おふとんのまりょく(錘里 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 ある日、ウィンクルム達にとある布団会社から快眠布団なるもののモニター依頼が舞い込んできた。
「一般公募も考えましたが、常日頃オーガとの戦闘でお疲れでしょうA.R.O.A.のウィンクルムの皆さんに、是非とも快適な眠りを提供致したく、今回の企画をさせていただきました」
 とのこと。山間のコテージにて、各ウィンクルムに二組ずつ布団と枕が渡される。
 両方とも素材も製法も同じだが、一組だけ、より快適な眠りを提供するための仕掛けがしてあるそう。
「どちらの布団も、我が社が自信を持ってお届けできる、良質な寝心地ですよ!」
 参加したウィンクルム達は相談し合ってどちらがどちらの布団で眠るか決めた後、就寝……とはいかず、旅行じみた集まりについうっかり、深夜まではしゃいでしまった。
 幸いコテージは丸二日貸し切ってあったため、起床時間を気にする必要は無く、遅い時間まで惰眠を貪るのも良い季節だなぁなんてのんびりと構えていた。

 が、事件という奴はそう言う時にこそ、起きるもので。
 翌朝、午前7時。ウィンクルム達はのそのそと起床を始めたが、どうも、仕掛けのしてある布団組がまだ起きてきていないようだ。
 これは余程寝心地が良いに違いないとそっとしておくことにした矢先、一本の電話が、掛って来たのだ。
『すみません、A.R.O.A.です。実は先ごろ、大規模なデミ・オーガの群れを討伐する作業をしていたのですが、あまりに数が多くて、2、3匹取り零してしまったんです』
 なるほど、事件だ。だが幸いなことにここにはウィンクルムがいる。手負いのデミ・オーガを始末する人員は事欠かない。
『お布団のモニターしてたんですよね。お休み中の所済みませんが、宜しくお願いします』
 受話器の向こうでぺこぺこと頭を下げる気配を感じながら電話を切ったウィンクルム達は、寝坊助な相方を起こしに向かった。
「仕事だぞ、起きろー」
「んー……」
「気持ち良いのは分かったから、また後で寝ればいいだろ、とりあえず起きろって」
「んー……」
 起きない。
 揺すってもぺちぺちしても起きない。
 枕を抱きしめてすやすやしている様はなんか幼く見えて可愛い。
「じゃなくて起きろってば!」
 思わず声を荒げたのは、彼だけではなく。どうも、他の部屋からも似たようなやり取りが聞こえてくる。

 ああ、なんということでしょう。
 快適な眠りを追求するあまり、一度眠ったら適切な睡眠量をとるまでは目覚めない仕掛けが施されていたのです!
「施すなよ! 仕事に差し支えるわ!」
「凄い! 社畜の鑑だ!!」
 言ってる場合ではない。
 相方が起きないというアクシデントはあるが、手負いのデミ・オーガ数体なら、この面子でもなんとかなるだろう。
 トランス出来ないのが心許なくあるが、むしろ寝ている彼らに危害が及ばないよう、この面子で何とかするしかあるまい。

解説

お布団の魔力に捉われてしまった相方を護るためにも頑張ってデミを掃討しましょう!

討伐対象:
デミ・ワイルドドック3体
いずれも手負いの状態で、レベル1の初期装備神人さんでも油断なく頑張れば怪我しないで倒せるでしょう
素早さ、体力ともに落ちていますが、凶暴なのでご注意ください

戦闘時の条件:
場所は山間のコテージ。二人部屋が5室あります
森の中ですが、コテージ周辺は木もまばらで見通しは良いです
デミの向かってくる方向に探しに行くよりは、待ち構えた方が安全でしょう

時間はプロローグにもありますように朝です。午前7時頃
陽は登っていて明るいですが少し肌寒いかもしれません
なお、眠っている方々はお昼ごろまで寝続けています

トランスはできませんのでご了承ください
寝言でインスパイアスペルを唱える奇跡が起きたりはしません。残念
でも寝言でトランスするのもどうかと思うの

その他:
お布団で寝るのは精霊さんでも神人さんでもどちらでも構いません
会議室での相談は、朝、起きてからの状況でスタートとなりますので、
寝ている方が参加している場合は全部寝言になります。むにゃむにゃ

