【愛の鐘】10年目の贈り物(瀬田一稀 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 クリスマスの日のこと。

 ちょっと足りない物を買いに行っただけなのに、どうしてこうなった。
 コンラッドは、頭を抱えた。
 つい20分前までは、テーブルの上に並んでいたはずのワイングラスは、今は床の上で粉々に砕けている。焼き上げたケーキも、飾った花も、ぐちゃぐちゃになったテーブルクロスとともに、床の上。ワインボトルをテーブルの上に置いていなくて助かった。

 コンラッドは、愛犬と愛猫を睨み付ける。
「お前らか、アルフィ、モリィ!」
 ――ワン。
 ――にゃあ。
 2匹は長い尻尾を振って、コンラッドを見上げた。

 ※

 たくさんのベリーとクリームがのったケーキは、恋人クロールの好物だ。
 クロールは料理がうまい。だから毎年、クリスマスは彼が主導を握っていた。
 でも今年、コンラッドは彼に「ケーキを焼かせてほしい」と頼んだ。
「え、どうして?」
「クリスマスはお前の誕生日だろうが」
「そんなの、今更だろ。俺らが付き合って10年。俺は毎年、お前のためにケーキを焼いてきたよ」
 ――そう、10年。記念すべき10年。だから。
「……うっせえな、わかってるよ! でもたまには、俺にも良い格好させろよ!」
 その一言で、付き合いの長い男はすべてを理解したらしかった。
「しかたないな、じゃあまかせるよ」
 そう言って……嬉しそうに。いつもと同じ、ケーキのレシピを教えてくれた。

 普段家事はすべて、クロール任せだったから、コンラッドは当然失敗を繰り返した。
 クロールは苦笑しながら、何度も味見をし、コツを教えてくれた。
「もっと簡単なケーキにする?」
 そうも聞かれたが、コンラッドは首を横に振った。
 そうしてひとりで作ることができたケーキが、テーブルの上にのっていた物だったのだ。
「それを……お前らが!」
 自分も不注意。だがペットの悪戯は到底許せることではなかった。
 おそらく、クロールがいつも動物用の菓子も作るから、それと勘違いしたのだろうが。
「もうベリーの買い置きはねえし……どうするんだよこれ……」

 そこに、チャイムが鳴った。
「クロール?」
 自分だけで準備をするから、お前はちょっと外出てろ。
 そう言って追い出した恋人が、帰ってきたのかもしれない。
 コンラッドはのそのそと立ち上がり、玄関へ向かった。
 しかしそこに立っていたのは、クロールではなかった。

「A.R.O.A.から来たウィンクルムだ。クリスマス料理に、幸せの魔法をかけに来た」

 そうだった、クロールと幸せな時が過ごせるようにと、頼んだのだった。
 コンラッドは、ウィンクルムに深く頭を下げた。

「依頼外のことと承知の上で頼む、助けてくれ! お礼に秘蔵のワインを提供する!」

解説

愛する人との10回目のクリスマス、そして愛する人の誕生日をお祝いしたいコンラッドを、助けてあげてください。

ちなみにコンラッドは家事が苦手。「卵を割ると殻が入ってしまうので、それをスプーンで取り除く」というレベルです。

後ほどクロールが料理を作ってくれます。
ワインは、コンラッドが年代物を提供してくれます。
各ウィンクルム300jrのカンパをお願いします。

プランにはクロールに作ってほしい料理を記載してください。彼は何でも作れます。


ゲームマスターより

皆さま、はじめまして。あるいは、お久しぶりです。
ご覧いただき、ありがとうございます。
今回のエピソードは、ラブラブなカップルと一緒にラブラブしちゃえ! なエピソードです。
話の流れとしては、
コンラッドの手伝いをしている途中でクロールが帰ってくる。
 ↓
クリスマスの魔法(クリスマスソングを歌う)をかける
 ↓
皆で食事

です。
どこに比重を置くかは、みなさんのプラン次第です。

成功条件は、(ラブラブな)みなさんに影響されて、ツンなコンラッドがクロールにデレたらです。

それでは、みなさん、素敵なクリスマスを。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)

  あーあ…派手にやっちゃったんだねぇ君たち…(苦笑)
さぁ、今度は邪魔しない様に、僕達と一緒に遊ぼうねぇ(猫じゃらしふりふり)
僕もあまり料理は得意じゃないし、適任な人がやってくれた方がいいものね

猫と犬とじゃれつつ、それでも少しキッチンの方が気になり

で、何を作ってるの?(猫を抱きつつ)
美味しそうだねぇ(じー。隙を見てアルの指に付いた生クリームを其のまま舐め取る)
…美味しい

ふふ、怒られちゃったね…

十年か…彼と十年一緒にいられるかな…?いられると良いな…
秘訣はなんだろうね?二人に聴いてみようか?

