プロローグ
スノーウッドの森にグリッグレイクという湖があるという。
年中氷の張った湖には魚が豊富で、ドリルで穴をあけて釣り糸を垂らす漁法が盛んだという。
森の奥深くにあるその湖は、地元の漁師以外はめったに訪れない穴場であったが、目の前に居る小さな子熊は、そんな湖の方から訪れたという。
「冬眠とか、してないの……?」
「冬眠どころじゃないくまー」
くまー。気の抜けた語尾とは対照的に、子熊の表情は割と切実だった。
ルンプルの帽子を被って事情を聴いたところ、ここ最近何故だか暴れる動物が居たり、普段食べている木の実の味が変わったりと、餌に困っている小動物が多いとのこと。
そこで子熊は立ち上がった。グリッグレイクの分厚い湖の下にある魚を振る舞えまいかと。
「食べられない動物も居るけど、何でも食べる動物の食糧が増えればその分が行き渡るくまー」
かくいう子熊自身も、魚が食べたい様子。きらきらと無垢でつぶらな瞳で、ウィンクルム達を見上げてくる。
「お魚が食べたいくまー」
「食べさせてあげましょう!」
……ちょろい。
というわけで。
地元の漁師の協力も得て、グリッグレイクで魚釣りを楽しむ事と相成った。
注意事項は主に二つ。当たり前だがとても寒いということと、足元は滑る事があるということ。
魚釣りに必要な道具は貸してくれるし、釣るための穴は、場所を指定してくれればどこでも開けてくれるらしい。
好きな場所を陣取って、パートナーと仲良く魚釣りをするのも良い。釣った数を競っても良い。
湖の畔では、焚火を起こしてある。釣った魚をその場で焼いても良い。調理出来るスペースは、なさそうだが。
なお、動物たちがお魚まだかなと期待を込めて待っているので、彼らと戯れながら一緒に魚を食べるのもありだ。
動物たちの為にもなる魚釣り。それはそれてして、純粋に楽しんでみてはどうだろうか。
解説
●出来る事
・お魚釣りを楽しみます
広い湖のどこでも好きな所に穴を開けてもらえます
一般スキルのフィッシングを習得している方は、未収得の方より少し上手に釣れると思います
(勝負などをする場合は有利になったり、経験者として手ほどきしたりできます)
・釣ったお魚を食べられます
焚火がありますので焼いて食べる事が出来ます
基本的には塩焼き限定になります
手鍋でインスタントのスープや温かい飲み物を作る程度の事は可能です
手間や時間のかかる調理類は場所もありませんのでご遠慮ください
・動物と戯れられます
生魚を食べられる小動物が集まってきているようです
ルンプルの帽子を被って動物と会話することも可能です
帽子の連続使用はとても疲れるので、今回は一つだけの貸し出しです。交代しながら使うと良いでしょう
●費用
防寒具、釣りの道具、諸々の諸経費込みでペアで300jr頂戴いたします
ゲームマスターより
いつもお世話になっております、あるいは初めまして、錘里です。
出来る事は大きく分けて三つですが、全部しなくても良いです
万遍なく遊ぶもよし、特にやりたい事に絞って遊ぶのも良し
遊び方は、ご随意に
リザルトノベル
◆アクション・プラン
木之下若葉(アクア・グレイ)
「くまー」 ん?いや、小熊が依頼主と聞いたからね。何となく 自分の家から着込んで来た冬服の上に更に防寒具を借りるよ 足元は暖かめのブーツ。…滑らないように注意しなきゃだね ん。アクアは更にに毛玉成分が増しているよね 良さそうな場所を漁師の方に聞いて穴を開けて貰う 釣りって夏に一度やったっきりなのだけれど。さて、どうなるかな? 数は競わず、のんびりと魚釣り アクア、隣においで。もこふわ。やっぱり暖かい 俺はアレだよ。大きい分寒さを感じる面積も大きくなるじゃない 一定の量を釣ることが出来たら動物の方々へ持って行く ルンプルの帽子を貸してもらって 「宜しければどうぞ」 お礼なら少し近寄って貰えると嬉しいよ あー……暖かい |