備え付けの救急用品があるので怪我をした場合はご利用ください
苦戦はしないと思いますので、討伐後のあれこれを交えて頂いて構いません
プラン次第で戦闘と日常の描写比率が変わりますが戦闘蔑ろにしたら惨事になりますのでご注意を
なお、お布団の魔力はお一人様専用なので、討伐後に添い寝したら起きれなくなった!
とかいう事はありませんのでご安心ください

ゲームマスターより

起きないとちゅーするぞ的なのを錘里は所望します(寝言)
寒いのでくっついていちゃいちゃすればいいじゃない(寝言)

皆様、公序良俗を守って素敵な安眠ライフを

リザルトノベル

◆アクション・プラン

シルヴァ・アルネヴ(マギウス・マグス)

  神人
爆睡中

起きたら傍にマギの寝顔
「起きないとちゅーしちゃうぞ?」
言った瞬間うっすら瞼が開いて…怒られ!

って、ホントにするぞ?

結局出来ずにぎゅーっとするだけなんだけどさ!

マギの髪から冬の匂い。
腕の中の温かさが、すごく嬉しい




(戦闘補足)
討伐地点~コテージの大まかな知識に精霊のミッドランド知識使用

敵が直進するかは不明なので、谷等の大きな障害物が無い場合
コテージの周りのどの方角から来ても対処出来るよう、三手に手分け

「シルヴァを守るのは当然ですが、他の方はどうでも良いという訳ではないです」
今回、戦闘依頼は初の神人もいる為、慎重な行動の一部として
よりデミ・オーガが向かってきそうな方角を警戒

襲撃は大声で連絡



アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  気持ちよく寝てた
ランスみたいな犬と追いかけっこして、もふもふする夢を見てた
*実際ランス抱きしめてモフモフ(お約束

目覚めたらランスの顔が目の前だ!
何が起きたんだ?!
え?もう終わった?

(間)

この俺が、任務中に惰眠を貪っていたなどと!(ガーン
この布団は不合格だ!
却下だ不許可だ不採用だあっ!
☆モニターとして”危険性”を連綿と綴った報告書を提出し、布団は不採用と意見


◆時間は遡る(以下ランス視点)

セイジが起きない(´・ω・`)

…ので分担捜索

いつも詠唱中守ってくれるセイジが居ない(´・ω・`)←
詠唱が止まるのを防止するため、高所に登るとか仲間の所に誘導した上で《恋心2》で始末したい

発見討伐の合図は指笛で行う



月岡 尊(アルフレド=リィン)
  迎撃は、目視の他、声や地を蹴る音なども元に
奇襲されぬ為にも4人とは異なる方角を確認
敵発見次第すぐ声を上げ知らせ
また仲間からの連絡あればそちらへ

俺は、明智とローレンツと共に一体に当たる
…実戦経験が無いのが口惜しいな
攻撃力に期待出来ぬ分、敵本体のほか進路等も狙い矢を放ち、
2人の有効打を通す為のアシストを


討伐後は
「おい、アル。好い加減起きろ」と足で小突いてはみるが
仕掛け、では如何しようも無いか…
昼過ぎまで待つ
にしても…退屈だ
本でもあれば違ったんだろうが、モニターという話だったから、生憎と何も持っていない
退屈凌ぎに、小言や独り言なぞ言っても、罰は当たるまい?
…ま、起きたら軽く一発は呉れてやるつもりだが


明智珠樹(千亞)
  おやおや、お寝坊さん。
ちょっと狼退治に行ってきますね。

…しかし寝相悪かったんですねぇ。
(布団掛けなおしつつ)

【作戦】
狼見つけ次第、笛や指笛で合図。
月岡さんとローレンツさんと共に狼の内1体を集中攻撃。
初心者なので油断せず、連携意識。
「さぁ、真の狼は此方ですよ…!」
引きつけ、二人にぜひ止めを。

【戦闘後】
千亞さん、起きないとチューとか色んなことしちゃいますよー
(顔を近付け)
(寝言聞き)
(優しく微笑み、髪を撫で)
夢を邪魔するほど、私は野暮ではありませんよ。
(千亞の寝顔堪能)

