プロローグ
「マジで?あんたらが?ウィンクルムとかっていう?……マジ?ちょーヤベー。マジかっけぇんだけど」
この男。チャラい。
「ってかマジで?手伝いとかってマジ助かるんだけど。オレら今、マジでいろいろヤバくてさ」
そして『マジ』がやたらと多い。
「マジぱーっとでイイんでさ、その辺のガキどもにプレゼント持ってってくんね?ホントマジで」
こんなのがサンタだなんて、マジでヤバイ。
メリーツリーの奪還には成功したものの、聖なるエネルギーの多くは炎龍王に吸い取られてしまった。
そのため今年のサンタは、奇跡の力が少なく、例えて言うならばガス欠寸前の車で走り回らなくてはならない状態らしい。
このままではクリスマスを成功させることは難しいだろう。
しかし、クリスマスを成功させることができれば、今年世界に溜まった瘴気などを、かなりの量消滅させることができるのだという。
それならば、クリスマスを成功させるのがウィンクルムの使命だ。
そこであなた達はサンタの手助けをすべく、サンタの本拠地である夢見の塔を訪ねてきたのだ。
そしてそれを出迎えてくれたのが、件のサンタ。外見年齢19歳のチャラ男である。
チャラ男サンタが言うには、自分では手の回らないタブロス近郊の子供のところにプレゼントを配達して欲しいらしい。
渡されたリストには、子供達の名前と、それぞれが欲しいと願ったものが書かれている。
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アンナ 女 10歳 欲しい物『他の子に負けないくらい可愛いカバン』
タブロス市内にある児童養護施設で暮らす明るく元気な女の子。
赤毛の三つ編みで、そばかすの浮いた愛嬌のある顔をしている。
船乗りの父親がいるが、仕事が忙しいらしく滅多に会いに来ない。
ミハイル 男 8歳 欲しい物『世界一速い飛行機』
タブロス市内の小学校に通う、非常にやんちゃな男の子。祖母、両親、二人の兄とともに暮らす。
ツンツンとした金髪。大きな声で笑い、大きな声で話し、大きな足音を立てて走り回る。
お兄ちゃん達は良き遊び仲間で、良きケンカ相手。
セシリア 女 3歳 欲しい物『おりょうりするやつ』
タブロス中心部にあるマンションに住む女の子。両親と1歳の弟と暮らしている。
クルクルと巻いた黒髪とどんぐりのようにつぶらな瞳が特徴。
両親は共働きで忙しそうだが、両親なりに一緒にいる時間を大切にしているようだ。
ルドルフ 男 5歳 欲しい物『どうぶつえん』
タブロス郊外のアパートに住む男の子。母と9歳の姉とともに暮らす。
柔らかい茶色のストレートヘアーで、少し出っ歯。リスのような印象を受けるかもしれない。
肝っ玉母ちゃんな母親に甘えるのが大好き。
ニコラ 男 16歳 欲しい物『彼女』
タブロス市内の住宅街にある一軒家に住む少年。両親と三人暮らし。
もっさりとした黒髪と分厚いメガネ。年のせいか少しにきびが目立つ。
いわゆるオタク少年。両親とはつかず離れずな関係。
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「プレゼントは、そこのカウンターに言ってくれりゃマジですぐ渡してくれっしさ。マジ問題ないっしょ」
チャラ男サンタが示す方を見れば、確かにサンタが次々とやって来てはプレゼント用の品物を受け取って出掛けてゆく。
「ただ、マジでおもちゃとかそういうのしかねーから、マジ気ぃつけてな」
要は子供達に渡すプレゼントは自分達で考えて、あのカウンターに申請しなければならないようだ。
「ソリはこっち。マジでヤバいトナカイ用意してあるんで、マジ心配ないから」
チャラ男サンタに案内されて行けば、そこにはトナカイ2頭立てのソリが5台並んでいる。
どうやらソリのナンバーごとで、曳くトナカイ達の性格が分かれているらしい。
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No.1 短気なトナカイ ジェットコースター級のスピードで夜空を駆けるソリ
No.2 のん気なトナカイ ゆっくりまったり、のんびりと空中散歩をするソリ
No.3 お茶目なトナカイ わざと雪の積もった木にぶつかってみるなど、いたずらをされるソリ
No.4 ヤル気のないトナカイ 何とかしてトナカイのやる気を出させる必要があるソリ