信城いつき(レーゲン)
動物達の為に頑張って釣ろうね 寒いならインスタントゆず茶あるよ(他の人達もどうぞ) 近所のお婆ちゃんが『寒くなるから、風邪引かないように』ってくれたんだ。 これなら任務中でも簡単に飲めるからって 冷たく……?ないよ むしろ、みんなから目一杯優しくしてもらってる あそこで暮らせて良かったよ(笑顔 お魚、本当は丸ごとでいいと思うけど、レーゲンがやりたそうにしてるから 「お願いします(くすくす)」 魚は小さいのを1匹づつ。あとは動物達へ (子熊に)少し触らせてもらっていい? なんだか毛皮触ってると落ち着く。記憶なくす前は犬いたらみたいだから、そのせいかな あ、レーゲン……お人好しすぎ(苦笑)仕方ないなぁ、はい俺と半分こね |
鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
魚を釣り上げたら、その場で焼いて食べる。 って考えると、幸せだねぇ。 そうとなれば、今日は張り切って楽しむ事だ。 一番の目標は、魚を釣って食べる事。 もし、一匹も釣れなくても、釣りが楽しめればいいや。 氷のどこに穴を開けるかは、琥珀ちゃんにお任せ。 釣る場所が決まったら、持ってきた釣り道具一式を置く。 予め崩したダンボールを敷き、そこに座って釣りを始めよう。 (フィッシングスキル使用) 「それじゃ、早速」 釣った魚をどう食べるかは、大きさと釣れた数によるけど、 ホッケぐらいの大きさなら、僕と琥珀ちゃんで各々片面ずつ。 シシャモぐらいの大きさなら、琥珀ちゃんと分けて食べよう。 あ、忘れてた。食べた後は持ち帰りだったよね。 |
ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
食べるために魚を釣る。 釣れた魚は美味しくいただく。 釣り自体も楽しみではあるんだが…釣ってすぐの魚を食べる機会ってのもそうそうないからな。 シンプルに焚火で焼くだけでいい。俺はそれで満足だ。 動物か…癒されるな。 ローレンツの顔も緩んでる。動物好きそうだもんな。 それにそういうのがすごく似合う。 俺はどうも似会わなさそうだ。 まぁ、猫はそれなりにすきだったんだが好きだったんだが…。 (ローレンツを見て) 最近は犬もいいなと思っている。可愛いもんだよ。 帽子被ってみるか?俺は別にいいからお前だけでも使えばいい。俺は動物受けがいいかいまいち不安だからな。 動物からのシビアな話は聞きたくないからな。遠慮しておこう。 |
暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
アドリブ歓迎 ■事前に地元の漁師の方に釣りの仕方やコツを聞いておく 釣りはしたことないですが、少しでも動物達の為になるのなら頑張ります …やはり聞くのとやるのとでは違うようですね 先生、寒いようでしたら先に戻っていてください そうですか…では、その、良かったらこれも使ってください あの…風邪でも引かれたら困るので… うわっ!?…氷上だということを忘れていました 思ったより冷えてしまっていたようですね… 釣った魚の大半は動物達にあげます 狂気の影響がこんな形で被害をもたらすこともあるのですね これくらいのことしかできない自分が不甲斐ないです |
●ふわもこの温もりを傍らに
「くまー」
「まー」
木之下若葉ののんびりとした呟き。
アクア・グレイは思わずつられた!