(起きたら)
「千亞さんの熟睡っぷりが素晴らしいのでぜひこの寝具買いましょう…!
熟睡した千亞さんにあんなことそんなこと…ふふ!」


ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
  あー…この布団めちゃくちゃ気持ちいい。
ローレンツがなんか言ってるんだけど起きらんねー。
ここんとこ徹夜続きだったしな。
自分で思うより疲れてたってことか…zzz

(戦闘後)
なんだ?ローレンツ?ん?何かあったのか?
デミと戦闘?そっか…ローレンツお疲れ(額にキス)
何びっくりしてんだ…あぁ今のは…祝福のキスってやつだ気にすんな…ほらお前も寝るか?疲れただろう。効果は俺が保障するぜ。

(…寝ぼけついでにやっちまった…こういうのすると喜ぶ男がいたんだよなぁ。
そんなのローレンツにとっちゃ嫌なだけだよな。
男にキスされたって嬉しくもなんともない。
でも嫌わないでくれよ。
俺はお前のこと結構気に言ってるんだから)


●安眠妨害許すまじ!
 マギウス・マグスはコテージの周囲をぐるりと見渡し、小さくため息をついた。
 相棒のシルヴァ・アルネヴは意外と単純である。起きないとキスしますよ。なんて冗談を言えば、狸寝入りなら薄らと表情が反応する筈なのに、全くの無反応。試しにぎりぎりまで顔を寄せてみても同じ。布団の仕掛けは余程のようだ。
 寄りにもよってこんな時に、と思いながらも、連絡のあった場所から察して、一番敵の来る可能性のある方角を警戒していた。
「シルヴァを守るのは当然ですが……」
 彼の為に他の者がどうなっても良いというわけでは、無い。今回は、パートナーが飛んでもお布団の餌食となり眠っていて、トランスの出来ない状況なのだ。
 さらに5組中3組が、実戦経験が無いとやや及び腰。だからこそ油断のないのは、逆に心強くもあるが。
「私と月岡さんとローレンツさんで一体。経験豊富なマギウスさんとランスさんで一体ずつ……で、何とかなりますかね……」
 ぎゅ、と、明智珠樹が握り締めたのは支給武器、ウィンクルムソード。同様の配置となるローレンツ・クーデルベルは初めてまともに使うこととなるカットラスを確かめるように素振りし、月岡 尊もまた、フェアリーポウの弦を引いて、肩をすくめた。
「何とか、するしかないだろうな。幸いこれは命中しやすい作りになってるようだ。精一杯、アシストする」
「足を引っ張らないように、頑張るよ」
 少し気の弱いローレンツの発言は、パートナーのロキ・メティスが居ればそく殴られそうなものだが、幸か不幸か、ロキはただいま爆睡中。
 だからこそ、ローレンツは自分で自分を、奮い立たせた。
(俺が出来る事を、やらなくちゃ)
 その一方で、パートナーのアキ・セイジが幾ら起こしても起きない事に、判りやすく意気消沈してしょんぼりしているヴェルトール・ランス。
 経験的に一人で一体を任されたが、いつも詠唱中に守ってくれる相棒が不在なのは、若干心許ない。
 詠唱を邪魔されない様な高い場所を把握していると、不意に、声が上がった。
「来ました、デミ・ワイルドドッグです!」
 声に従って見やった先には、情報通り、手負いの様子の野犬の姿。こうなればいよいよ四の五の言っていられない。ランスは可愛いキャンディの杖を握り、敵へと向かって駆けた。
 予定通り、マギウスが一体を確保し、珠樹、ローレンツ、尊の3名でもう一体。逃げる事に必死の敵は仲間を助けに入る事もなく、突破すべく、ランスへと向かってきた。
「生き物ってのは、脳天を強打したら脳が揺れて失神すんだよ!」
 詠唱時間は自力で確保! と言わんばかりに、権威レベルの動物知識を活かし、大きく振りかぶった杖で真っ直ぐ突っ込んできた敵の頭部を強打する。
 悲しいかなエンドウィザードの得意分野を発揮する武器は、物理的なダメージを与えられない。とはいえ、流石に衝撃は敵の動きを止めた。
「よし、今の内に……!」
 詠唱を開始するランスを横目に見つつ、マギウスはくまのぬいぐるみ……のような形をしたハンマーを振るう。
「トランス出来ないと、調子が狂います、ね……!」
 ジョブスキルを用いた速攻、というわけにはいかない。それでも仲間を補佐することも視野に入れ、極力早い決着に賭けるマギウス。
 くまの表情が一瞬だけ激情に変わり、打ち付けられた直後には、冷ややかな無表情に。
 ふらつく足で反撃をしようとするデミオーガを見据えて、もう一度、マギウスはハンマーを振り上げた。
「さぁ、真の狼は此方ですよ……!」
 狼(意味深)みたいなニュアンスだと受け取りました。
 珠樹のロイヤルナイトでも目指しているのかという勢いの引きつけにまんまと乗ったデミ・ワイルドドッグ(敵は犬だよ! やったね狼超強い!)の隙をつくように、ローレンツは懸命に刃を振るう。
「素早さが減っているのはありがたいな」
 きり。狙いを定めた矢を放ちながら、尊は小さく零す。決定打は他の二人、特に強力な武器を持てる精霊のローレンツに託して。
 逃げようと惑う敵の足元へ、遮るように突き刺さる尊の矢は、確実に、仲間の攻撃を補佐していた。
 一歩、二歩。後ずさるように退いた敵の足が、もつれてふらつく。
「今だ!」
「さぁ、ローレンツさん、止めを!」
 こくりと頷いたローレンツは、踵を返そうとするデミオーガの腹に、剣を突き立てる。
「ロキがここ最近遅くまで仕事してたんだから……こんな機会ぐらい、休ませろ!」
 何の為にモニターを受けたと思ってるんだ! という主張と共に与えられた一撃は、そのまま敵を切り伏せた。
 よし、と確実な実感に拳を握ると同時、駆け付けたマギウス。振り返れば、ランスも無事に詠唱を終え、魔法弾で止めを刺したところだった。
 無事に始末を終えた事を確かめて、A.R.O.A.へと報告を行う一同であった。

