プロローグ
●スイーツフェスタを救え!
「ポルタ村のスイーツフェスタがピンチなんだ」
A.R.O.A.本部の受付にてそう訴えたのは、タブロス市内のドーナッツ専門店『まんまる堂』の美人店主・マチルダだ。
ポルタ村といえば、年に一度開催されるスイーツフェスタで有名な、タブロス近郊の小さな村だ。普段は閑静な村なのだが、歴史あるその祭典はメディア等からの注目度も高く、フェスタにはタブロスや付近の町の菓子店から多数の屋台が出店される。そのスイーツフェスタがピンチだとは、一体。
「背に山を抱いているポルタ村へ繋がる道はたった1本だけ。その道を、デミ・ウルフの群れが占拠しているらしくて。あたしはあの村の出身なんだけれど、古い友人から手紙で相談を受けたんだ」
幸いにも、デミ・ウルフたちは付近の森で飢えを満たしているらしく、村へと向かってくる様子はないという。基本的に自給自足で生計を立てている村だから、道が使えなくとも直ぐには生活に支障はない。けれどこのままでは、村人がコツコツと準備を進めているスイーツフェスタが開催できなくなってしまう……。
「年に一度のフェスタは、普段慎ましやかな暮らしをしているポルタ村の人たちにとって、とても大切なイベントだから」
どうかデミ・オーガを退治してスイーツフェスタを無事開催させてほしいと、マチルダは頭を下げる。
依頼の仔細を書き留め、「了解しました」と告げる受付の職員に、「それともうひとつ!」とマチルダは言う。
「ポルタ村にさ、あたしも連れていってもらえないかな? 勿論、戦闘の邪魔になるような野暮な真似はしないよ。手紙によると、村の皆もだいぶ参ってるみたいだからさ。あたしのドーナッツを届けてあげたいんだ」
美味しい物を食べたら少しは元気も出るだろうから、とマチルダ。
「ああ、そうだ。事件が解決したら、依頼を受けてくれるウィンクルムさんたちにも、あたしのとっておきのドーナッツをご馳走させてほしいな」
そう言って、マチルダは柔らかく笑みを添えた。
解説
●目的
デミ・ウルフの群れを退治すること
●敵
デミ・ウルフの群れ。
数は参加者様方の人数やレベルによって変動いたしますが、戦闘の難易度は低めを予定しております。
●マチルダ
今回の依頼に同行する赤髪ベリーショートの快闊なお姉さん。
『まんまる!しあわせドーナッツ』に登場したドーナッツ専門店『まんまる堂』の店主です。
(該当エピソードをご参照されなくとも、今回の依頼には支障はございません)
戦闘が終わるまではドーナッツの材料等の荷物と共に後述のバスに控えておりますので、戦闘中彼女の安全に気を配る必要はありません。
●事件解決後は……
事件解決の折には、ポルタ村にてマチルダお手製のまんまるドーナッツをいただくことができます。
今回マチルダが用意するのは、林檎をたっぷり練り込んだ生地にシナモンを効かせたドーナッツ『秋色』です。
美味しいコーヒー(苦手な人はオレンジジュースも準備できます)と一緒にどうぞ。
●その他注意点
デミ・オーガ出現場所付近までA.R.O.A.がバスを出しますので、移動手段の心配は必要ありません。
デミ・オーガの死体の処理も、事件解決後A.R.O.A.の専門の職員が済ませてくれます。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!
ずっと書きたかった『まんまる堂』再び! なエピソードです。
今回はアドベンチャーエピソードとなっておりますが、事件解決後には美味しい時間を過ごしていただけたらと。
戦闘の難易度は低めに調整する予定ですので、ドーナッツ試食タイム等にプランの文字数を多めに割いていただいて大丈夫かと思います。
(但し、描写の割合は全体のプランを見てバランスを取らせていただきますのでご了承くださいませ)
また、事件解決の折にはポルタ村のスイーツフェスタもそのうちにお届けできればと! 思っております!
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!
