プロローグ
●星祭り
「大切な人との、ご縁を結びにいきませんか?」
そう言って、ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターは左手の小指をウィンクルムたちの前に掲げてみせた。
「スノーウッドの近隣にポトク村っていう小さな村があってさ、そこに伝わるおまじない。こう、星祭りって祭りの夜に、互いの小指と小指にね、星のような金糸銀糸を織り込んだ濃紺のリボン――『星巡りのリボン』を結わえて、その状態でお祭りの時間を過ごすの。リボンが解けないままに祭りの灯が消えたなら――2人のご縁は末永く結ばれるでしょうって、そういうお話」
元々は将来を誓い合った者同士のためのまじないだったけれど、今は、結わえる縁はどんな形でも構わない。ウィンクルムとしての絆の永久に続くよう願ってもいいし、友人関係のそれでも、それ以外の何らかの形でも勿論良し。但しリボンは解けやすく、息が合わねばするりと小指から放たれてしまうから、よくよく注意しなくてはいけない。
「手を繋ぐ、っていうのが一番一般的な対策みたい。そうしていたら、リボンはめったなことでは解けないから」
だから、祭りの夜には手を繋いだ状態――片手でも食べられる熱々サクサクのスティックパイの屋台が村のあちこちに現れる。味はカスタードにチョコレート、アップルシナモンの入ったもの等豊富に用意されているけれど、一つの屋台で売っているのは1種類だけ。だから、色んな味を探して村中を2人で歩き回るのもきっと楽しい。
「それからもう一つおまじない。祭りの夜のポトク村は星をモチーフにした数え切れないほどの優美なランプに彩られるのだけれど、その中から自分の瞳と同じ色のランプを見つけ出せたら、願い事を一つ、そのランプが天の星に届けてくれるんだって」
2人リボンに緩やかに拘束されて、甘い物とランプを探して町を歩く。それがポトク村の星祭りだ。
「ツアーのお値段は、ウィンクルム様お一組につき300ジェールとなっております」
興味のある方はどうぞ素敵な時間をと、青年ツアーコンダクターはしっとりと笑み零した。
解説
●今回のツアーについて
ポトク村の星祭りを満喫していただければと思います。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき300ジェール。
(スティックパイやリボンをお買い求めの場合は、そちらは別料金となります)
時間は夜となっております。
●屋台の食べものについて
ここでしか食べられないものとして、ツアーコンダクターくんがご紹介しているスティックパイがあります。
プロローグにある以外にも色んな味(但しスイーツ系のみ)がございますので、食べたいパイがございましたらプランにてご指定を。
ご指定ない場合は、こちらでランダムに選ばせていただきます。
なお、スティックパイは1本30ジェールです。
●『星巡りのリボン』について
プロローグで語られたような意味を持つおまじないです。
おまじないに挑戦する場合は、プランにてご指定くださいませ。
おまじないに挑戦する場合、リボン代20ジェールをお支払いいただきます。
リボンは村に着いてすぐに互いの小指に結わえますので、互いの指がリボンで繋がった状態からのスタートとなります。
強制ではありませんが、手を繋いでいないと十中八九リボンが解けてしまうのでご注意を。
●星のランプについて
プロローグにあるようなおまじないが伝わっている、色とりどりの美しいランプ。
頑張って探せば必ず瞳の色のランプは見つけられます。
ランプ探しをする場合は、瞳の色にこだわりがあればプランか自由設定欄にてご指定を。
特にご指定ない場合は、プロフィール欄の『目の色』を参照させていただきます。
