【愛の鐘】さつきのきつさ出張版~氷戀華(キユキ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●資料:図録より抜粋

 貸出:<さつきのきつさ>冬の図録 vol.xx

  名称:氷戀華(ひょうれんか)
  正式名称:不明
  地域:ミッドガルズ北部・樹氷の迷宮

  樹氷の迷宮にあると伝えられる、『雪の精』の宮殿にのみ自生する植物。
  種は金平糖に似た多面体の氷の中に、六角形の白い塊が浮かぶ。大きさは2cm角。
  種1つから10株程生える。雪が5cm以上積もった肥沃な土に撒くこと。長期的な種の管理は『雪の精』のみが知る。
  芽が出ると、半透明の葉が地面に広がる。葉の形はよもぎに似て、また蒲公英にも似ている。根の深さは20cm程度。
  茎の長さは10cm〜30cm。葉・茎ともに氷のオブジェと見紛う姿となる。色は透明・白・青。蕾も同様。
  つるつるとした手触りで、ひんやりとしている。蕾は1株に1つか2つ。
  蕾が出来て3日後から、太陽が天頂に昇る頃に一斉に咲く。太陽が沈むと閉じ、翌日に再び咲く。
  花は続けて7日咲くと、8日目の昼に天辺から解けて2cm角の大きさに固まる。咲いた花の数だけ種が出来る。
  
  備考
  花は咲く際に傍に居る人々(あるいは動物)の心模様を吸い上げて形が変わるため、
  どのような花となるかは咲くまで解らない。
  色は透明・白・青のみで、似ているという判断のみ。また、似ているのは形だけで大きさは比例しない。

  過去に咲いた花・参考
  さつきの店長:木蓮、薔薇、百合 他
  さつきの店員ミユキ:パンジー、紫露草、薔薇 他
  


●冬だけの、不思議な喫茶からのご案内

 <さつきの喫茶より、冬霞の庭へのご案内>

 みなさま、元気にお過ごしでしょうか? <さつきのきつさ>店長でございます。
 ホワイト・ヒルは深い雪に覆われ、クリスマスの音色が町の至るところから聴こえて参ります。

 さて、この度はみなさまに、『氷戀華』開花のお知らせです。
 スノーウッドの森奥でのみ咲く花『氷戀華』が、当庭園に花咲くようになってはや数年。
 この地に住まう『雪の精』の厚意により咲くようになったこの花は、12月のこの時期にしか咲きません。
 どうぞ、この機会に一度ご覧になってはいかがでしょうか。

 場所 ミッドガルド北部/ホワイト・ヒル郊外『さつきの喫茶〜冬季特別店舗』
 開催 氷戀華と迎えるクリスマスの会

 パズル好きの店長と店員がおりますが、今回パズルはありません…(´・ω・`)ショボン
 その代わりと言ってはなんですが、氷戀華の鑑賞後はクリスマス仕様のお茶菓子をお楽しみください。

 ※今回、店長は出没しません。なぜかというと、皆様へ振る舞うお菓子の準備で猫の手も奪いたいのです(`・ω・´)キリッ
 ※庭には当店店員のミユキが居りますので、何かの折はそちらへお尋ねください(^ω^)
 ※当店店長および店員は氷戀華だけでなく、多くの花を愛しております。
  そのため、愛ゆえに暴走して氷戀華でない話が出てくるかもしれません。あしからず(*´∀`)♪

 ☆最後に
 『氷戀華』は非常に貴重な花となります。
 そのため、個人での写真撮影、及び写真や花そのものの持ち帰りを禁じさせて頂いております。
 記念に写真を撮りたい方は、当店店員あるいは店長へお申し出ください。
 
 それでは、皆様のご来園、お待ちしております(*^v^*)

解説

 皆様が『雪の精』から貰い受けた『氷戀華』が、ついに見頃を迎えたようですyo!

