プロローグ
●色彩の夢幻
「スノーウッドの森の中にある、『ラルカンシエル』という名のカフェを知っているか?」
A.R.O.A.職員の男は唐突に言った。そこで炎龍王やオーガ絡みの事件が!? というわけではどうやらないようで。
「以前スノーウッドを訪れた時のことを思い出したんだが、カフェ『ラルカンシエル』は色をテーマに据えた少々風変わりな店でな。全部の席が2人用の個室になっていて、店の中は森を包むのと同じ、雪の純白に染まっているんだ。だから、一見すると殺風景な感じなんだが……」
テーブルに着くと、店員がメニュー表ではなく虹色の色彩を用いた1枚の絵画を持ってきて「どの色がお好みでしょうか?」と尋ねる。そして客が好きな色を選ぶと――。
「他の色を際立たせる真っ白のテーブルクロスの上に、選んだ色の光を淡く放つ不思議なランプが用意されて、テーブルを幻想的に照らし出す。そして間もなく運ばれてくるのは、選んだ色に応じた、店の自慢のスイーツだ」
例えば、赤色を選べば運ばれてくるのはチョコレートのムースをフランボワーズのムースで包みベリーソースをかけたもの。天辺には赤いベリーとチョコ細工。お気に召したのが藍色ならば、用意されるのはダークチェリーがぎっしりと詰まった熱々クラフティー、といった具合らしい。勿論、味もなかなかのものだと男は言う。
「どうだ、ちょっと面白いとは思わないか? 2人っきりでゆっくり話せる機会は意外と少ないだろうし、興味があれば、パートナーと色の魔法にかかってみるのも悪くはないと思うぞ」
そう言って淡く微笑み、男は件のカフェの場所を集まっている面々に説明し出した。
解説
●『ラルカンシエル』について
スノーウッドの森の中にある、色をモチーフにしたカフェです。
選んだメニューによらず、1個室(2人きりの空間です)300ジェールとなります。
その他詳細はプロローグにて。
●『ラルカンシエル』のスイーツについて
選んだ色に応じたスイーツ(+マシュマロ入りホワイトホットココア)が供されます。
以下詳細。
赤:チョコとフランボワーズのムース
橙:オレンジマーマレードのシフォンケーキ
黄:さわやかな風味のレモン・チーズケーキ
緑:小豆と抹茶のパウンドケーキ
青:ぎっしりブルーベリーのパイ
藍:ダークチェリーの熱々クラフティー
紫:紫芋のほっこりスイートポテト
●プランについて
色の指定が必須です。
(もしも指定がなければ、こちらで色を選ばせていただくこととなります)
色は2人で1つの物を選んでいただくこととなります。
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは極端に描写が薄くなりますのでお気をつけくださいませ。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
虹が好きです。でも好きと言いつつ虹の七色の中に藍色が含まれているのを最近知りました。
個室デートということで、2人きりの空間を満喫していただければ幸いです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
個室でゆっくりなんて機会もなかなかないしな 魔法にかかるのも悪くないか さて、何色にしたものか ……レディーファーストの意味わかって言ってんのかお前は いやわかっててやってんだったらそれは問題だが……まあいい そうだな、それじゃ紫を あれこれ想像を膨らませる様を微笑ましく見守り ほんとにお前は元気だな……ほら、答えが来たぞ 紫を選んだ理由、か(少し考え) 秋ごろに、ジビエの店に行ったのを覚えてるか そこで、話したこと。 ……あの時約束したように、俺は、ちゃんと笑えてるか? ~~っ、またお前はそういうことを……! (照れつつ振り払わず) クリスマスか、稼ぎ時……おい露骨にがっかりするな わかった、わかったから!夜な! |
信城いつき(レーゲン)