●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは極端に描写が薄くなってしまいますので、お気を付けくださいませ。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
小指に星のリボンを結わえて、瞳の色のランプを探したりスティックパイの屋台を巡ったり。
星のランプに照らされた夜の村を散策しながら、楽しい時間を過ごしていただけますと幸いです。
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ハティ(ブリンド)
差し出された手は最初は握手の形で、 逃げる指はしっかりと握り込む 苛立ったように引っ張られた先は かえって距離が近いような気がするが黙っておく 俺にない力を持っていた手 触れれば羨みや妬みを見透かされそうで怖かったが これだけ近ければわからないかもしれない 少しでも長く、願いと言えばそれが願い 最後までと聞けばもう半分は叶った気分だ そうだな、パイも買おう ランプは自分の目の色と重ねるにはきれいすぎて 目を奪われるばかりだ 鍵の町か。あの鍵は持って帰りたかった ランプにしてもきれいだろうな 確認しながら互いの色を探す 無心のままに探索を終えたが もう叶った なあ、リン 鍵の魔法は叶っただろうか 火が消えるまで見届ける |
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
ご縁繋ぎか まあ、大切には違いないからな リボンを結んで手を繋いで 皆やってるとはいえ何というか気恥ずかしい…って ちょ、こら引っ張るな! 早々にスティックパイを確保してご機嫌かと思えば悩んでいる… ほら、こっちのやるから 2個は持てんだろ、そのまま齧れ(差し出して) 手を繋いだまま次はランプ探し 青はともかく、銀は厳しいんじゃないか? ほら、青見つけたぞ。 ん、銀もあったのか?よく見つけたな 願い事、か …こいつも一応いい大人だ いつか、この手を放す日が来るのだろう だからせめて、その日まで一緒にいられればいい 俺にはそれだけで、十分すぎるから ん、何でもねえよ ほら、もうすぐ灯が落ちるぞ |
栗花落 雨佳(アルヴァード=ヴィスナー)
…んー上手く結べないな… ふふ、綺麗なリボンだね この間読んだ本では赤い糸を結んでたよ …君と僕の絆はずっと繋いでいられるかな…? …そうだね これなら解け無さそうだ アルは何味のパイがいい?アルが食べたいのにしよう じゃぁ僕はレモンの方にしようかな はい、アル…どうしたの?ほら、あーんして?要らないの? ふふ、美味しいね。今度家で作ってよ …君の瞳は綺麗な金色 秋の稲穂が朝日に照らされた色…んー空に上る途中の月の色の方が近いかな そんな色が見つかるかな? 自分の色は自分じゃ見れないもの 僕が君の、君が僕のを見つければ良いんだよ ほらあった。君の色はこんな色だよ 君には僕の色はこんな風に映ってるんだね… 君と永く居られます様に |
瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
「縁」という言葉を聞いた時、複雑な感情が込み上げてきた。 それは安心と不安が背中合わせになるような、そんな感情だ。 「珊瑚、流星群の時に出来なかった事を今ここでしよう」 星巡りのリボンで、珊瑚の左の小指と自分の右の小指を結ぶ。 ・・・・・・だけで終わらせないけどな。 「今夜はお前と手を繋ぐのが狙いなんだ」 「・・・・・・離さないって、言ったらどうする?」 ふと思い出すのは、父さんと母さん、そして友の事。 そして縁という言葉を恐れていたのは、 自分が頼りたい時や甘えたい時に限って、離れていったから。 だからもし、瑠璃色のランプを見つけたらこう願う。 「今、おれの隣にいる人がいつまでも傍にいてくれるように・・・・・・」 |