・『冬霞の庭』貸し切り「氷戀華と迎えるクリスマスの会」
 お茶菓子も込みで、参加費200Jrとなります。

・氷戀華
 どのような花が咲くのか、もしも「こういうのが良い!」という希望がございましたら、
 プランにその旨をお書きください。GMのセンスに任せる!という方は、プランに一言
「花はお任せ!」とお書きください。皆様のプラン、プロフィールを元に書かせていただきます。

・写真について
 スマホやカメラといった撮影可能な媒体は、庭へ出る前に店内の金庫へ預ける形となります。
 カメラマンとして一眼レフを持ったミユキが庭園をうろうろしていますので、
 咲いた氷戀華やパートナーと一緒の写真を撮ってもらうことが出来ます。
 彼女は本店でも写真撮影を頼まれることが多いので、アマチュアとしての腕は保証してくれます。店長が!

 ※花の保護の観点から、写真の持ち帰りは残念ながら出来ません…(´・ω・`)ショボ-ン
 その代わり、冬の間は『冬霞の庭』のギャラリーに皆さんの写真が飾られます。
 冬が終わると本店手持ちの資料として、図録アルバムに仕舞われます。
 アルバムは以降<さつきのきつさ>を訪れたときに、頼めばいつでも見せてくれますよ(*´∀`*)

ゲームマスターより

キユキと申します。
初めましての方もそうでない方も、エピソードをご覧下さりありがとうございました。

氷戀華は、想いを掬い上げ花ひらく植物。
切ない気分ならば静謐な花が、明るい気分ならば鮮やかな花が咲くことでしょう。
おや? あちらの花は、もしや秘めた恋心では……、おっと、誰か来たようだ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  この間雪の精から種をもらった、氷戀華の花が咲いたという。
ジャスティとどんな花が咲いたかを見に行こう。


少し前に喫茶店でレコード聞いたあとから、彼の様子がおかしい。
どうしたのか聞いても「なんでもありません」って言われる…。

彼の様子がおかしいと、こっちまで調子が狂ってしまう。
前みたいに小言を言ってくれたりしている方がずっとマシだ。


氷戀華はどんな花だろうか。
きっと、素敵な花が咲くのだろうな…。

氷戀華を見て、彼に話を聞いてみたが、やはりどこか上の空だ。

「何かあったの?
あまり頼りにならないかもしれないけど、パートナーだし、相談してくれたら、嬉しいな」と彼の目を見てちゃんと伝える。
返事をもらえたら、微笑む。



淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
  氷戀華…きっと綺麗なんでしょうね。

先日イヴェさんに私のことを好きだと言っていただいてまだお返事してなくて…ちょっと気まずいのですが…せっかく誘って頂けたので楽しまないと。
イヴェさんの事、嫌とかそんなことは全然なくて…むしろ好き、だし…私でいいのかな?って思うんですよ、イヴェさんはとってもカッコいいし。…でも私がいいって言ってくださるんですよね…。
そんな風に言ってくれるイヴェさんのこと好きだし愛し…
(氷戀華の変化に気付く)
カーネーション…カーネーションの花言葉は純粋な愛情なんですか…へー…。
って私の気持ちだだ漏れじゃないですか!?もしかしてこれを狙って!?イヴェさん卑怯ですよぅ。(涙ぽろぽろ


篠宮潤(ヒュリアス)
  ・花(両者共)お任せ!

「皆で貰ってきた種、から…氷戀華が…」
感激
様々な色や形になった氷戀華観察

「写真は好き、だよ。未来に、形に残るモノって、いいよ、ね」
足元からも咲いたと言われ驚き
僕の、心に反応した、形…
何の花だろうと見つめ
その瞬間撮られれば照笑い

「ヒューリ、写真苦手…?」
「えっ…一枚、も?人生で一枚も…写真ない、のっ?」
「…一緒に、撮らない…?う、そっか…」
断られ、しょぼん
しょぼぼん
ずーん
「!いい、の!?」
ぱぁ(輝)
(花も…誰かと一緒に映る方が、どこか嬉しそう、だ)
「っうわ!?」