また、余談ではありますがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
せっかく準備した祭りなんだ、無事に開催させてやりたい 怪我ないように気張るか 現場近くまで行ったらマチルダ達は車内待機してもらう 退治したら戻ってくるからそれまで待っててくれ 行くぞイグニス…ここでトランスか!?降りた後でいいだろ!? 事前に肉屋で内臓系を調達して囮に 戦闘になったら神人複数でデミウルフ1体と戦う 孤立しないように注意 終わったら村に向かい報告の後に茶会 幸せって思った事なあ……って 誤解を招くようなことを言うんじゃないお前は!(はたく) 仕事の演技だろうが! (楽しげにマチルダと話すイグニスを横目に謎のもやっと感) っ、そういうことを言うか普通!? ああくそ、なんであいつはああなのか…(若干赤い顔) |
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
デミに閉じ込められた村?! 早く助けなくては…(使命感 ◆退治 村人には念の為家から出るなと話した上で、 森のハズレにスーパーで買った血の滴る肉を塊でドサリ 周りにも血を撒いて臭いでデミを呼ぶ 一寸隠れて様子見 デミが現われたら投石等でなるべく森外に誘い出して戦いたい 盲目効果の剣と盾を持ち、ランスとデミとの軸線上に位置 連携し複数で一匹を確実に倒していこう ・死角からの攻撃は鎧の殺気感知でも察知 ・誰かが攻撃くらったら時計で時間遡行 ★事後 ドーナツ作る所から手伝いたいけど…いいかな? *相棒が食いしん坊なのでコツがしりたい 林檎の下拵えとか任せてくれよ(エプロン付け 出来立てを1つ味見しようかな …っておい、ランス!(苦笑 |
鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
もしかして今回の依頼、僕らにとっては飴と鞭じゃない? デミ・ワイルドドッグが鞭なら、ドーナッツは飴って所かな。 でも、その飴を頂くには鞭をどうにかしないといけないね。 牛や羊、あと馬や鶏の生肉にそれぞれ釣り針を引っ掛けたら、釣り糸を繋ぎ、釣竿の先端に結ぶ。 逃げ回る鼠のように生肉を動かすよ。 この生肉をデミ・ワイルドドッグに食べられないよう引き寄せつつ、食いついた所をクリアライトで刺殺しよう。 「幸せだと思った事ねぇ。 僕は、やっぱり琥珀ちゃんと一緒にいられるのが幸せかな」 あれ? アレックス君、この話が惚気になるなら、トランスも惚気になるの? まぁどっちにしても、僕と琥珀ちゃんは惚気って顔じゃないんだけどねぇ。 |
アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
■戦闘 バスを降りる前にトランス 戦闘中は精霊の背後で防御しながら 投石で狼を牽制 ■村到着後 皆と一緒にマチルダさんのお手伝い 荷物運びや、待ちきれない村の子供達と追いかけっこ ドーナツが出来上がるいい匂いに大喜びで席に着く リンゴとシナモンって、鉄板だよな 凄くいい匂い (嬉しそうに大きくパクリ)うん、美味しい しあわせドーナッツかあ (村人・マチルダさん・他参加者様へ) 最近「幸せ」ってどんな時思った? 惚気→こーのリア充!爆発四散しろー(笑いながらぺしぺし叩く) 甘い物美味しい→スイーツフェスタ、楽しみだな その他の場合も、何か相槌や返答を リア充?リアルが充実って意味だけど え?俺?してない事もない…のか?(照れ) |
ダニエレ・ディ・リエンツォ(ジョルジオ・ディ・リエンツォ)
【調達物】 胡椒 【心情】 ドーナッツですか ジョルジオが食べたそうにしているので頑張りましょう 【戦闘 クレメンスさんのそばに待機 ジョルジオが戦闘中は前のことしか見ていられないと思うので 彼の代わりに全体の戦況を見てジョルジオに伝えていきます。 こちらは装備も整っていない状態なので、それ以外の攻撃防御方法を講じておく 腕に上着を巻き付けて噛まれそうになったら、その腕で防御するとか こちらに向かってくるのがわかったらウルフの鼻に胡椒を振りかけるとか。 【食事】 私はコーヒーを 私はオールドファッション等のシンプルな味わいのものが好きです 幸せと思ったこと、ですか ジョルジオの成長を目の当たりにしたときでしょうか。 |