明智珠樹(千亞)
●千亞を誘い 美味しいパイがあるそうですよ…! (ちゃっかり小指にリボンを) 千亞さんともっと仲良くなりたいのです…! (手を繋ぎ) ●パイ (千亞の様子を見) 私はチョコパイを。ふふ、香ばしくて美味しいですね…! 千亞さん、はい、あーん(パイを口元へ) 甘いものを食べる千亞さんは輝いてますね(微笑み) ●ランプ 千亞さんの瞳の色は…赤みがかったピンク色、ですね。 (探し) 綺麗な色なので見つけられました、ふふ…! おや、私のも探してくれるのですか。 嗚呼、そんなに見つめられたら私、興奮してしまいます…! 『黙れ、ド変態』 見つけていただき光栄です(微笑) ●祭り後 願い事は…ふ、ふふ…!(妄想) また手を繋ぎたい、ですね。 |
●君の色僕の色
「……んー上手く結べないな……」
星を織り込んだ濃紺のリボンを、栗花落 雨佳はその手に持て余す。それを雨佳の手から取り上げて、アルヴァード=ヴィスナーは呆れたようなため息を零した。
「お前……ほんと不器用だな……」
リボンの端を雨佳の小指に結わえ、もう一方の端を手だけではなく口も用いて自分の小指に括りつけて、「ほら、お前が結ぶのよりマシだろ」とアルヴァードはリボンを結んだ小指を雨佳の目前へと掲げてみせた。雨佳が淡く微笑む。
「ありがとう、アル。それにしても……綺麗なリボンだね」
「そうか?」
「そう言えば、この間読んだ本では赤い糸を結んでたよ」
「なっ……! そ、それとは違う……」
赤い糸。その言葉に耳を朱に染め僅か目を逸らして、アルヴァードはぼそぼそと言葉を返した。薄く笑う雨佳。
「……君と僕の絆は、ずっと繋いでいられるかな……?」
零れた呟きを耳に拾って、アルヴァードはやや乱暴な手つきで雨佳の手を握った。きょとんとする雨佳の目を見ることはできなくて、それでも真っ直ぐな声音で、曰く。
「これで解け無いだろ」
不器用な優しさに応えるように、雨佳もアルヴァードの手を柔らかく握り返した。
「……そうだね、これなら解け無さそうだ」
そうして2人は、ランプが照らす星祭りの村を歩調を揃えて歩き出す。スティックパイの甘い香りが、鼻をくすぐった。
「ねぇ、アルは何味のパイがいい? アルが食べたいのにしよう」
「そうだな……定番のチョコも良いがあっちにあったレモンも気になる……」
「じゃあ僕はレモンの方にしようかな」
それならばとアルヴァードはチョコレートのパイを買い求めることにする。片手には掌を繋ぐ温もり、もう片方の手にはスティックパイ。
「はい、アル」
雨佳が、食べ掛けのレモンパイをアルヴァードの口元に寄せた。レモンフィリングの蕩けるような黄色、差し出す雨佳の柔らかな声音に仄かな笑み。アルヴァードの心臓が跳ねる。雨佳が、ゆるり首を傾げた。
「……どうしたの? ほら、あーんして? 要らないの?」
「っ……!」
ぱくりと、アルヴァードはレモンパイを齧る。アルヴァードの心持ちは意に介さずに、お返しのように雨佳がチョコレートパイに齧りついた。赤く艶めく唇についたチョコレートを、舌で舐め取る雨佳。その些細な仕草にアルヴァードはくらりとした。パイの味なんてもう分からない。
「ふふ、美味しいね。今度家で作ってよ」
「……お、おぅ……」
何とか応えたアルヴァードの瞳を、雨佳がじぃと覗き込む。僅かたじろいだアルヴァードに、歌うように雨佳は言った。
「……君の瞳は綺麗な金色。秋の稲穂が朝日に照らされた色……んー空に上る途中の月の色の方が近いかな」
そんな色が見つかるかな? と首を傾げる雨佳。アルヴァードが軽く目を瞠った。