お茶菓子中
ずるい、よ…と写真の事でいじけつつ菓子もぐもぐ
遠慮せず文句も伝えられるようになった自分の変化には気付かず


Elly Schwarz(Curt)
  氷戀華:白粉花のような=花言葉:臆病

・前回お遣いをキッカケに参加
・クリスマス会にて、お菓子を食べつつ氷戀華を眺める
あの種がこんなに綺麗な花を咲かせるんですね…皆さんの花、凄く素敵です。
僕の花は…あ、白粉花、ですか…。
(確か花言葉は臆病…
「心模様を吸い上げて形が変わる」と言う事は本当のよう、です、ね)

・ミユキと話してる彼に気付く
クルトさんが誰かと話してるなんて珍しいです。
(あれからクルトさんと上手く話せません…これではウィンクルムとしても…)

クルトさん…。
(僕も貴方のように伝えられる日が来るでしょうか…)

・今の自分を超える為、こっそり花と写真を撮る
(いつか必ず貴方に答える為に…強くなりますから)



フィオナ・ローワン(クルセイド)
  『氷戀華』は冬至の頃に花を咲かせるなんて、
なんだか、神秘的ですね
一体、どんなお花なのでしょう?
傍に居る人の心を映す、と言う話ですけれど…
どのようなお花が咲くのか当もつきませんが
なにかの「はじまり」を思わせるお花ですよね

喫茶の皆様とは、夏以来
憶えてくださっているかどうかは…?
どうなんでしょう?

お花と言えば
四季折々の花を愉しめる温室に出かけたことがありましたが
あのときの、薔薇のブーケは印象的でした…
クルセイドとの最初の思い出、ですしね

お花を愉しんだ後、お菓子をいただきながら
喫茶の方々と、お話をする機会があったら
四季の花を植えた温室を訪れた際のお話を
してみることに、いたしましょうか…?


●冬霞の庭
 冬の晴れ間。『冬霞の庭』は店舗の建物の奥、森に面して広がっている。
「お茶の準備が出来たらお呼びします。何かありましたら、ミユキの方へどうぞ」
 朗らかな笑みの店長は一同を庭へ案内し、庭の様子を見ていたミユキを呼んだ。彼女は雪を跳ねながらやって来て、ぺこりと辞儀を寄越す。首には一眼レフカメラが。
「では、庭での注意事項をお話しましょう」

 店長による注意事項を聞きながら、『淡島 咲』は隣の『イヴェリア・ルーツ』をそっと窺った。
(先日イヴェさんに、私のことを好きだと言って頂いて)
 まだ返事をしていないことが、気に掛かっている。
(ちょっと気まずいのですが……せっかく誘って頂けたので、楽しまないと)
 彼女に窺われているイヴェリアは、少し違った。
 ーー……よし、花言葉はだいたい覚えたな……。
 ここへ来る前、記憶スキルを用いて花言葉を覚えていたなどと、気づかせない。
(氷戀華の話を聞いて、サクの気持ちを早く知りたくて。思わず一緒に行こうと誘ってしまったが……)
 彼はこっそりと溜め息を吐いた。
(俺、本当に卑怯だな)
 でも、こんなに人を好きになるのなんて初めてで、じっとしていられなくて……。と、言い訳のように胸の内で咲へ詫びて。

 写真についての注意事項は、ミユキから。
 それに耳を傾ける内にふと、『クルセイド』は出掛ける前に読んでいた百科事典の記述を思い出した。
(『氷戀華』か。心を映して咲く花というのも、風流というか……)
 彼が考え込んでいると、『フィオナ・ローワン』が小さく呟く。
「冬至の頃に花を咲かせるなんて、なんだか神秘的ですね」
 一体、どんなお花なのでしょう? と奥の庭を見つめる姿は、心なしか楽しそうだ。
「いや、まったく興味深いものだ」
 どのような花が咲くかは、見てのお楽しみというわけだな。
 相槌を打ちながらも、クルセイドの目線はやや明後日の方向を向いた。