レーゲンの誕生日って12日だったの!?過ぎてるよ… プレゼントは用意できないけど、ケーキでお祝いするよ 相棒の俺にはレーゲンをお祝いする権利があるっ(笑顔)さぁ行こう! ケーキは髪の色の青ね。蝋燭も頼めるかな?(可能なら1本) はいココア、はいあーん(プレゼントない分何かしてあげたい) お祝いしたいのはもちろんだけど、同じ位レーゲンと出会えた事が嬉しいんだ 誕生日おめでとう、そして今ここにいてくれて本っ当にありがとう(満面の笑み) クリスマスプレゼント欲しい物ある?……欲ないなぁ 手下げなくていいよ。ちゃんと仕事してる手なんだから 触れてくれれば何があってもレーゲンって分かるよ、だからこの手がいいんだ |
アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
白い部屋を物珍しそうにきょろきょろ 趣旨を聞いてキャンパスみたいだなと納得 好きな色は青かな だって、空の色だから 赤?髪が赤いからかな クレミーのイメージは森の緑だけど 好きな色は何だろう 藍?でも、藍色の服は見た事ないけど あ……ごめん……って 今一瞬しんみりしたの返してな気分だぞ オーダーは『藍』で 今は青空より夜空の気分なんだ 注文が届き、藍色に変わる部屋に思わずため息 でも、亡くなられたのって小さい時だよな 俺には辛い過去もないし家族も元気だ だから本当には判ってないかもしれないけど いつでも抱きしめるから 冷めない内に食べよう そういえば、なんで藍が好きなんだ? さっき……夜空? 俺が青空でクレミーが夜空って、対になるな |
鳥飼(鴉)
お話ができるかはともかく。 一緒にいれば、何か違いますよね。 「鴉さんは何色がいいですか?」 「じゃあ、紫で」(指で色を示す 紫一色ですけど、それぞれ色合いが異なって。 一色でもここまで豊かになるんですね。 「もう少し鴉さんのことを知りたい、とは思いました」 「でも、一緒に来れただけでも嬉しいです」(嬉しげに微笑む スイートポテトもおいしいですし。ココアも体が温まります。 会話が無くても、一緒にいるだけで少しは相手がわかるといいです。 鴉さんは、人が多いところは苦手なんだと思います。 今は僕しかいないから、少し肩の力が抜けてるのが判ります。 「変わって、ます?」(きょとりと首傾げ 鴉さんが嫌がってないのなら、良かった。 |
芹澤 奏(ラム・レイガード)
へぇ…素敵なお店っスね。確かにラムさん、好きそう。 ●色 んーー色っスか……黒、かな…。 黒はないスね、すいません。 (店員さんに) じゃあラムさんが好きっていうんで赤でお願いします、はい。 あ、チョコもベリーも食べれます、はい。 ラムさんマジ煩いッス。 ●食 …美味いっスね。 ココアも可愛くて、美味しい。 こんな所、来る日が来るなんて思わなかったス。 …まさか適合する精霊、現れると思ってなかったスから。 とりあえず、構ってくれてありがとうございます。 自分の身は自分で護れるようにはなりたいもんっスけど。 これからよろしくお願いします、ラムさん(ぺこ) 「ラムちゃんでいいのよー?」 無理っス。拒絶っス。ラムさんマジ煩いっス。 |
●ことのはいらず
(お話ができるかはともかく。一緒にいれば、何か違いますよね)
鳥飼が鴉を誘ったのは、そんなささやかな想いからだった。2人真っ白の雪を思わせる個室に入り席に着けば、真向かいの鴉と目が合って。ふわり微笑み掛ければ、返る鴉の貼り付けたような笑みに僅か軋むような色を見留めて、鳥飼はことりと小首を傾げた。けれど違和の正体を掴むよりも早くに、定員がメニュー代わりの絵画を携えて白の小部屋へとやってくる。
「鴉さんは何色がいいですか?」
「主殿の好きな色をどうぞ」
そう答えた鴉の瞳をそっと掬うような眼差しで捉えて、鳥飼は目元を柔らかくした。
「じゃあ、紫で」
畏まりましたと店員が去り、次に戻る時には純白のテーブルクロスの中央に据えられるころりと丸いランプ。灯り点せば、見る間に部屋は紫色に染まった。ランプの光が揺らめく毎に、部屋は違った姿を鳥飼たちに見せる。鴉の唇から、感嘆の息が漏れた。鳥飼もしっとりと笑みを零す。
「紫一色ですけど、それぞれ色合いが異なって。一色でもここまで豊かになるんですね」