「そんな風に見えるのか? やっぱ芸術家の感性ってわっかんねーな」
「そうかな?」
「てか、自分の目の色のランプ見つけんだろ?」
「自分の色は自分じゃ見れないもの。僕が君の、君が僕のを見つければ良いんだよ」
雨佳がそう言ったので、アルヴァードはお返しのように彼の瞳を覗き込む。
「……雨佳の目は月の無い夜空か……いやどちらかと言うと深海か? やっぱわっかんねーわ」
唸る。雨佳が軽く笑った。手に手を携えて、2人して数多ある軒下のランプに互いの色を探す。最初に声を上げたのは雨佳の方だった。
「ほらあった。君の色はこんな色だよ」
「俺も見つけた」
雨佳が見つけたのはアルヴァードの金色、アルヴァードが見留めたのは雨佳の深い青色。アルヴァードが探し出した自分の瞳のランプをどこか慈しむような眼差しで見やって、雨佳は囁くように言葉零した。
「君には僕の色はこんな風に映ってるんだね……」
そうして、願う。
「君と永く居られます様に」
アルヴァードも、静かに願いを重ねた。
(……何時までもこいつの側に居られる様に)
とりどりのランプの灯りが、2人を柔らかく見守る祭りの夜のお話。
●手を繋ごう
「星祭りか、綺麗だな……」
ぱっちりとした瞳に数多のランプの灯りを映して、千亞はそう呟いた。傍らに立つ明智珠樹が、その整ったかんばせにゆるり微笑を乗せる。
「ええ、実に美しい。美味しいパイもあるそうですよ……!」
「わ、本当に?! ……って、何してる?」
気づけば、千亞と珠樹の小指はリボンで繋がっていて。
「縁を繋ぎ手を繋ぐ……ふふ、素晴らしい風習ですね。私は千亞さんともっと仲良くなりたいのです……!」
うっとりと言葉紡ぐ珠樹。ちゃっかり2人の指に星巡りのリボンを結わえたのは勿論珠樹である。千亞が真っ赤になった。
「縁を紡ぐ? 手を繋ぐ? な、何を……」
「千亞さんは私が不要ですか……?」
「う……わ、わかった。今日だけだぞっ」
あっさりと絆されて、未だ頬は朱に染めたままで千亞は珠樹の手をしっかりと握った。お互いの温もりを掌の中に、2人は星祭りの村を行く。やがて行き当たったのは、スティックパイの屋台だった。向かって右側にはチョコレートパイの屋台、左側にはプディングパイの屋台。甘いもの好きの千亞が目を輝かせる。
「あ、美味しそうなパイ! んー、チョコもプリンも気になる……プリンにしようかな」
悩む千亞の様子を横目に眺めていた珠樹、「私はチョコパイを」とゆったりと笑んだ。
「珠樹も買うのか」
「ええ、折角ですので」
そうして2人、パイを1本ずつ買い求める。サクリと熱々のパイを齧って、千亞が幸せ顔で笑った。
「んー、美味しい!」
「ふふ、香ばしくて美味しいですね……! 千亞さん、はい、あーん」
千亞の口元まで運ばれるパイ。とろりと甘いチョコレート色が千亞を誘う。
「え、食べていいの?」
「勿論ですよ」
「……あーん」
もぐもぐ。千亞は再び顔を綻ばせた。
「こっちも美味しっ」
千亞の満面の笑みに、珠樹の微笑も深くなる。
「甘いものを食べる千亞さんは輝いてますね」
甘い名物を楽しんだ後は、瞳の色のランプ探しだ。珠樹は千亞の瞳をじぃと見つめた。
「千亞さんの瞳の色は……赤みがかったピンク色、ですね」
目に焼き付けた色を、軒に探す。鮮やかなピンクは、すぐに見つかった。
「綺麗な色なので見つけられました、ふふ……!」
「瞳の色のランプか……お、珠樹よく見つけたな」
「千亞さん、願い事は?」
「んー……内緒」
答えて、千亞は珠樹の左目を覗き込む。右目は髪に隠れていて、見えないのだ。
「珠樹の瞳の色は……」
「おや、私のも探してくれるのですか。……嗚呼、そんなに見つめられたら私、興奮してしまいます……!」
