ。
 これは簡易グラタンのようなものだ。

 通りの先には、雪と氷で作られた、大きな門が立っている。
 たくさんの天使や妖精が彫られたそれは、今の時期だけの彫像だ。
 天使の指に、同じく氷で作られた指輪をはめると、それが溶ける頃には、想い人に気持ちが伝わるらしい。
 すでに思いを告げている方は、氷の薔薇をプレゼントしてみてはどうだろう。
 天使の力で、永遠の愛が約束されると言われている。
 ちなみに指輪と薔薇は、門の手前の露店で売っている。

 ラ・ポルト村は、クリスマスが終わったら、また静かな暮らしに戻っていく。
 愛を交わした氷の天使は、雪に埋もれていくだろう。
 タブロスにお住いのウィンクルムたち。
 聖なる夜は、都会の喧騒から離れてみてはいかがだろうか。

解説

書かれている通り、クリスマス市を自由に楽しむエピソードです。
ちなみに飲み物や食べ物は、一律60jr。
氷の指輪はひとつ100jr、氷の薔薇はひとつ150jrです。


ゲームマスターより

こちらのエピソードの興味を持っていただき、ありがとうございます。
はるた改め、瀬田一稀です。

なんのひねりもないクリスマスデートです。
しっとり過ごすもよし、賑やかに過ごすもよし。
プランに記載のない場合は、他ウィンクルムさんとの絡みはありません。
ぜひ、大切なあの人とお楽しみください。

それでは、素敵なクリスマスを。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  ワッフルとクレープ購入

本当に甘い物好きなんですね、よかったらワッフルも少し食べます?
気に入ったなら、今度家でも作ってみましょうか。
市場ってわくわくします、どんな物があるだろうって。

暫くはお話しながら一緒に市を回りましょう。
グレンは見たいお店とかありますか?
私は装飾品のお店あったら覗いてみたいなって…
あ、指輪売ってます、私見てきますねっ!

こっ、恋人じゃないです!
デートでもないです…多分。
何か片思い中ということで解釈されてしまいました…
…ずっと一緒にいたいなって思ってるのは確かですけど。
あ、指輪も買っちゃいましたし嵌めて来ないと!

お待たせしましたっ
来年も一緒に来れますようにってお願いしてきました!



リヴィエラ(ロジェ)
  リヴィエラ:

(手を取られ、ロジェのポケットの中で手を繋がれる)
あ、あの、ロジェ様の手、温かいです…まぁっ、ホットチョコレート! 良いのですか?
ふふ、温かくて美味しいですね。ありがとうございます。
えっ、これは氷の薔薇…? ロジェ様…私、とても嬉しいです…
(感激して涙を流すと、力強く抱きしめられ求められる)
きゃっ、ろ、ロジェ様…い、痛い…苦しいです…っ
い、いえ、大丈夫です。私も貴方を愛していますから…
(どうしよう、ロジェ様がまるで獰猛な狼のように私を…ドキドキして鼓動が止まらない…
ロジェ様はギルティにはならないと言ったけれど(芝生の丘でお昼寝中エピ参照)
このまま食べられてしまっても良い…)



ロア・ディヒラー(クレドリック)
  渡しそびれてたクレちゃんへのプレゼント渡せるといいな。
ホットチョコレートを飲みながら、クリスマス市を楽しむ。
星が綺麗に見えるのは、冬だからかな。
(門を見て)天使に妖精…!氷で出来てるなんて信じられないよー!…ちょっと触ってみてもいいかな。
…?反応?

えっこれくれるの!?というか手編み!?
変な所器用だよねあ、ありがとう。
…クリスマスプレゼントはお返しできないや。…クレちゃんの誕生日プレゼントの方に依頼報酬で貯めてたお金つぎ込んじゃって。誕生日には絶対プレゼントあげたかったの。そ、そんなたいしたものじゃないけど!(プレゼント銀製の懐中時計(鎖付き)を渡す)クレちゃん、腕時計とか持ってなさそうだったし


シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  ラ・ポルト村のクリスマス。素敵ですね。
ふふ、ホットチョコレートにイチゴジャムたっぷりのクレープ。とっても美味しいです。
ノグリエさんはホットワインですよね?今は飲めませんけど大人になったら一緒に飲みたいです。
ウィンクルムだからとかそう言うのじゃなくて…ノグリエさんとはまだまだいっぱい一緒に過ごしたいんです。