「って、ワカバさん、眠いんですか……?」
「ん? いや、子熊が依頼主と聞いたからね。何となく」
こくりと頷いた若葉の顔は、割といつでも眠たそうだ。それでも、なるほどと返したアクア。
揃って冬服の上に防寒具を着こみ、すっかりもこもこと化している。
滑り止めの付いた靴で、確かめるように氷の上に踏み出しながら、注意しなきゃねと呟く若葉は、ふと、アクアをまじまじ見つめた。
何て言うか物凄く、毛玉だった。
「毛玉成分が増しているよね……」
「はい、毛玉ですよー。ワカバさんはいつもよりもこもこしていますね」
ふわふわの髪を撫でてくる手袋の感触に、アクアはほんのりと笑う。
若葉との初対面から、アクアは『毛玉』扱いだった。
だけれど、それを不快に思ったことはない。ふわもこのアクアに心地よさそうに触れる手のひらが、アクアにとっても、心地よかったから。
今も、そうで。マフラーの下の若葉の表情は変わらなかったが、ほわん、と空気が温まったような気は、した。
漁師に推奨されたポイントで釣り糸を垂らし、開いた椅子にちょこんと腰を下ろす若葉。
「釣りって夏に一度やったっきりなのだけれど。さて、どうなるかな?」
数を競う気はないけれど、流石に釣れないのは寂しい。
そうですねー、と同意を返すアクアを手招き、隣にぴったりと椅子をくっつけて並べさせた。
「もこふわ。やっぱり暖かい」
ふんわり、寄り添えば、触れた部分から熱が伝わる気がする。
「くっつくと暖かいですもんね。ワカバさん、もこもこになってもまだ寒いんですか?」
「俺はアレだよ。大きい分寒さを感じる面積も大きくなるじゃない」
「じゃあ、僕は省エネ設定って事ですね!」
くすくす笑って、ぱっと瞳を輝かせて。
くるりと表情を変えるアクアを、若葉は穏やかな瞳で見つめる。
と、その視線が、不意にアクアの釣り糸へと、向いた。
「あ。アクア、引いてる」
「わ。本当です! って、ワカバさんのも!」
互いの釣り糸が氷の中へと引っ張られているのを見止め、ぐいと力を籠めて引く。
海で釣る魚よりも、引きは強くはないようだ。開いた穴から飛び出すように釣り上げられた魚に、二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「くまー!」
「ん。ちょっと待ってね」
バケツに程よく溜まった魚を持って小動物たちの元へと赴けば、きらきらの眼差しのまま、若葉の足元に群がってくる。
それを微笑ましげに見つめるアクアは、若葉の頭にそっとルンプルの帽子を被せ、自分は焚火の元で鍋にココアを作り始めた。
「これで伝わるのかな。宜しければどうぞ」
バケツをそっと差し出せば、尻尾ふりふり、揃って顔を突っ込み始める動物たち。
あぐあぐと幸せそうに魚を食べてから、口々に、ありがとうと喜びを露わにした。
「お魚、沢山もらったうさー」
「何かお返ししたいくまー」
「そう? それなら、少し近寄って貰えると嬉しいよ」
しゃがみ込み、両手を広げれば、きょとんとしながらも、動物たちは若葉の懐へとぎゅむぎゅむと潜りこんでいく。
そっと抱きしめれば、温もりが、伝わる。
「あー……暖かい」
すっかり動物に埋もれた若葉の元へ、ココアのカップを二つ持って歩み寄ったアクアは、その幸せそうな様子にほっこりと微笑んで、ちょこん、と隣に座り込む。
小動物に、羊が一匹。寄り添ったふかもこ達は、暫しの暖に浸るのであった。
●勝負は楽しいスパイス
釣りの道具は鹿鳴館・リュウ・凛玖義の手に。大きく見えるバケツを一つ、ぶらぶら揺らしながら、琥珀・アンブラーは楽しげに笑う。
「お魚食べるの楽しみ!」
「魚を釣り上げたら、その場で焼いて食べるって考えると、幸せだねぇ」
琥珀程判りやすくもないが、凛玖義もわくわくとした様子である。
「でも、一番お魚食べたいのって動物さん達だよね。どうしよう。沢山釣った方がいいのかなぁ」
「んー。そうだねぇ、一番の目標は、魚を釣って食べる事だけど……まぁ、もし一匹も釣れなくても、釣りが楽しめればいいや」
そわそわと悩んだ顔をした琥珀に対し、あっけらかんと笑う凛玖義。
琥珀はぱちくりと瞳を瞬かせたが、気負うより、楽しむ方が良いと言うのは、伝わったようだ。
「はくのしたい事は、りくとお魚を釣って一緒に食べたい!」
「んっし、じゃあ、張り切って楽しもうか。琥珀ちゃん、どこに穴開けようか」