●むにゃむにゃ
 外で戦闘が繰り広げられている頃、アルフレド=リィンは穏やかな眠りの中に居た。
 そもそもアルフレドは寝つきが悪いわけではない。寝具は概ねなんでも構わないタイプだ。
 昨晩はより良いモニター品の譲り合いを尊と繰り広げ、最終的には服装やら言葉遣いやら、尊による説教じみた話が始まりかけたところでアルフレドが折れた。
 月岡尊という男は存外意地っ張りなのだと最近気の付いたアルフレドなのである。
 ……そのせいか、夢の中でも尊に細かな小言を言われた気がするが、起きれば忘れるだろう。
 それよりも、目覚めても忘れられそうもない印象的な横顔は、どこか、疲れて見えた。
 夢から現実へ。浅く意識の戻る狭間で、アルフレドは思う。
(……疲れてるのは、ホントはアンタの方じゃねぇの?)
 ぼんやりとした意識の淵で、また、新しい「夢」が始まる。
「おい、アル。好い加減起きろ」
 呆れた顔の尊に、つん、と足先で小突かれる感触。
 身じろぐだけで起きる事の無かったアルフレドに、尊はまた、大きくため息を零す。退屈しのぎに本でも持ってくれば良かったと呟く声が、遠くに聞こえる。
 きっと、やれやれと言うように頭を掻いているのだろうと、アルフレドは思う。
「お前が寝てる間に、こっちはデミ・オーガ相手にして来たんだぞ」
 やけにリアルな夢。それともこれは、現実? まどろみの中で、判断の付かないままのアルフレドへ、尊はさらに続ける。
「ま、丁度良かったが」
 失礼な。戦うのはオレの方が得意だってのに! 主張したが、多分、言葉にはなっていなかった。尊の表情は、特に変わっていなかったから。
(実戦経験がないのは、アンタが出たがらないだけで……)
「……まだ。トランスさせる覚悟が、決まらないもんでな」
 ぼんやりと、ぼんやりと。尊の言葉が、響いて、沁みる。
 理解するのに時間がかかったのは、意識がまどろんでいたせい。
 決まらない覚悟の理由は、何?
「――ツキオカさんって、案外テレ屋?」
 寝起きの第一声。ぱちくりと瞳を瞬かせながらのアルフレドの目に映ったのは、驚いたような顔をした尊の顔。
 それが、紅潮したように見えたのは、一瞬だった。
「永遠に寝てろ!」
「ぐふっ!?」
 強烈な蹴りを見舞われて、涙目で蹲るアルフレド。
 そんな彼を尻目に、尊は背を向け、これ見よがしに溜息をつく。
(退屈しのぎのはずだったのに……)
 独り言のつもりが、聞かれているなんて。
 誤魔化すためにか。尊は煙草を口元に、早々に退室するのであった。