●狼とドーナッツ
「マチルダ様たちはバスの中でお待ちくださいね!」
ポルタ村近くに停めたバスの中。同行してきたマチルダへと、イグニス=アルデバランはほんわかとした笑顔を向けて言った。その笑みは安堵を生んで、僅か表情を固くしていたマチルダが口元を緩める。
「どうか、よろしく頼むよ」
「ああ。退治したら戻ってくるからそれまで待っててくれ」
マチルダの言葉に、初瀬=秀が応じた。行くぞイグニス、とバスを出ようとした秀の背に「秀様!」とイグニスの声が掛かる。
「念のためにトランスしてからバスを降りましょう!」
「ここでトランスか!? 降りた後でいいだろ!?」
「念のためですよ、念のため! さあ秀様! トランスを!!」
暫し逡巡した挙句、秀はスペルを唱えイグニスの頬へと口づけを落とした。マチルダが微笑ましげに2人を見守る、その視線が秀には痛い。
「あれ? 初瀬たちもうトランス済み?」
遅れてバスを出ようとしていたアレクサンドル・リシャールが邪気なく上げた声も秀に刺さる。そんな秀の心痛には気づかずに、くるりと相棒のクレメンス・ヴァイスを振り返るアレクサンドル。
「クレミー、俺たちもトランストランス!」
「え……ほんまにここでしはるの?」
フードの奥で目を瞠ったクレメンスだったが、
「ここでしといたほうが安心だろー?」
とにこやかに言うや、アレクサンドルは力呼ぶスペルと口づけを零した。
ポルタ村には、アキ・セイジとヴェルトール・ランスの2人が向かっていた。念のために、村人へと家から出ないよう言い含めるためだ。村人は皆協力的で、2人で手分けすれば思いの外時間を掛けずにその仕事は終わった。
「デミに閉じ込められた村か。早く助けなくては……」
セイジは使命感を熱く胸に燃やす。今のところ生活に支障はないとはいえ、村人の顔には明らかに疲弊の色が滲んでいた。きゅっと口元を引き締めるセイジを見やって、ランスはおもむろに彼の頭をぽんぽんとする。
「……何だよ、ランス。任務中だぞ」
「わかってるよ。だけど、肩に力が入ってるみたいだったからさ」
「……他に方法があるだろ」
「まあ、そうだけどな。というか、『任務中だぞ』ってことは任務が終わったらぽんぽんしていいってこと?」
「……馬鹿ランス」
にやりと笑うランスから、セイジはぷいと顔を背けた。
一方、バスの外では。
「もしかして今回の依頼、僕らにとっては飴と鞭じゃない?」
顎に手を遣って、鹿鳴館・リュウ・凛玖義がそんなことを零していた。
「デミ・ウルフが鞭なら、ドーナッツは飴ってところかな」
「ああ、成る程。言い得て妙ですね」
へらりと笑う凛玖義の言葉に真面目に応じるのはダニエレ・ディ・リエンツォ。そして2人の周りでは、彼らの精霊たる琥珀・アンブラーとジョルジオ・ディ・リエンツォのちびっこ2人が、凛玖義が言うところの飴――ドーナッツへと思いを馳せていた。
「はく、どーなっつ食べたいっ!」
「ぼくも! いちごとか、チョコレートとか、クリームたっぷりなのだいすき!」
凛玖義にぴたりとひっついている琥珀が顔を輝かせれば、ジョルジオが元気良くそれに応えた。はしゃぐ2人の頭を、それぞれの神人の手が優しく柔らかく撫でる。けれど、神人2人の目に油断の色はない。セイジたちが戻るのを待つ間、4人はデミ・ウルフの群れが人の気配を察知してこちらへ向かってきた場合に備えているのだった。既にトランスも済ませている。
「飴を頂くには鞭をどうにかしないといけない、ってね」
「そうですね。ジョルジオが食べたそうにしていますし頑張りましょう」
凛玖義とダニエレが言えば、「がんばろー!」とジョルジオが拳を天に突き上げた。琥珀が、ぎゅうと凛玖義の服の裾を握る。
「りくぅ、デミ・ウルフやっつけたら、どーなっつ食べられるんだよね?」
「そうだよ、琥珀ちゃん。頑張ろうねぇ」
「うん、がんばる!」
凛玖義が再び琥珀の頭を撫でたその時、バスから秀たちが降りてきた。
「マチルダ様に、バスの中でお待ちいただくようもう一度お願いしてきました!」
「俺たちも様子がどうか見てたけど、落ち着いてたしマチルダさんのことは心配せずにデミ・ウルフ退治に集中して大丈夫だと思う」