「……そう、ですね」
応じて、鴉はランプと共に運ばれてきた紫芋のスイートポテトにそっとフォークを入れた。口に運べば、ふわりと香り立つシナモン。上品で舌触り滑らかなスイーツを少し味わった後で、ホワイトココアをこくこくと飲む鳥飼へと鴉は問うた。
「こういう場に来たということは、私に何か聞きたいことでも?」
寸の間鳥飼は薄青の目を丸くしたけれど、そのかんばせには、すぐにはにかんだような笑みが浮かんで。
「もう少し鴉さんのことを知りたい、とは思いました」
でも、と鳥飼はどこか楽しそうに微笑する。
「一緒に来れただけでも嬉しいです」
咄嗟には返す言葉も思いつかず、鴉は小さく首を振った。
(――理解が出来ない)
何故、自分に近づこうとするのか。契約の義務感からか。けれど、ごく嬉しそうにスイートポテトを口にする鳥飼からは、そんな様子は窺えない。揺れるランプの色に、鴉は仄か眉を寄せた。
(紫を選んだことだってそうだ。自分の目を見てから決めていた)
そのことを見逃してはいなかった鴉である。口説いているつもりだろうかとも思ったけれど、きっとそんなつもりも無いのだろう。鴉が底無しの思考の沼に沈んでいる一方で、鳥飼は鴉との2人きりの時間をおっとりと楽しんでいた。
(スイートポテトもおいしいですし、ココアも体が温まります)
そんなほんわかしたことを思いながら、鳥飼はそっと視線を鴉へと遣る。そして、ふんわりと表情を和らげた。会話が無くてもいい。一緒にいるだけで少しは相手が分かるような気がするから。例えば。
(鴉さんは、人が多いところは苦手なんだと思います。今は僕しかいないから、少し肩の力が抜けてるのが判ります)
静かにそんなことを思う鳥飼の視線に気づき、「何です?」と鴉が問いを零す。
「いえ、何でもありませんよ」
そう言って微笑む鳥飼が、鴉の目には紫色の世界からひとり浮いているように見えた。それは、ただの錯覚かもしれないけれど。
「……あなたは、変わった方ですね」
「変わって、ます?」
きょとりとして首を傾げる鳥飼のことを、どうにも眩しすぎる人だと鴉は思う。
「ええ、変わってますよ」
薄く笑みを返せば、鳥飼は何故だか楽しそうに笑った。やっぱり、鴉には鳥飼は眩しい。
「……偶にならば」
だからきっと、こんな言葉も口をつくのだ。
「こういったことも悪くは無いですね」
またも寸の間きょとんとした鳥飼が、次の瞬間には花綻ぶように笑むのが目に浮かぶような気がして。鴉はつと視線を落として、スイートポテトをフォークですいと切り分ける。そんな鴉の姿を見て、鳥飼は鴉の予想通りの反応。
(鴉さんが嫌がってないのなら、良かった)
そうして自分もまた、目の前の甘味を楽しもうとフォークを動かした。
●貴方が居る、という贈り物
「ええっ?!」
何気ない会話の流れで知った看過できない事実に、信城いつきは思わず声を上げた。
「レーゲンの誕生日って12日だったの!? 過ぎてるよ……」
「いつき。クリスマスも近いし、気持ちだけで嬉し……」
肩を落とすいつきに優しく声を掛けようとしたレーゲン、突然ぐい! と腕を引っ張られて、言い掛けた台詞を全て声に乗せること叶わず。問答無用で腕を引いたのは、勿論いつきだ。
「プレゼントは用意できないけど、ケーキでお祝いするよ!」
「だけど……」
「相棒の俺にはレーゲンをお祝いする権利があるっ! さぁ行こう!」
にっとレーゲンへと笑い掛けるいつき。2人きりの誕生日の始まりだ。
「ケーキは髪の色の青ね。蝋燭も頼めるかな?」
そして、場所は『ラルカンシエル』。真っ白の部屋の中注文と共に店員に問えば、「ご用意いたします」との嬉しい答え。間もなく、テーブルに青のランプとスイーツたちが運ばれてきた。
「レーゲン、はい、ココア」
「ありがとう、いつき」
「次は……ええっと、そうだ! はい、あーん」
差し出された一口大のブルーベリーパイを口にして、「美味しい」とレーゲンは笑った。その様子に、いつきもほっとしたように笑み零す。プレゼントがない分何かしてあげたいと、そんな気持ちでいっぱいだったから。