 人数分のサンドイッチとクラムチャウダーを用意してキッチンを出たマギウスが足早な尊とすれ違ったのは、ほんの少し前。
 それから、冷えた体を温めようと、平和な寝顔の神人の布団に潜りこんだところで、彼の意識は曖昧になった。
 その後、目覚めたシルヴァの目に飛び込んできたのは、隣で眠るマギウスの寝顔。
 布団のモニターを引き受けて。良い方として渡された布団で心地よく眠って……という所まで記憶を遡ったシルヴァは、良く判らないけど何故だか隣にマギウスが寝ている現実をさらりと受け止めて、伏せられた瞼の上にかかる前髪を、そっと梳いた。
「起きないとちゅーしちゃうぞ?」
 悪戯な台詞は、たまに狸寝入りを見破るためにマギウスに使われる台詞。
 告げた瞬間、薄っすらとマギウスの瞼が開いて、怒られる、と反射的に身を引いた、けれど。
「……いいですよ」
 帰ってきた、台詞に。一瞬呆然とした。
 布団の中で抱きしめられた姿勢で零した甘い台詞に、肯定。
 え、いいんですかマギウスさん。なんて思わず敬語になりかけたところで、とろんとした瞳が再び伏せられて、規則正しく繰り返される寝息。
 寝言かい! と突っ込みつつ、ずい、と額に額を付けて、シルヴァは拗ねたように唇を尖らせる。
「ホントにするぞ?」
 今度は、返事がない。本気で寝ている精霊に、零れたのは笑みだった。
「髪、冷たいな」
 ほんのりと冷えた黒髪からは、冬の匂いがする。それが、心地よい。
 対照的に暖かな腕は、物理的な温もり以上に、心を暖めてくれる。
 折角だから、もう少しこのままで。
 お布団の魔力に、シルヴァは素直に従う事にした。

 用意して貰ったサンドイッチとクラムチャウダーで程よく空腹を満たした珠樹は、寝坊助さんと化している千亞の様子を窺う。
 出掛ける際にかけて行ったはずの布団は、床に綺麗に落されていた。
 豪快に大の字になったかと思えば、ふるりと体を震わせて丸くなった千亞に、くすくす、微笑ましげな顔をして、珠樹はそっと、歩み寄った。
 ふかふかのお布団をそっとかけ直して、そのまま、顔を寄せてみる。
「千亞さん、千亞さ~ん。そろそろ起きないとチューとか色んなことしちゃいますよー」
 実戦でのトランスという公然ちゅーもまだなのだ。寝ている隙にほっぺにちゅーするくらいならきっと許されても良いんじゃなかろうか。
 そんな珠樹の襲来など露知らず、すやすやと気持ちよさそうに眠っている千亞が、小さく身じろいで。
「……兄さん……帰ってきてくれたんだね……」
 殊更幸せそうに、笑った。
 見つめて、見つめて。珠樹は暫しの逡巡の後、ふ、と柔らかく微笑んだ。
 目覚める気配のない千亞の様子から、容易に悟れる。
 あぁ、この少年は今、とても幸せな夢を見ているのだろう、と。
「夢を邪魔するほど、私は野暮ではありませんよ」
 微笑と同じように、珠樹の指先が、柔らかく、千亞の髪を撫でる。
 珠樹は千亞の事をよく知らない。自分自身の事も、概ね適当だ。
 垣間見たからと言って、何かを思い出したからと言って、何が変わるわけでもないのだろうけれど。
 普段は見る事も叶わないだろう、表情に。愛おしさが増したのだけは、確かだった。
「お休みなさい、可愛い兎さん」
 狼さんは、この寝顔で満足すると致しましょう。
 良く見える位置で、そっとベッドにしなだれて。にこにこと見つめている珠樹の気配を察したのか。千亞が薄らと瞳を開ける。
「……おはよ、兄さ…じゃない、珠樹……」
 寝ぼけて零れた台詞は、誤魔化して。次の瞬間には、覚醒した意識で、ぱっと身を起こした。
「おはようございます。良く寝てましたね、千亞さん。いやぁ、千亞さんの熟睡っぷりが素晴らしいのでぜひこの寝具買いましょう……!」
「……確かに良く眠れた……って、何もしてないよな?」
 じとり。訝るような眼差しは、常日頃の珠樹の行いのせい。あと、うっかり零れてる「寝ている千亞さんにあんなことそんなこと」とか言う台詞のせい。
 だが、そんな彼に小さな引っ掻き傷があるのを見つけて、千亞は目を丸くした。
「お前、それ、どうしたんだ?」
「あぁ、いえ、ちょっとこれこれしかじかで」
「は? 狼退治……って、はぁ!? ちょ、他に怪我とかしてないだろうな!」
 至極簡潔な説明に、慌てたように確かめてくる千亞に、珠樹はこっそりと、驚きに目を丸くしてから、くすりと笑った。
「大丈夫です、千亞さんの添い寝で治ります……!」
 ちゃっかりと布団に入りこもうとする珠樹を条件反射で蹴りだす千亞。
 心配して損した。真顔で吐き捨ててから、床でへらりと笑っている珠樹をちらりと、見て。
「いいか? 次、こう言うことがあっても、僕を置いていくな。べ、別におまえが心配なわけじゃないっ。他人様に迷惑かけてないか心配なだけだっ!」
 ベッドの上で仁王立ちして宣言する千亞の、ぷい、と逸らされた横顔を見て、珠樹はまた、くすりと笑う。
 千亞さんは、今日も愛らしい。なんて、思いながら。