イグニスとアレクサンドルが見張り組へと状況を報告する。ありがとうございます、と穏やかに笑んだダニエレが、ふと、青の視線を秀とクレメンスへと移して小首を傾げた。
「おや……お二方、どうかされましたか?」
「いや、何でもない」
「せやね、何でもあらへん……のやけど」
そうは言うものの秀はどこか難しい顔をしているしクレメンスの耳はほんのりと朱に染まっているしで、ダニエレは益々首を傾けるのだった。そこへ、村での一仕事を終えたセイジたちも戻ってくる。
「待たせてすまない。これで村の方は心配ないはずだ」
セイジの言葉に全員がこくと頷いた。最後の2人がトランスを済ませれば、狼退治の始まりだ。
●狼退治のお時間です
「よし、こんなもんか」
「そうだな。いい場所が見つかって良かった」
秀の呟きに、セイジが応じる。バスを停めた街道に現れなかったところを見るに、狼たちは森の中に潜んでいると思われた。うっそうと茂った森の中ではこちらが不利とセイジは森の外への誘導も視野に入れていたが、いい具合に拓けた場所を確保することができたのでそこを戦闘場所に定める。敵を誘き寄せるために秀とセイジが持ち寄った内蔵類や肉の塊を設置して、一行は油断なくデミ・ウルフが釣れるのを待つのだった。
「うーん、釣竿は無駄になっちゃったねぇ」
用意した肉を秀たちと同じ場所に設置しながら残念そうに呟くのは凛玖義。釣竿の先に肉を吊るしデミ・ウルフを釣るつもりだったのだが、複数のウルフが一度に釣れてしまえば凛玖義の身が危うい。例えばカウンター技を使える精霊と組む等すればその作戦は上手くいったかもしれないが、クレメンスひとりでエンドウィザード2人と前線に出ない神人を守りながら凛玖義との連携を取るのは難しそうだった。
「まあでも、まだできることは沢山あるよね」
「ええ。やれるだけのことをやりましょう」
手の中にクリスタルの短剣を光らせながら不敵に口の端を上げる凛玖義に、腕に念のためにと上着を巻き付けたダニエレが応じる。と、その時。がさり、茂みが揺れた。各々武器を手に警戒を強める一行の前に、15匹ほどのデミ・ウルフの群れが現れる。タートルワンドを手にしたクレメンスが、すかさず自身の周りに幾つもの光輪を召喚した。
「前に出ぇへん人はあたしの後ろへ!」
仲間へ指示をとばしつつ敵を引き付けるように一歩前へと進み出れば、琥珀が気合のオーラを放つまでもなく1匹の狼がクレメンスへと飛び掛かり光輪に弾きとばされる。キャインという悲鳴が、他の狼たちの動き出す合図となった。
「ジョルジオ! 一旦敵を引き付けてください! 隙を作って!」
「まかせて!」
的確に戦場の様子を見定めたダニエレがジョルジオへと指示を出す。小さなジョルジオが「こっちだよー!」と注意を引くようにぴょこぴょこすれば、狼たちは簡単に釣れた。鋭い牙がジョルジオに迫り――けれど次の瞬間、不意に湧いた白い煙と共にその小さな姿がかき消える。狼たちに迷いと、隙が生まれた。
「それじゃ、行こうか」
「ああ」
その隙を突いて凛玖義とセイジが狼へと短剣『クリアライト』を振るい、光の反射で敵の視界を奪う。そうしながらも、セイジはランスへと攻撃が向かわないよう気に掛けていた。
(せっかく準備した祭りなんだ、無事に開催させてやりたい)
怪我ないように気張るか、と秀も凛玖義たちと連携し狼に短剣を向ける。アレクサンドルはクレメンスの後ろから投石し、ジョルジオは手裏剣でそれぞれ遠距離から狼を狙い敵の混乱を誘った。琥珀もフランシスカで敵を追うように戦う。
「秀様は無理なさらないで! 危なくなったら下がって下さいね!」
イグニスが叫ぶと同時に、魔法の霧が狼たちへと纏わりついた。群れはもう大混乱だ。
(守ってくれるセイジのためにも、早く詠唱完成させて敵を倒したい)
詠唱時間がもどかしいと焦れていたランスの魔法が、遂に完成する。キャンディーワンドが甘い香りを放ち、照射されたエナジーが狼たちを内側から焼き尽くした。高火力のその技の前に、魔法を食らった狼たちは断末魔さえ上げずに絶命する。難を逃れ無事に立っている狼は、もう元の数の3分の1ほどになってしまった。
「残り5匹、ですか……」
戦況を見据えるダニエレがまだ声は和らげずに言う。戦いはまだ決していない。
「おっと」
仲間を多く屠られてなお猛る狼が自身に喰らいつかんとするのを、凛玖義は短剣で薙いで距離を取った。
