試される愛の絆(白羽瀬 理宇 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 恋と愛の違いは、恋は下に心があり、愛は真ん中に心があるという、そんな説がある。
 要するに恋は下心。愛は互いを思いやる気持だとか何とか……。

 ここはどこだろうか。
 パートナーの家?あなたの家?A.R.O.A.本部?それともどこかに出掛けた先?
 場所はどこでも良いだろう。

 共通するのは一つ。

 今ここに一つの障害がある。
 それは『想像を絶するほど不味い料理』だ。
 そしてその『不味い料理』は、あなたのパートナーの真心によってあなたの元にもたらされた。

 元々料理は得意ではないのに、あなたに手料理をふるまおうと頑張ったのか、
 あるいは、慣れているはずの料理なのに、台所が違うために、使う調味料や調理の手順を間違ってしまったのか、
 果てまた、あなたのもとに来る途中で誰かの弁当とすり替わってしまったのか。

 とにもかくにも『想像を絶するほど不味い料理』を、あなたのパートナーがあなたに差し出したのである。
 しかも、どうやらパートナーはそれが不味いことには気づいていないらしい。

 パートナーがあなたに食べてもらおうと用意した料理。ただし『想像を絶するほど不味い』
 相手の気持ちを尊重して、何も言わずに食すか。
 それとなく気づかせてみるか。
 あるいは、直球勝負で不味いと言い切ってみるか。

 パートナーはどう反応するだろうか。
 何も気づかず、必死に食事をしているあなたを笑顔で見守るだろうか。
 一緒に食べて悶絶するだろうか。
 不味いと言われて大喧嘩の末に仲直りをするだろうか。

 『想像を絶するほど不味い料理』
 その障害を乗り越えるとき。
 二人の愛の絆が、今ここに試される。

解説

●目的
目の前にある障害『想像を絶するほど不味い料理』を乗り越えてください。


●プランに書いていただきたいこと
・料理を食べようとしている場所
・誰が料理を作ったか(神人でも精霊でも、どちらでも構いません)
・料理を作った理由
・不味くなってしまった理由
・食べた人の反応
・障害を乗り越えるためにどうしたか
記載がない場合には、当方が適当に補完します


●消費Jr
料理の材料費として一律で500Jrをお願いします

ゲームマスターより

プロローグを読んで下さってありがとうございます。

ラブコメの定番の一つといえば不味い料理かなと思い、エピソードを作ってみました。
どんな料理が飛び出すのか、楽しみにしています。
どうぞよろしくお願いします。

それにしても材料費500Jrって結構豪華な料理が作れそうですね……。
ちなみに当方の料理における最大の失敗は、ハンバーグのタネに塩コショウなどの調味料一切を入れ忘れたままハンバーグを焼いたことです。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リゼット(アンリ)

  使用人が休暇でいないから台所が使えるわね
この前カレーを作れなかったから
本当は作れるってことを証明するわ

はい、召し上がれ
おかわりもあるわよ
なぜか作ってるうちに寸胴一杯になったから

何ってカレーに決まってるじゃない
辛さ?色的にからしをベースにしたけど
色が合わないからチリソースとお醤油も
納豆カレーっていうのがあるんでしょ?
お肉ばっかり食べるから健康のために入れておいたわ

ちょっと!
食いしん坊がすぎるんじゃないの!?
まず?そういえば味見してなかった
(ルウを指先ですくって舐め
ぐっ…何この毒薬!アンリ!しっかりして!
(バケツ一杯の水をぶっかけ

…ごめんなさい
今度はちゃんと教わるようにするから
また…食べてくれる?


ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
  ご飯の時間まで「ハロルド」が書いていたらしい日記を読んでいました。

ご飯を作ってくれる方
ディエゴ・ルナ・クィンテロ
男性、27歳、私のパートナー
そして「ハロルド」の好きな人

作ってくれたご飯ははっきり言って不味いです
そして私はこんなに食べないです
…ですが、日記を全面的に信じるのであれば私はこの人に親切心を以て接しなければならない。
そして何故だか「私」も彼の残念そうな顔は見たくないと考えています。

結果としてすべて食べますよ
カレーは飲み物
カレーは飲み物
そう自分に言い聞かせて勢いをつけて流し込みます
苦いのは野菜ジュースと同じと思えばいいんです。

……ごちそうさまでした
…オイシカッタデス




ペシェ(フランペティル)
  ・場所
ハト公園でお弁当

最近のフランは忙しそうですし、元々細いのにますます痩せてしまって
栄養満点のものを食べてスタミナを付けてもらいたいので、慣れないですがお弁当を作りました
指を切ったりしましたけど…

・不味い理由
味見はちょっと忘れてしまいましたし、無かった材料は成分から他の材料(非食物含む)で補完しましたが、レシピ(料理本にフェイクされた魔術系の本)見ながら作りました。
見た目はよくないですけど
(何が悪い処じゃない暗黒物質生成)

・食べた人の反応
顔がひきつってますが、一心不乱に二人分食べちゃいました

もう!だったら私の分まで食べなくても…!
え?作ってくれるんですか?

フラン!しっかり!



シャルル・アンデルセン(ノグリエ・オルト)
  いろいろ悩んでいる間ノグリエさんにはいっぱい心配をかけてしまったし。
あまり一緒に居られなかったから…そのお詫びと言うか。
パンケーキを作ったのでよかったら一緒に食べませんか?メイドさん達には手伝ってもらわずに作ったのであまり美味しくないかもしれませんが。
私の作ったものをご馳走したくて。料理も初めてなのでメイドさん達にかなり心配をかけてしまったのですが…形はそれなりに仕上がったと思うんですよ。
あ、でも、美味しくなかったらいってくださいね。
過去を教えてくれるっていう約束とは別ですが。ノグリエさんとは本音で話せたらなって思うんです…だからその場合は遠慮なく言ってくださいね!
どうぞ、召し上がれ(にこり)


春加賀 渚(レイン・アルカード)
  前に財布の中が見えちゃったんだけど
正直あんまり入ってなかったよね…
食べ物に困ってたりしないかな
料理でも作って差し入れしようかな

卵焼きくらいなら作れるよね、多分
卵割るのって結構難しい…多少殻食べても死なないよね
甘いもの好きそうな感じだし味付けは甘めに(砂糖どばー

すぐ帰るつもりだからお構いなく

…何も言ってないけど表情だけで味の察しがつくね
レインさん本当にわかりやすい

…今まで彼女とかいた事ないでしょう
もっと現実を見た方がいいと思う
私が言うのもなんだけどね

ごめんね、こんなの食べさせて
でも幻想のために命を投げ出すのは潔よしとすら思うけど愚かでもあると思うよ…

次は美味しいって言わせられるよう頑張る


●前菜「卵の殻と砂糖の卵寄せ」

「前に財布の中が見えちゃったんだけど、正直あんまり入ってなかったよね……。食べ物に困ってたりしないかな、料理でも作って差し入れしようかな」
 そんな親切心が今、悲劇を生む。

 オンボロとまでは行かないまでも綺麗とは言い難い、ちょっと古びた庶民的なアパート。
 その一室の前に袴姿の少女のが一人立っていた。春加賀 渚である。
 はんなりとしたその姿は、正直言って安普請にはあまり似つかわしくないが、渚は気づいていないようだった。
 風呂敷に包まれた漆塗りの小さなお重を胸の前に抱えて、ためらうことなく目の前のドアのインターホンを鳴らす。
「はいはい、どちら様……」
 そんな声と共に開かれるドア。中から出てきたのはレイン・アルカードだった。
 部屋着なのだろう、着古したTシャツにスエットパンツという姿で現れたレインは、目の前の渚の姿にしばし呆然とする。
「え、何でここに?」
「料理を作ったから差し入れに来たの」
 胸の前の風呂敷包みを見せながら言う渚。
「料理……?」
 混乱のため鸚鵡返しに聞き返したレインだったが、ややあって、はっと我に返った。
(女の子が部屋訪ねて来たのに、部屋もろくに片付いてないし格好も適当すぎる!)
 慌てて髪を手櫛で整え、腰履きになっていたズボンを引き上げ、何とか格好をつけようと取り繕う。
「あ……ちょっと、待っててくれるか?部屋……」
「すぐ帰るつもりだからお構いなく」
 部屋を片付ける、そう言いかけたレインをさえぎる渚。
 玄関先で押し問答をするというのもレインの美意識には適わない。仕方なくレインは半歩退いて、渚を部屋へと招き入れた。