 どたぁん、と、派手な音が近くの部屋からした気がして、ローレンツは思わず肩を震わせた。
「……何か、あったのか……?」
 様子を見に行くのは、少し怖い気がするからやめにして。
 代わりに、未だ起きる気配のないロキが、今の音で目覚めてないか、そろりと覗き込んでみた。
 ここのところ徹夜続きのようだったロキは、やはり疲れているのだろう。布団の仕掛けの効果とはいえ、驚くほどよく眠っている。
 と、不意にその瞳がぼんやりと開かれた。
「……おはよう? まだ、寝てて良いけど」
 ぱち、ぱち。何度か瞬きを繰り返したロキの目には、ローレンツの顔がどこか、心配そうに見えたのだろう。
 ゆっくりと体を起こして、何かあったのか、尋ねてみた。
「ちょっと、デミと戦闘してきた」
「デミと、戦闘?」
 ぱちくり、ぱちくり。反芻した台詞は、寝起きの頭には今一つピンとこなかったが、どうもローレンツが頑張って来たらしいことは把握した。
 だから、何気ない所作でローレンツの頭を引き寄せると、お疲れ、と囁いて額にキスを落した。
 当然、突然の行動にローレンツは驚いた顔をしたけれど。ロキは未だぼんやりとした顔で不思議そうに首を傾げる。
「何びっくりしてんだ……あぁ、今のは……祝福のキスってやつだ気にすんな。ほらお前も寝るか?」
 首の後ろを掻きながら、温もりの残る布団を開けてのそのそと顔を洗いに出て行ったロキを見送って、ローレンツは驚きに緊張した方の力を抜いた。
「……寝ぼけてるし」
 よっぽど強力なんだなぁ、と、しみじみした顔で空っぽの布団を摘まんでいるローレンツの気配を、背に。
 ロキは、やってしまった、と内心で小さく嘆息した。
(こういうのすると喜ぶ男が居たんだよなぁ……)
 寝ぼけついでにしでかしてしまったことは、ロキにとっては慣れた事だったが、ローレンツには、嫌な事だったかもしれない。
(……でも、嫌わないでくれよ)
 今日は、寝ぼけた事にして誤魔化すから。どうか何でもない顔をして欲しいと、ロキは願う。
(俺はお前の事、結構気に入ってるんだから)
 契約と名前の付いた関係を、抜きにしても。