「お祝いしたいのはもちろんだけど、同じ位レーゲンと出会えたことが嬉しいんだ」
溢れるのは、真っ直ぐな言葉。
「誕生日おめでとう、そして今ここにいてくれて本っ当にありがとう」
いつきの想いが、満面の笑みが眩しくてレーゲンはそっと目を細めた。
「ありがとうは私の台詞だよ。いつき、ありがとう」
いつきがはにかむような笑みを零す。2人きりの温かな時間は穏やかに流れていき、話題はやがてクリスマスのことに。
「レーゲンはさ、クリスマスプレゼント欲しい物ある?」
「クリスマスプレゼント……」
レーゲンの瞳に仄か懐古の色が浮かぶ。いつきが記憶をなくす前に約束した物ならばあった。けれど、覚えてるはずないかとレーゲンは緩く首を横に振る。そして、『今のいつき』へと彼は真っ直ぐに向き直った。
「思いつかないな。いつきとゆっくり過ごせたらそれで充分だよ」
「えー、欲ないなぁ」
「そうかな? 結構欲は深い方だと思うよ」
苦笑しながら、レーゲンはいつきの頬へとそっと手を伸ばす。細く長い指の、その先がいつきの頬に触れた。僅か身じろぐいつき。
「っ……」
「あ、ごめんひっかけた?」
作業や修理を多くこなすレーゲンの指先は荒れ、爪は黒ずんでいる。「あまり見られたものじゃないよね」と眉を下げ指を離そうとしたレーゲンのその手を、いつきの掌がそっと包む。
「手、下げなくていいよ。ちゃんと仕事してる手なんだから」
「いつき……」
「触れてくれれば何があってもレーゲンって分かるよ。だからこの手がいいんだ」
慈しむように自分の手に触れて「この手がいい」と言ってくれるいつきが愛おしくて。レーゲンは触れる温度の柔らかさに泣きそうになりながら笑った。
「――あぁ、今したいこと思いついた」
「え? 何?」
「はい、あーん」
空いている方の手で先ほどのお返しのようにパイをいつきの口元まで運ぶ。
「え? ええっ?」
照れて狼狽するいつき。
「私がやりたいことだから付き合ってくれるかな」
とレーゲンが笑い掛ければ、いつきは耳を朱に染めながらもパイをぱくりとした。
「美味しい?」
「……美味しい」
言葉に、言葉が返る。笑顔には、笑顔が。その表情にまだはにかんだような色は残しながらもふにゃりと笑ったいつきの笑顔に、レーゲンの心は満たされる。
(今、いつきが生きて笑っていてくれることが、本当に一番のプレゼントなんだ。たとえ私との記憶がなくなっても……)
それは心からの、真実の想い。同時に胸を掠める切ないような気持ちには、そっと静かに蓋をした。
●これから共に歩む人
「やーん、超可愛いお店よねぇ♪ 初めてのカナちゃんとのデートがこんなお店だなんて、ドッキドキー☆」
好きな色とか、悩んじゃうー! だなんて、ラム・レイガードは頬に手を当ててきゃっきゃとはしゃぐ。対照的に表情一つ変えないままで、「ラムさん煩いっス」と芹澤 奏が抑揚なく言った。
「でも……素敵なお店っスね。確かにラムさん、好きそう。あ、でもデートではないっス」
「えー、カナちゃんの意地悪ー」
「別に意地悪は言ってないっス。来られて良かったとは思ってますし」
「……もうっ、カナちゃんったら!」
目尻を下げて笑うラムの、柔らかな金の髪がふわりと揺れる。2人きりの白い部屋の中ではその姿がやけに鮮やかに見えて、奏は目をぱちぱちとした。間もなく、2人の元に虹の色彩美しい絵画が運ばれる。
「ね、ね。カナちゃん何色が好き? やっぱ赤?」
赤、とラムが言ったのは、奏の髪と瞳が赤色をしているからだ。奏、暫し思案に沈んで、曰く。
「んー、色っスか……黒、かな……。あ、黒はないスね、すいません」
ラムさんの好きな色は? と逆に問いを返せば、ラムは人差し指を顎に当てて小首を傾げて。
「あたし? そうねぇ……うーん、金とかも好きだしー、色と色を合わせると更なる魅力を発見できるしぃ、むしろ一色に選べなーい☆」
「はぁ、そっスか」
「あ、でもね。最近は赤がいっちばーん、好きよぉ♪」
お茶目に言って、ラム、奏へとウインクを一つ。理由は勿論、奏の髪と瞳の色に由来する――のだが、
「じゃあラムさんが好きっていうんで赤でお願いします、はい」