No.5 方向音痴なトナカイ 道を間違われて、配達に非常に時間がかかるソリ
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子供達の住む場所はトナカイ達が知っているらしい。
つまりプレゼントを決め、それをカウンターで受け取り、ソリを選んで、プレゼントを届けに行く。
それが、今回の仕事になるようだ。
「まーそんな感じで?終わったらトナカイと帰ってきてねー。それじゃまじでヨロシク!」
ウィンクと共に軽くそう言い残し、チャラ男サンタは去っていく。
チャラチャラしてはいるが、彼もまたサンタの一員として忙しく働いているようだ。
忙しいサンタ達のクリスマスの準備を手伝い、クリスマスを成功させる。
それが今回のあなた達に課せられた任務だ。
解説
【聖夜】はプレイヤー様へのクリスマスプレゼントとしてリザルトノベルをお届けするシリーズです。
リザルトノベルの公開は、24日の夜を予定しています
●目的
サンタの手伝いとして子供達にプレゼントを渡してください
●子供およびソリについて
基本的には1組のウィンクルムで1人の子供を担当してください
子供とソリについては会議室で話し合いの上、誰がどの子のところへ行くのか、どのソリに乗るのかを決めてください
参加者が定員割れしそうな場合には2人以上の子供を担当しても構いませんし、
子供が余ってしまった場合にはチャラ男サンタが配達してくれますので、問題はありません
●プレゼントについて
子供達の欲しい物は、そのまま申請しても品物として受け取ることができません
おもちゃ、またはおもちゃに準するもの(子供のプレゼントとして適したもの)を考えて、申請してください
●プランに書いてほしいこと
担当する子供の名前
乗るソリのナンバー
持って行くおもちゃ
子供におもちゃを渡す時に言う事、どんな風に渡すか
ゲームマスターより
プロローグを読んでくださってありがとうございます。
今回はじめて、GM主催エピソードの音頭をとらせていただきました。
クリスマスの夜、神人と精霊のラブラブ(?)エピソードをお届けできればと思います。
ご参加、お待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
動物園の玩具、懐かしいなぁ。 動物の小さい人形がいっぱい入ってて、 大きい台の上に好きに並べられるんです。 この玩具下さいっ! スピード速すぎませんかこのソリっ! 急いで届けないといけないのは分かりますけど、急いでかつ安全運転でお願いしますーっ! 思わずしがみついちゃいましたけど、仕方が無いですよね…? そういえばグレン、寒いの苦手なんです? この間雪の中歩いてた時も寒いって言ってましたし… ソリ走ってる間かなり風当たりますから、顔冷えちゃってますね… そうだ、手袋してる手をこうやって頬にあてとけばあったかいですよねっ! メリークリスマスですっ! お母さんやお姉ちゃんと一緒に素敵な動物園作ってみてくださいねっ! |
ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
ニコラ/ソリ2/流行の服一揃い …サンタの幻想が見事に壊れたわ(ジト目 何て書いてあるの(覗き込む ニコラ…プレゼントは(ぐしゃと握り潰す まぁいいわ。受取りに行くわよ ソリと精霊を見て(隣… 触れないよう端に身体を寄せて座る 大丈夫よ 平気 はぅ!?…怖いわけじゃっ! そうね、少しこのままで居てあげる うぅとなり照れ隠しに俯き体重を預ける(あの時の匂い…依頼28マントを借りた 凄い光 光の数だけ人がいるのね。不思議な感じ メリークリスマス 人間第一印象が肝心よ!(びしっと という訳でコレ 顔?大事なのは全体のバランス あ、その後は中身勝負だから、そこは頑張りなさい …私だってお見合い結婚目指して努力したもの 安定した生活が夢なの! |
水田 茉莉花(八月一日 智)