 なんだかんだで陽も高く上った頃。
 未だ夢の中で、セイジはランスによく似た犬と追いかけっこをしていた。
 もっふもふのわんこをぎゅぅぎゅぅと抱きしめている感覚が、何となくリアル。
 柔らかな毛並みを思う存分堪能したところで、満足したように開いた瞳に映ったのは、間近に会ったランスの顔。
「何が起きたんだ!?」
 がつんっ。焦っておきあがった拍子に、思い切り頭突きした。
 ので、暫くランスさんの回想をご覧になってお待ちください。

 結局セイジのいないまま戦闘を終え、ランスはしょんぼりとした顔をしたまま部屋に戻る。
 案の定、まだ眠っているセイジ。揺すっても起きない。布団め。なんて思っていたら、急にぎゅむりと抱き付かれた。
「ランス……」
 幸せそうに名前を呼んで、優しく撫でられて。しょんぼりした気分は一気に吹き飛んで思わず幸せになるランス。
「寝言で名前呼ぶとか……実は俺に惚れまくってんな」
 実際は夢で犬と戯れているだけでした。
 でも悦に浸るくらいは個人の自由だと思います。
 近い距離で、じぃ、と見つめた寝顔は、幸せそうで。
 伏せられた睫毛が綺麗だな、とか、すっとした鼻筋は整っているな、とか。
 しげしげと見つめていれば、徐々に降りた目線が唇に止まるのは、自然な事で。
 このまま起きなければいいと言う期待と、ほんの少しの罪悪感を抱きながら唇を重ねようと、して。

 今に至るというわけでした。
 ちゅーは未遂だったよ残念!
 ようやく落ち着いたセイジに、改めてデミ・ワイルドドッグとの戦闘があったことを告げれば、衝撃を受けたような顔をされた。
「この俺が、任務中に惰眠をむさぼっていたなどと……!」
「せ、セイジ?」
「この布団は不合格だ! 却下だ不許可だ不採用だあっ!」
 急な任務にも対応できなければいけないと言うのに! と嘆くセイジは正しく社畜そのものであった。

 後日、布団会社に届いたモニターの感想の中に、この布団は危険であるとの旨が実に分厚い報告書として提出されたそうで。
 何があったのだろうと首を傾げる、開発者が、いたそうな。



依頼結果:大成功
MVP
名前:月岡 尊
呼び名:ツキオカさん
  名前:アルフレド=リィン
呼び名:アル

 

名前:明智珠樹
呼び名:珠樹、ド変態
  名前:千亞
呼び名:千亞さん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 錘里
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル 日常
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 少し
リリース日 11月08日
出発日 11月16日 00:00
予定納品日 11月26日

参加者

会議室

  • [14]シルヴァ・アルネヴ

    2014/11/15-23:44 

    プラン提出済み!(寝言)

    ふふふ……もう、これ以上食べられないって……。

  • [13]アキ・セイジ

    2014/11/15-22:50 

    セイジ「プリンは完成したよ…」すうすう

  • [12]明智珠樹

    2014/11/15-22:49 

    【千亞】
    むにゃむにゃ…もう食べられないよぉ…
    (寝言)

    …すーすー…
    ぷらん、ていしゅつ完了したよ…むにゃむにゃ
    (布団けっ飛ばし←寝相悪い)

    …みんな、がんばってねー…むにゃむにゃ

  • [11]明智珠樹

    2014/11/15-10:52 

    >マギウスさん
    よろしくお願いいたします、ふ、ふふ…!!

    そして改めましてマギウスさんとアキさん、
    こ面倒おかけいたしますがよろしくお願いいたします(ペコリ)<一人一匹
    月岡さん、ローレンツさん、頑張りましょう…!!(ぐ。)

    どうやら私も戦闘割合増えてきました…!!文字数め…!!

  • [10]月岡 尊

    2014/11/15-01:03 

    戦闘については、マギウスとアキには負担を掛けるが、
    二人が大丈夫であれば、俺も明智の挙げた形に賛成だ。
    済まんが、頼む。

    割合については……なにぶん不慣れなもんで調整次第で変わる可能性もあるが、
    俺の方は今のところ半々くらいの予定だな。

  • [9]アキ・セイジ

    2014/11/15-00:07 

    アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。

    明智さんの言うようにうまく分担できるよう書いてみるよ。音で合図もOK。
    背後も布団ー布団ーと五月蝿いので、布団の魔力は良く分かる。
    なんとかしなくては…な。

  • [8]シルヴァ・アルネヴ

    2014/11/12-23:44 

    マギウス・マグス

    (一瞬、寝ているはずのシルヴァが僕の口調で発言していましたが、多分気のせいです)

    >明智さん
    明智さんとも初めましてですね、よろしくお願いします。

    戦闘については、僕はそれで大丈夫ですよ
    連絡も、大声など何らかの形で大きな音を出して伝えるようにします。

  • [6]明智珠樹

    2014/11/12-19:11 

    <戦闘と日常
    私としましては、可能であればザックリ撃退し
    千亞さんはじめ皆様のお布団キャッキャを重視&堪能したくはありますが…!