ぽん、と背を押して促せば、琥珀は瞳を煌めかせて、きょろきょろと氷の上を眺める。
魚の集まりそうな場所はどこだろう。聞き齧りの初心者ではあるが、釣りの心得はあるのだ。むむむと見定めた琥珀は、最後には直感で釣り場を選んだ。
「えっとね、えっとね、ここ!」
とことこと駆けて、ぴょこぴょこと跳ねる琥珀の後を追い、示す場所に穴を開けて。よし、と気合を入れた凛玖義は、慣れた手つきで釣り糸を垂らす。
「それじゃ、早速」
崩して広げた段ボールは、薄いけれど意外に暖かく、凛玖義と琥珀が並んで座るには丁度良い大きさで。
仲良く並べて二つ開けた穴を覗き込んでいると、氷の向こう側で魚がすいすいと泳ぐのが見えた。
つん、つん。誘うように糸が引かれるのに気が付いて、小さな体で精一杯引き上げれば、琥珀の体にはやっぱり少し大きく見える魚が一匹。
わぁ、と嬉しそうに顔を綻ばせた琥珀は、釣り上げた魚を凛玖義同様、慣れた手つきでバケツへと移すと、はしゃいだ様子で傍らのパートナーを見上げる。
「りく! どっちが沢山釣れるか勝負しよう! はく、負けない!」
「もう既に琥珀ちゃんの方が先制してるじゃないか……っと、こっちも釣れそうだねぇ」
凛玖義が釣り上げた魚は、琥珀のものと比べると若干小さいが、一匹は一匹。同数に並んだところで、改めて勝負を申し出てきた琥珀に、凛玖義は快く、頷いた。
ひゅるりと吹く風に、晒された頬がちりちりと痛むのを感じたところで、休憩。
釣り勝負は経験値の差で凛玖義に軍配が上がったようだが、沢山釣れた琥珀は満足気だった。
自分たちでは食べきれない量なら動物たちにあげようと決めて居た琥珀は、凛玖義と食べる分を選り分けてから、動物たちの元へ掛けていく。
凛玖義は、琥珀から食べる分を受け取って焚火の方へと向かいながら、動物たちにもみくちゃにされている琥珀を、微笑ましげに振り返っていた。
「おなか一杯になったらいいねー」
「おーい、琥珀ちゃん、こっちももう食べれるよー」
帽子は無くても、嬉しそうなのは判る。幸せそうな動物たちを眺めていた所へ掛けられた声に琥珀が応じて駆けよれば、焼き立ての魚が差し出される。
琥珀が一番最初に釣り上げた、大きな魚が、ぱちぱちと弾ける火の傍でこんがりと焼き上がっていた。
揃って手を合わせて、頂きます。片面ずつを解して皿に移しながら、暖かい焼き魚を味わった。
「はふ~! 焚き火暖かい! 焼魚おいしい!」
「うんうん。釣ったその場で焼いて食べるってのは、やっぱりいいねぇ」
何だか贅沢な心地に、心の内側を暖められるような気がしながら、凛玖義は何度も頷きながら魚を食べる。
やっぱり揃って手を合わせ、ごちそうさまをした後は、きちんと後片付けも忘れずに。
……とはいえ、森の動物たちにとっては人の捨てるような場所も十分なご馳走のようで。
捨てるくらいなら! と擦り寄る動物たちの胃袋へ、魚は余すことなく片付けられることとなったのであった。
●良い奴と、可愛い奴
漁師に開けて貰った穴にのんびりと釣り糸を垂らしながら、ロキ・メティスはぼんやりとした思案に耽る。
(釣ってすぐの魚を食べる機会ってのもそうそうないからな……)
食べる為に魚を釣って。釣った魚はその場で焼いて。
少し寒いのが辛くもあるが、氷上の釣りというのも、醍醐味の内。
焚火に程近い位置に陣取っているロキのバケツから、見繕ってはひょいと摘まんで焚火にかけていくパートナー、ローレンツ・クーデルベルをゆっくりとした所作で見送れば、動物たちからの期待の眼差し攻撃を受けているのが目に留まる。
「これは焼く分だから、ちょっと待ってて。ロキ、食べきれそうにないから、少し分けてあげたいけどいいかな?」
「……ん? あぁ、構わないぞ」
動物は眺めて居るのも癒されるな、とか、そんな動物と接しているローレンツの顔が緩んでいるな、とか。
やはりのんびりと眺めていたロキは、不意に掛けられた声にやや間を置いてから頷いた。
(なんか、凄く似合ってるな……)
動物たちと戯れて表情を緩めているローレンツの姿は、実にしっくりくる光景だった。
自分には似合わないだろうな、とおぼろげに思いながら、ロキは手元の釣り糸が引かれているのにも気づかないまま、焚火のそばの光景を眺めて居た。
視線を感じる気がして、ちらり。ローレンツはロキの方を見やる。