奏、その意図に気づいた上でかはたまた天然なのか、ラムの熱烈なアピールを完全にスルーして店員に注文を始める。
「ちょっと、カナちゃん!」
「あ、チョコもベリーも食べれます、はい」
「カーナーちゃーんー! あたしの話も聞いてー!」
「ラムさんマジ煩いっス。注文中なんで」
2人のやり取りに仄か微笑み漏らして、一旦去る店員。再び戻ってきた時には、ランプとスイーツを携えて。テーブルが、ふわりと赤に染まる。緑の瞳をぱああと輝かせたラムが、チョコとフランボワーズのムースをそっと口に運んでその顔を益々明るくする。
「可愛いー! 美味しー!」
「……美味いっスね。ココアも可愛くて、美味しい」
ホワイトココアをくぴりとして、奏がほぅと息をつく。淡々と赤のムースにフォークを入れながら、再び口を開く奏。
「こんな所、来る日が来るなんて思わなかったス。……まさか適合する精霊、現れると思ってなかったスから」
「そうねぇ、これから色んなお出かけしましょうね! あたしがカナちゃん守ってあげるからー☆」
ラムちゃん頑張る♪ というラムの宣言をさくっと流して、「とりあえず」と奏は言った。
「構ってくれてありがとうございます。自分の身は自分で護れるようにはなりたいもんっスけど。これからよろしくお願いします、ラムさん」
ぺこり。礼儀正しく頭を下げれば、「ラムちゃんでいいのよー?」とラムが相好を崩す。
「無理っス。拒絶っス。ラムさんマジ煩いっス」
きっぱりばっさりと言い切って、奏はまたムースを口に運んだ。その口の端にチョコレートクリームの付いているのを見留めて、その子供じみた愛らしさにラムは目を細めて笑みを零す。
「何スか」
「カナちゃん、クリーム口についてる!」
ニコニコしながらペーパーナプキンでその口元を拭ってやれば、「どうもっス。でも、自分で拭けます」とのお返事。
「ふふ、子供みたいねー、もー可愛いんだからー☆」
「ラムさん、俺の話聞いてるっスか?」
2人の微笑ましいようなやり取りを、様々に姿を変える赤の光が柔らかく見守っていた。
●紡ぐは聖夜の約束
「スノーウッドも素敵なお店がたくさんですね! 今日はどんなものに出会えるでしょうか?」
今日はパートナー直々のお誘いとあって、イグニス=アルデバランはいつも以上にニコニコと、上機嫌でスノーウッドの森を行く。
「イグニス、はしゃぎすぎるなよ」
とその背に声を掛ければ、「はーい!」と何とも元気の良いお返事。しょうがないなと浅く息を吐きつつも、初瀬=秀の目元は柔らかい。
(個室でゆっくりなんて機会もなかなかないしな。魔法にかかるのも悪くない、か)
そうして2人は、『ラルカンシエル』へと足を踏み入れる。
通されたのは真っ白な部屋、広げられたのは虹の色彩美しい1枚の絵画。
「うーん……」
何とも難しい顔をして絵画と睨めっこするイグニスがあまりに一生懸命なのに一つ柔らかい苦笑を漏らして、秀も色付き眼鏡の奥から銀の視線を絵画へと遣る。
「さて、何色にしたものか」
秀の声に我に返った様子のイグニスが、パッと顔を上げて秀を見た。
「わ、秀様何色がいいです?」
「うん? ああ、良いからお前が好きな色に……」
「ここはレディーファーストですよ!」
青の双眸は、真っ直ぐに秀を見つめている。ため息を零す秀。
「……レディーファーストの意味わかって言ってんのかお前は」
「?」
きょとりとして首を傾げるイグニスを前に、「いやわかっててやってんだったらそれは問題だが……」と痛む頭を抑えた後で、
「……まあいい。そうだな、それじゃ紫を」
と、秀は店員に注文を伝えた。畏まりました、と店員が部屋から消える。
「ところで、紫色のスイーツって何でしょう?」
「さて、何だろうな」
「何が出てくるのか、ワクワクしますね! うーん、紫色、紫色……」
楽しそうにあれこれと想像を膨らませるイグニスを、秀は微笑ましいような気持ちで見守った。自然、秀の口元が緩む。
「ほんとにお前は元気だな……あ、ほら、答えが来たぞ」
「え? あ、スイートポテト! なるほど紫芋!」