    <戦闘
    見つけたら大声、良いと思います。
    コテージに笛とかあればよいのですが…なくても指笛とか、まぁ音を発したいものですね。

    またデミ・ワイルドドックは3体いうことですので、
    戦闘経験豊富なマギウスさん1体、
    同じく豊富なアキさんもしくはヴェルトールさん1体、
    月岡さん&ローレンツさん&明智で1体、で分担…!
    とか考えたのですが、いかがでしょうか?

  • [5]シルヴァ・アルネヴ

    2014/11/12-09:26 

    マギウス・マグス

    >月岡さん
    初めまして、よろしくお願いしますね。

    最初に確認しておいた方が良い事があるのを失念していました。
    >プラン次第で戦闘と日常の描写比率が変わりますが戦闘蔑ろにしたら惨事になりますのでご注意を
    とありますが、皆さんプランの比率は戦闘と日常どちらに重点を置かれる予定でしょうか?
    僕は日常の方が多くなりそうです。

    あと、少し訂正があったので
    プロローグ上、デミ・オーガがどちらの方向から向って来るか
    (討伐が行われていたエリアの方向ですが)僕らに伝わっている風なので
    警戒する方向については、北側限定ではなくもう少し柔軟性のある書き方に変えておきますね。

  • [4]月岡 尊

    2014/11/12-01:14 

    おはよう……と言うほど早くは無いかもしれん7時過ぎだが。
    月岡尊という。
    ……ああ。明智とアキは先日ぶりだな。

    連れのアルフレドは起きやしないし、
    俺も現場は初めてなんで……何とも心許なく申し訳ないが。
    先達諸氏に学びながら、力を尽くすつもりだ。
    よろしく頼む。

  • [3]シルヴァ・アルネヴ

    2014/11/11-21:43 

    マギウス・マグス

    シンクロサモナーのマギウスです
    初めましての方も、お久しぶりの方も、よろしくお願いしますね。

    今回は相棒のシルヴァ・アルネヴが寝ている状態ですが……いつもの
    睡眠とは、やはり様子が違いますね。(つっつき)

    デミ・オーガ数体という事ですが、敵は手負いですし
    注意して討伐にあたりたいと思います。
    とりあえず、待ち構えるにしてもどちらの方向から来るか不明ですので
    それぞれで見張る方向など、決めておいた方がいいのでしょうか?

    僕は、コテージの北側を見張るとしますが
    デミ・オーガの発見時には、大声で連絡します。
    こうしたらどうだろう?という案がありましたら、教えて頂ければ
    それに合わせますね。

  • [2]ロキ・メティス

    2014/11/11-19:13 

    ローレンツ:
    初めましての方は初めまして。
    明智さんは以前お会いしましたね。
    みなさんよろしくお願いします。

    こういうところで喋るのって緊張するね。
    うちはロキが熟睡中なんだ…ゆすってもやっぱり起きる気配がないし…。

    とりえず、ロキなしでのデミ退治…頑張りたいと思います(ぺこり)

  • [1]明智珠樹

    2014/11/11-13:16 

    おはようございます、明智珠樹と申します。
    よろしくお願いいたします、ふふ。
    シルヴァさん、はじめまして。
    そしてアキさん、月岡さん、ロキさん、またよろしくお願いいたします…!!

    さて、うちは千亞さんがスヤスヤぐっすりしております。
    頑張って敵を倒し、悪戯したいものです、ふふ…!!

    そして恐れ入ります、私アドベンチャーなお仕事が初めてです。
    こ迷惑おかけしないよう、足手まといにならないよう
    頑張りますのでよろしくお願いいたします…!!

    戦闘後の皆様のおふとんキャッキャが楽しみです…!!


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