 いかにも男の独り暮らしといった風情の部屋の中。
 レインが慌てて空き缶やら雑誌やらを除けたテーブルの上には、渚が先程まで抱えていたお重が置かれていた。
「卵焼き……か」
 渚に促され、蓋を開けたレインがつぶやく。
 それは艶やかな薄いキツネ色。
 所々に見える白い破片のようなものさえ見なかったフリをすれば、ほら、ふくよかな甘い香りが鼻をくすぐる。……猛烈に。
「いただきます」
 ぱくり。
 じゃりっ。
「っぐ……!」
 斬新な歯ごたえの秘訣は卵の殻と溶け残った砂糖。そしてこの地獄の甘さ。
 青ざめながら硬直しているレインに、静かに渚が言った。
「……何も言ってないけど表情だけで味の察しがつくね。レインさん本当にわかりやすい」
「女の子ってみんな可愛くて優しくて料理上手なんじゃねえの……?」
 搾り出すような声で訊ねるレイン。
「……今まで彼女とかいた事ないでしょう。もっと現実を見た方がいいと思う」
 多分、卵焼きくらいなら作れるよね。そう思った。
 けれど卵を割るのって結構難しかった。
 多少殻食べても死なないよね、そう思ってそのまま卵を解いた。
 更に、レインは甘いもの好きそうな感じだから味付けは甘めにと思い、砂糖をドバーっとドバーっとDo Bad。
 女の子の現実なんて、そんなもん。
 冷静に図星を突かれレインは思わず黙り込む。
「私が言うのもなんだけどね」
 しかし、しゅんとしてしまった渚の姿にレインは腹を括った。
「ここで逃げたら男じゃない。女の子の手料理とか今後食べれるかも分からないのに残せるか!」
 たとえ砂糖の味しかしなかろうと、女の子の料理は女の子の料理である。次はいつ口にできるか分かったものではない。
「ごめんね、こんなの食べさせて」
 謝る渚。
 レインは答えない。無心で卵焼きを口に押し込み、水をがぶ飲みしつつ無理やり飲み下す。
 やがて全てを食べきり、テーブルに突っ伏すレインに渚が言った。
「食べてくれてありがとう。……でも幻想のために命を投げ出すのは、潔よしとすら思うけど愚かでもあると思うよ……」
 レインの決死の努力により空になった重箱を閉めながら言う渚。
「次は美味しいって言わせられるよう頑張る」
「……」
 女の子の美味しい手料理。そんなレインの夢が叶うのはいつのことだろうか。

●スープ「焦がしスパイスのスープドリンク」

 今日は金曜日。金曜日にはカレーを作る。それが俺の癖。

 ディエゴ・ルナ・クィンテロ。今、彼の目の前には煮えたぎる二つの鍋がある。
 右は米を炊いている土鍋。左はカレーの鍋。
 どちらも盛んに泡を吹きながら破滅への道をばく進しているが、物思いに耽るディエゴは気づいていない。
「……俺はどうしたらいい」
 そんな言葉がポツリと漏れる。
 ディエゴの視線の先には勿忘草の鉢植。それはディエゴが『ハロルド』からもらったものだった。
 『私を忘れないで』そんな花言葉を持つ勿忘草の存在が今となっては恨めしい。彼女がディエゴとの今までの記憶を、全て失くしてしまったからだ。
 二人で積み重ねてきた時間と自分自身の存在を忘れられてしまった事は、ディエゴにとっては深い絶望をもたらすものだった。
 絶望に苛まれやり場のない思いを勿忘草の鉢にぶつけようとして、ディエゴは鉢を床に叩きつけようとした。
 しかしできなかった。
 季節はずれに一輪だけ残った青い花が、彼女の右目と重なって見えてしまったからだ。
「……俺はどうしたらいい」
 ディエゴの目の前の鍋からは薄い煙が立ち上がりはじめている。