答えが紫のランプと共にテーブルの上に並べられて、イグニスはその顔を輝かせた。店員が去り、部屋にはまた秀とイグニスの2人きり。
「飲み物も真っ白なんですね」
と感心したように言ってイグニスは温かなホワイトココアを口に運ぶ。スイートポテトを口にして、悪くないなと秀は頷いた。
「そういえば」
イグニスが顔を上げる。
「うん?」
「どうして紫にしたんですか?」
「紫を選んだ理由、か……」
問いに、秀は僅か眉を寄せ顎に手を遣った。そして、遠くを見るように目を細めて暫し思案の世界に沈む。少しの間の後、ぽつりと口を開いた秀が言うことには。
「秋ごろに、ジビエの店に行ったのを覚えてるか?」
「ああ、あそこも紫のお店でしたね」
2人で訪れた、『虹色食堂』の話だ。
「そこで、話したこと。……あの時約束したように、俺は、ちゃんと笑えてるか?」
口元に仄かぎこちないような笑みを乗せて、秀はイグニスへと問う。秀の言葉に、イグニスは静かに耳を傾けた。そうして、話し終えた秀の、テーブルに置かれた手へと自分の手を重ねる。
「大丈夫、ですよ」
ふわり、向けられた微笑みに目を見開く秀。
「出会ったころよりずっと、笑顔の時が増えました」
嬉しそうな笑みをそのかんばせに乗せて、イグニスは秀の手を握る。
「~~っ、またお前はそういうことを……!」
温もりが手に染み、頬が熱くなるのを感じながらも、秀はその手を振り払うことはしなかった。そんな秀の様子に、イグニスがにっこりとして新しい話題を紡ぐ。
「ところでクリスマスはどうしましょうか?」
「クリスマスか、稼ぎ時……」
「ええー……おしごと……」
秀の発言に、分かり易くしょんぼりとするイグニス。
「おい露骨にがっかりするな」
「だって……」
「わかった、わかったから! 夜な!」
「秀様……!」
ころりと機嫌を良くしたイグニスの顔がぱああと明るくなる。
「約束ですよ、秀様!」
「……ああ、約束な」
手と手を重ねて、約束を重ねて。イグニスの笑みに釣られるようにして、秀も目元を和らげた。
●空色の移り香
「アレクス、折角個室なんやから、そういうんは2人きりの時にしはったら?」
パートナーに指摘されて、物珍しげに白の部屋を見回していたアレクサンドル・リシャールは「ごめん」とくしゃり笑った。クレメンス・ヴァイスの青の瞳も低い声音も、別段アレクサンドルを責めるような色は纏っていない。口元を緩めるアレクサンドルとそんなパートナー釣られるように目元を柔らかくするクレメンス。2人の前に差し出されたのは、1枚の絵画だった。その趣旨を店員に説明されて、成る程、とアレクサンドルは納得顔。
「何だかキャンバスみたいだな」
「ほなら、この大きなキャンバスは何色に染めよか。アレクスの好きな色は?」
問われて、アレクサンドルは満面の笑みを零す。
「青かな。だって、空の色だから」
「アレクスは赤のイメージがあるんやけど、空て聞いたら確かに似合いやね」
「赤? 髪が赤いからかな。クレミーのイメージは森の緑だけど……好きな色は?」
「あたしは……なら、藍色やね」
「藍? でも、藍色の服は見たことないけど……」
アレクサンドルが不思議そうな顔をすれば、クレメンスはごく薄くその口元に笑みを乗せた。
「服はあたしが買うたんやのうて、育ての親が遺した物や」
「あ……ごめん……」
眉を下げるアレクサンドルに、「構へんよ」とクレメンスは静かに応じる。
「捨てるのは勿体ないし。服装とか、見苦し無かったらどうでもええしね」
「……って、今一瞬しんみりしたの返してな気分だぞ」
さばさばとしたお言葉に、じとーっとした視線で返すアレクサンドル。結局、オーダーはアレクサンドルの希望で藍色となった。店員が去った後、クレメンスがそっと尋ねる。
「青色やなくてええの?」
「うん、今は青空より夜空の気分なんだ」
次にクレメンスが口を開く前に、店員がとっておきのスイーツと藍色のランプを連れて戻ってきた。ことり、テーブルの中央にランプを据えれば、白い部屋が様々の藍に染まる。その美しさに、アレクサンドルは息を漏らした。再び店員が去れば、2人きりのスイーツタイムの始まりだ。ホワイトココアを一口くぴりとして、アレクサンドルはクレメンスへと問いを零した。