「琥珀ちゃん!」
叫べば、刀身の反射する光に狼の目が眩んだ狼へと、背後から琥珀が斧をぶんと振るう。悲鳴が一つ、狼はそのまま動かなくなった。
「りくっ、やったね! けがしてない?」
「大丈夫だよ、琥珀ちゃん。ありがとうね」
琥珀に笑みを向けてみせて、また油断なく得物を構える凛玖義。琥珀もそれに倣う。一方、秀とセイジは、乱れることのない連携で着実に1匹を仕留める段階にまで至っていた。秀が『マンゴーシュ』で満身創痍になりながらも向かってくる敵の攻撃を受け流せば、生じるその隙を突いて、セイジが短剣をその背へと深く突き刺す。永遠に沈黙するその骸を見下ろして、2人は深く息をついた。
(やるじゃん)
魔法の詠唱は途切れさせないままで、ランスはパートナーの勇姿に口の端を上げる。
(そういえばあいつ……いつも訓練してるっけ)
そんなセイジのことを素直に誇らしく愛しく思いながら、詠唱を続けるランス。と、その時、2匹の狼が、同時にクレメンスが守りを固める後衛へと向かってきた。
「あぶない! とまって!」
ジョルジオが次々に投げた手裏剣が過たず2匹の狼に深く刺さる。しかし、それでもなお敵は足を止めない。フードの奥、青の目をすぅと細めるクレメンス。
「あたしが出来るだけ食い止めるけど、皆、気ぃつけて」
彼の加護を受けている神人たちが、攻撃の要たるエンドウィザード2人を守るように身構える。2匹の狼が左右から跳んだ。クレメンスが仲間を守らんと動き1匹を光輪で弾きとばすが、その隙にもう1匹は彼の横をすり抜ける。アレクサンドルがボーンナイフを、ダニエレがウィンクルムソードを構えるが、
「ウイズは魔法を撃つだけの砲台じゃないんだぜ!」
詠唱を諦めたランスが、流れるような動きでワンドを敵の急所に当てた。ワンドでは敵にダメージを与えることこそ叶わないが、敵がひるんだその瞬間を神人たちは見逃さない。ダニエレが、地に落ちた狼の鼻先へと用意していた胡椒をどばりと振りかけた。
「トドメだ!」
悶絶する狼に、アレクサンドルの一撃が決まる。ここに至るまでに蓄積したダメージが大きかったらしく、アレクサンドルの攻撃は彼の言葉通りにトドメとなった。
「皆おおきに。……こっちも終わったみたいやね」
クレメンスが、安堵したように息をつく。彼の目の前で、光輪の餌食となった個体もピクリとも動かなくなっていた。
「あと1匹……」
クレメンスの視線の先、最後の1匹がウィンクルムたちに一矢報いようと必死の反撃に出ている。だが、今やあまりにも多勢に無勢。
「皆様、避けてください!」
そうこうしているうちに、イグニスの詠唱が終わった。放物線を描き、狼へととんでいくプラズマ球。その一撃の前に、最後のデミ・ウルフは成す術もなく沈んだのだった。
●まんまるしあわせドーナッツ
「よーし、遊ぶぞー!」
追いかけっこの鬼役になったアレクサンドルの周りを、村の子どもたちがきゃーきゃーと楽しそうな悲鳴を上げながら駆け回る。マチルダの荷物を運ぶのを手伝っていたクレメンスは、沢山の笑顔を生むパートナーの姿を見やってフードの奥で表情を柔らかくした。
「えらい楽しそうやねぇ。ええことや」
一行がデミ・ウルフを退治したことを報告すると村人たちの顔はぱあと明るい色を帯び、ウィンクルムたちは数限りないほどの「ありがとう」を受け取った。家から出るのも控えていたという話だから、子どもたちのはしゃぎようも頷ける。きゃらきゃらと元気な声が弾けるのを耳に、荷物を持ち直すとマチルダの元へ向かうクレメンス。
「わっか、わっか、しあわせわっか。まんまるしあわせドーナッツ♪」
臨時の野外調理場からは、ドーナッツ作りの準備に勤しむマチルダの歌声が聞こえてきていた。
「へえ、お兄さん、刃物の扱いに慣れてるねぇ」
「ああ、林檎の下拵えとか任せてくれよ」
マチルダの感嘆の声に、エプロン姿のセイジが口元を和らげて応える。ドーナッツを作るところから手伝いたいというセイジの申し出には笑顔と諾の返事が返り、調理場では、マチルダのドーナッツ作りを手伝うセイジの姿が見られた。ランスはというと、食いしん坊な相棒のためにドーナッツ作りのコツが知りたいというセイジの想いを知ってか知らずか、セイジの奮闘ぶりを楽しそうに見学している。やがて出来上がるのは、ふんわりとシナモン香るほっこりまんまるドーナッツ。