 ハロルド。本名、エクレール・マックィーン。今、彼女の目の前には大量のご飯がある。
 椅子に座った彼女は、無表情ながらも困惑しつつ、これを作ってくれた相手を見上げた。
 ディエゴ・ルナ・クィンテロ。男性。27歳。『私』のパートナー。そして『ハロルド』の好きな人。
 彼女がついさっきまで読んでいた『ハロルド』の日記には、この相手に対するそんな情報が書かれていた。

 おこげと言うには色が濃く、水分を失って硬そうに見える米の上に黒褐色の粘性のある液体がかかった、カレーらしきもの。
 意を決して彼女はそれをスプーンですくって口に入れる。
 濃厚に舌にまとわりつく苦味と鼻に抜ける強烈な焦げ臭さ。本来なら食欲を誘ってくれるはずのスパイスの香りが、ものの見事に死んでいる。
 はっきり言って不味い。味わうことを諦めて彼女は無理やりそれを飲み下す。
 一度スプーンを下げて、彼女は改めて皿を見た。
 カレーらしきものが大きな器に山盛りになっているが、私はこんなに食べない。
 けれども、日記を全面的に信じるのであれば、私はこの人に親切心を以て接しなければならない。
 そして何故だか、私も彼の残念そうな顔は見たくない。
 そう考えた彼女は再びスプーンを持ち上げる。
 カレーは飲み物。カレーは飲み物。カレーっぽければ多分飲み物。
 そう自分に言い聞かせ、勢いをつけて流し込む。
 苦いのは野菜ジュースと同じ。スパイスだって植物なんだから……。
 満腹中枢の働きにより人が満腹感を感じるまでには、実際に胃袋が満たされてから少し時間がかかる。
 この大量のカレーらしきものを全て食すために必要なのは、そう、スピードだ。
 彼女は飲む。カレーっぽいものを、ひたすらに。
 
「……ごちそうさまでした」
 胃袋は苦しさを訴え始めていたが、できるだけ平静を装って彼女はスプーンを置く。
「オイシカッタデス」
 機械のように平坦な口調で感想を述べる彼女をディエゴの金色の瞳がじっと見つめた。
(嘘をついている。これは不味い、明らかだ)
 しかしディエゴは何も言わずに皿を下げた。
 食卓から離れていく彼女。
 流し台で、空になった皿に水を注ぎ込みながらディエゴは再び物思いに耽る。
 何故彼女は不味いと言わなかったのか……。何故不味いにも関わらず完食したのか……。それはディエゴに対する思いやりだろうか。
 思いやりをかけてくれるのは、以前の感情が残っているからなのかどうか……。
 たった一輪残った勿忘草の花にディエゴはそっと触れる。
「わかったことは俺にとっての『ハロルド』の存在は思っていたよりでかかったという事だ」
 苦い呟き。
 勿忘草のもう一つの花言葉は『真実の愛』だ。

●魚料理「白身魚の香り焼き」

 まずは生鱈の切り身に軽くお酒を振り、次にハーブとお塩を振っていきます。
 ハーブはパセリ、ローズマリー、タイムを少々。それからマカと高麗ニンジン、ジキタリスを加えましょう。
 お塩にはトロール牙山脈産の岩塩がお勧めです。できるだけ赤味の濃い塩を使うのが成功のポイントです。
 下準備が済んだら、鱈の切り身をフライパンで焼いていきます。
 油をひいたフライパンで焼き色がつくまで焼いたら、コウモリの羽を添えて蓋をし、蒸し焼きにします。
 3分ほどまって中まで火が通ったら出来上がり。コウモリの羽は除けておきましょう。
 これであなたの大切な彼もたちどころに元気になるでしょう。
 ペシェの机の上に広げられたレシピには、そんな文句が並べられている。普通の感覚を持った者ならば、何かがおかしいと感じるレシピ。
 それもそのはず。この本は料理本にフェイクされた魔術系の本なのだから。
 