 全員が注意事項に同意したところで、ミユキがカメラを軽く掲げる。
「私は随所で写真を撮っていますので! あと氷戀華なんですが……」
 彼女と店長が花の様子を見たときに、一部すでに咲いてしまったものがあるという。
「外縁に沿っているので、皆さんは庭の真ん中へどうぞ!」
 ミユキが示す先、地面は様々な青色に色づいている。
「どうぞいってらっしゃいませ」
「いってらっしゃいませ!」
 落ち着きのある店長の笑みと明るいミユキの笑みに見送られ、皆は庭へと足を踏み入れた。



●氷戀華(ひょうれんか)
 この間雪の精から種を貰った、氷戀華の花が咲いたという。
『リーリア=エスペリット』は『ジャスティ=カレック』と共に、どんな花が咲いたか見に行こう、と再びこの庭園を訪れた。
(でも……)
 少し前に喫茶店でレコードを聞いた後から、ジャスティの様子がおかしい。
(どうしたのか聞いても、『なんでもありません』って言われる……)
 リーリアは、吐きそうになった溜め息を慌てて呑み込んだ。
(前みたいに小言を言ってくれたりしている方が、ずっとマシだ……)
 彼の様子がおかしいと、こちらまで調子が狂ってしまう。
 ちら、と気を紛らわせるように、白と青の地面を見下ろした。
(氷戀華は、どんな花だろう?)
 白の中に広がる青は、氷戀華の透き通った葉の色だと店長が言っていたけれど。
(きっと、綺麗な花が咲くのだろうな……)
 ジャスティはリーリアの隣を歩きながら、思考に耽る。
(初恋の人と、複雑な気持ちを向けていた彼女が同じ人だったなんて……)
 その事実はジャスティに納得を与えながらも、多くの戸惑いを与えた。
 まだ、これまでの想いと今の気持ちがきちんと折り合っておらず、途方に暮れる。

 パキパキパキ……

 2人の耳に、微かな音が聴こえた。
「何だろ?」
 互いに顔を見合わせ、足を止めて地面を見下ろす。2人が立つ場所は両脇に氷戀華の葉が広がっており、細い茎が揺れていた。茎の先には何もなく不自然に切れていたのだが、2人の傍にあるものから茎の先がキラキラと光り出す。
「う、わあ……!」
 リーリアの立つ側の氷戀華が、外側の花弁が大きく下へ流れ、内側の花びらには模様らしい楕円のある花を咲かせた。重なる花弁は青く、外側の花弁は氷そのもの。輪郭だけが光に映っている。
 見たことのある、花だ。
「すごく、綺麗」
 彼女はジャスティの側に咲いた花を見て、また表情を輝かせた。
「私のとは違う花だ……」
 茎の周りに小さな花がひとつひとつ咲いている。花びらは4枚。

 氷戀華に見入るリーリアとは対照的に、ジャスティはどうも集中できなかった。美しさに感動していることは確かなのに。
(彼女のことがここまで影響するとは……)
 小さな花が幾つも咲いた氷戀華は、己のどんな気持ちを掬い上げたのだろうか。
「ジャスティの花、綺麗で可愛いね」
 話し掛けても、彼はどこか上の空。それに眉尻を下げ、リーリアは告げる。
「何かあったの?」
 彼の目を見て、真摯に。
「あまり頼りにならないかもしれないけど。パートナーだし、相談してくれたら、嬉しいな」
 ね? とこちらを心配そうに見つめるリーリアに、ジャスティは頷いた。
「もう少し、時間をください」
 落ち着いたらちゃんと言いますと答えれば、彼女は安心したように微笑む。

 自分を気遣う様子。優しい笑顔。
 彼女のそれは、幼い頃から変わらないものだった。彼女が笑うと、自分の胸の奥が温かくなる。
(ああ、そうか)
 この気持ちは……。
 ジャスティは、ようやく心が腑に落ちた。
(自分は、今も昔もきっと……)