時々、過去の私が羨ましくなります…きっと今の私よりもノグリエさんの事を知ってる。そんな自分。
でも今こうやって一緒に居られることも嬉しくて…きっと私の我儘なんでしょうね。

氷の指輪、溶けてくれるといいな。
貴方を思って天使に指輪の指に指輪を嵌めました。
私の思い人はノグリエさんしかいないのだから。


ブランシュ・リトレ(ノワール)
  少し、緊張したけど、誘ってよかったです
来てくれたって事は嫌われては、いないですよね…

クリスマスといったら特別な日ですよね
せ、せっかくだから、手を、つ、繋げたらなぁって…

あ、あの、ノワールさん
その、て、手を…

ノワールさんの手袋あったかい…
はっ、嬉しいですがそうじゃないんです、うう

せめて彫像に着く前に言わないと!
あの、その、えっと…
手を、繋ぎませんか!

うう、私のばか
手袋を外しておけばよかったです…
でも手を繋げた事には違いないですよね
よかった、勇気を出してみて
…何か勘違いされている気はしますが、まだ時間はありますし

来年もこれたら、その時はもっと自然に手を繋げるような関係になれていたらいいな…


●貴方のためのプレゼント

 ラ・ポルト村のクリスマス市である。
 ロア・ディヒラーはホットチョコレートを飲みながら、クレドリックと歩いていた。
「クリスマスに外出することなど今までなかったが、これはこれで興味深いな」
 そう言って、周囲の店や雪の積もる景色に視線を向けるクレドリック。
 ロアはそんな彼の隣で、ホットチョコレートに息を吹きかけた。考えるのは、持ってきているある物のことだ。

 ――クレちゃんの誕生日は12月20日。渡しそびれていたプレゼント、今日こそ渡せるといいな。

 願いを込めるつもりで空を見上げれば、タブロス市内からでは到底望めないほどの、たくさんの星が瞬いていた。その美しさに、ロアはチョコレート混じりの、甘い息を吐く。
「ねえクレちゃん、星が綺麗に見えるのは、冬だからかな」
「空気が澄んでいるからという意味なら、それもあるだろう」
 しゅるりと強い風が吹き、二人の長い髪が舞う。
「さむ……そう言えば、この道の先に氷の門があるらしいけど・・・あれかな?」
 首をすくめるロアとクレドリックがたどり着いたのは、月下に輝く氷の門。
「ふむ、精巧な彫刻だな」
「天使に妖精……! 氷でできてるなんて信じられないよー! ちょっと触ってみてもいいかな?」
 その言葉に、クレドリックは納得したようにうなずく。
「なかなかいい反応だ」
「……? 反応?」
「ああ、来た甲斐があるというものだよ」
 やっぱり、クレちゃんの考えはときどきわからない。
 思いながら、ロアは天使の冷たい頬をさらりと撫ぜた。クレドリックはロアの傍らで、精緻な飾りをじっと見つめている。

 ――永遠の愛か……それを誓えば、ロアは永遠に私のものになるのだろうか。

「クレちゃん? どうかした?」
「いや、なんでもない。それよりロア、これを。プレゼントがつきものらしいので、用意してみたのだよ」
 ロアは、がさりと取り出されたそれを、半ば条件反射のように受け取った、そして直後、目を見開く。
「赤いマフラー……。えっ、これくれるの! というか、もしかして手編み?」
「編み物の本を見て作ったのだが、どうかしたかね?」
「ふふ、変なところ器用だよね。ありがとう……って、え?」
 そこでロアは、息を飲んだ。視線はクレドリックの首元。あれ、もしかして、と指さしたのは、そこに見える赤いものだ。
「ああ、長く作ってしまったから、私の分のもあるのだよ」
「ってことは、おそろい!?」
「なにか問題があるかね?」
「べ、別に……」
 動揺するロアの首に、クレドリックがマフラーを巻いてくれる。しかし、ロアの表情は、暗い。
「ごめんね、クリスマスプレゼントはお返しできないや。誕生日プレゼントの方に、ためてたお金つぎ込んじゃって」
「……誕生日、プレゼント?」
「うん、そ、そんなにたいしたものじゃないけど!」
 ロアは、前から準備していた物を、クレドリックに手渡した。
「鎖つきの懐中時計……」
「クレちゃん、腕時計とか持ってなさそうだったから」
「……ありがとう、ロア。こんなに嬉しいプレゼントは、初めてかもしれない」
 クレドリックは緩やかに微笑み、時計の文字盤を見つめた。その針が刻む音が、心音のようだ、となぜか思う。
 ――ロアが近くにいるようで落ち着く……。などと、いきなり言ったらおかしいだろうな。