 休日のハト公園。日差しが降り注ぐ芝生の上にフランペティルが座っている。
 これまで高等遊民としての気儘な日々を送ってきたフランペティルだったが、人形の修復に関わったり、様々な人と出会ったりするうちに、自らの身に疑問を持つようになった。
 そこで最近は父の服飾店の手伝いに本腰を入れ、父の知人に弟子入りしてデザインも学んでいる。
 ウィンクルムとしての活動に、服飾店の手伝いに、デザインの勉強。寝る間も減っている故にややふらつきもする今日この頃だ。
 ペシェがやって来るまでの僅かな時間ではあるが、久しぶりにのんびりとしている気がして、フランペティルは芝生に転がり青い空を仰ぎ見た。

 マカなんて無いし……名前が似てるからモカで代用しました。粉をそのまま切り身にまぶします。
 岩塩って大きな塊なんですね。このままでは食べづらいでしょうから、少しだけ砕きましょう。
 赤いほうが良いって書いてあるけど、これはそんなに赤くないですね。唐辛子を混ぜれば赤くなるかな……。
 そんな風にして作った料理らしきものを弁当箱に詰め、ハト公園へとやってきたペシェ。
「最近のフランは忙しそうですし、元々細いのにますます痩せてしまって……。栄養満点のものを食べてスタミナを付けてもらいたいので、慣れないですがお弁当を作りました」
「ふぁ……何?弁当とな?殊勝であるな」
 身体を起こしたフランペティルに、ペシェは持参した弁当箱を差し出す。
「味見はちょっと忘れてしまいましたし、無かった材料は成分から他の材料で補完しましたが、レシピ見ながら作りました」
 弁当箱を開くペシェ。
「見た目はよくないですけど……」
 見た目が悪い処じゃない暗黒物質。モカと唐辛子が織り成す赤茶色に染められた魚の切り身。そこに飴玉くらいの大きさの岩塩がゴロゴロと転がっている。
「……」
(呪いや障気すら感じる、新種のオーガと言われても納得できるこのヤグベントーを吾輩に食えと……?)
 だがしかし、ここでヤグベントーを持つペシェの手にフランペティルの目が留まる。
(指先の絆創膏や傷を見るに吾輩の為にと想いを籠めたであろうその心を無下には出来ん!)
「心頭滅却!口は言葉を紡ぐのではなくただひたすら飲み下す為に用いる!」
 ばっと弁当箱を奪い取り、フランペティルは一心不乱にヤグベントーの中身を食べ始めた。
 苦い気がする。辛い気がする。しょっぱい気がする。でも考えたら負けだ!止まったら負けだ!!
 無になった心にはペシェの分はどうするのかとかいう疑問は浮かばない。
 結局フランペティルは、二人分の暗黒物質を全て丸飲みにしてしまった。

 青白い顔で切れ切れにフランペティルが言う。
「……吾輩、思うに、貴様は喰う方、がお似合い……だ」
「もう!だったら私の分まで食べなくても……!」
「今度吾輩が作ってやるから……な」
「え?作ってくれるんですか?……って、フラン!しっかり!」
 フランペティルの金色の瞳がグルリと上を向く。ドサリと芝生の上に倒れるフランペティル。
 哀れフランペティル。君の勇気は忘れない。

●肉料理「畑のお肉のからし煮込み」

「使用人が休暇でいないから台所が使えるわね」
 台所で一人腕まくりをするリゼット・ブロシャール。
「この前カレーを作れなかったから、本当は作れるってことを証明するわ」
 以前アンリに「無理なら俺が作ってやる」と言われたことへのリベンジ……のつもりだった。
 が、世の中には無謀という言葉も存在する。