 花開く瞬間を遠目に写したミユキは、メモ帳に記す。
(リーリアさんは花菖蒲。あなたを信じています、あるいは優しい心)
 花が掬い上げた心は、そっと仕舞って。
(ジャスティさんは金木犀。真実の愛、あるいは初恋)
 その人だけのものだから、大事にしてもらうのだ。



「皆で貰ってきた種、から……氷戀華が……」
 庭園外縁ですでに咲いている氷戀華を見、『篠宮潤』は感激していた。
「ほぉ……葉や茎は氷のようだ」
『ヒュリアス』は種ではない氷戀華に、見に来た甲斐があったと感心している。その目の端に、氷戀華を撮るミユキの姿が映る。
 庭の内側まで来て、潤がふと尋ねてきた。
「ヒューリ、写真苦手……?」
 カメラのレンズがこちら側を向く度に被写体に入らぬよう移動していたが、まさかバレていたとは。ヒュリアスはこっそりと息を吐く。
「僕、写真は好き、だよ。未来に、形に残るモノって、いいよ、ね」
 潤の言葉へ、彼は静かに返した。
「……意識して撮られたことは、一度も無いな」
「えっ……1枚、も? 人生で1枚も……写真ない、のっ?」
「無いな」

 パキパキ、と音がして、2人は同時にそちらを向いた。彼らが居るのは、氷戀華の青が広がる真ん中だ。
「わ、あ……!」
 潤の周りで、光と共に3枚の花弁と4枚の花弁が重なる花が開く。花びらの重なりは濃い青に、1枚の部分は雪の色を通して。
 ヒュリアスの周りでは、5枚の花弁の縁から糸状のものが幾つも伸びる花が咲いていた。

「綺麗に咲きましたね!」
 花に見入っている間に、ミユキが傍に来ていたようだ。先ほど聴こえたシャッター音は、気のせいではなかったらしい。
 潤は照れ笑いしながら、咲いた氷戀華を指差した。
「あ、あの。これ、何の花……です、か?」
 彼女は、潤の花はフリージアで、花言葉は『あどけなさ・無邪気』だと教えてくれた。
 そしてヒュリアスの花はカラスウリ、氷戀華でこれが咲くのは初めてだという。花言葉は『よい便り・誠実・実直』。
 カメラをこちらに構えたミユキに、潤はヒュリアスを見上げた。
「一緒に、撮らない……?」
 ヒュリアスは首を横に振る。
「俺は……あまり形に残りたくは無いのだよ」
「う、そっか……」
 潤はしょぼんとした。しょぼん、が重なり、絵に描いたような絶望縦線が彼女の周りに見える。
「……」
 気まずい。
 カメラマン・ミユキが困ったように笑い掛けて来るのも、ヒュリアスには物凄く気まずかった。
 これは、負けだ。
「……1枚だけだ」
 パッと潤の顔が輝く。
「! いい、の!?」
 ヒュリアスの目線が遠いことなんて、彼女は気づかないだろう。
(感情を遠慮せず表現出来るようになったのは結構だがね……。まさかこのような弊害が……)
 ミユキが改めてカメラを構えた。
「じゃあ、氷戀華と一緒に撮りますね!」
 潤はにこにことカメラの方を向く。
(花も……誰かと一緒に映る方が、どこか嬉しそう、だ)
「はい、チーズ!」
 その瞬間、潤は強い力でヒュリアスの方へと引き寄せられた。