空いている方の手で自らの身体をかき抱くようにして、珠樹はゾクリと身を震わせた。
「……うん、ラベンダー色かな。そしてとりあえず黙れ落ちつけド変態」
しっかりつっこみは入れつつも、村の景色の中に珠樹の色を懸命に探す千亞。そういえば珠樹の右目見たことないなと、ぼんやりと思いながら。やがて千亞は、その色を見出し顔を輝かせた。
「あ! これ珠樹の瞳の色っぽい!」
嬉しそうにランプを指差す千亞に、珠樹は優雅な微笑みを向ける。
「見つけていただき光栄です」
「なっ?! べ、別に、たまたま見つけただけだからなっ」
ぷいっ、とそっぽを向く千亞。そんな千亞の様子に、珠樹は柔らかく目を細めた。
「……さて、折角千亞さんが見つけてくださったのですから願い事をしなくては。願い事は……ふ、ふふ……!」
一瞬で妄想ワールドに突入してしまった珠樹が、含み笑いを漏らす。千亞、思いっ切り珠樹の足を踏みつけた。
「あっ……千亞さん、そんな大胆な……!」
「大胆な……! じゃない! 妙なこと願うなよ?」
「妙なことだなんて……私はただ……ふ、ふふふふふふ……!」
無言でもう一度珠樹の足を踏む千亞。それをさらりと流して珠樹が微笑した。
「千亞さん。また手を繋ぎたい、ですね」
「手?」
言われれば、繋がれたままの手に自然と意識がいく。再び赤くなりながらも、もごもごと小さく零す千亞。
「……寒い時なら許す」
ぎゅっと握り直された手の温もりに、珠樹は緩やかに微笑んだ。
●双子星の願い事
「瑠璃、クリじゅんにやるぬか?」
瑪瑙 珊瑚、相棒の瑪瑙 瑠璃によって括りつけられた左手の小指のリボンを見て、難しいような顔をする。自分の右手の小指に同じリボンの端を口も使って器用に結わえながら、瑠璃は淡々と応じた。
「何か問題があるのか?」
「ある! でーじどぅーぐるい!」
恥ずかしい、と訴える珊瑚。例え今日が祭りの夜で、2人が星纏った濃紺のリボンで指と指を結ぼうが、その指を絡ませようが誰も気にしないと分かっていても、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。だが、珊瑚の訴えを聞いても、瑠璃の方はけろりとしている。
「珊瑚、流星群の時に出来なかったことを今ここでしよう」
「あい?」
「今夜はお前と手を繋ぐのが狙いなんだ」
「へ……はぁ!?」
「暴れるな珊瑚、リボンが解ける」
言って、瑠璃はリボンがするり夜闇に放たれてしまう前に珊瑚の手を握った。抵抗しようと身を捩った珊瑚だったが、すぐに諦めてため息一つ瑠璃の手の温もりを受け入れる。「ぬーんちわんがこんなことを……」とぶつぶつとぼやく珊瑚を見やって、瑠璃は真面目な顔で言った。
「珊瑚、ランプを探そう」
「……はいはい、了解さぁ」
小指には星のリボン、手には互いの温もりを携えて、2人は星祭りの村を行く。その温もりがもたらす照れ臭さから気を逸らさんとばかりに自分の名と同じ色のランプ探しに精を出す珊瑚の手の温度を感じながら、瑠璃は『縁』に想いを馳せた。ツアーコンダクターからこの祭りの話を、縁繋ぐおまじないの話を聞いた時、瑠璃の胸に込み上げたのは、形容し難い複雑な感情だった。
(安心と不安が隣り合わせになるような……)
相反するはずの2つの感情が混じり合い、瑠璃の心に生まれた波紋。心に細波を立てたのは、或いは恐れだったのかもしれないと瑠璃は思う。
「瑠璃ぃ……」
思案の世界に沈んでいた瑠璃を、珊瑚の声が祭りの夜へと呼び戻した。呼ばれるままに珊瑚の顔へと瑠璃色の視線を遣れば、珊瑚は居心地悪そうに視線を逸らしていて。
「や、やっぱ離せよ……ハジカサン」
「……離さないって、言ったらどうする?」
言って、瑠璃は僅か口の端を上げた。思い出すのは、父と母、そして友人のこと。