 雪を踏みながら、さくさくと道を歩く。
 ロアの首元では赤いマフラーが揺れ、クレドリックのポケットの中では、時計の鎖がちゃりと音を立てた。

●無邪気な小犬と雪の散歩

 雪道のクリスマス市で、ニーナ・ルアルディとグレン・カーヴェルは、甘い香りに包まれていた。
「クレープ、もっといろいろ入っててもいいんだが、これはこれで美味いな」
「グレン、本当に甘いもの好きなんですね。よかったら、ワッフルも少し食べます?」
「いいのか? ……うん、こちらも美味いな」
「ふふ、気に入ったんなら今度家でも作ってみましょうか」
 ニーナの言葉に、グレンが嬉しそうにうなずいた。その表情に言った方も嬉しくなって、ニーナの足は、雪持ちだというのにリズムよく進む。そんな彼女に、グレンは手を差し出した。
「おい、足元悪いし暗いし、転ぶなよ。ほら、お手」
 ニーナは、つい言われるままに手を伸ばした。しかし手を触れた直後、はっと気づく。
「お手って……私、犬じゃありません!」
「……しっかり反応しておいて、犬じゃないってふて腐れるのはどうかと思うぞ」
 グレンは、苦笑しながらニーナの手をぎゅっと握った。
 こいつ、そのまま放っておくとすぐに変な奴に声かけられたり、捕まったりしてるからな。手を引いてやらないと不安だ。
 ……と思っていることは、もちろん口にしない。ニーナは犬じゃないって言っていたのも忘れて、もうはしゃいでいる。それを見て、犬は雪の中を駆け巡るって本当だな、と思ったことも、もちろん秘密である。
「雪と氷……綺麗ですね。グレンは見たいお店とかありますか? 私は装飾品のお店があったら覗いてみたいなって……」
 そこまで言って、ニーナは足を止めた。
 話に聞いていた門の前に、なんとも可愛らしい店があったからだ。
「あ! 指輪売ってます、私見てきますねっ!」
 グレンの手を離し、走ってお店に向かう。グレンと揃いの指輪を持ってはいるけれど、それとこれとは話が別だ。

 店でとても氷とは思えない綺麗な指輪を見ていると、笑顔の店主が口を開いた。
「一緒に歩いていた男前は、お嬢さんの恋人? 今夜はデートかい?」
 その言葉に、ニーナはぶんぶんと首を振る。
「こっ、恋人じゃないです! デートでもないです……たぶん」
「おや、そうか。片思いなんだね」
「……ずっと一緒にいたいなって思ってるのは、確かですけど」
 言うと店主は、たくさん並んだ指輪を指さした。
「それならこの指輪が、きっとあなたのためになってくれるよ」

「……ということで、指輪を買ってしまったので、天使にはめに行きたいです」

 ニーナとグレンは、氷の門へと向かった。
 店は門からさほど遠くはない場所にあったのだが、その短い距離の間も、グレンはニーナの手をとった。ちょこちょこ歩いて転びそうだからな。そうなったら、引っ張って止めてやらないと。
 ニーナがついて来るなと言うので、門の前で帰りを待つ。

「お待たせしましたっ! 来年も一緒に来れますようにって、お願いしてきました!」
 ニーナが言うと、グレンは困ったような、それでいて楽しそうな顔をする。
「お前なぁ、そういうの別に報告しなくていいんだぞ……。つーか、天使像じゃなくて俺に直言えっての!」
「うーん、じゃあ、お願いしますっ」
 ニーナがぺこりと頭を下げると、グレンはぷっと吹きだして、ニーナの頭に手を置いた。
「じゃあって……まあ、別にいいけどさ、来年一緒に来てやっても」
「ってちょっと、頭ぐしゃぐしゃしないでください!」
 きゃんきゃんと言う声が、本当に子犬みたいで愛らしい。グレンは再びニーナの手をとって、その後離すことはなかった。