クリスマスと、誕生日の歌、両方歌ってあげようか…?クリスマスの歌は習ったけど、誕生日の歌はあるのかな?(無知)


セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  大丈夫、まだ時間はある。
テーブルの片づけは任せろ。
料理苦手な人達にも声をかけて皆で手早く片づける。

ワイングラスとテーブルに飾る花もラキアと一緒に店に行き買ってくる。
クランベリー、ブルーベリー、ブラックベリー。苺もだな。ドライフルーツも。
花やベリーはラキア詳しいし。すぐに帰ってくるよ。

ケーキ作りも手伝う。ラキアが逐一指示してくれるっていうから!ラキアに教えてもらいながら手伝うぜ。
焼いている間に、部屋を更に綺麗に飾りつけよう。
食べる前にクリスマスソングをラキアと一緒に歌い2人の幸せを祈るぜ。俺達も10年後もコンラッド達みたいな2人の時間を過ごしたい。

クロールには鳥胸肉の香草ローストをリクエスト。



鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
  そういや今回の主役は、
あくまでもコンラッド君とクロール君だったよね。
僕達ウィンクルムが目立ちすぎるのも考えものか。
だけど、二人のムードは大切にしなきゃね。

(フィッシングスキル使用)
事前に何匹か魚を釣って、クーラーボックスに入れて持込。
クロール君に会ったら、ムニエルを作ってもらうよう頼みたいからね。

あれ?クリスマスの歌って、何歌うの?
っていうより、曲が既に出来てるなら歌の練習しないと。
「もし、出来ていないなら僕が即興で作るよ!」
演奏できる楽器?
オカリナなら持ってきてるよ(勝手に作曲し始める)。

「いやあ、ありがとね」
あ、コンラッド君とクロール君は寛いでていいよ。
料理の後片付けは僕達がしておくから!



俊・ブルックス(ネカット・グラキエス)
  手伝いって言われても料理はあんまり詳しくねえからな
分かる奴の指示を聞いて使用済みの調理器具を順に片付けていったりの雑用
あとはペットが邪魔しないようにあっちで世話を…
ひっ!
い、犬は犬だけは駄目なんだ…!
ネカ、助けてくれ…!(涙目)
まさかこんなトラップがあるなんて
ちょっと背中貸してくれ…(精霊の背に隠れて涙拭き

料理のリクエストは砕いたドライフルーツ入りのパイ
ミンスパイってやつだな

魔法をかける時に提案
クリスマスソングと一緒にハーッピーバースデーも歌わないか
クロールの誕生日なんだよな?

食事には舌鼓
すげえ美味いな、これ
料理は愛情、か…俺も作ってみようかな
誰もお前にとは…いや、そうだな
その時は残さず食えよ



 あまりの惨状に、コンラッドは頭を抱えた。しかしいたずらした本人たちとはいえ、愛するペットが怪我をしたらかわいそうだ。とりあえずは割れたグラスを何とかしようと、床にしゃがみこんだ――そのとき。やって来たのが、ウィンクルムである。

「コンラッドさん? 依頼の家はここでいいのかな?」
「ああ、そうだが……」
 ラキア・ジェイドバインの言葉にうなずきながら、コンラッドはウィンクルムを眺めた。様々な年齢層の男たち。それはいい。耳がとがっていたり角があったり、それもいい。だがしかし。
「……ウィンクルムは揃いの物を身につけるってルールでもあるのか? ってか、クロールへのケーキひとつ焼けない俺への当てつけか? なんだよそのクリスマスの帽子やマフラーは! いや、クリスマスは時期的にいいとしても、その羊さんのフード!」
 びしいっ! と涙目で指さされて、栗花落 雨佳とアルヴァード=ウィズナーは顔を見合わせた。
「何って言われても、ねえ?」
 雨佳が首を傾げる横で、アルヴァードは苦い顔。その間に、ネカット・グラキエスがわって入る。
「そんな……コンラッドさん。泣かないでください。今ケーキが焼けないっておっしゃいましたけど、何かあったんですか?」
 俊・ブルックスはネカットの服の裾をくいと引いた。そんなこみいったこと突っ込むなよ、という意思表示である。しかしコンラッドは、天の救いとばかり、ぱっとネカットを見た。
「とりあえず、家に入ってくれ。入ってくれれば、わかるから」