プレゼント 玩具のミシン・布やレース等バックを作る材料 さてと、プレゼントは持ったけど どうするのよこのやる気のないトナカイは ど、どっからそんなの持ってきたのよ! ボケ、アホ、マヌケ、ドチビ! いっぺん逝ってこいこのバカぁ!(ハリセンで滅多打ち) …で、あんたもこうなりたいの、トナカイさん?(ニタリ) アンナと一緒にバックを作るの 『かっこいい』基準は人によって違うんだから 自分の気に入ったのを作って持つのがいいと思うのよ アンナ、バックを届けに来たわ 一から作りましょ 大丈夫、あたし裁縫のスキルあるし、手伝うから 彼女から希望を聞いて デザインに起こしたり生地やレースを選んだりするわ OK、完成ね!コレなら絶対一番だわ! |
菫 離々(蓮)
ミハイルくん担当 ソリは3番 トナカイさんにお願いしますの挨拶。お仕事後もお礼を。 過ぎたいたずらは……ええ度胸しとるやんけ、です。めっです 世界一速い飛行機をご所望なので無線操縦の飛行機を申請 塗装の一部は自分でするものを 玄関から伺えば良いのでしょうか メリークリスマス! 良い子にプレゼントです、と箱を掲げ。 サンタはキミの願いをちゃんと知っています でも魔法の力が少しだけ足りなくて……キミの力が必要なのです キミの勇気と優しさと強さと……ええと、とにかく この飛行機を世界で唯一、一番素敵な機体に仕上げてくださいな ハチさんは大人ではないですか それにサンタさんはきっとこう言います 子供達の笑顔が何よりの贈り物だ、って |
名生 佳代(花木 宏介)
5番のソリでセシリアのところへ行きますわ。 チャラ男サンタ様にはシンパシーを感じ…ゲフンゲフン。 よぉーし! まずはプレゼント選びだしぃ。 マジでヤバイパン作りキットで女子力アゲアゲだしぃ。 将来立派なお嫁さんになるしぃ! メッセージカードはメンドイから宏介に任せた! おほほ、宏介様?なにかおっしゃいました? わたくし、女子力の塊でしてよ? ちょっと宏介ぇ、これとこれを装着するし。 クリスマスっぽいほうが盛り上がるっしょ! んん、セシリアんちってこっちだったっけぇ? なぁーんかマジでヤバイ予感…。 ちょっとぉ宏介ぇ!地図逆さまだしぃ!? あーもー!夜が明けちゃうしぃ! マジでヤバイし!トナカイさん急ぐしぃ! 頑張れトナカイ! |
●異なる存在
「よぉーし!まずはプレゼント選びだしぃ」
チャラ男サンタに何らかのシンパシーを感じたらしく、足取りも軽やかにプレゼントを受け取りに向かう名生 佳代。
それにしてもこの娘、ノリノリである。
一方、花木 宏介はというと。
「騒がしい……本物サンタも佳代サンタも騒がしい。無事に任務遂行できるか心配だ……」
ファッションメガネを押し上げつつ溜め息をついている。
そして佳代が選んだのは……。
「マジでヤバイ、パン作りキットで女子力アゲアゲだしぃ。将来立派なお嫁さんになるしぃ!」
パン作りキットといっても本格的な調理用のものではない。
付属の粉を水と混ぜてオーブンで焼くだけでパンができるという子供向けの商品だ。可愛いキャラクターの型抜きもついている。
「ふむ、一応無難なプレゼントだな。妙なものじゃなくて安心した」
「メッセージカードはメンドイから宏介に任せた!」
可愛らしく包装された箱と共に渡された未記入のカードを宏介に押し付ける佳代。
「メッセージカードか。『両親と一緒に作り、弟と一緒に食べなさい。これからも家族を大事にするんだぞ』……っと」
内容を声に出しながら宏介はセシリアへのメッセージを綴る。
「佳代もそのぐらいの女子力があればなぁ……」
「おほほ、宏介様?なにかおっしゃいました?わたくし、女子力の塊でしてよ?」
思わず呟いた宏介に佳代が高笑いをした。
2人がNo.5と書かれたソリに乗ると、2頭のトナカイは全てを心得た様子で空へと走り出した。
「ちょっと宏介ぇ、これとこれを装着するし」
どこにからか白い付け髭と赤いサンタ帽を引っ張り出してきて宏介に迫る佳代。
先程プレゼントを受け取る時に、こっそりと私用としてサンタから購入していたのだ。
「オイ、何する。やめろ!何だこれは。俺に何させようとしてるのか予想はついたけどやめろ!」
手綱を持っていた宏介が決して広くはないソリの上で逃れようともがく。
「クリスマスっぽいほうが盛り上がるっしょ!」
「オレはあくまで子供が起きないようにプレゼントを置いてくつもりだぞ。姿を見せて子供の夢を壊す訳にはいかないだろ」
サンタが来るはずだったのに、来たのが自分だったなんて何のロマンもない。
それ以上に、佳代の姿を見られようものなら、子供の夢は100人の男に乗られたオモチャの物置より儚くペチャンコに潰れることだろう。
夜道ならぬ夜空を急ぐ宏介。佳代がふと首を傾げた。