うん、やっぱり見られている。
もしかして魚が焼けるのを待っているのだろうか。
(栗ごはんの時にもちょっと思ったけど、ロキって食べるの好きだよね……)
ひょっとして、職に幸せを求めるタイプなのだろうかと、ローレンツは首を傾げる。表情にあんまり出ていないだけで、焼き魚をとても楽しみにしていたのだろうか。
「ローレンツは、動物好きそうだな」
不意に、かけられた言葉に。ローレンツは瞳を瞬かせてから、はっとしたように頷いた。
「俺は確かに動物好きだよ。旅をしてた時にもいろんな動物に会ったし」
まぁ、危険なのも居たんだけど。と、告げるわりには辟易した様子もなく、楽しげだ。
危険な目も、良い思い出となっているのだろう。
「ほんと彼らは癒しだよー」
「まぁ、俺も猫はそれなりに好きだったんだが」
言葉を区切って、じいぃ、とローレンツを見つめる。シェパード尻尾がゆらりと揺すられるのを、視線で追う。
「……好きだったんだが、最近は犬も良いなと思っている。可愛いもんだよ」
「……ん? なんでロキ俺の事じっと見てるの? その犬って……俺がテイルスだから!?」
さっきからの視線もそれか。と俄かに気が付いたローレンツは、尻尾を少しだけくるりと丸めて、肩を竦めた。
釣りを程々に切り上げて、焼き魚を堪能しているロキは、そう言えばというように、貸出されているルンプルの帽子を持ち出した。
「帽子、被ってみるか? 俺は別に良いからお前だけでも使えばいい」
「動物と話が出来る帽子か~。いいね、夢があって。小さい頃はそういうのできればいいなって思ってたからちょっと夢が叶った気分かな」
素直に、嬉しそうに受け取ったローレンツは、動物たちはどんな話をしてくれるだろうとわくわくしながら帽子を被る。
途端、鳴き声ばかりだと思っていたそれらが、口々に魚のお礼を告げていたことに、気が付いた。
「喜んでたみたい」
「ん、そうか」
頷いたロキは、少しだけ、彼らから距離を置いた。
動物受けがいいとは、思っていないから。あまりシビアな印象話は、聞きたくなかった。
そんなロキの心内は知らぬまま、ローレンツは動物たちに話しかけている。
「俺はローレンツだよ~。一緒に居るのはロキ。ロキもいいやつだから仲良くしてやってくれよ」
にこにこと話しかけるローレンツに、動物たちはそれぞれに頷いて、たぬーだのうさーだの、気の抜ける語尾を付けながら話していた。
「ロキは帽子被らないくまー?」
「うん、俺は良いからお前だけでもって、貸してくれたんだよ」
ローレンツの言葉に、子熊は大きく頷いて。
「相棒思いのいい奴くまー」
笑顔と共に零れた素直な評価に、ローレンツはほんの少し目を丸くしてから。
誇らしげに、頷いた。
●君の為に、思う事
「動物達の為に頑張って釣ろうね」
釣竿片手に張り切る信城いつきは、あ、と思い出したようにインスタントのゆず茶を取り出す。
小鍋も備えてくれてあるし、置いておけば誰でも簡単に飲めるだろうと、そっとシートの上に並べておいた。
「近所のお婆ちゃんがくれたんだ。寒くなるから、風邪ひかないようにって」
穴の開いた氷に、うきうきと釣り糸を垂らしながら、嬉しそうに語るいつきに、パートナーのレーゲンは穏やかな顔で頷きながら、ふ、と影を帯びた顔で、さりげなく尋ねる。
「街の人達と色々話してるみたいだけど、今の街の人達が、いつきに冷たくすることはない?」
問いに、いつきが返したのは不思議そうな顔だった。
「冷たく……? ないよ。むしろ、みんなから目一杯優しくして貰ってる」
ゆず茶の事もそうだし、と、微笑んで。
「あそこで暮らせて良かったよ」
笑顔で見上げてくるいつきに、レーゲンは小さく息を吐いて、知らず張っていた肩の力を抜いた。
「……そう、それなら、良かった」
心の底からの安堵に、いつきはやっぱり少し不思議そうな顔をしたけれど、レーゲンが微笑んで「良かった」と言うのだから、良いのだろう。
「あ……いつき、糸、引いてるよ」
「え? わ、結構すぐに釣れるんだね……!」
驚いたように釣り糸を引いた時点で、疑問のようなものは綺麗に払われていた。
小さい魚から大きめの魚まで、幾つかを釣り上げたいつきは、すっかり満足気に焚火のそばに戻ってきた。
「俺たちのはこの小さいの一匹ずつでいいかな」
「うん。そうだね。所でいつき、一応、包丁持ってきたんだけど……」