(縁という言葉を恐れていたのは……自分が頼りたい時や甘えたい時に限って、離れていったから)
だからこそ、と瑠璃は心に思う。もしも瑠璃色のランプを見つけたら、傍らの人との縁が絶えず続くことを願おうと。一方の珊瑚も、胸に想いを抱く。繋いだ手の温もりは相変わらずくすぐったくて、でも、無理に振り解こうという気はしなかった。瑠璃は違うのだと、そう思う。
「なあ、瑠璃」
ぽつり、零す言葉は。
「わん、こんな喋り方だからさぁ。なんていうか……いじめられてた」
突然の告白に、瑠璃は目を見開いた。少し笑って、珊瑚は常の快活さを余所に静かに言葉を紡ぐ。
「んなぁ、わんを腫れ物に触るように扱っててさぁ。もう誰も信じられなくって……やしが、瑠璃は違ってた」
そう言い終えると、珊瑚は瑠璃に向かってニッと白い歯を零した。
「わん、珊瑚色のランプ見つけたら、瑠璃ぬ傍にいたいって願っちゃおうかな?」
瑠璃の返事を待たずに、なーんてね! と明るく笑い飛ばす珊瑚。瑠璃はそんな珊瑚に何か言葉を掛けようとして――けれどその言葉を見出す前に、珊瑚の方が「あ!」と声を上げた。
「瑠璃! アリ! ランプ見つけた!」
指差す先には、珊瑚色のランプと瑠璃色のランプが身を寄せ合うようにして淡い光を放っていて。その姿に、瑠璃は目元を柔らかくする。そして、声に出して願った。
「今、おれの隣にいる人がいつまでも傍にいてくれるように……」
珊瑚が驚いたように瑠璃を見て――それからふとランプへと向き直ると小さな声で何やら真剣に願い事を呟く。傍らの温もりが、瑠璃には酷く心地良かった。
●傍らの燐光
「おらよ」
差し出されたのは右手だった。無意識に宙に逃げようとした指は、しっかりと握り込まれて彼のそれと絡み合う。
「ったく、大人しくしてろよ呪うぞテメー。不便ってこともねえだろうが」
白い吐息を夜闇に散らしながらブリンドが言った。ぐいと苛立ったように引っ張られた手がリボンごと捩じ込まれたのはポケットの中。
(……近い)
普通に手を繋ぐよりも近いような気がするその距離に、ハティは相棒の顔に視線を遣る。敢えて言葉は零さなかったけれど、気づいたブリンドが面倒臭そうに燐光の視線に応えた。
「祭りの灯が消えるまでってこった、寒さに急ぐこともねえ」
ぶっきらぼうな台詞に、もう半分は叶ったとハティは思う。燐光のランプは未だ無く、けれども少しでも長くというその願いは、既にポケットの温もりの中に。胸の内に彼の手の温度をなぞる。
(リンの手……俺にない力を持っている手)
触れてしまえば、羨みや妬みを見透かされてしまいそうな気がして。そのことに恐れを感じていたハティだけれど、いっそここまで近ければ逆に分からないかもしれないと近すぎる距離に思う。近くにあるものほど、見えないこともあるものだから。
「で? どうせランプも探すんだろ」
「ああ」
「まあ、ランプ探しにゃ金はかからねえしな」
「……パイも食べたい」
甘い香り漂う屋台を横目にぽつりハティが零せば、ブリンドが盛大にため息を漏らした。
「お前ならそう言うと思った」
1本だけだぞと念を押されて、それでも表情の乏しいその顔に仄か喜色を乗せてハティはブリンドを伴い屋台へと向かう。買い求めた熱々チョコレートの詰まったスティックパイを受け取る段に至って、ハティは効き手が自由であることに今更ながら気がついた。最初に手を繋いだ時のブリンドの心遣いを感じるも、特に何を口に出すこともしない。口にすれば、ブリンドはきっと苦い顔をするだろう。ハティは右手の中のスティックパイを齧った。
「……甘い」
「そりゃ良かったな。おら、ぼーっとしてねえでランプ探すぞ。灯が消えちまう」
そうだな、と辺りを照らすとりどりのランプに目を遣るハティ。小さな感嘆の息がその唇から零れた。