「出来た……!」
「お疲れさま、お兄さん。良ければ、出来立て味見してみてよ」
マチルダの言葉にそれじゃあとセイジが手を伸ばしかけたところで、
「味見なら俺に任せろ!」
とランスが横からひょいと手を出して、ドーナッツを手に取るやはふっと齧りついた。
「!? あちちちちち!」
「おい、ランス!」
苦笑するセイジへと、「だって出来立て食いたいじゃんか」とランスが涙目で主張する。
「全く……ほら。水、要るか?」
「ん、大丈夫」
応えて、セイジを安心させるように舌をペロリと出してみせるランス。
「ヤケドにはなってないだろ?」
「ならいいけど……」
「っていうかすげぇ美味かったぞ! ほら、セイジも『あーん』」
「んっ」
差し出されたドーナッツを思わず口にしてしまった後で、セイジはマチルダが2人のやり取りを笑顔で見つめていたことに気づく。ランスがからりと笑った。
「なっ、美味いだろ?」
「美味しい……けど」
赤くなって俯くセイジが愛おしくて、ランスは彼の頭をぽんぽんと撫でるのだった。
出来上がった大量のドーナッツは、村人たちとウィンクルムへ1つずつ行き渡っていった。
「わ~い、おいひい~! りくぅ! おいひいようぅ~!」
凛玖義の隣にちょこんと座って、琥珀が瞳をきらきらと輝かせながらドーナッツを味わっている。
「良かったねぇ、琥珀ちゃん」
食べるのに夢中な琥珀の口元を拭ってやりながら、ドーナッツを口にする凛玖義。その味に、凛玖義の顔も自然と笑顔になった。
「私はドーナッツはシンプルな味わいのものが好きですが……これは中々」
コーヒーをお供にドーナッツを楽しむのはダニエレ。その傍らでは、先ほどまで「おやつおやつ~!」とはしゃいでいたジョルジオが、
「おいしいおいしい」
と蕩けるような笑顔でドーナッツを食べている。
「リンゴとシナモンって、鉄板だよな。凄くいい匂い!」
それぞれにドーナッツを楽しむ仲間たちを見やって笑み零すのはアレクサンドルだ。ドーナッツが出来上がった段階で、その芳しい香りに喜色を浮かべていたアレクサンドル、嬉しそうに大きくパクリとドーナッツへ齧りつく。「うん、美味しい!」と益々明るくなる笑顔に釣られるようにクレメンスもドーナッツをそっと口に運び、その美味しさを味わった後で「そういえば」と近くに居たマチルダへと声を掛けた。
「しあわせドーナッツいう名前はどういう意味でつけはったんやろ? あの歌、なんや耳について離れん気がするんやけど」
「ああ、あの歌は、うちのおばあちゃんがドーナッツを作ってくれる時いつも歌ってたんだよ。おばあちゃんの作ってくれたドーナッツがあたしのルーツで。だからあたしの作るドーナッツは、おばあちゃんが歌っていた通りのしあわせドーナッツ」
勿論、食べた人が幸せな気持ちになりますようにという気持ちを込めてね、とマチルダが笑う。
「しあわせドーナッツかあ」
ぽつり呟いたアレクサンドルが、そうだ! とふと何か楽しいことを思いついたように皆の顔を見回した。
「なあ、最近『幸せ』ってどんな時思った?」
「幸せだと思ったことねぇ……僕は、やっぱり琥珀ちゃんと一緒にいられるのが幸せかな」
先ず応じたのは、アレクサンドルのすぐ近くに座っていた凛玖義だ。くしゃりと琥珀の頭を撫でた凛玖義の優しい笑顔を見て、アレクサンドルの口元も緩む。
「何だ、惚気られちゃったな」
アレクサンドルの言葉に、凛玖義が冗談ぽくくるりと目を丸くした。
「あれ、アレックス君、この話って惚気になるの? ……まぁどっちにしても、僕と琥珀ちゃんは惚気って顔じゃないんだけどねぇ」
なんて軽口を零せば、ドーナッツを食べながら話を聞いていたらしい琥珀が「はい!」とばかりに手を挙げて言った。
「えーっとね、はくは、美味しいお魚食べられた時が一番幸せ!」
微笑ましい答えに、その場に居た皆の顔に笑顔が溢れる。
「私が幸せと思ったことは……ジョルジオの成長を目の当たりにしたときでしょうか」
そう言って、オレンジジュースをくぴくぴと飲んでいるジョルジオを見やるダニエレの表情は柔らかい。思案するように顎に手を宛がうのは秀だ。
「幸せって思ったことなあ……」
「幸せなことですか! 先日のハロウィンのお仕事で秀様と結ばれ……」
「って、誤解を招くようなことを言うんじゃないお前は!」