 そして、件の惨状である。
「あぁ……まあ、災難だったな」
 アルヴァードはそれしか言えなかった。ぐちゃぐちゃになったケーキは、猫や犬が踏んでしまったようで、小さな足型が付いている。これでは本当にもう、どうしようもない。
 俺の不注意で、と肩を落とすコンラッドの肩を、セイリュー・グラシアがとんと叩く。
「そんな落ち込むなって! まだ恋人が来るまで時間があるんだろ?」
「恋人……! 俺とあいつはそんなんじゃ」
 コンラッドは言い出すが、そんなんじゃなければ、なんだと言うのか。「面白い人だねえ」と雨佳が笑う。
「とりあえず、嘆いていても始まらねえだろ。ケーキはどうするんだ? 作るのか? 一から作ってたら、どのくらいかかるかわからねえぞ? 手軽なのでいいなら、パンケーキをジャムと重ねて、生クリームのせれば、それなりな見た目のものができるが」
 普段トラットリアで働いているアルヴァードが、すらすらと妥協策を提案する。しかしコンラッドは首を横に振った。
「悪いが、レシピはクロールのものがいい。それ以外じゃ駄目なんだ」
「さっきは恋人じゃないって言ったのに、ツンデレか」
 俊が言う傍らから、ネカットがコンラッドの前に一歩を踏み出す。ネカットは両手でコンラッドの手を握ると、にっこりと笑顔を見せた。
「大切な人のためにお料理なんて、素敵ですよね! ぜひお手伝いさせてください! 大丈夫、料理は愛情です!」
「愛情……」
 繰り返すコンラッドに、ネカットは真面目な顔でうなずいた。
「思うに、この言葉の本当の意味って、相手に美味しい物を食べてもらうために、努力を惜しまないってことだと思うんです。頑張りましょう。コンラッドさんの気持ち、きっと伝わりますよ。ね、シュンもそう思いますよね?」
 突然話を振られ、俊はとりあえず「ああ」と返す。ネカットは嬉しそうに手に持っていたベルを鳴らし「じゃあ私は、全力で応援しますね!」と言った。
「応援ってなんだ、手伝えよ」
 ……と思ったが、正面でコンラッドが何やら感動しているらしいので、口には出さずにおいた。空気を読むことも大切だ。あとで二人になったら突っ込もう。
「大丈夫、まだ時間はある! これだけ人数がいれば、片付けるのだってあっという間だ!」
「ええ、そうですね」
 セイリューとラキアはそう言って、床に落ちたままのガラスの欠片やケーキを拾い始めた。他のメンバーもそれに倣う。
 そのとき、鹿鳴館・リュウ・凛玖義の後ろから、琥珀・アンブラーが顔を出し、コンラッドの手に触れた。
「なんだ?」
 相手が小さな子供ということで、コンラッドは少しだけ優しい声を出す。
「はく、お手伝い頑張るから、一緒に頑張ろうね」
 緊張しているのか、たどたどしい言葉だった。だがコンラッドはその一言で、やる気をみなぎらせた。そうだ、これだけの人が、俺たちのために動いてくれている。ツンツンしてる場合じゃない。
 ありがとな、と琥珀の頭を撫ぜると、琥珀はピュッと凛玖義のところへ戻ってしまった。
「はく、どうしたの?」
 問われるが、照れて笑うだけ。そして皆が片づけをしている後ろで、犬と猫に話しかける人物が一人。
「あーあ、派手にやっちゃたんだねぇ、君たち……。さぁ、今度は邪魔しないように、僕と一緒に遊ぼうねぇ」
 雨佳は、猫がくわえていた猫じゃらしを受け取ると、それをふりふりと振った。
「僕はあまり料理が得意じゃないし、適任な人がやってくれた方が良いものね」