「喫茶の皆様とは、夏以来ですね」
 憶えてくださっているかどうかは……どうなんでしょう?
 他の参加者の写真を撮っているミユキを遠目に、フィオナは夏の出来事を思い出す。
「お花といえば。四季折々の花を愉しめる温室に出かけたことがありましたが、あのときの、薔薇のブーケは印象的でした……」
 クルセイドとの最初の思い出、ですしね。
 そう笑った彼女に、クルセイドも今までを思い返した。
「花は……夏に見た月下美人が印象的だった」
 ただ、と彼は胸の内だけで続ける。
(どちらかと言うと、あの瞬間に見惚れていたフィオナの方を見ていた気がする……)
「氷戀華は、傍に居る人の心を映す、と言う話ですけれど……」
「どのような花が咲くかは、見てのお楽しみと言うわけだな」
 ふふ、とフィオナは笑みを零す。
「どのようなお花が咲くのか検討もつきませんが、何かの『はじまり』を思わせるお花ですよね」
 口には出さなかったが、クルセイドも同様に感じていた。
(冬至の頃を選んで咲く、と言うのもなかなか意味深長な気がする。特に今年は冬至と新月が重なる、珍しい年……)
 それに色々なことの『はじまり』を、意味しているように感じるのは……。
(考えすぎかも、しれないな)

 パキパキパキ……

 霜柱を踏むような音が聞こえ、音の元を辿る。
 フィオナの周囲に生えていた氷戀華。その茎からキラキラと光を放ち咲いたのは、袋状になった星型の花。
「これは、桔梗……?」
 対してクルセイドの周りには、丸く緩やかな曲線を描く3枚の花弁の花が咲き揃った。
「見たことがあるような……」
 如何せん、本来の色は反映しない氷戀華だ。何の花を模したのか、推理力が必要だった。
「菫、でしょうか?」
 庭を見回してみたが、ミユキは離れた処で別の参加者と話している。
「お茶のときに、聞いてみましょうか」
「そうだな」
 2人はしばし自分たちの咲かせた氷戀華を愛で、他に咲いた花を見にまた歩き出した。



 氷戀華の葉に取り囲まれるような場所に、咲とイヴェリアは立っている。
 咲は興味深げにキラキラと光を生み始めた茎を見つめているが、イヴェリアはそんな咲ばかり見つめていた。
(サクは本当に可愛い。誰がなんと言っても可愛い)
 一緒にいると本当に愛しくて、何度でも抱き締めたくなる。『恋は盲目』とは、よく言ったものだ。
(この想い以外は全部捨てた。もう、俺は戻らない)
 じっと見つめられているとは露知らず、咲は音を上げて変化していく氷戀華を見ながら思い悩んでいた。告白の答えを。
(イヴェさんのこと、嫌とかそんなことは全然なくて……むしろ好き、だし……)
 ただ、と口許を引き結ぶ。
(私でいいのかな? って思うんですよ。イヴェさんはとってもカッコいいし)
 でも、私がいいって言ってくださるんですよね……。
 少しずつ、彼女の思考は堂々巡りを始めた。答えは分かっているはずなのに。
(そんな風に言ってくれるイヴェさんのこと、好きだし愛し……あれ?)
 咲が我に返ると、光が収まり花の形が露わになっていた。

「これ、カーネーション……?」
 イヴェリアは、咲の周りで咲いた花へ指先を触れる。ひんやりとする花弁から、色は伺えないが。
「カーネーションか。綺麗だな」
 その花言葉は『純粋な愛情』。
(サクはそんな風に俺のこと、想ってくれるんだな……嬉しいよ)
 イヴェリアが教えてくれた花言葉に、咲は目を丸くする。
「カーネーションの花言葉は、純粋な愛情なんですか……。へー……」
 そこで再度、我に返った。
「って、私の気持ちだだ漏れじゃないですか!? も、もしかしてこれを狙って!?」
 確かに咲は、イヴェリアへ告白の返事をしていなかった。
 でも、それにしたって。
「イヴェさん卑怯ですよぅ……」
 思わず溢れ出た涙に、イヴェリアはぎょっとした。
「な、泣かせるつもりはなかったのだが……その、」
 しどろもどろだ。咲の涙はぽろぽろと零れ落ちるばかりで、イヴェリアは幾分迷った後に彼女を抱き寄せる。
「……愛してるよ」
 告げた彼も、抱き締められながら頷いた咲も、気づかなかった。イヴェリアの周囲の氷戀華も、カーネーションの形を取っていたことに。
 その花言葉が、1つだけではないことに。