「え? 塩焼きだったら、丸ごとでいいんじゃないかな?」
「えっ。うーん、だけど、内臓とか苦いよ?」
きょとんとするいつきに、食い下がるレーゲン。調理場は無いと聞いていたが、ちょっと内臓を取るくらいならできそうだし、と、少し語尾を小さくしながら告げる。
箱に入れたままの包丁をそわそわと出したり戻したりしているレーゲンに、くす、と小さく微笑んで、いつきは魚を差し出した。
「お願いします」
笑われた、と、少し眉を落して照れくさそうにしながらも、レーゲンはありがとうと受け取って、いつきの手ほどきを受けながらざっと内臓だけを取り除く。
「包丁、使いたかったの?」
「ほら、準備ぐらいは手伝えるようになりたいからね」
綺麗に内臓を取り除いた魚を焚火に翳しながらいつきが尋ねれば、頬を掻いて苦笑するレーゲン。
家の料理はいつきがほぼ全て賄っている。その手伝いがもう少し出来ればと、機会があれば練習したいと思っていたのだ。
「流石にいつまでも野菜炒めに塩コショウばっかりじゃ、駄目かなって」
「そっか、ありがと、レーゲン」
嬉しそうに微笑むいつきの傍らに、魚を食べて満足げな子熊が擦り寄ってきた。
お礼を、言っているようだ。ふわりと微笑んで、触らせて貰っていいかと、手のひらを翳して尋ねる。
会話の出来る帽子が無くても、元々頭の良いスノーウッドの動物たちとは、そのくらいの意志疎通は、出来た。
ふかふかの毛皮を撫でて、穏やかな顔をする、いつき。何となく、懐かしいような、落ち着くような、そんな心地。
(記憶無くす前は居ぬいたみたいだから、そのせいかな)
繰り返し子熊を撫でるいつきを綻んだ表情で眺めて居たレーゲン。そんな彼の体に、何匹かの小動物がよじ登っていることに、気が付いた。
「わ……どうしたんだろう、暖かい樹とでも思われてるのかな……困ったね、これじゃ動けないよ」
口ではそう言いつつも、よじよじと登ってくる動物を見下ろしながら、どこか楽しそうにレーゲンは笑う。
だが、ある程度登った動物は、きゅぴん、と瞳を光らせて、レーゲンが準備していた魚をひょいと奪っていってしまった。
「あ……」
これが目的だったのか。少し寂しいような気持に眉を下げたが、塩を振る前で良かったと零すレーゲンは、先と同様、困ったようにも、落胆したようにも、見えなかった。
「レーゲン、お人好しすぎ」
くく、と、彼の代わりに苦笑して、いつきは程よく焼けた魚をレーゲンに差し出した。
「仕方ないから、俺と半分こね」
仕方ない、なんて言いながら、同じものを分け合えることを喜んでいるような顔が、見上げてくるから。
「うん、半分こ、頂きます」
見つめたレーゲンの表情もまた、嬉しそうに、微笑んでいた。
●図る、距離
釣りは初めての暁 千尋は、地元の漁師に簡単なコツなどを教わり、ふむふむと頷いていた。
「なるほど、ありがとうございます。これで小動物の為に頑張れそうです」
頑張れよと激励を受けて、良さそうなポイントに穴を開けて貰ったところで、そろり、同行しているジルヴェール・シフォンを振り返った。
「先生、寒いようでしたら焚火の方に戻っていてください」
ふるり、吹く風に肩を震わせたように見えるジルヴェールを心配そうに見つめる千尋に、ジルヴェールはにこりと笑みを返す。
「あら、なめてもらっちゃ困るわね。ワタシだって可愛い動物達の為にひと肌脱ぎたい気持ちはあるんだから」
(とは言っても、この寒さ、年寄りには堪えるわぁ)
真冬の氷上は、遮る物もなく吹きさらし。防寒具はしっかり着込んでいるとはいえ、やや年齢を感じつつあるジルヴェールとしては少々辛い面もあった。
元教え子の前ではおくびにも出さない辺りは、師としてのプライドというものも、若干あるのかもしれない。
そんなジルヴェールの態度に、千尋は何度か言い淀むような間を置いたのち、そっとマフラーを差し出した。
「その、良かったらこれも使ってください。あの……風邪でも引かれたら困るので……」
もごもごと小さく付け足す千尋からマフラーを受け取り、ジルヴェールはふわりと微笑んだ。
「あら、いいの?ふふ、ありがとう。暖かいわ。……優しいところは変わってないのね」
マフラーを巻きながら、小さく零せば、千尋はふらふらと視線を彷徨わせた後、自身の手元の釣り糸に集中した。
ちらり、千尋を窺うように見たジルヴェールは、こっそりと、嘆息していた。