 部屋があらかた片付くと「よし!」とラキアが立ち上がった。
「俺は、各種ベリーを調達してくるよ。今すぐ店に行けば間に合うからね。あとは、花とワイングラスもか。セイリューと二人で行ってくるね」
「ベリーは何を買ってくればいいんだ? クランベリーにブルーベリー、ブラックベリー……苺もだな。あとはドライフルーツも。花やベリーはラキアが詳しいし、すぐに帰ってくるよ」
 揃って玄関に向かうセイリューとラキアに、コンラッドは「頼む」とだけ言って頭を下げた。ウィンクルムの二人は気にしないでと笑って、扉の向こうへと消えて行く。その直前に、二人の手が触れたことを、コンラッドは見逃さなかった。その接触が偶然か必然か知らないが、自分もそれくらい素直になりたいものだ。
 ため息をついて、キッチンに入る。ベリーはないが、できることは先にやってしまわなければ。
 とりあえず残っていた材料をまた出してきて、分量を量るところからだ。クロールが教えてくれたレシピのメモを、調理台の上に置く。キッチンにやってきたアルヴァードはそれを一読しただけで、内容を理解したらしい。
「分量を量るのは俺がやろう」と申し出てくれたので、コンラッドはとりあえず卵を割ることにした。とはいっても、きれいに二つに割れることはあまりない。なぜか殻が入ってしまうのだ。
 それを丁寧にスプーンですくっていると、琥珀がその手元を覗き込んできた。
「もしかして、お料理苦手?」
 この状態でまさか得意だと言うこともできず、コンラッドがうなずくと、琥珀は卵を手に取った。
「卵を割るときは、なにかの角でひびを入れるより、平らなところでやった方が良いんだよ」
「へえ、そうなのか」
「うん。他にもわからないことがあったら、はくに聞いてみてね」
「わかった、ありがとな」
 コンラッドは琥珀に言われた通り、平らなところで卵にひびを入れ、慎重に卵を割った。ボールの中には、殻はひとつもない
「おお、すげえ!」
 そんなコンラッドを横目で見ながら、俊はアルヴァードの手伝いをしている。とは言っても使った物を片付けたり、器具を出したりする程度だが。
「これはしまっていいのか?」
「ああ、それはまだ使うから置いといてくれ」
 アルヴァードは材料を量り終え、今は生クリームを泡だてている最中だ。この家にはハンドミキサーがないので手動である。かしゃかしゃと泡だて器を使いながら、なんとなくキッチン入口付近に目を向けると――。
「雨佳」
 そこには、猫を抱えたまま、ひっそりとキッチンを覗いている雨佳がいた。
「おい、動物連れてくるんじゃねえよ」
 雨佳はその言葉を無視して、猫とともに、アルヴァードが抱えるボウルを覗き込む。
「何を作ってるの?」
「ベリーのケーキの準備中。これは生クリームだ」
「へえ……美味しそうだね」
「なんだよ、つまみ食いしに来たのか? ……ってこら、爪引っかかってるぞ」
 アルヴァードは、猫パンチによって服にかかった爪をとろうと、その場所に目を向けた。しかし調理に動物に触れるなど厳禁だ。そんなアルヴァードの指には、とろりとはねた生クリーム。雨佳がアルヴァードの手をとり、指先に唇を近づける。
「ボウルの中のは悪いから、これでいいよ」
 温かい舌先が、クリームと肌をぺろりと撫ぜて、アルヴァードは思わず息を飲んだ。
「のわっ! お……お前っ……! 邪魔しに来てんじゃねーよ!」
「ふふ、残念」
 しっしと追いやるように手を振られ、立ち去ろうとした足元を、犬が通り抜けた。ひ、と俊が喉を鳴らす。
「い、犬は、犬だけは駄目なんだ……! ネカ、助けてくれ……!」
 今だベルを持ち、本当にただ応援していたネカットは、犬と俊の間に立った。
「ほーら、ワンちゃんはこっちで遊びましょうね~」
 大きな犬の背中を叩いてリビングに誘導すると、雨佳が後を引き受けてくれた。
「俊さん、犬苦手なんだ」
「ええ。気の毒なことをした……と言いたいところですが、涙目の俊もなかなか見ごたえがあります」
「そういう趣味なの?」
「それは秘密です」
 くすくすと笑いながらネカットはキッチンに戻る。俊は「まさかこんなトラップがあるなんて」と調理台の上に顔をうずめていた。
「おい、落ち込むなら別の場所にしろ」
 アルヴァードにあっさり言われ、ネカットが戻るとともに、彼の後ろに身を隠す。
「ちょっと背中貸してくれ」
 そこでこっそり涙を拭いたのは、例え気付かれていたとしても、誰にも秘密だ。