「んん、セシリアんちってこっちだったっけぇ?」
「……いや、こっちの方角で合ってるだろ」
「なぁーんかマジでヤバイ予感……」
「ほら、地図通りだぞ」
セシリアの居場所はトナカイが知っており、特にこちらから指示をしなくてもトナカイ達がそちらに向かってくれる。
チャラ男サンタからはそのように説明をされていたが、形が重要だと宏介は地図を睨んでいたのだ。
「ちょっとぉ宏介ぇ!地図逆さまだしぃ!?」
「……くっ、逆……だと……」
逆さまに持った地図が合っているように見えていたという事は、トナカイの進路が間違っていたということである。
その事実に佳代は軽くパニックになった。
「あーもー!夜が明けちゃうしぃ!マジでヤバイし!トナカイさん急ぐしぃ!」
夜明けの遅い真冬だが、既に東の空が白みはじめている。子供達が起き出してくる時間まであと少しだ。
「頑張れトナカイ! 」
佳代の激励も虚しくトナカイは迷走を続け、セシリアの住むマンションに辿りついた時には既に子供達は起き出していた。
仕方なく佳代の持つ髭と帽子を身につけセシリアにプレゼントを渡した宏介。
「罰ゲームでサンタコス……なんて屈辱だ……」
ソリに乗り込みグッタリと呟いた宏介をセシリアが大きく手を振りながら見送る。
一片の邪気もない笑顔を見ていたら「サンタコスも悪くない」ほんの少しだけだが、そう思えた宏介だった。
外見は飾りという佳代。自分とは違うそのあり方もまた……。
「悪くない」
●傷つける者は許しません
「よろしくお願いします」
トナカイに向かって律儀に頭を下げる菫 離々。
No.3と書かれたソリに乗り込む時、蓮がトナカイに向かってボソリと呟いた。
「お嬢に乗って貰えるとかマジうらやまけしからん」
離々の乗るソリをひくとか、蓮にとってはご褒美に等しい。
「ちょっとそこ代わ……何でもないです」
でも、チラリと向けられた離々の一瞥に言葉を途切れさせてしまう程度にはヘタレのようだ。
「服はサンタ服ですかね? お嬢のミニスカサン……普通にズボンですね。ですよね」
肩を落とし、スゴスゴと離々のとなりに乗り込む蓮。
そうして彼女と彼の宅配便は出発した。
夢見の塔からタブロス市に向かう途中にある針葉樹林。
静かな林の中に蓮の悲鳴が響いた。
「ぅわわわわ……」
空中で上下に跳ねるソリ。蓮が悲鳴を上げながら必死にソリにしがみついている。
一方、離々はいつもと同じ控えめな笑みを浮かべたまま平然と座っていた。
フワリと浮いたソリが針葉樹の大きく張った枝の真下を掠める。乗っているものが頭を打つか打たぬかという限界の位置だ。
「……!!」
頭上を通り過ぎる枝の近さに驚き、腰を浮かせる蓮。
そして蓮が取ったのは、おもむろに離々に覆いかぶさるという行動だった。
「お嬢は俺が護衛しま……うがっ!!」
悪戯もののトナカイは、離々と蓮が頭をぶつけぬギリギリの位置を計算して通り過ぎた。
それなのに蓮が離々をかばおうとしたものだから……。
上にかぶさった分、位置が高くなった蓮の頭に針葉樹の枝がクリーンヒットする。
均衡を失い崩れかかった蓮を、離々が支えて元の位置へと座り直らせた。
「ハチさん。ありがとうございました」
ちょっと過保護な蓮。けれども、冗談で傷つけられて黙っている訳にはいかない。
「……ええ度胸しとるやんけ」
本場仕込みの一喝にトナカイは急に大人しくなった。
「メリークリスマス!良い子にプレゼントです!」
離々がそう言いながら手にした箱を掲げてみせると、出迎えたミハイルが飛び上がって喜んだ。
「サンタはキミの願いをちゃんと知っています。でも魔法の力が少しだけ足りなくて……キミの力が必要なのです」
ミハイル少年の前に屈みこみ、目線を合わせる蓮。
肉食獣のような己の外見に、少年が恐れを抱かないか心配しつつ口を開く。
「その白い箇所を自分で好きに色塗りなってことですよ。塗り方は兄さん方が知ってるんじゃないかな」
「キミの勇気と優しさと強さと……ええと、とにかく、この飛行機を世界で唯一、一番素敵な機体に仕上げてくださいな」
「少年。いやパイロットよ。君の卓越した操縦能力が問われている。速さが引き出せるかな?」
蓮の言い回しにミハイルの瞳がパッと輝く。
外見よりも、少年心をくすぐるその言葉の方が少年には重要だったようだ。
帰路、ポツリと蓮が言った。
「世界一速い、と。年頃の男の子らしい願いだ。そして都会っ子ですね」