「目を奪われてしまうな。自分の目の色と重ねるには、綺麗すぎる」
「……重ねるも何も、テメーじゃテメーの色は見えねえだろうが。お前の色は俺が探す。俺のはお前が探せ」
いいな? と念を押されて、ハティはこくと頷いた。
「そういやお前、ターレンでも似たようなことしてただろ」
「ああ、鍵の町か」
そこで、ハティは数多の鍵の中にブリンドの色を探した。その鍵は願いごとあの場所に括ってきたけれど。
「あの鍵は持って帰りたかった。ランプにしても綺麗だろうな」
そう呟くハティの瞳の色を、ブリンドは横目に眺める。
(初めてこの目を見た時、感じたのは畏れに似た何かだ)
炎の中に見た思い詰めたような強い目の光。その色と輝きに、ブリンドは射竦められた。あの時逃げられないと思ったのは虫の知らせだったのだとブリンドは思う。けれど。
(逃れられないのはこいつもだと知ったから向き合えた)
過去へと心を飛ばしていたブリンドを、ハティの「あ」という声が今ここへと呼び戻した。
「リンの色だ」
子供のように夢中になってランプ探しに興じていたらしいハティが、ランプとブリンドの瞳の色を見比べてどこか満足げに零す。ブリンドはその銀灰のランプと――それから視界の端に、傍らに在る燐光の色のランプを見留める。
「お前のもあったぞ。火が入ると割合繊細な色してんのな」
空いている方の手でランプを指差して、言う。
「……んで願い事とやらは?」
「もう叶った」
「は? 何だそりゃ」
眉を顰めるブリンドに、ハティが問うた。
「なあ、リン。鍵の魔法は叶っただろうか」
「……さあ、どうだろな」
言葉が想いに足りなくて、ハティの手を握る指に力を込めるブリンド。後は2人、祭りの灯が消えるのを待つばかり。
●いつかこの手を離すまで
「秀様! 今日はリボンのご縁ですよ!」
小指に繋がったリボンを初瀬=秀の目前に掲げてみせて、イグニス=アルデバランは嬉しそうに笑みを零す。相棒のはしゃぎっぷりに苦笑を一つ、秀は空いている方の手で首の後ろを掻いた。
「ご縁繋ぎか。……まあ、大切には違いないからな」
「はっ!? 秀様、今私のこと大切って言いました?!」
「ぐ……耳聡いな……」
「これは益々張り切ってご縁を繋がなくては……!」
末永く続きますように頑張りましょう? とふにゃり笑って、イグニスはしっかりと秀の手を握る。リボンを結んで、手を繋いで。星祭りの村には縁を繋ぐこのおまじないに興じている者が幾らともなくいる。けれど。
「皆やってるとはいえ何というか気恥ずかしいな……」
「駄目ですよ秀様、手を離したら解けちゃいますから! ……あ、スティックパイ!」
「って、ちょ、こら引っ張るな!」
スティックパイの屋台目指してまっしぐら、ぐいぐいと秀の手を引くイグニスと、彼を諌めながらも歩調を合わせる秀である。イグニスが買い求めたのはホワイトチョコレートのスティックパイだった。はふっ、とパイに齧りついたイグニス、青の瞳をきらきらと輝かせて幸せ顔を作る。
「美味しいです……! はっ、この匂いは!」
イグニス、甘い匂いを辿って視界の先に別の屋台を見つけた。甘く煮た林檎とシナモンの香り、アップルシナモンのスティックパイだ。
「うう、一個しか持てないのが悩ましい……」
早々にパイを確保してご機嫌だったかと思えば、悔しげに唇を噛むイグニス。そんなイグニスを見て秀は呆れたようなため息を零すと、彼の手を引いて屋台へと。そして、買い求めたパイを相棒へと差し出す。
「ほら、こっちもやるから」
「え、いいんですか!」
「ん。2個は持てんだろ、そのまま齧れ」
ぱああと輝くイグニスの顔。
「いいんですね!? 頂きますー」
口いっぱいに甘酸っぱいパイを頬張りながら、イグニスは口元を緩ませる。
(秀様自らあーんとは! 夏より進展しました!?)