 それは『純粋な愛情』、あるいは『熱愛』ーー。



 パキパキ、と小さな音を上げながら象られていく、氷の花。雪と氷の世界で、それは酷く自然な様を見せた。
『Elly Schwarz』は自身の目の前で生まれた花に、目を瞬く。
「僕の花は……あ、白粉花、ですか……」
 触れればひやりと冷たい。丸く小さな、雪を透過して白く見える花。
(確か花言葉は『臆病』……。『心模様を吸い上げて形が変わる』というのは、本当のよう、です、ね)
 この氷戀華の種を受け取ったとき、雪の精には『うそつき』と言われた。
 そのとおりだと、思う。

 じっと自身の傍で咲いた氷戀華を見つめるEllyから視線を外し、『Curt』は離れた位置でちょうどこちらを向いたミユキを呼ぶ。自分もそちらへ足を運び、彼女へ問い掛けた。
「なあ。この花は、精霊の傍でも咲くのか?」
 ミユキはにこりと笑って頷く。
「はい。何らかの感情を持つ生き物であれば、動物や鳥でも傍に居れば花が咲きます」
 見てください、とミユキが示したのは、Curtの傍に生えていた氷戀華。
「……俺の傍でも咲くのか」
 袋状の花が、玉蜀黍の実のように連なって咲いている。
「この花は?」
「これは……ジギタリス、ですね。代表的な花言葉は『熱愛』でしょうか」
 そういう花言葉なのか、と首肯してから、Curtは僅かに口の端を上げた。
(花が影響するくらい俺は……。ふ、そうだよな?)

 氷戀華から顔を上げたEllyは、やや離れた場所に居るCurtがミユキと話していることに驚いた。
(クルトさんが誰かと話してるなんて、珍しいです)
 思ってから、眼差しを伏せる。
(あれから、クルトさんと上手く話せません……。これではウィンクルムとしても……)
 ミユキと別れこちらへ戻ってきたCurtは、真っ直ぐにEllyを見つめ口を開いた。
「エリー。……俺なりにいろいろ考えたが、やっぱりお前を諦めるなんて出来そうにない」
 それが『樹氷の迷宮』での話の続きだと、Ellyは悟った。
「クルトさん……」
 口篭る彼女に、Curtは首を横へ振る。
「いや、構わない。エリーなりに何か思うことがあるのかもしれないが、俺の気持ちも並程度のものではないつもりだ」
 そのために。
「だから……これからはちゃんと、お前に伝えていく。振り向いてもらえるようにな」
 エリーが好きだから。
 そうシンプルに告げてきた彼に対し、Ellyは指先をぎゅっと握って俯くしかなかった。
(僕も、貴方のように伝えられる日が来るでしょうか……)

 チリンチリン、とどこかでベルが鳴る。ミユキがカメラから顔を上げ、庭に出ている参加者たちへ声を投げた。
「皆さーん! お菓子の準備が出来ましたので、喫茶の方へどうぞ!」
 彼女の声に、皆はぞろぞろと喫茶へ足を向ける。

 Curtが先にそちらへ向かったのを見送り、Ellyはミユキを呼び止めた。
「あの、この氷戀華と僕を撮ってもらえませんか?」
「良いですよ!」
 カメラのレンズを見据えて、Ellyは胸の内にひとつの決意を抱く。
(いつか必ず貴方に答える為に……強くなりますから)
 この写真は、その決意の証だ。



●メリークリスマス!
 暖かな部屋は控えめなクリスマス飾りを為され、甘く良い匂いに満ちていた。
「皆さん、窓際のお席へどうぞ」
 氷戀華のよく見える窓際へ皆を勧め、店長がそれぞれに紅茶とケーキを配っていく。寒さから開放され、誰もがほっと息をついた。