「そうですね」
蓮に『パイロット』と呼びかけられた時の少年を思い出しながら離々は頷く。
「いいなあ、俺もプレゼント欲しいです」
「ハチさんは大人ではないですか。それにサンタさんはきっとこう言います、子供達の笑顔が何よりの贈り物だ、って」
「子供よりサンタさんの笑顔の方が嬉しいですよ」
「わかりました」
後日、離々から蓮に手渡されたもの。それは、例のチャラ男サンタが満面の笑みで写っている写真だった。
どうやら離々が、わざわざ買い付けてくれたらしいのだが……。
その敢えてつれないチョイスが、蓮にはまた別の意味でたまらなかった。
●2人だから見られるもの
「……サンタの幻想が見事に壊れたわ」
チャラ男サンタの背中をジト目で見送りながらミオン・キャロルがそう呟く。
「クリスマスは良いよな。プレゼントが楽しみ過ぎて中々寝れなかったよ」
一方、アルヴィン・ブラッドローはのん気な表情でそんな思い出話を口にした。
まずはチャラ男サンタから渡されたメモを覗き込む2人。
「何て書いてあるの?」
「まずは宅配先っと……?」
「行き先は、ニコラ……プレゼントは……?」
「彼女?」
そこに書かれた『欲しい物』を見たミオンが、メモをぐしゃっと握りつぶす。
「まぁいいわ。受取りに行くわよ」
そう言いながらプレゼントの受け取りカウンターに向かうミオンを追いかけながら、アルヴィンは一人首を傾げた。
「わざわざ頼む必要あるのか?」
No.2と書かれたソリに繋がれた2頭のトナカイ。彼らはミオンとアルヴィンが近づいてきても、のんびりと餌を食んでいた。
「よしよし、よろしく」
空を飛べることが嬉しいらしいアルヴィンが、手を伸ばしてトナカイの首を撫でた。
ミオンはというと、2人がなんとか並んで座れるほどの、決して大きくはないソリとアルヴィンを交互に見ながら微妙な表情を浮かべている。
(隣……)
こんな狭い場所で隣に座るのは何だか気恥ずかしい。
わくわくとソリに乗り込むアルヴィンに続いたミオンが、アルヴィンと身体が触れぬよう、できるだけ端に腰かける。
「そんな端じゃなくてこっち来たらどうだ?」
「大丈夫よ」
アルヴィンが何かを言おうとした時、トナカイが地面を蹴ってソリが浮かび上がった。
「おお、浮かんだ……」
途端にそちらの方に気を取られ、楽しげな声を上げるアルヴィン。そうしてソリは走り出した。
「地上より寒いな、大丈夫か?」
出発からしばらく経った頃、自らの身体を掻き抱くように肘を掴んでいるミオンにアルヴィンが声をかけた。
「平気」
震えつつも、素っ気なく答えるミオン。
「やっぱ落ちそうで怖い」
アルヴィンがミオンの腰に手を回す。そして抱き寄せるようにして自分のすぐ横に座らせた。
「はぅ!?」
「鼓動が早い……ホントは高くて怖かった?」
「……怖いわけじゃっ!」
クスリと笑うアルヴィン。
「寒いのも少しはマシだろ」
ほんの少し下唇を噛み、そっぽを向いたミオンがわざとらしくツンと澄まして答えた。
「そうね、少しこのままで居てあげる」
照れに顔を伏せつつ、ミオンはアルヴィンに少しだけ体重を預ける。
触れ合った肩から伝わるぬくもりと……。
(あ、あの時の匂い……)
サンセットクルーズに出掛けた時に借りたマントをミオンは思い出した。
「街が見えてきた」
「凄い光」
「まだ明かりが多いな」
「光の数だけ人がいるのね。不思議な感じ」
「普通にしてたら見れない景色だよなこれ、サンタの特権だ」
「そうね……」
「メリークリスマス!!」
出てきたニキビの目立つ少年に、ビシリと人差し指を突きつけてミオンが言う。
「人間第一印象が肝心よ!……という訳でコレ」
袋の中を覗き込み不思議そうな顔をしているニコラにミオンは説明した。
「大事なのは顔よりも全体のバランスよ!だから、まずは勉強しなさい!」
最初は流行の服一揃えをプレゼントしようとしたのだが、夢見の塔には玩具しか置いてなかったのだ。
そこでミオンが選んだのは、アバターを自由に着せ替えできるシュミレーションゲームだった。
「それと……コレ」
もう一つの袋をミオンがニコラに差し出す。それは自前で買い付けた流行のシャツだった。
「その後は中身勝負だから、そこは頑張りなさい」
「まぁ、がんばりなよ」
「……私だってお見合い結婚目指して努力したもの!安定した生活が夢なの!」
「お見合い……?」