 さて、リビングである。
 凛玖義は犬や猫と遊びながら、部屋を片付けていた。こういう細々したことは得意とは言えないが、キッチンにはあれだけの人数がいるし、自分に用はないだろう。そこではたと、思いついたのは、ケーキを前に歌うクリスマスソングのことである。ハンドベルを鳴らしながら歌う曲は、クリスマスソングという決まりだが、具体的にどれと指定されているわけではない。
「ねえ、歌って決まっているのかな?」
「え? 決まってないんじゃない?」
 猫を撫ぜ犬に舐められながら、雨佳は首を傾げた。
「それならさ、僕が即興で作るよ!」
「うん、いいんじゃない?」
 あっさりと、雨佳は同意する。凛玖義はいそいそと愛用のオカリナを取り出し、ああでもない、こうでもないと鳴らし始めた。その音に、琥珀がキッチンからひょっこり顔を出す。
「りく、どうしたの?」
「ああ琥珀ちゃん。僕、クリスマスソングを作ろうと思ってね。琥珀ちゃんも歌ってくれるよねえ?」
「うん!」
 キッチンがひと段落しているのか、琥珀は嬉しそうに凛玖義の隣へやって来た。
「どんな歌にするの? 元気なのがいいな」
 と、そこに。
「ただいま~。ねえ、なんかうちのお客さんだって言うから連れてきたんだけど……」
「おー、ベリーと花、買ってきたぜ」
「今どんな調子?」
 クロールと連れ立って、ラキアとセイリューが帰宅した。
「じゃあ俺たちは、買ってきた花を飾りますね」
 ラキアの言葉に、クロールは「頼むね」と、キッチンに向かう。
「聞いたよ。いたずらっこたちが、ケーキひっくり返しちゃったんだって?」
 そう言いながら、クロールは調理台の上にベリーの袋を置いて、コンラッドの隣に立った。
「で、俺は何をすればいい?」
「今日は俺がやるって言っただろ!」
「いいじゃない、一緒にやろうよ。ね、お客さんもたくさんいるみたいだし。それに……あの子たちに聞いたんだ。クリスマスの魔法、頼んでくれたんでしょう? 俺たちの幸せのために」
 クロールの言葉に、コンラッドの頬が赤くなる。
「ふふ、かわいいコニー」
 愛称を呼んで、微笑むクロール。コンラッドは露骨に目を逸らし、小さな声で指示を出す。
「じゃ、じゃあお前はさ、料理作ってくれよ。俺はケーキだけで手一杯だから!」
「はーい、わかりました。みんな、食べたいものある? 俺、何でも作っちゃうよ!」


 アルヴァードとコンラッドがケーキにベリーを飾っているうちに、俊が洗い物をした。ネカットはさっきまでは、ベルを鳴らして応援していたが、俊に「応援はいいから手伝え」と言われたので、俊が洗ったものを、ふきんで拭いている。
 人が多いキッチンの中を、クロールは忙しく動き回った。ウィンクルムがそれぞれ、食べたいものをリクエストしたからだ。凛玖義からはムニエル、セイリューは鶏むね肉の香草ロースト、そして俊はミントパイ。
 ケーキの飾り付けと洗い物の大方が終わると、クロールはキッチンのメンバーに声をかけた。
「あとは俺とコニーでやるよ。みんな、ありがとうね。リビングで待っててくれる?」
 はいこれ、つまんでてと手製の焼き菓子まで与えられ、一同はリビングへと向かった。最後まで手伝いたい気もしたが、家主のクロールが言うならば、従うのがいいだろう。
「まあ今回の主役はあくまでも、コンラッド君とクロール君だし、僕たちウィンクルムが目立ちすぎるのも考えものだよね。二人が楽しいのが一番だよ」
 オカリナを吹く合間に、凛玖義が言う。うんうん、とネカットは深くうなずいた。
「恋人同士、仲が良いのが一番ですよ。クロールさんは、せっかくの誕生日なんですし」
「誕生日……」
 呟く雨佳の膝には猫がのり、背中には犬が寄りかかっている。ついさっき「懐かれたものだな」とアルヴァードが呆れた体勢だ。
「……ねえ、アル。誕生日の歌はあるのかな?」
「誕生日の歌?」
 その問いに、俊はぴんときたようだ。
「そうか……! クリスマスソングと一緒に、ハッピーバースデーも歌えば」
「それはいい案ですね」
 ネカットがポンと手を打つ。
「りく、ハッピーバースデー、吹ける?」
 琥珀が凛玖義の膝に手を置くと、凛玖義はにっこりと笑顔を返した。
「大丈夫、できるよ」