●天使がとける春を待つ

 村一番の大通り。道の両側に並ぶ露店が暖かそうに見えるのは、ランプの光のせいかもしれない。
 シャルル・アンデルセンとノグリエ・オルトは、きょろきょろとしながら、大通りの真ん中を歩いていた。
「ラ・ポルト村のクリスマス、素敵ですね」
「いつもは静かな村だと聞きましたが、今は本当に賑やかですね。こんな風にクリスマスをシャルルと過ごせるなんて、思っていませんでした」
「私もです。まさかノグリエさんと、クリスマス市に来るなんて」
 シャルルは微笑み、湯気を立てるホットチョコレートに口をつける。さっき食べたクレープのイチゴジャムと、チョコレートの甘みが口いっぱいに広がった。
「ふふ、とっても美味しいです。ノグリエさん、ホットワインはどうですか?」
「ええ、体がとても温まりますよ。でも、シャルルにはまだ少し早いですね」
 ノグリエが喋ると、ふっと唇の前に白い息の塊が生まれる。それが、言葉の通りとても温かそうだ。
 シャルルは、甘いチョコレートをこくりと飲んで、ノグリエを見上げた。
「今はまだお酒は飲めませんけど……大人になったら、一緒に飲みたいです」
「大人になってからも私と一緒に?」
「ウィンクルムだからとか、そういうのじゃなくて……ノグリエさんとは、まだいっぱい一緒に過ごしたいんです」
「……その時も貴女が傍にいてくれれば、ボクは幸せですね」
 そう言って、ノグリエはワインを一口、口に含む。
 頬が赤いのは、寒さのせいか、ワインのせいか。
 その横顔を見ながら、ふと、シャルルは思う。大人になる頃には、私は過去の自分に、嫉妬をしなくなるのか、と。
 失っている過去。それは決して、今手にできるものではない。
 そんなことを考えたからだろう。気付けば、呟いていた。
「私……時々、過去の私が羨ましくなります。きっと今の私よりも、ノグリエさんのことを知ってるから。でも、今こうやって一緒にいられることも嬉しくて……きっと、私は我がままなんでしょうね」
「自分の顔を知りたいと思うことも、ボクと一緒に過ごしたいと思ってくれている事も、ぜんぜん我がままなんかじゃありませんよ。そんなものは、我がままなんて言いません。ボクだって」
 そこで、ノグリエは口をつぐみ、シャルルをじっと見つめる。
 先の言葉を聞くのは怖い気がして、シャルルも何も言うことができない。

 二人で黙って、氷の門までの道を歩いた。
 そこには、指輪の並ぶ店がある。
「あの……指輪、買ってもいいですか?」
「シャルル、そういう時は、『買って』って言えばいいんですよ?」
 ノグリエは笑いながら、シャルルに指輪を買ってくれた。さっきの何とも言えない雰囲気はまだ二人の間に立ち込めていたけれど、ノグリエはもうすっかりいつものノグリエだ。
 誰のことを思ってとか、そういうのを聞かないところがノグリエさんらしい。……それともわかってるのかな。
 シャルルは黙って、天使の像に指輪をはめた。

 ――私の想い人は、ノグリエさんしかいない。

 天使像に向き合っているシャルルを、ノグリエは見つめていた。
 さっき言おうとしてやめたのは、こんな言葉だ。
「ボクもね、キミともっと一緒にいたいと思っているよ。ボクは確かに過去のキミのことも思っていたけれど……けれど、今のキミも含めて、愛しているんだよ」