(これで目も合わせてくれたら完璧なんだけど、これ以上は我侭かしら)
千尋の師であった頃と、今のジルヴェールとは、誰もが似ても似つかないという。
そんな自分を拒絶することなく受け入れてくれて、変わらぬ優しさを見せてくれるだけでも、十分だと、思うべきだろう。
いつかの事を望むのは、いつかの時で、良い。
今は、せめてこの冷たい氷の上で温もりを伝えようと、ジルヴェールは千尋の傍にそっと寄り添って、魚を釣り上げていく糸を見つめていた。
他愛ない会話と、それ以上の沈黙の時間を幾つか重ねた頃。ちらと見やったバケツは、魚で満たされていた。
「そろそろ戻りましょうか。これ以上いたら、本当に凍ってしまうわよ」
す、と立ち上がり、バケツを持ち上げたジルヴェールを、千尋は一度見上げ、けれど視線の合う前にぱっと逸らしてから、一つ返事をして追いかけた。
「あら、走らなくてもいいのよ。滑らないように気を付けて……」
「は、はい……うわっ!?」
言われた矢先に、ずるりと盛大に滑って転んだ千尋。
「あらあら、大丈夫?」
「……氷上だということを忘れていました。思ったより冷えてしまっていたようですね」
尻餅をつきながら眉を下げる千尋の様子に、くす、と微笑んで。けれど、手のひらを差し出すのは、きっと彼にはまだ、望まれてはいまいと、控えて。
すぐさま追いついてきた千尋と並んで、焚火の傍らへと戻れば。待ち構えていた動物たちに、群がられた。
「はいはい、ちょっと待ってね」
ルンプルの帽子を被って、バケツの中身をざらざらと雪の上に広げれば、きらきらの瞳が一斉に魚に群がった。
「冬眠前なのに困ったことになってるわねぇ。一時凌ぎにしかならないけど、よかったら食べてね」
「ありがたいうさー」
「これで頑張れるたぬー」
嬉しそうに魚を食べる動物たちを見て、こんな事しかできない自分が不甲斐ないと思っていた千尋の胸中に、ささやかな安堵が降りる。
こんな事、でも。彼らは心から喜んでくれるのだ。
ほっとした様子の千尋をちらと見て、ジルヴェールもまた、覚えた安堵に素直に口元を綻ばせて。
「さぁ、私達も暖まりましょう。新鮮なお魚はシンプルに食べるのが一番よ」
「はい、先生」
動物達と、団欒のひと時を楽しむのであった。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 錘里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 11月19日 |
出発日 | 11月26日 00:00 |
予定納品日 | 12月06日 |
参加者
- 木之下若葉(アクア・グレイ)
- 信城いつき(レーゲン)
- 鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
- ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
- 暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
会議室
-
2014/11/24-20:14
お久しぶりですと初めまして。
木之下とパートナーのアクアだよ。
揃って宜しくお願い致します、だね。
俺達は魚釣りメインかな。
ん。釣れるといいのだけれど。 -
2014/11/24-16:46
鹿鳴館さんちの凛玖義と、相棒の琥珀ちゃんだよ。
若葉君はヒサメさんの件、いつきくんは、いをながし以来かな?
ロキ君、千尋君はお初だね。よろしく。
僕達は釣ったお魚を食べるのがメインなんだけどね。
動物さん達が寄ってくるなら、あげちゃうかもしれないなあ。 -
2014/11/23-21:53
はじめまして、暁千尋とジルヴェール・シフォンです。
釣りは初めてですが、動物たちのためにも頑張りたいですね。
宜しくお願い致します。 -
2014/11/23-17:37
ロキ・メティスとローレンツ・クーデルベルだ。
美味い魚が食えるといいな。
ローレンツ「動物と接するのも楽しみだねー」 -
2014/11/22-22:01
信城いつきと相棒のレーゲンだよ
今回は、のーんびり会話しながら魚釣りするつもり
動物たちとも仲良く出来たらいいな。どうぞよろしくね!