それこそ幸せそのものという満面の笑みで語り出したイグニスが、頭をべしっと秀にはたかれて「あうっ」と小さく声を上げる。
「あれは仕事の演技だろうが!」
「痛い、痛いです秀様!?」
僅か耳を朱に染めて言い募る秀と、はたかれた頭を抑えて訴えるイグニス。2人の仲睦まじい様子に、周囲からは笑い声が漏れた。
「こーのリア充! 爆発四散しろー」
ころころと笑うアレクサンドル。その傍らで、クレメンスも口元を柔らかくした。
「幸せはよう判らへんけど、笑顔が見られるのはええね」
しっとりと言葉零した後で、「ところで」と首を傾げてクレメンスが続ける。
「アレクス、『りあじゅう』ってなんやの?」
「リア充? リアルが充実って意味だけど」
「アレクスはしてへんの?」
「え? 俺?」
予想外の問いに目を見開いたアレクサンドル、真っ直ぐに自分を見つめる傍らの存在を想って曰く。
「してないこともない……のか?」
照れつつ答えれば、クレメンスは益々首を傾げる。
「してないこともないて、よう判らへんけど……爆発しろって言うものやろうか」
アレクスも爆発するのん? との問いを受けて、アレクサンドルは複雑な顔。
「そないな顔せんでも……」
「だってクレミーに言われちゃうとなぁ」
「あたしがアレクスに言うたらいかんって、難しいんやねぇ」
どこか感心したように呟くクレメンスである。
「ドーナツもコーヒーもおいしいですマチルダ様!」
「おっ、嬉しいねぇ」
気を取り直してドーナッツを食べながら、イグニスがマチルダににこやかに言う。2人の楽しそうなやり取りを横目に眺める秀の心には、得体の知れないもやもやが湧いて。そんな秀の心の動きを察知したかのように、イグニスがはっとして秀の方へと振り返った。
「秀様大丈夫ですよ私秀様のコーヒーが一番好きですから! というか秀様が好きです!」
「っ、そういうことを言うか普通!?」
つっこみを入れるも、イグニスは自信満々にこにこ顔だ。秀はため息を漏らした。
(ああくそ、なんであいつはああなのか……)
頬が火照る。心内では文句を呟きつつも、胸のもやもやは気づけばどこかへ行ってしまっていた。
「皆元気だな……」
「良いじゃんか、元気な方がさ」
ドーナッツを手に苦笑交じりに零したセイジの言葉に、ランスがにっと笑って応じる。皆を、それから平和を取り戻した村の様子を見渡して、
「――そうだな」
とセイジは僅か口元を緩めた。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:初瀬=秀 呼び名:秀様 |
名前:イグニス=アルデバラン 呼び名:イグニス |
名前:アキ・セイジ 呼び名:セイジ |
名前:ヴェルトール・ランス 呼び名:ランス |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 10月30日 |
出発日 | 11月10日 00:00 |
予定納品日 | 11月20日 |
参加者
- 初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- 鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
- アレクサンドル・リシャール(クレメンス・ヴァイス)
- ダニエレ・ディ・リエンツォ(ジョルジオ・ディ・リエンツォ)
会議室
-
2014/11/09-23:48
遅れてゃってゴメン、プランは提出したよ。
ダニエル君もお初だったね、アレックス君とアキ君は久しぶり!改めてよろしくね。
ダニエル君の言うようにデミ・ワイルドドッグの数は、多分それくらいかもしれないね。
僕は生肉でデミ・ワイルドドッグを、琥珀ちゃんは前衛でおびき寄せながら攻撃するよ。
それと、どーなっつでの会話も参加するから、アレックス君はよろしくね。
折角だから楽しい思い出にしよう? -
2014/11/09-08:54
>ダニエレ・イグニス
二人ともありがとうな。
楽しいお茶会になるといいな。
惚気だったらりあじゅうばくはつしさんの祝いかけておくなー(笑) -
2014/11/09-00:19
感覚開いてしまって申し訳ないです、私は小さな出会いと朝霧の戸惑いを持っていきますね。
最初に朝霧で命中と回避を下げますので!