首を傾げるアルヴィンに、ミオンは曖昧に笑って誤魔化した。
帰り道。ミオンがアルヴィンに訊ねた。
「貴方は何か目指してたりしなかったの?」
「うーん、どうかな」
ややあってアルヴィンはこう答えた。
「今は楽しいよ」
ウィンクルムとなったからこそ見ることのできるものもある。それもまた、楽しい。
●フルボッコ
大問題。それが今、水田 茉莉花と八月一日 智の前に横たわっている。
それは2頭のトナカイの形をしていた。
「さてと、プレゼントは持ったけど、どうするのよこのやる気のないトナカイは」
サンタ服でプレゼントを持った二人とは対象的に、トナカイはのんべんだらりと床に腹と顎をつけている。
「そこはおれに任せとけってんだ!まずは肉!」
トナカイの前に厚切りのステーキを差し出す智。しかし。
「……反応無し」
当たり前だ。トナカイは草食である。
「次に酒!」
けれども。
「……見向きもしねぇ。これもダメか。だったら……」
ゴソゴソとズボンのポケットを漁ると……。
「ぱららぱー、みずたまりのぱんつー!」
まるで秘密道具を出すように掲げてみせたのは、そう、茉莉花の下着。
一瞬、事態を把握し損ねた茉莉花だったが、それが己の衣類、しかも最もデリケートな下着である事に気付くや……。
「ど、どっからそんなの持ってきたのよ!」
怒鳴る茉莉花に、涼しい顔で智が答える。
「ん、洗濯カゴ、一緒に住んでる人の特権」
そして、あろうことかそれをトナカイの鼻先に突き付けた。
「ってことでコレを鼻っ先にぶら下げて……お、いい反応!ほーれほーれ、匂い嗅げよ、使用z…ぶふぉう!」
「ボケ、アホ、マヌケ、ドチビ!いっぺん逝ってこいこのバカぁ!」
突き上げる衝動のままにハリセンで智を滅多打ちにする茉莉花。
「いだい、いだ、止めてでかっちょ、身長が縮む!」
しばらくのあいだ智をサンドバックにしていた茉莉花だったが、いやがて冷静さも戻ってきたのだろう。
肩で息をしつつトナカイを横目で睨む。
「……で、あんたもこうなりたいの、トナカイさん?」
暴れて乱れた髪の隙間から覗く壮絶な笑み。
まるでそこだけブリザードに見舞われたかのような表情で、トナカイ達は立ち上がった。
「……結局みずたまりのハリセンで言うこと聞きやがったか」
激しい試合を終えた後のボクサーさながらの智が、リング……ではなくソリから降りてくる。
「うえーい、サンタ宅配便です」
顔を輝かせ智と茉莉花を迎え出たアンナだったが、智の顔を目にするなりその表情を強張らせる。
「……あ、びびった?ゴメンゴメン、ちょっと事故ってこんな顔ー」
素人芝居よりも酷い棒読みで言う智。前に進み出た茉莉花が言った。
「アンナ、バックを届けに来たわ。一から作りましょ。大丈夫、あたしが手伝うから」
そう、茉莉花がアンナに選んだのは玩具のミシンだった。
直線縫いしかできないものの、普通のミシンと同様、針と糸で布が縫えるようになっている。
「バック自体は持ってこなかったけど、ナニするつもりなんだよみずたまり」
ここに向かうソリの上で訊ねる智に、茉莉花はこう答えたのだ。
「アンナと一緒にバックを作るの。『かっこいい』基準は人によって違うんだから、自分の気に入ったのを作って持つのがいいと思うのよ」
そして茉莉花は道中で自ら買い求めた、生地やレースの入った袋をアンナの前で広げて見せた。
来た時には東の空に出たばかりだった太陽が西に傾き始める頃、ついにバックは完成した。
「OK、完成ね!コレなら絶対一番だわ!」
可愛らしく、使い勝手も良さそうなバックが2つ。
1つは自分に、もう1つは父親にあげるのだと嬉しそうに言うアンナを後に、茉莉花と智は夢見の塔へと戻って行った。
●つり橋効果
「動物園の玩具、懐かしいなぁ。動物の小さい人形がいっぱい入ってて、大きい台の上に好きに並べられるんです」
プレゼント受け取りカウンターに肘をついて箱を覗き込み、にこにこと言うニーナ・ルアルディ。
「この玩具下さいっ!」
「ニーナ用の玩具じゃねーだろ」
突っ込むグレン・カーヴェル。
ちょっとショックを受けたような顔をするニーナに、カウンターのサンタが笑って言った。
「プレゼント用とは別に、あなた用のも用意できますよ。買取になりますが」
「本当ですか?下さいっ!」
(こいつ、スピードあるものに慣れてないだろうし面白い反応するんだろうなー)