 コンラッドとウィンクルムたちが作ったベリーのケーキと、クロールの手料理。そしてワインが並ぶテーブルには、ラキアが選んだ花が飾られていた。
「薔薇とアザレアとプリムラ。華やかでいいでしょう?」
「ああ、そうだな」
 コンラッドは、花の美しさに目を細めた。その唇が緩やかに笑んでいるのは、先程こっそりと、ラキアにこれらの花言葉を聞いていたからだ。
「ね、だから、アザレアの花をクロールさんにあげてみたら?」
 ――という、アドバイスとともに。当然「そんな恥ずかしいことができるか!」と返したのだけれど。
 それを知るラキアは、コンラッドを見て微笑んだ。彼が迷っているのがよくわかる。ここで背中を押すのは、と、ラキアは凛玖義に視線を向けた。この小さなサプライズは、先程のリビングで相談済みだ。
 ウィンクルムは揃って立ちあがると、まずは凛玖義が作ったばかりの、短いクリスマスソングを歌った。その後は「メリークリスマス!」と締めるのがパターンだったが、今回は違う。告げる言葉は。
「ハッピーバースデイ!」
「……え?」
 突如始まったバースデイソングに、クロールは目を見開いた。隣を見れば、照れているのか小さな声ながら、コンラッドも歌を歌っている。
 曲の終了とともに、クロールが立ち上がった。
「ありがとう……みんな」
 テーブルを挟んで手を伸ばすので、ウィンクルムは一人ひとり、その手を握って、おめでとうの言葉を伝える。
「十年後、俺たちも、クロールたちのような二人の時間を過ごしたいぜ」
 セイリューが言うと、クロールは微笑みながら、コンラッドに目を向けた。
「だってさ、コニー。嬉しいこと言ってくれるね」


「そうだ、はく、ぶどうのジュースを持って来たよ! りくとはくが注ぐからみんなで乾杯しよう!」
 琥珀が言うと、クロールが、キッチンからグラスを人数分持ってきた。
「ごめんね、ワイングラスしか用意してなかったからさ。じゃ、ジュースで乾杯ね。ワインは……そうだな、もっと大人の時間になってから」
 二十歳を超えていない面々に気を遣ったのだろう。クロールは茶目っ気たっぷりに、ウインクをした。一同を見回し、最後にコンラッドの上で視線を止める。
「な、なんだよ。なんで俺を見るんだ」
「や、大人な時間を期待して?」
「ば、ばかっ!」
 照れたような、それでいて本気で起こったような顔で、コンラッドがクロールの額を叩く。琥珀には、そんなコンラッドの気持ちがわからない。コンラッドの愛情表現は、相棒の凛玖義のまっすぐなものとはまるで違うからだ。
 グラスにジュースをついで乾杯し、あとは自由に食事をする。
「りく、あーんして」
「琥珀ちゃん、食べさせてくれるの? ありがとうねえ」
 琥珀はフォークでさしたムニエルを、凛玖義の口へと入れた。
「うーん、美味しい。琥珀ちゃんにもお返しね」
 あーんと口を開けながら、琥珀はコンラッドとクロールの二人を見た。並んで座っているし笑顔だけど……。
 コンラッドたちは、あーんってできないのかな?
 琥珀たちの隣で、俊がぱくぱくと香草焼きを食べている。
「すげえ美味いな、これ。なんかさ、まさに料理は愛情って感じ。……俺も作ってみようかな」
「え? シュンが私のために? 嬉しいです」
 すかさず言葉を投げるのはネカットに、俊は困惑顔をする。
「だれもお前にとは……」
 言ってない、と言いかけて、口をつぐんだ。せっかくみんなで作った愛に満ちたこの場所で、否定をするのはつまらない。ぼつりと一言。
「そのときは、残さず食えよ」
 ネカットは嬉しそうに微笑む。
「もちろんです。相手に感謝を持って食べることも、愛情ですよね」