 潤は紅茶のカップで半ば顔を隠しながら、ヒュリアスを上目遣いに見遣る。
「ずるい、よ……」
 彼が1枚だけだと言って、2人で撮ったはずの写真。
 ミユキがシャッターを押す瞬間、ヒュリアスは潤を引き寄せ盾とした。そう、自分の顔を写さないために。
 おかげで写真は何やら分からず驚いた顔の潤が正面で、彼の姿は輪郭程度しか無い。結局、彼はまた写真に写らなかったわけだ。
 ずるい、ひどいと恨めしげに呟く潤に、さすがのヒュリアスも眉を下げた。
「悪かった。またいつか、な」
 デコレーションされたケーキは、とうに潤の機嫌を上向けている。それでも、文句を言い続けるくらい良いだろう。
 潤は遠慮せず文句を伝えられるようになった己の変化には気づかず、彼女を宥めるヒュリアスも、自身が意外と楽しそうな顔をしていることを知らない。



 お茶とケーキでひとごこち付いたところで、フィオナは傍を通った店長を呼び止めた。
「店長さん」
 フィオナの声に、店長は目礼を返す。
「フィオナさんにクルセイドさん。夏祭りの件ではお世話になりました」
 どうやら、覚えていてくれたらしい。フィオナは尋ねる。
「以前に、四季の花を植えた温室を訪れたことがあるのですが。<さつきのきつさ>に温室はあるのでしょうか?」
 良い質問です、と微笑む店長に、クルセイドも視線を向けた。
「当店に温室はないのですよ。『温室で育てる理由がない』のが大きいですね」
「理由がない?」
 首を傾げた2人に、店長は氷戀華の庭を見る。
「『その季節に咲くものを皆様に』。これが我が庭園の信条ですから」
 この『冬霞の庭』も、同じ信条の元に造り上げられたもの。
「店長。実はフィオナは桔梗、私は菫のような氷戀華が咲いたのですが」
 クルセイドの問いには、にこやかに頷いて彼は答える。
「なるほど。桔梗の花言葉は『やさしい愛情・清楚』、菫は『誠実・小さな幸せ』ですね」
 咲いた氷戀華の花言葉を教えられ、フィオナとクルセイドはどちらからともなく顔を見合わせた。



 窓と反対側の壁にはコルクボードが貼ってあり、今年の氷戀華の写真が幾つもある。その中、中央に貼ってある1つだけが他とは違った。
「あの真ん中の1枚は、氷戀華……ですか?」
 ふんわりとした生クリームをひと口食べて、Ellyはお茶のおかわりを入れてくれたミユキへ尋ねてみた。

 小さな花びらがダリアのように幾重にも重なり、一番外側の5枚の花弁からは細長い別の花びらがリボンのように伸びている。生えているのは同じ雪の上のはずなのに、その重なる花びらはとても深い藍色だ。

「これは、雪の精さんが咲かせる氷戀華なんです」
 ミユキもまた、実物は見たことがないという。
「雪の精さんが咲かせるものは、すべてこの形になるそうですよ。店長が言ってました」
 静かにこちらを見つめるCurtの視線を感じながら、Ellyは庭へと目を向ける。
(あの種が、こんなに綺麗な花を咲かせるんですね……。皆さんの花、凄く素敵です)
 彼女はそこで思い出す。
(撮ってもらった写真は、クルトさんに見られないようにしないと)
 後でこっそり、ミユキさんにお願いしておこう。
 何やら考えている様子のEllyを、Curtは何も言わず見守っていた。



『冬霞の庭』
 外に広がる氷戀華の庭は、冬の美しさを詰め込んだ小さな宝石箱。



 End.



依頼結果:成功
MVP
名前:篠宮潤
呼び名:ウル
  名前:ヒュリアス
呼び名:ヒューリ

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター キユキ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月14日
出発日 12月22日 00:00
予定納品日 01月01日

参加者

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