 食卓についたアンリ・クレティエの前にドカっと置かれる寸胴鍋。
「おっ、カレーだな!見た目もうまそうだし……ちゃんと作れるんじゃねぇか、見なおしたぞ?」
「はい、召し上がれ。おかわりもあるわよ、なぜか作ってるうちに寸胴一杯になったから」
「そんじゃ、いっただきまーす!」
 見た目だけは一見マトモだったのも災いしたのだろう。何の警戒もなくリゼットのカレーを口に入れたアンリだったが……。
「……っぐはっ!!」
 凶悪なオーガの凶暴なボディーブローを喰らったかのような表情を浮かべ、そしてそのまま椅子ごと後ろに倒れこんだ。
 リアクションに驚くリゼットに、床に倒れたままのアンリが叫ぶ。
「おい、なんだこれ……!」
「何ってカレーに決まってるじゃない」
「辛いの方向性がスパイス的なもんじゃなくてなんか他のもんになってるぞ」
「辛さ?色的にからしをベースにしたけど、色が合わないからチリソースとお醤油も入れたのよ。見た目はうまくできてるじゃない」
「しかもなんかやたら糸引いてるし……」
「納豆カレーっていうのがあるんでしょ?お肉ばっかり食べるから健康のために入れておいたわ」
 確かに納豆カレーというものは存在する。奇妙な組み合わせに思えるかもしれないが、カレーのスパイシーさが納豆のコクで中和されて意外と美味しい。……ただし、きちんと作っていれば、だが。
 不味い材料は一切使われていないはずなのに、何故こうなった。
 強烈なパンチをくらい、食卓というリングに沈んでいたアンリが頭を上げる。
「ずっと作れって言ってきたし、変なもん食わせる気で作ったんじゃなさそうだし、王子たるものここは残さず食うしか……!」
 そうだ!立つんだ、アンリ!
 立ち上がり、アンリは食卓の上の寸胴を持ち上げる。
「一気飲みだ!ヤケだヤケ!カレーは飲み物!そうだろうアンリ・クレティエ!」
 自らを鼓舞し、寸胴鍋の中身をごっきゅごっきゅと飲み始めるアンリ。
「ちょっと!食いしん坊がすぎるんじゃないの!?」
 リゼットのそんな言葉もアンリの犬耳には届かない。普段、リゼットの食べ物を横取りする時とは真剣さが違う。
 血走った目を見開き、決死の形相でアンリは寸胴の中身を飲みつづける。

 やがて……。
 ガラン、と空になった寸胴鍋が床に落ちる。それは試合終了を告げるゴングの音だった。勝者アンリ・クレティエ!
 それを聞き届けたアンリが膝から崩れ落ちる。
「くはっ……。ま、ず……」
 戦い終えたアンリの目がゆっくりと閉じられる。アンリ、君はよくやった。もう休め。
 一方リゼットは、アンリがこぼした言葉に首を傾げる。
「まずい……?そういえば味見してなかった」
 寸胴の中に僅かに残ったルウを指先ですくって舐めたリゼット。全身から嫌な汗が噴出す。
「ぐっ……何この毒薬!アンリ!しっかりして!」
 慌ててどこかへ走っていったリゼットが戻ってきた時、その手には水が満たされたバケツが抱えられていた。
 アンリの頭の上からぶちまけられる水。気付けの効果は絶大だろうが、これもまたアンリにとっては災厄だった。

 肩からタオルを掛けたアンリが、リゼットの前に塩むすびを差し出す。
 ルウは最悪だったが炊飯器で炊いた米は普通だったため、アンリが残りの米をつかっておにぎりにしたのだ。
「……ごめんなさい。今度はちゃんと教わるようにするから、また……食べてくれる?」
 すっかりしょげているリゼットにアンリは笑顔で答えた。
「食うに決まってるだろ?上達したかわかるのはこれ食った俺だけなんだから。とりあえず……味見はしような?」
 二人で食べる塩むすびは、美味しい。