秀様は遠距離でいい武器がなかったので前に出るみたいです、
危なくなったら無理にでも下がらせますのでその時はよろしくお願いしますね(ぺこり)
わ、皆様でおやつ楽しそうですね!(わくわく)
幸せって思ったことですね!おはなし用意しておきますので!! -
2014/11/04-11:48
はい、よろしくお願い致します。
神人の位置の件わかりました
そのようにプランを書かせて頂きます。
幸せに思ったことですか…、良いですね!そちらも考えてみます。 -
2014/11/03-21:28
ダニエレは初めてか、よろしくな。
アキはまたよろしくな。
これでウィズが二人にシノビとナイトだから
うちのビショップはウィズ二人のガードに回るな。
あ、あと、俺みたいに防御に自信がない神人は、
ライフビショップの後ろに下がっていてくれよ。
怪我したら、おいしくドーナツ食べられないからな。
後、ちょっと気が早いが無事村についたら
皆でわいわいやるのはどうだろう
勿論強制じゃないから、横目に見つつまったり二人で楽しむのもありだと思う。
よければ、幸せドーナッツにちなんで
「最近、幸せって思った事ってなんだ?」って聞こうと思うから
惚気るもよし、スイーツうまーでもいいし、会話のネタにしてもらえたらなと思うんだ。
(アドエピだから、親密度は関係ないし、気楽に絡めるかなと) -
2014/11/03-14:17
アキ・セイジだ。相棒はウイズのランス。よろしくな。
デミなら俺達でも盾くらいにはなれるかも知れないから、俺も盾をもって戦うよ。
複数で一匹だな、そうしよう。
相棒は魔法の《恋心》あたりを降らせる。
森だと樹があるから、《パン籠》も《カナリヤ》も森に被害を出してしまいかねないんだよな。
かといってデミ相手に3R追尾魔法の《お日様》はオーバーキルだと思うし(笑
武器を振り回すにも枝が有るし、森の中は足場も凸凹して不安定だし、
できるだけ戦いやすい場所に誘導しつつし止められたらと思うよ。
そんなわけで、血の臭い(スーパーで買ってきた肉)で一寸呼んでみるよ。 -
2014/11/03-01:57
初瀬とイグニスだ、よろしくな。
トランスはなんかな、感覚がマヒしてきた気がするぜ(遠い目)
さて、群れってことだしそれなりに数はいるだろうな。
エンドウィザード2人だし、ランスが火力、イグニスが牽制なんかでもよさそうか?
イグニスも1発2発で倒れるほどヤワじゃない(と思いたい)から
神人はあんまり無理しない程度でな。
前に出るなら神人は複数人でデミ1体を相手取るくらいの方がいいかもしれん。 -
2014/11/03-00:13
初めまして
ダニエレと申します、戦闘経験は無いのですが頑張ります
群れは大体5~6匹と考えて良いのでしょうか?
シノビのレベル1スキルが姿を消す技なので、攪乱で動けないかなと思っております
攻撃力の高いアルデバランさんの攻撃まで時間を稼ぐのも良さそうです。
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2014/11/02-22:53
アレックスと、相方のクレメンスだ。
よろしくな。
二人とも、戦闘依頼は久しぶりかな、よろしくな。
初瀬はトランスもう慣れた……よなあ、流石に。
微笑ましそうだったら、また愛で(後ろから精霊に殴られたらしい)
今の所、ナイトとウィザード、うちのビショップだから
琥珀ちゃんに前衛で闘って貰ってる間に
イグニスが詠唱準備でその間うちの相方がガード…かなあ。
琥珀ちゃんも盾役なんだけど、ライフビショップは物理攻撃力ゼロだから、自分から攻撃できないんだ。
もしくは、うちのも前衛で突っ立ってて(カウンターで攻撃して)
神人がイグニスのガードかなあ……。
……石投げるくらいしかできないけど、まあ、牽制にはなるかな……。
危ない事するなって言われそうな気もするけど。
まあ、ざっくりした案だから、ダメ出しどんどんしてくれよな。
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2014/11/02-22:23
ひとまず、挨拶しようか。
ドーナッツをご褒美に、デミ・ウルフを討伐する一人、鹿鳴館さん家の凛玖義っていうよ。
秀さんは、お初かな?よろしくね。
デミ・ウルフの特徴について何も記述がないのが気になるけど、そう易々と倒せるかなぁ。
まさか、デミ・ウルフ一体につき、ウィンクルムで挟み撃ちで倒せるとかないと思うんだけど。