「でも、その人が亡くなられたのって小さい時だよな?」
ダークチェリーのクラフティーにスプーンを入れようとしていたクレメンスが、その手を止めた。『今ここ』ではない『いつかどこか』へ想いを馳せるようにふと遠い目をして紡ぐ言葉は。
「そう、やね。10年以上捨てへんかったのは、『残り香』のためかもしれへんね」
「……なあ、クレミー。俺には辛い過去もないし家族も元気だ。だから、本当には判ってないかもしれないけど」
いつでも抱きしめるから、とアレクサンドルは真っ直ぐにクレメンスの目を見つめて言った。クレメンスが頬を朱に染める。
「抱きしめ、って……」
呟くも、アレクサンドルの表情はあくまで真摯だ。その想いが、嬉しくて。
「……心配せんでも寂しいはないよ。残り香はいつか薄れるけれど、移り香はずっと傍にいはるしね」
和らいだその表情に、『移り香』という言葉の含む色気に、思わずクレメンスに見惚れるアレクサンドル。そして暫しの間の後真っ赤になった彼に、
「どしたん?」
ときょとんとしてクレメンスが問う。何でもないと笑って誤魔化し、冷めないうちに食べようとアレクサンドルはクラフティーを口に運んだ。熱々のクラフティーは心まで温かくなるような味がして、「美味しそうに食べはるね」とクレメンスがふわりと笑う。
「そういえば」
ふと、アレクサンドルの頭を過ぎる問い。
「なんで藍が好きなんだ?」
「理由なら、さっきアレクスが自分で言いはったよ」
「さっき……夜空? あ、俺が青空でクレミーが夜空って、対になるな」
屈託のない笑みがクレメンスへと向けられる。わざと対を選んだことを言い当てられて、クレメンスはそのかんばせに、はにかんだような色を乗せた。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:初瀬=秀 呼び名:秀様 |
名前:イグニス=アルデバラン 呼び名:イグニス |
名前:信城いつき 呼び名:いつき |
名前:レーゲン 呼び名:レーゲン |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月03日 |
出発日 | 12月10日 00:00 |
予定納品日 | 12月20日 |
参加者
- 初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
- 信城いつき(レーゲン)
- アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
- 鳥飼(鴉)
- 芹澤 奏(ラム・レイガード)
会議室
-
2014/12/07-22:14
アレックスと相方のクレメンスだ、よろしくな。
何色にするか物凄く悩むな
二人で一つの色だし、譲り合いの精神なのか、じゃんけん勝負なのか。
楽しい時間になるといいな -
2014/12/06-23:57
こんばんは。初瀬と相方のイグニスだ。
レーゲンは誕生日おめでとうな、他の皆もそれぞれにいい時間になるように。
うちのもはしゃぎすぎないように釘差しとくか…… -
2014/12/06-23:20
はじめまして、芹澤奏っス。よろしくお願いしまっス。
【ラム】カナちゃんの恋人、ラムでーーーす!よろしくぅー!!(ウインク)
恋人じゃねぇス。
【ラム】きゃー!お誕生日祝いだなんて素敵ー!良い時間過ごしてねっ!個室だし!きゃー!
煩くならないようラムさん黙らせるス。
-
2014/12/06-22:02
こんばんは。信城いつきと相棒のレーゲンだよ、どうぞよろしく!
今回はレーゲンの誕生祝いするんだ。
時間なくてケーキだけだけど、楽しくできたらいいな。
みんなも楽しい時間すごせますように。 -
2014/12/06-22:01
-
2014/12/06-15:43
こんにちは。
僕は鳥飼と呼ばれています。
(隣の精霊を示し)こちらは鴉さん。
個室ということで別々ですけど。
よろしくお願いしますね。(にっこり