そんな事を思いながら、ニーナと共にソリに乗り込んだグレン。
「子供が待ってるだろ、早く行こうぜー」
そうトナカイを促すと、首がガクンと後ろに持っていかれるような勢いでソリは急発進した。
「お、なかなかのスピード」
「スピード速すぎませんかこのソリっ!急いで届けないといけないのは分かりますけど、急いでかつ安全運転でお願いしますーっ!」
真っ青な顔になってニーナが叫ぶ。
この世の終わりでも見たかのようなその表情を見下ろして、グレンは苦笑した。
「ニーナ、期待通りの反応ではあるんだが、ここまで怖がるとはちょっと思わなかったな……」
「えっ、あのっ!思わずしがみついちゃいましたけど、仕方が無いですよね……?」
いつの間にかグレンの胴に回してしまっていた両腕をぱっと開き、ニーナは伺うようにグレンの顔を見上げる。
離れていこうとするニーナの手を、ポンポンと軽く叩いてグレンが言った。
「その……悪かったな、怖いんなら腕でも手でもどこでも掴んどけ」
「……はい」
グレンに言われ、少し照れながらもグレンの二の腕に手を回すニーナ。
猛スピードで夜空を駆けるソリの上でグレンにしがみつき、ぎゅっと縮こまっていたニーナだったが、ふとある感触に気付いて顔を上げた。
「そういえばグレン、寒いの苦手なんです?」
布越しに感じるグレンの身体が小刻みに震えている。
そういえば、グレンが身に着けているのは普段街中で着ているのと大差ない服装だ。
顔には出していないものの、グレンは寒さ対策を怠ったことを後悔していた。
「この間雪の中歩いてた時も寒いって言ってましたし、ソリ走ってる間かなり風当たりますから、顔冷えちゃってますね……」
ソリのスピードが恐ろしい事も忘れ、ニーナはグレンの顔へと手を伸ばす。
「そうだ、手袋してる手をこうやって頬にあてとけばあったかいですよねっ!」
「お前の手顔に当ててたら前見えねーだろ」
いい事を思いついたのにグレンに手を引き剥がされて、しゅんとするニーナ。
しょぼくれたその姿を見たグレンはため息をついたが、すぐに悪戯を思いついた少年のような笑みを浮かべて言った。
「……それだったら、お前こっち来いよ」
ニーナの腰に手を回し、自分の方へと引き寄せるグレン。
「こうやって近くに抱き寄せておけばカイロ代わりにな……」
が、しかし、急接近に焦ったニーナが顔を真っ赤にしてグレンの腕から逃れようとする。
「おい離れるなって、俺が寒いだろ、大人しくしとけって!」
再び引き寄せられたニーナ。
密着した身体から伝わる体温や身体の動きに照れ、もがいていたニーナだったが、グレンのその言葉でようやく諦めたように動きを止めた。
「グレンが……あったかいなら」
熱くなったニーナの頬を夜風が心地よく撫でていった。
「メリークリスマスですっ!お母さんやお姉ちゃんと一緒に素敵な動物園作ってみてくださいねっ!」
待ち構えていたルドルフに笑顔でプレゼントを渡すニーナ。
帰りも同じソリなのだと……その事実にはまだ気付いていないようであった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 白羽瀬 理宇 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月08日 |
出発日 | 12月14日 00:00 |
予定納品日 | 12月24日 |
参加者
会議室
-
2014/12/13-23:51
-
2014/12/13-23:51
回答ありがとうございます。
ミハイルくんのもとへ、3番のお茶目なトナカイさんと向かいます。
サンタの皆さん、頑張ってくださいね。
子供たちに笑顔を届けることができますように! -
2014/12/13-08:38
遅くなりましたっ
それでは一番のソリにしようと思います -
2014/12/13-02:10
慌てて喋ったら「どうぞ」って二回言っていますね、私……うう。
改めまして。スミレ・リリと、精霊はハチスさんです。お世話になります。
ミオンさんは祝辞ありがとうございます。キノコ鍋の途中から記憶が曖昧ですけれど。
眼鏡の波動を感じます。ではなくて。
佳代さん、希望のまとめありがとうございます。
では私とハチさんの担当は、ミハイルくんで良いでしょうか。
世界一速い飛行機、ですね。ふむ。
ソリは……ニーナさん、1番と3番、どちらご希望ですか?