 ――そう、できることならボクは、キミの想い人になりたい。

 シャルルが満面の笑みで振り返る。
「春が待ち遠しいですね。ノグリエさん!」

 雪が溶け、天使の像も指輪も消えてしまう頃。
 想いは叶っているのだろうか。

●大きな手袋の中の小さな手

 白い雪に埋もれるラ・ポルトの村。大通りだけが華やかに、多くの人を集めている。
 先を歩くノワールの後ろをゆっくりと歩きながら、ブランシュ・リトレはほうっと息をついた。安堵の息である。
 少し緊張したけど、誘ってよかったです。ノワールさん、来てくれたってことは、嫌われてはいないですよね……。
 窺うようにノワールの顔を見るが、表情は平時と同じ。ブランシュは露店に目を向けた。ノワールが、優しく声をかけてくれる。
「色々と売っているな。何か気になるものはあるか?」
「いえ……」
 ブランシュはゆるゆると首をふった。本当は、ここに来てからずっと気になっているものがあるけれど……。
 そっと、視線を落とす。その先にあるのは、/★ノグリエ★/の大きな手のひらだ。
 さっき、/★ノグリエ★/が前を歩いている時から、気になっていた。大きな体の横で揺れる、大きな手のひら。でも、/★ノグリエ★/が今言っている「何か」は、露店に売っている「何かのことだ。こんなところで言うわけにはいかない。
 ブランシュは/★ノグリエ★/が露店の前から歩きだすのを待って、声をかけた。ノワールさん、と呼びかける声は震えてしまったけれど、言わなければきっと後悔すると思った。
「どうした、ブランシュ?」
 見下ろす/★ノグリエ★/さんの顔を、見上げる。
「あ、あの、ノワールさん。その、て、手を……」
「手?」
 ノワールがブランシュの手を見る。白く小さな指先は、この寒さにか、わずかながらも赤くなっているようだった。これではいけない、と自らの手袋を外す。
「なんだ、手袋していないのか。寒いだろう。私のですまないが、使うといい」
「え、あの、あ、ありがとうございます……」
 ブランシュはノワールの手袋を受けとり、それを小さな手にはめた。男性サイズである。指先はぶかぶかだし、手首のサイズもゆるゆるだ。でも。
「あったかい……」
 思わず呟き、うつむいた頬に両手を当てる。
 ……って、嬉しいですが、そうじゃないんです!
 はっと気付いて、大きく目を開くブランシュ。しかし/★ノグリエ★/はその表情には動かない。
「よし、つけたな。じゃあ行くか」と、あっさり足を動かし始める。
 せめて、門に着く前に言わないと……、と。ブランシュは大きな手袋の中で、小さな手を握った。

 しかし、一度振り絞った勇気は、なかなか充填/★さえる★/ものではない。気が付けば、氷の門の前まで来ていた。これではいけないと、ブランシュは覚悟の決まらないまま、ノワールの袖を引く。
 ノワールはゆっくりと振り返った。
「なんだ、やっぱり気になるものがあったのか?」
「あの、そうじゃなくてですね、その、えっと……」
 恥ずかしくてうつむきそうになる顔を持ち上げたのは、口ごもるブランシュの次の言葉を、ノワールが優しく待ってくれたからだ。冷たい空気を吸い込んで、言葉とともに吐き出す。
「手を、繋ぎませんか!」

 正直に言えば、ノワールは驚いた。さっきのはそういう意味だったのかと、大きな手袋をはめている、小さな手に視線を落とし、視線を上げて顔を見る。
 ブランシュの頬は、まるでりんごのように真っ赤に染まっている。その気持ちはとてもわかりやすい。しかしあえて気付かないふりで、ノワールはブランシュの手をとった。
「そうだな、人通りも多いし、はぐれたから困るか」

 ノワールの大きな手が、ブランシュの手を握っている。
 ――うう、私のばか……。手袋を外しておけばよかったです……。
 嬉しいのに、嬉しくない。でも、手をつなげたことには違いない。そう考えれば、勇気を出して良かったと思いもする。
 手袋ごしだからノワールの手の温度などわかるはずがない。それなのに、すごく温かく感じるのはどうしてだろう。
 自然と緩むブランシュの頬を、ノワールは見下ろしていた。この年ごろの子の考えはよくわからない。どうして私なんだ。……悪い気は、しないが。
 なぞは解けない。しかしはにかむブランシュは、愛らしいと思うのも事実。
 ブランシュは雪のように白い髪を揺らして、さくさくと歩いている。
 来年も来れたら、その時はもっと自然に手をつなげるような関係に慣れていたらいいな。
 そんなことを思いながら、ぶかぶかの手ぶくろの指を曲げて。ブランシュは、ノワールの手をぎゅっと握った。

●天使の像に愛を誓う

 さくさくと、雪の積もった道を歩いている。両足の先と右手は、じんとしびれて痛むほど。しかし、左手だけは違う。
「どうしたリヴィー? まだ寒いか?」
「いえ、あの、ロジェ様の手、あたたかいです」
 リヴィエラは、ロジェのコートのポケットの中で繋がれている右手を、少しだけ動かした。ロジェはリヴィエラが、手を抜こうとしていると勘違いしたのだろう。
「大人しくしてろ」
 ぎゅっとその手を握り込む。
「それにしても、手はいいが、体が冷たいのはいかんともしがたいな。お」
 リヴィエラの手を引くようにして、ロジェは露店に向かった。甘い香りが漂う、ホットチョコレートの店。そこでロジェはホットチョコレートを/★ふたち★/買った。ほかほかと湯気を立てているカップを、渡してくれる。
「まあ、良いのですか?」
「ああ、俺も飲みたかったんだ」
「ロジェ様、甘いものお好きですもんね」
 微笑むロジェに笑顔を返し、リヴィエラはカップに口をつける。
「ふふ、暖かくて美味しいですね。ありがとうございます」
 左手には甘い甘いチョコレート。右手にはロジェの手。温かく優しい物に囲まれて、幸せだとリヴィエラは思った。