●デザート「レア・パンケーキ」

 南側の日当たりのよい一室。そこに、メイドからの言伝を受けてやってきた家主、ノグリエ・オルトの姿があった。
「いろいろ悩んでいる間ノグリエさんにはいっぱい心配をかけてしまったし。あまり一緒に居られなかったから……」
 ティーセットを乗せたワゴンを押しながら入ってきたシャルル・アンデルセンが、部屋で待っていたノグリエに言う。
「そのお詫びと言うか。パンケーキを作ったのでよかったら一緒に食べませんか?」
「シャルルがパンケーキを作った……ですか?メイド達に聞いて驚いたのですが本当のようですね」
 ニコニコとした、いつもどおりの笑みを浮かべて、ノグリエは窓際のティーテーブルについた。
「メイドさん達には手伝ってもらわずに作ったのであまり美味しくないかもしれませんが……」
 ワゴンで運んできたものを自ら配膳するシャルル。
「ボクの為に作ってくれただなんて嬉しいですねぇ」
 紅茶用の砂糖とミルク、ティーポットとティーカップを順番にテーブルの上に並べてゆく。
「シャルルが悩んでる間あまり話せませんでしたし。シャルルとゆっくりお茶をするのはいいかもしれません」
 馴れない手つきで準備をするシャルルを笑顔で見守りながら、ノグリエがそう頷いた。
 このところシャルルはずっと自室に篭っていたりなどしていて、ノグリエと顔を合わせる機会が激減していた。
 そんなシャルルが自分から声を掛けてくれたのだ。
 会話を交わすことができる程度にはすっきりしたらしい事がノグリエには嬉しい。
「私の作ったものをご馳走したくて。料理も初めてなのでメイドさん達にかなり心配をかけてしまったのですが……」
 少し恥ずかしげに言いつつシャルルは自作のパンケーキをティーテーブルの上に乗せ、自らも席につく。
「形はそれなりに仕上がったと思うんですよ」
「見た目は綺麗ですね……。さて味は……」
 そこでノグリエは、自信なさ気にノグリエの方をうかがう視線に気づいた。
「……いえどんなにまずくても完食はするつもりですよ。シャルルがボクの為に作ってくれたものですから」
 安心させるような言葉に、自分がどんな顔をしていたか気づいたシャルルが慌てて首を振る。
「あ、でも、美味しくなかったらいってくださいね」
 ただ食べ物のことを語るにしては真剣な声音。ノグリエの目をしっかりと見ながらシャルルが言う。
「過去を教えてくれるっていう約束とは別ですが。ノグリエさんとは本音で話せたらなって思うんです」
 シャルルを溺愛し、可愛がり甘やかすノグリエ。だが、そんな関係から少しずつ変わっていきたい。
 シャルルの言葉からはそんな意思が伝わってきた。
「……だからその場合は遠慮なく言ってくださいね!」
 心の中には様々な思いが交錯していたが、ノグリエはいつも通りの笑顔のまま「分かりました」と頷いた。
 それで満足したらしく、ニコリと笑ってシャルルが言った。
「どうぞ、召し上がれ」

 まずは紅茶を含んで口の中を潤わせたノグリエ。シャルルが作ってくれたパンケーキをナイフで切り分けて口に入れる。
(……うん、困った。予想以上の味だ)
 変わらない笑顔のノグリエの困惑。
 見た目は綺麗なパンケーキだったが、実情は生焼けの部分が多かったり、小麦粉がだまになってたりしていた。
 咀嚼するにしたがって、最初はふわふわとした表面の生地の食感だったものが、残念な後味に更新されてゆく。
「シャルルは料理なんてしたことなかったですからねぇ……」
 平静を装いつつ、ベタベタとしていて粉っぽいパンケーキを紅茶で胃の中に流し込んだノグリエ。
 誤魔化すのは簡単だったが、正直な意見を求められている以上、ここはちんと答えなくてはシャルルからの信頼を失いかねない。
「……美味しいとは言えないが気持ちは嬉しいよ」
 否定的な言葉。だがそれが本音であることが分かってシャルルは微笑んだ。
 美味しくはないかもしれないが、甘い甘いパンケーキ。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 白羽瀬 理宇
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月28日
出発日 11月04日 00:00
予定納品日 11月14日

参加者

会議室

  • [6]ハロルド

    2014/11/03-23:43 

  • [5]ペシェ

    2014/11/02-21:27 

    こんにちは。ペシェと言います。
    よろしくお願いします!
    お料理はあまり得意じゃないんですが……レシピ通りに作れば大丈夫!な筈です
    フランは痩せすぎだし、たまに貧血みたいなのでもっと沢山食べた方がいいと思うんですよね

  • [4]春加賀 渚

    2014/11/02-12:33 

    春加賀 渚と申します。
    よろしくお願いしますね。
    料理なんてろくにした事ないですが、レインさんがひもじそうなので差し入れに行こうかなと。

  • [3]リゼット

    2014/11/01-15:10 

    リゼットよ。よろしくお願いね。
    よりにもよって料理だなんて…
    ま、まあ私にできないことなんてあるわけないんだけど!

  • [1]ハロルド

    2014/10/31-00:09 


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