「いやあ、ありがとね。あ、コンラッド君とクロール君はくつろいでいてよ。料理の片づけは僕たちがしておくから」
 食後、凛玖義の号令で、ウィンクルムは片付けに精を出した。コンラッドとクロールは、リビングに二人きり。
 キッチンを掃除しながら、ラキアはセイリューに話しかけた。
「コンラッドは、クロールにアザレアを渡してくれるかな」
「アザレア?」
 ラキアは、事前にコンラッドに話していた花言葉の件を、セイリューに伝える。
「それはなかなか勇気がいるだろうな……あのコンラッドじゃ」
「だよねえ」
 ただ、口で愛していると告げるよりは、よほど簡単だとは思う。黙って花を差し出すだけでいいのだから。
 アルヴァードは食器を丁寧にしまっていたが、その傍らで、雨佳は立っているだけだ。まあ邪魔にならないしほうっておくか、とアルヴァードが判断したところで「ねえ」と弧声がかかった。
「なんだ? 手伝う気になったのか?」
「うーん……そうじゃなくてね、アル」
「だから、なんだ」
「……アルの誕生日も、お祝いしようね。クリスマス、だよね?」
 アルヴァードは思わず顔を上げた。知っていたのか。というか、雨佳からこんなことを言うとは思わなかったというほうが正しい。
「っていっても、大したことはできないけどさ。たぶん……絵を贈るくらい?」
「なに、今聞こえちゃったけど、アルヴァード君も誕生日なの? え、お祝いしちゃう?」
 凛玖義が顔を向けるが、そこにセイリューと俊が同時に突っ込みを入れた。
「そこは二人にお任せの時間だろ!」
 ラキアとネカットは、くすくす笑い、琥珀は不思議そうに周囲を見回している。
「ふふ、大人気だね、アル」
「別にお前意外に人気でもな……」

 賑やかに片づけを終え、一行がリビングに戻ると、クロールはアザレアを、コンラッドはプリムラを一輪手にしていた。
 ラキアとセイリューが顔を見合わる。
 アザレア、渡せたんだ。ってことは、プリムラはお返しかな?
 アザレアの花言葉は、あなたに愛される幸せ。プリムラは、永続する愛情。なんとも彼らにふさわしいではないか。

 この日が、恋人たちにとって、ウィンクルムたちにとって。
 素敵な日となりますように。
 もう一度、メリークリスマス!



依頼結果:成功
MVP
名前:セイリュー・グラシア
呼び名:セイリュー
  名前:ラキア・ジェイドバイン
呼び名:ラキア

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 瀬田一稀
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 4 / 2 ~ 4
報酬 なし
リリース日 12月08日
出発日 12月15日 00:00
予定納品日 12月25日

参加者

会議室

  • セイリュー・グラシアと精霊ラキアだ。
    今回もヨロシク。
    プランは提出できてるぜ。ケーキ作りのお手伝いだな。
    幸せな結果が来る事を祈っている。

  • [5]栗花落 雨佳

    2014/12/14-02:27 

    あー…まぁ……悲惨だな。

    取敢えず、コンラッドが今回力入れてたのはケーキみたいだからな。
    ケーキはちゃんとした奴作ろうとしたら時間かかるから一から作るのは大変だな…。
    普通に作っても最短で45分~一時間、素人が作るとなると2時間は掛かりそうだ。
    仕方ねぇ。ドルチェは専門外だが何とかするか…。
    とはいえ、本人が作らなきゃ意味ねぇからな…。

    雨佳『僕も料理は専門外だから、犬と猫と遊んでようかな。下手に手伝うより効率が良さそうだしね(苦笑)』

  • [4]栗花落 雨佳

    2014/12/14-02:20 

    あ、よかった。人が来てくれたからちゃんと任務出発できるね。
    栗花落雨佳とアルヴァードヴィスナーです。どうぞよろしく。

  • 鹿鳴館さん家の凛玖義っていうよ。ギリギリ押しかけちゃったけど、よろしく。

    僕は魚釣って、ムニエル作ってもらうつもりかな。
    琥珀ちゃんは調理スキル(レベル1)持ってるから、
    コンラッドさんに料理の要領や失敗しないやり方を教えるみたい。

    とにかく、明日は成功するといいね。

  • [1]俊・ブルックス

    2014/12/14-00:22 

    俊・ブルックスとパートナーのネカだ。
    直前の参加だがよろしく頼む。

    俺達は手伝いをメインにプランを書こうと思ってる。
    とはいえ、俺は料理は詳しくないから、雑用とペットの監視…もとい世話とかしてるか。
    (犬…犬がいる…(震)
    あと料理はドライフルーツを入れたパイ、ミンスパイをリクエストするつもりだ。


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