 通りを抜けると、話に聞いていた氷の門が見えてきた。その手前に、お店が何件か並んでいる。
 ロジェはそこで足を止めると、リヴィエラとつないでいた手を、すっと放した。
「リヴィー、ちょっと見たいものがあるから、お前はここで待っていてくれ」
「え? ロジェ様が行くのなら私も行きます」
「いや、ひとりで大丈夫だ。右手は、すまないがこれで温めていてくれ」
 ロジェはリヴィエラに飲みかけのカップを渡し、雪道を歩いて行く。リヴィエラはしばらくその背中を見送っていたが、ロジェは、すぐに人ごみに紛れてわからなくなってしまった。
 ぼんやりと、大きな氷の門に目を向ける。と、そこには精巧な天使の像。
 本当に、天使様がいるのね。
 その見事な作りに目を奪われる。
 女性や子供の像が多いけれど……あそこで剣を掲げている方は、男性なのね。ちょっとだけロジェ様に似ているかも。

 氷でできた凛々しい瞳を見つめていると、背後から声がかかった。

「おまたせ、リヴィー」
「ロジェ様、おかえりなさい!」
 リヴィエラはくるりと振り返った。その眼前には――。
「えっ、これは氷の薔薇……?」
「ああ、たった今、買って来たんだ。……お前に、愛を誓うために」
 ロジェがリヴィエラをきつく抱きしめる。
 リヴィエラの両手からカップが落ち、白い雪の上に、小さな染みを作った。
「俺はお前のものだ。もうずっと離さない。他の男の目には触れさせない。お前は俺だけの……俺だけのものだ……!」
「ロジェ様……私、とても嬉しいです……」
 声が震え、瞳からは熱い涙がこぼれた。ロジェはそんなリヴィエラを、いっそう強く抱きしめる。
「きゃっ、ろ、ロジェ様……い、痛い……苦しいです……っ」
「……痛かったか? すまないリヴィー」
 リヴィエラの体から、ロジェの両腕が離れる。でもそれが寂しくて、リヴィエラはとっさに口を開いた。
「い、いえ、大丈夫です! あの、私も貴方を……愛していますから」
「リヴィエラ……」
 ロジェの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
 鼻先が触れ、吐息が唇をかすめると、リヴィエラは知らず知らずのうちに、呼吸を止めていた。ロジェに聞こえてしまいそうなくらい、鼓動が高鳴っている。
 しかしそこで、ロジェの動きは止まってしまった。ゆっくりと顔を離し、苦笑する。
「……だめだな。いくら愛を誓うと言っても、こんな天使たちの前では」
「あ……」
 リヴィエラは横目で、氷の門を見た。さっきのロジェに似た天使と目が合って、なんだかとても、気恥ずかしい気持ちになる。
「今は、これだけで我慢しておこう」
 ロジェは最後にもう一度、とばかりきつくリヴィエラを抱きしめた。そして体を離し、足元に視線を落とす。
「ホットチョコレート……すまないな。また買うか?」
「いえ、あの、大丈夫です。私こそせっかく買っていただいたのに、こぼしてしまってすみません」

 ふたりはカップを拾うと、また露店の並ぶ道へと歩き始めた。
 さっきと同じように、ロジェのポケットの中で手をつないでいる。でもふたりに会話はない。

 ――どうしよう、動悸がとまらない……。それに……以前の任務で、ロジェ様はギルティにならないと言ったけれど、私、食べられてしまってもいいと思った……。

 ――どうしたら良い? 自分でもどうしようもないほど、醜い独占欲に支配されている自分がいる……こいつを誰の目にも入らない場所に、閉じ込めておきたい。壊してしまいたい。どうした、俺は何を考えているんだ……。

 さくさくと、真っ白な雪を踏んでいる。
 互いの思いは、胸の中に秘めたままだ。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月12日
出発日 12月19日 00:00
予定納品日 12月29日

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