2種類のパイの味と共に大切な人との距離が縮まる幸せも味わうイグニス。その視界に、軒に吊るされたとりどりのランプが映った。
「っとと、私たちのランプも探さなくっちゃですね!」
「ランプなぁ……青はともかく、銀は厳しいんじゃないか?」
そんな会話を交わしつつ、手を繋いだ2人は村を行く。やがて秀の目に留まる、見慣れた青。柔らかな光放つランプを顎で指して、秀は少し笑った。
「ほら、青見つけたぞ。お前の色だ」
「わ! 秀様ありがとうございます! ……あ、その後ろ! 青の後ろにありましたよ秀様のランプ! 願い事!」
「ん、銀もあったのか? よく見つけたな」
青のランプに寄り添うようにしてそっと光る銀のランプ。それを確かに見留めて、秀はランプと同じ銀の瞳を色付き眼鏡の奥で細めた。
(……願い事、か)
思うのは、掌から温もり伝わる相棒のこと。
(こいつも一応いい大人だ。いつか、この手を放す日が来るのだろう)
だからせめて、その日まで一緒にいられればいいと秀は静かに思う。
(俺にはそれだけで、十分すぎるから)
切ないような願いを掛ける秀の横顔に、イグニスはそっと視線を遣った。しゅんとイグニスの眉が下がる。
(……最近なんだか元気ないです。何か悩み事でもあるのでしょうか)
例えばそれは、どんな悩みだろう?
(んー、私が誰かと結婚してお婿に行くとか?)
まあ私は秀様をお嫁に貰うのでそんなことないんですけどね、とひとり頷くイグニス。ぽわわんとした夢こそ抱いているものの、秀を心配する気持ちは本物だ。
「……秀様、何か考え事ですか?」
問えば、「何でもねえよ」と切ないような顔で秀が笑った。
「ほら、もうすぐ灯が落ちるぞ」
話を逸らすように言って、ランプを見遣る秀。イグニスは、繋いだ手にそっと力を込める。
(何だか遠慮がある感じなので、秀様が早く素直になってくれますように)
願いは天の星に届いただろうかと、イグニスは満天の星空を見上げた。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 11月20日 |
出発日 | 11月27日 00:00 |
予定納品日 | 12月07日 |
参加者
会議室
-
2014/11/26-14:54
-
2014/11/26-14:54
珠樹のパートナーの千亞だよ。よろしくね(ぺこ)
珠樹に誘われ、パイにつられてやってきたが……ランプも幻想的で綺麗だね。
ランプを探す人は、無事に見つかりますように。
うん、きっと僕も探しちゃうんだろうけどね(負けず嫌い)
文字数足りない!と思いつつも一足先にプラン提出完了です。
良い思い出になる祭りになりますように(にこっ) -
2014/11/24-22:31
珠樹は初めまして、ハティと雨佳に瑠璃は先日振りだったり久しぶりだったりだな。
初瀬と相方のイグニスだ。
パイが食えればいいんだがイグニスが妙に色々とやる気満々なんでな、
うちも盛りだくさんになりそうだ。よろしくな。 -
2014/11/24-17:18
ハティさん、初めまして。自分は瑪瑙瑠璃といいます。
初瀬さんは白雪姫、雨佳さんはケリーさん、明智さんは淑女以来ですね。
こちらこそよろしくお願いします。
今のところ、何から何までするか頭に纏まっていませんので、当日ギリギリまで悩みそうです。 -
2014/11/24-07:57
初瀬さんと栗花落さんは先日ぶりで、明智さんと瑪瑙さんとは初めましてだな。
ハティとブリンドだ。よろしく。
星祭りって言うんだな。村のまじないには挑戦してみたい。
ランプを見に来たんだがあったかいパイが美味そうで…
……俺達も盛りだくさんになりそうだ。
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2014/11/23-23:23
こんばんは。栗花落雨佳とアルヴァードヴィスナーです。
ふふ。小指だけとはいえ…いや、小指だけだからですかね。
ずっと繋がっているのは難しそうです。
だからこそ楽しいというのはあるのかもしれませんがね(苦笑)
楽しいツアーになると良いですね。よろしくお願いします。 -
2014/11/23-12:16
ふ、ふふ、こんにちは…!明智珠樹と申します。
ハティさんご両人、初瀬さんご両人、栗花落さんご両人ははじめまして、ですね。
よろしくお願いいたします。
瑪瑙さんは淑女ぶりですね。今回もよろしくお願いいたします…!!
千亞さんと共に小指を繋ぎ手を繋ぎ、パイをモグモグ、ランプ探し、と
盛り沢山に堪能する予定です、ふふ…!!
最後まで解けないことを願いつつ…
皆様の祭りの楽しみっぷりにワクワクです。
何卒よろしくお願いいたします…!!