残った方に乗りますね。 -
2014/12/12-10:21
佳代さん、まとめありがとうございます。
ソリ2でニコラの所に行くわね。 -
2014/12/12-00:18
名生さん、まとめありがとうね♪
・・・って、被っちゃってたか。
じゃあ、アンナちゃんの所に行くことにするわね!
で、ほづみさん、どうやってやる気出させるつもり?(ハリセンばしばし) -
2014/12/11-22:56
全員挨拶終わった的なぁ?
ニーナ姐さんはよくあることだし気にすんなし!
んーと、希望の集計してみるしぃ。
姐さんたちの敬称略で勘弁して欲しいしぃ。
アンナ:茉莉花
ミハイル:希望者無し
セシリア:佳代
ルドルフ:ニーナ、茉莉花
ニコラ:ミオン
ソリ1:ニーナ
ソリ2:ミオン
ソリ3:ニーナ
ソリ4:茉莉花
ソリ5:佳代
うん、意見1つでかぶってない所はそこで決定でいいんじゃないのぉ? -
2014/12/11-22:16
こんばんは、スミレ・リリと申します。
よろしくお願いしますね。
取り急ぎになってしまいますが、
私の方は担当する子・トナカイさん、どなたでも大歓迎っですので、
どうぞ皆さんの希望をお先にどうぞ、です。 -
2014/12/11-21:33
あぁ、ごめんなさい。
佳代さんのセシリアちゃん希望を思いっきり読み飛ばしていたわ…。
ニーナさん、大変失礼を致しました。
ソリは2番と指定しましたけど
他でも大丈夫なので被ってたら遠慮なくお願いします -
2014/12/11-20:19
こんにちは!はじめましての人ははじめまして!
水田茉莉花です、よろしくお願いします。
おちびさんの希望とソリの希望ねー・・・
あたしはどこでもいいんだよなー、ゆっくり考えるわ。
(智:おれはアンナかルドルフの所がいい!)
・・・ああもううるさい。
ソリは余ったのを使うわよ、どれでもかまわないわ。
(智:なーなー、あのやる気のねーのおもしろくねぇ?) -
2014/12/11-15:00
そういえば忘れてました、
私はルドルフ君のところに行こうかなとぼんやりと考えてますけど、
皆の意見を聞いてからじゃないと決まらないのでなんとも…
出発日までまだ時間があるので、のんびり相談して決めましょう。 -
2014/12/11-09:51
ミオンです。
初めましての方もお久しぶりな方も、宜しくお願いします。
離々さん、蓮さん、キノコではお世話になりました。
MVPおめでとうございます。
ソリはのんびり2番に乗ってみたいわ。
子供達についてはまだ意見がないようだけど、皆さん希望はあるのしから?
私はニコラ君が気になるけど(メンバーを見渡しつつ)
他の方がお届けするのが、楽しそ…いえ、彼の為になりそうね。
誰も希望が無ければニコラ君を指名したいわ。
他の子供でも大丈夫よ。 -
2014/12/11-09:37
おほほ、皆様はじめまして、名生佳代ですわ。
どうぞよろしくお願い致しますわ。
(ゴホン)っつーことで!ガキンチョ共に愛と感動を届けてやろーじゃん?
んとねー…どのマヂでヤバいガキと、マヂでヤバいソリで行こうかなぁ…。
どーれーにーしーよーぉーかーなー…。
うん!セシリアちゃんと5番のトナカイ希望するしぃ!
他に希望者がいれば譲るけどね。
花木宏介「チャラ男サンタとパートナーが意気投合してめんどくさそうだが、
やるだけやってくる。よろしく」 -
2014/12/11-00:10
ニーナ・ルアルディです、よろしくお願いしまーすっ!
わあ、ソリを選べるんですねーっ、トナカイさん初めて見ました…
そういえばグレンは1番か3番がいいとか言ってましたっけ…
(それぞれのトナカイの詳細は聞かされていない様子)